GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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ENDOSCOPIC REMOVAL OF A FISH BONE THAT HAD BECOME LODGED IN THE ESOPHAGEAL SUBMUCOSA BY ENDOSCOPIC MUCOSAL INCISION: A CASE REPORT
Yuichiro TANISHIMA Haruka KANEYAMATakashi NAKAYOSHIKeiichi IKEDAYuya NYUMURATomoko NAKAYOSHITomoyoshi OKAMOTOKatsuhiko YANAGA
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2019 Volume 61 Issue 2 Pages 151-155

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要旨

症例は60歳の女性.3日前に焼き魚(イサキ)を食べた際に魚骨を嚥下した.その後に咽頭違和感が持続したため,当院を救急受診した.頸部CTで頸部食道壁内に高吸収域を認め,魚骨と判断した.周囲に膿瘍や臓器損傷を疑わせる所見を認めなかった.上部消化管内視鏡を施行したが,食道壁の浮腫を認めるのみで魚骨を発見できなかった.魚骨が食道壁内に迷入したと考え,浮腫部分の粘膜を切開し,さらに粘膜下を検索すると迷入した魚骨を発見し摘出しえた.食道異物はその後の穿孔穿通を考慮し摘出することが望ましいが,食道壁に内視鏡で同定できない場合は,CTで正確に部位を判断し内視鏡下に食道粘膜切開により異物除去が可能であり,考慮すべき手技である.

Ⅰ 緒  言

魚骨や義歯に代表される食道異物は穿孔穿通や縦隔膿瘍,さらには臓器損傷の原因となる可能性がある 1.そのため診断後に速やかに摘出することが望ましい.内視鏡的に容易に摘出が可能な場合もあれば 2,困難なため外科手術に移行することもある 3.本症例では,内視鏡とCTで魚骨の食道壁内完全迷入を正確に診断し,内視鏡的に粘膜を切開し粘膜下層を検索することで安全に魚骨の摘出が可能であったので,文献的考察を加えて報告する.

Ⅱ 症  例

患者:60歳,女性.

主訴:咽頭の痛みと違和感.

既往歴:特記すべきことなし.

家族歴:特記すべきことなし.

現病歴:3日前に焼き魚(イサキ)を食べて咽頭痛を自覚していた.自然軽快を期待したが,痛みと違和感が改善しないため当院救急外来受診となった.救急外来で耳鼻科医による咽喉頭ファイバー診察を行ったが,異常所見を認めなかったため帰宅した.翌日も違和感が改善せず再来院した.

再来院時現症:身長160cm,体重54kg,血圧126/70mmHg,脈拍78/分・整,SaO2 99%,体温36.8°C.頸胸腹部診察で皮下の握雪感などの異常所見を認めず.

臨床検査成績:血算,血液生化学に異常値を認めず.

食道内異物(魚骨)を疑い,上部消化管内視鏡検査を施行した.

上部消化管内視鏡検査:食道内腔に魚骨を認めず,切歯より16cmの上部食道の粘膜に白濁点とその周囲のわずかな隆起を認めるのみだった(Figure 1).

Figure 1 

初回の内視鏡所見.

切歯から16cmの粘膜に白濁点(矢印)とその周囲のわずかな隆起を認めた.

頸部・胸部CT検査所見:胸部上部から頸部に魚骨を疑う2cm長の線状の高吸収域を認めた.食道内腔とはやや離れており(Figure 2-a),食道壁内への迷入を疑った.穿孔や膿瘍を疑う所見を認めなかった(Figure 2-b).

Figure 2 

頸胸部CT所見.

a:食道壁内に点状高吸収域を認め,迷入した魚骨が疑われた(矢印).

b:食道壁内に約2cm長の魚骨であることが判明した(矢印).

上部消化管内視鏡再検査(同日8時間後):食道内腔に魚骨を認めず,CTでの魚骨存在に一致するように,切歯より16-19cmに粘膜のドーム状浮腫を認めた(Figure 3-a).

Figure 3 

2回目の内視鏡所見.

a:魚骨の存在部位に一致してドーム状浮腫を認めた.

b:針状メスで粘膜を短軸方向に切開したが,魚骨を同定できなかった.

c:針状メスで粘膜を長軸方向に追加切開した.

d:魚骨を確認できたため鉗子で把持して摘出した(矢印).

e:穿孔や筋層損傷がないことを確認した.

f:摘出した魚骨は23mm長であった.

上記CT所見と内視鏡所見より食道壁内に魚骨が迷入したと診断した.

魚骨摘出のために,粘膜を切開し粘膜下層を剥離開放する方針とした.浮腫の口側にムコアップで膨隆を作成し,針状メスで短軸方向に約1cmの粘膜切開をおいた(Figure 3-b).この時点で魚骨は指摘できず,長軸方向に2cmの粘膜切開を追加した(Figure 3-c).ESDの要領で粘膜下層を開放して内視鏡用止血鉗子で探ると魚骨を確認し得た.魚骨の口側端を把持し咽頭を損傷しないように注意深く内視鏡ごと牽引し魚骨を回収した(Figure 3-d).出血がないことを確認し,粘膜切開部は開放のままで手技を終了した(Figure 3-e).摘出した魚骨は23mm長だった(Figure 3-f).治療は内視鏡医と食道外科医の立ち会いのもと内視鏡室で行われた.手技所要時間は55分で,手技中にフルニトラゼパムを計9mgとペチジン塩酸塩を計70mgの鎮静を必要とした.

2日の絶食観察期間の後に頸部違和感症状がないことを確認後に食事を再開し,処置後4日で軽快退院した.

術後1カ月後の内視鏡検査では,狭窄や潰瘍などの異常所見を認めず,食道粘膜面にわずかな瘢痕を認めるのみであった(Figure 4).

Figure 4 

内視鏡治療1カ月後の内視鏡所見.

わずかな潰瘍瘢痕を認めるのみであった.

Ⅲ 考  察

義歯,PTP製剤,魚骨などに代表される誤飲を契機とした食道異物は通過障害のほか,穿孔や穿通をきたし膿瘍や予期せぬ周囲臓器の損傷をきたしうる 4)~7.特に先端が鋭な義歯のブリッジ部分や硬くて鋭な魚骨はその危険性が高いため,遅滞なき治療が必要となる.

食道異物に対する診断と治療の要点は,異物の局在診断,周囲の損傷や炎症の波及の評価,そして異物の摘出と損傷部位の修復である.

多くの食道異物は単純に内視鏡的摘出術が可能であるが,摘出不能例や,穿通穿孔をきたしたり,縦隔膿瘍 8を発症した際は何らかの外科的手技を加える必要がある.

本症例では,初回内視鏡観察時に食道内腔に魚骨は存在しなかった.しかしその時点で,症状改善を得ておらず,また問診により魚骨の誤飲は明らかであったため,さらなる画像検索を行い,食道壁内への魚骨の迷入を診断した.異物の食道壁への完全迷入は稀ではあるが 9,魚骨に代表される小さな食道異物の診断には,本症例のように,症状と問診が重要であることが示唆された.

本例ではCT所見と内視鏡所見から粘膜下の迷入した魚骨の存在部位を正確に診断できた.食道異物を疑い症状や問診と検査所見の乖離がある際には,超音波内視鏡検査が異物の壁内迷入の同定に有用な可能性もある 5

穿通穿孔,膿瘍形成を未然に予防する目的で魚骨を摘出する方針とした.まず,ESDの要領で粘膜を切開した.食道粘膜は膨隆し浮腫様だったがムコアップの粘膜下への注入は容易だった.粘膜切開を加え粘膜下層を検索したがこの操作も浮腫の影響はなかった.Takenoらは1週間の症状持続した食道粘膜下膿瘍に対してわれわれと同様な食道粘膜切開を行い改善が得られた症例を報告している 10.異物反応による瘢痕化で粘膜ならびに粘膜下層が肉芽組織に置換される 11と注入ならびに粘膜切開が困難になることが予想されるため,これらの手技は診断後早期に施行するのが望ましいと考えられる.

食道壁内に完全迷入した小異物は,正確な局在診断が可能で,把持可能部位が粘膜内もしくは粘膜下層に存在すれば,ESDを応用した本手技で摘出できる可能性があると考える.また,把持可能部位が露出していない異物に関しても粘膜切開することにより異物が把持可能となり摘出できる応用性も示唆される.

ただし筋層以深に迷入した際は出血や操作中に穿孔をきたす危険性を考慮しなければならない.

穿通例や膿瘍形成例に関しては治療選択が熟慮されるが,本手技によって魚骨が容易に摘出可能であると想定された場合は,感染源としての魚骨除去によりその後の保存的膿瘍加療に有利となるため応用しうると考える.また,穿通例や膿瘍形成例では外科手術も考慮すべきではあるが,頸部食道において手術操作における反回神経麻痺や胸部食道においても膿胸などの重大合併症の可能性を考慮すると本手技の適応は少なくない.

食道における異物摘出においては,内視鏡的摘出,直逹鏡摘出 12,外科的摘出,が選択される.内視鏡的摘出では全身麻酔を必須とせず,比較的低侵襲と考える.しかしながら食道入口部では術野展開が困難である.直逹鏡は全身麻酔を必須とし,なおかつ喉頭展開や摘出に特殊器具を必要とするため簡便とは言い難い.しかしながら外科的手術より侵襲度が小さい点で選択肢になりえる.外科的手術は侵襲が大きいものの,他臓器損傷の疑いや上記2手技で摘出困難な場合には選択すべきである.

本症例における内視鏡的摘出に際しても,不成功もしくは損傷や出血の際には外科的手術へ移行する可能性を内視鏡医と外科医から事前に十分説明した上で,本手技に臨んだ.

ただし上記のような危険性から,外科手術へ移行できる体制のもとESD手技に習熟した内視鏡医が行うことが望ましい.

Ⅳ 結  語

食道壁内に迷入した異物は,事前に正確な局在診断を確認できれば,粘膜切開を加えて摘出できる可能性がある.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:矢永勝彦(中外製薬(株),富山化学工業(株),ファイザー(株),コヴィディエン(株),武田薬品工業(株))

文 献
 
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