GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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A CASE IN WHICH VIDEO CAPSULE ENDOSCOPY WAS USEFUL FOR DIAGNOSIS OF ADVANCED JEJUNAL MUCINOUS CARCINOMA ASSOCIATED WITH PEUTZ-JEGHERS SYNDROME BEFORE SURGERY
Toru KADONOYusuke OKUYAMA Yoshikazu NAKATSUGAWAToshifumi DOIShinya YAMADANaoya TOMATSURIHideki SATOHiroyuki KIMURANorimasa YOSHIDAYoji URATA
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2020 Volume 62 Issue 5 Pages 550-556

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要旨

49歳女性.Peutz-Jeghers症候群を背景とした小腸癌を小腸カプセル内視鏡検査を含め各種画像検査で術前診断し,外科的切除を施行した.病変は粘膜下腫瘍様形態を呈する粘液癌が主体をなしていたが,一部に術前の小腸カプセル内視鏡検査で指摘した乳頭状構造に一致して,病理組織学的に乳頭腺癌を認めた.Peutz-Jeghers症候群の小腸腫瘍性病変の存在診断においてカプセル内視鏡検査は低侵襲であり,表面構造が観察された場合には,病変の質的診断においても有用である可能性があると考えられた.

Ⅰ 緒  言

Peutz-Jeghers(以下,P-Jと略記)症候群は悪性腫瘍の発生率が高い.P-J症候群に合併する小腸腫瘍の診断には様々な検査手技が用いられているが,今回,小腸カプセル内視鏡がP-J症候群に合併した小腸粘液癌の存在診断だけでなく,特異的な所見から質的診断にも有用であると考えられた症例を経験したため報告する.

Ⅱ 症  例

患者:49歳,女性.

主訴:腹部違和感.

既往歴:小学生時,口唇・皮膚の粘膜色素沈着を指摘された.10歳代より小腸・大腸の過誤腫性ポリープの内視鏡的切除を繰り返し施行され,P-J症候群と診断された(Figure 1-a,b).26歳時,子宮頸部癌に対し手術を施行された.40歳時,小腸過誤腫性ポリープに対し小腸部分切除術を施行された.

Figure 1 

a:口唇に色素沈着を認める.

b:手指の皮膚に色素沈着を認める.

家族歴:P-J症候群に関して家族歴を聴取するも詳細不明であった.

現病歴:6カ月毎に下部消化管内視鏡検査,1年毎に上部消化管内視鏡検査と小腸造影検査でフォローされていた.2016年5月に経口小腸造影検査を施行され空腸に20mm大の透亮像を指摘されるも精査は拒否されていた.2017年5月に経口小腸造影検査を施行し,再度空腸に不整な透亮像を指摘され精査のため入院となった.

入院時現症:身長150.7cm.体重53.2kg.意識清明.血圧109/54mmHg,脈拍64回/分整,体温36.6℃.眼瞼結膜に貧血なし,眼球結膜に黄疸なし.腹部は軽度膨隆し,臍部に鶏卵大の腫瘤を触知した.体表リンパ節を触知せず,四肢に浮腫を認めなかった.

入院時血液・生化学検査所見:RBC 3.83×106/μL,Hb 10.0g/dL,Hct 32.7%,Plt 55.2×104/μLの異常を認めた.腫瘍マーカーはCEA 3.5ng/mL,CA19-9 94.7U/mLとCA19-9高値を認めた.その他血算,生化学検査で特記すべき所見は認めず.

小腸造影検査:空腸に大きさ50mmの可動性の乏しい透亮像を認めた.表面は比較的平滑で粘膜下腫瘍様の特徴を呈した,隆起の頂部には不整なバリウムの溜まりを認めた.病変周囲の小腸管腔は圧排され,一部に直接浸潤の可能性が疑われた(Figure 2).

Figure 2 

経口小腸造影所見.

空腸に大きさ50mmの可動性の乏しい透亮像を認めた.表面は比較的平滑だが,隆起の頂部には不整なバリウムの溜まりを認めた.病変周囲の小腸管腔は圧排されていた.

腹部造影CT検査:下腹部正中に,辺縁は軽度造影されるが,内部の造影効果は乏しい50mm大の低吸収腫瘤を認めた.有意なリンパ節腫大や播種性病変,明らかな遠隔転移を認めなかった.

PFD-PET/CT検査:下腹部正中の約60mmの腫瘍には不均一ながら強い異常集積を認めた(SUVmax8.4).遠隔転移を疑う所見は認めなかった.

小腸カプセル内視鏡所見:管腔を占拠する腫瘍は粘膜下腫瘍様の形態で,大部分は正常粘膜に覆われていたが隆起の一部に黄白色調の粘液様物質を伴い,不整な腫瘍が露出していた(Figure 3-a).また別の画像では,表面性状として乳頭状に増殖する腫瘍を認めた(Figure 3-b).過誤腫性ポリープの所見とは異なるものであった.カプセル内視鏡は病変部に約7時間停滞し,小腸の蠕動の低下や通過障害が考慮された.

Figure 3 

小腸カプセル内視鏡所見.

a:管腔を占拠する腫瘍は粘膜下腫瘍様の形態で,大部分は正常粘膜に覆われていたが,隆起の一部に黄白色調の粘液様物質を伴い,腫瘍が露出していた.

b:腫瘍表面の一部に乳頭状の腫瘍を認めた.

小腸バルーン内視鏡所見:白色調の厚い粘液様物質が付着する粘膜下腫瘍様の隆起性病変を認めた.インジゴカルミンを散布し,観察した腫瘍表面の一部に不整顆粒状の腫瘍を認めた(白矢頭)(Figure 4).粘液様部分を含め複数箇所から内視鏡下生検を施行しadenocarcinoma, mucinous and papillaryを検出した.

Figure 4 

小腸バルーン内視鏡所見(インジゴカルミン散布).

白色調の厚い粘液様物質が付着する粘膜下腫瘍様の隆起性病変を認めた.観察した腫瘍表面の一部に不整顆粒状の腫瘍を認めた(白矢頭).

以上の所見より,P-J症候群を背景に出現した空腸粘液癌;臨床病期分類でcT4,N0,M0(Union for International Cancer Control(UICC)8th)と診断した.治療として外科的小腸部分切除術を施行した.

手術所見:腫瘍はTreitz靭帯から約90cm肛門側に存在し,周囲の空腸を一部巻き込んでいた.腫瘍周囲に弾性硬のリンパ節を複数触知したが腫瘍背側に上腸間膜動脈本幹が走行していたため郭清は縮小せざるを得ず,腫瘍近傍で巻き込まれている小腸を含め切除した.

切除標本肉眼所見:大きさ70mm×60mmの腫瘍を認め,主病変の周囲には10mm~30mmの大きさの過誤腫性ポリープが5~6個存在したが,これらの病変との連続性は認めなかった.切除標本肉眼所見として腫瘍の割面像を提示する(Figure 5).腫瘍は乳白色の充実成分で,比較的なだらかな立ち上がりを呈する粘膜下腫瘍様の肉眼形態であった.黄線で囲まれた部位以外の腫瘍は上皮に覆われており,写真左側で周囲空腸に浸潤していた.黄線で囲まれた部分と赤線で囲まれた部分に関して,病理組織学的所見で詳細を示す.

Figure 5 

切除標本肉眼所見割面像.

腫瘍は乳白色の充実成分で,比較的なだらかな立ち上がりを呈する粘膜下腫瘍様の肉眼形態であった.黄線で囲まれた部位以外の腫瘍は上皮に覆われており,写真左側で周囲空腸に浸潤していた.

病理組織学的所見:腫瘍の大半は粘液癌で,粘膜下層を中心に粘液結節を形成していた.肉眼所見の黄線で囲まれた部分の病理組織所見をFigure 6-aに示す.腫瘍表面の大部分は非腫瘍粘膜で覆われていたが,一部に粘液癌が表面に露出していた.肉眼所見の赤線で囲まれた部分の病理組織所見をFigure 6-bに示す.腫瘍辺縁の一部に乳頭腺癌を認めた.同部位はカプセル内視鏡で認めた乳頭状の構造部分に相当すると考えた.最終診断はmucinous adenocarcinoma,type 1,size 70×60mm,depth si(other loops of small intestine),ly0,v0,pT4(UICC 8th),margin(-)とした.なお腫瘍内や腫瘍辺縁に過誤腫成分や腺腫成分を認めず,本症例はde novo発生の可能性が示唆された.

Figure 6 

a:病理組織所見(Figure 5の黄線で囲まれた部位に相当).

腫瘍の大半は粘液癌で,粘膜下層を中心に粘液結節を形成していた.腫瘍表面の大部分は非腫瘍粘膜で覆われていたが,提示部では粘液癌が腫瘍表面に露出していた.

b:病理組織所見(Figure 5の赤線で囲まれた部位に相当).

腫瘍辺縁の一部に乳頭腺癌を認めた.

治療経過:術後10日目に癒着性腸閉塞を認めたが保存的加療で改善し,術後26日目で退院となった.大腸癌治療ガイドライン2016に準拠し,術後化学療法としてCapecitabine+Oxaliplatinを開始した.Capecitabine+Oxaliplatin3コース終了後に吻合部周囲での局所再発を認め,Capecitabine+Oxaliplatin+Bevacizumabへレジメンを変更し,現在も全身化学療法を継続中である.

Ⅲ 考  察

P-J症候群は消化管ポリポーシス,皮膚粘膜の色素沈着を特徴とする常染色体優性遺伝の症候群である.P-J症候群に生ずる過誤腫性ポリープは食道を除くすべての消化管に発生し,小腸(64%),大腸(64%),胃(49%),直腸(32%)の頻度で見られる 1.小腸の過誤腫性ポリープは増大すると腸閉塞や腸重積を引き起こす可能性があり,P-J症候群と診断された成人の約60%に腹腔鏡下手術が施行され,そのうちの70%においては急性腹症による緊急手術が施行されていた 2.またP-J症候群では癌の発生率が高く,生涯の癌発生リスクは93%とされ,特に小腸癌の累積罹患リスクは15歳から64歳までで13%とされている 3

医学中央雑誌で1990-2018年の期間で「小腸」「粘液癌」を検索ワードとして会議録を除き検索したところ,十二指腸癌を除く報告は20例であった(Table 1 4)~23.局在は空腸12例,回腸8例と空腸にやや多く,ほとんどの症例が漿膜層以深へ浸潤しており他臓器浸潤も自験例を含めて5例見られた 8),13),17),19.術前に内視鏡下生検で組織学的診断をした報告 4),11),12),18もあるが,術前にカプセル内視鏡を施行した症例は自験例以外になかった.またP-J症候群を背景とした進行小腸粘液癌は自験例以外に1例のみ報告 7があり,小腸癌の発生リスクの高いP-J症候群においても粘液癌の発生は稀であると考えられた.

Table 1 

本邦の小腸粘液癌の症例一覧(1990年~2018年,医学中央雑誌検索).

P-J症候群における消化管癌の発癌機序は明らかとなっていないが,癌発生母地として,①過誤腫(P-Jポリープ)内の腺腫成分,②過誤腫,③過誤腫とは独立して存在する腺腫,④正常粘膜の4つの説が挙げられている 24),25.中でもP-Jポリープ内に発生した腺腫から癌が発生するとされるhamartoma-adenoma-carcinoma pathway 26が以前から主として唱えられているが,本症例では腫瘍内や腫瘍辺縁に過誤腫成分や腺腫成分を認めず正常粘膜から発生した可能性が考えられた.

P-J症候群患者においては腸重積や腸閉塞の予防のみならず,小腸癌の早期発見のために定期的な消化管サーベイランスが必要であり,8歳より全消化管サーベイランスを開始し,その後2-3年毎に継続が望ましいとされている 27.ダブルバルーン内視鏡検査は小腸造影検査よりもポリープの発見率が高いことが知られているが,カプセル内視鏡検査はダブルバルーン内視鏡検査とポリープの発見率は同等といわれており 28,低侵襲なカプセル内視鏡検査の有用性が注目されている.本症例は1年に1回小腸造影検査を含めた全消化管サーベイランスを施行していたが,20mm大のポリープがその1年後には50mm大と増大しており,切除するも進行癌であった.P-Jポリープの倍加速度が179日であるという報告 29があるが,悪性腫瘍の場合は本症例のように同等もしくはそれ以上に増大速度が速い可能性があり,半年から1年に1回のカプセル内視鏡を用いた全消化管サーベイランスが望ましいと考えられる.また3cm以上のポリープは癌化の可能性が高いとする報告 30もあり,特に大きいポリープについては,形態や表面の性状などを評価して十分な鑑別診断を進める必要がある.本症例のように同一部位に60分以上停滞するregional transit abnormalityの場合には小腸の可動性の低下を伴う悪性腫瘍の合併を念頭におき,停滞中に得られた画像を詳細に検討する必要がある.なお,小腸カプセル内視鏡で指摘した乳頭状の構造は明瞭かつ特異的であり,バルーン内視鏡では確認することができなかった.同部位は病理学的検査で乳頭腺癌を認めており,観察困難な大きな小腸腫瘍の表面構造を観察することができた場合に,小腸カプセル内視鏡は質的診断にも寄与すると考えられる.

今回,P-J症候群に合併した進行空腸粘液癌を術前診断できた1例を経験し,小腸カプセル内視鏡検査がP-J症候群のサーベイランスにおいて存在診断のみならず質的診断にも有用であると考えられた.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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