2019 Volume 61 Issue 8 Pages 1513-1522
Endocytoscopy system(ECS)はOptical biopsyを実現する内視鏡として2003年に第1世代ECSが試作された.第4世代ECS(GIF-H290EC)はHi-vision画像で通常内視鏡観察から連続して500倍までの拡大が可能となり,2018年に市販された.食道でのECSを用いた観察では,細胞核の形状が明瞭に描出される.「核密度」と「核異型」を指標として診断が行われ,90%を超える正診率が得られている.胃でのECS観察では粘液の除去が最大の課題であるが染色液の工夫などで「構造異型」,「細胞配列の乱れ」,「細胞異型」を観察することが可能である.十二指腸でのECS観察の報告は少ないが,Celiac病,十二指腸腺腫,十二指腸癌でそれぞれ病理組織を反映する特徴的画像が得られている.
ECSは生体内でリアルタイムに組織学的最終診断を可能にする.これにより内視鏡学的に従来のマクロ診断からミクロ診断へと診断の新しい扉を開けるものである.
現在一般的に使用されている拡大内視鏡はモニター画面上100倍程度の拡大率である.この拡大内視鏡は表面の微細血管構造やpitの観察が可能で良悪性の診断や深達度診断に有用である.しかし,細胞そのものを観察できるわけではないため最終病理診断は生検診断に頼らざるを得ない.Endocytoscopy system(ECS)は100倍を超え400倍から1,000倍の拡大率をもつ超拡大内視鏡であり 1),生体内で細胞を直接観察することが可能である.ECSは「内視鏡画像から生検診断に匹敵する情報を得る」というOptical biopsyを具現化する内視鏡として期待されている.2003年に第1世代ECSが開発されて以降,改良を重ねた結果これまで4種類のECSをオリンパスメディカルシステムズ社が製作した.2018年には上部消化管用ECSであるGIF-H290EC(第4世代ECS)が市販された(Figure 1) 2).本稿では上部消化管におけるECS観察の現状について詳述する.

GIF-H290ECで観察した食道癌症例.ハンドレバーで連続して拡大することで連続して異なった拡大率の画像を得ることができる.
a:白色光観察像(通常倍率).0-Is病変が確認される.
b:Narrow band imaging (NBI)画像(通常倍率).周辺にBrownish areaが観察され,上皮内伸展を有することがわかる.
c:100倍程度の拡大観察では,B2血管が観察された.
d:メチレンブルー染色後,非癌部の900倍での観察.軽度の核密度の上昇を認めるが核異型はない.
e:メチレンブルー染色後の500倍での観察.核密度の上昇,核異型が観察される.
f:同部を,デジタルズームを使用し900倍まで拡大した画像.核異型がより明瞭に認識される.
ECSで細胞を観察するためには生体染色が必要である.現在消化管内視鏡において頻用される染色液で核染する代表的な薬剤はメチレンブルー,トルイジンブルー,クリスタルバイオレット(ピオクタニン)があげられる 3).染色液の選択,濃度に関してはKodashimaら 4)が詳しく検討している.報告では食道に関しては1%メチレンブルーで60秒染色,胃,大腸においては0.25%トルイジンブルーで60秒が最適な染色法であるとしている.井上らはメチレンブルー・クリスタルバイオレット2重染色(CM2重染色)を提案し疑似ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色が可能であるとしている 5).クリスタルバイオレットはメチレンブルーに比べ粘液の存在下でも上皮をよく染色するため腺上皮の生体染色に頻用されている.
食道は染色の容易さから最も研究が進んでいる臓器である.筆者らが2004年に食道での最初のECS観察を報告した 1).時期を同じくしてInoueらも食道,胃,大腸のECS画像を報告している 6).ECSによる食道癌の正診率は内視鏡医,病理医ともに95%を超えており食道病変はECS診断により生検診断省略はある程度可能である 3).このほか胃・食道逆流症(GERD),好酸球性食道炎,カンジタ食道炎などでも組織を反映するECS画像が得られる 7).
正常食道粘膜ECS観察では染色液の浸透性のため粘膜表層から1,2層の表面の細胞の情報のみが得られる.よって垂直病理診断と同等の病理診断ができるわけではない.正常食道粘膜では粘膜表層に向かうにつれ表層分化が起こり細胞は円板状に薄くなり核は濃縮する(Figure 1-d,Figure 2).メチレンブルーなどで生体染色すると直後よりECSにて広い細胞質と濃縮した核を持つ重層扁平上皮の最表層の細胞が敷石状に配列する様子が観察される 8).

食道エンドサイト観察の原理.
エンドサイトでは表面1,2層の細胞が染色され観察される.Intraepithelial neoplasia,食道炎では異型細胞は基底層側に限局し全層置換しないためECSでは異型細胞は観察されない.一方,食道癌では異型細胞が全層置換するため癌細胞が表面から観察される.
食道癌ではほとんどの症例で重層扁平上皮全層が異型細胞で置換される.よってECS観察では表層からでもN/C比が低く,核異型を有する癌細胞が密に観察され,前述の正常重層扁平上皮細胞との鑑別は容易である(Figure 1-e,f,Figure 2).GIF-H290ECによる500倍での観察では正常食道粘膜と比べ核密度が高い.デジタルズームを使って900倍に拡大すると,500倍での観察より明瞭に核異型を判定できる 8).このデジタルズームの使用により病理医の正診率は飛躍的に向上した 9).よって食道扁平上皮を観察するにはデジタルズームを使用し,最高倍率での観察が適しているといえる.
ECSによる生検診断省略が最も威力を発揮するのは内視鏡治療適応の症例である 3).進行食道癌では白苔などで癌細胞が表面に露出していない場合があり観察不良となることがしばしばある.また,進行食道癌ではしばしば治療法が異なる特殊型食道癌にも遭遇するため,これらの症例では生検診断を併用するべきと考える.また,異型細胞が基底層側に限局する基底層型の食道癌,Intraepithelial neoplasia(IN)などでは異型細胞が全層置換しないため核異型は観察されない(Figure 2) 3),8).これらの症例はヨード染色を参考に怪しければ生検を行うという態度が必要であろう.
食道癌との鑑別が問題となる代表的な食道病変として食道炎に伴う再生異型と放射線照射後やGERDで観察されるpseudomalignant erosionがある(Figure 3) 3),7).これらの症例では表層に異型細胞や異型線維芽細胞が出現しECSでの癌との鑑別が困難な場合がある.GERD合併症例,放射線照射後も生検診断を併用するべきであろう.

食道癌と鑑別を要する病変.
a:LA分類Grade Cの胃・食道逆流症.
b:粘膜傷害部で観察された再生異型のECS像(700倍).核密度の上昇と核の大小不同が認められる.
c:生検組織診断では再生上皮の診断であった.しかし,確定診断ではなく,PPI投与後の再生検の必要のコメントがあった(HE染色,400倍).
d:放射線照射後の食道炎.腫瘍は消失し食道全周にびらんが認められる.
e:同部のECS像.核密度の上昇と核異型が認められる.細胞質が濃染し核が透明に描出される.核小体も認められる(900倍).
f:生検組織診断では扁平上皮は観察されず,異型線維芽細胞,組織球が認められる(HE染色,400倍).
異なる施設より2つの分類が提案されている.InoueらはVienna分類と同様にECA5段階分類を提案し,正診率は82%と報告している 10).しかし,前述のようにECSで観察できるのは粘膜表層の細胞のみである.上皮深層の細胞異型まで観察できないとVienna分類と同様の5段階に厳密に細分類するのは困難と考えている.
筆者らは,切除標本からの検討を元に2006年にType分類の原型(川田ら)を発表し 11),これを生体内での検討に応用した 8),12).Type分類は核密度,核異型の要素で3段階に分類している(Figure 4).

食道扁平上皮のType 分類(トルイジンブルー染色,900倍).
a:Type 1.
b:Type 2.
c:Type 3.
Type1(非癌):核密度が低く観察される扁平上皮細胞はN/C比が低く核異型のないもの.Type2(境界病変):核密度は高く,細胞間の境界が不明瞭になっているが核異型が弱い.Type3(悪性):核は腫大し,核密度が高く核異型が観察される.とした.
Type1と診断されたものは非癌であることがほとんどで生検を行うことなくFollow upでよい.また核密度の上昇,核異型を伴うType3と診断されたものは悪性(食道癌)であり生検省略は可能である.しかし,Type2と診断されたものには食道炎から食道癌まで幅広い病変が含まれる.Type2の確定診断には生検組織診断が必須である 12).
Barrett食道Barrett上皮は扁平上皮と違い腺上皮であり,表面の粘液の除去が大きな課題である.筆者らは第1世代ECSを用いはじめてBarrett食道癌のECS像を報告した 13).その後,Barrett上皮,Barrett食道腺癌に関する報告は第1世代ECSを用いた論文が2編報告されている.2007年Pohlら 14)は生体内で通常内視鏡観察では視認できないBarrett腺癌,dysplasiaを観察した.メチレンブルー単染色でも染色は概ね良好であったが解像度が不十分であり満足な結果は得られなかったと結論づけている.一方,Tomizawaら 15)は切除標本を使ったEx vivoの検討でBarrett粘膜のECS像を4段階に分類し内視鏡の習熟度にかかわらず高い正診率であったと報告している.筆者らは第3,4世代ECSを用いBarrett粘膜,癌の特徴を報告した 16).腸型粘膜では杯細胞が観察され,扁平上皮島では導管開口部が観察されるなど組織診断と合致する興味深い画像が得られている.
現在行われているNBI拡大観察にECSがどれだけ情報を加えることができるか今後の研究が待たれる.
胃のECS診断に関して2004年にInoueらが最初に発表している 6).筆者ら 13)も2006年に非癌胃粘膜,胃癌のECS像を発表し,腸上皮化生胃粘膜で杯細胞が描出されることを報告した.Barrett粘膜の観察と同様,当初より胃の粘液が生体染色を困難にしていることが知られており,食道や大腸に比べ研究は遅れていた.近年になりCM2重染色を用いて胃に関する複数の論文が報告され,ECS観察の有用性が明らかとなりつつある.
非癌胃粘膜胃体部と幽門部ではECSで観察される腺管構造が異なる(Figure 5) 17)~19).H. pylori感染のない正常胃粘膜を観察すると,胃体部(胃底腺)で上皮細胞は円形に配列し,腺窩(開口部)も円形でありtube構造を確認できる.一方幽門腺粘膜では腺窩上皮は尾根状(ridges)もしくは乳頭状(papillary)と表現されており腺窩はスリット状である.正常胃粘膜は胃液の分泌が盛んでCM2重染色を用いても染色されないことが多い.しかしH. pylori感染が起こると胃粘膜は萎縮し,それに伴い胃液の分泌が低下することで非癌胃粘膜の腺管構造も染色されるようになる.腸上皮化生胃粘膜では吸収上皮に変化するため良好に染色され杯細胞が観察されるようになる 17).ECSによる杯細胞の描出は陽性的中率95%で腸上皮化生胃粘膜であることが組織学的に証明されている 20).また,正常の腺管構造から逸脱した上皮構造を示す胃粘膜ではH. pylori感染は47.7%にみられたと報告されている 18).

非癌胃粘膜のECS像(メチレンブルー単染色,500倍)と組織の対比.
a:胃底腺粘膜のECS像.円形の腺窩が観察される.細胞の配列は整っている.
b:同部(胃底腺)の組織像(HE染色).
c:萎縮のない幽門腺粘膜のECS像.尾根状の腺窩上皮の間にスリット状の腺窩が観察される.
d:同部(幽門腺)の組織像(HE染色).
e:腸上皮化生胃粘膜のECS像.杯細胞が観察される.
f:同部(腸上皮化生)の組織像(HE染色).
Kimuraらは第1世代ECSを用いex vivoでH. pyloriを観察し,鞭毛を動かして移動する様子を動画で報告している 21).しかし,生体内で直接H. pyloriの描出に成功したという報告はない.共焦点レーザー顕微内視鏡(Confocal laser endomicroscopy(CLE))を用いJiらはH. pyloriの描出に生体内で成功している 22).彼らはアクリフラビンを散布しH. pyloriをとらえ感染の陽性的中率は90.9%であったと報告している.クリスタルバイオレットでもピロリ菌は染色される.デジタルズームを併用したGIF-H290ECの最大倍率は900倍であり共焦点レーザー顕微内視鏡の倍率とほぼ同等である.内視鏡医はまだ気づいていないだけかもしれない.今後の研究が待たれる.
胃癌ECSを用い正常胃粘膜,胃腺腫,胃癌を効率的に識別する分類はKaiseらにより報告されている(Figure 6) 23).論文ではCM2重染色を用い胃のECS所見を構造異型(不整な腺管構造や腺管構造の消失,腺窩の消失・短縮,走行異常)と細胞異型(核腫大・不整,細胞極性の乱れ)により以下の3段階に分類している.

胃粘膜の異型度分類(CM2重染色,日本医科大学貝瀬満教授提供).
a:ECS異型なし:規則正しく上皮細胞が配列し,腺窩は幅広くスリット状である(白矢印).
b:ECS軽度異型:短縮し狭小化した腺窩を認める(黒矢印).
c:ECS高度異型:細胞配列の極性は乱れ,核異型を認める.腺管構造の高度の破壊,消失など構造異型も明らかである.
ECS異型なし:規則正しく腺窩上皮細胞が配列した腺窩上皮と腺窩上皮の間に幅広な腺窩,または線状の腺窩を認める.
ECS軽度異型:腺窩の短縮,狭小化を一貫して認める,または腺窩の癒合や消失を一部に認める.
ECS高度異型:腺窩の消失または癒合,腺管構造の消失,核の異型を病変内に一貫して認める.
CM2重染色を用いると88%の症例で評価可能な良好な染色が得られた.ECS高度異型は感度86%,特異度100%で胃癌であり,軽度異型は感度78%,特異度94%で胃腺腫であった.またこの分類は内視鏡経験年数にかかわらず十分なκ-valueがあったと報告している 24).
また,ECSで胃癌の組織型の判別もある程度可能である 19).高分化型腺癌では腺管構造の破壊は高度であるが残存しており,低分化型腺癌では消失している.印環細胞が観察可能であったとの報告もある 25).
このように胃に関しても生体内での細胞観察は可能であり病理組織診断に迫る画像が得られている.ただし,染色にはやはり10分程度要している.ECSの現在の目標は生検診断の省略である.胃粘液の除去,染色の工夫がさらに必要である.
十二指腸に関するECSの論文は十二指腸病変自体がまれなため現在のところ症例報告が数本あるにとどまっている 26)~28).十二指腸は吸収上皮であるため胃と比較して染色が容易でメチレンブルー単剤でも散布後1分程度で染色される.正常の十二指腸粘膜は絨毛上皮である.正常では丈の高い絨毛内に杯細胞が観察される.食物中に含まれるグルテンによる自己免疫疾患であるCeliac病では絨毛の萎縮が見られるが,ECSにより組織診断と同等の画像が得られる 29).腺腫では杯細胞が消失し,配列する細胞は紡錘形となり極性の乱れが観察される.管状腺腫,絨毛状腺腫も表面構造から識別可能である 27).十二指腸癌では腺管,絨毛構造は破壊され配列する核の異型度も増す 28).十二指腸癌,腺腫は生検での病理診断が難しく正診率は低いことが知られている 30).これは,十二指腸癌がadenoma-carcinoma sequenceにより発生するため腺腫内癌の「癌」の部分をうまく生検できていないことも要因の一つと考えられる.ECSを用いることで生検診断より精度の高い観察ができるかも検討する価値がある.
Tajiriらの分類によると細胞レベルまでの拡大率を有する内視鏡は顕微内視鏡(Endoscopic microscopy)として通常の拡大内視鏡とは別に分類されている 31).この顕微内視鏡にはECSとCLEの2種類がある.ECSのCLEよりすぐれる点は細胞画像が高画質であること,通常の内視鏡システムに接続可能という汎用性,検査のコストである.CLEは上部消化管では主に腺上皮で有用性が報告されている 32).CLEの生体染色には多くはfluoresceinの静脈内投与が行われている.静脈内投与のため粘膜全層が染色される.これに加えCLEの特性もあり上皮や上皮下の細胞の情報も得られる.胃粘液により染色も妨げられないため胃やBarrett食道の観察に適している.「腺上皮での安定した染色」と「上皮下の細胞の情報」がECSよりすぐれる点である.しかし,fluoresceinの最大の弱点として核が染色されない.Optical biopsyを実現するためには核異型の診断が必須である.従来核染する蛍光色素として局所消毒薬であるアクリフラビンが知られていた.しかしこの薬剤は粘膜刺激性があり,またDNA障害も指摘されており広く臨床で使用されているわけではない.このアクリフラビンを改良した薬剤がアクリノールであり粘膜表面に散布することで核染が可能である.食道切除標本の検討ではECSと類似の画像が得られている(Figure 7) 33).またウコン色素であるクルクミンでも核染可能である 34).安全な食品が内視鏡検査へ応用できるメリットは大きく今後の発展が期待される.

アクリノール散布による食道ECS標本のCLE像.
a:正常食道粘膜.ECSと同様白色に染色された核とN/C比の低い細胞が認識される.
b:食道癌では核密度の上昇が明らかに観察される.
ECSは生体内に挿入可能な光学顕微鏡であり,様々な使用用途が今後提案されるであろう.現時点で最も有望な用途は,生体染色による生検診断の省略である.これに関して前述のごとくすでに多くの研究がなされてきた.しかしこれを臨床に応用し,内視鏡医が生検診断省略を行うには高いハードルが存在する.今まで病理医が担ってきた最終病理診断を内視鏡医がその場で判断するのかという問題である.これを解決するには教育システムを充実させる必要があるほか診断サポートシステムの開発も望まれる.近年発達がめざましいartificial intelligence(AI)によるECS診断支援システムが開発されている.Misawaらは大腸ECS検査において診断支援AIをはじめて開発し高い正診率を報告している 35).筆者らもDeep learningによる食道ECS画像の診断支援AIを開発した 36).今後AIが通常倍率での拾い上げからpit patternや微細血管構造などの弱拡大観察,ECSによる超拡大観察までをもトータルにリアルタイムにナビゲートする時代がすぐそこまでやってきている 37).
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし