GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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TIPS ON PERFORMING DUODENAL ENDOSCOPIC SUBMUCOSAL DISSECTION (ESD) USING A SCISSOR-TYPE KNIFE INCLUDING TIPS ON CLOSING A POST-ESD ULCER
Osamu DOHI Naohisa YOSHIDATsugitaka ISHIDAYuji NAITOYoshito ITOH
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2020 Volume 62 Issue 2 Pages 186-193

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要旨

十二指腸非乳頭部上皮性腫瘍(SNADET)が発見される機会の増加に伴い,内視鏡治療の頻度も増加している.十二指腸癌は粘膜内癌であれば転移の頻度は極めて低く,基本的に粘膜内癌であれば内視鏡治療の適応である.一般的に内視鏡的粘膜切除術(EMR)で一括切除困難な20mm以上の腫瘍に対して内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)が適応となるが,十二指腸ESDは,他の消化管と比べて解剖学的な理由により難易度が高く,偶発症の頻度も非常に高いため,安全かつ確実なESDが確立していないのが現状である.今回,われわれが取り組んでいるハサミ型ナイフを用いた安全かつ確実な十二指腸ESD手技のコツについて,ESD後の潰瘍縫縮の方法も含めて解説する.

Ⅰ 緒  言

消化管癌に対する内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)は,1990年代後半に開発され 1,様々なデバイスの開発とともに,技術が確立してきた 2.胃ESDは2006年に,食道ESDは2009年,大腸ESDは2012年に保険収載され,現在では標準的治療として全国的に広く行われている 3.近年,内視鏡機器の進歩や内視鏡検診の増加に伴い,十二指腸上皮性腫瘍が発見される機会が増加しており,内視鏡治療の頻度も増加している.EMRで一括切除が困難な病変に対してはESDが試みられているが,他の消化管と比べて解剖学的な理由により難易度が高く,偶発症の頻度も非常に高いため 4)~10,先進施設やエキスパートであっても安全かつ確実なESDが確立していないのが現状である.われわれは2002年より胃・食道ESDを当院で導入し 11,手技が安定してきた2009年より十二指腸ESDを導入したが,重篤な合併症を経験し,より安全かつ確実な手技を模索してきた.今回,ハサミ型ナイフを用いた安全かつ確実な十二指腸ESDのコツについて,ESD後潰瘍の縫縮法も含めて解説する.

Ⅱ 十二指腸ESDの適応,デバイス,周辺機器

1.十二指腸ESDの適応

十二指腸癌は粘膜内癌であれば転移の頻度は極めて低いことが報告されており 12,基本的に粘膜内癌であれば内視鏡治療の適応であることが一般的に受け入れられている.しかし,どのような病変にどのような内視鏡治療が良いかは定まっていない.従来から内視鏡的粘膜切除術(EMR)は一般的に20mmまでの腫瘍に対して行われてきたが,十二指腸のEMRは,安全性や簡便性の観点から近年では10mm未満の病変にはCold snare polypectomy 13が,10mm以上20mm未満の病変には浸水下EMR(Underwater EMR;UWEMR) 14の有用性が報告されている.しかし,20mm以上の病変は,EMRで一括切除が困難であることからESDの適応となると考えてよい.ただし,十二指腸は生検による線維化により局注しても挙上不良が原因でEMR困難となることが24.6%存在したと報告されており 12,そのような場合は20mm以下の病変であってもESDが望ましい.また,襞をまたぐような病変もESDが望ましい場合がある.一般的なSNADETに対する内視鏡治療の適応をFigure 1に示す.

Figure 1 

十二指腸非乳頭部上皮性腫瘍(SNADET)の内視鏡治療戦略.

EMR: endoscopic mucosal resection, CSP: cold snare polypectomy, UWEMR: underwater endoscopic mucosal resection, ESD: endoscopic submucosal dissection.

2.内視鏡スコープ

ESDを施行する時に明るく鮮明な視野を保つことは必要不可欠である.特にESDは術中出血により鮮明な視野確保が困難となるため,送水機能により視野を確保しながら処置を行うことが安全に処置を行う上で重要である.従って,基本的に鉗子口径が大きく,先端送水機能が付いているGIF-Q260J(オリンパスメディカルシステムズ社)あるいはEG-L580RD(7)(富士フイルム株式会社)を用いている.

内視鏡スコープ先端に装着するフードは,粘膜下層に潜り込みやすくするため先端が先細りしているSTフードショートタイプ(富士フイルム株式会社)を用いている.また治療時の良好な視野を得るため,われわれが開発し現在市場されている術中のレンズの汚れを防止するレンズクリーナー(クリアッシュ,ナガセ薬品)も使用している 15

3.ESDデバイス

われわれの十二指腸ESDの肝となるのが,ハサミ型ナイフである.以前からハサミ型ナイフ(把持型ハサミ鉗子)であるクラッチカッター(富士フイルム株式会社)を胃・食道・大腸のESDで主に用い,その有用性を報告している 16),17ことから,十二指腸でもクラッチカッターを用いている.クラッチカッターは先端の把持部の長さの違いでショートタイプ(3.5mm)とロングタイプ(5mm)の2種類があるが,十二指腸壁が薄いことから食道・大腸と同様にショートタイプを用いている(Figure 2).その他のハサミ型ナイフとして,日本ではSBナイフJr(住友ベークライト株式会社)が市販されている.SBナイフJrもESDにおいて有用性が報告されており 18)~20,クラッチカッター同様の処置が可能と考える.いずれのデバイスもハサミの内側は通電し,外側は絶縁体でコーティングされているため,把持した内部しか通電されず,安全な切開・剝離が可能である.当院ではクラッチカッターを使用しているため,以下の解説はクラッチカッターの設定及び手技である.

Figure 2 

クラッチカッターの構造.

A:クラッチカッターショートタイプ(3.5mm)の先端構造.

B:クラッチカッターの全体構造.

4.高周波設定

当院の十二指腸ESDの高周波装置の設定をTable 1に示す.クラッチカッターはすべての処置を完結でき,ほとんどが胃・食道・大腸ESDの設定と同じであるが,十二指腸は特に壁が薄く,筋層に焼灼が及ぶと容易に穿孔を来たすため,予防止血(Pre-coagulation)及び止血(Coagulation)の際にはForced coagulationではなくSoft coagulation(Effect 5,100W)を用いている.もちろん施設や術者によって設定は異なるが,どの設定が一番良いかは術者自身の経験で決めるので良いと考える.

Table 1 

高周波設定.

5.鎮静

前述のとおり十二指腸は壁が薄く,穿孔を来たしやすい.また食道や胃よりも遠位部にあり,操作性が悪いため,患者の体動を極力予防することが重要である.従って,可能であれば全身麻酔による鎮静を強く勧める.当院でも十二指腸ESD手技が安定するまでは基本的に全身麻酔下で施行してきた.全身麻酔を行わない場合は,鎮静剤としてプロポフォールとデクスメデトミジンを併用し,ペンタゾシンによる鎮痛を併用して鎮静を行っている.

6.局注液

十分の局注による粘膜の挙上が必要不可欠であるため,われわれはヒアルロン酸ナトリウムであるムコアップ(ボストンサイエンティフィック社)を希釈せずに原液で用いている.しかしながら,局注液が粘膜下層よりも深部に入ってしまうことを予防するために,最初の局注では生理食塩水を用いて粘膜下層が膨隆することを確認してからムコアップに変更して局注を行うようにしている.

Ⅲ 治療のストラテジー

1.マーキング

十二指腸腫瘍は大腸腫瘍と同様に腫瘍の範囲診断は比較的容易であるため,必ずしもマーキングは必要でない.しかし,われわれは確実な断端陰性を目的としていることから,ほとんどの症例でマーキングを行っている.クラッチカッターの先端を押し当てて通電することでマーキングを行うことが可能である.よりシャープなマーキングにするためには針状ナイフなどの先端系デバイスを用いる方が良い.高周波設定はTable 1に示すとおりである.実際にクラッチカッターを使用してESDを行った症例(Figure 3-A)を元に解説する.

Figure 3 

十二指腸ESD症例.

A:十二指腸下行部,乳頭対側の隆起性病変(0-Ⅱa)病変.

B:周囲マーキング後にヒアルロン酸ナトリウムを局注し,口側から粘膜切開を行う.

C:粘膜切開を最小限にし,粘膜下層剝離を中心に行う.

D:ある程度ポケット状に剝離を行った後に粘膜切開を追加しながら剝離を進める.

E:視認できる血管は適宜予防止血しながら剝離を行う.

F:最終的に全周性に粘膜切開を行い,剝離を完遂する.

G:ツイングラスパーで口側と肛門側の潰瘍辺縁の粘膜を把持し,フード内に粘膜を引き込んだ後にOTSCを展開し,縫縮を行う.

