GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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PREOPERATIVE DIAGNOSIS OF DISTAL CHOLANGIOCARCINOMA: FOCUSING ON THE ROLE OF ENDOSCOPIC-RELATED PROCEDURES IN ITS EVALUATION AND MANAGEMENT
Hiroshi KAWAKAMI
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2020 Volume 62 Issue 12 Pages 3090-3104

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要旨

胆管癌の診断は主病巣の診断の他に,垂直方向と水平方向への進展度診断が必要となる.進展度診断は肉眼分類に応じて適切に選択する必要がある.特に,水平方向進展度診断が術式決定のために重要である.乳頭型や結節膨張型では粘膜上皮を癌が置換する表層進展が多く,結節浸潤型や平坦浸潤型は壁内進展が多い.したがって,乳頭型や結節膨張型では胆管内腔の所見が重要視されるが,結節浸潤型や平坦浸潤型では胆管の壁内(粘膜下)と壁外進展の所見が重要である.本稿では遠位胆管癌に対する診断の実際を内視鏡的診断を中心に解説する.

Ⅰ はじめに

胆管癌は早期診断が困難であり,閉塞性黄疸を契機に発見されることが多い.その診断に内視鏡が果たす役割は大きい.特に,EUSとERCP関連手技は精密診断に不可欠な検査法である.外科手術は難易度が高く,手術侵襲も大きいため偶発症も少なくはない.したがって,EUSやERCP関連手技による正確な診断により,適切な術式を立案することが求められる.しかし,最近では高齢者を対象にすることが多く,内視鏡処置により重篤な偶発症をきたすこともあるため,その検査適応は患者の全身状態などに応じて慎重に判断するべきである.

遠位胆管癌の診断は,低侵襲かつ簡便な血液検査とUSをまず行い,次にCT,MRI(MRCP;magnetic resonance cholangiopancreatography)にて局在および進展度診断を行う.切除可能と考えられる症例に対しては,EUSおよびERCP関連手技(管腔内超音波検査(intraductal ultrasonography:IDUS),胆道鏡,経乳頭的細胞診・生検)による水平方向および垂直方向進展度診断を行うことが推奨されている 1.本稿では内視鏡的診断手技とそのポイントにつき解説する.

Ⅱ 胆管癌の肉眼分類と進展形式

胆管癌の肉眼型は胆道癌取扱い規約第6版 2では,乳頭型,結節型,平坦型に分類され,それぞれ膨張型と浸潤型に亜分類されている.肉眼型の頻度と治療方針を考慮した場合,乳頭型,結節膨張型,結節浸潤型,平坦浸潤型の4つに分類するのが合理的である.

進展度診断は垂直方向と水平方向に分けて考える必要がある.垂直方向進展度診断は腫瘍の壁深達度診断の他,周囲血管(門脈・肝動脈)への浸潤の有無が手術適応や術式決定に重要である.水平方向進展は表層進展,壁内(粘膜下)進展,壁外進展(浸潤)の3つがあり,肉眼分類と関連している.

乳頭型や結節膨張型では高~中分化型腺癌が多く,比較的境界明瞭な隆起性病変を呈する.壁外進展は軽度のことが多いが,主病巣から肝側あるいは十二指腸乳頭側への粘膜上皮内の表層進展を呈することが多い 3.特に,肝門部領域胆管への表層進展の有無は遠位胆管癌の術式に影響を与えるため,正確な評価が必要となる.

結節浸潤型や平坦型では低~中分化型腺癌が多く,癌の粘膜下浸潤と線維化による壁内・壁外進展が多い.癌進展の先進部は粘膜下にあり,非癌部粘膜との境界は不明瞭である.深部浸潤は腫瘍の中心部がもっとも高度で壁外に進展していることが多く,表層進展は少ない 3

Ⅲ 表層拡大進展

主病巣から2cm以上の広範囲の粘膜上皮内進展は表層拡大進展と定義され,遠位胆管癌の25~38% 4),5に表層拡大進展が認められると報告されている.肝門部領域胆管癌を含めた成績ではあるが,主病巣の肉眼分類は乳頭型58%,結節膨張型27.5%,浸潤型14.5%との報告 4がある.遠位胆管癌における表層拡大進展は乳頭型・結節膨張型90%,浸潤型10%との報告 5もある.いずれにせよ,乳頭型と結節膨張型に多い.

Ⅳ 遠位胆管癌の画像診断

実際の診断は胆道癌診療ガイドラインにおける診療アルゴリズム 1を参考にすると良い.いずれの画像診断もアーチファクトを避けるために,胆道ドレナージ施行前に行うべきである.

1.US

腫瘍描出率は十二指腸乳頭部近傍ほど困難となることが多いが,肝側胆管の拡張は遠位胆管癌を疑う重要な間接所見である.感度89% 6,正診率80~95% 7と報告されている.装置感度や分解能の向上が得られているが,術者の技術や被験者の条件により描出能が左右されることが問題点である.

表面構造がやや不整で内腔側の境界エコーが消失している内側低エコー層の壁肥厚像が腫瘍の表層進展を反映するとする症例報告を認めるが,まとまった成績はない.

USを施行する際のポイントは,高周波コンベックスプローブを使用した拡大観察に加え,肝外胆管の走行(逆 “く” の字)を念頭に置き,体位変換(左側臥位や坐位)を活用して胆管全体の描出率を向上させることである.

2.Multi detector-row computed tomography(MDCT)(Figure 1
Figure 1 

CT(冠状断像).

a:遠位胆管癌(乳頭膨張型).十二指腸乳頭部近傍の遠位胆管に造影増強効果を伴う腫瘍を認めた.腫瘍の内部は不均一に造影され,乳頭状構造の存在を疑った.

b:遠位胆管癌(結節浸潤型).遠位胆管に造影増強効果を伴う腫瘍を認めた.肝側は胆嚢管合流部近傍まで壁肥厚がみられ,乳頭側にも壁肥厚が認められた.乳頭側の肥厚は肝側より程度が強かった.いずれも壁内進展を疑う画像所見である.

MDCTはMRIと比較して,検査時間が短く,広く普及しており予約も入りやすい.また,1回に広範囲の撮像が可能であり,安定した画像が得られやすいこと,MRIと比較して空間分解能に優れること,よりその適応範囲は広い.放射線被曝や造影剤アレルギーの可能性があること,経口血糖降下剤の服用や慢性腎障害では造影剤腎症を発症する可能性があること,ERCPと比較して空間分解能が劣ること,が問題点である.

遠位胆管癌の局所進展度診断においてMDCTは大きな役割を担っており,肝・肺転移,リンパ節転移,腹膜播種などの非切除因子が除外された場合は根治切除の可能性を検討する.

胆管癌は胆管狭窄および胆管内腔の腫瘍や壁肥厚として描出される.16列MDCTの正診率はT因子73%,N因子63%,M因子は97%と報告されている 8.現時点で64列以降のMDCTの感度や正診率に関する報告は主病巣に関してはない.

乳頭型や結節膨張型(Figure 1-a)では胆管内腔に主腫瘍が描出され,動脈相では造影増強効果を強く認め,平衡相にかけて徐々に造影効果は低下する.結節浸潤型(Figure 1-b)や平坦浸潤型では胆管壁の肥厚として描出され,動脈相から平衡相にかけて徐々に造影増強効果が強くなり,遅延性濃染を呈する 9.肉眼分類の正診率は78%と報告されている 10

MDCTは胆管狭窄の部位の診断に加え,垂直方向や水平方向の進展度診断を行う.垂直方向進展度診断は腫瘍の壁深達度診断や周囲血管(門脈・肝動脈)への浸潤の有無が手術適応や術式決定に重要である(Table 1).

Table 1 

遠位胆管癌に対する進展度診断法のまとめ.

水平方向進展度診断は精密胆管造影検査に迫るまでになっている.しかし,ドレナージチューブにより狭窄や内腔の評価が困難になること,ドレナージ後に胆管拡張が改善することで狭窄範囲が認識困難となること,チューブの留置により胆管壁が肥厚することなどから,胆道ドレナージ前に評価する必要がある.

水平方向進展範囲の診断にもっとも重要な所見は,胆管壁の肥厚と肝側と十二指腸乳頭側の造影効果である.主病変より連続する造影効果がみられた場合,胆管長軸方向への腫瘍進展を強く疑う.しかし,64列のMDCTによっても肝側進展の感度75%,特異度93%,乳頭側進展の感度33%,特異度100%と報告 11されており,表層(拡大)進展の診断はいまだ困難と言わざるを得ない.また,胆管壁肥厚のみを認める病変では,良・悪性の鑑別診断は困難であり,閉塞性胆管炎を合併している例,表層拡大進展例,主病巣からスキップして病変が存在している例でも診断は困難である.

3.MRI・MRCP

MRI・MRCPは狭窄部より中枢側の拡張胆管の検出に有用で,生理的な状態を反映している.USやEUS,ERCPに比較して術者依存性はなく,T1強調・T2強調画像を組み合わせることにより,胆管外の病変の評価も可能である.しかし,CTと比較して機器の普及率が低く検査予約が入りにくいこと,患者の協力(安静,息止め)が必要であること,体内金属が禁忌となること,ERCPと比較して空間分解能が劣ることが問題点である.

MRIの診断感度は91%,特異度は47% 12,メタ解析によるMRCPの感度は88%,特異度は95%と報告されている 13.これらは1.5テスラMRIシステムを用いた報告であり,CT同様に現時点で最新の機種である3.0テスラMRIシステムによる報告はない.

4.内視鏡的検査

US,MDCT,MRIで肝・肺転移,リンパ節転移,腹膜播種などの非切除因子が認められた場合は,黄疸例に対する胆道ドレナージと化学療法前の経乳頭的生検や細胞診のみを行う.

1)EUS

胆管狭窄の診断能が高く,helical CTとの比較ではEUSの局所診断能が優れているとの報告が散見 14),15されるが,MDCTとの比較検討はない.

近年,EUSは長足の進歩を遂げている.ラジアル型EUSは電子ラジアル型が主流となり,B-mode画像の高画質化やカラー・パワードプラ断層法,造影イメージング法(ハーモニック法)といった血流情報が加わり,診断に重要な役割を果たしている.また,組織情報としてエラストグラフィ法による組織硬度による診断も可能となった.しかし,術者依存性であり,ERCPほどではないものの侵襲的であること,ラジアル型EUSでは肝門部領域から肝実質・肝内胆管の観察は困難であること,が問題点である.一方,コンベックス型EUSでは肝門部領域から肝実質・肝内胆管の観察が可能であるが,体格などの個人差により観察深度を超えると診断できないことがある.特に5cmを超える観察深度では診断が困難となる.

メタ解析によると,EUSによる主病巣の診断は感度78%,特異度84%と報告されている 16.高画質化した電子スキャン方式のEUSによる報告はないが,電子スキャン方式では主病巣の診断能より局所進展度の診断能が向上しているものと推測される.

EUS所見は,主病巣は胆管壁の狭窄・閉塞を伴う限局性の内側低エコー層の肥厚あるいは低エコー領域として認められる.肉眼分類が乳頭型・結節膨張型では内腔側の表面が不均一で凹凸不整を呈する(Figure 2).エコーレベルは高エコーを呈する場合もある.平坦型では表面に凹凸がなく,びまん性で均一な肥厚(Figure 3)を呈する.

Figure 2 

EUS(遠位胆管癌,乳頭膨張型).

コンベックス型の超音波内視鏡(EUS)により遠位胆管に表面乳頭状で内部不均一な腫瘤が認められた.一部,外側高エコー層が不明瞭化しており,同部位で膵実質浸潤を示した.肝側の胆管内側低エコー層には肥厚は認められなかった.

Figure 3 

EUS(遠位胆管癌,平坦浸潤型).

ラジアル型の超音波内視鏡(EUS)により膵実質内とその直上には境界エコーを伴った内部が比較的均一な内側低エコー層の肥厚が認められた.外側高エコー層は保たれており,深達度はSS浅層と診断した.

胆管の最外高エコー層の菲薄化や不整,断裂がみられた場合は悪性を疑い,明らかな周囲臓器への浸潤所見(Figure 4)があれば癌と診断する.しかし,強い炎症によっても外側高エコー層に不整が生じることがあるため,胆管炎との鑑別診断は困難なことがある.

Figure 4 

EUS(遠位胆管癌,平坦浸潤型).

ラジアル型のEUSにより遠位胆管内に内部不均一な低エコー性内側低エコー層の肥厚として認識された.また,外側高エコー層は不明瞭化し,膵実質と連続していたため,膵実質浸潤と診断した.一見すると,膵内に腫瘤があるように観察されるが,胆管の長軸に沿って壁肥厚がある点が膵癌との鑑別のポイントとなる.

EUS画像による胆管壁構造については廣岡ら 17が詳細に解説している.胆管のEUS画像は3層(内側より高・低・高エコー)あるいは2層(内側より低・高エコー)に描出される.3層の場合は,1)内側高エコー層(境界エコー)が粘膜層(M),2)低エコー層は線維筋層(FM)と漿膜下層(SS)の一部,3)外側高エコー層はSS深層から漿膜(S)に相当する.2層の場合は,1)内側低エコー層がM~SSの一部,2)外側高エコー層はSS深層からSに相当する.高エコー層は脂肪組織を反映している.現状のEUSでは胆管のM,FM,SS浅層を異なるエコーレベルとして認識することは困難である.すなわち,M~SS浅層は区別できないため,T1a(M)とT1b(FM)の正確な診断は困難である.一方,T2(胆管壁外浸潤),T3a(膵,十二指腸,胆嚢浸潤)は診断可能である.T3b(門脈浸潤)やT4(総肝動脈・腹腔動脈・上腸間膜動脈浸潤)の診断については,US,CT,MRIの併用が必要である.実臨床では遠位胆管癌において腹腔動脈や上腸間膜動脈浸潤をきたすことは稀であるため,T4はむしろ膵頭部癌を想定することになり,遠位胆管癌はT1~T3の3種類になることが多い 18

現時点で胆管癌の主病巣や局所進展に対するEUSエラストグラフィ法の報告はない.

EUSで観察可能な胆管周囲リンパ節は,12番(12h:肝門部,12a1・2:上・下肝動脈,12p1・2:上・下門脈,12b1・2:上・下胆管,12c:胆嚢管),13番(13a・b:上・下膵頭後部),17番(17a・b:上・下膵頭前部)である.リンパ節転移の正診率は55.1%,感度は81.3%,特異度23.1% 19と報告されている.B-mode画像では10mm以上,低エコー,(類)円形,辺縁平滑(intranodal growth),辺縁不明瞭あるいは不整(extranodal growth),内部不均一,リンパ節門部(高エコー域)の構造消失,壊死を疑わせる無エコー領域の存在,などが悪性を示唆する所見と報告されているが,良性でも同様の所見を呈することがあり,形態診断のみでは困難である.造影ハーモニックEUSでは転移リンパ節は血流が豊富で流入や不均一な造影あるいは充盈欠損として認識される.感度は87.7%,特異度は91.8%と報告されている 20.EUSエラストグラフィ法では診断法はカラーパターン(elastic score),strain histogram,strain ratio,elasticity ratio,などの解析が用いられている.メタ解析では,悪性の感度は88%,特異度は85%と報告されている 21.注意するべき点は,カラーパターンは組織硬度の相対値であり,データの客観性に欠けることである.解析にはstrain histogramやstrain ratio解析の追加が望ましく,その普及が待たれる.術前や切除不能の転移診断にはEUS-FNAが必要となる.

遠位胆管癌の術式決定のためには水平進展範囲診断がもっとも重要である(Table 1).乳頭型や結節膨張型(Figure 1-aFigure 2)では表層拡大進展を合併しやすいため,主病巣と連続する内側低エコー層の肥厚の有無に注意する.表層(拡大)進展による肥厚は狭窄・閉塞部から非狭窄部にかけて連続性に認められる.乳頭状ないし顆粒状を呈し,表面が凹凸不整を呈することが多い(Figure 5).しかし,しばしば平滑な内側縁で,対称性,均一な壁肥厚を呈するため,IgG4関連硬化性胆管炎などとの鑑別診断は困難であり,生検診断を要する 22.さらに,比較的平坦な構造を呈する場合は,表層進展と壁内進展の鑑別診断は不可能である 22

Figure 5 

EUS(遠位胆管癌,乳頭膨張型).

コンベックス型EUSにより遠位胆管内の腫瘤と連続した肝側は左肝管より末梢側にも表面凹凸不整な内側低エコー層の肥厚が連続していた.右肝管も同様であり,表層拡大進展と診断した.

2)ERCP

胆管像の全体像の把握の基本となる検査法であるが,胆道癌診療ガイドライン 1ではERCPは必須の検査とは位置づけられておらず,推奨度はC1である.

空間分解能は高いが,術者依存性で侵襲的検査であることが問題点である.ERCP後膵炎の合併や内視鏡的乳頭括約筋切開術(endoscopic sphincterotomy:EST)後の後腹膜穿孔は非切除因子となる可能性もある.

胆管狭窄の診断感度は75~85% 23),24,特異度は70~75% 23),24,正診率は95% 25と報告されている.

胆管癌のERC所見は,透亮像,壁不整像,狭小,狭窄,閉塞である.狭窄部より肝側の胆管拡張を伴うものを狭窄,伴わないものを狭小とする 26

胆管癌では壁不整,非対称性・片側性,急峻な立ち上がりを呈する狭窄が特徴であり(Figure 6-a),良性疾患では平滑,対称性,中心性の狭窄を呈することが多い 27.平坦浸潤型では平滑な狭窄をきたすため良・悪性の鑑別診断は困難である.乳頭型や結節膨張型では透亮像を呈する(Figure 6-b).表層進展の所見は主病巣と連続する小透亮像(細~小顆粒状変化)や胆管壁の微細な不整像(毛羽立ち像)であり(Figure 7),正診率は22~43% 28),29と報告されている(Table 1).

Figure 6 

内視鏡的逆行性胆管検査(ERC).

a:遠位胆管癌(結節浸潤型)ERCにより遠位胆管に狭窄が認められた.狭窄に壁不整を伴っており,悪性と診断した.

b:遠位胆管癌(乳頭膨張型)ERCにより遠位胆管内に不整な陰影欠損像が認められた.腫瘍の表面は凹凸不整で乳頭状を呈していた.

Figure 7 

ERC(遠位胆管癌,乳頭膨張型).

ERCにより遠位胆管に表面凹凸不整を伴う片側性の陰影欠損像がみられ,乳頭側の胆管壁は微細な不整像,肝側胆管壁には小透亮像がみられ,表層拡大進展と診断した.a:ERCは乳頭部近傍から行い,b・c:主病巣の乳頭側から詳細な描出を行い,d:その後,緩徐に腫瘍の肝側の造影を加えて評価を行う.

ERCPを施行する際のポイントは,選択的胆管挿管後にERCPカテーテルを乳頭部近傍に位置させ,緩徐に造影剤を注入していくことである(Figure 8-a).カテーテルは不用意に肝側に進めないように注意する.狭窄・閉塞部より肝側胆管が描出されない場合はカテーテルを狭窄部突破させた後,肝側から造影を加えていく(Figure 8-b).この際,胆管内圧が上昇し,逆行性胆管炎を生じさせないように注意する.特に遠位胆管癌に対しては,肝内第二次分枝(前・後区域,左肝管)以上の造影は控えるように心掛ける(Figure 8-c).次いで,肝側胆管のみならず,カテーテルの引き抜き造影や内視鏡の捻り操作も加えて狭窄部の形態を評価する(Figure 8-c).ERCの際には狭窄部に連続して壁の異常がないかについても精査を行う(Figure 8-d).遠位胆管癌の場合は内視鏡に狭窄部が重なることが多く,必要に応じて内視鏡的経鼻胆道ドレナージチューブを留置して,減黄後に体位変換を加えながら再度胆管造影を行うと良い(Figure 9).

Figure 8 

ERC(遠位胆管癌,結節浸潤型).

a:選択的胆管挿管後,十二指腸乳頭部近傍から造影を緩徐に行い,狭窄部より乳頭側のERCを行う.b:狭窄部や遠位胆管を描出し,c:狭窄部を突破させた後に肝側から造影を加える.d:肝内胆管の第二次分枝まで描出し,逆行性胆管炎を生じさせないように注意する.また,ERC施行中に内視鏡に反時計方向の捻りを加えることにより狭窄上縁と下縁の形態が認識できた.肝側と乳頭側には明らかな壁の不整像は認められなかった.

Figure 9 

ERC(遠位胆管癌,平坦浸潤型).

a:ERCにより,内視鏡の背側に狭窄部位が存在していた.詳細な胆管像の評価はできなかったため,造影に引き続いて管腔内超音波検査による精査を優先した.

b:専用内外瘻ステントを留置して,後日胆管造影を行ったところ,狭窄形態が明らかとなった.造影後,外瘻を抜去して内瘻とした.

3)Intraductal ultrasonography(IDUS)

一般的にはガイドワイヤ誘導式の細径プローブ(超音波周波数20MHz,挿入部外径2.9mm)が用いられている.方位分解能は2mm以下とされているが,病変の高さが0.5mm以上であれば認識可能であるとされている 30.有効描出深度は2cm程度が限界であり,胆管拡張が著明な場合は胆管周囲の血管やリンパ節の評価は困難である.また,肝内胆管はプローブと胆管壁との距離が取れないため評価困難となる.さらに,狭窄が高度の場合はプローブが突破できないことも問題点である.

壁構造の解釈はEUS同様である.胆管癌の主病巣はEUS同様に胆管壁の限局性の内側低エコー層の肥厚として認められる.主病巣の辺縁に胆泥が付着していることがあるが,内部が実質様エコーを呈するかが鑑別診断のポイントである.

壁深達度診断の正診率は80~90%,膵実質浸潤は90%前後と報告されている(Figure 10 31.垂直方向進展度診断では右肝動脈や門脈の浸潤の診断が可能であり,いずれも90%以上と報告されている 32

Figure 10 

IDUS(遠位胆管癌,結節浸潤型).

内側低エコー層の肥厚として認識される主病巣は外側高エコー層が不明瞭化し,周囲膵実質との境界も不明瞭であった.膵実質への浸潤と診断した.

右肝動脈や門脈への浸潤は血管外膜への浸潤があれば診断可能であり,腫瘍と血管の間の高エコー層の不明瞭化または消失を浸潤と判定する.しかし,腫瘍と脈管が接して存在していた場合は評価が困難となることがある.胆管癌は血管への直接浸潤がなくても,血管周囲の神経叢浸潤をきたすことが多いため,腫瘍と血管が接して境界不明瞭であれば浸潤と判定せざるを得ない.特に,平坦浸潤型では壁外進展が多く,血管浸潤や神経叢浸潤をきたしやすい.MDCTで血管周囲の脂肪組織の濃度上昇により神経叢浸潤と診断可能であってもIDUSでは認識できないこともあり,IDUSの限界と考える.実際に遠位胆管癌で右肝動脈浸潤が認められる例は肝門部領域胆管癌に比べて少ない.

水平方向進展度診断ではIDUSはもっとも期待された検査法であるが,現時点で適切な診断基準はなく,約80%の正診率とされている 28),31),32.壁肥厚の範囲が必ずしも進展範囲と一致しないこと,粘膜上皮を1層に置換して進展する癌の診断が困難なこと,が問題点として挙げられている(Table 1 31

IDUSを施行する際のポイントは,十二指腸乳頭部の開口部が小さい場合や膵管ステント留置後の状態を除いてEST施行前に行い,胆管気腫によるアーチファクトが生じないように努めることである.胆管挿管が困難な場合にはプレカットを行う場合も想定されるが,必要以上に切開を大きくしないように務める.造影剤注入前のIDUSは画像の歪みが少ないが,造影剤を使用しないことによる胆管の解剖学破格の存在などには注意を要する.IDUS施行前に胆管内に造影剤が充盈していない場合は造影剤を追加注入する.なお,可能であれば,IDUSはX線像と共に動画での録画を行い,後方視的検討が可能なようにするべきである.

4)胆道鏡

現在,経口胆道鏡(peroral cholangioscopy:POCS)が主流であり,特に術式選択が問題となる場合に適応となる.あくまで切除適応例に対して施行する精査法である.

高画質化した電子スコープ(CHF-B260,オリンパス社,東京)は良質な画像が得られるが,侵襲的であり,操作性は十分と言えないこと,専用生検鉗子が小さいこと,高いコスト,POCSの脆弱性が問題点であった.現在は操作性と耐久性が向上したディスポーザルの電子胆道鏡(SpyGlassTM DS:Boston Scientific社,東京)が汎用されている.

主病巣が悪性を示唆する所見は,1)不整拡張した蛇行血管,2)易出血性,3)不整な乳頭状腫瘍の増生,4)粘膜下腫瘍様の結節隆起と報告されている(Figure 11 33),34

Figure 11 

経口胆道鏡(POCS)(遠位胆管癌,乳頭膨張型).

主病巣(a)と肝門部領域胆管(b)の観察を行った.腫瘍は表面乳頭状で蛇行した不整な拡張血管を伴っていた.また,肝門部領域胆管にも連続して不整な細顆粒状粘膜がみられ,表層拡大進展と診断した.

主病巣のPOCS(CHF-B260,オリンパス社)所見は感度100%,特異度91.7%,正診率97%と報告 33されている.画質の改善と共に,narrow band imaging(NBI)により粘膜の表面構造,微細血管の詳細な観察が可能となることが報告されている 34

遠位胆管癌の乳頭型や結節膨張型は1)~3)を呈する.表層拡大進展の所見は主病巣と連続した不整顆粒状粘膜,あるいはイクラ状(魚卵状)粘膜が特徴的である 29.しかし,電子化されたPOCSによっても病理組織学的に粘膜上皮を1層に置換して進展する平坦な癌上皮からなる表層拡大進展は正常粘膜様に観察されるため,範囲診断は困難であり 29,生検診断を必要とする(Table 1Figure 12).

Figure 12 

POCS(遠位胆管癌,乳頭膨張型).

主病巣を突破して肝側の観察を行った.a:B2+3合流部にはガイドワイヤアーチファクトによる発赤がみられた.引き抜き操作により左肝管とB4合流部を観察し,b:近景,c:遠景により観察した.POCSでは異常所見は認められなかった.d:各々より専用鉗子による狙撃生検を施行し,平坦な癌上皮が認められたため,表層拡大進展と診断した.

主病巣のPOCS下生検では感度38.1%,特異度100%,正診率60.6%と報告 33され,POCS単独の内視鏡所見の成績を下回っている.これは,不十分な操作性による視野確保が困難なことと専用生検鉗子が小さいことにより検体量が不足していることが原因と考えられる.また,耐久性も問題である.SpyGlassTM DS(Boston Scientific社)下の生検はメタ解析により感度60.1%,特異度98%と報告されている 35.現在,電子スコープの耐久性を向上させ,観察深度が5~20mmに改良されたPOCS(CHF-B290,オリンパス社)が発売されている.

POCSを施行する際のポイントは,内視鏡を狭窄部突破させた後,肝側から観察を開始する.特に遠位胆管癌では乳頭側より肝側が術式に影響を与えるため,肝側の観察を十分に行う.胆管内の観察に際しては生理食塩水の潅流を行うが,ERC同様に胆管内圧の上昇に注意する.観察終了後に専用生検鉗子によるマッピング生検を行う.黄疸例に対しては胆道ドレナージによる減黄後にPOCSを行う場合もある.しかし,ステント留置による胆管過形成性変化は表層拡大進展との鑑別が困難となるため,可能な限り減黄処置と同時に行うべきである.

5)経乳頭的胆管細胞診,生検

a:主病巣

メタ解析では細胞診の感度は45%,特異度は99%,生検の感度は48%,特異度99%,両者の併用で感度は59%,特異度は100%と報告されており 36,基本的には両者を併用するべきである.

細胞診はガイドワイヤ誘導式が汎用され,生検鉗子はカップ径が2mm前後の生検鉗子が汎用されている.ガイドワイヤ同軸ではないため,狭窄部突破が困難なことがある.また,多くの検体量を要する際には,カップ径の大きい上・下部消化管内視鏡検査で汎用されているシャフトの硬い生検鉗子を使用すると良い.Scarping loopsを用いた擦過細胞診,組織診の有用性も報告 37されているが,細胞診ブラシ同様に主病巣のみの診断のみであり,マッピング生検には使用できない.

主病巣より細胞診,生検を施行する際のポイントは,細胞診ブラシは狭窄部を突破させてから擦過させることである.生検は主病巣からは複数個の採取が望ましい.適切な採取回数については一定の見解はないが,肉眼型によって乳頭型と結節膨張型では2個の生検で89.5%の正診率,平坦型では1~2個の生検では約50%,3個で75%の正診率と報告されている 38.現状では肉眼で検体が確認できるまで採取するのが良いと思われる.

b:マッピング生検

肉眼型が乳頭型あるいは結節膨張型で表層拡大進展を合併する可能性が高い例には術式を念頭に置いたマッピング生検を施行する.遠位胆管癌では基本術式が膵頭十二指腸切除術となるため,肝側胆管が主な対象となる.以前は,胆管断端が表層進展(=carcinoima in situ)陽性例であっても予後は良好であるとの傾向があったが,現在では予後は腫瘍自体のstageに依存し,pT2 N0 M0までの進行度では断端陰性が予後向上に寄与すると報告 39されている.すなわち,pT3あるいはN1以上の進行癌ではマッピング生検は割愛できる可能性がある.肝切除を念頭に置いた生検部位を図で呈示する(Figure 13)が,少なくも左側ではB4根部,右側では前枝・後枝の合流部から生検を行う必要がある.

Figure 13 

切離線と目標とする生検部位.

切離線は赤線,生検部位は赤矢印で示す.

a:左葉尾状葉切除では右葉の前枝と後枝の合流部を生検する.

b:右葉尾状葉切除ではB4とB2+3の合流部を生検する.

c:左三区域尾状葉切除では右葉の後枝の頂部(門脈を跨ぐ部位)を生検する.

d:右三区域切除術ではB2+3を生検する.

Bd:遠位胆管,Bp:肝門部領域胆管,Bra:右前区域枝,Brp:右後区域枝,C:胆嚢管,Gn:胆嚢頸部,Gb:胆嚢体部,Gf:胆嚢底部.

選択的な生検鉗子の誘導は容易ではない.特にカップ径の大きい生検鉗子はシャフトが硬いため,ガイドワイヤを把持し,狭窄部を突破させて選択的挿管を行う方法も行われている 40

6)EUS-FNA

メタ解析では感度は76%,特異度100%と報告され,ERCPの感度49%,特異度96%と比較的良好な成績であることが報告されている 41

EUS-FNAは胆管病変に対しては胆汁漏出や播種の危険性を伴うとされているが,メタ解析では有害事象の1%のうち,胆汁性腹膜炎と出血は報告されているが,播種の報告はない.現状ではERCP関連手技による病理学的検査法により確定診断ができなかった場合のみに適応となる.手術予定例に対しては胆管周囲に転移を疑わせるリンパ節病変が存在していた場合には良い適応となる.また,遠隔転移を伴う切除不能例に対しても,肝転移,リンパ節転移,播種巣は良い適応となる.

Ⅴ 遠位胆管癌の進展度診断のまとめ

胆管癌の肉眼型を合理的に乳頭型,結節膨張型,結節浸潤型,平坦浸潤型の4つに分類し,進展度の特徴と各画像診断の利点と欠点(Table 1)を把握し,症例に応じて使いこなすことが重要である.

Ⅵ おわりに

遠位胆管癌に対する術前診断を内視鏡関連手技を中心に解説した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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