GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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A CASE OF COMPLETE HYPOPHARYNGEAL OBSTRUCTION AFTER BONE MARROW TRANSPLANTATION THAT WAS SUCCESSFULLY TREATED BY ENDOSCOPIC INCISION AND DILATION WITH THE BILATERAL APPROACH
Takefumi MIYAZAKI Tomoyuki OIKAWATetsuya NOGUCHIWataru IWAITakahiro SUGAIYuta WAKUIHiroki AIZAWAMakoto ABUEKiyoshi UCHIMIShinichi SUZUKI
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2020 Volume 62 Issue 1 Pages 34-38

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要旨

症例は,再生不良性貧血に対する骨髄移植後の58歳,女性.嚥下困難を主訴に当科に紹介となった.内視鏡検査にて下咽頭完全閉塞と診断し外科的胃瘻造設術が施行された.その後,全身麻酔下に佐藤式彎曲型喉頭鏡による喉頭展開も併用した経口内視鏡,経胃瘻的内視鏡双方向からの内視鏡アプローチを用いて内視鏡的切開拡張術を行い,嚥下可能となり良好な経過を得た.双方向的内視鏡アプローチは侵襲も少なく有用と考えられる.

Ⅰ 緒  言

近年,内視鏡的咽喉頭手術endoscopic laryngo-pharyngeal surgery;ELPSを始めとした頭頸部領域の低侵襲治療や観察,診断に消化器内視鏡医が関わる場面が増えてきている 1),2.今回,われわれは,骨髄移植後に生じた下咽頭完全閉塞に対し,喉頭展開下の経口内視鏡と経胃瘻的内視鏡を併用した双方向的アプローチによって,内視鏡的切開拡張術による再疎通に成功した症例を経験したので報告する.

Ⅱ 症  例

症例:58歳女性.

主訴:嚥下困難.

既往:間質性肺炎,再生不良性貧血.

家族歴:特記事項無し.

現病歴:2013年より再生不良性貧血の診断にて当院血液内科にて通院加療を行っていた.骨髄移植の適応があり,2016年6月に同種骨髄移植を施行した.移植後,高度の口内炎および咽頭炎を発症し,咽頭痛が高度で嚥下困難となり中心静脈栄養管理となった.その後全身状態,咽頭痛は徐々に改善したが嚥下困難が持続し同年7月に当院頭頸部外科の嚥下外来に紹介となった.嚥下造影では造影剤の流出が確認できず,高度の狭窄が疑われ内視鏡的バルーン拡張術の目的で当科に紹介となった.高度の狭窄を予想していため,先端フードを装着し観察を行った.両側の梨状陥凹は瘢痕様の変化は認めるものの食道入口部の同定ができず,透視下でガイドワイヤーの通過も試みたが不可能であった.CT画像にて消化管のガス像の消失を認め下咽頭の完全閉塞と診断した.

狭窄長が不明であることから頭頸部外科による外科的なアプローチは困難と判断した.このため,まず外科的に胃瘻を造設し栄養ルートの確保を行うとともに,全身状態の改善を待って経胃瘻的に内視鏡を行い閉塞部の評価を行う方針とした.同年11月に全身麻酔下に開腹胃瘻造設術を施行し胃瘻カテーテル(イディアルボタン24Fr,Olympus)を挿入した.その後栄養状態は改善したものの唾液の嚥下も不能な状態が続いていた.

胃瘻部の安定化を待ち,2017年4月閉塞部の評価を目的にX線透視下に経胃瘻的内視鏡検査を施行した.まず胃瘻カテーテルを抜去し,胃瘻より細径内視鏡(GIF-XP290N,Olympus)を挿入し逆行的に咽頭閉塞部を同定した.鎮静下での処置であったが,閉塞部近傍へ挿入すると反射,体動が強く,詳細な観察は困難であった.透視画像での下咽頭の空気像,経胃瘻的内視鏡からのガストログラフィンによる造影所見(Figure 1)より狭窄長は長くとも2cm程度と推定された.外科的アプローチも可能と考えられたが,まずは喉頭展開と内視鏡観察による閉塞部の評価が必要と考えられ,侵襲の少ない内視鏡的切開拡張術の施行も検討することとなった.実施にあたっては,患者に出血や穿孔などの偶発症のリスクについても十分な説明を行い同意を得た.

Figure 1 

経胃瘻的内視鏡からの造影像(黄両矢印が推定の狭窄長).

同年7月に全身麻酔下に観察,治療を行った.まず頭頸部外科医が佐藤式彎曲型喉頭鏡にて喉頭展開を行ったところ,下咽頭は完全に閉塞していた(Figure 2).その後内視鏡医が経胃瘻的に細径内視鏡を逆行性に食道に挿入し,閉塞部を同定した.経口からも内視鏡(GIF-Q260J,Olympus)を挿入し,双方向の内視鏡からの透過光,内視鏡から出した鉗子による触診により距離が短く,正しい方向となる部分を確認した(Figure 3).同部位に対し,経口内視鏡より針状メス(KD-1L-1,Olympus)にて小切開を加え,食道と貫通させた(Figure 4).その後,切開部に内視鏡用バルーンカテーテル(CRETM PRO GI Wireguided,Boston Scientific)を挿入し拡張を行った.拡張バルーン径は10mmから開始し12mmまで拡張し,経口内視鏡が通過可能となった(Figure 5).下咽頭から食道入口部にかけての漏斗状の生理学的形状を考慮し,下咽頭側に対してはさらに針状メスで穿孔に注意しながら両サイドの粘膜のみに数mm程の浅い切開を追加した(Figure 6).切開拡張部の早期閉鎖を予防するため16Frの経鼻胃管を留置し,新しい胃瘻カテーテルを挿入した.

Figure 2 

喉頭展開により下咽頭の完全閉塞が確認された.

Figure 3 

経胃瘻的内視鏡からの観察.

食道は盲端となり右上方に経口内視鏡からの透過光が確認される.

Figure 4 

切開時の画像.

経胃瘻的内視鏡による観察,送気により針状メスを確認しながらの安全な切開が可能であった.

Figure 5 

バルーン拡張後.

奥に経胃瘻的内視鏡が見えている.

Figure 6 

咽頭側は粘膜のみを狙って浅く横切開を加えた.

治療後,発熱なく身体所見,X線上も明らかな皮下気腫や縦郭気腫を認めなかった.第2病日に経鼻胃管留置下にガストログラフィンによる嚥下造影を行い,嚥下機能,通過に問題が無いことを確認し,経鼻胃管留置下に流動物の経口摂取を開始した.経過中,予防的バルーン拡張は2度行った.術後14日後に経鼻胃管を抜去し,柔らかい固形物の摂取が可能であることを確認し退院とした.退院後,予防的拡張は1度行ったが,狭窄の悪化傾向は認めず上皮化が得られた(Figure 7).また,当初は胃瘻栄養も併用し経口摂取を行っていたが,徐々に通常の食事が可能となり,胃瘻栄養から離脱し胃瘻カテーテルは抜去した.2018年9月現在,つかえ感は軽度あるものの常食が摂取可能で問題なく日常生活を送っている.

Figure 7 

治療3カ月後の切開拡張部.

完全に上皮化し狭窄も認めない.

Ⅲ 考  察

下咽頭~食道入口部の良性狭窄は下咽頭領域の放射線化学療法後など高度の咽頭粘膜炎が生じた後や下咽頭領域~食道入口部のELPS後,内視鏡的粘膜下層剝離術endoscopic submucosal resection;ESDなどの偶発症として認められるが,閉塞に至る症例はまれである.本症例は放射線化学療法や内視鏡治療後ではなく骨髄移植後という点が特徴的である.大量の抗癌剤を使用し免疫能が低下する骨髄移植において,口内炎および咽頭炎は比較的頻度の高い合併症である.原因として易感染性や薬剤性,graft-versus-host disease;GVHDによる粘膜炎などがある.GVHDについては慢性GVHDに移行した場合,嚥下障害や食道狭窄の報告があり 3,病理学的には口腔内扁平上皮の苔癬様変化や上部食道での潰瘍形成,粘膜の線維化などが特徴とされている 4.本症例の口腔~下咽頭のみに限局した症状,速やかに炎症所見が鎮静化した経過はGVHDとしては非典型的である.しかし生検による組織学的な評価を行っておらず,粘膜炎や狭窄・閉塞の原因は不明である.粘膜炎が重症化しやすいような何らかの素因があった可能性も考えられる.

医学中央雑誌にて1985年~2018年の期間で「下咽頭閉塞/閉鎖」と「内視鏡」あるいは「食道閉塞/閉鎖」と「内視鏡」をキーワードに,またPubMedにて同期間で「complete hypopharyngeal obstruction/stricture」と「endscopic」あるいは「complete esophageal obstruction/stricture」と「endscopic」をキーワードに検索すると,本症例の様に下咽頭閉塞あるいは食道入口部閉塞に対し経胃瘻的に逆行性に内視鏡アプローチを行い治療した症例の本邦での報告は,会議録を除き3例認められた 5)~7.海外においても同様の報告は散見され 8)~11,切開あるいは穿通させる方法については外科的な切開,超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)用の穿刺針などの内視鏡用処置具による穿刺・切開やガイドワイヤーによる鈍的な切開など様々である.拡張についてはいずれの報告でも内視鏡用のバルーンカテーテルによる拡張が行われている.

双方向的内視鏡アプローチについては,胃瘻から食道への内視鏡の逆行的挿入が要となる.経胃瘻的内視鏡はその有用性が報告されている処置であるが 12,食道への逆行的挿入を行う頻度は少ない.非透視下で挿入する場合,瘻孔部からの空気漏れをできるだけ減らすことが必要となるため内視鏡挿入部に内視鏡用のゼリーで濡れたガーゼ巻くなどする.方向性(口側)を確認した上で胃の小彎に沿って噴門の襞が集中した部位を同定する.噴門部では下部内視鏡時の回盲弁を越える要領でスコープ先端を噴門へ引っかけ角度を鈍化しつつ内視鏡を進めることで食道へ挿入可能となる.

本症例は,双方向的な内視鏡アプローチを用いて双方向からの送気や透過光などを用いて観察することで安全で正しい方向性の確認や細やかな処置が可能であった.逆に透過光が確認できないなど距離,方向性が確認できない場合には今回の方法による切開拡張は安全性が担保できず不可能と考えられ,外科的なアプローチが必要となったと思われる.

今回の処置で危惧された偶発症としてはELPSなどの下咽頭の内視鏡下治療とほぼ共通しており,具体的には穿孔(皮下気腫,縦郭気腫,縦郭炎,縦郭膿瘍),出血,喉頭浮腫などの気道合併症,声帯損傷,反回神経麻痺,術後の狭窄などが考えられる.当科では頭頸部外科と連携し下咽頭内視鏡治療を積極的に行っており,偶発症が起こらないような注意,起きた場合の対処などについて日頃より対応を検討している.

本症例は非常にまれな疾患であるが,内視鏡的切開拡張は外科手術と比し低侵襲であり,例え施行が困難であったとしても喉頭展開を行うことにより病変部の十分な評価が可能であるため有用な処置であると考えられた.

Ⅳ 結  論

良性下咽頭閉塞に対し双方向的内視鏡アプローチによる内視鏡的切開拡張術を施行し良好な経過を得られた1例を経験したので報告した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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