2020 Volume 62 Issue 6 Pages 712-723
超音波内視鏡(endoscopic ultrasound;EUS)ガイド下ドレナージ術では改善しないwalled-off necrosis(WON)の症例に対して,内視鏡的ネクロセクトミーが行われている.しかしながら,内視鏡的ネクロセクトミーは合併症の頻度も高く,侵襲的な処置である.EUSガイド下ドレナージ術に経消化管的経鼻嚢胞持続洗浄療法(transmural naso-cyst continuous irrigation;TNCCI)を加えることは,内視鏡的ネクロセクトミーを回避するのに有用である.TNCCIは,EUSガイド下に内瘻チューブと外瘻チューブをWONに留置し,外瘻チューブより生理食塩水でWON内を持続的に灌流し,洗浄を行う.無効あるいは効果が不十分な場合には,内瘻チューブをWON内に内視鏡的に追加留置し,再度TNCCIを行う.TNCCIでは,WON内を持続的に灌流することで壊死物質を内視鏡的ネクロセクトミーを行わずに除去できる.EUSガイド下ドレナージ術にTNCCIを併用することで安全に内視鏡的ネクロセクトミーの回避ができる可能性があり,内視鏡的ネクロセクトミーを施行する前に検討すべきであると考えられる.
Walled-off necrosisとは,急性膵炎後に発症する局所合併症の一つである.以前は,急性膵炎後におこる嚢胞様病変に対して,「膵仮性嚢胞」,「膵膿瘍」などの用語が使用されていた.単なる液体成分のみの嚢胞と,壊死部物質,壊死組織を含む嚢胞では大きく治療効果に差があることから2012年の改訂アトランタ分類によって,膵炎後の局所合併症の形成過程や時期によって大きく4つのカテゴリーに分けられた.急性膵炎が間質性浮腫性膵炎と壊死性膵炎に分けられ,間質性浮腫性膵炎によって引き起こされる急性膵周囲液体貯留とそれが器質化した膵仮性嚢胞(pancreatic pseudocyst;PPC),そして壊死性膵炎によって引き起こされる急性壊死性貯留,それが器質化された被包化壊死(walled-off nercosis;WON)に分けられる 1).
この急性膵炎後の局所合併症に感染や症候を伴う場合には治療が必要とされ,抗生剤などの保存的治療で改善がない場合には,PPCとWONに対して,超音波内視鏡(endoscopic ultrasound;EUS)を用いた経消化管的に内容物をドレナージする,EUSガイド下ドレナージ術が行われている.PPCに対するEUSガイド下ドレナージ術の治療成績は良好である.一方,WONにおいては,内部に大量の壊死物質を含まれることからEUSガイド下ドレナージ術の効果はPPCほど良好でない.EUSガイド下ドレナージ術のみで治療効果が乏しいWONの症例においては,開腹下のネクロセクトミーの前に経消化管的に内視鏡より機械的に内部の壊死物質を除去する内視鏡的ネクロセクトミーが行われている 2)~5).しかしながら,内視鏡的ネクロセクトミーは,14~29%の症例で重篤な合併症が認められるなど侵襲度の高い処置である 6)~8).そのため,可能な限り内視鏡的ネクロセクトミーは行わない方が,望ましいと考えられる.
経消化管的経鼻嚢胞持続洗浄療法(transmural naso-cyst continuous irrigation;TNCCI)は,EUSガイド下ドレナージ術と併用して行うことでEUSガイド下ドレナージ術の治療効果を高め,可能な限り内視鏡的ネクロセクトミーを行わずにWONを治癒することを目的にしている.本稿ではEUSガイド下ドレナージ術にTNCCIを加えたWON治療方法を記載する.
TNCCIは,侵襲的な治療方法である内視鏡的ネクロセクトミーを避けるのに,安全で有用な方法であると考えられる.TNCCIとは,EUSガイド下ドレナージ術の際にWONの中に内瘻チューブと外瘻チューブを留置し,外瘻チューブより持続的に生理食塩水を流すことでWON内を持続的に洗浄し,WON内に存在する膿汁を消化管内へ排出する方法である.TNCCIによって,WONの壊死物質に伴う感染のコントロールに加え,壊死物質を排除し,WONを縮小する効果が期待できるため,内視鏡的ネクロセクトミーの施行前に,EUSガイド下ドレナージ治療と併用して行うことが推奨される.
EUSガイド下ドレナージ術とtransmural naso-cyst continuous irrigationの併用療法のフローチャート.
①WONの治療適応(Figure 2-a)
walled-off necrosis(WON)に対するEUSガイド下ドレナージ術.
a:造影CT検査では,膵体部周囲に被包化された内部不均一なWON(白矢頭)を認める.
b:EUS検査では,境界不明瞭な壊死物質を伴うWON(白矢頭)を認める.
c:造影EUS検査(右)では,B-モードEUS(左)と比較してWONの境界が明瞭に描出される.
d:EUS検査で介在血管がないことを確認し,19G針(白矢頭)でEUSガイド下に穿刺する.
e:透視下に造影により,WONの範囲を確認する.
f:透視下にWON内にガイドワイヤをコイル状に留置する.
g:透視下に8mm径のバルーンダイレーターで穿刺部を拡張する.
h:透視下にガイドワイヤを2本WON内にコイル状に留置する.
i:透視下にdouble pigtail stentをWON内に留置する.
j:透視下にendoscopic naso-biliary drainage チューブを留置する.
・急性膵炎後から4週間以上経過していることを確認する.
・WONによる感染や症状を伴い,治療が必要な状態であることを確認する.
・EUSガイド下ドレナージ術の前に造影CT検査を行い,WONが被膜に覆われていることを確認する.
②EUSガイド下ドレナージ術のアプローチ位置の決定
・EUSガイド下ドレナージ術には,胃からアプローチする方法と十二指腸からアプローチする方法がある.
・WONの位置によってどちらからアプローチするかを決定するが,十二指腸は,胃と比べて消化管壁は薄く,管腔も狭いため,作業スペースが少ない.可能であれば胃からアプローチを行うことが望ましい.
③WONを描出
・EUSガイド下ドレナージ術にはコンベックス型EUS(UCT260;Olympus Ltd, Tokyo, Japan)を用いて行う.PPCでは,嚢胞内が液体成分だけであることが多いため,EUSでは無エコーである.WONは,内部に膿汁や壊死物質が存在するため,完全な無エコーには見えず,highエコーとlowエコーが混在することも多く,腸管や他の臓器との鑑別が困難な場合がある(Figure 2-b).
・WONと腸管との区別が困難な場合,超音波用造影剤を使用し,造影ハーモニックモードでWONを同定する.内部に造影剤が入らなければ,WONであると同定できる(Figure 2-c).
・EUSで,WONの内腔が穿刺するのに十分なサイズであることを確認し,WON内に少しでも多くのスペースがあるところを描出する.
④WONを穿刺
・19-GのEUS-FNA針(Sono-Tip Pro Control Tip; Medi-Globe, Achenmuhle, Germany)を用いて,WONを穿刺する.EUS-FNA針には19G~25Gまで市販されているが,針筒の中に0.025インチガイドワイヤが通る19G針が望ましい.
・EUSのドップラーイメージで穿刺部とWONへの穿刺経路に介在血管がないことを確認し穿刺する(Figure 2-d).
・EUS-FNA針をWONに穿刺後,EUS-FNA針の内筒を抜き,シリンジで陰圧をかけ,WONの内用液が引けるのを確認する.しかしながら,WONの内部は壊死物質で満たされていることも多く,内用液がほとんど引けないこともある.そのような場合には,透視下にFNA針より造影剤(ウログラフィン)をWONに少量注入し,針がWON内にあることを確認する.
・EUS-FNA針がWON内であることが確認できれば,さらに造影剤を注入し,透視下でWONの範囲を確認する(Figure 2-e).
⑤ガイドワイヤをWON内に留置
・0.025インチガイドワイヤ(VisiGlide;Olympus Corporation, Tokyo, Japan)をEUS-FNA針より,WON内へ挿入する.
・ガイドワイヤをWONでコイル状に円を描くように留置する(Figure 2-f).
・ガイドワイヤが円をコイル状に留置できたら,FNA針をWONから抜去し,スコープからEUS-FNA針を抜く.
・FNA針を抜いた後は,ガイドワイヤの位置がずれないようにEUSスコープを保持する.
⑥穿刺部の拡張
・乳頭拡張用バルーンカテーテル(Ren; Kaneka, Osaka, Japan)を用いて穿刺部を8mm径まで拡張する(Figure 2-g).
・バルーンカテーテルを挿入する操作において,EUS画面を最初にEUS-FNA針を穿刺した位置からはずれないように保持することが重要である.そのため,EUS画面でバルーンカテーテルが確認できたら,EUS画面でガイドワイヤが見える位置をキープしながら,バルーンカテーテルをWON内へ進める.バルーンカテーテルを押しすぎると穿刺部とEUSが離れてしまう場合があるので,ガイドワイヤに引きのテンションをかけながら,バルーンカテーテルを進める.
⑦ダブルルーメンカテーテルを用いて0.025インチと0.035インチガイドワイヤを留置
・ダブルルーメンカテーテル(uneven double lumen cannula; Piolax, Yokohama, Japan)を0.025インチガイドワイヤを用いてWONに挿入する.
・ダブルルーメンカテーテルがWON内に入ったら,0.035インチガイドワイヤをWON内に留置する(Figure 2-h).
・0.025インチガイドワイヤの留置した位置に,外瘻チューブを留置するため,できるだけ穿刺部より遠くに留置する.
・0.035インチガイドワイヤ(Jagwire; Boston Scientific, Natick, MA, USA)の位置は,内瘻チューブ留置の際に使用するためできるだけWON内の管腔が広いところに留置する.
⑧内瘻チューブ(double pigtail stent;DPS)をWON内に留置
・DPS(7Fr 4-12cm,Zimmon Biliary Stent; Cook Medical, Winston-Salem, NC, USA)を0.035インチガイドワイヤからWON内に内瘻チューブとして留置する(事前にステントの真ん中にマジックで印をつけておく).
・0.035インチガイドワイヤよりEUS画面でガイドワイヤを確認しながら,WON内へDPSを進める.
・ある程度WON内にDPSが入ったことを確認できたら内視鏡画面に切り替える.穿刺部は内視鏡画面の左上にあることが多いので,注意してダウンアングルをかけながら穿刺部を確認する.
・穿刺部が確認できたら,ステントがWON内に迷入しないように注意深く内視鏡画面と透視画面を確認しながらステントを進める.マーカーが穿刺部まで到達したら,それ以上ステントをWON内に進めるのをやめ,胃内にステントをリリースする(Figure 2-i).
⑨外瘻チューブ(Endoscopic naso-biliary drainage tube;ENBDチューブ)を留置する
・0.025インチガイドワイヤより7FrENBDチューブ(7Fr Flexima ENBD Catheter; Boston Scientific, Natick, MA, USA)を留置する(Figure 2-j).
・ENBDチューブはWONの内部を洗浄するのに使用するため,穿刺部よりできるだけ遠くに留置する.EUS画面で確認しながらENBDチューブをWON内に進める.ENBDチューブが目的の位置まで来たら,ENBDチューブを留置し,ENBDチューブを鼻から出す.
Ⅱ.TNCCIの方法(Figure 3)Transmural naso-cyst continuous irrigationの図.
輸液ポンプを使用せず生理食塩水500mlを自然滴下(a)で,endoscopic naso-biliary drainageチューブ(白矢印)(b,c)よりwalled-off necrosis内腔を灌流し,WON内に停滞している壊死物質と膿汁をEUSガイド下ドレナージ術の際に留置したdouble pigtail stentより消化管へ排出する(d).
①EUSガイド下ドレナージ術後の確認
・WONに対するEUSガイド下ドレナージ術終了後,CT検査で造影剤が腹腔内に漏れていないか,またWONと留置チューブの間に隙間がないか確認し,TNCCIの可否について確認する.
②TNCCI
・ENBDチューブより生理食塩水をつなぎ,1日あたり,500~1,000mlの生理食塩水を20~40ml/hの速度で自然滴下する.WON内へ灌流に使用する生理食塩水の量は,患者の体重や年齢などを考慮して決定する.この際に,灌流は輸液ポンプを使用せず,自然滴下で行う.自然滴下で灌流することで,WON内へ灌流した生理食塩水が消化管内にドレナージされずに,WON内で停滞している時にはWON内腔の圧が上昇するため,滴下が自然に止まる.このため,生理食塩水のWON内への無理な圧入を避けることができ,WON内の液体が腹腔内へ漏出することを防ぐことができると考えられる.
