GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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PATTERN OF GASTRIC LANTHANUM DEPOSITION BASED ON THE PRESENCE OR ABSENCE OF MUCOSAL ATROPHY
Masaya IWAMURO Hiromitsu KANZAKISeiji KAWANOYoshiro KAWAHARATakehiro TANAKAHiroyuki OKADA
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2020 Volume 62 Issue 6 Pages 684-690

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要旨

【背景・目的】内視鏡的な胃ランタン沈着様式と胃粘膜萎縮の関係を明らかにする.

【方法】胃ランタン沈着症症例の内視鏡所見を後ろ向きに解析した.

【結果】ヘリコバクター・ピロリ未感染の4症例のうち3例で白色病変を認め,びまん性白色病変が体部後壁と小彎に優位に分布していた.萎縮性胃炎を認める10症例のうち9例で白色病変を認めた.萎縮を伴う領域では前庭部(5例),角部(5例)に白色病変がみられる頻度が高く,環状白色病変と顆粒状白色病変がみられた.また体部の萎縮領域にも3例で白色病変がみられ,内訳は環状1例,顆粒状1例,びまん性1例であった.胃ランタン沈着は,非萎縮粘膜では体部後壁~小彎のびまん性白色病変として捉えられた.萎縮粘膜では,前庭部~角部に環状白色病変または顆粒状白色病変を呈する症例が多かった.

【結論】内視鏡的な胃ランタン沈着様式は萎縮の有無によって異なると考えられた.

Ⅰ 緒  言

炭酸ランタン製剤は透析中の慢性腎不全患者における高リン血症の改善に用いられる薬剤である.慢性腎不全患者では腎機能の低下によりリンの排泄が低下し,高リン血症を生ずる.またビタミンDの活性化障害によるカルシウムの吸収不良も合わさり,二次性副甲状腺機能亢進症を呈し,慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常(chronic kidney disease-mineral and bone disorder:CKD-MBD)をきたす 1.CKD-MBDでは骨線維症や骨軟化症を引き起こすほか,長期的には血管を含む全身の石灰化もみられる.これらの合併症を予防するため,慢性腎不全患者に対してはリンの摂取制限を指導するとともに,高リン血症治療薬がしばしば用いられる.高リン血症治療薬には炭酸ランタンのほか炭酸カルシウム,塩酸セベラマー,ビキサロマー,クエン酸第二鉄などが挙げられる.

わが国では,炭酸ランタン製剤としてホスレノールチュアブルが2009年から,ホスレノール顆粒が2012年から処方可能となった.炭酸ランタンの副作用として悪心や嘔吐,便秘などの胃腸症状がある 2ものの,一般的に高い安全性と忍容性を有し,かつ高リン血症の補正において有効性が高いことから,現在では炭酸ランタンは慢性腎不全患者に対して広く使用されている.一方で,炭酸ランタンを服用している患者の胃粘膜にランタン沈着を認めることが2015年に初めて報告された 3)~8.その後の検討により,胃粘膜へのランタン沈着は内視鏡検査にて白色病変として捉えられることが明らかとなっている 9)~13.また病理学的には,再生性変化や腸上皮化生,腺窩上皮過形成を伴う粘膜にランタン沈着が生じやすいとの報告があり 14Helicobacter pyloriHP)感染に伴う胃炎との関連が推測されている.しかし,これまでに胃ランタン沈着の局在および内視鏡像と,HP感染胃炎の関連を解析した報告はなく,その特徴はいまだ明らかとなっていない.そこで今回われわれは,胃ランタン沈着様式とHP関連胃炎の関係を明らかにするため,自施設で診断した胃ランタン沈着症のうち,HP未感染の4症例および萎縮性胃炎を伴う10症例について,それぞれの内視鏡所見を後ろ向きに解析した.

Ⅱ 対象と方法

2015年9月から2017年11月までの間に岡山大学病院光学医療診療部で内視鏡検査および生検を行い,22症例が胃ランタン沈着症と診断された.このうち13例では内視鏡検査にて胃に白色病変を認め,ランタン沈着症を疑って生検が実施されていた.3例では胃に白色病変を認めなかったが,十二指腸に白色病変がみられ,ランタン沈着症疑いとして十二指腸粘膜とともに胃粘膜が採取されていた.残りの6例では,びらんや陥凹などの病理学的診断目的に生検が実施されており,偶発的に胃ランタン沈着が診断されていた.

胃粘膜萎縮の有無と内視鏡所見に関して検討するため,血清HP-IgG抗体陰性かつ内視鏡検査で萎縮を認めないものをHP未感染と定義し,これを満たす4症例を検討1の対象とした.また内視鏡検査にて萎縮性胃炎を認める10症例を検討2の対象とした.残りの8例は萎縮性胃炎がないか,不明瞭な症例であり,HP未感染が疑われたが,HP感染に関する検査が未実施であるため,胃粘膜萎縮の有無と内視鏡所見に関する検討(検討1および2)からは除外した.さらに検討3として,組織学的なランタン沈着部位を全例で評価するとともに,拡大観察を行った14症例の拡大内視鏡所見を解析した.

ランタン沈着の有無はヘマトキシリン・エオジン染色標本にて判定し,エネルギー分散型X線分光法による元素分析にてランタンの存在を確認した(Figure 1).対象症例のランタン沈着部位,内視鏡所見について後ろ向きに解析し,白色病変についてはびまん性(diffuse),環状(annular),顆粒状(granular)に分類した(Figure 2 12),13.なお,今回の対象症例には既報の症例が含まれる 9),10),15)~17

Figure 1 

A:胃粘膜へのランタン沈着.ヘマトキシリン・エオジン染色標本では微細な顆粒状~針状の好酸性の沈着物を認める(白矢印).一部に塊状の好酸性の沈着物もみられる(黒矢頭).

B:走査電子顕微鏡では高輝度物質として観察される.

C:エネルギー分散型X線分光法を用いたスペクトル解析では,ランタン(矢印)およびリン(矢頭)にピークを認め,リン酸ランタンの沈着と診断した.

Figure 2 

A,B:胃ランタン沈着の内視鏡像.HP未感染例の胃体部にみられたびまん性白色病変(A:白色光,B:blue laser imaging併用拡大観察).

C,D:萎縮粘膜にみられた環状白色病変(C:白色光,D:narrow band imaging併用拡大観察).

E,F:萎縮粘膜にみられた顆粒状白色病変(E:白色光,F:narrow band imaging併用拡大観察).

元素分析についてはパラフィン包埋ブロックを薄切し,スライドグラス上に貼付したのちにキシレン(10分,2回)および100%エタノール(5分,3回),80%エタノール(5分),50%エタノール(5分)の順に浸漬し脱パラフィン処理を行い,さらにオスミウムコーター(HPC-1S,真空デバイス社製)にてオスミウム蒸着処理(10秒)したサンプルを使用した.走査電子顕微鏡(S4800,日立ハイテクノロジーズ製)にて観察を行い,高輝度の物質として観察された部位についてエネルギー分散型X線分光法(EDAX Genesis APEX2システム,Ametek社製)にて作成したEDXスペクトルを用い,含有元素を解析した.さらに同装置を用いてランタンおよびリンのマッピングを行い,元素の偏在を確認した 12

本研究の計画書は岡山大学生命倫理審査委員会の承認を得た(承認番号 研1801-018).

Ⅲ 結  果

1.HP未感染胃粘膜の内視鏡的ランタン沈着様式

HP未感染の4症例の臨床的特徴をTable 1に示す(HP未感染症例1~4).男性3例,女性1例であり,診断時の年齢は42~73歳,炭酸ランタンの内服期間は25~102カ月であった.1例(症例4)では内視鏡検査にて白色病変は認めず,正常にみえる粘膜からの生検で病理学的にランタン沈着が証明された.残りの3例はいずれも体部にびまん性の白色病変を認め,2例では体部後壁と小彎に,1例では体部大彎から後壁および小彎にかけて分布していた.

Table 1 

HP未感染症例および萎縮性胃炎を認める症例の臨床的特徴.

2.萎縮を伴う胃粘膜の内視鏡的ランタン沈着様式

内視鏡検査にて萎縮性胃炎を認める10症例の臨床的特徴をTable 1に示す(萎縮あり症例1~10).性別は男性8例,女性2例であり,診断時の平均年齢は68.8歳(51~77歳)であった.3例は炭酸ランタンの内服期間が不明であった.残りの7例の平均内服期間は41.7カ月(12~83カ月)であった.1例では内視鏡検査にて白色病変は認めず,正常にみえる粘膜からの生検で病理学的にランタン沈着が証明された.残りの9例について,白色病変は前庭部(5例),角部(5例),体部(5例)にみられた.また噴門部に白色病変を認めた症例も1例あった.穹窿部には白色病変はみられなかった.

白色病変がみられた9症例について,内視鏡にて萎縮のない領域と,萎縮のある領域に分けて肉眼型を集計すると,非萎縮領域では1例で体部,別の1例で噴門部と体部に白色病変がみられ,いずれもびまん性の病変であった.萎縮領域については前庭部(5例)および角部(5例)に病変がみられる頻度が高く,肉眼型の内訳は環状白色病変3例,顆粒状白色病変2例であった.また体部の萎縮領域にも3例で白色病変がみられ,その内訳は環状1例,顆粒状1例,びまん性1例であった.

3.胃ランタン沈着の病理学的沈着部位および拡大内視鏡像

胃ランタン沈着症22症例の全例で,ランタンは間質に沈着しており,上皮や血管,リンパ管内にはランタン沈着を認めなかった(Figure 1-A).拡大内視鏡観察を実施した14例について,白色沈着物は腺窩辺縁上皮ではなく窩間部に存在していた(Figure 2-B,D,F).

Ⅳ 考  察

胃・十二指腸粘膜内にランタンが沈着すると,病理学的にはランタンは間質に認められる.これはランタンがマクロファージにより貪食されて存在するためである 4)~6),14.今回の検討でも,胃ランタン沈着症22症例の全例でランタンは間質にみられ,既報に合致する結果であった.拡大内視鏡観察では白色沈着物が窩間部に存在しており,病理学的な沈着部位を反映した所見と考えられる.

本検討では,胃ランタン沈着様式とHP関連胃炎の関係を明らかにするため,HP未感染の4症例と萎縮性胃炎を伴う10症例の内視鏡所見を後ろ向きに解析した.その結果,HP未感染胃粘膜では体部後壁~小彎にびまん性の白色病変を呈することが明らかとなった.この結果から推測しうるHP未感染胃粘膜の胃ランタン沈着様式をFigure 3-Aに示す.すなわちHP未感染胃粘膜では,ランタンは初期には体部後壁・小彎優位に沈着し,びまん性の白色病変を呈し,経過とともに範囲が拡大するのではないかと考えた.体部後壁・小彎優位に病変を認める理由としては,内服した炭酸ランタンが胃内に滞留し,体部後壁・小彎に長時間接触するためではないかと推測している.慢性腎不全では腸管蠕動が低下しており,便秘症を呈する患者が多いことは周知の事実である 18.また,このような患者では胃蠕動が低下し,胃内容物の排出遅延をきたす可能性も指摘されている 19.実際に今回の対象症例においても,7時間以上の絶食および薬剤服用休止後に撮像したCT検査にて,胃内に残渣およびランタンの滞留を認めた症例もあった 15

Figure 3 

萎縮の有無による胃ランタン沈着様式の違いを示したシェーマ(推測).

A:非萎縮粘膜では体部後壁・小彎優位に沈着し,びまん性の白色病変を呈する.炭酸ランタン内服歴が長くなるとともに範囲が拡大すると推測される.

B:萎縮粘膜では腸上皮化生のある部位に一致して沈着し,顆粒状~環状の白色病変を呈する.萎縮の進行,特に腸上皮化生領域の拡大に伴い沈着範囲が拡大すると推測される.

萎縮粘膜に対する検討では,前庭部や角部に病変がみられる頻度が高く,環状または顆粒状白色病変を呈していた.Banらは胃十二指腸にランタン沈着を認めた24症例について,生検標本の病理組織結果とランタン沈着の多寡の関連を検討し,再生性変化や腸上皮化生,腺窩上皮過形成を伴う胃粘膜にランタン沈着量が多いことを明らかにした 14.この理由について,硝酸ランタンを用いて腸上皮化生粘膜の透過性亢進を示した先行研究の結果 20から,再生性変化や腸上皮化生,腺窩上皮過形成を伴う胃粘膜では正常粘膜に比べてランタンの透過性が高く,胃粘膜への沈着をきたしやすいのではないかとBanらは考察している 14.筆者らは以前の検討において,環状白色病変を呈した4症例で,白色病変から生検を行うとともに,白色病変から約5mm離れた周囲粘膜から生検を行い,病理所見を比較した 9.環状白色病変からの生検では腸上皮化生を4例中3例に認めたが,周囲粘膜の生検では腸上皮化生を認めなかった.また,ランタン元素の定量解析では,周囲粘膜に比べて環状白色病変部位でランタン沈着量が有意に多かった.少数例の検討ではあるが,この結果からは,腸上皮化生のある部位にランタン沈着をきたしやすいことが示唆される.以上から推測しうる,萎縮を伴う胃粘膜の胃ランタン沈着様式をFigure 3-Bに示す.萎縮粘膜,特に腸上皮化生を伴う部位では,ランタン沈着は環状または顆粒状の白色病変を呈し,腸上皮化生領域が広がるとともにランタン沈着の範囲も拡大するのではないかと考えられる.ただし「萎縮あり症例1」や「萎縮あり症例7」では体部の萎縮領域に白色病変を認める一方,前庭部や角部には白色病変はみられなかった.体部に及ぶような広範な腸上皮化生を認める症例では,内服後の炭酸ランタンが長時間接触する体部優位に白色病変をきたしやすい可能性がある.

ランタン沈着の内視鏡所見と萎縮の有無については,非萎縮領域では腸上皮化生などの粘膜変化がないため,ランタンが均一に沈着し,“びまん性”の病変を呈するのではないかと推測される.これに対して,萎縮領域では背景粘膜の腸上皮化生に影響を受ける結果,ランタン沈着が “環状” や “顆粒状” の病変をきたすのではないかと考えられる.前述の通り,筆者らの以前の検討では,環状白色病変を呈する部位では腸上皮化生とともにランタン沈着がみられ,約5mm離れた粘膜では腸上皮化生もランタン沈着もほとんどみられなかった.すなわち,胃粘膜に腸上皮化生が不均一に存在するために,それに沿ってランタンが沈着し,“環状” や “顆粒状” の病変を呈するのではないかと推測される.

Yabukiらは,炭酸ランタンを経口投与したラットモデルにおいて,胃にランタン沈着を認めるとともに腺窩の萎縮や間質の線維化,頸部粘液細胞の増殖,腸上皮化生,扁平上皮細胞乳頭腫,びらん,潰瘍などの所見がみられたと報告している 21.この研究の結果は,ランタン沈着に伴い胃粘膜の組織学的変化を惹起する可能性を示唆している.ただしヒト胃粘膜へのランタン沈着の臨床的意義は明らかとなっておらず,これまでに胃ランタン沈着に伴う健康障害は報告されていない.実臨床において消化管粘膜へのランタン沈着が病的意義を有する否かについては,今後の検討が必要である.このためには,炭酸ランタンを服用中もしくは服用歴のある患者に対して上部消化管内視鏡検査を行う際に,ランタン沈着を拾い上げ,症例を集積することが重要である.本検討の結果をふまえ,萎縮の有無によるランタン沈着部位および肉眼所見の違いを理解したうえで内視鏡検査を行うことにより,適切な内視鏡診断を行うことができると考えられる.

本検討の限界は,胃ランタン沈着症の有病率が算出できていない点である.当施設では内視鏡検査を実施する症例について内服薬の情報がデータベース化されていないことから,当該期間に内視鏡検査を実施した患者について,ランタン内服/非内服の区別ができていない.胃ランタン沈着症の有病率を算出するには,炭酸ランタン服用の有無を前向きに収集する必要がある.また,HP未感染胃粘膜および萎縮を伴う胃粘膜の胃ランタン沈着様式(Figure 3)はあくまで推測であり,実際の沈着様式を解明するには,胃ランタン沈着症患者においてHP感染状態の評価と,内視鏡所見および病理組織所見の経時的な追跡が必要である.

Ⅴ 結  論

胃ランタン沈着は,HP未感染粘膜では体部後壁~小彎のびまん性白色病変として捉えられた.萎縮粘膜では,前庭部~角部に環状白色病変または顆粒状白色病変を呈する症例が多かった.胃のランタン沈着の局在および肉眼所見は萎縮の有無によって異なると考えられた.

謝 辞

走査電子顕微鏡観察およびエネルギー分散型X線解析を行っていただいた浦田晴生様(岡山大学医学部共同実験室)に深謝申し上げます.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:河原祥朗(岡山西大寺病院)

文 献
 
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