GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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A CASE OF FOVEOLAR-TYPE GASTRIC ADENOCARCINOMA WITH A RASPBERRY-LIKE APPEARANCE ARISING FROM HELICOBACTER PYLORI-UNINFECTED GASTRIC MUCOSA
Shusuke NAKAUCHI Kiyotaka OKAWAHiroshi ONOMasato MIYANOKoji SANOSeiko YAMAGUCHITetsuya AOKIOsamu KURAIWataru UEDAMasayuki ONODERA
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2020 Volume 62 Issue 1 Pages 46-52

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要旨

症例は49歳女性で,健診の上部消化管X線造影にて穹窿部にポリープを指摘され精査目的に当院を受診した.上部消化管内視鏡にて穹窿部に5mm大のラズベリー様の外観を呈する隆起性病変を認め,腺窩上皮型過形成性ポリープに類似した外観であった.

NBI(narrow band imaging)併用拡大観察では,表面微細構造は大小不同のある乳頭状構造で,開大した窩間部の内部には口径不同を伴う拡張した微小血管を認めた.生検組織病理所見では,軽度の異型性を示す腺管構造を認め,早期胃癌が疑われたためESDを施行し,低異型度高分化型腺癌であった.MUC5AC陽性,MUC6陰性,CD10陰性,MUC2陰性であり腺窩上皮型胃癌と診断した.Helicobacter pyloriH. pylori)除菌歴はなく,各種検査結果からH. pylori未感染と考えられた.

Ⅰ 緒  言

近年,Helicobacter pyloriH. pylori)の感染率低下に伴い 1H. pylori未感染胃癌の報告が増加している.頻度は胃癌全体の0.42~2.5%であり 2)~4,印環細胞癌などの未分化型癌 5や胃底腺型胃癌 6が大部分を占め,胃型形質を発現するのが特徴である 7),8.他にも胃底腺領域に発生する胃型胃癌として,腺窩上皮型胃癌が挙げられる.これまでに報告されている多くの腺窩上皮型胃癌の内視鏡所見とは大きく異なった,鮮紅色の山田Ⅲ型の隆起性病変を「ラズベリー様」と表現している報告 9があり,貴重な症例と考えられたため文献的考察を加え報告する.

Ⅱ 症  例

症例:49歳,女性.

主訴:なし.

現病歴:H. pylori除菌歴はなく,プロトンポンプ阻害薬(proton pump inhibitor;PPI)やヒスタミンH2受容体拮抗薬などの内服歴はない.当院受診の3年前から健診の上部消化管X線造影にて穹窿部にポリープを指摘されていたが,経過観察となっていた.2018年4月の上部消化管X線造影で同様の病変を認めたため,精密検査を勧められて,同年5月に当院を受診した.

既往歴・家族歴:特記すべき事項なし.

生活歴:喫煙歴はなし,飲酒歴はビール350ml/日を29年間.

現症:身長163cm,体重67kg.体温36.7℃,血圧118/81mmHg,脈拍71/分,整.腹部は平坦軟で圧痛なし.

検査所見:H. pylori抗体<3U/ml,尿素呼気試験-0.1‰であり,ともに陰性であった.ガストリンは92pg/mlと基準値範囲内であった.その他に異常所見はなかった.

上部消化管内視鏡所見:胃角~胃体下部小彎にRAC(regular arrangement of collecting venules)を有しており,背景胃粘膜に萎縮性変化や腸上皮化生は認めなかった.穹窿部に約5mm大の境界明瞭な発赤調の山田Ⅲ型の隆起性病変を認め,腺窩上皮型過形成性ポリープ(以下,過形成性ポリープ)に類似する外観であった(Figure 1-a).インジゴカルミン撒布像では,隆起の表面構造は明瞭になり,乳頭状構造を呈していた(Figure 1-b).NBI(narrow band imaging)併用拡大観察では,表面微細構造は大小不同のある類円形~楕円形の乳頭状構造であり,開大した窩間部の内部には口径不同を伴う拡張した微小血管を認めた(Figure 2).なお,穹窿部には2mm大の胃底腺ポリープを認めた.

Figure 1 

上部消化管内視鏡所見.

a:通常観察像.穹窿部に5mm大の発赤調の山田Ⅲ型の隆起性病変を認め,周囲との境界は明瞭である.

b:インジゴカルミン撒布像.隆起の表面は乳頭状構造を呈している.

Figure 2 

NBI併用拡大観察像(水浸法).

表面微細構造は大小不同のある類円形~楕円形の乳頭状構造である.開大した窩間部の内部には口径不同を伴う拡張した微小血管を認める.

臨床経過:生検組織の病理学的所見では,軽度異型性を示す腺窩上皮の乳頭状構築を呈しており,腫瘍性病変を否定できない所見でGroup 2であった.NBI所見と病理組織所見からは低異型度の腺窩上皮型胃癌の可能性が考えられたため,患者に十分なインフォームド・コンセントを行った上で診断的治療目的にESDを施行した.術後経過は良好で,術後7日目に退院となった.

切除標本の病理組織学的所見:表層は腺窩上皮細胞に類似する腫瘍細胞が絨毛様構造を呈し,核の腫大や構造異型を伴っているため高分化型腺癌と診断した(Figure 3).病変は粘膜内に限局しており,粘膜筋板への浸潤や脈管内侵襲像を認めなかった.粘膜深層には正常胃底腺が存在し,胃底腺上皮の過形成や嚢胞状拡張などの胃底腺ポリープを示唆する所見は認めなかった.免疫組織化学染色所見では,細胞増殖能マーカーであるKi-67染色で粘膜表層まで増殖細胞がみられたが,p53の過剰発現はみられなかった.胃型形質を表すMUC5ACは陽性,MUC6は陰性であった.腸型形質を表すCD10・CDX2は陰性,MUC2はごく一部の腫瘍細胞が陽性となっているのみで,大部分の腫瘍細胞は陰性であった(Figure 4).壁細胞のマーカーであるH/K-ATPaseは陰性,主細胞のマーカーであるPepsinogenⅠは一部陽性であった.以上より,腫瘍の粘液形質は胃型形質であり,腺窩上皮型胃癌と診断した.最終病理診断は,U,Gre,28×19mm,Type 0-Ⅱa,3×3mm,tub1>pap,pT1a(M),pUL0,Ly0,V0,pHM0,pVM0であった.内視鏡的根治度A(eCuraA)であり 10,現時点で再発は認めていない.なお,ESD検体の背景粘膜に活動性の炎症や腸上皮化生は認めず,鏡検法でH. pyloriは陰性であった.

Figure 3 

ESD検体の病理組織所見(HE染色).

a:弱拡大像(40倍).表層は腺窩上皮に類似する腫瘍細胞が絨毛様構造を呈している.病変は粘膜内に限局し粘膜筋板への浸潤や脈管内侵襲像を認めない.

b:強拡大像(200倍,黄枠部).腫瘍性の腺窩上皮と非腫瘍の境界を破線で示す.破線の下が非腫瘍である.腫瘍部では,核の腫大や構造異型を伴っている.

Figure 4 

免疫組織化学染色所見.

a:MUC5AC.

b:MUC6.

c:MUC2.

MUC5ACは陽性,MUC6は陰性である.MUC2はごく一部の腫瘍細胞が陽性となっているのみで,大部分の腫瘍細胞は陰性である.

Ⅲ 考  察

H. pylori未感染胃癌の発癌機序は不明な点が多いが,近年報告例が増加しており,それに伴い徐々に病態が解明されつつある.H. pylori未感染の判定基準が定まっていないため報告により異なるが,H. pylori未感染胃癌の頻度は胃癌の0.42~2.5%と言われている 2)~4.これまでの報告 2)~4を参考にすると,①H. pylori除菌歴がないこと,②臨床検査所見(血清H. pylori抗体,尿素呼気試験など)が陰性,③内視鏡所見で萎縮を認めないこと,④病理組織学的に萎縮/腸上皮化生/炎症細胞浸潤/H. pyloriを認めないこと(Updated Sydney Systemのvisual analogue scale 11に準じた評価),の4項目を満たすものとされることが多い.ごく軽度の萎縮性胃炎がある段階で自然除菌された可能性についても考慮する必要はあるが,現在用いられている判定基準ではそれを厳密に除外することは困難であり,本例は上記4項目を満たしておりH. pylori未感染と考えた.

H. pylori未感染胃癌は,印環細胞癌などの未分化型胃癌と胃底腺型胃癌が大部分を占めている 12.他にも腺窩上皮型胃癌 4,前庭部の低異型度分化型腺癌 13,胃底腺ポリープ(fundic gland polyp;FGP)の癌化 14),15,食道胃接合部癌 16),17,家族性大腸腺腫症(familial adenomatous polyposis;FAP)に合併した胃癌 18),19などが報告されているが,多数例での報告は少ないのが現状である.Yamadaら 4は,H. pylori未感染胃癌16例の特徴について,未分化型,胃底腺型,腺窩上皮型に分類して報告している.そのうち4例が腺窩上皮型胃癌であり,内視鏡的特徴は周囲と同色調~白色調の側方発育型の隆起性病変を呈し,NBI併用拡大観察では表面構造は乳頭状~絨毛状であるとしている.本例は病理組織学的所見から胃型形質を有する腺窩上皮型胃癌に分類されるが,前述した内視鏡所見 4とは異なっており,腫瘍の発生・発育進展機序が異なっている可能性も考えられる.

医学中央雑誌(会議録を除く)にて「Helicobacter pylori未感染」「胃癌」,「ヘリコバクター・ピロリ未感染」「胃癌」,「Helicobacter pylori陰性」「胃癌」,「ヘリコバクター・ピロリ陰性」「胃癌」を,PubMedにて「Helicobacter pylori negative」「gastric adenocarcinoma」もしくは「Helicobacter pylori uninfected」「gastric adenocarcinoma」をkey wordに1983年から2018年12月の期間で検索を行った.ESDもしくはEMRが行われ,病理学的に検討がなされた症例を対象にすると,本例と内視鏡所見が類似するラズベリー様の外観を呈する腺窩上皮型胃癌の報告は6例 14),20)~22であった(Table 1).このうち,Togoら 14の2例はFGPの癌化と考えられ,本例とは病理組織学的所見が異なっている.澁川ら 20は,過形成性ポリープの癌化例として報告しているが,免疫組織化学染色所見は類似している.Isonoら 21の2例では,腺窩上皮の過形成性変化と高分化型腺癌が共存していた.そのうち1例(症例4)では病変深部に嚢胞状拡張を伴う胃底腺の増生を認めていることから,本例とは一部異なっており,腫瘍発生学的に同一病変かは定かではない.高柳ら 22の報告では,本例とほぼ同様の内視鏡所見を呈しているが,本例と免疫組織化学染色所見は異なっていた.

Table 1 

ラズベリー様外観を呈するHelicobacter pylori未感染腺窩上皮型胃癌の報告例.

内視鏡所見のみで本例と鑑別が必要になるものとしては,①過形成性ポリープ,②FGPの癌化が挙げられる.まず,過形成性ポリープについては,一般的にはH. pyloriの感染が高率にみられ 23H. pylori現感染もしくは既感染の胃粘膜にみられる.NBI併用拡大観察では,表面微細構造の腺窩辺縁上皮は弧状~線状の形態を呈し,微小血管構築像は窩間部上皮下の血管密度が高いため視認しづらいが,規則的で拡張した開放性ループ状微小血管であるとされている 24.次に,FGPについてはH. pylori陰性で萎縮のない胃粘膜に発生する病変であり 25,癌化することは非常に稀だと考えられている.FGPの癌化例では,腫瘍の基部にFGPを示唆する組織像を認めるとされているが 14,本例では病変の基部にFGPを示唆する所見を認めなかったことから,FGPとは関係なく発生した腺癌と考えた.本例とFGPの癌化を内視鏡所見のみで鑑別することは難しく,病変深部も含めて病理学的に評価する必要がある.

H. pylori未感染胃粘膜にラズベリー様の外観を呈する隆起性病変を認めた場合には,腺窩上皮型胃癌の可能性も考慮し更なる精査を行う必要がある.今後多数例を集積することにより,H. pylori未感染胃癌における本症の位置づけが明らかになると思われる.

Ⅳ 結  語

H. pylori未感染胃粘膜に発生したラズベリー様の外観を呈する腺窩上皮型胃癌の1例を経験した.

本論文の要旨は,第101回日本消化器内視鏡学会近畿支部例会(2018年11月)で発表した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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