・TNCCI開始後,新たに腹痛の訴えや炎症所見の上昇がないことを確認する.また,ENBDチューブより生理食塩水を患者の体内へ入れるため,1日の患者さんへの点滴量は,灌流する生理食塩水の飲水量として換算し,1日の輸液量を考慮する必要性がある.灌流後はレントゲンや体幹の浮腫などの評価も行い,摂取水分量が多くなりすぎないように確認する.また,麻痺性イレウスの状態などは行うことは推奨できない.
③次の処置のタイミング
・3~7日後にCT検査,血液検査などから初回のEUSガイド下ドレナージ術とTNCCIのWONへの治療効果が不十分な場合やENBDチューブより灌流している生理食塩水の自然滴下が停止した場合には,再度内視鏡処置を行い,WON内にDPSを追加する必要性がある.
④ステント追加後のTNCCI
・TNCCIは,ステント追加後も,初回のEUSガイド下ドレナージ術後の時と同様方法で行う.そのため,内視鏡下に新たにステント(DPSもしくはFCSEMS)を追加した際にも,必ずENBDチューブもWON内に留置してくることが重要である.また,ENBDチューブの留置場所は,ドレナージされていない箇所が望ましいと思われる.
Ⅲ.DPSの追加①ガイドワイヤをWON内に留置
・超音波内視鏡ではなく側視鏡(JF260; Olympus)を使用する.
・スコープをEUSガイド下ドレナージ術でできた瘻孔部まで進める.DPSの脇からERCPカテーテル(MTW;Abis; Hyougo: Japan)を使用し,0.025インチガイドワイヤをDPSに沿わせてWON内に留置する.
②瘻孔部の拡張
・0.025インチガイドワイヤより,直径10mm大の乳頭拡張用のバルーンカテーテル(Ren)を使用し,瘻孔部を10mm大まで拡張する(Figure 4-a).
側視鏡を用いたwalled-off necrosis(WON)へのdouble pigtail stent(DPS)留置術.
a:透視下でEUSガイド下ドレナージ術によりできた瘻孔を10mm径のバルーンダイレーターで拡張する.
b:側視鏡で確認しながら,DPSをWON内に追加留置する.
・ENBDチューブを初回と同様に外瘻チューブとして,DPSを内瘻チューブとして留置する(Figure 4-b).
・ENBDの入れる位置は初回と同様にできるだけ遠くに,DPSは初回の時に留置したDPSとできるだけ位置が異なるところに留置する.
Ⅳ.fully covered self-expanding metal stent(FCSEMS)留置①FCSEMS追加留置の適用
・WONのドレナージ治療がDPSを用いたEUSガイド下ドレナージ術とTNCCIの併用,その後のDPSの追加でも,WONに対するドレナージが不十分な場合に,DPSを一部FCSEMSへ入れ替え,WONに対する経消化管ドレナージ術を行う.
②ガイドワイヤをWON内に留置
・DPSをFCSEMS(WallFlex stent; Boston Scientific)へ入れ替える場合も側視鏡を使用する.
・瘻孔内にERCPカテーテルを使用し,0.035インチガイドワイヤをWON内に挿入し,コイルを巻くように留置する.
③FCSEMSの留置
・0.035インチガイドワイヤを沿って,WON内へFCSEMSを挿入し展開する.
・FCSEMSを展開する時は,FCSEMSの真ん中が瘻孔部に来るように,穿刺部と一定の距離を取りながら,WONの内部にFCSEMSが引き込まれないように展開するとよい(Figure 5-a,b).
側視鏡を用いたwalled-off necrosis(WON)へのFully covered self-expanding metal stent(FCSEMS)留置術.
a:内視鏡像ではFCSEMSとdouble pigtail stent(DPS)が経消化管的にWON内に留置されている.
b:透視下では,FCSEMSとDPSに加え,endoscopic naso-biliary drainageチューブ(白矢頭)が経消化管的にWON内に留置されている.
①ENBDチューブ抜去
・TNCCIを継続しWONが改善した場合,ENBDチューブを抜去する.
②FCSEMS留置を行っている場合
・FCSEMSの長期留置に伴う逸脱,出血,穿孔のリスクを懸念し,WONが寛解した時には退院前に側視鏡を使用し,スネアでFCSEMSを抜去し,DPSを留置する.
③DPSの抜去のタイミング
・DPSを抜去する時期については,WONが寛解した患者を1カ月に1回程度外来フォローし,6~12カ月間ほどで経過観察し,CT検査でWONの再発がなければ,DPSを内視鏡下に抜去する.
WON内には大量の壊死組織などが存在するも感染や症候を伴わず,無症候性のまま自然消退する症例も存在するため,すべての症例がドレナージ治療の適応となるわけではない.しかしながらWONは,PPCよりも自然消退しにくく,ドレナージ治療を必要とした症例は全体40%であると報告されている 9).また,EUSガイド下ドレナージ治療においては,タイミングも重要である.壊死性膵炎の発症後,4週間経過していない急性壊死性貯留の状態では,壊死組織は液状化されておらず,壊死組織の周囲が完全に被膜で覆われていないため,EUSガイド下ドレナージ術により,消化液が消化管より腹腔内への流れる危険性がある.そのため,急性膵炎後4週間経過し,壊死組織の周囲が被膜で覆われたWONの状態になるのを待ってからドレナージ治療を行うことが肝要である 4),5).従って,急性壊死性貯留の状態ではできるだけ保存的治療を継続し,被包化したWONの状態になるのを待ってEUSガイド下ドレナージ治療を行うのが重要であると考えられる.
WONに対するドレナージの手法としては,ステントなどによるドレナージ治療とWON内の壊死物質を直接取り除くネクロセクトミーに大別される.以前のWONに対する治療として,開腹下に直接,膵周囲の壊死物質をデブリードマンする開腹下のネクロセクトミーが一般的であった.低侵襲的手技(ドレナージ)より開始し,段階を踏んで侵襲的手技(ネクロセクトミー)を行うstep-up approach群と開腹下ネクロセクトミー群とのランダム化比較試験において,step-up approach群が,開腹下ネクロセクトミー群よりも多臓器不全の発生頻度が低いことが明らかとなり,現在では,WONに対するドレナージ治療として,step-up approach法が優先的に行われている 10).現在,ドレナージ治療のアプローチの方法として,経皮的,経消化管的,経乳頭的,経腹腔鏡的と4種類ある.1992年Grimmらによって初めて報告されたEUSを用いた経消化管的ドレナージ術は,嚢胞と消化管の距離が短く,EUSで介在血管を避けながら穿刺できるため,安全性も高く,手技成功率の高い手技である 11),12).また,van Brunschotらは,EUSガイド下ドレナージによるstep up approachと経皮的ドレナージによるstep up approachを比較したところ,致死率,重篤な合併症には有意差を認めなかったが,膵液瘻の発生頻度や入院日数ではEUSガイド下ドレナージによるstep up approachの方が,有意に低かったことを報告した 13).現在,WONに対してEUSガイド下ドレナージ術がstep up approachにおけるfirst stepとして行われることが多い.EUSガイド下ドレナージ術で臨床的奏効が得られないWONの症例に対しては,さらに侵襲的な治療,second stepとして内視鏡的ネクロセクトミーなどが次の選択肢として用いられる.
壊死組織を多く含むWONに関しては,ドレナージ治療単独では,感染のコントロールに難渋することがあり,そのような症例では直接壊死物質を取り除くネクロセクトミーが必要と考えられる.現在は,主に内視鏡的ネクロセクトミーが行われているが,それ以前のWONのネクロセクトミーは主に開腹下に行われていた.しかしながら,開腹下のネクロセクトミーの偶発症は55%と高く,死亡率も14%と非常に高いものであった 14).2000年にSeifertらによって開腹手術に比べて低侵襲な治療方法として,内視鏡的ネクロセクトミーが初めて報告された 15).その後,ドイツ,アメリカ,日本における多施設共同で行われたWONに対する内視鏡的ネクロセクトミーの治療成績が報告された.その治療成績は,治療成功率75~91%,合併症26~33%,死亡率5.8~11%と開腹下でのネクロセクトミーよりも良好な成績であった 6)~8).また,2012年に報告された内視鏡的ネクロセクトミーと開腹下のネクロセクトミーとのランダム化比較試験(PENGUIN trial)の結果では,偶発症や術後合併症は内視鏡的ネクロセクトミー群で有意に少なく(20% vs 80%;p=0.03),新たな多臓器不全の出現率や膵液瘻の発症も有意に少ない結果となった(0% vs 50%;p=0.03)(10% vs 70%;p=0.02) 16).これを受けて,現在,多くの施設では開腹下のネクロセクトミーを行う前に,より低侵襲な内視鏡的ネクロセクトミーが行われている.しかしながら,現在においても内視鏡的ネクロセクミーの偶発症の頻度は,20%以上と決して低いとは言えず,まだまだ侵襲度の高い処置と考えられる 6)~8).
WON治療においてEUSガイド下ドレナージ術を行い,経消化管的ドレナージチューブを留置したのちにWON内を生理食塩水などで洗浄する方法は一部施設で行われている 17)~19).Yasudaらの報告の中で,内視鏡的ネクロセクトミーと,次の内視鏡的ネクロセクトミーを行う間に,生理食塩水500~1,000mlでWON内の洗浄が行われていた 6).また,その他,EUSガイド下ドレナージ術の際にLAMSを留置し,WON内を一時的に急速洗浄する方法や,EUSガイド下ドレナージ術後に内視鏡的に洗浄用のチューブを留置し,WON内を一気に急速洗浄する方法などがある 18),19).しかしながら,いずれの報告も,胃とWONの間に大きな瘻孔を必要とし,WONの中に一気に大量の生理食塩水を入れて,壊死物質を洗い流す方法である.このような洗浄療法では,治療効果を得るためには大きな瘻孔を必要とするため,出血のリスクが上がる可能性や,また洗浄の範囲も限られているため,骨盤腔まで広がっている範囲が広いWONに対しては効果が乏しい可能性がある.
しかしながら,TNCCIでは,1日かけて生理食塩水500~1,000mlをWON内に流すことで,WON内の感染性壊死物質より作られた膿を消化管へ持続的に排出し,WON内に停滞することを避けられるというメリットがある.また,WON内を液体で満たすことで,WON内の露出血管とステントの接触に伴う出血のリスクを下げることができる.また洗浄用に留置している外瘻チューブ(ENBDチューブ)の位置を骨盤内まで進めることで,内視鏡的ネクロセクトミーでは,壊死物質を除去することが困難な骨盤腔まで広がっているWONにも対応できる.また,内腔のスペースが小さいWONの治療においても安全に行うことができる.TNCCI併用EUSガイド下ドレナージ術の治療成績では,EUSガイド下ドレナージ術単独群と比較して有意にWONの縮小までの日数を短くし(6日 vs 32日:p=0.001),また内視鏡的ネクロセクトミーの施行率(0% vs 55.6%:p=0.01),内視鏡的ネクロセクトミーの施行回数(0回 vs 0.8回:p=0.008)も少なかった 17).また,TNCCIは,特に難しい技術や特殊な処置具なども必要とせず,効果がなかった場合には,DPSを追加し,それでも効果が寛解しない場合には,FCSEMSにステント種類を変更し,TNCCIを継続できる.DPS,FCSEMS,LAMSのいずれのステントを経消化管的ステントとして使用したとしても,TNCCIを行うことは可能である.以上より,TNCCIとEUSガイド下ドレナージ術を併用することは,WONのドレナージ治療として簡便かつ安全,有用な方法であると考えられる.
現在,EUS-ガイド下ドレナージ術に,DPS,fully covered self-expanding metal stent(FCSEMS),両端がアンカーとなった嚢胞ドレナージ専用のステントlumen-apposing fully covered self-expanding stent(LAMS)が用いられている. 当院では,今までTNCCIを行う際のEUSガイド下ドレナージ術に,DPS(7Fr4-12cm)とENBDチューブを用いて行っている.DPSは,FCSEMSと比較し安価であり,さらに留置も容易であり,ステントの抜去や追加なども行いやすいことから,EUSガイド下ドレナージ術の際にDPSを用いて行っていた.
しかしながら,DPSを用いたEUSガイド下ドレナージ術は,DPS内の内腔が狭いことから壊死物質などのドレナージは困難であり,WONにおける治療効果が低いという欠点がある.WONに対するDPSを用いた超音波内視鏡下ドレナージ術の治療成績では,DPS単独でのWONの寛解率は81.3%であるが,DPSを用いたEUSガイド下ドレナージ術の1回のWON改善率は43.4%と低く,また約50%の症例で3回以上の追加の内視鏡治療を必要とする 2),3),20).そのため,当院でも,TNCCIを併用したEUSガイド下ドレナージ術においても,DPSを1本留置しただけでは効果不十分であり,DPSを2本以上必要とした症例も少なくない 17).
TNCCI併用のEUSガイド下ドレナージ術の内瘻チューブとして,DPSを最初に使用するが,DPSだけでは治癒が困難な症例においてはWONに対して大口径であるFCSEMSを使用する.FCSEMSを用いたEUSガイド下ドレナージ術におけるWONの寛解率は,95.0%と良好である 2),21),22).しかしながら,FCSEMSは,長い筒状上であるため,内視鏡的ネクロセクトミーを行う際には,ステントを抜去しなければならず,嚢胞の縮小に伴い約5.7%の症例でステント逸脱を認めるなどの欠点もある 2),3).従って,TNCCIを併用したEUSガイド下ドレナージ術では,完治が困難なWONの症例のみ,経消化管的ドレナージステントをDPSからFCSEMSに交換し治療を行っている.
また近年,WONの経消化管的ドレナージ治療におけるFCSEMSの欠点から両端にアンカーを持ちダンベルの形状を呈する,EUSガイド下ドレナージ術専用のFCSEMSであるLAMSが開発され,その有効性が報告されている 23),24).LAMSは,FCSEMSよりも大口径であるのに加え,脱落し難いことからステント抜去をせずに,内視鏡を直接WON内に挿入し,内視鏡的ネクロセクトミーができるという利点がある.また2018年より,LAMS(Hot AXIOS, Boston Scientific社)が保険適用となったことから,現在LAMSがWONに対する内視鏡的ドレナージ治療の第一選択となりつつある.現在,EUSガイド下ドレナージ術にLAMSを用いて,TNCCIを行うことの有効性は明らかではないが,WON内を留置したチューブで急速洗浄を行うことが,壊死物質を除去するのに有効性であることが報告されている 18).そのため今後は,WONに対して,EUSガイド下ドレナージ術にLAMS使用に加えてTNCCIを行うことで治療効果の向上や治療回数の減少と入院期間を短縮することが期待される.
症例:73歳男性.腹痛を主訴に当院を受診し,アルコールによる重症急性膵炎と診断した.保存的加療を行うも,造影CT検査で膵前面に巨大なWONを認めた(Figure 6-a).WONによる発熱も継続しているため,第37病日,EUSガイド下ドレナージ術を施行し,DPSとENBDチューブをWON内に留置し,TNCCIを行った(Figure 6-b).術後経過,第41病日CT検査でWONの改善が乏しいため,内視鏡下でDPSを2本追加.第52病日より食事を開始しCT検査でWONの縮小を認め,食事を開始し,第66病日に退院となった(Figure 6-c,d).その後WONは,ほぼ消失したため,半年後にDPS抜去となった(Figure 6-e).
重症急性膵炎後のWalled-off necrosis(WON)に対してEUSガイド下ドレナージ治療とTNCCIの併用が有効であった1例.
a:造影CT検査では,膵前面に被包化した巨大なWONを認める.
b:透視下像:EUSガイド下ドレナージ術でendoscopic naso-biliary drainageチューブとdouble pigtail stentを留置する.
c:単純CT検査では,EUSガイド下ドレナージ術とtransmural naso-cyst continuous irrigationの併用によって縮小したwalled-off necrosisを認める.
d:EUSガイド下ドレナージ術後から退院までのWONのサイズと体温の経過表.
e:単純CT検査では,膵の前面に認められたWONは消失している.
TNCCIを併用したEUSガイド下ドレナージ術は,ドレナージ治療が必要WONに対して有効かつ安全な治療である.また,TNCCIは,特別な器具や高度な技術も必要とせず,簡便な方法である.WONに対して,侵襲度の高い内視鏡的ネクロセクトミーを行う前に,EUSガイド下ドレナージ術にTNCCI併用することが望ましいと考えられる.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし