GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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TRACTION-ASSISTED COLORECTAL ENDOSCOPIC SUBMUCOSAL DISSECTION (ESD) USING A CLIP AND THREAD (TAC-ESD)
Yasushi YAMASAKI Yoji TAKEUCHINoriya UEDORyu ISHIHARAHiroyuki OKADAHiroyasu IISHI
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2019 Volume 61 Issue 4 Pages 405-416

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要旨

上部消化管領域のESDでは,糸付きクリップ法による外科医の左手のようなトラクションが簡便に応用できる.しかし,従来の糸付きクリップ法は装着するために内視鏡の抜去が必要であり,大腸ESDではあまり普及していなかった.そこでわれわれは,内視鏡の抜去が必要ないトラクション補助下大腸ESD(TAC-ESD)を考案した.TAC-ESDは3-0ポリエステル糸とクリップのみで実施でき,大腸ESDにおいても十分なトラクションが得られ,粘膜下層を良好に視認できる.さらにTAC-ESDでは,多くの症例で糸付きクリップ装着直後に全周切開し肛門側から剥離するため,治療ストラテジーが単純になる.また,困難部位・困難症例の治療もTAC-ESDに少しの工夫を加えることで,安全に実施できる.TAC-ESDは標準的な症例にも,困難な症例にも有効なトラクション法である.

Ⅰ はじめに

大腸腫瘍に対する内視鏡的粘膜下層剥離術(endoscopic submucosal dissection;ESD)は,2012年に保険適用となり,現在では数多くの施設で行われている.しかし,大腸は他の消化管臓器と比較して屈曲が多く壁が薄いため,大腸ESDは難しく,高度な技術を要する手技である.

食道・胃ESDでは,手技を簡単にするための糸付きクリップを使用したトラクション法が普及し 1)~4,“外科医の左手”のようなトラクション効果をESD中に得られているが,このトラクション法は装着のために内視鏡を一旦抜去することが必要であり,再挿入が煩わしい大腸ESDでは普及していない.

そこでわれわれは,内視鏡の抜去が必要ない,糸付きクリップを使用したトラクション補助下大腸ESD(traction-assisted colorectal ESD using a clip-and-thread;TAC-ESD)を考案し,その実施可能性,有効性を今まで報告してきた 5)~8.TAC-ESDは大腸の困難症例だけでなく,標準的な症例でも有効なトラクション法である.本稿では,TAC-ESDの実際の方法,具体的なコツについて概説する.

Ⅱ TAC-ESDで使用する物品

①EZクリップ(Figure 1-a,HX-610-090;オリンパス).

Figure 1 

必要物品.

a:EZクリップ(HX-610-090;オリンパス).

b:3-0ブレードテトロン縫合糸(ポリエステル縫合糸,夏目製作所).

135°のクリップは机上の検討では牽引した際に組織から外れやすく,先端角度90°のクリップ(容器が黄色のもの)が良い.

②3-0ブレードテトロン縫合糸(ポリエステル縫合糸,夏目製作所)(Figure 1-b).

適度に細くかつ頑丈で,鉗子口内での滑りが良く(糸がデバイスに絡まらない),かつクリップに結んだ時にはほどけにくい糸が良い.

以下は,通常のESDでも使用する物品.

③0.4%ヒアルロン酸ナトリウム(ムコアップ,ボストン・サイエンティフィック).

④ESDデバイス.

われわれは先端系ナイフを好んで使用しているが,ITナイフ(オリンパス),ハサミ型ナイフ,ムコゼクトーム(ペンタックス)などいずれのESDデバイスでもTAC-ESDは応用できる.

⑤高周波装置.

Ⅲ TAC-ESDの手順(標準的な症例)

直腸ESDでは食道・胃ESDと同様に,内視鏡を一旦抜去する従来の糸付きクリップ法が応用できる.粘膜下層への局注・粘膜切開を行い,粘膜フラップ(糸付きクリップをかけるためのスペース)作成後(Figure 2-a,b)に内視鏡を一旦抜去し,糸付きクリップを準備する(Figure 2-c).糸付きクリップを充填したクリップ装置を鉗子口内に挿入した後,内視鏡を再度挿入し,粘膜フラップの肛門側辺縁に糸付きクリップを装着する(Figure 2-d,e).肛門からでている糸を優しく引くと,剥離したい部位の粘膜下層が良く視認できるようになる(Figure 2-f).牽引の方向によって上手く展開しない場合も,クリップの下に内視鏡先端に装着した透明フードの先端を潜り込ませることによって調整できる.その後は全周切開し(Figure 2-g),剥離する(Figure 2-h,i).

