GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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A CASE OF EOSINOPHILIC ESOPHAGITIS THAT TRANSFORMED FROM THE LOCALIZED TYPE TO THE DIFFUSE TYPE
Shinichi KOJIMA Masaki KATSURAHARAToshihumi TAKEUCHIReiko YAMADAMisaki NAKAMURAYasuhiko HAMADAHiroyuki INOUEKyousuke TANAKANoriyuki HORIKIYoshiyuki TAKEI
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2019 Volume 61 Issue 7 Pages 1395-1400

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要旨

症例は46歳女性.検診の上部消化管内視鏡検査(esophagogastroduodenoscopy;EGD)で,下部食道に限局性の褪色調粘膜を指摘された.上皮内腫瘍を疑われ,精査目的に当院へ紹介受診となった.前医の生検で好酸球浸潤を認めていたため,好酸球性食道炎の可能性を考え,エソメプラゾールの投与を開始した.8週間後のEGDでは,多発する褪色調粘膜と縦走溝が上部食道から下部食道にかけて拡がり,好酸球性食道炎と診断した.近年,下部限局型好酸球性食道炎の概念が提唱され,びまん性型好酸球性食道炎の初期像であると言われている.今回われわれは,下部限局型好酸球性食道炎がびまん性型に短期間に進展していく自然経過を捉えることが可能であった.

Ⅰ 緒  言

好酸球性食道炎(eosinophilic esophagitis;EoE)は,わが国では2006年にFurutaら 1によって初めて症例報告された慢性のアレルギー性疾患で,以前は稀な疾患とされていたが,近年増加傾向である.内視鏡受検例を対象とした検討では上部消化管内視鏡検査5,000例に1例程度の頻度という報告 2もある.

EoEで見られる特徴的な内視鏡所見として,縦走溝,輪状溝,白色滲出物がある.2014年にAbeら 3は,これらの所見が下部食道に限局して見られる症例を報告し,EoEの初期像であると指摘している.今回,われわれは検診のEGDで下部に限局したEoEを指摘後,びまん性に拡大していく自然経過を捉えることができた症例を経験したので報告する.

Ⅱ 症  例

症例:46歳 女性.

主訴:検診異常.

既往歴:特記事項なし.

アレルギー歴:特記事項なし.

嗜好歴:飲酒:ビール500ml/日×26年間.喫煙:10本/日×26年間.

内服薬:なし.

現病歴:2016年2月下旬に前医で検診目的のEGDを施行され,下部食道に限局性の褪色調粘膜を指摘された.3月中旬に下部食道の褪色調粘膜の精査目的にEGDを施行され,食道上皮内腫瘍を疑われ,3月下旬に精査目的に当院へ紹介となった.

受診時現症:体温36.9℃.血圧 111/51mmHg.脈拍 79回/分.胸腹部に異常所見を認めない.皮疹を認めない.

検診時(初回)のEGD(Figure 1):Squamo-columnar junction;SCJから2cm口側の下部食道の右壁に微細顆粒状変化を伴う,境界が比較的明瞭で辺縁整,平坦な褪色調粘膜を認めた.NBI観察では同部位はベージュ色の粘膜であり,ヨード染色では淡染領域として認めた.また,上部~中部食道,胃,十二指腸には異常を認めなかった.同部位の生検(Figure 2)では,高倍率の顕微鏡視野で1視野あたり最大41個の好酸球浸潤を認めたが,核の軽度腫大,核極性の乱れがあり,食道上皮内腫瘍が疑われた.

Figure 1 

検診時(初回)のEGD所見.

a:下部食道(白色光観察),b:下部食道(NBI観察),c:下部食道(ルゴール染色).

白色光観察では右壁に微細顆粒状変化を伴う境界が比較的明瞭な褪色調粘膜を認め,NBI観察では同部位はベージュ色の粘膜であった.ヨード染色では淡染領域として認めた.

d:上部~中部食道(白色光観察)有意所見を認めなかった.

Figure 2 

検診時EGDの微細顆粒状粘膜の病理組織像(H.E.染色×400).

最大41個/HPFの好酸球浸潤,核の軽度腫大,核極性の乱れを認めた.

前医(2回目)のEGD(Figure 3):白色光観察では下部食道の右壁に褪色調の微細顆粒状変化が前後壁側にわずかに拡大していたが,初回と同様に下部食道に限局していた.NBI観察ではベージュ色の粘膜として認めた.NBI観察弱拡大,NBI観察強拡大では,シアンカラー様の粘膜下血管の消失,ドット状のintrapapillary capillary loop;IPCLの増生を認めた.他の部位からの生検では,好酸球浸潤を認めなかった.

Figure 3 

前医(2回目)のEGD所見.

a:NBI観察弱拡大.

b:NBI観察強拡大では,シアンカラー様の粘膜下血管の消失,ドット状のIPCLの増生を認めた.

血液検査所見:WBC 5.800/μl(Eo 1.0%),RBC 371×104/μl,Hb 12.3g/dl,Plt 21.0×104/μl,CRP 0.01mg/dl,AST 24IU/l,ALT 10IU/l,LDH 164IU/l,BUN 10.8mg/dl,Cre 0.69mg/dl,CEA 2.7ng/ml,CA19-9 16U/ml,SCC抗原 0.5ng/ml,IgE 112IU/lであった.

胸部単純CT:食道に有意な所見を認めなかった.

臨床経過:当初,上皮内腫瘍を疑われたが,前医での生検で高度の好酸球浸潤を指摘されていることからEoEの可能性を考え,エソメプラゾール20mg/日の投与を開始した.エソメプラゾール内服8週間後に当院でEGDを行ったところ,上部から下部食道にかけて縦走溝を伴う境界が不明瞭な褪色調粘膜が多発していた(Figure 4).生検では,食道扁平上皮内に,高倍率の顕微鏡視野で1視野あたり最大41個の好酸球浸潤を認め,臨床経過と合わせてEoEと診断した.当院でのEGD直後より嚥下時違和感が出現し,悪化傾向となったため,フルチカゾン400μg/日の嚥下療法を開始した.フルチカゾン嚥下療法開始後2カ月程で症状が改善した.フルチカゾン嚥下療法開始4カ月後のEGDでは,治療前に顕著だった縦走溝や褪色調粘膜,NBI所見の消失を認めた.嚥下療法開始12カ月後のEGDでもEoEの再燃所見を認めず(Figure 5),症状の再発なく経過した.

Figure 4 

当院でのEGD所見(PPI 8週間内服後).

a:下部食道(白色光観察).

b:上部食道(白色光観察).

SCJ~上部食道にかけて境界がやや不明瞭な褪色調の粘膜,縦走溝を認めた.

Figure 5 

嚥下療法開始12カ月後のEGD所見.

中部食道(白色光観察):縦走溝は消失し,EoEの再燃を認めなかった.

Ⅲ 考  察

EoEは,食道の上皮層中への多数の好酸球の浸潤が慢性的に持続するアレルギー性疾患で,好酸球による慢性炎症が原因となって食道扁平上皮の透過性亢進,増殖促進,粘膜下層の浮腫と線維化が起こる.これらの変化のために食道の運動や知覚機能に異常を来し,嚥下障害,心窩部のつかえ感,胸やけ,嘔吐といった様々な消化器症状が生じる 4

好酸球性食道炎の診断指針 5がわが国では用いられているが,中でもEGDは,食道粘膜の生検で上皮内に好酸球数15/HPF以上を認めるといった必須項目や,内視鏡所見で食道内に縦走溝,輪状溝,白色滲出物を認めるといった参考項目の所見を確認する上で重要な検査である.わが国における厚生労働省研究班の調査 6),7では,縦走溝は35%,輪状溝は19%,白色滲出物は23%と報告され,42%の症例では内視鏡所見を認めない.また,NBIおよびNBI拡大観察では,Beige color様所見:beige mucosa(beige color of the mucosa compared with normal mucosa),ドット状のIPCLの増生:dot IPCL(increased and dot-shaped congested IPCLs),シアン調血管の不明瞭化:absent cyan vessels(invisibility of cyan-colored vessels that are normally found in the esophagus mucosa)を認めたとの報告 8),9があり,同様の症状を来す逆流性食道炎に比べ高頻度に上記所見を認める傾向にある.

Abeらは,EoEを病変の分布からdiffuse type(びまん性型)とlocalized type(限局型)に分類し,限局型は下部に多いと報告している.自験例を合わせた国内の下部限局型EoEの12症例をまとめると 3),10,部位はSCJ直上が75%,SCJ直上~下部食道が17%,下部食道が8%であった.また,びまん性型EoEと比較すると 7,中年男性に多い傾向は同様であったが,症状は無症候性(75%),嚥下障害(25%),胸やけ(25%)で軽症であった.本症例でも,病変の範囲が限局型からびまん性型に拡大するとともに症状も悪化した.また,内視鏡所見は,縦走溝(91%),輪状溝(17%),白色滲出物(41%)で,びまん性型EoEと同様に縦走溝の所見が多く見られた.本症例の初回および2回目のEGD(Figure 1)をレトロスペクティブに見ると,縦走溝など特徴的な所見を確認することは不可能であったが,前述のNBI所見をあわせると,上皮内腫瘍よりは下部限局型EoEを疑う内視鏡所見であったといえる.同部位が白色光観察で褪色調顆粒状変化を来した理由としては,病理所見から見ると,炎症による上皮細胞間隙の開大やそれに伴う上皮の浮腫性肥厚を認めたことが挙げられる.これらは,本来,EoEの病理組織所見として認められるものであり 11,核極性の乱れについても炎症性異型の範囲内と考えると,初回の生検標本も下部限局型EoEとして矛盾しない所見であったといえる.

下部限局型EoEの治療については,プロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor:PPI)で改善した報告例 10はあるが,まとまった報告はない.EoEの治療では,EoEが疑われた症例の33-50%にPPIが有効とされ 12),13,まずPPIの反応性を評価するべきとされており 14,下部限局型EoEの場合も同様と考える.PPIが無効な場合はステロイド局所療法やアレルギー試験に基づく食物除去を検討する 15.本症例は,PPIを投与後に症状,内視鏡所見の改善がなく,むしろ悪化を認めた.PPIを投与することによって悪化したEoEの報告はなく,内視鏡像の経時的な変化は,下部限局型EoEからびまん性型EoEへ移行する自然経過であったと考えられた.

本症例では,検診での発見からステロイド局所療法による症状・内視鏡所見の改善までの1年半程度の経過を追えた.このように下部限局型EoEからびまん性型EoEに短期間に移行していく自然経過を内視鏡的に捉えることができた報告はこれまでなく,大変貴重な症例と考えられた.胸部下部食道に限局性の粘膜変化を認めた際には,稀ではあるがEoEの可能性も考慮し,慎重に経過観察していくことが重要であると考えられた.

Ⅳ 結  語

下部限局型EoEが,症状,内視鏡所見ともに経時的に増悪し,びまん性型EoEの像を呈した後,治療により症状・内視鏡所見が改善するまでの経過を終えた症例の報告は本邦ではこれまでなく,若干の考察を加えて報告した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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