GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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A CASE OF DIRECT OBSERVATION OF LODGING OF A PRESS-THROUGH PACKAGE (PTP) IN THE SMALL INTESTINE BY CAPSULE ENDOSCOPY
Kohei YASUDA Tetsuro YOSHIMURAYukari FUKUTOKUYasumitsu ARAKIKoji KIKUCHIToyohito WADAShinsaku FUKUDA
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2020 Volume 62 Issue 2 Pages 158-164

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要旨

症例は80歳代,女性.血便のため救急搬送された.上部・下部消化管内視鏡検査では明らかな出血源は特定できなかった.カプセル内視鏡では,小腸に滞留したpress-through package(PTP)と,近傍に線状潰瘍を認めた.経口ダブルバルーン内視鏡検査ではPTPは小腸壁に刺入しており,同部の潰瘍形成と肛門側の狭窄を認めた.内視鏡的摘除は困難であり,腹腔鏡補助下小腸部分切除術施行され,約15mm四方のPTPが2つ摘出された.その後血便の症状なく経過している.PTP誤飲の診断においてカプセル内視鏡が有用であった症例であり,文献的考察を加えて報告する.

Ⅰ 緒  言

本邦において,カプセル内視鏡(capsule endoscopy:CE)は平成19年10月より,原因不明消化管出血(obscure gastro-intestinal bleeding:OGIB)に対して保険収載された.今回われわれは,血便の原因となった小腸へのPTP刺入をカプセル内視鏡で直接観察し得た1例を経験したので報告する.

Ⅱ 症  例

患者:80歳代,女性.

主訴:血便.

既往歴:虫垂炎(30歳代,虫垂切除術),卵巣嚢腫(30歳代,手術歴あり),糖尿病(60歳代),解離性大動脈瘤(60歳代),心筋梗塞(80歳代),胃癌(80歳代,幽門側胃切除,胆嚢摘出術施行).

服薬歴:アスピリンを含む17種の内服薬あり.うち12種の薬剤が一包化され,1剤は個包装,4剤はPTP包装であった.

現病歴:平成26年9月上旬に腹痛・赤色~黒色便・体動困難あり,当院救急搬送となった.嘔気・嘔吐は認められなかった.

入院時現症:身長139cm,体重40kg,体温36.4℃,脈拍数65bpm,血圧142/56mmHg,SpO2 95%,腹部は平坦・軟,心窩部痛を認めるが自制内で圧痛なし.グル音正常.直腸指診で鮮血が付着.

入院時検査所見(Table 1):Hb 10.7g/dlと貧血を認めた.

Table 1 

入院時検査所見.

上部消化管内視鏡検査:明らかな出血源は認めなかった.

下部消化管内視鏡検査:発症当日は大腸全体に凝血塊がみられたが,明らかな出血源は認めなかった.

腹部単純X線:異物を含め明らかな異常は指摘されなかった.

腹部・骨盤単純CT:結腸に憩室を認めるが,出血源は不明.腸管内異物,狭窄は認められなかった.

カプセル内視鏡(第6病日):OLYMPUS EC-S10を使用.空腸壁に刺入したPTPと,同部に線状潰瘍を認めた(Figure 1-a,b).その部位から撮影可能時間内でのカプセルの移動は認められなかった.

Figure 1 

カプセル内視鏡(第6病日).

a:小腸内にPTPを認めた.

b:近傍に線状潰瘍を認めた.

経管小腸造影検査(第9病日):空腸で滞留したカプセルと肛門側に狭窄を認めた.その近傍にPTPが確認された(Figure 2).

Figure 2 

経管小腸造影検査(第9病日).

空腸でカプセルが留まり(→),すぐ肛門側に狭窄を認めた(▽).その近傍にPTPが確認された(⇨).

