2020 Volume 62 Issue 4 Pages 497-507
【背景と目的】ダブルピッグステント(double pigtail stent)を用いた超音波内視鏡下ドレナージ術(Endoscopic ultrasound-guided drainage;EUS-D)における被包化壊死(Walled-off necrosis;WON)の治療には限界がある.EUS-Dで改善しない場合にしばしば内視鏡的ネクロセクトミーが行われる.しかしながら,内視鏡的ネクロセクトミーは重篤な合併症や致死率を伴う手技である.私たちは今回,経鼻経消化管的持続洗浄療法(transmural naso-cyst continuous irrigation;TNCCI)を内視鏡的ネクロセクトミーの代替療法として行った.今回の研究の目的はWONに対するTNCCIの有用性を明らかにすることにある.
【方法】2009年4月から2018年3月まで間にWONで入院した39人の患者のうちEUS-Dを行った19人を対象とした.2015年5月から2018年3月の間の患者10人に対してTNCCI療法を行った(TNCCIグループ).TNCCIはEUSガイド下に経胃もしくは経十二指腸的にWON内に留置された外瘻チューブから生理食塩水を40ml/hで継続的に流し,WON内の洗浄を行った.2009年4月から2015年4月の間の患者9人に対してTNCCIを併用せずEUS-Dを行った(対照群).TNCCI群と対照群におけるさまざまな治療指標について比較検討した.
【結果】WONの縮小までの時間(6 vs. 32days,p=0.001),内視鏡的ネクロセクトミーの施行率(0% vs. 55.6%,p=0.01),回数(0 vs. 0.8±1.0,p=0.008)はともに対照群と比較してTNCCI群の方が有意差をもって少なかった.
【結語】内視鏡的ドレナージ術にTNCCIを併用するのはWONに対する効果的かつ安全な治療である.この方法は,内視鏡的ネクロセクトミーを行う前に行う代替療法になり得ると考えられる.
2012年の急性膵炎,アトランタ分類によると,被包化壊死(walled-off necrosis;WON)は壊死性膵炎発症から4週間以上経過後にできる局所合併症として定義されている 1).WONは,成熟した炎症性の壁によって被包化された膵臓および膵周囲壊死の貯留物である 1).WONは,症状がないものも多く60%は自然に治癒する 2).しかしながら,WONは時折,感染を伴いまた,サイズが大きくなることによって,腹痛や消化管閉塞,胆管閉塞,敗血症を引き起こし,症状を有することがある 2).症状を有するWONに対して,内視鏡的,外科的,経皮的デブリードメントが行われている 3).ステップアップアプローチがWON治療に関連する臓器不全を防ぐ方法として近年推奨されている 4),5).ステップアップアプローチにおいて,初回治療として超音波内視鏡下ドレナージ術(endoscopic ultrasound-guided transmural drainage;EUS-D)と経皮的ドレナージ術,二次治療として内視鏡的ネクロセクトミー,三次治療として外科的ネクロセクトミーがしばしば行われる 5).重症合併症の発生頻度は,低侵襲な治療より徐々に上げていくステップアップアプローチの患者の方が開腹下のネクロセクトミーより低かったと報告されている(40% vs. 69%,p=0.006) 4).そのため,開腹下のネクロセクトミーを行う前に,低侵襲な手技である内視鏡下ドレナージを実施することが増えている 4).
WONは内部に壊死物質を含んでいるため,必ずしもEUS-Dだけで改善しないことがある 3).ステップアップアプローチにおいて,初回のドレナージ治療のみで,改善するのは35%の症例のみである 4),6).EUS-Dを行いうまくいかなかった場合には,二次治療として多くの施設では内視鏡的ネクロセクトミーが行われているが 5),7)~9),内視鏡的ネクロセクトミーは合併症の発生頻度も高く,出血のなどの重篤な合併症を引き起こす 10).
それゆえ,われわれは,経消化管的経鼻持続洗浄療法(transmural naso-cyst continuous irrigation;TNCCI)を内視鏡的ネクロセクトミーもしくは外科的ネクロセクトミーの代わりとして行っている.TNCCIは,EUS-D時に内瘻チューブと外瘻チューブをWONに留置し,外瘻チューブを通してWONの内部を持続洗浄する.この研究の目的は,WONに対するTNCCIの有用性と安全性を明らかにすることである.
この後ろ向きコホート研究は,和歌山県立医科大学の倫理委員会によって承認されている(登録番号:2227).
対象患者医療データベースにより特定された2009年4月から2018年4月までに和歌山県立医科大学でWONに対してEUS-Dの治療を行ったすべての患者を対象とした.WONは,2012年のアトランタ分類に従って,造影CT検査で成熟した炎症性の壁によって被包化された膵臓および膵周囲壊死の貯留物であると定義した.WONのドレナージの適用は,(1)腹痛もしくは(2)感染を伴っているものとした.
TNCCI療法は2015年5月より開始.2009年4月から2015年4月までのすべての患者はTNCCIなしのEUS-D,2015年5月から2018年3月までのすべての患者はTNCCIありのEUS-Dを行った.患者の選択基準は,(1)アトランタ分類に従ってWONと診断されていること,(2)EUS-Dを行っていること.患者の除外基準は,(1)EUS-Dが不成功に終わった(2)追跡期間が3カ月未満とした.
手技TNCCI群における超音波内視鏡下ドレナージ術
すべての患者において,リニア型の超音波内視鏡(UCT240,260;Olympus Ltd,Tokyo,Japan)を用いて4人の超音波内視鏡医が治療を行った.4人の内視鏡医は,皆が日本消化器内視鏡学会に所属し,この研究までに少なくとも5年以上のEUSの経験を持つ内視鏡医である.Doppler EUSガイド下に19G針(SonoTip Pro Control Tip;Medi-Globe, Achenmühle, Germany)でWONを穿刺(Figure 1-a,b).0.025inchガイドワイヤ(VisiGlide;Olympus Corporation, Tokyo, Japan)を穿刺針からWONに入れ,WON内でコイリングするように留置した.ガイドワイヤをWON内に残して穿刺針を抜いた(Figure 1-c).

経鼻経消化管的持続洗浄前のダブルピッグテールステント(double pigtail stent ;DPS)と経鼻嚢胞ドレナージチューブ留置.
a:超音波内視鏡像.19G 針でWONを穿刺.
b:透視像.WONを穿刺し,造影剤をWON内に注入する.
c:ガイドワイヤを穿刺の中を通してWONに留置.
d:穿刺部を8mmまでバルーンを用いて拡張.
e:2本のガイドワイヤをWON中に留置.
f:placement DPSと内視鏡的経鼻胆管ドレナージチューブ(endoscopic naso-biliary drainage;ENBD)をWON内に留置.
その後,ガイドワイヤの誘導下に穿刺部を径8mm大の拡張用バルーンを用いて拡張した(Ren;Kaneka, Osaka, Japan)(Maxforce;Cook Medical, Winston-Salem, NC, USA)(Figure 1-d).1回目のEUS-Dで,穿刺部はダブルピッグステント(A double pigtail stent; DPS: Zimmon Biliary Stent;Cook Medical)とENBDチューブendoscopic naso-biliary drainage(Flexima ENBD Catheter;Boston Scientific)が留置可能ぐらいまで拡張した.ダブルルーメンカテーテル(uneven double-lumen cannula;Piolax, Yokohama, Japan)を用いて,0.025インチと0.035インチ(Jagwire;Boston Scientific, Natick, MA, USA)のガイドワイヤをWON内に留置した(Figure 1-e).DPS(7Fr4-12cm)を内瘻化チューブとして0.025インチガイドワイヤよりWON内に留置する.その後,7FrのENBDチューブを外瘻チューブとして,0.035インチのガイドワイヤを用いてWONに留置した.このチューブはできるだけ,穿刺部より遠いところに留置した(Figure 1-f).
