GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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CURRENT STATUS OF ENDOSCOPIC SUBMUCOSAL DISSECTION FOR EARLY GASTRIC CANCER IN PATIENTS TAKING ANTITHROMBOTIC DRUGS
Yoji SANOMURA Shiro OKAChiyuki WATANABEShinji TANAKA
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2019 Volume 61 Issue 2 Pages 133-140

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要旨

日本消化器内視鏡学会から,2012年「抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン」と2017年「直接経口抗凝固薬(DOAC)を含めた抗凝固薬に関する追補2017」の2つのガイドラインが示され,これらは消化器内視鏡後の出血予防のみならず,抗血栓薬の休薬による血栓塞栓症の誘発にも配慮されたガイドラインとなっている.抗血栓薬多剤内服患者や抗凝固薬内服患者では特に胃ESD後出血率が高く,ESDを施行する際には,内視鏡施行医が偶発症発生リスクを正しく理解のうえ,患者本人に治療の必要性と出血などの偶発症を説明し,明確な同意のもとに施行する必要がある.

Ⅰ はじめに

早期胃癌に対する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD:endoscopic submucosal dissection)は腫瘍径によらず病変の一括摘除が可能な手技であり,本邦では保険収載とともに手技の標準化が進んでいる 1)~4.一方,人口の高齢化に伴い,胃ESD患者における抗血栓薬服用者の割合は増加傾向にあり,抗血栓薬の取り扱いに関して様々な議論がなされている.

2012年,日本消化器内視鏡学会より「抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン」が刊行され 5),6,抗血栓薬内服患者に対する胃ESDなどの出血高危険度消化器内視鏡における指針が示された.さらに2017年には,新しい経口抗凝固薬の普及に伴い,「直接経口抗凝固薬(DOAC)を含めた抗凝固薬に関する追補2017」が刊行された 7.2012年以前のガイドラインは,血栓症発症リスクを考慮せず,消化器内視鏡後の出血予防を重視したものであったが,上記2つのガイドラインでは,抗血栓薬の休薬による血栓塞栓症の誘発にも配慮したガイドラインとなっている.これまで後出血を含めた胃ESD治療成績に関して多くの報告がされているが,ガイドライン刊行後,抗血小板薬・抗凝固薬各薬剤別の報告も増加しつつある.本稿では,抗血栓薬内服下における胃ESDの現状について概説する.

Ⅱ 抗血小板薬内服下における胃ESD

「抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン」では 5),6),血栓塞栓症の発症リスクが高いアスピリン単独服用者では休薬なく施行してもよいとされ,血栓塞栓症の発症リスクが低い場合は3〜5日間の休薬を考慮するとされている.また,アスピリン以外の抗血小板薬単独内服の場合には休薬を原則とし,休薬期間はチエノピリジン誘導体が5〜7日間,チエノピリジン誘導体以外の抗血小板薬は1日間休薬するとされているが,血栓塞栓症の発症リスクが高い症例ではアスピリンまたはシロスタゾールへの置換を考慮するとされている.シロスタゾール代替療法については,「札幌コンセンサス」で提案されており 8,その妥当性についても報告されているが 9,シロスタゾールは鬱血性心不全では禁忌とされており,投与後早期の頭痛,頻脈などの副作用に注意する必要がある.アスピリン・チエノピリジン誘導体以外の抗血小板薬については明確なエビデンスが存在せず,継続下でも出血性偶発症が増加する可能性は低いが,1日の休薬を原則とするとされている(Figure 1 10

Figure 1 

抗血小板薬・抗凝固薬の休薬:単独投与の場合.

投薬の変更は内視鏡に伴う一時的なものにとどめる.

アスピリンに関して,胃ESD後出血率はアスピリン継続下で3.6-21.1%,アスピリン休薬下で3.6-23.8%と報告されている(Table 1 11)~15.Choらは,血栓塞栓症発症高リスク群でのアスピリン内服継続下での胃ESD後出血率は21.1%,血栓塞栓症発症低リスク群でのアスピリン休薬群3.6%,非内服群の3.4%と比較し,有意に高率であったと報告しているが 11,この検討は血栓塞栓症発症低リスク群においてアスピリン継続と休薬を比較した報告ではない.近年,アスピリン単剤では,アスピリン継続群と休薬群の間で後出血率に有意差はなかったとする報告が多くされており 12)~15,Sanomuraらは血栓塞栓症発症リスクに関わらず,アスピリン継続群と休薬群の後出血率は,それぞれ7%と3%で両群間に有意差はなく,休薬群で脳梗塞や心筋梗塞などの血栓塞栓症の発症も認めたことから,アスピリンに関しては継続下で胃ESDを施行することが望ましいと報告している 14),16.メタ解析でも,アスピリン継続群が休薬群と比較し,後出血を有意に上昇させるとは言えないが,randomized controlled trialが必要であるとされている 17

Table 1 

アスピリン継続下およびアスピリン休薬下における胃ESD後出血率.

一方,アスピリン継続内服群と抗血栓薬非内服群の後出血の比較に関しては,血栓塞栓症発症高リスク群でアスピリン継続下に胃ESDを行った後出血率21.1%の報告 11や後出血率10%の報告 13があり,メタ解析にてオッズ比5.42(2.82-10.39)で後出血が多いと報告されている 18.血栓塞栓症発症リスクに関わらないデータでも,アスピリン継続内服群の後出血率は7%であり,抗血栓薬非内服群の後出血率3%と比較すると高率であると言えるが 14),16,アスピリンの血小板凝集抑制作用による影響のみならず,動脈硬化など患者因子の影響も加わった結果である可能性があり,慎重な解釈が必要である.

チエノピリジン誘導体に関しては,胃ESD後出血リスクが高くなるとの報告が多い.Onoらはチエノピリジン誘導体内服例と抗血栓薬多剤内服例が非内服例と比較し,有意に後出血率が高かったと報告し 19,冠動脈ステント留置後のアスピリン・チエノピリジン誘導体内服患者に対しアスピリン休薬・チエノピリジン継続下で施行した胃ESDの後出血率は20%と高率であったと報告している 20.林らはチエノピリジン誘導体単独内服群で後出血率5.4%,多剤内服を含めたチエノピリジン誘導体内服群全体で後出血率13.3%であり,ESD後1週間以上経過した遅い時期に後出血をきたすことが多いため注意を要するとしている 21.Takeuchiらは,アスピリン・チエノピリジン誘導体内服群は後出血の独立した危険因子として挙がらなかったが,後出血率は13%と報告し 22,Tounouらはアスピリン・チエノピリジン誘導体内服群では後出血率35.5%と特に高率となると報告している 23.以上のことから,抗血小板薬の中でもアスピリンとチエノピリジン誘導体の間には後出血リスクに差があることが推測され,ガイドラインにも示してあるように対応が異なることに留意する必要がある.

Ⅲ 抗凝固薬内服下における胃ESD

2012年の「抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン」では,DOACのうちダビガトランのみ取り扱いについて記載されていたが,その後新たに多くのDOACが使用可能となった.しかしながら,その休薬基準については一定の見解が出されておらず,ヘパリン置換の出血リスクも報告されつつあることから,2017年に「抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン 直接経口抗凝固薬(DOAC)を含めた抗凝固薬に関する追補2017」が追加刊行された 7.2017年のガイドラインにおける大きな変更点としては,ワルファリン服用者において,ヘパリン置換の代わりにPT-INRが治療域であればワルファリン継続下あるいはDOACへの一時的変更(非弁膜症性心房細動の場合)で治療を行うことも考慮されると記載されたことと,DOAC服用者はヘパリン置換を行わず,処置当日の朝から内服を中止し,翌日朝から再開すると記載されたことが挙げられる(Figure 2).抗凝固薬の休薬リスクに関しては,心房細動に対しワルファリンを服用している患者において,ワルファリンを休薬した1.06%(12/1,137)で脳血管障害を発症したとの報告がある 24

Figure 2 

抗血小板薬・抗凝固薬の休薬:単独投与の場合.

投薬の変更は内視鏡に伴う一時的なものにとどめる.

ヘパリン置換に関する出血偶発症については,ペースメーカー埋め込み術や心房細動に対するアブレーション術において,ワルファリン継続の方がヘパリン置換と比較して,周術期の血栓塞栓症の発症は変わらないが,出血の合併症が少なかったと報告されている 25),26.胃ESDにおいても,ヘパリン置換下の高い後出血率が近年報告がされており(Table 2 15),27)~33,Furuhataら 30,Yoshioら 31は後出血の独立した危険因子として,ヘパリン置換,抗血栓薬多剤内服などを挙げている.メタ解析では,ヘパリン置換はオッズ比2.99(95%CI;1.51-5.92)で後出血のリスク因子と報告されている 34.Sanomuraらもヘパリン置換したワルファリン単剤服用者において後出血率が14%(5/37)と報告しているが 33,ワルファリン継続群とヘパリン置換を行ったワルファリン内服群のrandomized controlled trialはなく,ヘパリン置換の出血リスクについては更なる検討が必要である.

Table 2 

ヘパリン置換下における胃ESD後出血率.

DOACに関しては,2014年のガイドラインではダビガトランのみ記載され,ダビガトランはヘパリン置換するとされていたが,2017年のガイドラインでは前述の通り,DOAC服用者はESD当日のみ休薬すると変更された.その際の注意点として,すべてのDOACの抗凝固阻害効果は腎機能に影響を受けるため,事前に腎機能の確認が望まれることが挙げられる.また,血栓の超高危険群において抗凝固薬をやむを得ず休薬する場合は,処置後すぐのDOAC再開を考慮しても良いとされ,DOACの消化管内での直接止血阻害作用を考慮して 35),36,翌日朝のDOAC内服再開までヘパリン置換を行うことも考慮するとされる.後者の場合,DOAC再開はヘパリンのピーク期が2-4時間であることから,ヘパリン中止後4時間以上あける必要がある 7