経口ダブルバルーン内視鏡検査(第14病日):カプセル内視鏡とPTPの回収目的に施行した.2種類のPTPが小腸壁に刺入しており,その近傍に数箇所の潰瘍を伴っていた.その肛門側に狭窄を認めた(Figure 3-a,b).カプセル内視鏡は確認されず,狭窄部を通過したと考えられた.PTPを生検鉗子で把持したが引き抜けず,回収ネットでの回収も検討したが,PTPが腸管壁から外れなかった場合,嵌頓した状態となる恐れがあり内視鏡的摘除は困難と判断した.外科手術目的に点墨によるマーキングを行った.翌日カプセル内視鏡の排泄が確認された.

Figure 3 

経口ダブルバルーン内視鏡検査(第14病日).

a:PTP(酸化マグネシウム錠330mg)刺入部位に潰瘍あり(→),その肛門側に狭窄を認めた(▽).

b:PTP(ガランタミンOD錠4mg)が小腸壁に刺入していた.

臨床経過:その後血便なく経過し,第17病日当科退院となった.入院後に休薬していたアスピリン内服を再開とした.第49病日,当院外科で腹腔鏡補助下小腸部分切除術を施行した.

切除標本肉眼所見:10cmの小腸が切除され,やや縦走傾向の潰瘍が3箇所並んで存在し,その肛門側に狭窄が認められた.手術時,周囲腸管との癒着は認められなかった.摘出されたPTPは,酸化マグネシウム錠330mg,ガランタミンOD錠4mgの2つで,いずれも約15mm四方の大きさに切り分けられており,辺縁は鋭角となっていた(Figure 4-a).

Figure 4 

a:腹腔鏡補助下小腸部分切除術 手術病理標本(第49病日).

切除標本から約15mm四方のPTPが2つ摘出された.

b:組織標本では潰瘍面は固有筋層まで肉芽組織の増生やFibrosisが強かった.一方漿膜側は炎症細胞浸潤やFibrosisに乏しかった.

病理組織学的所見:潰瘍面は固有筋層まで肉芽組織の増生やFibrosisが強く,長期間に形成された変化と考えられた.一方漿膜側は炎症細胞浸潤やFibrosisに乏しく,癒着による変化とは考えにくかった.所見は極めてsegmentalで血行障害による狭窄は否定的であった.IBDや悪性所見を示唆する所見は認めなかった(Figure 4-b).

術後経過は良好で第59病日に退院となった.平成29年5月に認知症進行のため通院困難となり,近医へ紹介となった.それまでの経過で消化管出血は認められなかった.

Ⅲ 考  察

カプセル内視鏡の検査目的は,中村らによる多施設共同研究報告によると185例中135例がOGIBであり,うち70例で確定診断が得られている.確定診断された70例の所見として潰瘍・びらんが最多で34.3%,次いで血管性病変が25.7%であった 1.本症例ではPTPの小腸壁への刺入が観察されたため,診断が得られた.

1983年から2018年1月までに「PTP」,「小腸」をキーワードとして医学中央雑誌を検索したところ,会議録を含め検討可能な報告は38例認めた(Table 2).「press-through package」,「capsule endoscopy」をキーワードとしてPub Medを検索したところ,カプセル内視鏡でPTPの小腸への刺入を発見した症例報告が1例あった 2.PTPが小腸内で発見された症例について,上記39例と自験例を含めた40例の臨床的特徴を表に示した(Table 3).年齢の中央値は77.5歳.65歳以上の高齢者が32人と80%を占めていた.男女比は1:2.3と女性に多い傾向にあった.症状としては腹痛が34例と大半を占めていたが,血便の症状からPTPが発見された症例は本症例のみであった.

Table 2 

PTPが小腸内で発見された40症例.

Table 3 

PTPが小腸内で発見された40症例の検討.

穿孔例は29例(73%)であり,治療は全例手術であった.非穿孔例11例のうち2例がDBE,1例が下部消化管内視鏡検査でPTPを摘出可能であった.1例は自然排出された.PTPはその利便性,耐久性から1960年代より本邦で広く普及しているが 3,一般的に誤飲されたPTPは食道の生理的狭窄部位に滞留しやすいため,約90%は食道内異物として発見される 4.泉里らの報告ではPTP異物263例のうち,小腸でPTPが発見されたのは6例(2.2%)のみであった 4.PTPが下部消化管に達した場合は,多くは肛門より自然排出されるため 5,本症例のようにカプセル内視鏡で発見されるケースは極めて稀である.カプセル内視鏡で小腸内のPTPを直接観察し得た報告は自験例を除き1例のみであった 2

CT検査でPTPを認識できた例は14例(35%)であった.PTPはX線透過性であり,単純X線写真では写らないことから,CT検査による画像診断が重要とされる.錠剤を含むPTPは,錠剤,PTPのドーム内の空気,周囲の水の3層のdensityからなるターゲット状の像を呈し,空のPTPはややlow densityで不明瞭な線状の像を呈するとされている 6が川田らのファントムCTを用いた報告によると,PTPの材質としてポリ塩化ビニル(PVC),ポリプロピレン(PP),環状オレフィン・コポリマー(COC)があり,いずれも未開封であれば薬剤が高吸収,周囲の空気が低吸収となり比較的特徴的な所見が得られるが,薬剤がない場合,PVCは描出可能であったがPP,COCは同定が困難であった 7.本症例において,誤飲された2種の薬剤はいずれもPP製のPTPで,薬剤も空の状態でありCTでの同定はretrospectiveにも困難であった.CTでのPTP誤飲の診断率は26%~32%との報告もあり 8,実臨床ではPTP誤飲の可能性が高いのであればカプセル内視鏡や診断・治療目的のダブルバルーン内視鏡検査など,他の検査との併用が重要である.

PTP誤飲について,事故を未然に防ぐ対策も重要である.日本製薬団体連合会では1996年以降,PTPに入れるミシン目は一方向のみとし,1錠分ずつ切り離せないようにする,PTP裏面に薬剤の取り出し方を図示する等の防止策を推進してきたが,実際はPTPが本人,家族の手によって切り分けられていることが多く,誤飲の原因となってしまう 9.本症例においても誤飲された薬剤はPTPが家人により1錠分ずつ切り分けられていた内服薬であった.また,今回検討した40例では,PTP誤飲の病歴が確認できたのは40例中8例(20%)のみで,無自覚にPTPを誤飲する例が多いことが示された.本症例では認知症を伴っており,本人にも改めて聴取したが,PTP誤飲の病歴は得られなかった.

本症例では小腸のPTP刺入部位付近に線状潰瘍とその肛門側には狭窄が認められた.小腸狭窄の鑑別としてはCrohn病,非特異性多発性小腸潰瘍症,NSAIDs関連腸炎,腸結核,虚血性腸炎治癒後等が挙げられる 10.開腹手術歴や放射線治療後の腸管においては癒着や狭窄が起こりやすく,PTPが滞留し穿孔を起こし得ると考えられている 11.本症例でも数回に及ぶ開腹手術の既往があり,癒着による腸管狭窄が存在していた可能性があったが,手術所見・病理所見とも癒着所見を認めず,術後癒着による狭窄は否定的であった.心筋梗塞の既往があり,4年前からアスピリン,サルポグレラート塩酸塩を定期内服しており,NSAIDs関連腸炎による潰瘍形成に伴う小腸狭窄が存在しPTPが刺入した可能性が高いと考えられた.

PTP誤飲について,誤飲した自覚があり,上部消化管内視鏡検査の観察範囲内にPTPが滞留していれば診断,治療は容易であるが,本症例のように幽門を通過し,自然排泄されていない症例では,PTP誤飲の診断は困難である.本症例は腹部単純X線,CT検査でもPTPは認識されず,カプセル内視鏡により診断が確定した症例である.今後,社会の高齢化や慢性疾患罹患者の増加に伴い内服薬の種類・量は増え,臨床におけるPTP誤飲の症例に遭遇する頻度も増えると予想される.PTPが原因のOGIBの診断においてカプセル内視鏡が有用な症例であった.

Ⅳ 結  語

血便の原因となったと考えられる小腸へのPTP刺入をカプセル内視鏡で直接観察し得た1例を経験した.今後増加されると予想されるPTP誤飲の診断にカプセル内視鏡が1つの選択肢となり得ると考えられる.

本論文の要旨は,第10回カプセル内視鏡学会学術集会において発表した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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