2020 Volume 62 Issue 3 Pages 358-363
症例は76歳,女性.総胆管結石除去目的にてERCPを施行した.25×16mmの結石をナイチノール製機械的砕石具にて把持し,専用の砕石用シースを用いて砕石を試みた.しかし,シース部の破損と金属線の断裂を生じバスケット嵌頓をきたし,嵌頓の解除に難渋した.そこで,スネアをバスケットの金属線に被せてロープーウェー式に胆管内へ挿入し,バスケットの先端を確実に把持した.次に,スネアを牽引してバスケットの先端を胆管内で反転させ,バスケットを変形させることで結石把持の解除に成功した(バスケット反転法).今回,スネアを用いたバスケット反転法がバスケット嵌頓解除に有用であった1例を経験したので報告する.
総胆管結石に対する内視鏡的経乳頭結石除去術中のトラブルの一つとして,バスケット嵌頓がある.バスケット嵌頓の予防策としては,機械的破砕具(Mechanical lithotripter:ML)の使用や内視鏡的乳頭ラージバルーン拡張術(Endoscopic papillary large balloon dilation:EPLBD)などが挙げられるが,時にそれらの予防策を講じてもバスケット嵌頓をきたす場合がある.バスケット嵌頓の対処法には様々な方法が報告されているが,まず初めに試みるべき手法の一つとして,バスケットによる結石把持の解除がある.
今回われわれは,ナイチノール製機械的砕石具でバスケット嵌頓をきたした症例を経験した.ナイチノール製の金属線は硬く,バスケットを変形させて結石把持を解除することに難渋した.そこで,スネアをバスケットの金属線に被せてロープーウェー式に挿入し,確実にバスケット先端を把持し,バスケットを胆管内で反転,変形させることで結石把持の解除に成功した(バスケット反転法).バスケット嵌頓に対し,スネアを用いたバスケット反転法が有用であった1例を報告する.
症例:76歳,女性.
主訴:なし.
既往歴:高血圧,逆流性食道炎,胆嚢摘出術後,総胆管結石内視鏡的治療後.
内服歴:ウルソデオキシコール酸,バルサルタン/アムロジピンベシル酸塩,ビソプロロールフマル酸塩.
家族歴:特記すべきことなし.
飲酒歴:なし.
喫煙歴:なし.
現病歴:高血圧にて近医に通院し,加療されていた.定期の血液検査にて肝胆道系酵素の異常を指摘され,腹部超音波検査を施行したところ,総胆管結石を認めたため当科紹介となり,総胆管結石治療目的に入院となった.
入院時現症:身長158cm,体重58kg,意識清明,血圧128/60mmHg,脈拍88回/分・整,体温36.2℃,眼球結膜黄染なし,眼瞼結膜貧血なし,表在リンパ節触知せず,呼吸音,心音ともに異常なし,腹部は平坦・軟で自発痛,圧痛ともになし.
入院時臨床検査成績(Table 1):総ビリルビンが1.4mg/dl,ASTが77IU/lと軽度の上昇を認めたが,その他の異常所見は認めなかった.
入院時臨床検査成績.
腹部CT検査(Figure 1):遠位胆管内に総胆管結石と考えられる25×16mmの境界明瞭な高吸収構造物を認めた.また,総胆管と肝内胆管の拡張を認め,肝内胆管には一部胆管気腫像を認めた.
腹部単純CT.
胆管内に25mm大の総胆管結石を認める(矢印).総胆管の拡張を認め,肝内胆管は胆道気腫を認める.
入院後経過:入院第1病日に,総胆管結石除去目的に内視鏡的逆行性胆管膵管造影(Endoscopic retrograde cholangiopancreatography:ERCP)を施行した.以前に他院にて総胆管結石の治療歴があり,十二指腸乳頭部は内視鏡的乳頭括約筋切開術(Endoscopic sphincterotomy:EST)およびEPLBDの施行後であった.また,傍乳頭憩室を認めた.スコープは後方斜視鏡(JF260V,Olympus,Japan)を用い,カニューレにて胆管挿管後,胆管造影を行うと総胆管内に25mm×16mm大の透亮像を認め,総胆管結石と診断した.胆管内にガイドワイヤーを留置後,ナイチノール製機械的砕石具(Power Catch,MTW Endoskopie,Germany)を用いて結石を把持し(Figure 2),専用の砕石用シースにて砕石を試みたが,結石が硬くシース破損と金属断線を生じ(Figure 3),バスケット嵌頓を呈した.肝門部にバスケットを押し当ててバスケットを変形させ結石把持の解除を試みたが,ナイチノール製の金属線は硬くバスケットが変形せず結石把持の解除が困難であった.次に,16mm径のバルーンを用いてEPLBDを追加し,結石除去を試みたが困難であった(Figure 4).なお,当院には体外衝撃波破砕装置(Extracorporeal shock wave lithotripsy:ESWL)はなく,電気水圧衝撃波結石破砕装置(Electronic hydraulic lithotripsy:EHL)はプローブを常備していなかったため施行できなかった.また,エンドトリプターは,本症例で使用した機械的破石具の破砕用シースと砕石の機序が同様であるため,破砕は困難である可能性が高いと考え,まずバスケットによる結石把持の解除を試みる方針とした.そこで,15mmのスネア(SnareMaster,Olympus,Japan)をバスケットの金属線に被せてロープーウェー式に鉗子口を通じて胆管内へ挿入し(Figure 5),バスケット先端を把持した(Figure 6-a).次に,スネアを牽引し,バスケットを胆管内で反転させて変形させることで結石把持の解除に成功した(バスケット反転法)(Figure 6-b).その日は胆管ステントを留置して処置終了とした.処置関連偶発症はみられなかった.後日,経口胆道鏡下にEHLを施行し(Figure 7),完全結石除去が可能であった.
ERCP.
総胆管内に25mmの結石を認め,バスケットにて把持した.
結石が硬く砕石用シース破損と金属断線を生じた(矢印).
16mmバルーンを用いて内視鏡的乳頭ラージバルーン拡張術を追加し,結石除去を試みたが困難であった.
スネアをバスケットの金属線に被せ,鉗子口を通じてロープーウェー式に胆管内へ挿入した(矢印:バスケット金属線,矢頭:スネア).
a:スネアにてバスケット先端を把持した(矢印:バスケット,矢頭:スネア).
b:スネアを牽引し,バスケットを胆管内で反転させて変形させることで結石把持の解除に成功した.
経口胆道鏡下にElectronic hydraulic lithotripsyを施行し完全結石除去を得た(a:透視像,b:胆道鏡像).
総胆管結石に対する治療は,経乳頭的内視鏡的結石除去術が標準治療として普及しており,高い成功率が報告されている 1).しかし,大結石を結石除去用バスケットで把持すると,バスケット嵌頓が生じ得る.バスケット嵌頓の発生率は0.8-5.9% 2)~5)とされ比較的稀ではあるが,その対処には難渋する場合が多く,注意が必要なトラブルの一つである.
バスケット嵌頓をきたした際の対処法としては,様々な方法が報告されている.バスケットにて把持された結石を破砕する方法として,エンドトリプター 6),ESWL 5),EHL 7),ホルミウムYAGレーザー 8)などが報告されている.しかし,当院のようにESWL,EHL,ホルミウムYAGレーザーは常備しておらず,緊急の場では使用できない施設も多い.また,一般のエンドトリプターは,内視鏡を一旦抜去し,結石の破砕はX線透視下のみで行う必要があり,内視鏡下の観察が行えないため,出血や穿孔などの偶発症のリスクを有する 9),10).本症例で使用した機械的砕石具の専用砕石用シースは,内視鏡の鉗子口を通じて挿入が可能であり,内視鏡下の観察のもと結石の把持,破砕が行える点から,より安全に施行可能であると思われる.しかし,本症例のように非常に硬い結石では,エンドトリプターを用いてもバスケットの金属線やシースが断裂し,バスケット嵌頓が解除できない場合がある.また,十二指腸乳頭部をさらに開大させ,結石を把持したまま除去する方法として,EPLBD 11)やPost-cut法 12)などが報告されている.しかし,EPLBDやPost-cut法の追加処置は,過度な乳頭開大による穿孔のリスクがあるため,乳頭を開大できる範囲には限界があり,本症例のような大結石では結石除去が困難な場合もある.
一方,バスケットの結石把持の解除は,バスケット嵌頓の際にまず初めに試みられるべき方法と考える.バスケットの結石把持の解除法としては,把持鉗子にてバスケットの金属線を把持,牽引して結石を外す方法 13)や,肝門部にバスケットを押し付けてバスケットを変形させ結石を外す方法 14)などが報告されている.しかし,把持鉗子にてバスケットを把持する方法は透視下に行う必要があり,有効な部位の把持には高度な技術を要し難易度が高い.また,肝門部にバスケットを押し付けてバスケットを変形させ結石を外す方法は,ステンレス製の比較的細く柔らかい金属線であればバスケットは変形しやすいが,本症例のようにナイチノール製の比較的硬い金属線では,バスケットを変形させることが困難な場合が多いと思われる.ナイチノール製の硬い金属線は,結石を破砕してもその後にバスケットの形状が保たれ,繰り返し結石を把持,破砕することが可能であるメリットがあるが,バスケット嵌頓をきたした際には,結石の把持が解除しにくいデメリットが考えられる.
今回われわれは,まず,肝門部にバスケットを押し付けてバスケットを変形させ結石把持を解除する方法を試みたが,ナイチノール製の金属線は硬く,バスケットが変形せず困難であった.そこで,より物理的に直接バスケットを変形させる力を加えるため,スネアにてバスケット先端を把持して牽引し,バスケットを胆管内で反転させて変形させることで,結石把持の解除に成功した.透視下にスネアでバスケット先端を把持することは困難となることが予想されたが,two-devices-in-one channel method 15)を応用し,スネアをやや開いた状態でバスケットの金属線に被せてロープ―ウェー式に鉗子口から挿入することで,確実にバスケットの先端を把持することが可能であった.スネアは多くの施設で常備しているため,緊急のバスケット嵌頓時でもスネアを用いたバスケット反転法は施行可能であり有用であると思われる.
今回,われわれはスネアを用いたバスケット反転法がバスケット嵌頓の解除に有用であった1例を経験したので報告した.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし