GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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EARLY SIGMOID COLON CANCER SHOWING FEATURES OF A SUBMUCOSAL TUMOR: REPORT OF A FOLLOW-UP CASE
Yuko YOSHIDA Hiro-o MATSUSHITAKenjiro YOSHIKAWAEiji HARADARyo TAKAGIYoshihito TANAKABunichiro KATOKazunori TSUDATamotsu SUGAIMakoto EIZUKA
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2019 Volume 61 Issue 5 Pages 1123-1130

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要旨

症例は64歳,女性.健診の全大腸内視鏡検査でS状結腸に径5mmの粘膜下腫瘍様の形態の病変を指摘された.病変の大半は正常粘膜で被覆されていたが,病変中央部に発赤調の陥凹を認め,内部に管状や分枝状のpitが観察された.同病変は13カ月前にも指摘されており,13カ月の経過で病変は増大し,中央の陥凹は拡大していた.診断的治療目的に内視鏡的粘膜切除術を施行した.病理組織学的には,粘膜下層を主座とした中分化管状腺癌であり,腫瘍は粘膜から粘膜下層にフラスコ状に浸潤していた.粘膜下腫瘍様形態を呈する大腸癌は比較的まれであり,本病変は径5mmで経過を追えたという点で貴重な症例と考え報告する.

Ⅰ 緒  言

粘膜下腫瘍様の形態を示す大腸癌は比較的まれであり,その発育進展様式については未だ不明な点も多い.今回,径5mmの小さな粘膜下腫瘍様のS状結腸癌で,13カ月の経過を追うことができた症例を経験したため,文献的考察を加えて報告する.

Ⅱ 症  例

患者:64歳,女性.

主訴:なし(人間ドック目的).

既往歴:下肢悪性黒色腫(45歳,広範囲局所切除術).

家族歴:胆嚢癌(母,祖母),前立腺癌(祖父).

現病歴:年1回,当院の人間ドックで全大腸内視鏡検査を受けていた.本年度の人間ドックのため受診し,大腸内視鏡検査を施行した.

血液検査所見:血算,生化学検査に異常は認めなかった.

大腸内視鏡所見:S状結腸に径5mmの隆起性病変を認めた.病変の大部分は周囲粘膜と同色調であったが,病変中央部に発赤調の領域を認めた.病変は立ち上がりなだらかで,粘膜下腫瘍様の形態であった(Figure 1).Narrow Band Imaging(NBI)拡大像では病変立ち上がりは周囲の正常粘膜と同様のSurface pattern, Vessel patternを呈していた(JNET分類 Type1)(Figure 2 1.病変中央部の白色光で発赤調であった部分には拡張した不均一な分布の血管が観察され,JNET分類 Type2Bと判断した 1.インジゴカルミン散布像では病変の大半に周囲粘膜より連続したⅠ型pitを認め,病変の主座が粘膜下に存在することが示唆された.中央の発赤調の部分は陥凹しており,同部には管状や分枝状のpitが観察された.また,中央の陥凹の近傍にも小さな陥凹が2カ所存在し,内部に同様の管状のpit構造を認めた(Figure 3-a).

Figure 1 

内視鏡像(白色光観察).

粘膜下腫瘍様の形態を呈する5mm大の病変であった.

Figure 2 

内視鏡像(NBI観察).

陥凹内に拡張,不均一な分布の血管が観察された(JNET分類 Type2B).

Figure 3 

内視鏡像(インジゴカルミン散布像).

a:陥凹内に管状~分枝状のpit構造が観察された.

b:1年前の同病変の内視鏡像.3mm大の病変で,今回と同様に病変内に3カ所の陥凹を認めた.

同病変は13カ月前の内視鏡時にも指摘されていた.13カ月前の時点より,すでに粘膜下腫瘍様の形態を呈しており,今回と同様に計3カ所の陥凹を認めていた(Figure 3-b).しかし,陥凹内に今回認めたような管状や分枝状のpit構造は認識できず,病変も径3mmであったことから経過観察の方針となっていた.13カ月の経過で病変の増大,中央の陥凹の拡大を認め,陥凹内のpit構造からは腫瘍性病変が疑われた.NBI拡大像,インジゴカルミン散布像からは粘膜内癌が予測される病変であったが,粘膜下腫瘍様の特殊な形態を呈しており,腫瘍が粘膜下層に及んでいる可能性を考えた.本病変の鑑別として,粘膜下腫瘍上に生じた上皮性腫瘍,転移性大腸癌,粘膜下の異所性腺由来の腫瘍,粘膜下腫瘍様の形態を呈する上皮性腫瘍などを考えたが,診断の決め手となるものはなく,診断的治療目的に内視鏡的粘膜切除術(EMR)の方針となった.

約2カ月後の内視鏡施行時には,前回の観察時と比較して中央の陥凹は縮小し,陥凹内部に観察されたpit構造は認識困難となっていた(Figure 4).超音波内視鏡では第2層の肥厚,第3層の菲薄化を認め,病変の主座が第2層~3層に存在すると思われたが質的診断は困難であった(Figure 5).第4層に変化はなく,径5mmと小病変であることから,診断的治療目的にEMRを施行した.non-lifting signは陰性でEMRで一括切除可能であった.

Figure 4 

内視鏡像(治療時).

病変中央部の陥凹と近傍の小陥凹が評価できるように割を入れ病理組織標本を作成した.

Figure 5 

超音波内視鏡像.

第2層の肥厚,第3層の菲薄化を認め,病変の取材が第2層~3層に存在すると思われた.

病理組織学的所見:切除標本における腫瘍径は5×3mmであった.中央の陥凹,近傍の小陥凹が病理組織像に反映するように割を入れ,病理組織標本を作成した(Figure 4).病理組織標本では,粘膜から粘膜下層にフラスコ状に浸潤する異型細胞の癒合腺管状増殖を認め中分化管状腺癌(tub2)の組織像をとっていた(Figure 6-a).表層部,粘膜下層部ともに腺腫成分は認めなかった.粘膜筋板は断裂していた.粘膜下層浸潤距離については,腫瘍の筋板内浸潤を認め,明らかなdesmoplastic reactionを認めないことより,粘膜筋板仮想線下縁から腫瘍先進部まで計測した.浸潤距離は660μmであった(Figure 6-b).リンパ管侵襲,静脈侵襲は陰性だった.陥凹中央部で癌が表層に表れている箇所は水平距離で1,070μm,粘膜筋板の断裂幅は750μmと粘膜面で癌が表れているのはわずかであったが(Figure 6-c),粘膜下層で腫瘍は水平方向に広がっていた.中央の陥凹近傍の小陥凹部においても同様に,腫瘍腺管を認めたが,粘膜面での癌腺管はわずか数腺管のみで,他はすべて非癌粘膜で覆われていた.免疫染色ではMUC2陰性,MUC5AC陰性,MUC6陰性,CD10陽性の小腸型の粘液形質を示した.TP53は強陽性であった.また本例は転移性大腸癌も鑑別に挙がったためサイトケラチン染色(CK7,CK20)も行った.CK7陰性,CK20陽性であり原発性大腸癌と診断した.最終病理診断はAdenocarcinoma(tub2),pT1a(660μm),ly0,v0,budding grade1,pHM0,pVM0であった.

Figure 6 

病理組織像.

a:HE染色.切片5のルーペ像.

b:desmin染色(切片5).粘膜筋板は断裂し,腫瘍の筋板内浸潤を認めた.

c:HE染色(切片5).癌は粘膜下層で水平方向に浸潤を示した.

分子生物学的解析:分子生物学的解析はpyrosequence法,PCR-SSCP法を用いて行った.KRASBRAF変異は陰性であり,APC遺伝子はexon4 codon1066のpoint mutationを認めるのみで,mutation cluster regionの変異は認めなかった.

Ⅲ 経  過

粘膜下層浸潤距離について,複数の病理医に診断を依頼したが,医師間で診断が異なった.粘膜下層浸潤距離を表層から測定するべきという意見もあり,その場合,浸潤距離が1,000μm以上となるため,患者と相談の上,追加腸切除をすることとなった.切除標本に癌の遺残,リンパ節転移は認めなかった.

Ⅳ 考  察

食道や胃には粘膜下に異所性の腺組織が存在することがあり,粘膜下腫瘍様の形態を呈する腫瘍をしばしば経験する 2.また,内分泌細胞癌や類基底膜細胞癌など腫瘍細胞が上皮の深層部や基底側から発生する場合も同様に粘膜下腫瘍様の形態を呈することがある 2.一方,大腸の粘膜下の異所性腺管は胃と比較して著しく少ないとされており 3,また,大腸癌のほとんどが腺癌であるために粘膜下腫瘍様の形態を呈することは少ない.大腸癌であっても癌が増大し,深部浸潤する過程で,周囲の正常粘膜を押し上げ,粘膜下腫瘍様の形態を呈することはしばしば経験される.しかし,小さな段階より粘膜下腫瘍様の形態を呈することは非常にまれである.

実際に医学中央雑誌で「粘膜下腫瘍様」「大腸癌」,Pub Medで「submucosal tumor」,「colon cancer」をキーワードに検索を行ったところ,1985年から2016年までに粘膜下腫瘍様の形態を呈する大腸癌は本邦から104例(虫垂,肛門病変,局所再発症例を除く)報告があったが,10mm以下のものは22例のみであった.22例の報告に自験例を加えたものをTable 1に示す 3)~24

Table 1 

径10mm以下の粘膜下腫瘍様の形態を呈した大腸癌症例.

10mm以下の病変の腫瘍径の平均値は8.1mmであった.大半の病変で頂部に陥凹を認め,陥凹部に一致して腫瘍の粘膜面への露出を認めた.

粘膜下腫瘍様の形態を呈する大腸癌の発育進展について,牛尾は深部への浸潤・発育傾向が強い未分化癌や癌細胞が粘液を産生するような腫瘍で粘膜下腫瘍様の形態をとりやすいとし 2,濱本らは粘液癌の産生する粘液塊が疎な粘膜下層の細胞間隙を開くことにより粘膜下腫瘍様の形態を呈することがあると報告している 6.実際に今回検索し得た症例では,径10mm以上の病変をもつ82例中41例で低分化腺癌や印環細胞癌,粘液癌,髄様癌成分を含んでいた.一方,径10mm以下の病変に限定すると22例中17例は高分化,中分化管状腺癌のみで構成されており,低分化腺癌や印環細胞癌,粘液癌の割合は径10mm以上のものと比較して少なかった.本例のように小型で高分化,中分化管状腺癌のみで粘膜下腫瘍様隆起を形成する場合と大型の病変で,腫瘍が増大する過程で生じた低分化腺癌や粘液癌成分が周囲の正常粘膜を押し上げ粘膜下腫瘍様隆起を形成する場合では発育進展様式が異なる可能性があると考えた.

深達度は小さな病変にも関わらず,粘膜下層深部以深の浸潤を認めるものが大半であり,多くの症例で外科的切除が施行されていた.本病変は粘膜下層浅層までの浸潤であったが,粘膜下腫瘍様の特殊な形態のために表層からの拡大観察のみでは判断が困難な症例であった.陥凹内の腫瘍が粘膜面に露出していた部分では,粘膜内成分の構造が残存し,desmoplastic reactionを認めなかったことより,NBI拡大観察,色素拡大観察で無構造領域を認めず,比較的構造が保たれていたと考えた.また,インジゴカルミンは陥凹内にたまりやすく,陥凹を有する病変では詳細な観察がしばしば困難となる.クリスタルバイオレット染色を含めた観察が重要と思われたが,本例では精査時に陥凹縮小のため内部の観察が困難であった.

大腸癌の粘膜下層浸潤様式について,長廻らは1カ所で粘膜筋板を破り粘膜下層で膨張性に発育するタイプの癌が存在するとし 25,藤井らは径10mm以下の粘膜下層浸潤癌では細胞間接着因子であるβ-cateninやE-cadherinの細胞膜への局在の消失を高頻度に認めたと報告している 26.本例では粘膜内癌部分や粘膜筋板の断裂幅は小さく,腫瘍は粘膜下層で増殖していた.小さな粘膜下腫瘍様の形態の大腸癌には深部浸潤傾向が強いものが存在し,早期に粘膜筋板を破り粘膜下層で膨張性に発育するために,粘膜下腫瘍様の形態を呈すると推察される.

病変の発生起源については,すべての症例で言及されてはいなかったが,22例中9例はnon-polypoid growthを示す点や腺腫成分がないことより,de novo癌ではないかという考察がなされていた.本例もKRAS遺伝子やAPC遺伝子のmutation cluster regionでの変異を経ずにp53の異常を認める点,病理組織学的所見上も病変内に腺腫成分を認めない点よりde novo pathwayを経て発生した病変である可能性が示唆された.本例はde novo癌であると思われ,尾関らの検討と同様に癌が粘膜内で発育をする以前の非常に早期に粘膜筋板を破って粘膜下層へ浸潤したものと推測されたが 4,粘膜下層で癌は垂直方向ではなく,フラスコ状に水平方向へ広がっているようにみえた.また,中央の陥凹近傍の2カ所の小陥凹部にも数腺管の癌腺管を認めた.3カ所の粘膜内癌が粘膜下層浸潤を来したというのは発育進展上考えづらく,粘膜下層で増殖した癌が,再び粘膜面に逆噴射状に露出したものと思われ,興味深い病理組織像を呈していた.本病変は13カ月前の径3mmの時点より粘膜下腫瘍様の形態を呈し,中央の陥凹周囲にも小陥凹が存在したことから,13カ月前にすでに粘膜下層浸潤や逆噴射を来していた可能性がある.また,本病変は脈管侵襲陰性で,転移を認めなかったが,小腸型の粘液形質を示し悪性度の高い病変であると思われた 27.しかし,本病変が小さな段階から粘膜筋板の断裂を来していたと推察されるにも関わらず,13カ月の経過で病変はわずかな増大を認めるのみであった.この点はde novo発生の腫瘍は発育スピードが速いとされる 28過去の報告とは異なる.しかし,径10mm以下の粘膜下腫瘍様の形態を呈する大腸癌で経過を追えた症例は本例以外には1症例のみであり,本病変は径5mmの小さな病変で内視鏡所見,病理組織学的所見,分子生物学的解析を含めた詳細な検討が可能であったことから,大腸癌の発育進展を考える上で非常に興味深い症例と思われた.今後さらなる症例の蓄積と浸潤様式,発育進展に関する検討が必要と思われる.

Ⅴ 結  語

今回,径5mmの粘膜下腫瘍様の形態を示した粘膜下層浸潤癌を経験した.本病変は1年前より指摘されており,経過を追えたという点でも非常に貴重な症例と考え,文献的考察を加えて報告した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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