DOAC服用者における胃ESD後出血に関する報告は少ないが,ヘパリン置換を行わず当日のみ休薬したDOAC単剤服用者での後出血率は22%(4/18)であり,抗血栓薬非服用者の3%と比較し,有意に高率であったとする報告がある 33.また,DOACには,トロンビン阻害薬であるダビガトランと,Ⅹa阻害薬であるリバーロキサバン,アピキサバン,エドキサバンがあり,トロンビン阻害薬の抗凝固効果はAPTTに,Ⅹa阻害薬はPTにある程度反映されるため,処置前にはAPTTならびにPTを測定することが望ましいとされている 37),38.DOAC薬剤間で後出血率に差があるとする報告もあり 31,各薬剤間での後出血リスクの差については更なる検討を要するが,臨床現場においては,ヘパリン置換が不要であれば入院期間の短縮および患者負担の軽減が期待されることから,DOAC当日休薬やワルファリン継続のメリットは大きいと考えられる.

Ⅳ 抗血栓薬多剤内服下における胃ESD

「抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン」では,アスピリンとアスピリン以外の抗血小板薬併用の場合には,抗血小板薬の休薬が可能となるまで延期が望ましいとされるが,延期が困難な場合には,アスピリンまたはシロスタゾールの単独投与とするとされている(Figure 3 5),6

Figure 3 

抗血小板薬・抗凝固薬の休薬:多剤併用の場合.

生検・低危険度の内視鏡:症例に応じて慎重に対応する.

出血高危険度の内視鏡:休薬が可能となるまでは延期が好ましい.投薬の変更は内視鏡に伴う一時的なものにとどめる.

「抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン 直接経口抗凝固薬(DOAC)を含めた抗凝固薬に関する追補2017」では,ワルファリンと抗血小板薬(アスピリン,チエノピリジン誘導体)を併用している場合には,抗血栓薬の休薬が可能となるまで延期が望ましいとされるが,延期が困難な場合には,抗血小板薬はアスピリンまたはシロスタゾールにして,ワルファリン継続下あるいはヘパリン置換を考慮するとされている(非弁膜症性心房細動の場合にはワルファリンからDOACへの一時的変更も可能) 7.DOACと抗血小板薬(アスピリン,チエノピリジン誘導体)を併用している場合も,DOACを処置当日のみ休薬する以外,ワルファリンと同様である.

抗血栓薬を多剤内服している患者は基本的に血栓塞栓症の発症リスクが高い患者であり,抗血栓薬の休薬は極力避ける必要がある.一方,抗血栓薬多剤内服は胃ESD後出血のハイリスクであり,前述の通り,後出血の危険因子であることが報告されている(Table 3 15),19),22),23),27),29)~31),33.やむを得ず胃ESDなどの出血高危険度の内視鏡を行わなければならない場合は,患者にリスクを含めて十分な説明のうえ,明確な同意を得た後に施行することが重要である.

Table 3 

抗血栓薬多剤内服下における胃ESD後出血率.

Ⅴ 抗血栓薬内服下における胃ESD後出血予防

抗血栓薬内服患者のみならず,血液透析施行中患者などの慢性腎不全では,胃ESD後出血率13.5-33.3%とリスクが高く 39)~42,その予防が重要である.ESD直後に切除後潰瘍底の視認可能な血管だけでなく,発赤部に対しても凝固止血処置を追加し 39),43,穿通枝部などの潰瘍底に凝固止血処置を多く施行した場合は,状況に応じて,遅発性穿孔予防にクリップによる補強を行うことも考慮される.また,後出血に伴う急激な貧血進行により,循環動態が急速に増悪する場合があるため,心機能が低下している患者や透析中の患者などでは,必要に応じてESD後潰瘍の巾着縫縮術を施行することが報告されている 16.大腸ESDではクリップによる潰瘍底完全縫縮の有用性が報告されており 44,胃ESDにおいても後出血や遅発性穿孔予防に有用である可能性がある.また,ポリグリコール酸(PGA)シート・フィブリン糊併用法の有用性も報告されており 45)~47,Kawataらは,抗血栓薬継続下での胃ESDにおいて,切除後潰瘍底にPGAシートを貼付した群の後出血率が5.8%,PGAシートを貼付しなかった群での後出血率が20.8%であったことから,PGAシート貼付が有用であったと報告している 48

胃ESD後のsecond look内視鏡検査に関しては,必須ではないとする報告 49),50や抗血栓薬服用中の患者ではESD5日後の施行が望ましいとする報告 51があるが,抗血栓薬内服患者では,後出血により循環動態が急速に増悪する場合も考慮される.抗血栓薬内服患者における胃ESD後second look内視鏡検査の是非については更なる検討が待たれる.

Ⅵ おわりに

抗血栓薬内服下における胃ESDの現状について概説した.日本消化器内視鏡学会から2012年に「抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン」と2017年に「直接経口抗凝固薬(DOAC)を含めた抗凝固薬に関する追補2017」の2つのガイドラインが示され,実臨床における検証が進んでいるが,そのエビデンスは未だ十分とは言えない.胃ESDは一般に広く普及しており,今後,抗血栓薬内服下ESDの後出血リスクついて多施設前向き研究による検証と,後出血予防の新たな対策が期待される.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
© 2019 Japan Gastroenterological Endoscopy Society
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