Figure 2 

TAC-ESDの手順(直腸病変).

a:直腸Rb35mm大,0-Ⅰs.

b:病変肛門側正常粘膜に局注後,1/3周程度粘膜切開・軽度剥離を行う(粘膜フラップの作成).

c:内視鏡を一旦抜去し,鉗子口からクリップ装置を挿入し,鉗子口出口からクリップ装置がでたら,糸をクリップに結んで,糸付きクリップを準備する.

d,e:クリップ装置が鉗子口内に入ったままの状態で内視鏡を再度挿入し,先程作成した粘膜フラップを糸付きクリップで把持する.

f:肛門からでている糸をゆっくり引くと,粘膜下層が良好に視認できる.

g:全周切開する.

h:肛門側から剥離を継続する.

i:切除後の創部.簡単に一括切除できる.

結腸ESDでは内視鏡の抜去・再挿入に時間がかかるため,われわれは内視鏡の抜去が不要なTAC-ESDを適用している.以下に手順を示す(Figure 3-a~i・LST-G,Figure 4・シェーマ).

Figure 3 

TAC-ESDの手順およびシェーマ(盲腸35mm大,0-Ⅰs).

a:ポリエステル糸を鉗子でつかみ,鉗子口から糸を挿入する.内視鏡の外側で糸を結んでおく.

b:糸を鉗子口の中に通したままの状態で病変まで内視鏡を挿入する.

c:通常通り,肛門側の切開を行う(粘膜フラップ作成).

d:内視鏡を挿入したままの状態で,結んでおいた糸をはさみで切る.

e:クリップを仮開きの状態にし,鉗子口側の糸をクリップの腕の付け根に結ぶ.

f:糸付きクリップをクリップ装置内に収納し,肛門からでている糸を術者が引っ張るのにあわせて,介助者は鉗子口からクリップ装置を挿入する.

g:糸付きクリップを完全に展開させ,先程作成した粘膜フラップをつかむ.

h:肛門からでている糸を軽く引くと良好な視野が得られる.

i:剥離終盤までトラクションが持続する.

Figure 4 

TAC-ESDの手順およびシェーマ(盲腸35mm大,0-Ⅰs).

a:ポリエステル糸を鉗子でつかみ,鉗子口から糸を挿入する.内視鏡の外側で糸を結んでおく.

b:通常通り,肛門側の切開を行う(粘膜フラップ作成).

c:クリップを仮開きの状態にし,鉗子口側の糸をクリップの腕の付け根に結ぶ.

d:糸付きクリップをクリップ装置内に収納し,肛門からでている糸を術者が引っ張るのにあわせて,介助者は鉗子口からクリップ装置を挿入する.

e,f:糸付きクリップを完全に展開させ,先程作成した粘膜フラップをつかむ.

g:肛門からでている糸を軽く引くと良好な視野が得られる.

h:簡単に一括切除できる.

①内視鏡を挿入する前に,3m程度(糸は長めで良い)に切った3-0ポリエステル糸の端を止血鉗子(把持鉗子でも良い)でつかみ,鉗子口から挿入する.内視鏡先端(鉗子口出口)からでた糸を手繰り寄せて全体を引きだし,内視鏡の外側で糸の両端を結んでおく(Figure 3-aFigure 4-a).結果,輪っか状になった糸の半周弱が鉗子口内を通っている状態になる.

②内視鏡を肛門から挿入する(Figure 3-b).

③粘膜下局注を行い,病変肛門側正常粘膜を切開し,粘膜フラップを作成する(Figure 3-cFigure 4-b).

④内視鏡を挿入したままの状態で,糸の結び目をはさみで切る(Figure 3-d).

⑤クリップ装置に装填したクリップを半開きの状態にし(ここでは,クリップを完全に開かないことが重要),鉗子口からでている側の糸の断端をクリップの腕の付け根に結ぶことにより,糸付きクリップが完成する(Figure 3-eFigure 4-c)

⑥糸付きクリップをクリップ装置内に再収納する.術者が肛門からでている糸を引っ張るのに合わせて,介助者がクリップ装置を鉗子口から挿入する(Figure 3-fFigure 4-d,e).

⑦クリップ装置が内視鏡先端(鉗子口出口)からでたら糸付きクリップを完全に展開させ,粘膜フラップの肛門側辺縁をつかむ(Figure 3-gFigure 4-f).

⑧肛門からでている糸を術者が優しく引くと粘膜下層が良好に視認でき,粘膜下層への潜り込み,剥離が容易になる(Figure 3-hFigure 4-g).糸を強く引かなくても内視鏡との摩擦によって自然にトラクションがかかることが多く,また強く引くと糸が外れる危険性が高まるため,良好な視野が得られた時点で肛門からでている糸は引かず,ペアンなどで把持して重力で引っ張られないように検査台の上に置いておく.

⑨粘膜下層が良好に視認できることを確認後,全周切開を行う.

⑩病変の肛門側(糸付きクリップの下)から剥離を開始する.剥離が進むにつれて牽引が不十分になった場合は,適宜肛門からでている糸を軽く引いて調整する.結腸では呼吸や心拍によって対象が動くためしばしば処置が難しくなるが,糸付きクリップを用いると対象が固定される効果もある.また,剥離終盤で病変側粘膜がブラブラになった状態でも標本が牽引により固定されるため,処置の完遂が容易になる(Figure 3-iFigure 4-h).LST-NGに対しても同様の手順でTAC-ESDを行える(Figure 5-a~d).

Figure 5 

TAC-ESD(結腸病変,LST-NG).

a:横行結腸25mm大,LST-NG(0-Ⅱa+Ⅱc).

b:肛門側切開後,糸付きクリップを装着する.

c:良好なトラクションが得られる.

d:切除後創部.

われわれの施設ではすべての操作を基本的に順方向で行っており,反転での操作を行うことは少ない.

Ⅳ TAC-ESDの効果

TAC-ESDはいくつかの利点がある.以下に,TAC-ESDの利点を述べる.

①粘膜下層が良好に視認できる.

トラクションにより粘膜下層が展開されるため剥離層が良好に視認でき,適切な深度で粘膜下層を剥離できる.血管や筋層も明確に認識でき,術中出血や穿孔を予防できる.

②内視鏡の抜去が必要ない.

従来の方法で必要であった内視鏡の抜去・再挿入に伴う患者および術者の負担,手間を省くことができる.

③剥離速度が向上する.

剥離面に適度なテンションがかかることによって組織に対する剥離デバイスの接地面積が小さくなり電流密度が高まるため,効率的に剥離できる.

④大腸内視鏡の操作性が安定する.

糸付きクリップにより大腸の一部分である病変が固定され,呼吸や心拍動による大腸壁の動きが抑制されるため,内視鏡・剥離デバイス操作が安定する.

⑤治療ストラテジーが簡単になる.

粘膜フラップ作成後に糸付きクリップで同部を把持した後は,全周切開して粘膜下層を剥離する.TAC-ESDでは,基本的に病変部位や病変径に応じて治療の手順を変える必要がない.

⑥特別なデバイスが不要である.

必要なものは糸とクリップのみなので,どこでも使用できる.

Ⅴ 困難症例に対するTAC-ESD

困難な部位・状況でも標準的な症例と同様の手順でTAC-ESDを行えるが,少し工夫を加えることでさらに効率の良い手技となる.以下に,困難症例に対する対応法を呈示する.

(1)高度線維化症例

襞上の隆起性病変や内視鏡治療後の遺残再発病変では,粘膜下層に高度線維化を生じていることがある.高度線維化症例の対処法としては,先に線維化の少ない周辺を切開・剥離し,線維化部分を中心に残すことが重要である.病変肛門側に粘膜フラップを作成した後,糸付きクリップで把持し,全周切開するまでは標準的な症例と同様のストラテジーであるが,その後,可能な限り病変周辺の粘膜下層を中心の瘢痕部に向かって剥離していく.トラクションがかかっているため,周辺の線維化が少ない部位の剥離は比較的容易に行うことができる.病変口側の剥離が難しい場合は反転操作を行い,口側の剥離を線維化部位まで進めると効果的である.先端硬性部の短いPCF-H290TIスコープ(オリンパス)を用いると,反転操作を容易に行うことができる.高度線維化部位であっても,周囲を剥離した後ならトラクションが十分にかかると適切な剥離層を同定できるため,安全に剥離できる(Figure 6-a~f,線維化を伴う襞上の隆起性病変).

Figure 6 

線維化症例.

a:S状結腸40mm大,LST-G(0-Ⅰs+Ⅱa).

b:型通り,肛門側に粘膜フラップを作成し,糸付きクリップを装着する.

c:トラクションにより粗大結節直下の線維化が見やすくなる.線維化が少ない周辺部位(黄色矢印)を先に剥離する.

d:中心に線維化部位を残して,さらに剥離を進める.

e:周囲を剥離すると,中心の線維化部位での切開ライン(黄色点線)が同定できる.

f:線維化病変でも安全に一括切除できる.

(2)虫垂開口部・憩室・バウヒン弁近傍症例

これらの病変では,切開が困難な部位(虫垂開口部・憩室・バウヒン弁の近傍側)を最初に切開・軽度剥離しておく.その後,TAC-ESDの型通りに病変肛門側を切開し,粘膜フラップを作る.糸付きクリップをつけた後は,切開を拡げて最初に切開した困難部位へと繋げ,全周を切開する.最後に肛門側の糸付きクリップの下の粘膜下層から困難部位へ向かって剥離し,切離する(Figure 7-a~f,虫垂開口部近傍病変).憩室を取り囲む病変の場合は,高度線維化症例と同様に中央に憩室部位を残し周辺から剥離していく.最後に憩室部位を剥離するが,筋層がないため憩室ごとくり抜くことになる.トラクションがかかっているため,中央の憩室部位でも最後まで剥離層を認識できる(Figure 8-a~f,憩室内病変) 9

Figure 7 

虫垂開口部近傍病変.

a:虫垂開口部(赤色矢印)近傍45mm大,0-Ⅰs.

b:困難部位(虫垂開口部側)をまず切開する.

c:型通り肛門側切開し,粘膜フラップを作成し,糸付きクリップで把持する.

d:粘膜下層の視野が良好になる.

e:肛門側から最初に切開した虫垂開口部近傍まで剥離していく.最初の切開に到達すると,虫垂開口部をくり抜いた状態になる.

f:切除後創部.

Figure 8 

憩室内伸展病変.

a:上行結腸の憩室内に伸展する25mm大の隆起性病変(0-Ⅰs).

b:憩室外の肛門側粘膜を切開し,粘膜フラップ作成後,糸付きクリップで把持する.

c:良好なトラクションが得られる.

d:全周切開後,周辺から憩室部位に向かって剥離を進める.トラクションにより憩室部位の粘膜下層が良好に視認できる.

e:切除後創部.やむを得ず憩室をくり抜くこととなっても,病変を一括切除できる.

f:創部をクリップ縫縮する.

(3)血管が多い・血管が太い症例

下部直腸の病変や有茎性病変など,粘膜下層の血管が豊富で出血リスクが高い症例では,ムコゼクトームやハサミ型鉗子といった止血能力の高い剥離デバイスを用いてTAC-ESDを行うことで術中出血を予防できる.トラクションにより血管を同定しやすくなり,同定した血管もデバイスを入れ替えることなく止血しながら剥離できる 10

(4)周在が広い(巨大)症例

周在が3/4周を超えるような巨大病変では,1本の糸付きクリップでは十分なトラクションを得られないことがある.この場合は,内視鏡の抜去・再挿入を繰り返し,複数本の糸付きクリップを使用し様々な方向から引っ張ることで,効果的なトラクションが得られる 11

(5)剥離継続が困難な時,滑車式への応用

広範囲な線維化症例などでTAC-ESDを施行した後であっても,トラクションが不十分で粘膜フラップの下へ上手く潜り込めず粘膜下層の視認性が不良な場合は,滑車式TAC-ESDが有効である.鉗子口からクリップを装着したクリップ装置を追加で挿入し,粘膜フラップを把持している糸付きクリップの糸をクリップの付け根で挟んで,病変対側の正常粘膜を把持すると,滑車のようになる.良好な粘膜下層が視認されるようになるが,筋層が吊り上ることがあるので剥離層の同定には注意が必要である.滑車式にした後に局注を追加し,剥離すべき粘膜下層を確認すると良い.糸付きクリップ直下の粘膜下層を少し剥離すると,吊り上っていた筋層は元に戻るため,その後は安全に剥離を継続できる.大腸ESD初学者にとっても有効な方法であるが,病変切除後に正常粘膜を把持したクリップを把持鉗子で引っ張り,外す必要がある(Figure 9-a~g 12

Figure 9 

滑車式への応用.

a:盲腸20mm大LST-G(0-Ⅱa),EMR後再発病変.病変内口側に治療後瘢痕を認める.

b:病変肛門側に粘膜フラップを作成する.

c:粘膜フラップを糸付きクリップで把持するが,瘢痕の影響で,粘膜フラップの下への潜り込みが難しい.

d:もう1本クリップを挿入し,糸付きクリップの糸をクリップで挟んで,病変対側の正常粘膜を把持する.

e:糸と2本のクリップで滑車様になり,粘膜下層が良好に視認できる.

f:筋層の吊り上りに注意し,クリップ直下の粘膜下層を剥離すると,さらに展開が良くなる.

g:潜り込みが難しく,EMR後瘢痕を認める病変でも容易に切除できる.

Ⅵ 注意点,マイナートラブルの解決法

①局注針や剥離デバイスを鉗子口から挿入する際は,デバイスと糸が絡まらないようにするために,術者は左手の薬指か小指で糸を把持または引っかけておく.鉗子口内の糸にテンションがかかり,ピンと張った状態が維持されるため,デバイスと絡まることがない(Figure 10).

Figure 10 

デバイスと糸を絡めないコツ.

局注針や剥離デバイスを挿入する際は,糸が鉗子口内へ入っていかないように左手小指でおさえておくと良い.これにより,糸にテンションがかかった状態が維持され,デバイスが絡まることを防ぐことができる.

②術者が肛門からでている糸を引きながら介助者がクリップ装置を鉗子口から挿入していく際に(Figure 3-fFigure 4-d),糸に抵抗があり上手く引けない場合,内視鏡を少し肛門側へ引き抜くと良い.盲腸・上行結腸の症例で糸に抵抗がある場合は,横行結腸右側まで内視鏡を引き抜くと,スムーズに糸を引き抜くことができるようになる.肝彎曲に糸が引っかかると,糸を引くのに抵抗がでることがある.

③糸付きクリップを腸管内で完全に展開する時は,事前に糸を少したわませておく.糸にテンションがかかった状態でクリップを展開すると,クリップが糸に過度に引かれてクリップ装置からクリップが脱落してしまう.糸にテンションがかかっている場合は,クリップ装置をしっかりと内視鏡先端から腸管内へ押し出し,その後クリップ装置を内視鏡先端へ戻すと,糸にたわみができる(Figure 11-a~d).

Figure 11 

糸付きクリップ展開時の注意点.

a:糸付きクリップ展開前.糸にテンションがかかっていると,糸付きクリップを展開した際に,クリップが糸で引っ張られて脱落することがある.

b:クリップ装置を十分に腸管内へ押し出す.

c:bの後.糸にたわみができる.

d:問題なく,糸付きクリップが展開できる.

④粘膜下層が良く視認できるようになったら,糸はそれ以上引かない.トラクションが不十分な場合のみ,適宜軽く引いて調整する.糸と内視鏡の摩擦や腸管内の空気量の変化によって,自然に十分なトラクションが維持されることが多い.

⑤直腸の巨大病変を除いて,大部分の症例では1本の糸付きクリップによるTAC-ESDで十分なトラクションが得られるため,内視鏡の抜去は不要である.ただし,深部結腸の巨大病変(3/4周以上)で,トラクションが不十分で複数本の糸付きクリップを使用したい場合は,内視鏡の抜去・再挿入が必要である.

Ⅶ おわりに

本稿では,TAC-ESDの具体的な方法と症例に応じたコツを紹介した.TAC-ESDは簡便なトラクション法であり,単純なストラテジーで大腸ESDを完遂できる.TAC-ESDは,あらゆる大腸症例に応用でき,困難部位・症例であっても安全で効率的な手技へと導く可能性がある.また,初学者にとっても大腸ESDをマスターする手助けとなり得る.しかし,どのような手技でも習得には慣れが必要であり,難しい症例でいきなり用いてもその良さをすぐに実感することは中々できない.標準的な症例でも処置時間の短縮につながるため,まずは手技に慣れる意味も含めて簡単な症例でも使用して頂き,さらに難しい症例を克服するための補助として使って頂きたい.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

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