TNCCI 療法
2015年5月から2018年3月の患者には,EUS-D後にTNCCIを行った.EUS-Dを行った後,外瘻チューブより40ml/hで生理食塩水を自然滴下しWON内を洗浄した.洗浄の量は,既存の論文と患者の体重に基づいて決定した 5),10).もし,72時間後に感染,症状が改善していない,またステントの位置がよくない,造影CT検査で新たな貯留物ができた,また自然滴下が停止した場合は,内視鏡を用いて新たなドレナージ用ステント(7Fr,4-12cm)(Zimmon Biliary Stent)を追加した.自然滴下の停止はドレーンチューブの閉塞と考えた.追加のドレナージステントを留置した後もTNCCIを継続した(Figure 2-a).TNCCIは,WONが改善するまで継続した.さらにTNCCIでWONが改善しない時は,DPSをフルカバー型自己拡張型金属ステント(fully covered self-expandable metal stent;FCSEMS)(10mm,68cm)(WallFlex stent, Boston Scientific)に入れ替え,TNCCIを継続し(Figure 2-b),FCSEMSとTNCCI療法でWONが改善しない時は,内視鏡的ネクロセクトミーを考慮した(Figure 3).

a:透視像.ENBDチューブはできるだけ穿刺部より遠くに留置し,3本のDPSをWON内に留置.
b:ENBDは穿刺部よりできるだけ遠くに留置し,fully covered self-expanding metal stent(FCSEMS)をWON内に留置.

TNCCI群の治療のフローチャート.
超音波内視鏡下ドレナージ(endoscopic ultrasound-guided drainage;EUS-D)を施行後,walled-off necrosis(WON)の灌流を行った.臨床的な改善が得られない,ドレーンチューブの位置がよくない,新たな液体貯留が出現した,自然滴下が止まった時には,WON内にドレナージステントを追加した.TNCCIは追加ステント留置後も引き続き行った.TNCCIの期間はWONが寛解するかよって判断した.WONがTNCCI療法で改善しない時には,ダブルピッグテールステント(double pigtail stent;DPS)fully covered self-expanding metal stent(FCSEMS)に入れ替えTNCCIを続けた.FCSEMS留置した上でTNCCIを行い効果がない場合には,内視鏡的ネクロセクトミーを考慮した.
低侵襲ステップアップアプローチ治療(対照群)
2009年4月から2015年4月の間の患者には,TNCCIを使用しない従来の低侵襲なステップアップアプローチのEUS-Dを行った.まず,一次治療としてEUS-Dを行った.ドレナージには,1本もしくはそれ以上のプラスチックステントチューブを留置した.留置したプラスチックステントは,DPS(7Fr,4-12cm)(Zimmon Biliary Stent)もしくは7Fr ENBD tube(Flexima ENBD Catheter)であった.72時間後に改善を認めない,ドレーンチューブの位置が悪い,新たにドレナージを必要とする貯留物が出現した場合,内視鏡を用いて追加のドレナージステント(7Fr,4-12cm)(Zimmon Biliary Stent)をWON内に留置した.それでも,臨床的改善が得られない場合,内視鏡的ネクロセクトミーを施行した(Figure 4).

対照群の治療のフローチャート.
まず,超音波内視鏡下ドレナージ術(endoscopic ultrasound-guided drainage;EUS-D)を行う.臨床的な改善が得られない,ドレーンチューブの位置がよくない,新たな液体貯留が出現した,時には,新たなドレナージチューブをWON内に留置.その後も臨床的改善が認められない場合には内視鏡的ネクロセクトミーを行った.DPS, double pigtail stent.
内視鏡的ネクロセクトミー
内視鏡的ネクロセクトミーは,すべての壊死性および化膿性物質が排出されるまで,週に1〜2回実施した.瘻孔部を大口径のバルーン(12-15mm)(CRETM PRO Wireguided Biliary Dilatation Balloon Catheter;Boston Scientific)を用いて拡張し,内視鏡をWON内に進めた.内視鏡的ネクロセクトミーは直視鏡(GIF 260;Olympus)を用いてバスケット鉗子(Dormia basket;FG-22Q-1;Olympus)で行った.
処置後の経過フォロー
WONは,処置後の3日以内とWONが寛解するまでは少なくとも週に1回はCT検査で経過をフォローした.処置後のすべての患者は,われわれの病院に入院した.WONおよび膵管断裂の改善は,EUS-Dの8〜12週間後に造影CT検査によって評価した.完全な寛解が得られたら,すべての内瘻ステントを抜去した.しかし,WONの寛解が得られなかった場合,ステントの抜去は延期し,さらに2〜4週間後にCT検査を行った.
評価項目
主評価項目はCT検査においてWONが最初の50%以下に縮小するまでの時間である.副次評価項目は,合併症の発生頻度,1人あたりの内視鏡によるre-interventionの回数,内視鏡的ネクロセクトミーの施行回数,内視鏡的ネクロセクトミー施行率,絶食期間,初回のEUS-D後の入院期間,新規発症の多臓器不全の発生頻度,臨床的成功率である.われわれは,臓器不全の定義を以下のように定めた.中枢神経障害,Glasgow coma score<13;呼吸不全,PaO2/FiO2 ratio<200;凝固障害,血小板数≤8.0×1010/L;腎不全,血清クレアチニン>1.9 mg/dL;心血管障害,収縮期血圧≤90mmHg.新規発症の臓器不全は,初回のEUS-D後に少なくとも48時間持続する臓器不全として定義した 11).臨床的成功は,WONのサイズが,50%以下に縮小し,4~6週後の画像検査で持続していることに加え,症状も改善していることと定義した.
統計解析データは,平均値±標準偏差もしくはn%で報告した.各々のグループにおいてWONが減少するまで時間を,カプランマイヤー曲線を用いて表した.WONが減少しなかった患者は,最後の追跡日または死亡の日を打ち切りとした.ログランク検定を用いて2群間のWONが減少するまでの時間を比較した.ウィルコクソンの順位和検定を使用して平均を比較し,フィッシャーの正確検定を使用して比率を比較した.p値≤0.05は有意とみなした.統計解析は,JMP(Version Pro 13)を使用し行った.
WONを有する39人の患者がわれわれの施設に入院した.そのうち,20人の患者はこの研究に不適格でした.2009年4月から2015年4月までの間の不適格患者は13人でした.その内訳は,WONが自然に治癒した患者が8人,EUS-Dが不成功に終わった患者が2人,EUS-Dを行わずに手術を行った患者が3人でした.EUS-Dは,超音波内視鏡の先端とWONの間隔を空けすぎてしまったため失敗した.2015年5月から2018年3月までに不適格になった患者は,7人でした.その内訳は,WONが自然に治癒した患者が6人,EUS-Dを行う前に呼吸不全により死亡した患者が1人(Figure 5).患者背景に関しては,Table 1に記載した.患者背景には明らかな有意差は2群間には認められなかった.

対象患者のフローチャート.
TNCCI, transmural naso-cyst continuous irrigation;EUS-D, endoscopic ultrasound-guided drainage;WON, walled-off necrosis.

患者背景.
Figure 6にWONが減少するまでの時間のカプランマイヤー曲線を示した.WONは減少するまでの時間は有意差をもってTNCCI群の方が対照群と比較して短かった(median;6 vs. 32days,p=0.001,log-rank test).副次評価項目は,Table 2に示した.内視鏡的ネクロセクトミーは,対照群でTNCCI群と比較して有意により頻繁に施行した(55.6% vs. 0%,p=0.01).内視鏡的ネクロセクトミーを行った回数に関しても,有意にTNCCI群の方が対照群に比較し少なかった(0 vs. 0.8±1.0,p=0.008).TNCCI群において1人の患者のみFCSEMSを用いたドレナージを行った.内視鏡処置の施行回数,絶食の期間,入院の期間については,2群間で有意差は認められなかった(p=0.54,p=0.10,and p=0.40,respectively).対照群のうち,9人のうち1人の患者(11.1%)が初回のEUS-D後に呼吸不全を認めた,一方TNCCI群では明らかな新規発症の臓器不全は認めなかった.さらに,対照群では,9人の患者のうち2人(22%)に有害事象があった.内訳は内視鏡的ネクロセクトミー施行後の消化管穿孔1例と出血1例である.有害事象において2群間には明らかな有意差は認められなかった(p=0.21).加えて,TNCCI群では明らかな有害事象は認めなかった.WONは,最終的には両群で外科的ネクロセクトミーは行わず寛解し,どちらの群でも再発は認められていない.

WONが減少するまでの累積期間を示すカプランマイヤー曲線.
WONの減少に要した累積時間は,TNCCI群の方が対照群よりも有意に短かった(p=0.001,ログランク検定).
TNCCI, transmural naso-cyst continuous irrigation;EUS-D, endoscopic ultrasound-guided drainage;WON, walled-off necrosis.

WONに対する超音波内視鏡下ドレナージ術の結果.
本研究は,従来のステップアップ治療を使用して治療を行った対照群よりもTNCCI群でWONがより迅速に減少したことを実証した.さらに,内視鏡的ネクロセクトミーの施行率は,対照群と比較してTNCCI群で有意に低かった.TNCCI群の平均のAPACHE Ⅱ score は10.1と既存論文と比較しても同等に高値であったが,TNCCI群では新たな臓器不全は,引き起こさなかった.これらの結果から,TNCCIは初回のドレナージ効果を高め,次の治療までに患者の全身状態の悪化を防いだと考えられる.TNCCI時に作られる瘻孔は内視鏡的ネクロセクトミー時に作られる瘻孔よりも小さいため,内視鏡的ネクロセクトミー時にできる瘻孔よりも初回ドレナージ後のTNCCIは効果的に壊死物質を洗い流すことができない 5).
しかしながら,TNCCIは,継続的な灌注によってWONから感染性物質を除去することにより,敗血症の悪化を防ぐと考えられる.加えて,TNCCI群の2人の患者では,WONは骨盤腔内まで広がっていた.この2人の患者ではENBDチューブを骨盤腔内に留置しTNCCI療法を行うことでWONは完治した.有害事象の発生頻度は対照群で22.2%,TNCCI群で0%とTNCCI群でより低値であった.これらの結果から,TNCCIはWONに対して内視鏡的ネクロセクトミーを行わずに完治できると考えられる.
Kumarらは,直接内視鏡的ネクロセクトミーを行うことで新規の抗生剤の使用,呼吸不全,内分泌不全,入院期間がステップアップアプローチと比較して減少することを報告し(p<0.005) 12),WONの治療において,早い時点での効果的なドレナージ治療が重要であることを示唆した.一方,639人のWONの連続症例の報告では,有害事象を引き越した患者は,初回に内視鏡的ネクロセクトミーを行った患者よりもカテーテルによるドレナージ治療を行った患者での方が少なかった(42% vs. 64%;p=0.003) 9).安田らは,内視鏡的ネクロセクトミー関連の有害事象の3分の2は処置中に起こり,残りの3分1は処置と処置の間で起こっていたと報告した 5).今回の研究では,対照群のうち,2人の患者が出血と消化管穿孔を内視鏡的ネクロセクトミー中に引き起こしたが,一方TNCCI群では,有害事象を来した患者はいなかった.われわれの結果は,TNCCI群では,より多くの有害事象を起こす内視鏡的ネクロセクトミーを必要としないことから,TNCCIが,既存のステップアップアプローチと比較して優れていることが示唆される.
WON内の壊死物質は,DPSとENBDでは十分に取り除くことはできないかもしれない.この研究では,DPSを用いた超音波内視鏡下ドレナージ術を行い,TNCCIを加えた患者の中で,WONが寛解しなかった患者が2人いた.これらの患者では,内視鏡下にDPSをFCSEMSに入れ替え,引き続きTNCCIを行うことで寛解した.加えて,TNCCIに経鼻チューブを使用することは,自己抜去の危険性や留置に伴う痛みといったいくつか欠点がある.超音波内視鏡下ドレナージ術には,DPSを用いるよりもFCSEMSを用いた方が効果的である 13)~16)という報告がある.新たなサドル型大口径フルカバー金属ステント(lumen-apposing fully covered self-expanding metal stent;LAMS)は,WONの壊死物質の除去において,治療効果が高いことが報告されている 3),17).加えて,最近では,内視鏡的ネクロセクトミーを行う前に,超音波内視鏡下ドレナージ術に,FCSEMSまたはLAMSを使用し,持続洗浄を行うことでWONの治療効果を高められたことが報告されている 10),18).しかしながら,FCSEMSとLAMSはDPSと比べて高価である.さらに,FCSEMSはステントの逸脱の危険性とまた対側の管腔壁にステントが接触した際に出血や組織を傷つけるという危険性がある 16).また,超音波内視鏡ドレナージに加えて十二指腸鏡よりWON内を急速に洗浄する方法が有効であると報告されている 19).持続洗浄は洗浄の際に輸液ポンプを使用した場合,内瘻化チューブが閉塞した時に,WONの内圧が上昇し,腹痛などの症状を引き起こす可能性がある.しかしながら,われわれが行っているのは自然滴下による持続洗浄であるため,内瘻化チューブが閉塞した時は,自然滴下も止まる.急速な持続洗浄では,感染のコントロールや壊死物質を除去するためには大きな瘻孔を作ることが必要である 19).一方,持続洗浄では,デブリスの停滞を避けることによって,WONの感染をコントロールするため,初回の治療で大きな瘻孔を作る必要はない.われわれの結果を考慮すると,DPSを用いた内視鏡的ドレナージ治療にTNCCIを加える方法を,WONの治療における一次治療として行う.この治療法の効果が乏しかった時に,FCSEMSやLAMSを用いた内視鏡的ドレナージを考慮するべきである.WONの治療における一次治療として最も適切な方法を決定するには,FCSEMSまたはLAMSを用いた内視鏡的ドレナージ術とTNCCIを加えた内視鏡的ドレナージ術を比較するためのさらなる研究が必要である.
この研究には,単施設であり,症例数も少なく,後ろ向き研究であることからバイアスを含まれているという欠点がある.加えて,TNCCIグループは,サルベージ治療としてFCSEMSを使用し,FCSEMSに加えてTNCCIを行ったが,一方対照群ではFCSEMSを使用しなかった,そして代わりにステップアップアプローチを行ったが,それによって寛解まで時間が要した可能性があり,FCSEMSを使用したことが交絡因子になり得る.それでも,TNCCIは,優れた新しい治療方法であり,この研究が安全性と効果を証明している.TNCCIを加えたDPSもしくはFCSEMSを用いた超音波内視鏡的ドレナージ術の有用性を確認するためには,前向きのランダム化比較試験が必要である.
TNCCIを加えたDPSを用いる超音波内視鏡下ドレナージ術は,効果的かつ安全なWONの治療方法である.われわれは,この方法を内視鏡的ネクロセクトミー前に行うことを推奨し,かつ侵襲度の高い内視鏡的ネクロセクトミーを行わずにほとんどのWONが改善すると示唆している.
謝 辞
われわれは,和歌山県立医科大学第二内科講座ならびに臨床研究センターの方々に深謝いたします.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし