2020 Volume 62 Issue 5 Pages 612
【背景】隔壁肥厚(septal thickness:ST)は,分枝型および混合型膵管内乳頭粘液性腫瘍の悪性度予測に有用であるが,そのcut-off値は明らかになっていない.本検討の目的は,悪性度を予測するために最適なSTのcut-off値をEUS画像を用いて明らかにすることである.
【対象と方法】1989年から2017年までに外科的に切除されたIPMN200例のうち,分枝型および混合型132例を対象とし遡及的に検討した.STは分枝型あるいは混合型病変の隔壁あるいは被膜の最大値とした.ST単独およびSTと壁在結節(mural nodule:MN)高との組み合わせによるIPMNの悪性予測指標としての可能性につき検討した.
【結果】132例中81例(61.4%)が病理学的に良性であり,51例(38.6%)が悪性病変であった.STのIPMNの悪性予測におけるROC曲線下面積(AUC)は,病理標本0.74,EUS 0.70,CT 0.56であった.多変量解析におけるST 2.5mm≦とMN高5mm≦のオッズ比は,それぞれ3.51(95%CI, 1.55-7.97, p=0.003),3.36(95%CI, 1.52-7.45, p=0.003)であった.
【結語】多変量解析により,STはMN高と同様にIPMNの悪性度を予測する独立した予測因子と考えられた.EUSにおけるSTはIPMNの悪性変化に伴う線維性隔壁の肥厚を反映していると考えられた.ST 2.5mmは悪性IPMNを予測するcut-off値と考えられた.
IPMN国際診療ガイドライン2017 2)では,壁在結節(mural nodule:MN)については5mm≦の造影されるMNをHigh-risk stigmata,<5mmの造影されるMNはWarrisome featuresと具体的な大きさを明記して分類しているが,肥厚あるいは造影される嚢胞壁(septal thickness:ST)については具体的な数値を規定していない.
本検討は,200例のうち膵癌併存例(3例),主膵管型IPMN(18例),浸潤癌(27例),不適切な画像診断(20例)を除いた132例を対象としている.MN高についてはガイドラインに従って5mmをcut-off値とし,STについてはROC曲線を用いて最適なcut-off値を決定し,病理標本とEUS,CTの測定値の対比およびIPMNの良悪性鑑別における有用性を検討している.
STの病理学的検討では,膵管内乳頭粘液性腺腫(low- to intermediate-grade dysplasia:LGD, 81例),非浸潤性膵管内乳頭粘液性腺癌(high grade dysplasia:HGD, 39例),浸潤性膵管内乳頭粘液性腺癌(T1a, 12例)は,それぞれ1.5mm,2.5mm,3.3mmと有意に異なっていた(p<0.001).画像評価では,EUSではLGD 1.8mm,HGD 3.0mm,T1a 3.2mmと有意差を認めたが(p=0.003),CTではLGD 2.3mm,HGD 2.4mm,T1a 3.0mmと有意差を認めなかった(p=0.38).
EUSの計測値と悪性度予測の関連性については,単変量解析ではST 2.5mm≦がOR 3.56,95%CI 1.71-7.43,p=0.001,MN高5mm≦はOR 3.65,95%CI 1.71-7.79,p=0.001,多変量解析ではST 2.5mm≦がOR 3.51,95%CI 1.55-7.97,p=0.003,MN高5mm≦はOR 3.36,95%CI 1.52-7.45,p=0.003とそれぞれ独立した予測因子であった.IPMNの悪性度予測については,ST 2.5mmが感度62.8%,特異度67.9%,正診率65.9%,MN高5mmは感度72.6%,特異度58.0%,正診率63.6%であり,両者を組み合わせると感度60.0%,特異度69.1%,正診率66.7%であった.
本検討はSTの最適なcut-off値を病理標本およびEUS画像で検討しており,臨床的にインパクトのある報告と考えられる.その一方で,今回の検討ではSTは悪性変化に伴う間質の線維化を反映していると推測しているが,limitationでも言及しているように肉眼的に顆粒状変化として把握される程度の隆起性病変を反映している可能性 3)も含めたSTの機序につき更なる検討が望まれる.