GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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LINE-ASSISTED COMPLETE CLOSURE FOR A LARGE MUCOSAL DEFECT AFTER COLORECTAL ENDOSCOPIC SUBMUCOSAL DISSECTION DECREASED POST-ELECTROCOAGULATION SYNDROME (WITH A VIDEO)
Yasushi YAMASAKIYoji TAKEUCHITaro IWATSUBOMinoru KATOKenta HAMADAYusuke TONAINoriko MATSUURATakashi KANESAKATakeshi YAMASHINAMasamichi ARAOSho SUZUKISatoki SHICHIJOHiroko NAKAHIRATomofumi AKASAKANoboru HANAOKAKoji HIGASHINONoriya UEDORyu ISHIHARAHiroyuki OKADAHiroyasu IISHI
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2019 Volume 61 Issue 7 Pages 1458-1468

Details
要旨

【背景と目的】ESD後創部を縫縮するとpost-ESD coagulation syndrome(PECS)の発生割合が低下する可能性がある.しかし,今までは大きな大腸ESD後創部を内視鏡的に縫縮することが難しかった.そこで,大きな大腸ESD後創部を内視鏡的に縫縮するための新しい方法として,われわれは糸付きクリップを使用した縫縮法(LACC)を考案した.今回の研究では,LACCによるPECSの予防効果を検討した.

【方法】2016年1月から2016年8月に大腸ESD後創部に対してLACCを試みた61症例を解析対象として抽出した.LACC不成功症例とESD中に偶発症を生じた症例を除外し,57症例をLACC群とした.一方で,大腸ESD後創部を縫縮していない495症例を対照群とし,両群間の治療成績を比較検討した.また,背景を揃えるため,傾向スコアマッチングを用いた解析も行った.

【結果】LACCを試みた61症例の大腸ESD後切除標本径の中央値(範囲)は35(20-72)mmで,LACC成功割合は95%(58/61)であった.LACC施行時間の中央値は14分であった.LACC群ではPECSの発生割合は2%で,後出血や遅発穿孔は認めなかった.傾向スコアマッチングを用い,両群51症例が抽出された.傾向スコアマッチング後の解析では,LACC群は対照群と比較して有意にPECSの発生割合が低く(0% vs 12%,P=0.03),入院期間が短かった(5日 vs 6日,P<0.001).

【結論】さらなる大規模研究が必要であるが,LACCは大腸ESD後のPECSの発生割合を低下させることが示唆された.

Ⅰ 緒  言

内視鏡的粘膜下層剥離術(Endoscopic submucosal dissection;ESD)は一括切除割合が高く,遺残再発割合が低い治療法であり,大きな大腸腫瘍に対する有効な内視鏡摘除法である 1),2.しかしながら,大腸ESDは高度な技術を要する手技であり,一定の頻度で偶発症が起こり得る 3),4.術中穿孔・術中出血などのESD術中偶発症の大部分は内視鏡的に対処可能になってきているが 5,ESD後の遅発性偶発症に対する最適な治療法や予防法はまだ確立されていない.画像上で穿孔所見がないにも関わらずESD後に限局する腹痛を生じる病態として定義される,post-ESD coagulation syndrome(PECS)は,大腸ESD後に9.5%の頻度で生じると報告されている 6.PECSは遅発穿孔と症状が似ているため鑑別が難しいことがあり,時に問題となる.

PECSの詳細な発生機序は不明だが,2つの仮説が考えられている.1つ目は,粘膜下層剥離中の熱が貫壁性に筋層及び漿膜に伝わってESD後創部に損傷を与えるという,熱損傷が関わる仮説である 6)~8.2つ目は,ESD後創部は直接的に腸管内の汚染物質と接触することになるので局所感染が起こるという,細菌感染が関わる仮説である 6),9.予防的な抗生剤投与がPECSの発生割合を低下させるという既報があるが 10,発生機序の仮説を考慮すると,ESD後創部を完全縫縮する方がPECSなどの遅発性偶発症を予防できる可能性があると,われわれは考えていた 11),12.しかし,実際には大きな大腸ESD後創部を従来のクリップ縫縮法で完全縫縮するのが困難であった.そこでわれわれは,大きな大腸ESD後創部を完全縫縮するための新しい方法である,糸付きクリップを使用したクリップ縫縮法(line-assisted complete clip closure;LACC)を考案し,その実施可能性を報告してきた 13)~16

今回の研究では,大きな大腸ESD後の創部に対してLACCを施行し完全縫縮した症例と縫縮しなかった症例の治療成績を比較し,LACCの効果を検討した.

Ⅱ 方  法

試験デザイン

本研究は,大阪国際がんセンターの大腸ESDデータベースを使用した遡及的研究である.研究プロトコールは大阪国際がんセンターの倫理委員会により承認され,すべての共著者は研究結果を確認し,本論文の内容について承認している.この論文はSTROBE声明に基づいて作成されている.

対象症例

2016年1月から2016年8月までに,2名の術者(Y.Y. or Y.T.)が大腸ESD後創部に対してLACCを施行した症例を本研究に登録した.大腸ESDとPECS発生の関連性を特定するために,複数病変を同日にESDした症例は本研究から除外した.LACCによる縫縮が困難な部位であるバウヒン弁や虫垂開口部に病変が及ぶ症例も除外した.適格症例の背景及び治療成績を解析した.基礎情報として,LACC成功割合(定義:ESD後創部の完全縫縮成功),LACC治療時間,LACCを試みた症例の遅発性偶発症発生割合も解析した.LACCを試みた症例のうち術中穿孔症例とLACC不成功症例を除外した,術中偶発症なくLACCによりESD後創部が完全縫縮された症例をLACC群として定義した.同時期のESD後創部を縫縮しなかった症例を対照群として検討したが,縫縮しなかった症例の半数は直腸病変であり,非熟練医がESDを施行していたので,対照群とするには不適切と判断した.従って,2012年1月から2015年12月までに大腸ESDを施行し,創部を縫縮しなかった症例(以前にデータベースに基づいてESD後創部を縫縮しなかった場合のPECS発生割合を報告した際の対象症例 6)を対照群とした.LACC群と同様に複数病変を同時にESD施行した症例,バウヒン弁や虫垂開口部に病変が及ぶ症例,術中穿孔・遅発穿孔を生じた症例は対照群からも除外した.症例背景,治療成績,遅発性偶発症(後出血,PECS)をLACC群と対照群で比較した.傾向スコアマッチングを行う前に,(LACCの有無を含めて)PECSに関連する因子を多変量解析で検討した.傾向スコアマッチング後に,遅発性偶発症の発生割合を解析した.

LACCの実際

LACCは以前の報告と同様の方法で施行した(Figure 1-a電子動画 1 13)~16.大腸内視鏡(PCF-Q260AZI,PCFQ260JI or CF-Q260DI;Olympus, Tokyo, Japan)を用いて,大腸腫瘍をESDで完全切除した後にLACCを施行した.まず,長さ2m・直径0.23mmのナイロン糸をクリップ装置(HX-110LR;Olympus)に充填されたクリップ(HX-610-090;Olympus)の歯に結び付けた.次に,作成した糸付きクリップをクリップ装置内に収納し,クリップ装置を大腸内視鏡の鉗子口から挿入した.クリップ装置が内視鏡先端の鉗子口出口からでたら,糸付きクリップを展開し,大腸ESD後創部より5mm外側の正常粘膜を把持した.そして,もう1本(糸の付いていない)クリップを鉗子口から挿入しクリップを展開させ,クリップの付け根に先程の糸を引っかけた状態で,糸付きクリップで把持した部位とは反対側の大腸ESD後創部より5mm外側の正常粘膜を把持した.その後鉗子口からでている糸をゆっくり引くと,正常粘膜が寄り,ESD後創部も引き寄せられた.クリップを追加し,ESD後創部を完全に閉鎖した.糸付きクリップ1本で創部の完全閉鎖が困難な場合は,同様の方法で糸付きクリップを追加で使用した.創部の完全閉鎖後,糸をハサミ鉗子で切除した(FS-3L-1;Olympus).

Figure 1 

糸付きクリップを使用した縫縮法.

a:盲腸5cm大の側方発育型腫瘍.

b:6cm大のESD後創部.

c:糸付きクリップでESD後創部の外側の正常粘膜を把持した.

d:クリップ(糸なし)の歯の付け根に先程の糸付きクリップの糸をはさんで,対側の正常粘膜を把持した.

e:糸を引くとESD後創部は引き寄せられる.

f:ハサミ鉗子で糸を切る.

g:クリップを追加し縫縮する.

h:縫縮が不十分な場合,2本目の糸付きクリップを用い,上記と同様に縫縮を行う.

i:創部を完全縫縮する.

電子動画1

LACC群と対照群の症例背景及び治療成績(傾向スコアマッチング前)

年齢,性別(男性,女性),病変肉眼型(隆起型・側方発育型腫瘍顆粒型,側方発育型腫瘍非顆粒型),病変部位(盲腸・上行結腸,他の結腸・直腸),切除病変径,切除標本径,ESD治療時間,ESD中のトラクション手技使用の有無 17)~20,ESD後の抗生剤使用の有無,ESD中の筋層損傷の有無,入院期間,遅発性偶発症,に関するデータを集計した.抗生剤は,ESD術者が遅発性偶発症の発生を危惧した場合(筋層の露出あるいは損傷,巨大病変など),ESD後に投与した.主要評価項目は,PECSの発生割合とした.限局する腹痛と発熱(≧37.6℃)あるいは炎症反応上昇(白血球[≧10,000cells/lL]またはCRP[≧0.5mg/dL])が大腸ESD後に6時間以上経過してから発生し,画像診断で明らかな穿孔所見がない場合,PECSと診断した 6.副次評価項目は,後出血とESD後の入院期間とした.緊急内視鏡で止血が必要な明らかな出血を認めた場合,輸血が必要な場合,ESD後にヘモグロビンが2g/dL以上低下した場合を,後出血と定義した.

傾向スコアマッチング

両群間の選択バイアスを減少させるために傾向スコアマッチングを行った.PECSの発生割合に影響を与える可能性がある6項目(年齢[≧69,<69歳],性別[男性,女性],病変部位[盲腸・上行結腸,他の結腸・直腸],切除標本径[>36,≦36mm],ESD後の抗生剤使用[有,無],ESD中のトラクション手技の使用[有,無])を用いて 6,ロジスティック回帰分析により傾向スコアを算出した.

最近傍法を用いて,ESD後創部に対してLACCを行った症例と創部に対してLACCを行わなかった症例を1:1にマッチングさせ,傾向スコアを揃えた2群を作成した.キャリパー(マッチングさせる許容領域)は0.05に設定して,傾向スコアを算出した.マッチング後,2群間の比較を行った.

統計解析

連続変数の結果は中央値(範囲)で示した.カテゴリー変数についてはχ 2検定とFisherの正確確率検定を使用し,連続変数についてはMann-WhitneyのU検定を使用した.PECSの発生を予測するオッズ比はロジスティック回帰分析で算出し,単変量解析でP値が0.1未満である項目を用いて多変量解析を行った(マッチング前).P<0.05を統計学的に有意と判定した.統計解析にはJMP(version 12)software package(SAS Institute, Cary, NC)を使用した.

Ⅲ 結  果

症例登録

Figure 2に症例登録のフローチャートを示す.LACCは61症例61病変に対して施行した.この中で,LACC不成功3症例,ESD術中穿孔1症例,計4症例は除外した.よって,57症例をLACC群として登録した.一方で,ESD後にクリップ縫縮をしなかったのは,532症例532病変であった.このうち,ESD術中穿孔28症例,遅発穿孔9症例,計37症例を除外した.よって,495症例を対照群として登録した.傾向スコアマッチング後は,両群51症例が抽出された.

Figure 2 

患者フローチャート.

ESD, endoscopic submucosal dissection; LACC, line-assisted complete clip closure; Pts, patients.

症例背景

Table 1にLACCを試みた61症例の背景と治療成績を示す.切除病変径中央値は30mm,切除標本径中央値は35mmであった.19症例(31%)は遅発性偶発症の発生が懸念されたため,ESD直後に抗生剤が投与された.61症例中58症例の大腸ESD後創部がLACCにより完全に閉鎖され,LACC成功割合は95%であった.屈曲部に病変が存在した3症例(S状結腸2症例,横行結腸1症例,Table 2)ではLACCは不成功となった.屈曲部に病変が存在した症例でのLACC成功割合は84%(16/19)だった.LACC治療時間中央値は14分であった.

Table 1 

大腸ESD後創部に対してLACCを施行した患者の背景及び治療成績.

Table 2 

LACC不成功例の患者背景及び治療成績.

後出血や遅発穿孔は認めなかった.LACCが成功した症例(LACC群)のPECS発生割合は2%(1/57)のみであった.

LACC群と対照群の症例背景,治療成績の比較(傾向スコアマッチング前)

病変部位は2群間で有意な差を認めた(P<0.001)(Table 3).LACC群は,半数以上の症例(63%)で病変部位が盲腸あるいは上行結腸であった.ESD時間中央値はLACC群が対照群よりも有意に短かった(P<0.001).ESD中にトラクション手技を使用した割合は2群間で有意差があった(P<0.001).LACC群では半数以上の症例でトラクション補助下ESDが施行されていた 17)~20.他の患者や病変に関連する因子は,2群間で差を認めなかった.ESD後の入院期間はLACC群で対照群よりも有意に短かった(P<0.001).PECSの発生割合は,LACC群で有意に低かった(P=0.04).

Table 3 

傾向スコアマッチング前のLACC群と対照群の患者背景及び治療成績.

PECSに関連する因子

PECSに関連するロジスティック回帰分析の結果をTable 4に示す.女性(オッズ比2.0,95%信頼区間1.0-3.8),ESD後の抗生剤使用(オッズ比8.0,95% 信頼区間4.2-16.1),LACCの有無(オッズ比0.2,95% 信頼区間0.0-0.9)がPECSに関連する独立した因子として多変量解析で抽出された.

Table 4 

PECSのリスク因子に関する単変量解析・多変量解析.

傾向スコアマッチング後の症例背景と治療成績

傾向スコアマッチング後に検討すると,PECSの発生割合はLACC群(0%)で対照群(12%)よりも有意に低かった(P=0.03)(Table 5).ESD後の入院期間もLACC群(5日)で対照群(6日)よりも有意に短かった(P<0.001).

Table 5 

傾向スコアマッチング後のLACC群と対照群の患者背景及び治療成績.

Ⅳ 考  察

今回の研究では,大腸ESD後の遅発性偶発症の発生割合をLACC群と対照群で比較した.PECSの発生割合に関連する因子 6を用いた傾向スコアマッチング後の解析では,LACCはPECSの発生割合を低下させ,入院期間を短縮させていた.LACCを用いることで,遅発性偶発症の発生割合が低い,安全な大腸ESDが実現可能になるかもしれない.

LACCの利点は,大きなESD後創部を縫縮することによって,ESD後創部と便・細菌が接触することを防げることである.よって,LACCはPECSを引き起こし得る局所感染 9を減らす可能性がある.大腸ESD/EMR後創部に対するクリップ縫縮は,遅発性偶発症の発生割合を低下させると報告されている 11),12),21.Zhangらは,クリップ縫縮により大腸ESD/EMR後の腹痛が有意に減少した(クリップ縫縮群2.8%,非縫縮群16.7%)と報告している 11.また,後出血も有意に減少したと報告している(クリップ縫縮群1.1%,非縫縮群6.9%).Fujiharaらは,大腸ESD後の創部をクリップ縫縮するとクリップ縫縮群においてESD後の腹痛が少なかったと報告している(クリップ縫縮群3.7%,非縫縮群24.4%) 12.また,ESD後の炎症反応(CRP)はクリップ縫縮群において有意に低かったが,後出血割合に差はなかったと報告している 12.Haradaらは,大腸ESD後の発熱は,クリップ縫縮群で有意に少なかったと報告している(クリップ縫縮群2.8%,非縫縮群13.3%) 21.上述した既報では,大部分の大腸ESD/EMR後の創部は従来のクリップ縫縮法で閉鎖されているため,縫縮できる創部の大きさに上限があり,縫縮が不成功になっている症例が散見される.一方で,今回の傾向スコアマッチングを用いた検討では,LACCによって完全縫縮した大きな大腸ESD後創部の治療成績を解析し,LACC群では対照群よりもPECSの発生割合が有意に低いことを示した.後出血の発生割合は極めて低かったので,LACC群(0%)と対照群(2%)で後出血割合に差はなかった.LACCが後出血の予防に有用かどうかに関しては,さらなる大規模研究が必要である.

Leeらは,予防的な抗生剤の使用は大腸ESD後のPECS発生割合を減らすと報告している 10.彼らの報告では,大腸ESD前に予防的に抗生剤を投与した群ではPECS発生割合は2%のみであったのに対して,抗生剤を投与しなかった群では16%だったとしている.一方で今回の研究の多変量解析では,抗生剤の使用はPECS発生の独立したリスク因子(オッズ比,8.0)であった.われわれはESD中に遅発性偶発症の発生が危惧された場合に抗生剤を使用していたため,既報との違いが生じたと考えられる.よって,われわれの検討と既報との間で生じたPECSの発生及び予防に関する抗生剤使用が及ぼす影響の違いに関しては,注意深く解釈する必要がある.また,抗生剤の効果及び最も効果的な投与のタイミングに関しては不明確なままである.われわれは,PECSに対するLACCの予防効果を示したが,LACC群においてPECS発生割合が低い正確な理由は不明なままである.LACCはPECSで考えられている発生機序のうち1つ(便や細菌による創部の暴露,局所感染)を抑制することはできるが,粘膜下層剥離中の熱が貫壁性に筋層及び漿膜に伝わって生じるとされる熱損傷を防ぐことはできない.PECSの発生機序を明らかにし,効果的な予防効果を確立するための研究が今後必要である.

今回は,研究期間中(2016年1月~2016年8月)に2人の術者によって大腸ESDを受けた連続症例を対象としてLACCを施行した.LACCは複雑な手技ではなく,本研究ではLACC治療時間中央値は14分と短かった.しかしながら,2人の術者が施行した症例のみを対象としているため,LACCを施行した症例に対して選択バイアスが生じた可能性は否定できない.過去の検討でPECSの危険因子と報告されている女性 6,大きな切除標本径,術者が遅発性偶発症を危惧する場合は,LACCの良い適応と考えられる.

今回の研究にはいくつかの限界がある.第一に,本研究は遡及的な過去の対照を用いた研究である.2群間でESDが行われた期間は異なり,LACC群では半数以上の症例でトラクション補助下ESDを施行していたので 17)~20,傾向スコアマッチング前は,LACC群のESD治療時間は対照群よりも短かった.しかしながら,単変量解析・多変量解析を行うと,ESD治療時間やESD中のトラクション法の使用の有無はPECSを予測する独立した因子ではなかった.また,本研究では,バイアスを最小限にするために傾向スコアマッチングを使用しており,ESD治療時間が2群間で異なっていた影響は少なくなっている.またすべての研究期間において同一のクリニカルパスによって標準的な入院期間が決められていたが,LACC群においてESD後の入院期間が短かったのは,最近では医療費を軽減するために,治療後経過が良い場合は早期に退院するようになった影響があるかもしれない.第二に,症例数が少ない.LACCのPECSや後出血といった遅発性偶発症に対する予防効果を十分に評価するためには,大規模な前向き無作為化試験が必要である.第三に,比較検討の際に,LACC成功例のみを適格症例として検討を行っている.本研究では,病変が屈曲部に存在した場合にLACCが不成功になることがあった.LACC不成功の原因は,屈曲部の症例では糸付きクリップの糸をはさんだ2本目のクリップでESD後創部口側の正常粘膜を把持することが難しく,正常粘膜を寄せることができなかったためと考えられた.LACC成功割合は95%と極めて高く,本研究におけるLACC不成功症例の影響は少ないと思うが,あらゆる症例でLACCが成功するようにLACCの改良が必要である.第四に,本研究では2人の熟練した術者のみがLACCを施行している.よって,LACCは簡単な手技ではあるが,非熟練医によるLACCの成功割合とLACCが誰にでも実施可能かどうかに関しては本研究の結果からは不確かである.

われわれは,大腸ESD後の遅発性偶発症に対するLACCの予防効果を評価するために傾向スコアマッチングを用いた比較研究を行った.本研究からは,LACCはPECSの発生割合を低下させる可能性が示唆されたが,今後さらなる研究が必要である.

謝 辞

今回の研究に協力して下さった大阪国際がんセンター内視鏡室のスタッフに深謝申し上げます.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

補足資料

電子動画 1 糸付きクリップを使用した大腸ESD後創部完全縫縮法.盲腸ESD後の巨大な創部を縫縮するために,複数本糸付きクリップを使用した.

文 献
 
© 2019 Japan Gastroenterological Endoscopy Society
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