2020 Volume 62 Issue 6 Pages 649-658
十二指腸腺腫・腺癌は大きく乳頭部/非乳頭部に分けられ,臨床病理学的特徴や臨床的対応が異なる.非乳頭部十二指腸腺腫・腺癌はその粘液形質から腸型/胃型に分類される.腸型は十二指腸のどこでも発生しうるが,胃型は十二指腸近位側(乳頭より口側)に好発し,悪性度が高いことが示唆されている.非乳頭部十二指腸腺腫や粘膜内癌に対する内視鏡的切除はその合併症の頻度や重篤性から積極的には行われていなかったが,近年の内視鏡治療法の開発により徐々に普及しつつある.一方で低異型度腺腫では長期間の経過観察がなされている症例においても癌化のリスクは高いものではない.治療方針は切除による合併症と経過観察による癌化リスクならびに患者の全身状態や予後を含めて検討されるべきであり,十二指腸腺腫・腺癌の特徴や自然史を考慮し,病変への適切な評価をもとにした治療方針の選択が必要である.
近年,十二指腸腺腫の診断がなされる症例が増加している.これは疾患自体が増加している可能性もあるが,上部消化管内視鏡検査の普及により無症候性に発見される症例が増加している可能性が高い.併存疾患として家族性大腸腺腫症(FAP:Familial adenomatous polyposis)が良く知られているが,孤発性の症例も多くみられる.十二指腸腺腫は大腸腺腫と同様にadenoma carcinoma sequenceにより癌化するものと報告されているが,経過観察された症例の中では癌化せず,増大しないものもみられる.また腺腫では組織像が異なるサブタイプがあり非乳頭部では腸型/胃型,乳頭部では腸型/胆膵型が存在し,それぞれに悪性化する割合が異なる可能性が示唆されている.十二指腸腺腫は切除が基本方針であるが,内視鏡的切除による合併症の頻度が高く,重篤であることから外科的切除や経過観察を行うことも多い.しかしながら長期間の経過観察により,発癌ならびに転移を来した症例の報告もあり,治療方針については一定の見解が得られていない.十二指腸腺癌においても乳頭部と非乳頭部に分けられ,その特徴もまた異なる.腺腫と同様に非乳頭部では腸型/胃型,乳頭部では腸型/胆膵型に分けられ,いずれも悪性度を含めて特徴が異なることが示されている.本稿では十二指腸腺腫・腺癌の疫学や自然史,診断法や治療法を含めた現状について概説する.
十二指腸腺腫・癌の報告は少なく,正確な疫学データは少ない.十二指腸腺腫においては上部消化管内視鏡検査施行患者の0.02-0.04% 1),2)との報告があるが,近年は増加傾向にある.また十二指腸癌においては全消化管癌の0.03-0.36% 3)と稀であることが報告されている.十二指腸癌は小腸癌に含まれるが,本邦での多施設共同観察研究にて乳頭部癌を除く205例の小腸癌症例を検討したところ 4),その約75%(149例)は十二指腸癌であり,本検討で除外されている乳頭部癌を含めると小腸の中では十二指腸は癌の罹患率が非常に高い領域である.
乳頭部十二指腸腺腫・腺癌においてはその解剖学的な位置関係から閉塞性黄疸を生じて発症することがある.一方で非乳頭部十二指腸腺腫や早期癌においては無症状であることから上部消化管内視鏡検査時に偶発的に発見されるものがほとんどすべてである 5).軽微な症状や検診などで上部消化管内視鏡検査が行われることが多い本邦では,症例は徐々に増加している,一方で十二指腸癌の増加にはつながっておらず,上部消化管内視鏡検査の普及が主な要因と考える 6).小腸上皮性腫瘍を併存しやすい背景疾患としてFAP,リンチ症候群,ポイツ・ジェガース症候群,クローン病やセリアック病があげられるが,クローン病やセリアック病では主に遠位小腸での発病が多く十二指腸上皮性腫瘍の背景疾患とは言えない 7).一方でFAP症例ではその死亡原因の第3位は乳頭部癌を含む十二指腸癌であり,十二指腸上皮性腫瘍への対応はきわめて重要である 8).十二指腸腺腫においてはFAP患者の30-90%に認められるため,診断時に全例に対して切除が行われるものではなく,上部消化管内視鏡検査によるサーベイランスが主に行われる 9)~11).
乳頭部腺腫は剖検例からの検討では0.04-0.12%と報告されており,稀な疾患であるが十二指腸上皮性腫瘍の中では好発部位である 12)~14).無症状で発見させることがほとんどであるが,稀に胆管閉塞症状で診断されることもある 14).乳頭部十二指腸腺腫は非乳頭部に比べて癌化しやすく,胆汁酸の暴露による影響と関連するものと考えられている 15)~17).腫瘍径が大きいもの,びらんを伴う結節,襞の集中や胆管拡張などの所見は悪性を疑う所見である 18),19).組織学的に腸型(Intestinal type)ならびに胆膵型(Pancreatobiliary type)の亜型に分けられるが,その多くは腸型であり,胆膵型の非浸潤性腫瘍は稀とされる 20).腸型ではMUC2,CDX2が陽性となり,胆膵型ではEMA(MUC1),MUC5AC,MUC6が陽性となる.形態的に露出型であっても深部(共通管や胆管)に腫瘍が進展しているものがほとんどであり 21),低異型度腺腫であった場合にも切除が検討されることが多い.切除の方針となった場合には内視鏡的乳頭切除術が行われることが多いが,急性膵炎症や術後出血などの合併症のリスクは無視できないものがある 22),23).全例に切除術を施行する必要があるかは議論が分かれるところであり,低異型度腺腫で腫瘍径が小さな症例やFAPにおいてSpiegelman scoreが低い症例は経過観察が選択肢としてあげられ,実臨床では多くの症例は経過観察がなされているものと考えられる 24).ただし,前述の如く乳頭部十二指腸腺腫は非乳頭部に比べて癌化するリスクが高く,また浸潤癌は消化管表層へ露出していないことがしばしばみられるため生検組織による癌の偽陰性率が高いことも知られている 25).臨床的には小さな乳頭部腺腫は経過観察がなされている症例も多いと考えられるが,現在のところまとまった報告はなく,治療による合併症のリスクと癌化のリスクとのバランスから各施設によって患者と相談の上,方針が決まっているのが現状である.
②乳頭部腺癌乳頭部腺癌の好発年齢は60歳代で男性に多い 26),27).FAP,Lynch症候群,ポイツイエーガース症候群などでは併存疾患として好発する.乳頭部腺癌は本邦では胆道癌取扱い規約に基づいて評価がなされることが多く 28),その肉眼分類は大きく4型とその亜型に分類され,a. 腫瘍型(非露腫瘤型,露出腫瘤型),b. 混合型(腫瘤潰瘍型,潰瘍腫瘤型),c. 潰瘍型,d. その他(正常型,ポリープ型,特殊型)に分類される.非乳頭部腺腫と同様に組織学的に腸型(Intestinal type)ならびに胆膵型(Pancreatobiliary type)の亜型に分けられるが,乳頭部十二指腸癌の発生にはadenoma carcinoma sequenceだけでなくde novo発生が存在することも示唆されている 29),30).腸型腺癌は腸型腺腫からadenoma carcinoma sequenceにより発癌するものと考えられるが,胆膵型は腸型に比べて悪性度が高く,予後も不良であることや,多くの腸型腫瘍ではKRAS mutationが認められるものの胆膵型では稀なことから発癌経路が異なることが示唆されており,胆膵型はde novo発生するものと推察されている 31),32).しばしば腫瘍径が小さくても悪性度が高い症例があり,それらは胆膵型との関連が示唆されている 20),27).
粘膜内癌を疑われても術前生検にて癌と診断された場合には耐術能が許せば外科的切除が推奨される.早期の乳頭部癌に対する内視鏡的切除は再発率が高く,標準治療としては確立されていない.しかしながら近年では乳頭部粘膜内癌に対する内視鏡的乳頭切除術による長期成績の良好な成績も報告があり 33),今後の大規模前向き試験やデータの集積が待たれる.非乳頭部に比べて胆管閉塞などにより早期に診断がつくことが多く,早期癌であれば比較的予後は良好であるが,半数近くは切除時にすでに転移を有する 27).膵臓までの浸潤を認める場合は膵臓癌と同様に予後は不良である.
非乳頭部十二指腸腺腫は60歳代半ばの男性で発見される症例が多い 5),34).消化管の上皮性腫瘍性病変の自然史に関する報告は一般的には内視鏡的切除がなされるため少ないものの,非乳頭部十二指腸腺腫においてはその内視鏡的切除術による合併症の頻度の高さとその重篤性により経過観察されることがある.当院では過去に内視鏡的切除術による重篤な合併症が頻発したことから,近年まで多くの症例を経過観察していた.1年以上の経過観察症例46症例51病変では観察期間中央値3.1年(1-10.8年)の中で1例も癌化した症例は認めなかった 35).特に乳頭より肛門側の小さな病変では多くの症例が長期間の経過観察を行っても変化を認めなかった(Figure 1).一方で,広範な病変では6年の経過観察にて癌と診断され切除時にはリンパ節転移を伴っていた症例の報告もあり 36),経過観察中に癌化することで外科的切除を要するに加えて,予後に関与する可能性を常に考えておかないといけない.内視鏡的切除が大腸腺腫の切除と同様に安全であれば積極的に行うべきであるが,その合併症の頻度や重篤性を考慮すると年齢や全身状態を考えて治療方針は検討すべきである(Figure 2).癌化と関連する因子として腫瘍径(20mm以上),絨毛構造の有無ならびに組織学的に高異型度といった項目が報告されており,これらの要素を含む症例に関しては切除が推奨される 20),37).ただし20mm以上の病変となると内視鏡的粘膜切除(EMR)では一括切除が難しくなるため,内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)が適応と考えられるが,近年においても遅発穿孔による重篤な合併症の報告 38)があり,どの施設でも行うことが出来るものではない.高齢かつ全身状態が悪いため,経過観察を行う方針としたが,結果的に8年5カ月の経過観察を行った症例を提示する(Figure 3).本症例ではわずかながら経年的に徐々に増大し,生検組織も低異型度腺腫であったものが経過観察中に高異型度腺腫と変化したが,PSの低下から来院不能となった.このように年齢や背景疾患,全身状態を考慮し,患者と十分に相談した上で経過観察を行うことも一つの方針であると考えられる.
7年6カ月の経過観察にて変化がない症例.
a(インジゴカルミン散布像):十二指腸下行部に6mm大の表面隆起型の腫瘍を認める.生検にて低異型度腺腫と診断される.
b:7年6カ月後の観察でもほぼ同様の所見を認め,組織学的にも同様であった.
非乳頭部十二指腸腺腫に対する治療選択.
高齢者の広範囲病変の経過観察例(8年5カ月).
70歳代後半の女性.PS 2.
a:初診時に下十二指腸角付近に亜全周性の表面隆起型腫瘍を認め,生検にて低異型度腺腫と診断された.外科的切除もしくは経過観察を提示したところ,経過観察を希望された.
b:8年5カ月後の内視鏡検査にて病変は全周性となり,腫瘍の厚みも増した.経過観察途中で病理学的には高異型度腺腫と診断されたが,治療希望はなく,PSがさらに低下したために来院困難となった.
十二指腸腺腫は病理学的診断が難しく,病理医によって低異型度腺腫,高異型度腺腫,粘膜内癌の判断が異なる 39).また生検組織では十分な診断がなされないことが多く,切除後に癌と診断が変化することが多いことも知られている 40).病理学的な診断が確立,均一化していないことも臨床的に治療方針の決定を悩ませる一因である.
FAP症例においては前述の如く30-90%の症例に十二指腸腺腫を合併する.FAP症例における十二指腸腺腫の臨床分類としてSpiegelman score(Table 1)があり 41),臨床病期が高い症例に対しては内視鏡的・外科的切除が推奨されるが,病期が低い症例に対しては定期的なサーベイランス内視鏡検査が推奨される.FAP 437症例の十二指腸サーベイランスに関して10年間の報告 42)があるが,20%以上の症例でhigh grade dysplasiaが発生し,12%の症例に外科的切除が必要とされている.外科的切除がなされた症例の中で4例(8%)の症例にリンパ節転移を認めていた.リンパ節転移を生じる状況まで経過観察を行うことは患者に大きな不利益を強いることになるため,Spiegelman scoreをもとに適切な時期での切除や臨床病期に応じた厳格なサーベイランスが必須と考えられる.しかしながら適正なサーベイランス間隔についてのデータはなく,今後の治療介入やサーベイランス間隔についての前向き研究は今後の課題である.
Spiegelman score・stage.
近年,非乳頭部十二指腸腺腫・腺癌において病変部位によってその粘液形質が異なることが明らかになっている.組織学的には腸型(intestinal type),胃型(gastric type)に大別されCD10,CDX2,MUC2が染色されると腸型,MUC5ACやMUC6が染色されると胃型と診断される.腺腫においても腺癌においても胃型の粘液形質を有する腫瘍は十二指腸近位側(乳頭より口側)に存在することがほとんどであり,腺腫や粘膜内癌といった表在性腫瘍の場合は隆起型を呈するとされる(Figure 4).一方で腸型の腺腫・腺癌は乳頭より口側,肛門側のいずれにも存在し,表面型(表面隆起型,表面陥凹型)を呈することが多い(Figure 5) 34),43)~45).また胃型の病変は腸型に比べて悪性度が高いことならびに浸潤癌では予後が悪いことが示唆されている 45),46).SM癌12例を検討した吉水らの報告ではSM癌は乳頭より口側に多く,胃型粘液形質を有する症例が多く,その中には病変サイズが小さなものがあり,12例中4例は10mm以下であったと報告している 47).Spiegelman scoreで示されるようにFAP症例では腫瘍径が増大するにつれて癌のリスクが上昇することが示されており 41),48),腸型腺腫であれば増大するとともに癌化がみられるものと考えられるが,乳頭より口側の胃型腫瘍の場合には小さくても浸潤癌となることが示されている.乳頭より口側の十二指腸のSM癌の報告は少ないものの,他の論文においても多くの症例は乳頭より口側に存在している.進行癌を含めた非乳頭部十二指腸腺腫・腺癌410症例の後ろ向き観察研究では腺腫や粘膜内癌などの表在性腫瘍は乳頭前・後でその局在に差はみられなかったが,浸潤癌では明らかに乳頭より口側に病変が多く,分布に大きな差があることが確認された 5).内視鏡観察の観点からは乳頭より口側の観察の方が容易であるため,むしろスクリーニング検査で乳頭より口側に腺腫や粘膜内癌が多くみつかってもおかしくはない.表在性腫瘍では領域によって差がないにも関わらず,有症状となる浸潤癌において乳頭より口側に病変が多いことは,明確に乳頭より口側に浸潤癌が発生しやすいことを示唆する.前述の腸型・胃型のサブタイプの観点からみても乳頭より口側には胃型の腫瘍が出現し,腸型よりも浸潤癌になりやすいことが考えられる.このことから乳頭より口側の病変は小さくてもすでに癌である可能性があり,切除を積極的に考える必要がある.
胃型形質を認める非乳頭部十二指腸粘膜内癌.
a:十二指腸球部に40mm大の隆起性病変を認める.b:DLECS(十二指腸腹腔鏡内視鏡合同手術)にて内視鏡的に一括切除を行った.腫瘍径は30×28mmであり,丈が25mm長と明瞭な隆起を認めた.組織学的に絨毛状・管状構造を持つ粘膜内癌と診断される(c).免疫組織学的検討ではMUC5AC(+),MUC6(+),MUC2(-)であり,胃型形質を伴う粘膜内癌であった(d,e,f).
腸型形質を認める非乳頭部十二指腸腺腫.
a:十二指腸下行部乳頭よりやや肛門側の対側に40mm大の表面隆起型腫瘍を認める.b:DLECS(十二指腸腹腔鏡内視鏡合同手術)にて内視鏡的に一括切除を行った.腫瘍径は42×34mmであり,広範な平坦病変であった.組織学的に高異型度腺腫と診断される(c).免疫組織学的検討ではCDX2(+),MUC5AC(-),MUC6(-)であり,腸型形質を伴う高異型度腺腫であった(d,e,f).
十二指腸には腺腫や癌以外に多くの隆起性変化がみられる.診断確定に組織学的評価が必要ではあるが十二指腸では生検による粘膜下層の瘢痕化が強く生じてしまう(Figure 6).生検を行わずに内視鏡的切除を行う報告もあるが,合併症リスクの高い治療を不要な症例に行うかもしれない危険性をはらんでおり,議論の分かれるところである.生検を行うとしてもその後の内視鏡的切除の可能性を含めた治療方針を考慮し,細径生検鉗子を用いるなどの配慮は必要であろう.また可能であればoptical biopsyといった画像強調内視鏡や拡大内視鏡を用いた内視鏡観察によって腫瘍・非腫瘍や腺腫・癌の鑑別がなされるべきである.NBI拡大観察による有用性についての報告 49),50)もあり,病変部位によっては十分な成績ではないものの腫瘍・非腫瘍の鑑別には有用だと考えられ,さらなる知見が報告されることが期待される.腺腫と粘膜内癌の鑑別には,そもそもgold standardである病理学的評価に病理医間のばらつきが強いためその統一が望まれる.
生検にて瘢痕を形成した非乳頭部十二指腸腺腫.
十二指腸下行部の18mm大の表面隆起型腫瘍を認め,前医で生検にて低異型度腺腫と診断されていた.生検により中央に高度の瘢痕を認めている(a:白色光観察,b:インジゴカルミン散布像).
非乳頭部十二指腸腺腫や粘膜内癌に対する治療方針は近年大きな変遷を遂げつつある.内視鏡的切除による合併症の頻度やその重篤性が多く報告され,市中病院では行われることが少なくなり,経過観察されることが多い時代があった.特にESDに関しては胃・十二指腸腫瘍に対して保険適応がなされているため,日常臨床でも行うことは可能であるが,その手技の難易度ならびに胆汁や膵液の暴露といった解剖学的観点から穿孔ならびに遅発穿孔率が高く 51),52),多くの施設では行われなくなった.10mmを超えるような腫瘍の場合には外科的切除を行うこともしばしばみられ,低侵襲手術の開発など外科的切除の工夫もなされている 53).
近年,大腸でのcold snare polypectomyやcold forceps polypectomyならびにunderwater EMRの開発により,十二指腸でもそのような手技が徐々に広まってきている 54),55).また保険適応外であり,研究的な治療ではあるが十二指腸腫瘍に対する腹腔鏡・内視鏡合同手術(DLECS:duodenal Laparoscopy and Endoscopy Cooperative Surgery)も報告されている 56).それぞれのエビデンスは高いとは言い切れず,いまだに先進的な治療法であるが,その安全性についても徐々に報告されてきている.治療方針の選択は最終的には患者の予後や満足度に寄与するためのものであり,安全に切除がなされるようになれば年齢や全身状態を加味しつつも切除がまず選択されるようになると考える.
現在の治療方針の一つとして当院の方針について提示しておく.過去にはほぼ全例が経過観察もしくは外科的切除の方針となっていたが,内視鏡的切除による合併症リスクが以前よりは低く見積もられることから,最近は原則的に内視鏡的切除を推奨している.また乳頭より口側の病変では悪性度の高い胃型腫瘍であることも勘案し,またそのような病変は隆起型が多いため内視鏡的切除による偶発症リスクも低いと考え切除を強く推奨している.一方で低異型度腺腫の場合は患者に過度な負担を強いることがないように,病変のサイズによって治療方針を検討している.小さな病変はcold polypectomy(cold forceps polypectomy, cold snare polypectomy)で切除を行い,20mm以下の症例に対してはUnderwater EMRを適応とている.それ以上のサイズになると分割EMRをもしくはDLECS(保険未収載)を適応としている.大きな病変での分割EMRでは遺残再発率が25-37%と高率であるため 57),58),可能であれば一括切除が望ましい.DLECSでは高い一括切除率が期待され,遅発穿孔の予防効果も高いと考えられるため,今後の先進医療での保険収載が望まれる.ESDに関しては高い一括切除率が得られるものの手技の困難さと合併症リスクから行う施設は限定されるべきである.
十二指腸腺腫・癌についての疫学,自然史ならびに最近報告がある粘液形質による腫瘍の性質の違いについて報告した.乳頭部と非乳頭部では性質や治療方針が異なるが,組織学的にも乳頭部における腸型/胆膵型,ならびに非乳頭部における腸型/胃型といった分類によって悪性度が異なるため,切除や経過観察といった治療方針の選択に一助となる可能性が考えられる.非乳頭部十二指腸腺腫や粘膜内癌では内視鏡的治療の進歩により穿孔や遅発穿孔といった合併症の頻度が減少することで内視鏡的切除が広がるものと思われる.一方で自然史からみる限りは主に腸型と考えられる乳頭より肛門側の平坦な低異型度腺腫はすぐに悪性化することは稀であり,その治療に関しては患者の全身状態や予後を含めた評価の上で治療方針の決定を行うべきである.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし