GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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A CASE OF ASPIRIN INTOLERANCE PRESENTING WITH REPEATED GASTROINTESTINAL SYMPTOMS TRIGGERED BY TAKING NONSTEROIDAL ANTI-INFLAMMATORY DRUGS
Yoshihisa FUKUDA Yuji TANIGAWATaro ABEKeisuke OIWAKenichirou MOTOZATOYuta MASUTANIYusuke HIGUCHIKoji NAKAMICHI
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2019 Volume 61 Issue 3 Pages 266-272

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要旨

症例は好酸球性消化管障害に対しステロイド内服中の44歳男性.主訴は心窩部痛,水様性下痢,腰痛,胸部つかえ感.好酸球性食道炎に特徴的な内視鏡所見を呈し,膵炎と胃腸炎を合併していた.好酸球性消化管障害の増悪を疑い,ステロイドの静脈内投与で臨床所見は劇的に改善した.詳細な病歴聴取で,以前から非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs;NSAIDs)内服後に腹部症状を繰り返していたことが判明した.末梢血好酸球増多や多臓器に好酸球浸潤を来たしうるアスピリン不耐症は,好酸球性消化管障害を合併することがあることを認識すべきと考え報告する.

Ⅰ 緒  言

アスピリン不耐症は,アスピリンに限らずシクロオキシゲナーゼ-1(cyclooxygenase-1;COX-1)阻害作用を持つ非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs; NSAIDs)の使用時に発症する過敏症状でアスピリン喘息が有名である.アスピリン不耐症は,後天的な過敏体質で思春期以降に発症することが多く,末梢血好酸球増多,好酸球性副鼻腔炎,好酸球性中耳炎,好酸球性胃腸炎,好酸球性肺炎などを合併することがある 1)~3.今回われわれは,好酸球性食道炎の典型的内視鏡所見を呈し膵炎と胃腸炎を合併したアスピリン不耐症の1例を経験したので報告する.

Ⅱ 症  例

症例:44歳,男性.

主訴:心窩部痛,水様性下痢,腰痛,胸部つかえ感.

既往歴:特記事項なし.

家族歴:特記事項なし.

現病歴:43歳時に頭痛に対しNSAIDsの一種であるイソプロピルアンチピリンを含有する鎮痛薬を単回内服した約10分後に,心窩部痛と水様性下痢(20行/日)が出現し自然軽快するまでの1カ月間に体重減少(6kg)を認めた.その8カ月後にも同様のエピソードがあり前医を受診,臨床検査成績(Table 1)で好酸球増多(白血球数8,600/μl,好酸球分画17.7%,好酸球数1,522/μl)を認めた.好酸球性胃腸炎が強く疑われたためプレドニゾロン15mg/日の内服が開始され,諸症状は劇的に消失した.以後は症状の再燃はなく,10カ月間かけてプレドニゾロンの用量は4mg/日まで漸減されていた.今回は,イソプロピルアンチピリン含有鎮痛薬の単回内服後に出現した心窩部痛,水様性下痢,腰痛,胸部のつかえ感が,9日間経過しても改善しないため来院した.

Table 1 

前医での臨床検査成績所見(ステロイド投与開始前).

入院時現症:身長173.0cm,体重67.0kg,血圧133/77mmHg,脈拍114回/分 整,呼吸数18回/分,SpO2 94%(酸素3/分),体温36.7℃,意識清明,顔面浮腫なし,心音と呼吸音は正常,腹部は平坦軟で心窩部に圧痛を認めたが反跳痛はなし.両側の手背と手掌に紅斑を認めた.

入院時臨床検査成績(Table 2):好中球分画優位(89%)の白血球増多を認めたが,好酸球分画は1%で212/μl(正常は70~450/μl)と正常範囲内であった.アミラーゼとリパーゼが高値で,IgE-RISTが軽度に上昇していた.

Table 2 

入院時臨床検査成績所見.

検査:腹部超音波検査(Figure 1)では胃,大腸,肝胆膵に有意な所見を認めなかったが,小腸全域に粘膜から粘膜下層主体の壁肥厚とその周囲に少量の腹水貯留を認めた.

