GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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A CASE OF NON-POLYPOID COLON GANGLIONEUROMA
Katsuaki INAGAKI Shiro OKAKenta MATSUMOTOKen YAMASHITAKyoku SUMIMOTOYuichi HIYAMAYuki NINOMIYAKoji ARIHIROShinji TANAKAKazuaki CHAYAMA
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2019 Volume 61 Issue 9 Pages 1663-1669

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要旨

症例は39歳,女性.CA19-9上昇精査のため施行された大腸内視鏡検査で,上行結腸に境界不明瞭な径40mm大,粘膜下腫瘍様の隆起性病変を認めた.表面は非腫瘍性のpit patternを呈し,超音波内視鏡検査では第2〜4層にかけて壁肥厚を伴う低エコー腫瘤として描出された.診断的治療目的に腹腔鏡下回盲部切除術を施行した.病理組織学的には粘膜固有層から漿膜下にかけて神経線維と紡錘形細胞がびまん性に増殖し,内部に大型の神経節細胞が散見され,神経節細胞腫と診断した.Neurofibromatosis-Ⅰや多発性内分泌腫瘍症候群に合併しない大腸神経節細胞腫は稀で,その中でもびまん性増殖を呈するものはさらに稀であり,今後さらなる症例の蓄積が必要である.

Ⅰ 緒  言

神経節細胞腫は交感神経系腫瘍のうち最も分化度が高い良性腫瘍である 1.好発部位は縦隔,後腹膜,副腎などで,消化管に発生することは稀である 2.消化管に発生する場合はNeurofibromatosis-1(NF-1,いわゆるvon Recklinghausen病)や多発性内分泌腫瘍症候群(multiple endocrine neoplasm;MEN)に合併する頻度が高いと報告されている 3

今回,われわれはNF-1やMENを合併しない上行結腸に生じた神経節細胞腫の1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

Ⅱ 症  例

症例:39歳,女性.

主訴:腫瘍マーカー上昇の精査(自覚症状なし).

家族歴:特記事項なし.

既往歴:特記事項なし.

現病歴:2016年10月にCA19-9の上昇を指摘され紹介医を受診し,大腸内視鏡検査で上行結腸に隆起性病変を指摘された.2017年3月精査加療目的に当科を紹介受診した.

現症:身長155.4cm,体重42.7kg,血圧98/66mmHg.皮膚に色素沈着や腫瘤を認めず,その他特記所見なし.

血液検査所見:CA19-9が85U/mlと上昇を認めた他は特記所見を認めなかった.

注腸X線検査(Figure 1):上行結腸の回盲弁より1ひだ肛門側に径40mm大の境界不明瞭な隆起性病変として描出された.

Figure 1 

注腸検査.

上行結腸,回盲弁より1ひだ肛門側に隆起性病変を認めた(→).

CT検査,PET-CT検査:大腸に明らかな腫瘤やPET集積異常は認めなかった.

大腸内視鏡検査:通常内視鏡観察では,上行結腸に表面平滑で正色調の径40mm大の隆起性病変を認めた(Figure 2-a).病変はひだにまたがって存在し,立ち上がりはなだらかで境界不明瞭であった.NBI(narrow band imaging)併用拡大観察(Figure 2-b),インジゴカルミン散布(Figure 2-c)でも病変の境界は不明瞭であった.インジゴカルミン散布,クリスタルバイオレット染色による色素拡大観察では,病変の表面全体が非腫瘍性pitを呈し,窩間部の開大を認めた(Figure 2-d).超音波内視鏡検査(20MHz 細径プローブ)では,第2〜4層にかけて壁肥厚を伴う低エコー腫瘤として描出された(Figure 2-e).

Figure 2 

内視鏡所見.

a:通常内視鏡像.上行結腸に表面平滑で正色調の径40mm大,隆起性病変を認めた.病変はひだにまたがって存在しており,粘膜下腫瘍様の立ち上がりで,病変の境界は不明瞭であった.

b:NBI像.病変の表層は非腫瘍性のpit様構造を呈していた.

c:インジゴカルミン散布像.病変の表層全体が非腫瘍性pitを呈しており,窩間部の開大を認めた.

d:クリスタルバイオレット染色像.インジゴカルミン散布像と同様の所見であった.

e:超音波内視鏡像.第2〜4層にかけて壁肥厚を伴う低エコー腫瘤として描出された.

病変より生検を行うも確定診断に至らず,消化管間質腫瘍,神経原性腫瘍,粘膜下腫瘍様の形態を呈する癌などを鑑別に挙げ,診断的治療目的で腹腔鏡下回盲部切除術(D2郭清)を施行した.

病理組織学的所見(Figure 3):粘膜固有層から漿膜下にかけて神経線維と双極性細胞がびまん性に増殖しており,内部に大型の神経節細胞が散見された.S-100蛋白,synaptophysinが免疫染色陽性であった.以上より神経節細胞腫と診断した.

Figure 3 

病理組織学的所見.

a:粘膜固有層から固有筋層にかけて神経線維と双極性細胞がびまん性に増殖しており,一部で漿膜下まで増殖していた(点線の範囲内).また,過形成腺管の粘膜下層への増生も認めた(ルーペ像).

b,c:神経節細胞(○)が散見され,その周囲に神経線維と双極性細胞を認めた(b:HE染色弱拡大像,c:HE染色強拡大像).

d:腫瘍は免疫染色にてS-100蛋白陽性であった(S-100染色強拡大像).

術後経過:手術後の経過は良好で,合併症なく第11病日に退院となった.

Ⅲ 考  察

神経節神経腫は,病理組織学的には「成熟神経細胞および線維から発生する良性腫瘍で,神経節細胞が集簇的あるいは単独にみられ,その間に豊富な神経線維,Schwann細胞などが増生している腫瘍で神経芽細胞を含まないもの」 4と定義されている.好発部位は縦隔(39%),後腹膜(30%),副腎(22%),頸部(8%)とされ 2,NF-1やMEN(特にType2b)との合併例が多い 5.消化管発生例は,腸管の固有筋層および粘膜下層にあるAuerbach神経叢や粘膜下層のMeisner神経叢が発生母地と考えられている 6.ただし,腫瘍が粘膜固有層に限局している場合もあり,粘膜固有層には神経節細胞を認めないことより,その発生母地は胎生期に粘膜に迷入したembryonalneurocyteが考えられている 7

神経節神経腫は臨床症状に乏しく偶然発見されることが多いが,腫瘍の増大に伴う圧迫症状としての腹痛,腰背部痛などの有症状例が報告されている 8.また,約10%程度にカテコールアミンまたはその代謝産物の異常を伴うとされ 9,下痢,多汗,高血圧などの症状で発見された症例も報告されている 10.自験例も特記すべき臨床症状はなく,CA19-9上昇の精査目的の大腸内視鏡検査で偶然指摘された.大腸疾患では大腸癌の他に,虫垂炎や憩室炎でもCA19-9の上昇を認めたという報告があり,機序としては炎症や腸管内圧上昇により大腸粘膜に存在しているCA19-9の血中への逸脱が生じたと報告されている 11),12.検索し得た範囲では,神経節細胞腫にCA19-9上昇を伴った報告はないが,腸管内圧上昇等の機序により腫瘍がCA19-9の上昇に関与していた可能性も考えられた.

消化管の神経節細胞腫は3つの亜分類が提唱されている 13.①主に粘膜下層以深にtransmuralに発育する境界やや不明瞭で,高率にNF-1やMENを合併するDiffuse ganglioneuromatosis,②粘膜固有層でのみ増殖するためpolypoidの形態を呈し,複数個〜無数に発生するganglioneuromatous polyposis,③粘膜固有層を中心に発育し,左半結腸ないし直腸に多く発生するpolypoid ganglioneuroma である.③はNF-1やMENに進展ないし合併することはないとされる.自験例では,腫瘍は粘膜固有層から漿膜下へびまん性に増殖しており,発育様式はDiffuse ganglioneuromatosisに最も近いと考えられた.

大腸において粘膜下腫瘍様の形態を呈する疾患は様々あるが,日常遭遇する頻度が高いのは,脂肪腫,リンパ管腫,神経内分泌腫瘍などである.神経節細胞腫は,被膜に包まれていないため辺縁が不明瞭であることが特徴的所見とされている 14.Polypoid型の場合,腫瘍は主に粘膜固有層を中心に存在し進展するため,上皮下腫瘍の形態を呈する腫瘍,脂肪腫,神経内分泌腫瘍,顆粒細胞腫などが鑑別となる 15.一方,非polypoid型の場合,粘膜下層以深にtransmuralに発育し境界やや不明瞭な形態を呈するため,立ち上がりがなだらかな筋原性腫瘍や消化管間質腫瘍などが鑑別に挙がる.

1979年から2018年までの医学中央雑誌でキーワード「神経節細胞腫」「大腸」で検索した範囲では,NF-1やMENを合併しない大腸神経節細胞腫は自験例を含め28例の報告を認めるのみであった.そのうち会議録を除くと検索し得た中では自験例を含め報告は14例であった(Table 1 14)~26.年齢は2〜71歳と幅広く,性別は男性で多くみられた.腫瘍径は径2〜40mmと様々で,局在に特徴は認めなかった.形態は,14例中11例がpolypoid ganglioneuromaで,14例中2例がpolyposis ganglioneuromaであった.非polypoidの形態を呈した報告は自験例以外なく,検索し得た範囲では会議録に記載されている1例 27のみであった.Polypoidの症例では,1例を除き病変の主座は粘膜固有層,粘膜固有層〜粘膜下層であったが,1例は粘膜〜漿膜であった 20.非polypoidの1例は粘膜固有層〜漿膜下にかけて腫瘍の増殖を認めていた 27.自験例は,腫瘍が粘膜固有層〜漿膜下にかけてびまん性に増殖しており,病変が径40mm大と大きく,形態は非polypoidを呈していることが特徴的であった.Polypoid症例の1例で超音波内視鏡検査が施行されており,病変の主座である第2〜3層にかけて低エコーを呈する壁肥厚像として描出されていた.粘膜下層以深にtransmuralに発育するdiffuse typeでは粘膜下層以深へ広範囲に広がる低エコー像が超音波内視鏡検査の特徴と考えられた.また,生検が施行された7例のうち4例が神経節細胞腫と正診されていた.自験例においても,粘膜固有層にも腫瘍が存在していたことからボーリング・バイオプシーや異なる箇所から複数箇所の生検を行っていれば診断できた可能性があった.また,これまでの報告では内視鏡的超音波ガイド下穿刺術が施行された症例はないが,自験例は深部大腸に存在することもあり,内視鏡的超音波ガイド下穿刺の適応は困難であった.

Table 1 

NF-1や MEN合併のない大腸神経節細胞腫報告例(会議録を除く).

神経節細胞腫は良性腫瘍であるため,症状がない例は内視鏡診断や生検で確定診断が付けば原則経過観察でよい 14.ただし,他臓器での発生例ではあるが,腫瘍内に褐色細胞腫や悪性末梢神経腫の発生例や再発・悪性転化例もあるため 28)~31,慎重に経過観察する必要があると考えられた.

Ⅳ 結  語

びまん性に増殖する発育様式を呈した,NF-1やMENを伴わない大腸神経節細胞腫の1例について文献的考察を加えて報告した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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