H:OTSCを2個用いて潰瘍をほぼ完全に縫縮.潰瘍底の露出が残存している部位は通常のクリップを追加して完全に縫縮した.

I:粘膜内癌で完全切除であった.

病理結果:Adenocarcinoma tubulare,tub1,of the duodenum,Type 0-Ⅱa,25×18mm,depth m,ly(-),v(-),pHM0,pVM0.

2.粘膜切開

十二指腸では内視鏡を反転して操作することは困難であるため,粘膜切開はまず病変の口側のマーキング約5mm外側から開始する(Figure 3-B).従来のESDでは,粘膜切開を全周性に行い,引き続き粘膜下層剝離を行う方法が主流であったが,十二指腸では前述のとおり粘膜下層が薄く,Brunner腺や血管の影響により局注による良好な膨隆が得られにくいため,粘膜下層に入り込むことが非常に難しい.特に全周切開を行うと余計に局注が入りにくく,入ったとしてもすぐに漏れてしまうため粘膜下層剝離が困難となる.従って,われわれは粘膜切開を最小限にし,粘膜下層に早く入り込むことを重要視している(Figure 3-C).このstrategyは,Pocket-creation method(PCM) 21と同様である.つまり,スコープの長径より数mm大きく粘膜切開を行い,粘膜下層が視認できればすぐに粘膜下層剝離を行い,スコープが完全に粘膜下層に入り込むまで剝離を行う.クラッチカッターによる粘膜切開は最初の1回は滑って把持しにくいことがあるため,ゆっくり掴むあるいはEndocut modeで開いたまま通電すると引っ掛かりができるため滑らずに掴むことが可能である(Figure 3-B).掴んだ後は,クラッチカッターを少しスコープ側に引くことで,余計な通電が筋層に及ばず安全に切開・剝離することが可能である.最初に切開した後は,切開した粘膜の端を順次掴んで切開することで比較的容易に粘膜切開が可能である.残り大部分の粘膜切開はある程度粘膜下層剝離が済んだ時点で順次肛門側に追加していく.この時重要なのが,粘膜切開を一気に行うのではなく,粘膜切開と粘膜下層剝離を交互に行うことである.粘膜を最後まで残しておくことで,局注による膨隆を保つことが可能である.クラッチカッターによる手技は他のデバイスと異なり,デバイスで組織を掴んでからデバイスのみを動かして通電するため,基本的に通電中にスコープを動かす必要がない.これは操作性の悪い十二指腸でも手技が容易となり,安定した切開・剝離が可能となる要因と考えている.

3.粘膜下層剝離

粘膜下層剝離は前述のとおり,口側粘膜切開部からスコープを粘膜下層に挿入し,少なくとも病変中央部まで剝離することを基本としている.いわゆる病変下に粘膜下ポケットを作成し処置を行うPCMと同様の手技であり,安定した視野と操作が得られ,十二指腸でも安定した手技が可能である(Figure 3-D).違いとしては,PCMほど完全にポケットを形成することを目的としていない.ただし,生検などによる線維化や部位的にアプローチが難しい場合は,トラクション法として,糸付きクリップやバネ付きクリップ(SOクリップ,ゼオンメディカル株式会社)などのデバイスを用いて病変を牽引し,良好なトラクションと視野を作り出すことも有用である.剝離深度としては,他の消化管のように筋層直上を狙うのではなく,意図的に浅めに設定し粘膜下層を残すように剝離することが安全にESDを行う上で重要である.

4.止血及び予防止血

十二指腸はそれほど太い血管は多くないものの細い血管が粘膜下層浅層に多く存在しており,出血によりESD処置の難易度が高くなる.止血できたとしても,粘膜下層が凝固により炭化すると剝離スペースが無くなり,穿孔のリスクが増す.また,止血のみでも穿孔することは珍しくないため,極力出血させないことが重要である.われわれは,Forced coagulationによるPre-coagulationを行った後にEndocutで切離することにより,胃粘膜切開時の出血を予防することが可能であることを報告している 16.十二指腸ではForced coagulationを用いると筋層への熱損傷を来たすため,Soft coagulationを用いてPre-coagulationを行っており,ESD中に出血することはほとんどない(Figure 3-E).

出血を来たした場合でも,デバイスを交換することなくクラッチカッターで出血点を把持し,Soft coagulationにより止血を行うことで筋層への熱損傷を来たさずに止血可能である.

このように,ハサミ型ナイフのクラッチカッターによるESDは,安全な構造・手技の簡便化・粘膜下層剝離を先に行うストラテジー・出血しにくい高周波設定の工夫により十二指腸でも安全に施行可能である(Figure 3-F).

Ⅳ 縫縮法

十二指腸内視鏡治療後の遅発性穿孔は重篤な合併症であり,多くの場合緊急手術となる.さらに術後も縫合不全や感染症により治癒までに長期間を要する場合も珍しくない.遅発性穿孔の主な要因として,胆汁や膵液の潰瘍底へ暴露が考えられている.Katoらは十二指腸腫瘍に対する内視鏡治療後の潰瘍底縫縮の有無が遅発性穿孔の発症に強く関与していることを報告しており 22,潰瘍底縫縮が遅発性合併症を予防する上で最も重要と考えられる.

内視鏡による潰瘍底縫縮の方法として,従来からの止血用クリップを用いた縫縮法が一般的であるが,潰瘍が大きくなればなるほどクリップ単独による潰瘍の完全縫縮が困難となる.大きな潰瘍をクリップで縫縮するための方法として,Yahagiら 23やYamasakiら 24はそれぞれ縫合糸を結びつけたクリップを潰瘍辺縁に取り付け,糸を牽引することでクリップによる縫縮が可能となる方法を考案し,高い完全縫縮率を報告している.また,留置スネア(オリンパスメディカルシステムズ社)を用いたクリップ縫縮法も有用である.また,クリップでの縫縮が困難な場合に,ポリグリコール酸シート(ネオベール)とフィブリン接着剤を用いた内視鏡的組織被覆法が有用であると報告されている 25.われわれは縫縮後早期にクリップが脱落し,遅発性穿孔を来たした症例を経験しているため,遅発性穿孔予防のためには,潰瘍閉鎖が確実かつ比較的長期間持続できるデバイスが望ましいと考えた.近年,Over-the-scope clip(OTSC;Ovesco Endoscopy社)が消化管穿孔や消化管瘻孔の閉鎖に有用であること 26),27,十二指腸ESD後の潰瘍縫縮及び遅発性合併症の予防に有用であることが報告されている(Figure 4-A,B 28),29.OTSCはナイチノール製の形状記憶合金で作られた大きなクリップで内視鏡先端にマウントし,内視鏡鉗子孔に取り付けられたホイールを回すことで先端キャップに連結した糸が引っ張られ,クリップが展開される構造となっている.2つの把持部が独立して開くことにより,病変両側の粘膜を把持することが可能である組織把持用のデバイス(ツイングラスパー,Ovesco Endoscopy社,Figure 4-C)を用いることで大きな潰瘍も確実に縫縮が可能である(Figure 3-G,H).OTSCは非常に強い把持力を有しており,一旦取り付けると容易には外れないため,適切に潰瘍を縫縮できれば遅発性穿孔が生じることはない.われわれは遅発性穿孔予防の確実性を重要視してOTSCを2016年より導入している.われわれの施設でもOTSCで完全に縫縮が可能であった場合に遅発性穿孔した症例は認めていない.しかし,縫縮が不成功となった場合はその対処が困難であるため注意が必要である.また,他のデバイスと比較して高価であること(OTSC79,800円,ツイングラスパー92,000円)がOTSCを使用する上で問題となっており,デバイスのコストダウンや手技点数の承認が望まれる.内視鏡の縫縮法以外には,腹腔鏡内視鏡合同手術(Laparoscopic endoscopic cooperative surgery;LECS)による腹腔鏡下の縫縮術も高い完全縫縮率による遅発性合併症予防に有用であることが報告されている 30.しかしながら,現時点で十二指腸に対するLECSは保険収載されておらず,早期の保険収載が望まれる.

Figure 4 

Over-the-scope clip (OTSC)とツイングラスパー

A:9mmサイズのOTSC

B:先端アタッチメントにマウントされたOTSC

C:アタッチメントと共に内視鏡先端に装着されたOTSCとツイングラスパー

Ⅴ おわりに

十二指腸腫瘍に対するハサミ型ナイフを用いたESDの手技について解説した.ハサミ型ナイフのクラッチカッターによるESDは,安全な構造・手技の簡便化・粘膜下層剝離を先に行うストラテジー・出血しにくい高周波設定の工夫により十二指腸でも安全に施行可能である.また,ESD後の縫縮法の工夫により,遅発性合併症の予防も可能となってきている.これらの工夫により十二指腸ESDが標準化していくことを期待している.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:土肥 統,吉田直久,内藤裕二(富士フイルム株式会社)

文 献
 
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