GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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A CASE OF HEMORRHAGIC DUODENAL LIPOMA MANAGED BY AN ENDOSCOPIC VARICEAL LIGATING DEVICE
Takayuki SHIMADA Hiroaki IGARASHIMasashi KURISAKIYuki HANAOKAHiroko YAMASHITA
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2019 Volume 61 Issue 9 Pages 1650-1655

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要旨

症例は60歳の男性,黒色便と息切れを主訴に当院へ紹介された.緊急上部消化管内視鏡検査で十二指腸球部に亜有茎性で頂部に凝血塊の付着した潰瘍を有する粘膜下腫瘍を認めた.露出血管の処理にクリッピングを用いたが腫瘍の可動性のため難渋,最終的に内視鏡的食道静脈瘤結紮術(EVL)で使用しているligating deviceを用いて内視鏡的結紮術を施行し,止血を得た.3日後に十二指腸粘膜下腫瘍に対して超音波内視鏡を施行したところ,内部均一な高エコー像を認め,十二指腸脂肪腫と診断した.再出血予防のため内視鏡的に切除し,病理組織検査にて25×16×18mmの大きさの脂肪腫と診断された.本例のような出血性十二指腸脂肪腫に対する止血に内視鏡的結紮術が有用と考えられたので報告する.

Ⅰ 緒  言

十二指腸脂肪腫はまれな疾患であり,時に出血を来たすことがある.今回われわれは出血性十二指腸脂肪腫に対してEVL(endoscopic variceal ligation)デバイスで結紮術を施行した症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

Ⅱ 症  例

患者:60歳,男性.

主訴:黒色便.

既往歴:血気胸,機能性ディスペプシア,片頭痛.

内服薬:スルピリド,アコチアミド,ロキソプロフェンナトリウム水和物(頓用).

現病歴:平成30年8月朝に黒色便を認めたため他院を受診.息切れなどの貧血症状を認めたため,上部消化管出血の疑いで当院へ紹介受診となった.

入院時現症:身長180.8cm,体重65.1kg,体温35.6℃,血圧107/82mmHg,脈拍122/分 整,眼瞼結膜に貧血を認めず,腹部に理学的異常所見は認められなかった.

入院時血液検査所見(Table 1):WBC 10,800/μlと白血球の軽度上昇を認め,受診時はHb 11.8g/dl,と軽度貧血あり,BUNは42.4mg/dlと高値であったため緊急上部消化管内視鏡検査を施行した.

Table 1 

臨床検査所見.

上部消化管内視鏡所見(Figure 1):食道・胃には出血性病変を認めず,十二指腸球部下壁に約20mm大の表面平滑でやや黄色調を呈する亜有茎性隆起性粘膜下腫瘍を認めた(Figure 1-a).病変の頂部に凝血塊が付着した潰瘍を認め出血源と考えられた.凝血塊を除去したところ類円形潰瘍と湧出性出血を伴う露出血管を認めた(Figure 1-b).クリッピングでの止血を試みたが腫瘍に可動性があり,クリップを押し付けることで出血点が容易に十二指腸下行部側へ反転してしまうため止血処置に難渋した.HSE(hypertonic saline-epinephrine)局注に切り替え止血術を施行したが露出血管の処理が不十分で再出血のリスクがあると考え,吸引による腫瘍の引き込みが良好であることを確認した上でEVLデバイスを用いて結紮止血した(Figure 1-c).粘膜下腫瘍精査のため腹部造影CT検査を施行した.

Figure 1 

上部消化管内視鏡検査.

亜有茎性の粘膜下腫瘍に凝血塊が付着(a).頂部に露出血管伴う潰瘍を認め(b),結紮術にて止血した(c).再検時のEVL後潰瘍(d).

腹部造影CT所見(Figure 2):十二指腸球部に実質が脂肪組織と同じlow densityに描出される20mm大の腫瘤影を認めた.

Figure 2 

腹部造影CT.

十二指腸球部に実質が脂肪組織と同じlow densityに描出される20mm大の腫瘤影を認める.

入院後経過:入院時の内視鏡的止血術施行後の経過は良好なため第3病日より食事を開始,第4病日に経過観察および超音波内視鏡目的で内視鏡検査を施行した.EVL bandの脱落とEVL後潰瘍を確認した(Figure 1-d).病変は鉗子の圧迫にて容易にへこみ(cushion sign陽性),細径プローブ(オリンパス光学社製,UM-3R(20Mhz))を使用した超音波内視鏡では,内部均一で高エコーな充実性腫瘤を認めた.以上の所見から十二指腸脂肪腫と診断した.出血点の処理のみでは再出血の危険があると考え,ご本人とご家族へインフォームドコンセントをした上で第7病日に留置スネア補助下に内視鏡的粘膜切除術を施行した(Figure 3-a).2分割切除となったが,内視鏡的には明らかな遺残は認められなかった(Figure 3-b).

Figure 3

a:内視鏡切除時 十分に局注をした上で根部に留置スネアをかけ,EMRで切除した.

b:内視鏡切除後 2分割切除となったが,内視鏡的には明らかな遺残は確認できない.

病理組織学的検査(Figure 4):腫瘍は25×16×18mmの粘膜下腫瘍で割面は黄色調,充実性で均一であった.腫瘤の1箇所に正常粘膜が欠落した潰瘍を認めた.病理組織像では十二指腸粘膜下組織内に成熟した脂肪組織が増生しており,脂肪腫と診断した.

Figure 4 

ルーペ像.

腫瘤の一部に正常粘膜が欠落した潰瘍を認める.粘膜下層に脂肪細胞の増生を認める.

術後経過:その後は合併症なく経過し,第13病日に退院となった.同年10月(2カ月後)に内視鏡治療後の内視鏡検査を施行したところ,治療後瘢痕を確認し,明らかな再発は認められなかった.

Ⅲ 考  察

十二指腸脂肪腫は比較的まれな疾患とされており,十二指腸良性腫瘍のうち2.9%と報告されている 1.消化管脂肪腫の発生部位としても十二指腸は3.3%で頻度が低い 2とされている.診断に際して妹尾ら 3は,内視鏡的所見で表面平滑で黄色調を呈し,圧迫によりcushion signを示すことが特徴的であると述べている.日野ら 4は,質的診断としてCT検査と超音波内視鏡検査が有用であり,CT検査ではCT値-40~-120HUの脂肪のdensityと一致すること,超音波内視鏡検査にて内部がhyperechoic massとして描出されることで診断できると述べている.十二指腸脂肪腫の特有な症状はないが,まれに出血を来たすことがある.Michelら 5は,十二指腸脂肪腫の切除例218例中12例(5.5%)に消化管出血を認めたと報告している.また,大橋ら 6は,85症例中5例(5.9%)が大量出血を認めたと報告している.出血に至る要因として,腫瘍の増大に伴い,消化管内容物による牽引力や腸管の蠕動運動による伸展が加わり,粘膜の圧迫萎縮が生じることで表面にびらんや潰瘍が形成されるためと考えられている 7

出血性十二指腸脂肪腫に対する内視鏡的止血術の報告は少ない.出血性十二指腸脂肪腫の報告について,「十二指腸脂肪腫」,「出血」をキーワードに医学中央雑誌,メディカルオンラインとPubmedにて検索した結果,1948年から2018年までに自験例も含めて44例あり,そのうちで緊急内視鏡的止血術を施行した症例は10例 8)~16であった(Table 2).止血方法についてはクリップによる止血が3例 8)~10,内視鏡的切除が3例 11),15),16,留置スネアによる絞扼に加えて内視鏡的切除した症例が1例 12,HSE局注による止血が1例 13,1例は止血術の記載がなかった 14.本例では,クリップによる止血を試みたが可動性が良く正面視が困難であった.フードを装着して正面視可能となるもクリッピング時にうまく力が伝わらず反転してしまうため,最終的にEVLデバイスを使用して完全な止血を得ることができた.出血性十二指腸脂肪腫に対してEVLデバイスを用いて止血した報告はわれわれが検索した限りでは認められなかった.

Table 2 

緊急内視鏡止血術を要した出血性十二指腸脂肪腫.

EVLは1986年Stiegmannらによって開発された機械的に静脈瘤を荒廃させる治療法であり 17),18,簡便で副作用の少ないことから一般に普及している.近年,その簡便性から静脈瘤治療以外の病変に対するEVLの手技を用いた内視鏡的止血例の報告が散見されるようになった 19)~21.従来のクリップ法等と比較して,本止血法の長所は,1)出血巣を点でなく直径10mmの円形の面としてとらえられるため,結紮部位に多少のずれがあっても止血に大きな影響がなく,出血部位が正確に同定できなくてもそれが10mmの円形の面内にあれば,止血可能である,2)接線方向に近く正面視が困難な出血巣でも,結紮用シリンダーの使用により正面視が容易になり,吸引を併用することで止血可能である,3)表層が脆弱な出血性病変であっても吸引により血管周囲の組織と共に深部のしっかりした血管を結紮できるので,確実な止血が可能である,4)血管とその周囲組織にかかったEVL bandは安定性が良く,周囲からの物理的な力に対してはずれにくいことなどである 17),18.本症例は出血源である露出血管の正面視が困難で他の止血法が不成功であったこと,脂肪腫の柔らかい性質のため結紮可能であったことからEVLの適応と考えられた.第4病日には既にEVL bandが脱落していたが,結紮部位からの再出血は認められなかった.

高橋ら 22は出血を伴う十二指腸脂肪腫の治療については外科切除または内視鏡的ポリペクトミーを行うこととしている.Yuら 23は,穿孔や出血などの危険性を最小限にするために,内視鏡的切除の適応を可動性のある直径2cm以下の基部をもつポリープ上の粘膜下病変にとどめている.本症例は20mm大の亜有茎性の十二指腸脂肪腫であり,CT検査では腫瘍が漿膜側に突出しておらず,脂肪腫に接している十二指腸壁の厚みからは筋層や漿膜が十分保たれていることが予想されたため,切除時に局注を十分に行うことで穿孔は予防できると判断し,EMRを選択した.また,今回は脂肪腫からの再出血を予防する目的で切除しており脂肪腫の完全切除を目的としていないため,断端陽性となる可能性は否定できなかったが,EMRで治療を行った.われわれが検索した限りでは大量出血を伴う十二指腸脂肪腫に対する緊急手術の報告はないが,緊急内視鏡切除術は4件報告 11),12),15),16されている.本例では出血性十二指腸脂肪腫に対してEVLによる確実かつ有効な止血を得たため,リスクの高い緊急内視鏡切除術や緊急手術を避けることができた.

Ⅳ 結  語

われわれは出血性十二指腸脂肪腫に対し,EVLデバイスを使用し緊急内視鏡止血術に成功した.今後同疾患に対して,特に可動性に富む腫瘍の場合はEVLによる治療も考慮すべきである.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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