Figure 1 

腹部超音波検査.

小腸全域に粘膜から粘膜下層主体の壁肥厚を認め,その周囲に少量の腹水貯留を認めた.

胸腹部造影CT(Figure 2)では肺野の異常はなく,胸腹水は認めなかった.胸部食道から肛門側に連続した全周性の食道壁肥厚を認め,食道外に滲出液を認めた.膵臓の腫大や造影不良域はなく,膵周囲滲出液貯留も認めなかった.十二指腸から回腸末端にかけて連続性の壁肥厚を認めた.

Figure 2 

胸腹部造影CT.

a:食道壁肥厚と食道壁外に連続した浸出液貯留を認めた.

b:小腸壁の肥厚を認めた.

上部消化管内視鏡検査(Figure 3-a)では頸部食道を除く食道全域が,白色小浸出付着物と縦走溝を有す粗造な浮腫状白濁上皮で覆われ血管透見は消失していた.胃粘膜は,全体的に発赤し浮腫状であった.十二指腸は,球部と上十二指腸角を中心に粘膜発赤を認め,下行部は浮腫状で送気にも拡張不良であった.食道下部,胃,十二指腸をランダム生検した際に,食道粘膜は縦方向に細い短冊状に裂けて組織が採取された.

Figure 3 

上部消化管内視鏡検査.

a:食道上皮は粗造白濁化し,白色小滲出物や縦走溝を認める(入院時所見).

b:食道の血管透見は明瞭化していた(退院後16カ月後の所見).

生検病理組織像(Figure 4)では広範囲の食道上皮に無数の好酸球浸潤を認め,上皮内の一部に好酸球微小膿瘍を認め粘膜下層は好酸球で充満していた.また食道の筋層にも,形質細胞・リンパ球・好酸球が浸潤していた.胃十二指腸粘膜には浮腫を認めたが炎症所見はほとんど認めなかった.

Figure 4 

生検病理組織像(HE染色).

a:食道上皮内に好酸球微小膿瘍を認めた(×40倍).

b:食道上皮に無数の好酸球浸潤を認めた(×400倍).

入院後経過

好酸球性消化管障害として加療中であり,膵炎と胃腸炎の所見および好酸球性食道炎の特徴的な内視鏡所見から,好酸球性消化管障害の急性増悪を疑った.第1病日に水溶性プレドニゾロン30mgを1時間かけて点滴静注したところ,両手の紅斑やSpO2低値を含めて入院時の症状・所見は速やかに改善した.入院翌日には,血清Amy 44 IU/l,白血球数8,630/μl(好酸球分画3%,258/μl)と血液生化学異常所見も改善したため,プレドニゾロン15mg/日の内服に変更し第4病日に退院した.また入院後の病歴聴取の結果,以前の2回のエピソードと同様に今回も,NSAIDsの単回内服を契機に腹部症状を含め諸症状が生じており,一連の病態にアスピリン不耐症が関与している可能性が高いと判断した.退院時に,頭痛に対して鎮痛薬を服用する際には,COX-1阻害薬ではなくCOX-2選択阻害薬を内服するように指導した.

退院後経過

好酸球増多や胸腹部症状の発現はなく,プレドニゾロン内服については順次漸減し退院後10カ月で中止した.COX-2選択阻害薬の内服では有害事象を来たさないことが確認され,著変なく経過した.一度だけ誤ってNSAIDsの一種であるエテンザミドを含有した市販薬を単回内服した数分後に,胸部つかえ感と心窩部痛が出現したが,プレドニゾロン30mg/日の単回内服で速やかに改善した.退院後16カ月が経過した時点で上部消化管内視鏡検査(Figure 3-b)を施行したが,食道・胃・十二指腸に有意な所見を認めなかった.その際のランダム生検病理組織でも,好酸球浸潤は認めなかった.

また35歳時から自覚し増悪傾向にあった慢性鼻閉に関して,耳鼻科診察を依頼した.暗赤色調鼻腔粘膜腫脹に加え副鼻腔単純CTで篩骨洞を中心に副鼻腔炎の所見が得られ,好酸球性副鼻腔炎の存在が強く疑われた.その後,46歳時から臭覚は完全消失し,気管支喘息に対する加療も開始された.

Ⅲ 考  察

アスピリン不耐症 1)~3は,COX-1阻害作用を持つNSAIDsに対する非アレルギー性の不耐症(過敏症)で,選択的COX-2阻害薬は安全に使用できる.気道症状と皮膚症状(蕁麻疹,血管浮腫)が主な不耐症状である.気道症状は,従来はアスピリン喘息と称されたが,喘息以外にも鼻閉や鼻汁などの強い気道症状を呈すためaspirin-exacerbated respiratory disease(AERD)と近年は称される.アラキドン酸(arachidonic acid:AA)からCOXを介す代謝経路が阻害され,リポオキシゲナーゼ(lipoxygenase:LOX)を介しロイコトリエン(leukotriene:LT)C4,LTD4,LTE4などのシスティニルロイコトリエン(cystinyle leukotrienes:Cys-LTs)が過剰産生されることやCOX-2の発現低下によるプロスタグランジンE2(prostaglandin E2:PGE2)の減少が原因とされる.診断には血清IgE抗体や皮内テストなどのアレルギー検査は無効で,正確な問診と負荷試験が有用とされる.NSAIDsによる不耐症状誘発時には,通常のアナフィラキシーや喘息,蕁麻疹,血管浮腫と同様にステロイドやエピネフリンを用いた治療が奏効する.ステロイドの内服は不耐症を誘発する危険はないとされるが,一般診療でよく用いられるコハク酸エステルステロイドの急速静注は不耐症を誘発することがあるため禁忌である.

本症例は,以下のアスピリン不耐症に矛盾しないエピソードを有していた.①35歳時からの慢性鼻閉と臭覚消失を伴う副鼻腔炎の存在,②複数のCOX-1阻害作用を有すNSAIDsに対する不耐症状(合計4回のエピソードを確認),③COX-2選択的阻害薬の使用では有害事象がなかったこと,④46歳で気管支喘息を発症したことが挙げられる.また入院時に,消化器症状以外に「両手の紅斑」と「SpO2低値」を認めており,これらもステロイドの経静脈投与で速やかに改善した.胸部聴診上では気管支喘息発作を疑うことは困難であったが,アスピリン不耐症による気道症状と皮膚症状であったと考える.一見,アナフィラキシーにも類似したエピソードであったが,症状発現から数日以上にわたり症状が持続していた.

アスピリン不耐症と好酸球性消化管障害との関連については,これまでにも好酸球性胃腸炎の合併例の報告は散見された 4)~6.本症例のようなアスピリン不耐症と好酸球性食道炎の合併例について,Pub Med(「eosinophilic esophagitis」と「aspirin」をキーワードとして)および本邦の医学中央雑誌(「好酸球性食道炎」と「アスピリン喘息」と「アスピリン不耐症」をキーワードとして)で2017年12月以前の会議録を除く文献検索を実施した.両者の関連を示唆する症例報告は3例 7)~9しかなく,詳細な病態解析はなされていない.

本症例は広範囲の消化管に炎症がみられたが,食道にのみ病理組織学的に好酸球浸潤を証明しえた理由は不明である.また併存した膵炎の病態として,膵組織への好酸球の直接浸潤の影響や,十二指腸乳頭とその周囲の消化管粘膜の浮腫性変化による膵液流出障害が成因として挙げられる.ただし,膵臓組織病理評価や十二指腸乳頭自体の内視鏡観察は行っておらず断定するには至らなかった.好酸球性膵炎という疾患概念も近年報告されており 10),11,アスピリン不耐症に関連した消化器系病態について症例を蓄積して検討すべきと考える.

Ⅳ 結  語

好酸球性食道炎,膵炎,胃腸炎を合併したアスピリン不耐症の1例を経験した.本症は後天的に獲得する体質であり,以前は問題なく使用できたNSAIDsに対し不耐症を呈するようになる.アスピリン不耐症というとアスピリン喘息に代表される呼吸器疾患を想像しがちであるが,消化器症状が前景に立つ場合があることに留意する必要がある.なお,本要旨は第101回日本消化器病学会総会にて報告した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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