GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
Online ISSN : 1884-5738
Print ISSN : 0387-1207
ISSN-L : 0387-1207
A Ⅱa+Ⅱc-LIKE ILEAL ADENOMA SUCCESSFULLY TREATED BY ENDOSCOPIC MUCOSAL RESECTION (WITH A VIDEO)
Mitsuru NAGATA Yasuo OHKURA
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML
Supplementary material

2019 Volume 61 Issue 7 Pages 1423-1429

Details
要旨

症例は65歳,男性.便潜血陽性のため大腸内視鏡を施行された.回盲弁から10cm口側に23mmの発赤調のⅡa+Ⅱc様病変を指摘され,生検で高異型度腺腫と診断された.NBI(Narrow band imaging)拡大観察ではJNET(Japan NBI Expert Team)分類Type 2Aに相当する所見であった.EMRを施行し,病変を一括切除した.出血や穿孔などの合併症は認めなかった.病理診断は軽度異型と高度異型の混在した管状腺腫であった.一括完全切除されており,1年後の大腸内視鏡で再発は認めなかった.本症例は非常に稀なⅡa+Ⅱc様回腸腺腫の治療におけるEMRの有用性と,組織型推定におけるNBI拡大観察の有用性が示唆された貴重な症例と考えられたため,報告する.

Ⅰ 緒  言

原発性小腸腫瘍は稀であり,全消化管腫瘍の1~2%と報告されている 1.空腸は上部消化管内視鏡で観察することは困難であり,回腸は回腸末端を除いて大腸内視鏡で観察することは困難なため,小腸腫瘍は病態が進行し,出血や腸重積などが起こるようになってから発見されることが多い 2.小腸腫瘍の中でも小腸腺腫は稀で,ダブルバルーン内視鏡を用いた多施設共同研究によると全小腸腫瘍の2.8%と報告されている 3.肉眼形態としては,十二指腸を除くと,今まで報告された空腸腺腫,回腸腺腫は隆起型を呈し,腸重積を契機に発見された症例が多く,隆起型以外を呈する病変の報告は少ない.空腸腺腫,回腸腺腫の治療は従来,外科手術が行われてきたが,近年は内視鏡的切除が行われた症例も報告されている.小腸内視鏡診療ガイドライン 4では粘膜内にとどまる腫瘍については内視鏡的切除が適応とされているが,内視鏡的切除の具体的な方法については定められていない.EMR 5)~8,Underwater EMR 9,ESD 10で治療が行われた報告があるが,空腸腺腫,回腸腺腫は非常に症例が少ないため症例ごとに治療法が検討されているのが現状である.小腸内は管腔が狭く,スコープの操作性が悪く,隆起型以外ではスネアリングも難しいため,分割切除や穿孔のリスクが高く,内視鏡的切除の難易度は高いと考えられる.今回,われわれはEMRにて一括完全切除し得た23mmのⅡa+Ⅱc様回腸腺腫を経験した.貴重な症例と考えられたため,報告する.

Ⅱ 症  例

患者:65歳,男性.

主訴:特になし.

家族歴:特記事項なし.

既往歴:パーキンソン病.

生活歴:喫煙なし,機会飲酒.

現病歴:特に自覚症状はなかったが,便潜血陽性の精査目的で大腸内視鏡を施行され,回盲弁から10cm口側に23mmの発赤調のⅡa+Ⅱc様病変を指摘された.生検1点施行され,高異型度管状腺腫と診断された.内視鏡治療目的で入院となった.

入院時現症:身長 166cm,体重 67kg,血圧 124/86mmHg,脈拍 65/分・整,眼瞼結膜に貧血なし,眼球結膜に黄染なし,胸部聴診で心音・呼吸音異常なし,腹部は平坦軟で圧痛なし,表在リンパ節触知せず,浮腫なし.

入院時血液検査所見:WBC 6,800/μl,Hb 15.3g/dl,Plt 15.8万/μl,TP 7.4g/dl,AST 21IU/l,ALT 26IU/l,LDH 203IU/l,BUN 15.8mg/dl,Cr 1.08mg/dl,Na 142mEq/l,K 3.9mEq/l,Cl 103mEq/l,CRP 0.05mg/dl.

大腸内視鏡所見:回盲弁から10cm口側に23mmの発赤調のⅡa+Ⅱc様病変を認めた(Figure 1-a,b).インジゴカルミン散布で辺縁に不整さは乏しく,陥凹内に隆起部などの所見は認めなかった(Figure 2-a,b).送気量の変化により病変は容易に変形し,壁の硬化所見は認めなかった.NBI拡大観察では,JNET分類Type 2Aに相当する所見が認められた(Figure 3 11.陥凹面から生検1点施行し,高異型度管状腺腫と診断され,EMRの適応と判断した.小腸壁は薄く,EMRによる術中穿孔,遅発性穿孔のリスクを考慮し,入院管理下でEMRを施行する方針とした.なお,回盲弁から40cm口側まで挿入したが,他の病変は認めなかった.直腸,結腸には特記すべき異常所見は認めなかった.

Figure 1 

大腸内視鏡(通常観察).

回盲弁から10cm口側に23mmのⅡa+Ⅱc様病変を認めた.

Figure 2 

大腸内視鏡(インジゴカルミン撒布).

陥凹内部に不整は乏しく,陥凹内隆起などの所見は認めなかった.

Figure 3 

陥凹部のNBI拡大観察像.

Vessel pattern,Surface patternともに不整は乏しく,JNET分類2Aに相当する所見と判断した.

入院後経過:Ⅱa+Ⅱc様回腸腺腫に対するEMR目的で入院とした(電子動画 1).スコープはPCF-Q260AZI(オリンパス)を使用し,先端にST hood(富士フィルム)を装着した.局注液としてグリセオール(濃グリセリン・果糖注射液)を用いた.スネアはCaptivator Small Hex(Boston Scientific,13mm,六角形状)を使用した.回腸内は内腔が狭く病変の口側へのアプローチが難しかったが,先端が先細りのST hoodを用いることで病変口側へスコープ先端をアプローチすることが出来た.病変が口側へ移動しスコープが届かなくなるのを予防するため,最初に病変口側に局注し,病変がスコープ側へ寄るようにした.その後,局注を足して行き全体を挙上した.non-lifting signは認めず,良好な挙上が得られた.スコープ先端を病変口側に持ってきてスネアを展開し始め,スネア先端がずれないようにスネアの展開に合わせて少しずつスコープを引き,肛門側が確実にスネアの中に入ったことを確認してスネアを絞扼した.高周波装置はVIO 300D(ERBE)を用い,Endocut Qで一括切除した(Figure 4).切除後に出血,穿孔はなく,辺縁に明らかな腫瘍成分の遺残は認められなかった.クリップにて切除後潰瘍を完全縫縮し,スコープを抜去した.EMR翌日,特に症状は認めず,胸部X線でfree airは認めなかった.飲水から再開し,EMR2日後に食事再開したが著変なく,EMR4日後に退院とした.

電子動画1

Figure 4 

新鮮切除標本.

辺縁隆起部を含め,一括切除されている.

病理組織診断(Figure 5-a,b):Tubular adenoma with mixed low- and high-grade atypia,腫瘍径23×13mm,切除径 25×15mm,pHM0,pVM0.

Figure 5 

a:病理組織像(H.E.染色).軽度異型と高度異型の成分が混在する管状腺腫.切除断端は陰性で,完全切除と診断した.

b:陥凹部に一致して高異型度の管状腺腫を認めた(H.E.染色).

病理組織所見:軽度から中等度に腫大した核が重層性を軽度に示す異型管状腺管の増生が認められた.核・細胞質比は中等度から高度の増加を呈していた.明らかな癌化所見は認めず,低~高異型度の管状腺腫の所見であった.切除断端に腺腫腺管は認められなかった.

治療後経過:EMRの3カ月後,1年後にフォローアップの大腸内視鏡を施行したが,EMR後潰瘍は瘢痕化しており,再発所見は認めなかった.

Ⅲ 考  察

本症例では稀なⅡa+Ⅱc様回腸腺腫に対するEMRの有用性と,回腸腫瘍の組織型推定におけるNBI拡大観察の有用性が示唆された.

医学中央雑誌,PubMedでの2018年までの検索では,家族性大腸腺腫症に合併した症例を除くと,空腸腺腫,回腸腺腫の症例報告の論文は16例認められた(Table 1).隆起型を呈し,腸重積の原因精査目的で施行した小腸造影や注腸造影により発見された症例が多く,本症例のようなⅡa+Ⅱc様の症例は認められなかった.隆起型以外では症状は乏しく,大腸内視鏡で回腸末端を観察した場合に偶然発見された症例が多い.また,貧血の精査で施行されたカプセル内視鏡で発見された症例も認められる 8.カプセル内視鏡は低侵襲だが,消化管狭窄のある患者で滞留が起こる可能性があること,生検を行えないことは問題である.バルーン内視鏡や大腸内視鏡はやや侵襲があるものの,利点として生検による組織診断が可能であること,外科手術適応であれば点墨が施行可能であることが挙げられる.

Table 1 

空腸腺腫,回腸腺腫の症例報告.

空腸腺腫,回腸腺腫の治療としては,以前は外科手術が行われることが多かったが,近年は内視鏡的切除が行われた報告が増えて来ている.小腸内視鏡診療ガイドライン 4では粘膜内にとどまる腫瘍については内視鏡的切除が適応とされているが,内視鏡的切除の具体的な方法については定められていない.内視鏡的切除としてはEMRが行われた報告が多い 5)~8.3mmの陥凹型空腸腺腫にESDが行われた報告が1例あるが,視野確保困難なために途中でEMRに切り替えられたものの,穿孔を来し緊急手術を要している 10.また,25mmの陥凹型回腸腺腫にUnderwater EMRが試みられた報告があるが,分割切除になっており,EMR後出血を来している 9.空腸腺腫,回腸腺腫は発見されること自体が非常に稀であるため,画一的に治療方法を定めることは困難である.病変のサイズ,スコープの操作性,non-lifting signの有無などからポリペクトミー,EMR,Underwater EMR,ESDの内で最適な方法を検討していくべきである.なお,空腸・回腸の上皮性腫瘍は,症例が少なく診断学が確立されていないため,分割切除が容認される病変の特徴は分かっておらず,一括切除を目指すべきであろう.20mm以上の病変や,スコープの操作性が不良な症例,局注でliftingが不良な症例などについては,分割切除のリスクが高く,さらには穿孔のリスクも高くなる可能性が危惧されることから,外科手術の検討が必要と考えられる.また,粘膜下層浸潤癌が疑われる病変は,小腸内視鏡診療ガイドライン 4で内視鏡的切除が推奨されていないため,外科手術の適応である.

本症例では,腫瘍長径23mmと比較的大きなⅡa+Ⅱc様回腸腺腫であったが,EMRにて一括完全切除に成功しており,合併症も認められなかった.回腸の内腔は狭く,操作性も悪い.局注後はさらに内腔が狭くなるため,大腸と同じようにEMRを行うことは難しい.本症例では,スコープ径の細いPCF-Q260AZIを用い,スコープ先端に先細りのST hoodを装着することにより,局注後の狭い管腔においてもスコープ先端を病変の口側にアプローチしスネアリングすることが出来た.なお,近年では十二指腸腫瘍に対するUnderwater EMRの有用性が報告されている 12.送気下ではスネアリングしにくいような病変も,Underwater EMRではスネアリングしやすくなる場合がある.さらに,Underwaterでの内視鏡治療では吸熱効果が働き,筋層への熱損傷を抑制し,遅発性穿孔のリスクを下げる可能性がある 13.一方で凝固作用は弱くなるため,術後出血を来しやすくなる可能性もある 9.回腸でのUnderwater EMRの有用性はまだ明らかではないため,現状では送気下でスネアリングしやすいポジションがとれる場合は,従来のEMRを試みるのが良いと考えられる.

本症例は大腸における側方発育型腫瘍(LST:Laterally spreading tumor)の偽陥凹型(pseudo-depressed type)に相当する肉眼形態を呈しており,大腸においては粘膜下層への浸潤率が高いとされる肉眼形態であった 14),15.しかし,NBI拡大観察ではJNET分類Type 2Aに相当する所見であり,回腸腫瘍が大腸腫瘍と同じNBI所見を呈すると仮定すると,腺腫から粘膜内癌が想定された.実際に,EMR切除検体の病理組織診断は腺腫であった.JNET分類が回腸腫瘍でも大腸腫瘍と同じように適応可能かどうかは今のところ不明であるが,本症例の結果よりNBI拡大観察が回腸腫瘍組織型推定に有用である可能性が示唆された.NBI以外では,超拡大内視鏡により回腸腺腫の診断を行った症例報告がある 7.超拡大内視鏡は,2018年2月にオリンパス社から“Endocyto”の名称で市販化されたばかりのデバイスである.最大520倍の光学拡大機能により,細胞の核まで観察することが可能であり,今後症例が集積されればリアルタイムで組織型や深達度を推定できる有用なデバイスになり得ることが期待される.また,EUSによる質的診断の有用性も報告されている 16

なお,本症例では病変が発見される20カ月前にも大腸内視鏡を施行され,回腸末端も観察されていたが,このときは回腸末端に病変は指摘されなかった.病変が見落とされていなかったとすると,20カ月で23mmの病変が新しく出現したことになる.大腸腺腫と同様に小腸腺腫においてもadenoma-carcinoma sequenceを示唆する報告があり 17,回腸腺腫は積極的に治療すべきである.

Ⅳ 結  語

Ⅱa+Ⅱc様回腸腺腫の1例を報告した.EMRはⅡa+Ⅱc様回腸腺腫の治療に有用であった.また,回腸腫瘍の組織型推定におけるNBI拡大観察の有用性が示唆された.回腸腺腫は非常に稀であるため,症例を蓄積し,さらなる検討が望まれる.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
© 2019 Japan Gastroenterological Endoscopy Society
feedback
Top