GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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RUPTURE OF ANEURYSM OF THE POSTERIOR SUPERIOR PANCREATICODUODENAL ARTERY AFTER ENDOSCOPIC SPHINCTEROTOMY
Tetsuya OKUWAKIMakoto KADOKURA Hiroki YODATomoki YASUMURAHitomi TAKADAKeisuke TANAKAFumitake AMEMIYA
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2020 Volume 62 Issue 6 Pages 696-701

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要旨

膵十二指腸動脈瘤は腹腔内動脈瘤全体の2%と非常に稀な病態である.内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST)施行に引き続く結石除去後に後上膵十二指腸動脈瘤を形成した1例を経験した.症例は70歳男性,慢性腎不全にて維持血液透析中.上腹部不快感を契機に総胆管結石を指摘された.ESTにより結石除去術を施行した.術直後は出血は認められていなかったが,術後4日に後出血を来した.著明な貧血の進行により循環動態が不安定となったため,腹部造影CTを撮像した.後上膵十二指腸動脈に動脈瘤の形成を認めたため,同部位を血管造影下に金属コイルを用いて塞栓した.その後,再出血なく経過した.EST後出血の成因として動脈瘤の破裂は非常に稀であるが,経カテーテル的動脈塞栓術は有効な止血法であった.

Ⅰ 緒  言

現在,総胆管結石に対しては多くの施設において内視鏡的乳頭括約筋切開術(endoscopic spchincterotomy,以下EST)を行って治療することが第一選択とされている.出血はESTの代表的な偶発症であり,その頻度は重症(5単位以上の輸血あるいは観血的止血術を要する)の場合,0.1~0.5%と報告されている 1),2.今回われわれは EST後に動脈瘤を形成し,経カテーテル的動脈塞栓術(transcatherter arterial embolisation,以下TAE)により止血し得た1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

Ⅱ 症  例

症例:70歳,男性.

主訴:上腹部不快感.

既往歴:43歳時より多発性嚢胞腎,53歳時に狭心症に対して冠動脈ステントを留置,69歳時に多発性嚢胞腎からの腎不全にて血液透析を導入,同時期に総腸骨動脈瘤に対してステントグラフトを留置.

現病歴:2019年3月中旬,上腹部不快感・嘔気にて近医を受診した.血液検査により肝胆道系酵素の上昇がみられ,翌日当科を紹介受診した.症状は心窩部不快感がわずかに残存する程度に改善を認めていた.腹部単純CTにより総胆管結石が認められたため,入院とした.

入院時現症:体温36.5℃,血圧143/96mmHg,脈拍85/分・整,意識清明,眼球結膜および皮膚に黄疸を認めず.腹部は平坦・軟で圧痛を認めず. 臨床検査成績(Table 1):AST 135(紹介医受診時は511,以下同様)IU/L,ALT 264(449)IU/L,ALP 696(669)IU/Lと肝胆道系酵素の上昇を認めた.PT活性は86%で凝固能の異常は認めず,血小板値も13.8(13.2)万/μLと軽度の低下のみであった.WBC 8,800(14,020)/μL,CRP 8.24(2.95)mg/dLと炎症所見を認めたが,肝胆道系酵素・炎症反応はいずれも紹介医受診時よりも軽快していた.術前のヘモグロビン値は11.5g/dLであった.

Table 1 

入院時検査成績.

入院時腹部単純CT(Figure 1):総胆管内に8mm大の結石を1個認めた.肝内や肝外胆管拡張は認められなかった.大動脈には石灰化が目立ち,腹腔動脈起始部にも石灰化を認めた.単純CTでは不鮮明ではあるが治療前では十二指腸乳頭部近傍に動脈瘤は認められなかった.

Figure 1 

入院時腹部単純CT.

a:総胆管内に径8mm大の結石を認める(矢頭).

腹部大動脈から総腸骨動脈にかけてステントグラフトが挿入され,石灰化が目立つ.

b:十二指腸乳頭部に明らかな動脈瘤を認めず(矢頭).

入院後経過:当院受診時にはほぼ症状は消失し,発熱もなかった.血液検査所見も改善傾向を示していたことから,入院翌日に待期的にERCPを施行した.逆行性胆管造影で総胆管に8mm大の結石を確認した.ESTは高周波焼灼電源装置(ESG-100,Olympus社製)を用い,切開モードはパルスカットスロー,出力70Wで11時方向に小切開を行った.引き続いてエクストラクションバルーンカテーテルプラス(オフセット型,最大外径18mm,ゼオンメディカル社製)により結石除去を行った.EST時の極少量の出血からの血餅付着は認められていたものの,処置終了時に出血はみられなかった(Figure 2).処置翌日に腹痛はみられず,血液検査所見でも貧血の進行や膵酵素の上昇を認めなかったため,食事を再開した.同日の血液透析は出血リスクを考慮して,抗凝固剤はナファモスタットメシル酸塩で施行した.処置後4日目の朝より心窩部不快感が出現した.血液透析中に血圧の低下がみられ,その後,黒色便が出現した.緊急血液検査でヘモグロビンは4.4g/dLと著明に低下していた.EST後出血を考慮したが循環動態は安定せず,朝食摂取後でもあったため,内視鏡検査に先行して腹部造影CTを撮像したところ,十二指腸乳頭部に8mm大の動脈瘤形成を認めた(Figure 3).内視鏡的止血は困難と判断し,TAEによる止血法に移行した.腹部血管造影検査により胃十二指腸動脈造影を行ったところ,後上膵十二指腸動脈の末梢枝に動脈瘤と造影剤の十二指腸への漏出を確認した.同部位に対して0.018inchマルチカール型コイル(コイル長2cm,コイル径2mm,Hilal Embolization Microcoil,Cook Medical社製)2本を用いて塞栓を行った(Figure 4).TAE後全身状態は安定し,合計12単位の赤血球液輸血によりヘモグロビンは9.6g/dLまで上昇した.TAE後6日目の内視鏡観察では胃・十二指腸内容液は非血性で,十二指腸乳頭部には塞栓に用いたcoilの露出や潰瘍形成は認めなかった.再出血を来すことなく,TAE後10日(EST後14日)で軽快退院となった.

Figure 2 

内視鏡的乳頭括約筋切開術後の内視鏡画像.

a:11時方向に小切開を施行した.

b:EST小切開後,バルーンカテーテルを用いて結石を除去した.

c:処置終了時:血餅の付着は水洗でも除去できなかったが,後出血は認められなかった.

Figure 3 

腹部造影CT.

十二指腸乳頭部(矢頭)に8mm大の動脈瘤を認めた.

Figure 4 

血管造影像.

a:後上膵十二指腸動脈の末梢枝に動脈瘤を認め,造影剤の十二指腸への漏出を確認した(矢頭).

b:後上膵十二指腸動脈の分枝までマイクロカテーテルを進め,コイル塞栓を施行した(矢印).

Ⅲ 考  察

維持血液透析中の慢性腎不全を基礎疾患として,EST施行4日後に後上膵十二指腸動脈末梢枝に生じた動脈瘤破裂の1例を経験した.

EST後の出血リスクについて,Ikarashiら 3はESTを施行した1,113例の解析から内視鏡治療後24時間以降に発症した後期出血の独立したリスク因子として,血液透析(Odds Ratio(OR)6.44,95% Confidence Interval(CI)1.67-24.8;p=0.007),ヘパリン置換(OR 3.76,95% CI 1.42-9.98;p=0.008),EST後早期出血(OR 4.35,95% CI 1.90-9.96;p<0.001)を挙げている.同様に,Kimら 4も後出血のリスク因子として慢性腎不全,高血圧,心不全の基礎疾患を挙げている.本例については心疾患の合併があり,慢性腎不全・維持血液透析中であったが,出血リスクも考慮して,透析中の抗凝固剤はナファモスタットメシル酸塩を使用していた.

腹部内臓動脈瘤は全動脈瘤の0.1~0.2%と比較的稀な疾患であり 5,なかでも膵十二指腸動脈瘤は腹部内臓動脈瘤全体の2%と稀である 6.内臓動脈瘤の破裂の頻度は動脈瘤の位置により異なり,膵十二指腸動脈で約50%との報告があり,破裂による死亡率は膵十二指腸動脈で最も多く約50%と予後不良とされている 7.近年では肝生検,経皮的ラジオ波焼灼術,経皮経肝胆管ドレナージ術などの経皮的処置や内視鏡的胆管ステント留置術などの内視鏡的胆道処置すなわち医原性腹腔内動脈瘤破裂の報告例が多くなってきているが,本例のようにESTが原因で膵十二指腸動脈瘤破裂に至った症例の報告は極めて稀である 8),9

山本ら 6や藤澤ら 10による本邦の多数例での膵十二指腸動脈瘤の検討では,動脈瘤の原因として腹腔動脈起始部閉塞(31.9-32.3%)や動脈硬化(12.5-15.9%)を挙げている.透析患者の動脈硬化の特徴として,リン・カルシウム代謝バランスが崩れた結果生じる血管の石灰化が挙げられる 11.本例でも血管造影上は腹腔動脈起始部に異常を認められなかったものの,CTでは同部位に石灰化を認め,既往歴からも全身に強い動脈硬化性変化が存在するものと考えられる.実際,本処置1年半前の総腸骨動脈瘤処置時のCT Angiographyでは膵十二指腸動脈に石灰化や動脈瘤はみられていなかったものの,大動脈に強い石灰化を認めていた.本例での動脈瘤形成の機序としては元々の動脈硬化による動脈壁の脆弱化を背景として,①EST時の細動脈破綻,②EST後の炎症波及による動脈破綻が考えられるが,処置終了時には出血を認めていないことから後者の要素が強いと考える.

EST後出血への対処は内視鏡的止血術,TAEおよび外科的手術に大別される.内視鏡的止血術としてはアルゴンプラズマやヒートプローブによる熱凝固,高張エピネフリン加生理食塩水局注,結石除去用バルーンによる圧迫止血,クリップによる物理的止血が一般的である 12.カバー付き自己拡張型金属ステントはその有用性が報告されているが 13,本邦では保険適応外使用であることに注意を要する.内視鏡的に止血できない場合にはTAEや外科的手術での止血を考慮することが多い.TAEによる止血は近年多くの施設で行われるようになったが,適応や塞栓部位,塞栓物質の選択については一定の見解が得られていない.村上ら 14は動脈造影が施行された26例を検討し,その大きさに注目し,TAEによる止血が可能であった症例は全例15mm以下の大きさであったのに対し,止血不能で開腹手術に移行した症例の径は8~50mm(平均24mm)であったことから径15mm以下がTAEの適応を決定する目安になると報告している.本例の動脈瘤径は先行する腹部造影CTにより8mmであり,結果として内視鏡治療よりもTAEを選択したことは妥当であった.

Ⅳ 結  語

EST後に動脈瘤を形成しTAEにより止血し得た1例を経験した.EST後出血に対する治療は全身状態に応じて,内視鏡治療に固執せず,臨機応変に対応することが重要である.

謝 辞

本例において緊急血管造影ならびにTAEを施行して頂いた当院放射線診断科 渡邊裕陽先生ならびに塚本達明先生に深謝いたします.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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