GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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A CASE OF DELAYED BLEEDING THIRTY-SIX DAYS FOLLOWING RECTAL POLYPECTOMY
Shozo OSERA Hiroaki IKEMATSUKeiichiro NAKAJOTomonori YANO
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2020 Volume 62 Issue 10 Pages 2280-2284

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要旨

大腸ポリープ切除術後の出血は,術後数日以内に発症することが多い.術後30日以上経過し,後出血を起こした症例を経験した.症例は76歳男性.脳梗塞の既往があり,アスピリン単剤内服中であった.大腸内視鏡検査で下部直腸に6mm大の鋸歯状腺腫を認め,hot snare polypectomyで切除した.術後36日目に血便を認め,緊急大腸内視鏡検査を施行し,ポリープ切除後創部に,15mm大の先端から湧出性出血を伴う肉芽ポリープを認めた.肉芽ポリープ切除とクリップ法により止血した.大腸ポリープ切除術後30日以上経過し,かつ後出血のリスク因子がなくても,創部に肉芽ポリープが形成され後出血は起こり得る.術後30日以上経過した血便でも,後出血を否定する必要がある.

Ⅰ 緒  言

大腸ポリープ切除術後の偶発症として後出血があるが,一般的に切除後数日以内に起こることが多い.今回,大腸ポリープ切除術後30日以上経過し,創部に肉芽ポリープを形成することで後出血を発症した症例を経験した.

Ⅱ 症  例

症例:76歳,男性.

既往歴:脳梗塞.

内服薬:アスピリン単剤3年間内服中.

現病歴:スクリーニング目的で施行された大腸内視鏡検査で直腸ポリープを指摘され,当院に紹介となった.大腸内視鏡検査で,下部直腸に,白色光観察で6mm大の発赤調Ⅰsポリープを認めた(Figure 1).インジゴカルミン散布で松毬様所見を呈しⅣH型 pit 1を認めた(Figure 2).鋸歯状腺腫と診断し,アスピリンは休薬せずにhot snare polypectomy(ICC200,Forced coagulation 15W)による内視鏡的切除術を施行した.術中出血は認めなかった.病理組織学的診断は鋸歯状腺腫で,水平断端・垂直断端いずれも陰性であった.

Figure 1 

大腸内視鏡検査.下部直腸に,白色光観察で6mm大の発赤調Ⅰsポリープを認めた.

Figure 2 

大腸内視鏡検査.インジゴカルミン散布で松毬様所見を呈しⅣH型pitを認めた.

ポリープ切除術後36日目に血便を認め緊急受診した.血液検査で,ポリープ切除前はHb 14.4g/dlだったが,受診時Hb 11.4g/dlと貧血の進行を認めた.緊急大腸内視鏡検査が施行され,ポリープ切除後の創部に長径約15mm大の索状物を認め,索状物の先端から湧出性の出血を認めた(Figure 3).索状物の基部をhot snare polypectomyで切除したが湧出性出血が続いたため(Figure 4),クリップ法により止血を得た.病理組織学的に索状物は,線維組織増生に炎症性細胞浸潤を認める肉芽組織であった(Figure 5).その後,出血はみられず,1年後の大腸内視鏡検査で創部は瘢痕化していた.

Figure 3 

大腸内視鏡検査.ポリープ切除後の創部に長径約15mm大の索状物を認め,索状物の先端から湧出性の出血を認めた.

Figure 4 

大腸内視鏡検査.索状物の基部をhot snare polypectomyで切除したが湧出性出血が続いた.

Figure 5 

病理組織学的所見.線維組織増生に炎症性細胞浸潤を認める肉芽組織であった.

Ⅲ 考  察

本症例で,大腸ポリープ切除術後30日以上経過しても,創部に肉芽ポリープが形成され後出血を起こす可能性があることが示された.

大腸ポリープ切除術による偶発症のうち,出血は最も一般的なものである 2.ポリープ切除術に関連した出血として,術中出血と遅発性に起きる後出血がある.後出血の定義は,日本消化器病学会の大腸ポリープ診療ガイドライン 3では,Hb 2.0g/dl以上の低下あるいは血便を来したもの,日本消化器内視鏡学会の大腸ESD/EMRガイドライン 4では,Hb 2.0g/dl以上の低下あるいは顕性の出血を認めたもので,多少便に血が混じる程度の少量の出血は含めないとされている.大腸ポリープ切除術後の後出血の頻度は,0.3%~1.6%と報告されている 5)~7.また,発症時期は,術後3~7日が多い 8)~10.2019年以前で,「polypectomy」,「bleeding」をkey wordとしてPubMedを文献検索した範囲では,後出血発症時期の最長は29日で 11,30日以上経過し出血を来した報告は認められない.

ポリープ切除術後出血に関連するリスク因子として,ポリープの大きさが報告されている 5),12)~16.その他の因子として,切除個数が多いもの 17),18,肉眼型が有茎性 12,局在が右側結腸 12や直腸 19のものは,後出血の高リスクであると報告されている.前述の術後29日に後出血を起こした症例 11は,盲腸の25mm大の無茎性の腺腫とS状結腸の15mm大の有茎性の腺腫をそれぞれ切除し,盲腸の切除後の創部から出血を認め,局在,大きさ,切除個数がリスク因子であった.それに対し本症例は,局在は直腸で後出血のリスク因子であったが,大きさ6mm,単発,無茎性であり,その他の項目はリスク因子に該当しなかった.

抗血小板剤や抗凝固剤の内服と後出血のリスクに関しては,ワーファリンはリスク因子とされている 6),15),20.また,アスピリンとクロピドグレルの併用はリスク因子だが,アスピリン単剤やクロピドグレル単剤内服は,関連しないと報告されている 6),8),17),20),21.本症例では,抗血小板剤としてアスピリン単剤を内服していたが,その他の抗血小板剤や抗凝固剤は内服していなかった.

大腸内視鏡治療時の抗血栓薬の取り扱いについて,日本消化器内視鏡学会から「抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン」 22が発表されている.ポリープ切除術は出血高危険度の消化器内視鏡に該当し,「出血高危険度の消化器内視鏡において,血栓塞栓症の発症リスクが高いアスピリン単独服用者では休薬なく施行してもよい.血栓塞栓症の発症リスクが低い場合は3~5日間の休薬を考慮する」と記載されている.なお,米国消化器内視鏡学会のガイドラインでは,出血高危険度の内視鏡治療に対し,アスピリン継続を提案している 23.さらに,英国消化器病学会と欧州消化器内視鏡学会のガイドラインは,内視鏡的粘膜下層剝離術や2cmを超える内視鏡的粘膜切除術を除く大腸内視鏡治療では,アスピリン継続を推奨している 24.本症例は,脳梗塞の既往があるも,日本消化器内視鏡学会のガイドラインの「休薬による血栓塞栓症の高発症群」 22には該当しなかった.しかし,血栓塞栓症を発症するとしばしば重篤になることから,患者と十分に相談した上で,アスピリンは休薬せずにポリープ切除術を行った.

大腸の肉芽ポリープは,組織欠損部に治癒反応として過度の線維組織の修復が起こり,過剰増殖を来し隆起が形成されたものである 25.自動吻合器の針や縫合糸などが原因で,腸管切除後の吻合部に発生することが時としてあるが,ポリープ切除術後に肉芽ポリープを形成することは比較的稀とされている 26.本症例では,局在が肛門に近い下部直腸であり,創部に過度の機械的刺激が起こり反応性の炎症性肉芽腫を形成したと推察される.

後出血は,一般的にポリープ切除後創部のびらんや潰瘍から出血するが,本症例は創部に肉芽ポリープを形成しその先端から出血がみられ,アスピリン内服は出血の一因と考えられた.また,肉芽ポリープの中には血管が豊富なものがあり 27,出血を起こすことがある.本症例では,基部を切除後も出血が続いたことから,血管が豊富な肉芽ポリープのため出血を来した可能性が示唆された.

Ⅳ 結  語

大腸ポリープ切除術後30日以上経過しても,創部に肉芽ポリープが形成されることで後出血は起こり得る.大腸ポリープ切除術後30日以上経過した血便でも,大腸内視鏡検査を施行し,後出血を否定する必要がある.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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