GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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EFFICACY AND SAFETY OF PANCREATIC JUICE CYTOLOGY BY USING SYNTHETIC SECRETIN IN THE DIAGNOSIS OF PANCREATIC DUCTAL ADENOCARCINOMA
Yohei TAKEDA Kazuya MATSUMOTOHiroki KURUMIHiroki KODATaro YAMASHITATakumi ONOYAMASoichiro KAWATAYasushi HORIEHajime ISOMOTO
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2019 Volume 61 Issue 8 Pages 1591-1598

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要旨

【背景と目的】膵管癌(PDAC:Pancreatic ductal adenocarcinoma)は,全癌種の中で最も予後が悪いものの1つで,早期発見するのは困難である.予後を改善するためには,PDACを疑ったときに正確に診断することが必要である.超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)はPDACの診断に広く受け入れられている方法だが,その感度は85~89%であり,PDAC症例の約10%は診断できない.EUS-FNAによってPDACを診断できない主な原因は,腫瘍の大きさ,穿刺経路上に存在する血管または主膵管,および抗凝固薬の休薬困難である.膵液細胞診(PJC:Pancreatic juice cytology)は感度33.3~65.8%とされ,EUS-FNAが施行困難なPDAC症例に対する診断法である.PDACを確実に診断するためには,PJCの診断能力を向上させる必要がある.

【方法】138例の膵腫瘍および膵臓非腫瘍性疾患に対して合成セクレチンを負荷したPJCについて検討した.

【結果】合成セクレチン負荷によってPJCの感度は50.9%から74.0%に向上し,EUS-FNAで診断できなかった13例のPDACを,PJCにより病理学的に診断することができた.合併症として軽症膵炎が12例(8.7%)あったが,全例が保存的治療で改善した.

【結論】合成セクレチン負荷PJCは,PDACに対してEUS-FNAを施行困難な症例に有用である.

Ⅰ はじめに

超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)は膵管癌(PDAC)の最も有用な診断法だが,感度と陰性適中率(NPV)はそれぞれ約85~89%と65~78%にすぎない 1),2.EUS-FNAを実施できない主な理由として,(i)血管または主膵管(MPD:Main pancreatic duct)を回避するのが困難である.(ii)抗血栓薬の中止が困難である.または(iii)EUSを使用して腫瘤を描出できない.などが挙げられる.さらに,患者がEUS-FNAを受けられない地域や病院が未だ存在する.EUS-FNA全体の合併症発生率は2%と報告されており 2,これを減少させるための研究が報告されているが 3,合併症がないわけではない.合併症としては,疼痛,出血,発熱,感染症がある.まれな合併症として,急性門脈血栓症 4,腫瘍細胞の腹膜播種 5,および脾動脈の破裂性偽動脈瘤 6なども報告されている.

1968年に内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)が開発されて以来 7,膵液細胞診(PJC)はPDACを病理学的に診断するために施行されてきた 8.しかし,PDACに対するPJCの感度は33.3~65.8%と低く 9)~11,また,PJCを施行した後のERCP後膵炎(PEP)などの合併症も懸念される.ブラッシング細胞診,内視鏡的経鼻膵管ドレナージ法(ENPD),膵管洗浄液による細胞診,合成セクレチンを用いたPJCなど,PDACに対するPJCの診断能を改善するいくつかの方法が報告されている 12.1992年にNakaizumiらが,PDACの診断におけるブタセクレチンを負荷したPJCの安全性と高い感度について報告しており 13,最近では良性膵疾患の評価を目的とした合成セクレチン刺激による磁気共鳴胆管膵管造影(MRCP)について多くの報告がある 14.われわれは膵腫瘍に対し,PJCがEUS-FNAの診断能を向上させることを報告した 15),16.しかし,合成セクレチンによるPJC(S-PJC)の診断能向上についての報告は少ない 12.今回,われわれは合成セクレチンによるPDACの診断能の向上について検討した.

Ⅱ 方  法

研究デザイン

これは,単施設単群,前向き試験である.研究プロトコルは,University Hospital Medical Informationネットワークの臨床試験登録システムで入手可能である(UMIN000031492).この研究は鳥取大学医学部附属病院内の倫理審査委員会により承認されている(登録番号:2449).この研究は,ヒトを対象とした生物医学研究に関するヘルシンキ宣言に記載されているガイドラインに従って実施した.2011年5月以降,PJCを受けるすべての患者の情報を前向きにデータベースに登録した.この研究は,癌臨床研究助成基金からの助成金によって支援されている.

選択基準

次の選択基準を用いて患者を登録した:・病理学的に診断されていない,・画像によりPDACが疑われる,・20歳以上の患者.全患者から本研究に関連するすべての処置について,書面によるインフォームドコンセントを得た.

内視鏡的逆行性胆管膵管造影

本研究に参加した全患者に対して,EUS-FNAとPJCの両方を1-2日間隔で施行した(Figure 1).PJCは,側視内視鏡(JF260V;Olympus Optical Co., Ltd, Tokyo),カニューレ(M00535700;Boston Scientific Japan KK, Tokyo,またはPR-110Q-1;Olympus Optical Co., Ltd, Tokyo),親水性ガイドワイヤ(M00556051またはM00556211;Boston Scientific Japan KK, Tokyo)を用いて施行した.

Figure 1 

症例登録.内視鏡超音波ガイド下穿刺吸引生検;EUS-FNA.PDAC;膵管癌.S-PJC;合成セクレチン負荷膵液細胞診.

合成セクレチンとPJC

合成セクレチンは,研究開始時はChiRhoStim(ChiRhoClin, Inc., Burtonsville, MD, USA),2013年9月以降はSecrelux(Sanochemia, Vienna, Austria)を用いた.手技の概略として,MPDの狭窄部にガイドワイヤを用いてカニューレを通過させ,膵液をMPD内のカニューレの先端に接続された10mLの注射器を用いて5分間吸引した.その後,0.6μgの合成セクレチンを静脈内負荷し,膵液を5分間再び採取した.

細胞診

PJCは,従来のパパニコロー染色を施行した.吸引した検体は病理専門医(YH)が診断した.PJCによる悪性腫瘍の定義は,Papanicolaou分類システムによるとクラスⅢb-Vとした.

フォローアップ

最終診断は,術後病理,またはコンピュータ断層撮影(CT)画像診断で少なくとも1年の経過観察により確認した.悪性疾患のない患者は,画像検査で追跡調査された.全患者について,急性または遅発性の合併症がないか慎重に観察した.PEPの診断にはCottonの診断基準を用いた 17

検討項目

検討項目は位置,大きさ,Union for International Cancer Control(UICC)第7版による病期分類,検体採取した病変の内視鏡的特徴,検体の適性,細胞診の結果,最終診断,および手技関連の合併症とした.

評価項目

主要評価項目はS-PJCの感度とした.合成セクレチンを負荷または負荷していないPJCの感度を評価した.副次的評価項目は,S-PJCの特異度と正診率,PEP合併率,およびMPDから得られた膵液の量であった.感度に関連するさまざまな臨床的要因について,単変量および多変量解析で検討した.

統計分析

サブグループ間の診断能を,対応のあるt検定,McNemar検定,t検定,Fisherの直接検定,およびCochran-Armitage検定で比較検討した.P<0.05を有意とした.すべての統計分析は,R(オーストリア,ウィーン,The R Foundation for Statistical Computing)用のグラフィカルユーザインターフェースであるEZR(Saitama Medical Center,Jichi Medical University,日本),を用いて行った.これは生物統計学で頻繁に使用される統計関数を追加するように設計されたRコマンダーの修正版である 18

Ⅲ 結  果

合計138人の連続した膵臓病患者(108人の患者が悪性疾患[105例のPDAC,1例の腺房細胞癌,1例の内分泌腫瘍])および30人の良性疾患患者(18例の慢性膵炎と12例の自己免疫性膵炎)が,2011年5月から2016年10月までの間に参加した(Table 1).男性86人,女性52人で,年齢は43~91歳で,平均年齢は69.7歳であった.手術は悪性症例43例に対して行った.

Table 1 

膵疾患患者の特徴.

MPDから採取した膵液の平均量は,合成セクレチン負荷によって2.0±2.1mL(0-14.0mL)から3.7±2.5mL(1-15.0mL)に増加した(Table 2,P<0.001).合成セクレチン負荷前よりも負荷後の方が細胞塊が多かった(Figure 2).S-PJCにより133例(96.4%)で膵液を採取した.4例は,MPDの狭窄部にカテーテルを通すことができず,1例は採取した膵液が診断に不十分であった.

Table 2 

合成セクレチン負荷前後の採取膵液量の比較.

Figure 2 

合成セクレチン負荷前後の膵液中の細胞数の比較.

a:負荷前(パパニコロー).

b:負荷前(ルーペ観察).

c:負荷後(パパニコロー).

d:負荷後(ルーペ観察).

bおよびdにおいて,それぞれの点は細胞塊を表す.

Table 3にS-PJCの診断能をまとめた.合成セクレチンの負荷前のPJCの感度,特異度,および正診率は,それぞれ50.9%,100%,61.6%であり,一方,合成セクレチン負荷後は,それぞれ67.6%,100%,74.6%であった.両者の合計で,それぞれ74.0%,100%,79.7%に有意に増加した(感度および正診率:負荷前対負荷後,P=0.002;負荷前対合計,P<0.001)(Table 3).悪性症例に関して,正診率と性別,年齢,場所,腫瘍の大きさとの間に有意な相関はなかった(Table 4).EUS-FNAにより診断できなかったPDAC13例(血管またはMPDの回避が困難であった4例,中枢神経系または心血管系の疾患のため抗血栓薬を中止できなかった3例,EUS-FNA検体に悪性組織がなかった4例,針で穿刺することができる腫瘤がなかった2例)をPJCによって病理学的に診断した.一方,MPDの狭窄部にカテーテルを挿入し通過させることができなかった5例では,S-PJCを施行しなかった.最終的に,EUS-FNAまたはS-PJCによって悪性症例108例のうち103例(95.4%)を診断することができた(Table 5).3例は胆汁細胞診,1例は腹水細胞診,1例は肝生検によって診断した.2017年9月までの1,598±578日間,膵炎例30例を経過観察し,いずれの症例にもPDACを認めなかった.12人の患者(8.7%)がPJCによる合併症を認めたが,全員が軽症膵炎であり,全患者が保存的加療により速やかに改善した.合成セクレチンによると考えられる有害事象はなかった.

Table 3 

PJCの診断能.

Table 4 

PJCで偽陰性となったPDAC症例(n=25).

Table 5 

悪性例におけるEUS-FNAとS-PJCの結果(n=108).

Ⅳ 考  察

慢性膵炎(CP)の予後はPDACの予後よりもはるかに優れており,治療法も異なるため,PDACを慢性膵炎(CP)と鑑別することが重要である.細胞病理学的診断を膵臓腫瘍の治療前にすることが望ましい 15.EUS-FNAはその優れた精度と低い合併症率のために広く施行されてきたが,その診断能にはいくつか制限がある.本研究では,EUS-FNAで診断できなかった13例の悪性腫瘍(9.4%)をS-PJCにより病理学的に診断した.これはS-PJCの有用性を示しており,さらにEUS-FNAができない施設ではS-PJCを実施することが重要であると考えられる.EUS-FNAのNPVは65-78%と低く 1),2,結果が陰性であっても悪性腫瘍の可能性を否定することはできない.本研究では,EUS-FNAで得られた検体に悪性所見のなかった4人の患者に対して,S-PJCでPDACと診断した.画像所見でPDACが強く示唆されるがEUS-FNAで悪性所見を得られない場合には,S-PJCの施行を検討することが必要である.

これまでの報告では,膵頭部のPDAC患者の方が膵尾部のPDAC患者よりも細胞診陽性の頻度が高かった 13),19.これは,狭窄の尾側のMPD拡大が膵尾部では短いため,十分な膵液を集めることが困難であるためであると考えられてきた.この研究では,感度とPDACの部位の間に相関はなかった.膵尾部における高い感度は,MPDにカテーテルを通過させることとセクレチンを負荷することの両方から生じるように思われる.膵液の増加により,MPDの狭窄からより多くの癌細胞が剝離するのかもしれない.

ChiRhoStimの添付文書(Table 2)において,合成セクレチンの有害事象は悪心1.7%,紅潮0.4%,および腹痛および嘔吐0.5%であった 20.本研究では合成セクレチンに由来する有害事象は認めなかった.PJCの手技に関連した主な合併症はPEPであった.本研究では,12人の患者(8.7%)がPJC後にPEPを発症した.したがって,S-PJCは,EUS-FNAで診断できない場合に限定されるべきである.PEPの発症率に部位の間で差はなかった(膵頭部5/71,膵体部2/28,膵尾部4/31,びまん性1/8;Cochran-Armitage検定 P=0.336).

過去に,PDACの診断時にブタの血清セクレチンを用いたPJCが施行され,その有用性が確立されている 13.しかし,ブタのセクレチンは感染の危険性のためにほとんどの国で使用されなくなった.米国では,2004年にヒト合成セクレチン 20がFDAに承認され,その有用性が再認識された.重炭酸塩を含む膵外分泌物の刺激,膵外分泌機能障害の診断,ガストリノーマの診断のためのガストリン分泌,ERCP時のVater乳頭と副乳頭の識別を容易にするための膵外分泌において承認されている.PDACの診断時のヒト合成セクレチン使用に関する報告はほんの数例しかない 21.本研究は,PDACの病理学的診断にヒト合成セクレチンを使用することの有用性と安全性に関する最初の報告である.

本研究にはいくつかの制限がある.(i)内視鏡検査は単施設で限られた内視鏡医が施行した.(ii)単一の病理医(YH)が病理学的所見を評価した.(iii)S-PJCに先立ってEUS-FNAを実施した.検査間隔は1-2日であった.(iv)PEPに対する十分な医学的および技術的な予防対応が患者に施行していなかった.(v)合成セクレチンは日本の薬事法により承認されていない.したがって,われわれは院内の倫理審査委員会の承認を得て輸入した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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