GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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RESECTION DEPTH OF COLD SNARE POLYPECTOMY FOR COLORECTAL POLYPS
Marie KUREBAYASHI Akira HASHIMOTOHirono OWAAiji HATTORITakamitsu TANAKAMasatoshi AOKIHiroyuki FUKEHiroyuki KAWABATAAtsuya SHIMIZUHiroshi NAKANO
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2020 Volume 62 Issue 3 Pages 364-370

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要旨

【目的】Cold Snare Polypectomy(CSP)の切除深度に関して検討した.【方法】CSPにて切除した腫瘍径10mm以下の大腸ポリープ503病変を対象とした.切除深度を粘膜(m群)と粘膜筋板+粘膜下層(s群)の2群に分類し,各々の腫瘍径,腫瘍存在部位,腺腫・癌の水平断端評価,切離面の内視鏡像,術者を後方視的に比較検討した.【結果】粘膜274病変(55%),粘膜筋板193病変(38%),粘膜下層36病変(7%)だった.腫瘍径,術者,切離面の内視鏡像は差がなかった.腫瘍存在部位は,盲腸はm群が,直腸はs群が有意に多かった.断端陰性となる病変はs群で有意に多かった.【結論】CSPの切除深度は腫瘍存在部位,水平断端評価で差はあるが,粘膜から粘膜下層の範囲で一定しない.CSPの腫瘍径拡大は慎重にすべきである.

Ⅰ 緒  言

簡便で安全性の高いCold Snare Polypectomy(CSP)が注目を集め 1),2,本邦でも多くの施設に広まりつつある.しかし,不用意に処置を行うと予期せぬ癌の切除も危惧される.過去の報告でも癌の切除は散見され,断端不明となっている例も認められる 3.予期せぬ癌の切除が起こりえる以上,水平断端,垂直断端共に断端評価は重要である.これまで水平断端についての報告は見られるが 2),4),5,切除深度について報告されている文献は少ない.今回われわれは大腸ポリープに対するCSPの切除深度について後方視的に検討を行った.

Ⅱ 対象と方法

当院で2017年8月より2018年7月までに腫瘍径10mm以下の平坦,亜有茎型大腸ポリープに対しCSPを施行した255症例,503病変を対象とした.明らかに検体が挫滅しており,評価不能とされた検体,59病変はあらかじめ除外した.スネアはBoston-Scientific社製CAPTIVATOR2 10mm,またはOlympus社製 Snare Master Plus 10mmを使用した.切除検体のHE染色標本を用いてCSPの切除深度を評価した.検体の切り出しは可能な限り垂直方向へ行い,1切片で評価を行った.切除深度を粘膜(m)と粘膜筋板+粘膜下層(s)の2群に分類し,各々の腫瘍径,腫瘍存在部位,腺腫・癌の水平断端評価,切離面の内視鏡像,術者を後方視的に検討した.m群とs群の代表的な病理像をFigure 1に示す.切離面の内視鏡像は評価できた422病変を対象とし,血腫,白色突起様構造物を認めたものについて検討した(Figure 2).術者別の検討ではCSP施行数が10例に満たない3名は除外し,9名の術者を対象とした.検定はMann-Whitney U 検定,χ2検定,残差分析を使用し,p<0.05を有意差ありとした.

Figure 1 

CSP切除検体の病理像(×40).

a:粘膜(m群).

b:粘膜筋板(s群).

c:粘膜下層(s群).

Figure 2 

切離面の内視鏡像.

a:血腫.

b:白色突起様構造物.

Ⅲ 結  果

患者背景は男性175例,女性80例,平均年齢は66.2±2.3歳だった.切除した全病変の臨床的背景はTable 1に示す.当院ではCSPの切除適応腫瘍径は術者の判断に任せられているが,約90%が腫瘍径5mm以下の病変であった.内視鏡的切除を行うべき腺腫性ポリープは397病変(78.9%)であり,癌も1例認めた.この癌症例は腫瘍径6mmの粘膜内癌であり,水平断端は不明,垂直断端は陰性だった.拡大内視鏡像はⅢL型pit patternを呈しており,術前評価困難であった.組織型のその他には粘膜隆起28例,非特異的腸炎4例,平滑筋腫1例,Peutz-Jeghers型ポリープ1例を分類した.

Table 1 

切除した全ポリープの臨床的背景.

Table 2にm群とs群各々の腫瘍径,腫瘍存在部位,腺腫・癌の水平断端評価,切離面の内視鏡像の比較検討結果を示す.全病変の切除深度は粘膜から粘膜下層の範囲で一定せず,粘膜内に半数以上が留まる結果となった.腫瘍径は,両群いずれも中央値腫瘍径4mmであり,差を認めなかった.腫瘍存在部位では盲腸,上行結腸,横行結腸,下行結腸,S状結腸,直腸の6群間で有意差を認め,さらに残差分析を行うと盲腸はm群が,直腸はs群が有意に多かった.水平断端評価については,断端陰性率はm群で37.5%,s群で62.3%であり,s群で有意に断端陰性となる病変は多かった.切離面の内視鏡像は血腫を422病変中70病変(16.6%),白色突起を52病変(12.3%)に認め,両群間でその出現頻度に有意差はなかった.術者間では切除深度に有意差を認めなかった.

Table 2 

腫瘍径,部位,水平断端,内視鏡像の切除深度の検討.

Ⅳ 考  察

近年,大腸小型ポリープに対し安全で簡便なCSPの有用性が多く報告されている 1),2.CSPの水平断端評価についての報告は見られるが 2),4),5,CSPの切除深度に関する報告は少ない.医学中央雑誌で「cold snare polypectomy」「深度」をキーワードに全期間で検索したが,報告は認めなかった.PubMedで「cold snare polypectomy」「depth」をキーワードに全期間で検索したところ,4文献を認めた.切除深度に関する報告としては,前記文献の参考文献として記載のあった1文献を加えた計5文献 3),6)~9を認めたのみであった(Table 3).ごく少数例の検体を用いて切除腸管を評価対象としたTakayanagiら 8の報告,および切除検体に粘膜筋板が含まれてないものを検討対象から除外したItoら 9の報告を除いて,3報告では切除深度は一定せず,粘膜のみの切除を8-24%に認めている.

Table 3 

切除深度の報告例.

CSPの切除深度と腫瘍径については3文献 3),6),9で検討されているが,いずれの報告も腫瘍径によって深度に有意差は認めず,今回の検討も同様の結果であった.当院では,腫瘍径に関わらず,スネアを最大径に広げて切除するように心がけているが,この切除方法が腫瘍径と切除深度は関係しないという結果に結びついていると推察される.

今回の検討結果のうち,切除深度に関係するものはポリープ存在部位と水平断端評価であった.Shimodateら 6の検討では部位によって切除深度に差は認めていないが,今回の検討では盲腸と直腸の2群で有意差を認めた.盲腸では粘膜層が多く,直腸は粘膜筋板以深が多い結果であった.また,有意差は認めなかったものの右半結腸では粘膜層が多い傾向にあった.水平断端と切除深度については,Hiroseら 5の報告でも検討されていた.水平断端陰性病変は粘膜筋板+粘膜下層が,断端不明である病変は粘膜層が有意に多くなっており,今回の検討同様,水平断端陰性となる病変が切除深度は深いという結果であった.水平断端陰性となるには,切除時の十分なmarginの確保が必要であり 2,スネアを最大径に広げ粘膜に押し付ける切除方法がとられている場合が多いと考えられる.切除方法によって切除深度には差があることをこの結果は示していると推察される.

切離面の白色突起様構造物についてはTutticciら 10が詳細に検討している.この報告によると,257病変中36病変(14%)に白色突起を認め,突起を生検した結果,粘膜下層と粘膜筋板の複合体が81%,粘膜下層のみのものが13%であったとしている.今回の検討では,突起は切除検体の深度とは関係がなく内視鏡像での深度診断は困難であった.血腫に関しては,粘膜下層深層では浅層に比べ太い血管が多いとTakayanagiら 8の報告があるように,切除深度によっての血管網の違いにより血腫の生じやすさに差がある可能性を推察し検討を行ったが,本検討結果では関連性は乏しかった.

CSPの適応腫瘍径については,欧州消化器内視鏡学会のガイドライン 11は径5mm以下の微小病変に対しCSPを強く推奨し,径6-9mmの病変に対しては弱く推奨している.一方,本邦では現状で統一した基準はない.CSPによるポリープの不完全切除率は過去の報告を見ると決して低率ではない.Zhangら 12はCSP後の潰瘍底から1カ所および周囲粘膜から4カ所生検し腫瘍成分のあったものは8.5%であったと報告している.また.Matsuuraら 13はCSPを施行した部位にEMRを追加で施行し,腫瘍成分のあったものは3.9%であったと報告している.内視鏡的切除前にすべての癌の診断をつけることは現実不可能であり,実臨床では予期せぬ癌の切除はおこりうる.万が一癌切除をした場合,CSPは熱凝固を加えないため,後日内視鏡像で切除部位を特定するのは困難であることから,追加処置やfollow upすることも容易ではない.当院のEMR(Endoscopic mucosal resection)の検討では,腫瘍径1-5mmの腺腫担癌率は0.2%,腫瘍径6-10mmでは5.8%であった.Sakamotoら 14の報告でも同様に,腫瘍径1-5mmの腺腫担癌率は0.46%,腫瘍径6-9mmでは3.3%であり,ことに腫瘍径6-10mmの腺腫担癌率は決して低率ではない.Itoら 9は,EMRでは粘膜下層まで切除できたものは92%であったと報告している.一方,CSPは今回の検討で粘膜下層まで切除できたものはわずか7%であり,半数以上が粘膜層での切除であった.Itoら 9は垂直断端陽性率が高いSSA/Pおよび癌に対しCSPは適さないとしており,CSP施行の際には内視鏡術前診断をより慎重に行うべきと結論付けている.EMRを施行すれば取りきることのできる病変が,CSPを施行することで垂直断端不明あるいは陽性となる可能性があるということは重要視すべきと考える.

本研究は単施設の後ろ向き研究である.CSPの切除検体は小さく熱凝固がないため粘膜面の確定が困難で,切り出しが難しい.回収時に分断された挫滅検体はあらかじめ除外し,粘膜のみの切除検体は切り出しを可能な限り垂直には行っているものの,評価不十分な検体が含まれている可能性があることがlimitationとしてあげられる.今後さらなる症例蓄積が望まれる.

Ⅴ 結  語

CSPの切除深度は盲腸でm群,直腸でs群が,水平断端陰性群でs群が有意に高率であった.しかし,その切除深度は粘膜から粘膜下層の範囲で一定せず,粘膜筋板が含まれているものは,半数に満たなかった.また,切離面の内視鏡像から切除深度を予測することも不可能であった.腫瘍径増大に伴い,腺腫担癌率は上昇する.切除深度の点からは,CSP適応病変の腫瘍径拡大に関しては慎重にすべきと考える.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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