2019 Volume 61 Issue 9 Pages 1683-1690
経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG)は一般的な治療手技となっているが,時に横行結腸や腸間膜が障害となり予期せぬ誤穿刺や施行不能となる.PEG施行前にCT検査をすることはこのような障害物の検出に有用であり,われわれのPEG前CTの経験から,左側臥位で胃内に空気を注入することが障害の解消とC-PEG(大腸内視鏡補助下経皮内視鏡的胃瘻造設術)対象者の絞り込みに望ましいと考えられる.CTで胃の腹側に横行結腸や腸間膜が介在する場合には,大腸内視鏡によって胃に重なる横行結腸を足側に移動させPEGが可能となる(C-PEG).当院で2006年から2017年の間にPEG前にCTを施行した症例は426例あった.そのうちCTによって38例をC-PEGの適応と判断し,うち37例にC-PEGを施行できた(成功率97.4%).本稿では,われわれのC-PEGの取り組み方と術前CT検査を含めた実際の方法を紹介する.
経皮内視鏡的胃瘻造設術(Percutaneous Endoscopic Gastrostomy:PEG)は1979年にGauderer,Ponskyらによって開発された 1),2).経口摂取困難な患者に対してその安全性と簡便性が認識され,本邦において広く普及している.手技的に決して高度な内視鏡技術を必要とするものではないが,PEGの対象者が高齢で低栄養状態であることが多く,ハイリスク症例に合併症を併発した場合重篤な転帰をたどる場合もまれではない 3).よってPEGを施行する場合は,より確実で安全にできるような工夫が必要である
術後胃,胃の位置異常,胃と他臓器の位置関係によってはPEGが困難な場合があり,他臓器を誤穿刺することもある.その一つが胃の腹側に横行結腸や腸間膜が介在する場合である.本稿ではそのような症例を術前のCTにより適切に予測し,介在症例に対してわれわれが施行している大腸内視鏡補助下経皮内視鏡的胃瘻造設術(Colonoscopy-assisted Percutaneous Endoscopic Gastrostomy:C-PEG)の実際について,著者らの経験や文献的考察を基に述べる.
PEG施行時,胃と腹壁の間に横行結腸が介在している場合,横行結腸を誤穿刺することがあり,その頻度は0~1.33%との報告がある 4)~8).それらは術前に横行結腸の介在の予測がつけば防ぐことができた可能性がある.そのような症例をあらかじめ予測するには術前のCTが有用と報告されており 9),10),術前CTにて横行結腸の介在を認めて通常のPEGを中止した症例は3.1~9.5%との報告がある 10)~12).上野ら 13)は,通常のPEGを施行した53例と同時期に,通常のPEGが不可能と判断し腹腔鏡下経皮内視鏡的胃瘻造設術(Laparoscopy-assisted Percutaneous Endoscopic Gastrostomy:L-PEG)を施行した症例が15例あったが,このうちの6例で実際に胃の前面に大腸,大網を認めたと報告している.
横行結腸を誤穿刺した場合,多くの場合は症状なく経過し,カテーテル交換時に先端が横行結腸内へ留置されることにより交換後突然の下痢が発症し発見されることが多いとされている.腹膜炎はほとんど起きないとされているが,瘻孔感染や瘻孔からの便汁の排泄を認めたりすることがある 6),14),15).このような合併症は保存的治療により改善することもあるが,侵襲を伴う開腹手術が必要となることもある 15)~19).
また,イルミネーションテスト(腹壁から内視鏡の透過光を確認する)と指サイン(指を腹壁に押し当て内視鏡下に胃壁の圧排が鮮明に見える)が認められても,腸間膜が介在していることがあり気付かずに誤穿刺することがある.腸間膜には結腸を栄養する血管が走行しており,血管を損傷した場合大出血や腸管の虚血を生じたりすることがある.また,腸間膜は脂肪組織が豊富であるため,胃と腹壁の間に介在することにより穿刺直後には問題なくても瘻孔が脆弱となり,胃瘻チューブ交換時に腹腔内逸脱などを起こす危険性があると報告されている 20).
上記のような合併症を防ぐためにPEG前のCT検査は有用であり,横行結腸や腸間膜が介在していると判断した場合,大腸内視鏡を併用し横行結腸をたわませ足側に移動させることにより誤穿刺を回避しPEGが可能と報告されている 12),21).しかし,大腸内視鏡を併用することはやや煩雑となるため,なるべく適応症例を絞り込むことが望ましい.
当院で2006年から2017年の12年間にCT検査後PEGを施行した症例が426例あった.CTの撮影方法は,初期の頃は胃に空気を注入しないで施行した(A群とする)(Figure 1).しかし,この場合胃が収縮した状態であり,PEG施行時の空気で胃を膨らませた状態と異なる.よって,CT撮影時も実際のPEG施行時と同じような状態にすることが必要と考え,後半は空気で胃を膨らませて撮影した.あらかじめ経鼻胃管が挿入されている場合は,CT室にて仰臥位で経鼻胃管より約500mLの空気を注入した直後に撮影した(B群とする)(Figure 2).経鼻胃管が挿入されていない場合は,上部消化管内視鏡検査を施行しイルミネーションテストや指サインを確認した直後,空気で胃を膨らませた状態で撮影した(C群とする)(Figure 3).その後CTの画像より胃の腹側に横行結腸や腸間膜が介在し(Figure 1,2),通常のPEGでは横行結腸や腸間膜を誤穿刺したり,PEGが施行できない可能性が高いと判断した場合をC-PEGの適応とした.
胃の腹側に横行結腸が介在する症例の腹部X-PとCT像(A群).
腹部X-Pで横行結腸が上腹部を横切っており,CTにて胃の腹側に横行結腸が認められる.
胃の腹側に腸間膜が介在する症例のCT像(B群).
aは胃の腹側に横行結腸が認められている.
bはそのやや足側の横断像であるが,胃の腹側の一部(矢印)には介在臓器がないように見える.
c,dは同症例の冠状断と矢状断であるが,胃の頭側を横行結腸が横切っており,dで胃の腹側の一部(矢印)には介在臓器がないように見える.このような症例は,胃の頭側を横行結腸が横切っており,胃の腹側に腸間膜が介在していると考えられる.
通常のPEG可能な症例のCT像(C群).
結果をTable 1に示した.統計学的解析はχ2検定を用いた.
各群間の比較.
C-PEGの頻度は,A群で15.3%,B群で8.0%,C群で3.9%であった.A群に比較してB,C群が低率であった理由は,空気で胃を膨らませると,圧排により横行結腸が下方に移動する症例が少なからず存在するためと考えられた.よって,胃が収縮した状態は,実際にPEGを施行する胃を膨らませた状態と異なり,A群でC-PEGを施行した中には通常のPEGが可能であった症例が含まれていると考えられた.飯利 22),中谷ら 23),渡邊ら 24)も,CTを撮影する場合胃を空気で拡張させた状態が有用と報告している.また,B群に比較してC群でC-PEGの適応とした割合は低率であった.今里ら 20)は,仰臥位で胃に送気すると横行結腸が胃前面に移動しやすいが,左側臥位で胃に送気してから仰臥位にすると,横行結腸が胃の足側に移動しやすく,穿刺部位を得やすいと報告している.当院で,B群は仰臥位で胃に送気しており,C群は上部消化管内視鏡検査を左側臥位で施行した後仰臥位でCTを撮影した症例が多く,そのためにC群でC-PEGを必要とした割合が低かったと考えられた.よってB群でも左側臥位で胃に空気を注入した後仰臥位でCTを撮影していれば,C-PEGの適応症例を少なくできたのではないかと考えられた.
以上より,PEG前のCTの撮影方法は,経鼻胃管が挿入されていない場合,左側臥位にて内視鏡を挿入し空気で胃を膨らませ観察したのち,仰臥位にして撮影するのが望ましいと考えられた.また,経鼻胃管が挿入されている場合,内視鏡を挿入するために胃管を一旦抜去し検査後再挿入せざるを得ないわずらわしさを考慮すると,内視鏡を挿入せずに左側臥位で胃管より胃内に空気を注入したのち仰臥位にして撮影しても良いように思われた.
そして,実際にPEGを施行する場合も,最初から仰臥位で内視鏡を挿入するのではなく,左側臥位で内視鏡を挿入して胃を膨らませたのち仰臥位とし穿刺することにより,横行結腸と腸間膜の介在を少なくすることができると考えられた.なお,必要以上に送気を行うと胃の後壁から前壁側への回転が促され,それに伴う横行結腸のoverlapが引き起こされたり,空気が小腸へと流入し下腹部が膨隆することで横行結腸の押し上げが生じ,胃の腹側に横行結腸が移動してくることがあり注意が必要と報告されている 25),26).
当院で2006年から2017年の12年間にPEG前にCT検査を施行し,その結果C-PEGの適応と判断し試みた症例はA,B,C群合わせて38例あった.このうち37例は成功したが,1例は横行結腸を足側に移動できず胃との重なりを解除できなかったため断念した.この症例は腹部手術の既往があり,腹部正中に手術瘢痕が存在し,おそらく癒着があったために横行結腸を足側に移動できなかったと思われた.この症例に対しては経皮経食道胃管挿入術(Percutaneous Transesophageal Gastro-tubing:PTEG)を施行した.C-PEGを施行した症例のうち,術後のCTとその後の経過により他臓器を穿刺した症例は確認されなかった.
C-PEGを施行する際の前処置であるが,通常の大腸内視鏡検査時に使用する腸管洗浄剤は嘔吐により誤嚥性肺炎を起こす危険性があると考え使用していない.また,C-PEGの場合大腸内を詳細に観察する必要はないと考え,残便があっても内視鏡を挿入するのに支障がなければ問題はないとし,当院ではPEG前日ピコスルファートナトリウム10mL 1本投与し,当日浣腸を数回施行して行っている.なお,全例透視室で施行しており,穿刺時透視による確認をしている.内視鏡システムは2台必要であり,1台は上部消化管内視鏡用として患者の左側に設置し,もう1台は大腸内視鏡用として患者の足側に設置している.大腸内視鏡は先端が上行結腸に入る辺りまで挿入し,内視鏡に左回転をかけながら押し込み横行結腸をたわませる.横行結腸を足側に移動させ胃と横行結腸や腸間膜の重なりを解除できればPEGが可能となる(Figure 4).C-PEG施行時必要な医師数は,上部消化管内視鏡施行医,大腸内視鏡施行医,穿刺施行医それぞれ1名ずつの計3名が望ましいが,最低2名でも可能である.2名で施行する場合は,大腸内視鏡を挿入し横行結腸をたわませた状態にした後,内視鏡のアングルをロックし,そのままの状態で内視鏡を検査台上に置く.その医師が上部消化管内視鏡を挿入することで2名の医師で行うことも可能である.
C-PEG施行時(横行結腸をたわませた時)のX-P像.
また,PEG施行後にもCTを撮影し,他臓器穿刺の有無等を確認している.
C-PEGを施行する際に通常の大腸内視鏡挿入法と異なる点は,横行結腸をたわませることが必要とされることである.通常の大腸内視鏡挿入法ではS状結腸や横行結腸をなるべくたわませないように挿入することが必要とされ,その場合内視鏡に右回転のトルクをかける場合がある.しかし,C-PEGで横行結腸をたわませる場合は,内視鏡に左回転のトルクをかけて押し込むことが必要である.通常の内視鏡挿入法では途中がたわまない方が挿入しやすいため,内視鏡のシャフトのこし(硬度)は強い方が挿入しやすいと考えられる.しかし,横行結腸をたわませる場合はシャフトのこしが弱い方が良く,当院ではC-PEGを施行し始めた頃よりオリンパス社のCF-230Iを使用している.上記の機種は使用頻度が多かったためと思われるが,シャフトのこしが結構弱くなっており,当院で使用できる内視鏡で最もこしが弱いため,最近もC-PEGを施行する時のみであるが使用している.内視鏡を選択する場合,それぞれの施設にあるこしの弱い内視鏡を使用(たとえば細径の内視鏡や,硬度可変機能付きであれば硬度が最も弱い状態で施行するなど)するのが良いと思われる.
また,基本的にsliding tubeを使用し,SD junctionを超える辺りまで挿入している.sliding tubeを使用せずにシャフトのこしの弱い内視鏡で左回転のトルクをかけながら押し込むと,S状結腸がたわみやすくなる.S状結腸がたわむと横行結腸をたわませることが困難となるためである.Figure 5はsliding tubeなしにC-PEGを施行した症例である.Figure 5-aは通常に内視鏡を上行結腸まで挿入した状態であり,胃と横行結腸が重なっている.Figure 5-bは内視鏡に左回転をかけて横行結腸をたわませた状態であるが,S状結腸もたわんでしまい,胃と横行結腸の重なりは解除できたが苦労した症例である.Figure 6-aはsliding tubeを使用して横行結腸をたわませた状態である.sliding tubeを使用するとS状結腸がたわまないため,横行結腸をたわませやすくなる.その後胃に送気して,胃と横行結腸の重なりが解除できたことを確認し(Figure 6-b),PEGを施行した.なお,S状結腸に憩室が多発している症例はS状結腸の管腔が細かったり,可動性が悪かったりすることがあり,sliding tubeを挿入する際に抵抗を感じる場合は,腸管損傷を起こす危険性もありsliding tubeを使用しない方が無難と思われる.また,癒着などがあることによりsliding tubeを挿入してもS状結腸のたわみを解除できない場合,その状態で内視鏡を押し込むと強く屈曲する部位が生じ腸管損傷を起こす危険性があり,透視化で確認し十分注意して行う必要がある.
Sliding tubeなしでC-PEGを施行した画像.
Sliding tubeを使用しC-PEGを施行した画像.
また,癒着等がなくても症例によっては横行結腸をたわませることが困難な場合がある.そのような場合,痩せている方であれば横行結腸を通過している内視鏡を指で触れることができ,透視下で確認しながら指で内視鏡を下方に押し下げることでたわませることができる場合もある.
このようにしてC-PEGが成功すれば,その後の管理は通常のPEGと同様であり,PEGの交換をする際も通常の交換と全く同様に行うことが可能である.
胃の腹側に横行結腸や腸管膜が介在し通常のPEGが困難な場合,当院ではC-PEGを第一に施行しているが,それ以外の方法として,開腹下胃瘻造設術,L-PEGやPTEGの選択肢もある.開腹下胃瘻造設術は全身麻酔が必要とされることが多く,全身状態不良の症例にはリスクを伴いあまり望ましくないと考えられる.L-PEGは,全身麻酔が困難な高リスク症例に局所麻酔で施行可能であるが,鎮静剤使用において術中の安静が保てない場合は通常のPEG以上に有用ではないと報告されている 13).また,L-PEGを施行できるのはほとんどが外科の医師と考えられ,腹腔鏡ができる施設に限られる.PTEGは,胃の腹側に横行結腸や腸管膜が介在している症例のほかに,腹腔内の癒着が強い症例,胃切除後の症例,多量の腹水がある症例などにも施行可能であるが,通常のPEGに比較してチューブを抜去される可能性が多かったり,ルートが長いため詰まりが起きやすく,その予防と適切な交換が必要となる 27).
上記のようないずれの方法も,胃の腹側に横行結腸や腸間膜が介在するPEG困難例に対して,その適応を拡大することが可能であり,それぞれの施設の状況によって安全性,確実性を考慮し選択することが必要と考える.
今回は,われわれが施行しているPEG前CTの適切な撮影方法と有用性,C-PEGの実際について説明したが,これが皆様の参考になれば幸いである.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし