2020 Volume 62 Issue 1 Pages 85-92
【背景】消化管粘膜下腫瘍(SET)の病理学的診断において,超音波内視鏡(EUS)下穿刺吸引生検は広く普及した方法である.しかし,SETの確定診断には免疫組織化学染色が不可欠であり,より構造の保たれた十分量の検体が必要となるため,その診断能は十分とはいえない.一方で,近年使用可能となったコア生検針(FNB針)は,組織採取能に優れるためSET診断能を向上させる可能性がある.本研究はSETに対するFNB針の診断能を明らかにすることを目的とした.
【方法】2010年から2017年にSETに対してEUS下穿刺吸引生検を施行した160例を対象とし,従来針を使用した群(FNA群)とFNB針を使用した群(FNB群)の2群に分け,確定診断率,良性切除率(良性疾患で切除を施行された症例の割合)に関して比較検討を行った.対象の選択においては傾向スコアによるマッチングを行い,交絡因子を調整した.
【結果】確定診断率はFNA群60%,FNB群82%であり有意にFNB群で良好であった(P=0.013).良性切除率はFNA群14%,FNB群2%であり,有意にFNB群で低値であった(P=0.032).FNB針の確定診断に関連する因子の検討では,単変量解析では小病変(病変径≦20mm)にて有意に確定診断率が低い結果であり(67% vs 97%,P=0.004),また多変量解析においても病変径は独立した関連因子として同定された(オッズ比14.20,95%信頼区間1.61-125.00,P=0.017).
【結論】SETに対するEUS下穿刺吸引生検では,FNB針を使用することにより診断能向上を期待し得る.一方で小病変においては,FNB針による診断率向上効果は少ないかもしれない.
超音波内視鏡(EUS)下穿刺吸引生検は,膵腫瘍や消化管粘膜下腫瘍(SET),リンパ節病変などの病理診断において確立された検査法である 1),2).使用される穿刺針としては従来使用されてきたfine-needle aspiration needle(FNA針)と,fine-needle biopsy needle(FNB針)の2つに大別される 2).FNB針は返しの付いた側孔や特殊に加工された先端などによって,検体の質と量を向上させることを目的としている 2).このため,特に診断に組織診が必要な場合などにおいて,FNB針の有用性が期待される.
他方,SETの診断においてはGastrointestinal stromal tumor(GIST)の鑑別が重要であり,免疫組織化学染色が評価可能な十分量の組織診検体が必要である 3).FNA針に関する検討では,紡錘形細胞の認識は良好であるものの,免疫染色評価可能な検体の採取は限定的であったという報告も認めており 4),FNA針のSET診断率は46-82% 5)~8)と十分とはいえない.FNB針の高い組織採取能力はSETの診断率向上に寄与し得ると考えられるが,現在まで報告は乏しく明らかではない.本研究はSETに対するFNB針の診断能を明らかにすることを目的に,FNA針との比較検討を行った.
2010年から2017年までに2つの三次医療機関にて,SETに対してEUS下穿刺吸引生検を施行した20歳以上の症例を対象とした.病変径15mm以下,粘膜下腫瘍様胃癌,あるいは腫瘍切除非施行でフォローアップ期間が12カ月未満の症例は対象から除外した.FNB針は一方の施設では2013年以降,もう一方の施設では2016年以降使用され,それ以前はFNA針が使用された.対象をFNA針を使用した群(FNA群)とFNB針を使用した群(FNB群)の2群に分け,比較検討を行った.対象の選択においては傾向スコアによるマッチングを行い,交絡因子を調整した.
本研究はヘルシンキ宣言を遵守し,各々の施設の倫理委員会の承認を経て施行した.プロトコールはUniversity Hospital Medical Information Network Clinical Trial Registry databaseに登録した(UMIN000030643).
手技スコープはGF-UCT240あるいはGF-UCT260を使用し,観測装置にはEU-ME1あるいはEU-ME2を用いた(いずれもOlympus社製).穿刺針径は操作性などによって19,22,25 gaugeのいずれかを選択したが,基本的には22 gaugeを使用し,穿刺が容易と考えられた場合には19 gaugeを,難しい場合には25 gaugeを選択した.FNB針としては側孔付き針(EchoTip ProCore;COOK社製),あるいはフランシーン針(Acquire;Boston社製)を使用した.FNA針はEchoTip Ultra(COOK社製),Expect(Boston社製),EZshot(Olympus社製)のいずれかを用いた.
EUS下穿刺吸引生検は,病変を穿刺した後にスタイレットを抜去してシリンジを装着し,10-20mlの陰圧をかけて病変内で10-20回ほどストロークを行った.穿刺針を抜去した後にスタイレットを挿入して検体を押し出し,ホルマリン固定をして組織標本を作成した.プレパラート作成後,HE染色と免疫組織化学染色を施行し,病理学的評価を行った.
すべての患者より処置前にインフォームドコンセントを取得した.すべての手技は経験豊富な内視鏡医自身か,あるいは直接監督の下に行われた.検体は各々の施設の細胞検査士によって処理され,病理専門医によって診断された.
評価項目と定義主要評価項目は確定診断率とし,副次評価項目は良性切除率とした.FNB群とFNA群の間で比較検討を行った.またFNB針における確定診断に関連する因子の検討も行った.
確定診断は診断に適正な組織検体が採取され,HE染色と免疫組織化学染色にて確定的な診断が得られたものとし,疑い例は除外した.良性切除率はEUS下穿刺吸引生検の結果,GISTあるいはGIST疑い,またはGISTが否定できず腫瘍切除が施行されたが,切除標本において良性の結果であった症例の割合とした.
統計解析カテゴリー変数の比較検討にはFisher’s exact testを使用し,連続変数にはMann-Whitney U-testを使用した.確定診断に関連する因子の検討では,単変量解析においてP<0.1であった項目に対し,ロジスティック回帰分析による多変量解析を行った.
対象の選択においては傾向スコアマッチング法を行い,性別,年齢,病変部位,病変径,穿刺針径,穿刺回数,に関して調整を行った.
統計解析にはR version 3.4.1(The R foundation for Statistical Computing)を使用した.P<0.05を統計学的に有意とした.
160例が基準を満たし登録され,FNB群は57例,FNA群は103例であった.Table 1に対象の性別,年齢,病変部位,病変径,穿刺針径,穿刺回数の患者背景を示す.マッチング前は穿刺針径に関して両群に有意差を認めたが,マッチング後はいずれの項目も有意差を認めなかった.
患者背景.
Table 2に両群の診断能の比較検討結果を示す.組織検体採取率はマッチング前(FNB群84%[48/57)] vs FNA群66%[68/103],P=0.016),マッチング後(FNB群84%[48/57)] vs FNA群63%[36/57],P=0.018),共に有意にFNB群で良好であった.確定診断率もマッチング前(FNB群82%[47/57)] vs FNA群57%[59/103],P=0.002),マッチング後(FNB群82%[47/57)] vs FNA群60%[34/57],P=0.013),共に有意にFNB群で良好であった.
診断能の比較検討.
FNB群で診断に至らなかった症例のうち,3例が腫瘍切除を施行された.FNA群では診断に至らなかった44例中18例で切除が施行された.いずれもGISTが否定できず切除を施行されたが,FNB群1例とFNA群12例の合計13例が切除標本による最終病理診断は平滑筋腫あるいは神経鞘腫であった(Figure 1).以上より,マッチング前の良性切除率はFNB群2%(1/57),FNA群12%(12/103)であり,有意にFNB群で低値であった(P=0.033).マッチング後も,FNB群2%(1/57),FNA群14%(8/57)であり,有意にFNB群で低値であった(P=0.032).
Outcomes of 160 patients with subepithelial tumors, who underwent endoscopic ultrasound-guided sampling.
GIST, gastrointestinal stromal tumor; EUS, endoscopic ultrasound; FNB, fine-needle biopsy; FNA, fine-needle aspiration.
偶発症率はマッチング前(FNB群4%[2/57] vs FNA群2%[2/103],P=0.617),マッチング後(FNB群4%[2/57] vs FNA群4%[2/57],P=1.000),共に有意差は認めなかった(Table 2).FNB群で出血を呈した1例が内視鏡的止血術を要したが,その他の症例はいずれも保存的に軽快が得られた.
FNB針の確定診断に関連する因子FNB針における確定診断に関連する因子として,性別,年齢,病変部位,病変径,穿刺針径,穿刺回数,FNB針の種類,の各項目に関して検討を行った(Table 3).単変量解析では病変径>20mmが≦20mmに対して有意に確定診断率が高い結果であり(97%[29/30] vs 67%[18/27],P=0.004),多変量解析においても病変径は独立した関連因子として同定された(オッズ比14.20,95%信頼区間1.61-125.00,P=0.017).
FNB針における確定診断に関連する因子の検討.
本研究の結果では,SETの診断においてFNB群はFNA群よりも有意に確定診断率が良好であった.また良性切除率もFNB群で有意に低い結果であった.
FNB針は特徴的な先端構造を有した穿刺針であり,側孔付き針 9),フォークチップ針 10),フランシーン針 11),などが登場している.これらFNB針は,検体の質と量を向上させることによって診断率の向上を図っている 2).しかし,現在までの膵腫瘍を中心とした充実性腫瘍に対するFNB針(側孔付き針)とFNA針との比較試験 12)~17)では,診断率は変わらなかったとする報告が多い.一方で組織検体はFNB針でより多く採取され,また組織検体の質もFNB針の方が良好であったという報告もなされている.これらの結果を踏まえ,近年の欧州消化器内視鏡学会ガイドライン 2)ではFNB針とFNA針は同列の推奨とはなっているものの,組織検体採取を目的とする場合には「weak recommendation」としてではあるが,FNB針の使用が推奨されている.現在までの比較試験はほとんどが膵癌を中心とした膵腫瘍が標的であり,膵癌の診断に関しては細胞診で十分な場合も多いことから,診断率に有意差を認めなかった可能性も考察される.SETの様な診断に免疫染色が必須で 3),構造の保たれた組織を採取する必要がある場合には,FNB針が優位性を示す可能性がある.
一方でSETに対するFNB針の診断能を評価した検討は少なく,比較試験は現在まで4報の報告に留まっている(Table 4) 13),18)~20).3報は10から20例程の報告であり,そのうち2報はFNB針の診断率が有意に良好であったことを示し(75% vs 20%,P=0.01) 18)(87% vs 53%,P=0.01) 19),もう1報はFNB針の診断率が高値ではあったものの有意差は認めなかったと報告している(82% vs 68%,P=0.488) 13).4報目は70例の報告であり,有意にFNB針の診断率が良好であったことを示しているが(83% vs 49%,P<0.001),FNB針は19あるいは22 gaugeが使用されていたのに対し,FNA針は22あるいは25 gaugeが使用されていた 20).本研究の結果は,FNB針の診断率が有意に高値であり,良性切除率も低値であった.SETの病理検査ではGISTの拾い上げと共に,手術適応を適切に判断するため平滑筋腫や神経鞘腫などの確定診断を得ることも重要となる.以上の点からもFNB針はSETの診断において有用となり得ると考えられる.
SETに対するFNB針とFNA針の比較試験.
病変径に関しては,現在までのFNB針の検討は20mm以上を対象とした報告がほとんどを占めている.このため小病変に対するエビデンスは乏しいが,平均病変径16mmのSETを対象とした側孔付き針の報告では,十分な組織検体は25%でしか得られなかったことが示されている 21).また,本研究では15mm以上の病変を対象としたが,20mm以下においてFNB針の診断率は有意に低下を認めた.以上より小病変ではFNB針による診断率向上効果は限定的な可能性がある.しかし側孔付き針では針の先端から側孔までの長さの分ストロークが制限され,小病変には適さない可能性が示唆されており 21),22),フランシーン針であれば小病変でも結果は異なる可能性がある.小病変に対するFNB針の有用性に関してはさらなる検討が必要である.
偶発症に関しては,FNB針ではその特徴的な先端形状のため,出血の増加などが懸念される.FNB針の偶発症が有意にFNA針より増加したという報告は認めていないが 23),EUS下穿刺吸引生検の偶発症率は非常に低いため検出力不足の可能性がある 2).本研究においても両群間で偶発症率に有意差は認めなかったが,FNB群では出血を2例認め,そのうち1例は内視鏡的止血術を要した.SETは多血性の場合が多いため,特にFNB針を使用した場合には慎重に出血の有無を確認することが望ましい.
本研究は,非ランダム化,後方視的研究であり制限がある.傾向スコアによるマッチングを行ったが選択バイアスを完全に排除することはできない.またFNA群,FNB群それぞれで使用した穿刺針が統一されていない.加えてFNA針がFNB針よりも以前に使用されており,内視鏡医や病理医のスキルやラーニングカーブが結果に関与した可能性がある.このため今後,多施設共同無作為化比較試験にて検討する必要がある.
結論として,SETに対するEUS下穿刺吸引生検では,FNB針を使用することにより診断能向上を期待し得る.一方で小病変においては,FNB針による診断率向上効果は少ないかもしれない.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし