GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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THE STANDARD TECHNIQUE AND SOLUTIONS FOR DIFFICULT SITUATIONS IN DOUBLE BALLOON ENDOSCOPY
Keigo MITSUI Shu TANAKAMitsuru KAISETaku TSUKUIKatsuhiko IWAKIRI
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2020 Volume 62 Issue 1 Pages 65-73

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要旨

ダブルバルーン内視鏡は,小腸,術後腸管,大腸内視鏡挿入困難例の診断・治療に幅広く使用されるようになったが,腹部手術既往による癒着をはじめとした特殊な条件では,挿入困難を来し検査に難渋することもある.無理な検査は重篤な偶発症を引き起こしかねないが,いくつかの工夫で越えられる困難もその経験が不足していると診断・治療の機会を失いかねない.本稿では,ダブルバルーン内視鏡の基本手技と困難な状況での工夫や対策について解説する.

Ⅰ 緒  言

小腸疾患の診療において,現在,多彩な小腸検査法が存在するなか,ダブルバルーン内視鏡 1を含めた,device-assisted enteroscopy(DAE)は唯一,生検などの処置が可能な小腸内視鏡検査法として重要である.検査の成否が患者の予後に影響を与えるため,他の内視鏡検査と同様に,安全で確実な検査・治療手技が不可欠である.一方,小腸疾患の頻度は,以前よりその診断機会が増えたとはいえ,その他の消化管と比べると低頻度であり,検査・治療技術に習熟する機会が多いとはいえない.内視鏡の挿入に関しては,初学者でも上級医と遜色なく実施可能なことが,high volume center での検証で示されて 2いるものの,日常的に小腸疾患やバルーン内視鏡に触れる機会がない施設ではトレーニングなども困難であるため,小さな工夫で越えられる困難に難渋させられることもある.本稿ではダブルバルーン内視鏡の基本的な挿入・観察手技と,困難例における工夫や対策について解説する.

Ⅱ 適  応

小腸疾患を疑えば常にバルーン内視鏡の適応を検討する.どんな検査でも偶発症などのリスクがあり,リスク・ベネフィット上有益でなければならない.現在は多彩な小腸検査法があるため,バルーン内視鏡は専ら治療などの処置に特化していると考えられがちだが,診断のためのバルーン内視鏡も重要である.使用可能な小腸の検査機器がすべて揃っていることの方がまれであり,施設ごとに手持ちの手段で迅速な診断に導くことが理想だが,症状や想定される疾患によっては診断の機会を逸してしまうこともあるため,バルーン内視鏡が速やかに施行できる施設で,経過観察すべき症例もあるため注意が必要である.特にカプセル内視鏡で小腸の血液は証明されているものの,他の放射線科的な画像診断などでは病変が描出されないときは,微小な血管病変を疑って出血時のバルーン内視鏡が必要である.

カプセル内視鏡が通過できない術後腸管・盲係蹄を有する症例でも内視鏡観察・処置が可能であり,盲係蹄症候群,小腸腸内細菌叢の異常増殖(small bowel bacterial overgrowth:SBBO)などの診断に役立つ,また,ダブルバルーン内視鏡下逆行性胆管・膵管造影(DB-ERCP)とその関連手技を用いた術後腸管の胆管・膵管への治療介入は,今やバルーン内視鏡の主要な診療領域となっている 3

通常の大腸内視鏡が挿入不能だった症例も適応となる 4)~6.単に観察目的であれば,大腸カプセル内視鏡も良い適応であるが,バルーン内視鏡では生検などの処置もあわせて可能であり,内視鏡治療も併施することを前提で検査を実施すれば,大腸カプセル内視鏡を実施してからの内視鏡治療より,費用対効果も高いと考えられる.また,大腸内視鏡が辛うじて実施可能であった症例も,内視鏡的粘膜切除術や粘膜下層剝離術(ESD)などを実施するときには,より安定した内視鏡操作性を確保して処置に臨むことができるため,内視鏡医にとって安心感も高い.

Ⅲ 検査機器・物品

ダブルバルーン内視鏡は,主に,観察用のEN-580XP,処置用のEN-580T,ショートタイプで術後胆膵管や大腸内視鏡挿入困難例などに用いるEI-580BTの3機種があり,検査目的によってそれらを使い分ける(Table 1).また,それぞれに対応するオーバーチューブを使用する(Table 2).内視鏡先端バルーンは,バルーンコントローラーPB-30(Figure 1)により,それぞれを独立して拡張,収縮させる.

Table 1 

ダブルバルーン内視鏡 スコープ諸元.

Table 2 

ダブルバルーン内視鏡用オーバーチューブ諸元.

Figure 1 

バルーンコントローラー PB-30.

また,検査目的に応じて,先端透明フード(アタッチメント),キャストフード,インジゴカルミン,局注針,墨汁,クリスタルバイオレット(ピオクタニン),高張食塩水加エピネフリン液(hypertonic saline epinephrine solution:HSE),クリップ(止血,マーキング),EMR用スネア鉗子,ディスポーザブル結紮装置(留置スネア),拡張バルーン,ESDやERCP関連主義に関わる処置具,高周波装置,アルゴンプラズマ凝固装置,超音波内視鏡(細径プローブ) 7などの処置具や機器を準備する.

Ⅳ 準備・前処置

検査環境は,必須ではないがX線透視室で行うことが望ましい.深部挿入時にはスコープ形状を確認し,挿入困難の原因を確認することができるだけでなく,病変よりも先にスコープを挿入できないような狭窄性病変や,容易に出血・穿孔を来しうる脆弱な病変を認めたときも,造影検査を追加することで,病変の大きさ,腸係蹄との位置関係,狭窄病変の程度や長さといった情報が得られ,また粘膜下腫瘍で認められるような,腸管壁外への腫瘤発育により周囲の腸係蹄が病変近傍に認められなくなる,いわゆる“blank space sign”といった間接的な所見が得られる.

内視鏡の送気には炭酸ガスが必須である.通常の空気による送気は,吸引しない限り腸管からなくなることはほとんどなく,バルーン内視鏡の特長であるオーバーチューブによる小腸の短縮操作のとき,空気を抱き込んで短縮を困難とさせるため,深部挿入の効率が悪くなる.また,関心領域での観察が長時間に及ぶと送気過多となりやすく,患者の苦痛が増し,穿孔などの偶発症発生時には重篤化する可能性があり避けるべきである.

スコープは,事前に内腔を水で湿らせたオーバーチューブに挿入し,鉗子口やスコープ先端バルーン用のエアルートにシリンジで空気を通して水を十分抜いてから,スコープ先端バルーンを取り付ける.先端バルーンの両側は,専用の固定用ゴム取付具ST-10を用いると容易にゴム固定できる(Figure 2).

Figure 2 

固定用ゴム取付具 ST-10.

ダブルバルーン内視鏡はスコープ先端バルーンのためのエアルートが存在するので,ウォータージェット機能は搭載されていないため,鉗子口からの注水による洗浄が必要となるが,バイオシールド・イリゲーター(US Endoscopy社製)(Figure 3)を使うことで処置具を挿入した状態でも送水や消泡剤の注入が可能となり,また送水ポンプを併用することで鉗子口からの注水洗浄が容易になる.

Figure 3 

バイオシールド イリゲーター.

US Endoscopy社 ホームページ( http://www.usendoscopy.com/products/bioshield-irrigator)より転載.

検査中の鎮静・鎮痛剤は当科では,デクスメデトミジン塩酸塩(プレセデックス)とペチジン塩酸塩(オピスタン)を基本とし,導入時にミダゾラム(ドルミカム)を使用することが多い.検査中は心電図,血圧,脈拍,酸素飽和度などのモニタリングを行う.幼児,体重が概ね30kgを下回る学童や,静脈麻酔でも体動が激しい症例では,麻酔科による全身麻酔を含めた麻酔管理を依頼して検査を行う 8.鎮静・鎮痛により患者状態が安定した検査は,観察・処置を容易し偶発症を低減するメリットがあるだけでなく,苦痛のない検査は,特にPeutz-Jeghers症候群 9),10やクローン病といった,定期的なフォローアップが必要とされる症例で,患者の検査受容性に大きく影響するため非常に大切である.

観察・処置時の蠕動抑制には,臭化ブチルスコポラミン(ブスコパン)やグルカゴンを用いる.特に経口挿入時は,蠕動は挿入の妨げにはなりづらいため,目的の部位や最深部に到着した段階で投与した方が良い.両者の効果が減弱し投与量が多くなるときは,代わりに,-メントール(ミンクリア)や芍薬甘草湯を微温湯に溶いたものを散布することで蠕動を低減できることがある.小腸内視鏡時の有用性に関しての報告は認めないが,ERCP時の十二指腸蠕動の抑制に関する報告は散見される.但し,これらの使用法は保険適応外である.

腸管洗浄などの前処置に関しては,一般的な観察における経口挿入では,原則,12時間程度の禁食で検査は実施可能である.但し,詳細な観察のため,腸管内の胆汁を洗浄するのに思いのほか時間や労力が必要で,特に下部回腸に向かうにつれ胆汁の濃縮が顕著となり,詳細観察に十分な洗浄が必要となることがあるため,前日眠前の下剤や,当日早朝に半量程度の洗腸薬を服用してもらうこともある.経肛門挿入では,概ね大腸内視鏡の前処置と同様である.前日は消化管検査食かそれに準じた低残渣食とし,夜ないし眠前にピコスルファートナトリウム水和物(ラキソベロン内用液0.75%)を10m内服する.当日朝から,洗腸剤を通常量(ニフレック,またはマグコロールP 1.8,またはモビプレップ1と水500m)に消泡剤のジメチコン(ガスコンドロップ)200mg=10mを混和したものを基本とし,患者の従来の排便状況に応じて適宜増量して飲用してもらう.排便が透明になったのを確認してから検査開始までに長時間を要すると,思いのほか,胆汁の黄色粘稠な付着により詳細観察が妨げられるため,排便が透明になっても少量ずつ洗腸剤を飲用し続けてもらうか,詳細観察時には,プロナーゼ(プロナーゼMS)20,000単位を水50-100mに溶いたものを散布し数分後に水洗してから観察する.なお,小腸内のpHではプロナーゼは比較的安定のため,炭酸水素ナトリウムと併用する必要はない.

原因不明の消化管出血の症例で出血直後のときは,出血の痕跡を失わないようにするため,前処置は行わずに経口挿入による検査を行う.特に,小腸カプセル内視鏡や過去のバルーン内視鏡による精査でも診断がつかなかった小腸出血では,出血直後の再検査が診断率向上につながるため 11,可能な限り速やかに検査を行う.

観察・生検目的のダブルバルーン内視鏡検査では,抗血栓薬の休薬は原則不要である.メサラジン,慢性腎不全に対する炭素系吸着剤(クレメジンカプセル)など,内服薬によってはスコープとオーバーチューブのわずかな間隙に入り込んで摩擦抵抗が増すことで,スコープの挿入に強い抵抗感が生じ,検査続行を困難とさせることがあるため,可能な範囲で十分な休薬のうえ,前処置を丁寧に行う.

Ⅴ 挿入手技

バルーン内視鏡による小腸疾患診断では,経口挿入と経肛門挿入の2回の検査で全小腸を観察するのが基本である.初回の挿入で最深部に点墨,クリップ,ピオクタニンによる粘膜染色などを置き,反対側からの挿入でこれらの目印を確認することで全小腸観察できたことを確認する.経口挿入による検査は,長時間に及ぶと誤嚥性肺炎や急性膵炎といったバルーン内視鏡に関わる偶発症の発生するリスクがあるため,可能な限り,経肛門挿入による検査で,十分な観察範囲を確保することで,経口挿入による検査を可能な限り短時間で済ませ,全小腸観察を達成するようすべきである.近年では,バルーン内視鏡を行う前に,カプセル内視鏡をはじめとした他の検査手法により病変部位が絞り込まれていることも多く 12,必ずしも2回の検査で全小腸を観察しなければならない症例は減少している.

i)体位

体位は,経口挿入時は,誤嚥を防ぐ目的で腹臥位とし,経肛門挿入時は左側臥位から開始し,適宜,仰臥位(または腹臥位)とする.

ii)一人法・二人法

スコープを操作する者(内視鏡医)とオーバーチューブを保持する者(介助者)の二人の協調により挿入していく二人法と,スコープ,オーバーチューブとも一人で操作する一人法がある.一人法では,ある程度挿入が進むまでは,体外にあるスコープ長が長いため,内視鏡医と患者間の距離が離れてしまうため,たわんだスコープを置くための台が必要である.挿入が進んでからは必要がなくなるため,キャスター付きの台が良い.右手の第1,2指でオーバーチューブ末端を持ち,第4,5指と手掌でスコープを把持してオーバーチューブ内に挿入する動きは慣れるまで経験が必要だが,人的資源の乏しい環境でもバルーン内視鏡検査を可能とする大切な技術である 13

iii)基本挿入操作

経口的挿入

①内視鏡医は,オーバーチューブ末端をスコープハンドル部まで引きつけたあと,オーバーチューブ先端から出ているおよそ50cm分のスコープを患者の口から胃内に挿入する.内視鏡医はスコープ先端が胃内にあることを確認したら,スコープを安定的に保持する.介助者はスコープの先端から145cmに部位にある,太い白線のマークがオーバーチューブ末端から露出して見えるようになるまでオーバーチューブをスコープに沿って挿入する.

②介助者は,患者の口元と末端のオーバーチューブを2カ所持って,オーバーチューブがまっすぐになるよう保持したのち,内視鏡医は,再び幽門輪から十二指腸に向かって挿入する.スコープが十二指腸に入り,

③オーバーチューブ末端までスコープを挿入し終えたら,スコープ先端バルーンを拡張させ,スコープ先端を十二指腸内で固定する.介助者は,オーバーチューブを追随させるが,幽門輪の収縮により,オーバーチューブ先端が越えづらいときは弛緩するタイミングを見極めてゆっくり挿入する.

④オーバーチューブも十二指腸内に挿入されたら,オーバーチューブのバルーンも拡張させオーバーチューブ先端を十二指腸に固定する.内視鏡医は,スコープ先端バルーンを弛緩させ,スコープの挿入を行う.(③,④)を繰り返し,トライツ靱帯を越えたら,

⑤スコープ先端バルーンで固定し,オーバーチューブを追随させてバルーンを拡張し固定する.

⑥2つのバルーンで固定した腸管を,スコープとオーバーチューブを同時に口からゆっくり引き抜くようにして,腸管をたたんで短縮する(短縮操作).

⑦スコープ先端バルーンを弛緩させ,スコープを挿入したらバルーンを拡張し固定する.オーバーチューブ先端バルーンを弛緩させ,オーバーチューブをスコープに追随するように挿入して,バルーンを拡張し固定する.

⑧(⑥,⑦)を繰り返し,深部挿入を行う.

経肛門挿入

一般的な挿入手順は,経口挿入と同様だが,S状結腸や横行結腸を短縮させるため,大腸内でも2つのバルーンで腸管を固定し大腸を短縮させること必要がある.

Ⅵ 観察方法

大腸内視鏡では,盲腸まで挿入したあと,抜去時に詳細に観察することが一般的である.小腸内視鏡では,事前に,X線CT検査やカプセル内視鏡で病変の情報が十分に得られているときは,病変部に向かって内視鏡を挿入し到達したら,十分な観察や組織診断などを行うが,X線CTでは病変を描出できず,カプセル内視鏡でも小腸内の血液しかみられないこともよく経験される.こういったときは,小腸の丈の高い絨毛に隠れた微細な血管性病変 14を発見する必要があるため,挿入時にも観察を行い,小さな発赤点を送水,先端アタッチメント(フード)や鉗子で刺激して,常に出血源でないか確認をしながら挿入する.抜去時の観察では,挿入に伴って生じた,スコープやオーバーチューブによる擦れ(scratch)により粘膜の発赤などが生じ,病変と見誤ったり,逆に擦れと判断して病変を見逃したりする可能性がある.一方で,挿入時の観察で時間をかけてしまうと,挿入長が制限されてしまうことがあり,事前にカプセル内視鏡などで病変部位が絞り込まれていると狙いを絞って詳細観察することができる.

診断できなかったときは,常に検査の適時性について考察する.また,発見できないと生命予後に影響を与えるような腫瘍性疾患 15などでは,他の検査方法の組み合わせで,概ね除外が可能であるが,特にX線造影CTが行えなかった症例では,短期的なフォローアップを行い見逃しによるリスクの低減に努める.微細な血管性病変と思われる病変が発見できなかった症例では,患者に再出血症状があったら,食事を摂取せず,すぐに病院へ連絡をするよう指導することが大切である.

Ⅶ 困難への対策

i)回盲弁への挿入

回盲弁を頂点とした,「上行結腸」と「挿入すべき終末回腸」との間になす角が鈍角であるときはそれほど困難ではないが,回盲弁が尾側(虫垂口側)を向いていたり,挿入すべき終末回腸が上行結腸に沿って頭側に向いていたりするときは,回盲弁にスコープ先端を当てることができても,その後の挿入操作で,“Jの字”または“ステッキ状”になったスコープ先端形状のまま盲腸側へ抜けてしまうことがよく経験される.このようなときは,以下のような工夫を行うと挿入可能となることがある.

①スコープ先端が内視鏡的に回盲弁を観察できる位置に置き,オーバーチューブをスコープ先端まできちんと挿入し,上行結腸でバルーン拡張・固定させる.

②可能な限り,盲腸の空気を吸引してから,オーバーチューブを少しだけ引き抜く力を加え,盲腸を頭側に引き上げるような力を加えておく.

③スコープ先端を回盲弁に挿入したら,すぐに挿入を継続するのではなく,スコープ先端のアングルを尾側方向に振り,終末回腸を小骨盤の方に誘導するような動きを加える.

盲腸内腔が広いときは,先端が反転してステッキ状となっても,盲腸のカーブを使ってそのまま押し進めて回盲弁を越えられることもあるが,同時に上行結腸も太いことが多く,オーバーチューブの固定が効かず,挿入操作の反作用でオーバーチューブが抜けてきてしまい,先端の挿入ができないことがある.挿入で結腸のオーバーチューブがたわまないように臍部などを用手圧迫したり,また,スコープ先端が回盲部を尾側に向かって沈み込まないように頭側へ用手圧迫を加えたりすることで挿入できることもある.

ii)癒着例の急峻な屈曲

腹部の炎症や手術に伴って小腸が腹壁や腸管同士で癒着を来していると,スコープ先端がステッキ状となり挿入困難となることが,バルーン内視鏡で全小腸の観察を妨げる最も大きな理由である.一番大切なことは,「無理をしない」ことである.腹部手術による癒着例は,ダブルバルーン内視鏡のhigh volume centerであっても,深部挿入を断念する一番の理由である.癒着部に無理な力が持続的に加わると腸管穿孔のリスクが増す.

スコープの挿入や短縮で患者の疼痛が増強しない位置で,ステッキ状になったスコープ先端の「“J”の字」の弧に当たる部位を用手圧迫し,挿入操作がスコープの先進につながるようにする.癒着部の屈曲を越えてある程度,スコープ・オーバーチューブの挿入が可能となると,単純な癒着であったときは,屈曲部にかかるストレスが前後の腸管に分散し挿入の支障とならなくなることもある.癒着部位を越えて挿入が可能となっても,短縮操作は癒着部から挿入した分を短縮するにとどめる.癒着部を通過したあと,無理な短縮操作を行うと,癒着部が剝離し穿孔を来す恐れがある.

iii)非同心円

小腸への挿入が進むと,挿入されたスコープの形状は同心円を描く.ときに,“8の字”を描く向きに進み,その後の挿入が困難となるときがある.スコープ先端でバルーン固定し短縮操作やそのときにアングルを同心円方向へかけると,同心円に復帰し深部挿入が継続できるときがある.用手圧迫も併用し,挿入すべき腸管を同心円状に誘導することでその後の挿入効率が改善することがある.

iv)小さな円弧は大きく

挿入時にどうしても小さな円弧を複数作るような形で挿入されることがある.挿入しても手前の円弧が大きくなってたわむばかりで,先端の挿入につながらなくなり,挿入効率が低下するときは,短縮操作のときに,円弧を解消するようなトルク(ねじり)を加えることで円弧がシンプルに大きくなることで挿入効率が改善することがある.

v)短縮操作の省略

ステッキ状,非同心円,小さな円弧といった挿入効率の悪いスコープ形状になっているときは,オーバーチューブの短縮操作のあと,スコープを挿入しても挿入長が稼げない.きちんと短縮することで,これから進むべき腸管の屈曲がより急峻になることもある.そういったときは,スコープを挿入し,オーバーチューブを追随させたあと,敢えて短縮操作を行わずに,再度スコープの挿入を行って難所を回避することで,挿入効率が改善することがある.

vi)術後腸管

可能な限り,手術時の病歴や手術簿を手配して,術式,吻合様式,輸入脚の長さ,Braun吻合の有無,術後合併症の有無(吻合部漏出など)を詳細に把握しておく.情報が乏しいと,盲係蹄やバイパスの入口部にすら気づかないこともまれにある.

Roux-en Y吻合では,Y脚吻合部までの距離やY脚自体の長さによっては,癒着も相まって乳頭部まで到達できないこともある.挿入にY脚吻合部がステッキ状にならないよう鈍角に挿入することで,十二指腸乳頭への到達を容易にすることがある.Billroth-Ⅱ法でも,Braun吻合があれば,輸出脚側からBraun吻合で輸入脚側に乗り換えて挿入することで,吻合部を鈍角に越えて,容易に十二指腸乳頭に到達することができる.

術後に吻合部漏出や胆汁漏,膵液漏などがあった症例では,膵頭十二指腸切除後の肝管空腸吻合部に到達する直前で,スコープ操作が突然困難になることがある.吻合部近傍の腸管が細かなループを作って強固に癒着していることがあり,術後の合併症に関する情報も大切である.

クローン病などの小腸部分切除では,特に吻合する腸管の口側と肛門側の径に差があるとき,機能的端々吻合が行われることがあるが,バルーン内視鏡の通過が不可能となるため,以後のバルーン内視鏡によるフォローアップが不可能となる.クローン病の外科治療で初回に機能的端々吻合を受けると,バルーン内視鏡による疾患活動性評価やバルーン拡張術による手術回避 16の機会を生涯にわたって失うことになるため,小腸内視鏡医として機能的端々吻合は避けられたい.カプセル内視鏡も疾患活動性の評価に役立つが,カプセル内視鏡が通過しないような小腸狭窄を有し 17,バルーン内視鏡でのみ内視鏡的評価が可能で手術を回避しているクローン病症例も多い 18.また,一般に術後の吻合様式の善し悪しは,手術時間や術後のリークなどをアウトカムとしていることが多いが,今後,バルーン内視鏡の挿入性に関しての検討も望まれる.

vii)釣り糸法

ダブルバルーン内視鏡は,スコープ先端バルーンがあるため,オーバーチューブからスコープを完全に抜去することができないが,先端バルーンを専用の固定用輪ゴムでなく,釣り糸で結紮することで,検査中の抜去が可能となる.小腸ポリープが複数あるときや,大腸内視鏡挿入困難例で,ショートタイプのバルーン内視鏡で複数のポリープを切除して検体を回収する必要があるときに有用である.

Ⅷ 終わりに

基本手技の習得は安全な内視鏡診療の基本であり,確実に身につけておきたい.また困難例の経験を共有し,それらへの打開策を築きあげていくことも大切である.小腸診療に重要な内視鏡技術を今後もさらに高めていくためにも,本稿が,少しでも若い内視鏡医の先生に役立ち,バルーン内視鏡の症例を積み重ねてもらい,多くの経験・知識を共有できることを期待したい.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
© 2020 Japan Gastroenterological Endoscopy Society
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