2020 Volume 62 Issue 3 Pages 351-357
症例は83歳女性.40歳時に胆嚢結石で開腹胆嚢摘出術の既往あり.右季肋部痛を主訴に受診し,肝胆道系酵素上昇あり,CT,MRIでは胆嚢管合流部に胆管内へ突出する腫瘤を認めた.ERCPおよび管腔内超音波では遺残胆嚢管内に充満する低エコー腫瘤を認め,経口胆道鏡で胆嚢管合流部に粘膜下腫瘤を認めた.断端神経腫を疑い,腫瘤部よりボーリング生検を4回施行.生検組織診断はS-100蛋白陽性の神経線維を含む線維性組織を認め,断端神経腫に矛盾しない所見であった.胆管閉塞による症状をきたしていることから肝外胆管切除,肝管十二指腸吻合術を施行.術後病理診断は9mmの断端神経腫であった.生検組織で術前診断できた遺残胆嚢管断端神経腫は稀であり報告する.
胆道の断端神経腫は稀な疾患であり,岩佐らの本邦報告例の検討から胆道手術例の0.23%に発生したと報告されている 1).本症は術前診断が困難であり,しばしば胆管癌との鑑別に難渋する.今回われわれは,開腹胆嚢摘出術後43年目に発生した胆嚢管合流部の胆管粘膜下腫瘤を経口胆道鏡によるボーリング生検により術前診断し得た1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.
症例:83歳.女性.
主訴:右季肋部痛.
既往歴:43年前に胆嚢結石症に対し開腹下胆嚢摘出術を施行されている(胆管切石の有無は不明).
現病歴:右季肋部痛を自覚し,近医を受診.血液検査で肝胆道系酵素の上昇を認め,造影CT検査で総胆管内に11mm大の造影効果を伴う腫瘤を認めたため,胆管癌疑いにて当院紹介となる.
身体所見:発熱,黄疸は認めず,腹部は平坦・軟で下腹部に軽度の圧痛を認めた.
血液検査所見:当院初診時にはT-Bil 1.2mg/dl,ALP 254IU/L,γ-GTP 54IU/L,AST 26IU/L,ALT 19IU/Lと,肝胆道系酵素は正常範囲内であった.CEA 4.8ng/ml,CA19-9 30.69U/ml,DuPAN-2<25U/mlと腫瘍マーカーも正常範囲内であった.
腹部造影CT所見:遠位胆管内腔に突出する7mm大の結節を認め,単純では膵実質と同濃度,動脈相から門脈相にかけて遷延する造影効果を認めた(Figure 1).上流胆管の拡張,胆管壁肥厚,周囲への浸潤所見は認めなかった.

腹部造影CT検査(動脈相,冠状断).
遠位胆管内腔に造影される7mm大の類円形腫瘤(矢印)を認める.単純では膵実質と同濃度,動脈相から門脈相にかけて遷延する造影効果を認めた.周囲胆管には造影効果を伴う壁肥厚は認めなかった.
EUS所見:遠位胆管内腔に突出する低エコー腫瘤を認め,外側高エコー層の断裂,胆管外へも突出するように見え漿膜外浸潤を疑った.腫瘤周囲の粘膜肥厚は認めなかった(Figure 2).

EUS所見.
遠位胆管内腔に低エコー腫瘤(矢印)を認め,外層高エコーの断裂および漿膜外へも浸潤を疑う所見を認めた.腫瘤周囲の胆管粘膜肥厚は認めなかった.
腹部MRI所見:胆管腫瘤は遺残胆嚢管合流部に総肝管と胆嚢管にまたがるように位置し,T1強調像で膵実質より淡い低信号,T2強調像(Figure 3)で淡い高信号,拡散強調像では高信号を呈していた.MRCPでは片側性の欠損像として描出され,同部位にくびれ状の変形も認めることから胆嚢管の切断面の近傍と考えられた.

腹部MRI検査(T2強調像).
胆管腫瘤(矢印)は遺残胆嚢管合流部に総肝管と胆嚢管にまたがるように位置し,T2強調像で淡い高信号を呈していた.
胆道造影所見:内視鏡的経鼻胆管ドレナージチューブからの造影では片側性の表面平滑な陰影欠損を認めた.遺残胆嚢管は描出されなかった.腫瘤部以外では胆管壁に不整は認めなかった(Figure 4).

胆管造影所見.
内視鏡的経鼻胆管ドレナージチューブからの胆管造影では遠位胆管に片側性の表面平滑な陰影欠損を認めた.腫瘤部以外では胆管壁に不整は認めなかった.
管腔内超音波所見:胆管と遺残胆嚢管の合流部付近の,遺残胆嚢管内に低エコー腫瘤を認めた.腫瘤の主座が胆嚢管内のため深部減衰で腫瘤の表面性状は評価困難であった.壁在浸潤を疑う外側高エコー層の断裂は認めず,EUSで胆管壁外に突出して見えたのは遺残胆嚢管内であったためと思われた.内視鏡的経鼻胆管ドレナージより吸引した胆汁細胞診を3回提出したところいずれもClassⅡであった.
経口胆道鏡(CHF-B260)所見:遺残胆嚢管と胆管の合流部に表面が平滑な粘膜下腫瘤を認めた.胆嚢管側は線維性の癒着,ひきつれのような所見を認めたが,粘膜面は平滑で血管構造も拡張や不整は認めなかった(Figure 5).十分な送水で伸展すると,より内腔に突出したため壁内の腫瘤と判断し生検鉗子(SpyBite)により生検を行った.1度生検を行った部位に鉗子をあてがい,ボーリング生検により合計4回生検を行った.

遺残胆嚢管と胆管の合流部に表面が平滑な粘膜下腫瘤を認めた.粘膜面は平滑で血管構造も拡張や不整は認めなかった.
生検病理診断:HE染色では不規則に増生した紡錘形細胞が主体であり,免疫染色では紡錘形細胞はS-100陽性であった.胆管上皮には異型を認めず,神経線維束の増生が腫瘤の主体であると考えられた(Figure 6).

生検組織所見.
HE染色(a)では不規則に増生した紡錘形細胞および線維性組織が主体であり,S-100染色陽性であった(b).
以上より断端神経腫と診断した.断端神経腫の悪性化の報告はないものの経過観察された報告も少なく,一過性ではあるものの胆管狭窄に伴う症状も認めていたため,今後胆管炎を反復するリスクを考慮し,患者・家族と相談の上,肝外胆管切除,肝管十二指腸吻合術を施行した.
病理組織所見:胆嚢管合流部に白色結節状の粘膜下腫瘤を認めた.HE染色では異型のない胆管上皮の直下から漿膜下層に神経線維束の増生を認めた.また,免疫染色では神経束の増生部にてS-100陽性となった(Figure 7).以上より最終診断を遺残胆嚢管断端神経腫とした.

術後病理標本.
a:切除標本.胆嚢管合流部に9×6mm大の白色結節状の粘膜下腫瘤を認めた.
b:切片2のルーペ像(HE染色).胆管上皮の直下から漿膜下層に神経線維束の増生を認めた.
断端神経腫とは,切断された神経断端におけるSchwann細胞の増殖と神経軸索の過剰再生によって増殖した肉芽組織とされている.胆道系に発症する断端神経腫は稀であり,本邦報告例の検討では胆道系手術症例の0.23% 1),胆石症手術例の0.28% 2)に発生すると報告されている.
肝外胆管を支配する神経として交感神経,副交感神経(迷走神経),右横隔神経が存在し,神経切断が多い胆管手術において胆管断端神経腫の発生率は上昇すると考えられている 3).また,直接胆管への手術操作がなくても肝十二指腸間膜操作で上記神経の切断を伴う術式では発生する可能性がある.
断端神経腫の症状としては胆管狭窄による黄疸や交感神経の知覚刺激による疼痛がほとんどを占める.また,本症を疑う所見としては胆道系手術または肝十二指腸間膜に操作が及ぶような手術既往があること,胆道造影で片側性の管外圧排,壁内性腫瘤または良性の狭窄として描出されること,積極的に悪性を示唆する身体検査所見,画像検査に乏しいことなどとともに術後長期間経過していることが挙げられている 4).
画像検査所見の特徴としては,USで高エコー腫瘤として描出され,CTでは単純で辺縁平滑で筋肉より低濃度の腫瘤として描出され,造影で濃染する結節として描出される 4).MRIでは膵頭部と同等な信号を呈し 5),拡散強調像において淡い高信号を呈する.胆管造影検査では表面平滑で片側性の狭窄が特徴的とされている.また胆道鏡では表面平滑な粘膜下腫瘤として観察されると報告されている 6).しかし実際は腫瘤像を呈さず胆管狭窄,胆管壁肥厚としてのみ認識され胆管癌と鑑別困難であったとの報告も多く,黒沢らは画像所見の集計からCTで腫瘤を認めたものは14.3%,USで腫瘤を認めたものは20%のみであったと報告している 4).超音波内視鏡所見で表面の境界エコーである高エコー層が確認できれば粘膜下腫瘤であることを認識できる可能性がある.本症例では表面の高エコーの連続性は明らかでなく,また外層高エコーの断裂が疑われた部位は腫瘤の局在が遺残胆嚢管側であったため胆管壁の外層より外側まで及んでいるように見えていたものと思われる.
1989年から2018年までの医学中央雑誌で「胆管」および「断端神経腫」をkey wordとして検索し,症例の詳細な情報を得られた報告例と自験例を合わせた35例をTable 1にまとめた.

胆管/胆嚢管断端神経腫の報告例まとめ.
男性18例,女性17例で性差はなく,年齢の中央値は68歳(34~83歳),腫瘍径14mm(4mm~50mm)であった.既往術式と関連して胆管由来と胆嚢管由来に分類され,本症例を含め胆嚢管由来と思われるものが7例,胆管由来と思われるものが28例であった.胆嚢管断端神経腫は全例開腹胆嚢摘出術の既往があり,発症時の症状は疼痛が43%で最多であった.胆管断端神経腫は胆管切開を伴う術式の既往が多く,腹腔鏡下胆嚢的手術中に胆管損傷し開腹へ移行した症例が多く含まれている.発症時の症状は閉塞性黄疸が64%で最多であった.術中の胆管切開,または胆管損傷の有無と断端神経腫を発症するまでの期間についてTable 1の報告例を検討した.術中胆管切開,または損傷の有無の詳細が記載されていた27症例のうち術中胆管切開,または損傷を伴うものは14症例,伴わないものは13例であり,発症までの期間はそれぞれ中央値で35カ月(3~168カ月),168カ月(2~288カ月)と胆管切開や損傷と伴う症例においてより発症までの期間が短い傾向を認めた.大塚らも 7)胆嚢摘出術と比較して胆管手術を施行した場合に5年以内の断端神経腫発症する割合が高いとしている.
また,胆管断端神経腫は粘膜下腫瘤であり,胆管癌との鑑別がしばしば困難である.今回の検討において術前診断が良性と診断されていた25例は診断根拠として,胆汁細胞診4例,胆管生検7例,長期経過3例が挙げられており,他の11例は画像所見や既往術式から総合的に診断されていた.
術前に悪性疾患と診断された症例は29%に及び,悪性疾患を疑って手術を行った10例のうち4例(40%)がリンパ節郭清や肝切除,膵頭十二指腸切除術など悪性に準じた拡大手術が施行されており病態からは過大侵襲となり得る.なお,術中迅速病理診断は4例(40%)で施行されており,過大侵襲を回避するためにも有用と考えられる.現時点で胆道の断端神経腫の悪性化の報告はなく,至適な治療法は狭窄部位切除と胆道再建術とされている 8).本症例と同様に胆道鏡下のボーリング生検で断端神経腫と病理診断し得た症例も1例報告されており,無症状のため経過観察とし1年間著変ないとしている 9).
胆道鏡下に生検が施行されている症例の報告もあるが 10)~14),粘膜下腫瘤のため十分な検体が採取できず,異型のない上皮や炎症細胞のみで術前に断端神経腫の病理診断は困難なことが多い.通常の生検での診断率は0/8(0%),ボーリング生検の診断率は本症例を合わせて2/2(100%)であり,粘膜下まで採取するように生検することで診断率が向上すると思われる.
適切な治療選択を行うために,胆嚢摘出術後の胆管腫瘤では胆管断端神経腫も鑑別に挙げ,胆道鏡下ボーリング生検などの術前病理診断を積極的に行うことが望ましいと考えられる.また胆管断端神経腫の悪性化の報告はないため,症例の蓄積が必要ではあるが,診断が確定できれば無症候例は経過観察も選択し得ると考えられる.
経口胆道鏡下のボーリング生検により胆管断端神経腫と術前診断できた症例を経験した.正確な術前診断により,適切な術式選択を行い,過大侵襲を避けられたと考えられる.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし