2020 Volume 62 Issue 4 Pages 441-456
胃癌とH. pylori感染との関連は明白であり,内視鏡所見からH. pylori感染の有無を診断することは胃癌リスクを評価する上において重要である.「胃炎の京都分類」は19の特徴的な内視鏡所見からH. pylori感染を未感染,現感染,除菌後を含む既感染に分類し,その組織学的胃炎の診断までをほぼ可能とした胃炎分類である.H. pylori未感染者の特徴的な内視鏡所見としてRAC(regular arrangement of collecting venules)が重要であり,現感染者の所見としてびまん性発赤や白濁粘液付着に伴う萎縮,腸上皮化生,鳥肌,皺襞腫大など,既感染者の所見としてびまん性発赤の消退,これに伴う地図状発赤の顕在化を認めることがある.さらに,本分類改訂版ではこれからの胃粘膜を考慮してH. pylori感染以外の胃炎・胃粘膜変化を取り上げている.
「胃炎の京都分類」は内視鏡診療におけるH. pylori感染診断や胃癌リスク評価において有用であり,さらに内視鏡医育成・学生教育においても期待されている.
胃炎は日常臨床において汎用される診断名であり,その臨床経過から急性と慢性とに分類されるが,一般的に胃炎とは慢性胃炎を意味する.この慢性胃炎の本体は組織学的胃炎であり,これはH. pylori感染が主な原因となり,胃生検の採取により病理組織学的診断が行われている.
2013年にH. pylori感染胃炎に対する除菌治療が保険適用となったことも契機となり,胃内視鏡検査は癌などの早期発見に加えてH. pylori感染胃炎の有無を的確に診断し,感染診断を行い,除菌治療へ速やかに誘導することで,胃がんリスクを低減する,すなわち,胃がん死撲滅の役割を担う必要性がでてきた.
このような時代背景のもと,第85回日本消化器内視鏡学会総会(2013年5月開催)においてシンポジウム「胃がん撲滅に向けた内視鏡的胃炎の意義」およびワークショップ「新たな内視鏡的胃炎,updated京都分類を目指して」の2つの主題が京都において報告・討論され,総会終了後に「胃炎の京都分類」作成委員会が設立された.幾度の討論を重ねた結果,本委員会により作成された「胃炎の京都分類」は客観性のある胃炎所見をH. pylori感染状態に準じて取り上げ,内視鏡所見から胃癌リスクを評価することを目的として2014年9月に初版が発刊された 1).その後,同分類の基本となる所見は改変なく,これからの胃粘膜を考慮してH. pylori感染以外の胃炎・胃粘膜変化を取り上げた改訂第2版が2018年11月に出版された 2).
本稿では,「胃炎の京都分類」の初版を中心とする ‘これまで’ と改訂第2版を中心とする‘これから’について,文献的レビューも含めて概説する.
「胃炎の京都分類」ではシドニー分類 3),4)(1996年改訂 5))など,これまでの胃炎分類 6)と診断 7)~11)の歴史を鑑み,H. pylori感染を未感染,現感染,除菌後を含む既感染の大きく3つの感染状態に分類して胃炎の内視鏡所見を診断することを基本とした(Table 1) 1).すなわち,日常の内視鏡診療・内視鏡検診において観察する胃の所見が,胃粘膜のどの局在に,H. pylori感染がどのような状態で,どの程度の頻度で観察できるかが分類されている.これまでに「胃炎の京都分類」が内視鏡診療や検診におけるH. pylori感染診断能 12)~16),胃癌リスク評価 17),18),H. pylori抗体値との組み合わせによる正確な感染診断 19),20),さらには胃炎に関する教育 15)にも有用であることが多く報告されている.

胃炎の京都分類.
H. pylori感染に起因する内視鏡所見を考える際には,未感染の胃粘膜所見を理解する必要がある.未感染の胃粘膜所見とは,現在までにH. pylori菌に感染していない胃粘膜であり,病理組織学的には好中球浸潤・萎縮・腸上皮化生のない状態である 21),22).
胃粘膜には萎縮を認めないため,粘膜上皮下に存在する集合細静脈が規則正しく配列する微小な発赤点,RAC(regular arrangement of collecting venules)が胃角部~胃体部小彎に観察され,拡大観察ではヒトデ状血管として確認できる(Figure 1).RACは未感染胃の典型的内視鏡像として報告 23)されており,胃底腺領域が肛門側に拡がっている症例では前庭部にも認められることもある.その他,未感染胃の粘膜は平滑で光沢があり,粘液は漿液性で胃体部大彎の皺襞は細く真直ぐ走ることも特徴であり,胃底腺ポリープ,ヘマチン,稜線状発赤および隆起びらんが認められることもある.なお,RACの判定部位は胃角部~胃体下部小彎で行うことが推奨されているが,プロトンポンプ阻害薬服用例などでは胃底腺粘膜がひび割れ粘膜となることが報告 24),25)されており,このような症例ではRACが不明瞭となるため,前述の所見を参考に総合的に診断するとよい.

H. pylori未感染胃粘膜の内視鏡像.
胃体部小彎には集合細静脈が規則正しく配列するRACが観察され,拡大観察ではヒトデ様の血管として確認できる.
a:通常観察.
b:拡大観察.
Yoshiiら 14)は,内視鏡専門医7名が除菌歴などの患者情報を知らされない状態で胃内視鏡検査を行い,「胃炎の京都分類」に準じてRAC,胃底腺ポリープ,稜線状発赤,萎縮,びまん性発赤,腸上皮化生,鳥肌,地図状発赤などの19所見を前向きに評価した成績を報告している.解析対象は498例であり,そのなかで未感染粘膜の診断オッズはRAC 32.2,胃底腺ポリープ7.7,稜線状発赤4.7であり,RACが最も診断に有用であったとしている.さらに,著者らの検討 13)においても,RACが未感染粘膜の主たる内視鏡所見(感度100%,特異度98.7%,正診率99.1%)であった.
2)H. pylori現感染胃粘膜の内視鏡所見の特徴H. pylori現感染の胃粘膜では組織学的にはリンパ球浸潤とともに好中球浸潤が認められ,粘液層には菌体が確認できる.さらに,慢性変化に伴う固有胃腺の萎縮や腸上皮化生を認める,すなわち慢性活動性胃炎の状態である.内視鏡所見では活動性胃炎の所見であるびまん性発赤,粘膜腫脹や白濁粘液を基盤として,これに加えて慢性所見として出現頻度の高い萎縮,その他に皺襞異常(腫大・蛇行や消失),腸上皮化生,鳥肌,黄色腫,腺窩上皮過形成性ポリープなどの所見が観察されることがある 21),22).
a)びまん性発赤
主に胃体部の非萎縮粘膜に広く連続的な拡がりを持つ均等な発赤を示し,まだらな発赤ではなく,濃淡のない発赤である.粘膜腫脹・白濁粘液と同様に活動性胃炎(組織学的には好中球浸潤を反映する)を示す基本所見であり,未感染や既感染にはない現感染胃粘膜の典型的な所見である.また,びまん性発赤は除菌治療により軽減・消退していくため,この消退所見が内視鏡による除菌成功の指標となり得る 26).
軽微なびまん性発赤を的確に診断するにはある程度の経験を必要とするが,色彩強調機能であるLCI(Linked Color Imaging)観察を行うと,びまん性発赤は韓紅(からくれない)色として認識できるため,H. pylori感染診断に有用であることが報告されている(Figure 2) 27)~32).Dohiら 27)は,内視鏡による感染診断において白色光とLCIとを比較した結果,その正確度および感度はそれぞれ74.2%,81.7%および85.8%,93.3%であり,LCI観察は白色光と比較して有意に診断能が向上したと報告している.また,前述のYoshiiらの研究 14)では,現感染粘膜の診断オッズはびまん性発赤26.8,粘膜腫脹13.3,白濁粘液10.2であり,びまん性発赤が最も高値であったことが報告されている.

びまん性発赤の内視鏡像.
びまん性発赤はLCI観察にて韓紅色として観察されるため,白色光と比較してその診断が容易となる.
a:白色光観察.
b:LCI観察.
b)萎縮
萎縮はH. pylori感染胃粘膜で最も特徴的な所見であるが,腸上皮化生と同様に慢性所見であるため現感染のみならず,除菌後を含めた既感染粘膜にも認められる所見である.すなわち,萎縮があることが現感染を意味するわけではない.除菌後には組織学的には有意に萎縮は改善することが報告 33)されているが,内視鏡的には改善しないまたは不変である症例も認める 34).
通常の内視鏡観察においては胃粘膜の菲薄化に伴い,胃体部小彎の皺襞が消失し,樹枝状の血管透見像やまだらな褪色調粘膜などの所見から木村・竹本分類 35)に準じて内視鏡的萎縮境界を診断する.この分類では内視鏡的萎縮境界が胃体部小彎側で噴門を越えない閉鎖型closed type(C-Ⅰ~C-Ⅲ)とそれを越え,大彎側に進展する開放型open type(O-Ⅰ~O-Ⅲ)に分類される.また,NBI(Narrow band imaging)やLCIにて胃粘膜観察することで,白色光と比較して萎縮境界がより明瞭となることがある.Mizukamiら 36)は,萎縮境界の観察を白色光とLCIで比較検討した結果,現感染および除菌後共にLCIにてより明瞭な観察が得られたことを報告している.
分化型胃癌の発生には萎縮や腸上皮化生などが関与しており,内視鏡的胃粘膜萎縮と胃癌リスクとの関連が報告 37),38)されてる.近年,Sugimotoら 17)はH. pylori胃炎932例,早期胃癌189例および除菌後胃癌79例を対象に「胃炎の京都分類」による内視鏡スコアを比較検討した結果,早期胃癌における萎縮および腸上皮化生のスコアはH. pylori胃炎より有意に高値を示し,多変量解析にて腸上皮化生と男性が有意なリスクであったと報告している.また,Shichijoら 18)は,「胃炎の京都分類」のうち,萎縮・腸上皮化生・鳥肌・皺襞腫大・びまん性発赤と胃癌リスクについて3,392例を検討した結果,萎縮と男性が多変量解析にて有意なリスクであったと報告している.さらに,除菌後に発見される胃癌も少なくなく 39),そのリスクは除菌前の内視鏡的胃粘膜萎縮 40),41)や組織学的腸上皮化生 40)の程度に関連することが報告されており,このような症例では除菌後も定期的な内視鏡による経過観察が重要である.
c)腸上皮化生
腸上皮化生は萎縮した胃粘膜を背景として,典型例では大小不同で灰白色調の扁平隆起が多発して認められ 42),横山・竹本ら 43)の「特異型腸上皮化生」と呼ばれるものである.しかしながら,灰白色調粘膜以外にも組織学的腸上皮化生が見られることが報告 44)されており,通常の内視鏡観察ですべての腸上皮化生を診断するには限界もある.
近年,画像強調内視鏡の進歩により,白色光観察では十分に視認できなかった腸上皮化生が診断できる時代となった.NBI拡大内視鏡観察におけるlight blue crest(LBC)(刷子縁に短波長光が反射することにより生じる青白い光の線)が腸上皮化生の診断として有用であること(Figure 3) 45),化生粘膜上皮下での脂肪滴の吸収・沈着物質である白色透明物質(white opaque substance:WOS)(Figure 4)を認めること 46),LBCとWOSは共に腸上皮化生の内視鏡診断に有用なマーカーであることが報告 47)されている.

腸上皮化生の内視鏡像(1).
NBI拡大にて化生粘膜ではlight blue crest(刷子縁に短波長光が反射することにより生じる青白い光の線)が観察される.
a:通常観察.
b:NBI拡大観察.

腸上皮化生の内視鏡像(2).
NBI拡大にて化生粘膜ではwhite opaque substance(脂肪滴の吸収・沈着物質である白色透明物質)が観察される.
a:通常観察.
b:NBI拡大観察.
OnoらはLCI観察にて腸上皮化生がラベンダー色に観察されることをlavender color sign(LCS)(Figure 5)として報告し 48),白色光およびLCI観察での腸上皮化生の拾い上げについて検討した結果,白色光では19.0%,LCIでは91.4%であり,LCIはその拾い上げに有用であるとしている.さらに,近年Onoら 49)はLCI観察下におけるl-menthol散布により,腸上皮化生の視認性が増強されることを報告している.Osawaら 50)やTakedaら 31)は,BLI(Blue LASER Imaging)観察も同様に腸上皮化生の診断に有用であることを報告している.

腸上皮化生の内視鏡像(3).
腸上皮化生はLCI観察にてラベンダー色となり,非化生部との境界がより明瞭となる.
a:白色光.
b:LCI.
d)鳥肌
あたかも鶏の毛をむしり取った後の皮膚のように胃粘膜に均一な顆粒状隆起が密集して認められるものを「鳥肌状胃粘膜」と呼び,その所見は胃角部から前庭部に認められることが多い 51),52).従来,若い女性に多い生理的現象であると考えられ,病的意義は少ないと理解されていたが,その後の研究により,鳥肌胃炎はH. pylori菌の初感染によって起こる過剰な免疫応答であり,H. pylori感染陽性の小児や若年者に好発する胃炎の一形態であることがわかってきた 51),52).さらに,鳥肌胃炎に消化性潰瘍や胃癌などが合併する症例が報告 53)~55)されるようになり,鳥肌胃炎が若年者胃癌,とくに未分化型胃癌の発生母地として注目されている.過去を紐解くと竹本らの本邦での最初の報告 56)は,20歳女性の胃癌手術例の胃カメラ像で,「とりはだ」にも比すべき著明な顆粒像を広汎に認めたと記述している.発癌機序については不明な点が多いが,背景胃粘膜の萎縮は軽度であるが胃酸分泌能は低い 57)こと,前庭部のみならず胃体部にも炎症が波及していること,リンパ瀘胞形成が著しいことなどが発癌に寄与している可能性がある.鳥肌胃炎を診断した際には胃体部の未分化型胃癌の高リスク群として早期に除菌すべきであると考えられる.
鳥肌胃炎の内視鏡所見は結節性変化が特徴的で,結節隆起の中心には白色の陥凹を認め,病理学的にはリンパ濾胞の増生がその本体であり,除菌によりこの変化は経時的に消失することが知られている.また,鳥肌胃炎の内視鏡診断には通常観察のみならず,NBI,BLIおよびLCIを併用することでより結節性変化が明瞭となり,診断補助として有用である(Figure 6) 58).

鳥肌胃炎の内視鏡像.
前庭部には白色調の結節状隆起が均一に認められ,NBI観察にてより明瞭となり,拡大観察では隆起の中心部に陥凹を認める.
a:白色光(遠景観察).
b:白色光(近接観察).
c:NBI近接観察.
d:NBI拡大観察.
e)皺襞腫大・蛇行
皺襞腫大は胃体部に炎症細胞浸潤とともに上皮細胞の増殖亢進や腺窩上皮の過形成による粘膜の肥厚が認められる.内視鏡観察では一見して胃体部大彎のひだが太くて蛇行していること,十分な送気によっても消失せずに観察されるひだを指し 59),これは除菌治療により著明に改善することが報告 10)されている.
Watanabeら 60)は前向きコホート研究において,内視鏡検査における皺襞腫大型胃炎からの胃癌発生率を検討した結果,対照(皺襞腫大なし)の胃癌発生率(43人/人口10万・年)に比して皺襞腫大型胃炎からの発生率(1,749人/人口10万・年)が有意に高率であったと報告している.発癌機序については明確ではないが,H. pylori感染に起因する炎症性サイトカイン(IL-1βなど)の産生亢進やこれによる胃酸分泌の抑制,増殖因子の産生亢進などが発癌に関与すると考えられている.
3)H. pylori既感染胃粘膜の内視鏡像H. pylori既感染胃粘膜は除菌治療,偶然の抗菌薬による除菌あるいは高度萎縮による菌の自然消失に伴い,好中球浸潤は速やかに消失するが,単核球浸潤は残存する,いわゆる慢性非活動性胃炎の状態である.内視鏡観察では萎縮や腸上皮化生を認めるが,びまん性発赤や粘膜腫脹は消失し,逆に地図状発赤を認めることがあり,このような所見を診断した際には既感染と考えられる 21),22),61).
除菌によりびまん性発赤が消退するため,萎縮のない胃底腺領域は白色調を呈し,萎縮・腸上皮化生粘膜では発赤が残存する.この発赤を地図状発赤あるいは色調逆転現象 62)と呼んでいる(Figure 7).地図状発赤は斑状発赤,小発赤陥凹,まだら状発赤など様々な用語として用いられてきたが,「胃炎の京都分類」で地図状発赤に統一することが提唱された.なお,地図状発赤は除菌後に必ずしも出現するものではないが,この所見を認めた場合は除菌後の胃粘膜と考えられている 63),64).

除菌前・除菌1年後の内視鏡像.
前庭部のびまん性発赤は除菌により消退し,地図状発赤が顕在化している.
a:除菌前.
b:除菌1年後(地図状発赤).
地図状発赤は高度萎縮例に出現しやすく,地図状発赤群26例と対照群89例における萎縮の程度を検討した結果,地図状発赤群において有意に高度萎縮を高頻度に認めた(19/26:73% vs 25/89:28.1%,p<0.001) 12).地図状発赤は組織学的には腸上皮化生であり,除菌後に発見される胃癌のリスクであることが報告 65),66)されており,Ⅱc病変との鑑別診断のほか,地図状発赤以外の背景胃粘膜への詳細な内視鏡観察も重要である.Majimaら 66)は,除菌後胃癌109例と除菌後非胃癌85例に対して,「胃炎の京都分類」に準じて萎縮・地図状発赤の検出率について白色光とLCI観察にて検討した.胃癌群での地図状発赤の検出率は非胃癌に比較して高率であり(白色光観察:61.5% vs 37.7%,LCI観察:78.0% vs 45.9%),また,LCI観察の方が地図状発赤の検出率が高く,その有用性を報告している.さらに,Onoら 67)は多施設前向き共同研究において白色光観察とLCI観察を比較した結果,LCI観察は現感染のみならず,既感染の診断にも有用であることを報告している(既感染の正診率:白色光36.8% vs LCI 78.9%).
「胃炎の京都分類」改訂第2版は初版の分類に加えて,H. pylori感染以外の胃炎・胃粘膜変化も取り上げている.Table 2には改訂第2版で新たに提示されたH. pylori感染以外の胃炎の一覧を示す 21).今後H. pylori感染率がさらに低下する,除菌治療がさらに普及してくる時代に合わせて自己免疫性胃炎,NHPH(non-Helicobacter pylori Helicobacter species)感染,非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)/アスピリン(ASA)およびプロトンポンプ阻害薬(PPI)/カリウムイオン競合型酸分泌抑制薬(P-CAB)による胃粘膜変化,好酸球性胃炎がここに取り入れられている.

胃炎の京都分類(その2).
本稿では,紙面上の都合により自己免疫性胃炎(A型胃炎)およびPPIに伴う胃粘膜の主な変化について概説する.
1)自己免疫性胃炎(A型胃炎)A型胃炎は抗胃壁細胞抗体により胃底腺が傷害される自己免疫による胃炎である.これはStricklandら 68)により提唱された特殊型胃炎であり,幽門腺萎縮をほとんど認めないのに対して,胃底腺萎縮が高度,すなわち逆萎縮のパターンを示す胃炎である(Figure 8).血中抗壁細胞抗体や抗内因子抗体が関与することが知られており,悪性貧血の成因,胃癌や胃神経内分泌腫瘍の発生母地,中高年女性の自己免疫性甲状腺疾患をしばしば合併し,自己免疫性多内分泌腺症候群として扱われることもある 69).

A型胃炎の内視鏡像.
幽門前庭部の萎縮は軽度であるが,胃体部の血管透見像は著明であり,内視鏡的逆萎縮を認める.
a:幽門前庭部.
b:胃体部の見上げ像.
c:胃体部の見下ろし像.
しかしながら,本疾患への関心度の向上などから内視鏡検診を契機に発見に至る症例 70),71),胃がんリスク層別化検診におけるD群 72),貧血(大球性貧血や鉄欠乏性貧血)や甲状腺疾患などの自己免疫性疾患,胃癌などの精査,泥沼除菌 73)(腸管由来のウレアーゼ産生菌により尿素呼気試験が陽性となり,何度も除菌を繰り返す)症例などから診断される症例が増加している.A型胃炎はこれまで稀な疾患とされていたが,内視鏡検診を契機に発見される症例が増加している.青木ら 74)は多施設集計での連続する内視鏡検査症例8,761例のうち,A型胃炎の頻度は0.49%(43/8,761)であり,性別では男性0.14%,女性0.9%,高度萎縮(木村・竹本分類:O-Ⅱ/O-Ⅲ)での頻度は6.22%であったと報告した.高度萎縮例ではA型胃炎が潜在的に存在している可能性があるため,逆萎縮の有無に留意すべきである.
近年,Teraoら 75)は本邦では初となる多施設共同研究によるA型胃炎245例の臨床病理学的検討を報告している.245例の内訳は男性89例,女性156例,平均年齢は67.2歳であり,抗壁細胞抗体陽性率は90.6%(202/223)および抗内因子抗体陽性率は51.8%(72/139)であった.H. pylori感染率は7.8%(17/218),血清ガストリン値(平均±標準偏差)は2,845 ± 2,234pg/ml,PG Ⅰ値は8.24 ± 9.9ng/ml,PG Ⅱ値は9.53 ± 4.65ng/ml,Ⅰ/Ⅱ比は0.88 ± 0.69であった.さらに,典型的な内視鏡的逆萎縮に加えて,胃体部の固着粘液を32.5%(73/225),偽ポリープを22.9%(11/48),前庭部の斑状発赤を22.9%(49/214),輪状模様を19.2%(41/214)認め,その特徴的な内視鏡所見と報告している.
2)PPIに伴う胃粘膜の変化a)黒点
近年,黒色の色素沈着と定義される「黒点」と呼称される内視鏡所見の報告が散見されている 76)~81).この黒点を初めて報告したHatanoらは胃生検標本などを検討した結果,この部位には嚢胞状に拡張した胃底腺腺管が認められ,このなかに好酸性物質が貯留し褐色の微細顆粒状物質の沈着を含んでいることを報告 76)している.「胃炎の京都分類」初版では取り上げられていなかったが,同改訂第2版では,黒点とは「PPI長期内服例や除菌治療後の胃粘膜に観察される黒子様の小斑点」と明記されている 79).この病態の発生機序や好酸性物質および褐色顆粒状物質の本体は現在のところ明らかではないが,PPI内服や除菌により胃底腺組織の拡張が生じ,嚢胞状に拡張した腺管内に褐色の微細顆粒状物質が沈着している所見と推察されている(Figure 9).また,黒点は胃体部や穹窿部に多発する傾向があり,胃底腺ポリープや胃底腺型胃癌のなかにも見られることもある 79),80).

胃黒点の内視鏡像.
胃体上部前壁を中心に多数の黒点を認める(除菌後症例).
a:遠景観察.
b:近接観察.
Adachiら 78)は1,600例中156例(9.8%)に黒点を認め,H. pylori陽性,陰性および除菌後別の頻度はそれぞれ2.1%,1.5%および18.2%であったと報告している.黒点発生に関する多変量解析では除菌による因子が最も強く[OR 13.153],次いで高齢との有意な相関を認めたが,PPIとの相関は認めなかったとした.さらに,除菌群のなかでも中等度~高度萎縮との有意な相関(高度萎縮:[OR 3.205],中等度萎縮:[OR 2.642])を認め,黒点は除菌成功の内視鏡による指標となり得る 81),82).
b)多発性白色扁平隆起(春間・川口病変)
胃体上部から穹窿部にかけて白色調の扁平隆起が多発してみられる病変が存在する.川口ら 83)は第73回日本消化器内視鏡学会総会で初めて「胃体部に認める白色扁平隆起の検討」と題して20例を報告した.本報告では男女比7:13と女性に多く,平均年齢は68.1歳(38~92歳),20例中13例(65%)にPPIあるいはH2受容体拮抗薬が投与され,病理組織学的には胃底腺腺窩上皮の過形成性変化であることを指摘した.この報告以来,PPI内服例の胃体上部から穹窿部を観察すると,白色調で丈の低い扁平隆起が多発して認められることが明らかとなり 84)~86),本病変は「春間・川口病変」とも呼称されている.遠視で観察すると病変を視認できないこともあるが,近接観察するあるいはNBI,BLI,LCI観察にて的確に診断することができる(Figure 10).

多発性白色扁平隆起の内視鏡像.
胃体上部大彎を中心に白色調の扁平隆起が多発し,BLI観察にて本病変はより明瞭となる.
a:白色光観察.
b:BLI観察.
近年,Adachiら 86)は1,995例を対象として多発性白色扁平隆起と胃粘膜萎縮の程度を検討している.多発性白色扁平隆起は1,995例中60例(3.0%)に観察され,高齢女性に多く,60例中51例(85%)が除菌の既往歴があった.その発生リスクを多変量解析した結果,除菌既往,女性,高齢,さらに除菌既往例では高度な萎縮を有することが抽出され,胃酸分泌抑制薬の内服は発生リスクではなかったと報告した.
c)敷石状粘膜
胃体部粘膜にあたかも石を敷き詰めたような粘膜所見,すなわち「敷石状粘膜」所見を認めることがある 87).敷石状粘膜は周囲粘膜とほぼ同色調で,無数の小さな顆粒状の隆起が主体である.隆起は皺襞と皺襞との間に認められることが多く,これを一見すると「もこもこ」した胃粘膜の印象である(Figure 11).

敷石状胃粘膜の内視鏡像.
胃体部大彎には石を敷き詰めたような敷石状粘膜所見を認める.
a:白色光(遠景観察).
b:白色光(近接観察).
Takahariら 88)は,6カ月以上PPIを内服した171症例を対象とし,その臨床的特徴と内視鏡所見,さらには敷石状粘膜の病理学的特徴について検討した.その結果,171例中60例(35.1%)に敷石状粘膜の所見を認め,24例中19例(79.2%)に胃底腺の嚢胞状拡張,18例(75.0%)にPCP(parietal cell protrusion:尖った壁細胞が腺内腔に突出する所見),7例(29.2%)に空胞化所見を認めたと報告している.また,Miyamotoら 24)は,PPI内服とひび割れ粘膜および敷石状粘膜との検討を行い,ひび割れ粘膜の頻度はPPI服用者では24.4%(40/164)であり,非服用者の3.7%(14/374)と比較して有意に高率であり,敷石状粘膜も同様の結果であったと報告している(9.1% vs. 0.8%).本病変の発生機序については詳細不明であるが,PPIが壁細胞のプロトンポンプに結合し胃酸分泌を抑制するため,その直接作用または高ガストリン血症による過形成性変化をきたし,胃粘膜に敷石状を呈するものと考えられる.
「胃炎の京都分類」の初版および改訂第2版を中心に,分類と所見の解説,典型的な内視鏡画像や文献的レビューも含めて概説した.本分類は内視鏡診療や検診領域におけるH. pylori感染診断,H. pylori感染状態による胃癌リスク評価,内視鏡医育成・学生教育などにおいて非常に有用であり,これまでの歴史ある胃炎学をさらに発展させたものと言える.近年では人工知能(AI:artificial intelligence)を用いた胃炎診断の有用性も報告 89),90)されつつあり,今後「胃炎の京都分類」をAI診断に活用する,さらなる進化も期待される.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし