GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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A CASE OF GRANULAR CELL TUMOR OF THE ESOPHAGUS WITH ADVENTITIA INVASION
Shogo KITAHATA Eji TSUBOUCHITomoyuki NINOMIYARyuichiro IWASAKIHideomi TOMIDAKenichiro MORITeru KUMAGIAtsurou SUGITAYoichi HIASAKojiro MICHITAKA
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2020 Volume 62 Issue 7 Pages 764-770

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要旨

59歳女性.2年前より嚥下困難を認め,当院を受診.精査により頸部食道に40mm大の粘膜下腫瘍を認め,腫瘍の圧排による食道狭窄を認めた.粘膜面にびらんや潰瘍を認めず,粘膜切開生検による組織検査にて顆粒細胞腫と診断した.病理学的に悪性所見は認めなかったものの,通過障害に伴う嚥下困難感が強いために胸腔鏡下腹腔鏡下食道亜全摘を施行した.腫瘍は気管膜様部に浸潤し,本症例は病理学的に良性であるが,悪性顆粒細胞腫の診断基準を満たした.食道顆粒細胞腫は本例のように病理組織学的に良性でも深部浸潤をきたす症例があり,腫瘍径が大きい症例や周囲臓器への浸潤を認める症例,自覚症状を伴う症例は外科加療を考慮すべきである.

Ⅰ 緒  言

食道顆粒細胞腫は一般的に粘膜固有層を主座とする平均腫瘍径10mm程度の良性腫瘍であり,悪性例は4.6%と報告されている 1),2.今回,粘膜切開生検組織では病理学的に良性所見であったが,外膜浸潤をきたした食道顆粒細胞腫を経験した.

Ⅱ 症  例

患者:59歳,女性.

主訴:嚥下困難.

既往歴:特記事項なし.

家族歴:特記事項なし.

生活歴:飲酒(焼酎350ml/日),喫煙(5本/日×30年).

現病歴:約2年前より嚥下時の違和感があり,固形物が飲み込めず食後に嘔吐するようになり近医を受診した.上部消化管造影検査で食道狭窄を指摘され精査目的で当院に紹介受診した.

入院時現症:身長160cm,体重75kg,体重減少や疼痛,リンパ節腫大等はみられなかった.

入院時検査所見:軽度肝障害がみられるのみであり,CEA,SCCなどの腫瘍マーカーは正常範囲内であった.

上部消化管造影検査:頸部から胸部食道に約40mmにわたり食道内腔を左方へ偏移させる立ち上がりなだらかで表面平滑な陰影欠損があり内腔の狭窄がみられた(Figure 1).

Figure 1 

頸部から胸部食道に約40mmにわたり食道内腔を左方へ偏移させる立ち上がりなだらかで表面平滑な陰影欠損があり内腔の狭窄がみられた.

上部消化管内視鏡検査:切歯より18cmの頸部食道に背側~右側を中心とした粘膜下腫瘍を認めた.通常径の内視鏡は通過できず,細径内視鏡で観察するも表面にびらんや潰瘍,陥凹は指摘できなかったため(Figure 2),生検は施行されなかった.

Figure 2 

切歯から18cmの頸部食道に背側~右側を中心とした粘膜下隆起がみられた.表面にびらんや潰瘍はなかった.

胸腹部造影CT検査:頸部食道に長径40mmの均一な造影効果を有する類円形の腫瘤を認めた.内部に石灰化や脂肪,嚢胞成分は指摘できなかった(Figure 3).

Figure 3 

36×29mmの均一な造影効果を有する類円形の腫瘤がみられた.

PET-CT検査:腫瘍部にFDGの集積はみられず,平滑筋種などの良性腫瘍が疑われた.

経過:確定診断目的で全身麻酔下に超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)を施行した.直視型コンベックスを使用し,第3層を主座とした均一な低エコー腫瘤がみられたが深部減衰のため深達度評価は難しく(Figure 4),組織採取を複数回試みるも組織がほとんど取れなかったため切開生検を施行した.病理所見では好酸性で顆粒状の細胞質からなる腫瘍細胞がみられ,S-100蛋白が陽性であった.以上のことから,頸部食道を主座とする40mmの顆粒細胞腫と診断した.病理学的に悪性所見はないものの,腫瘍は大きくCTおよびEUS所見から筋層までの浸潤が疑われ,通過障害に伴う嚥下困難感も強いことから外科的切除を行った.

Figure 4 

第3層を主座とした均一な低エコー腫瘤があり,EUS-FNAを施行した.深部減衰のため深達度評価は困難であった.

手術所見:胸腔鏡下腹腔鏡下食道亜全摘,胃管後縦隔経路食道再建術にて腫瘍切除を行った.腫瘍は硬く縦隔入口部で気管膜様部に浸潤していたため,一部気管壁を削って腫瘍の剝離を行った(Figure 5).

Figure 5 

腫瘍は硬く縦隔入口部で気管膜様部に強固に癒着がみられており,外膜まで浸潤していた.割面は黄白色を呈していた.

病理組織学的検査所見:Funburg-Smithら 3の病理学的な悪性顆粒細胞腫の診断基準には該当しないが,腫瘍細胞は外膜の脂肪組織内に浸潤していたため悪性食道顆粒細胞腫と診断した(Figure 6-a~c).

Figure 6 

固有筋層内で顆粒状の細胞質を持つ円形~楕円形の腫瘍細胞が胞巣状・索状に増殖しており(a),S-100陽性(b)であったため顆粒細胞腫と診断した.腫瘍が外膜の脂肪織内に浸潤している像がみられた(c).

Ⅲ 考  察

顆粒細胞腫は1926年にAbrikossoff 4により初めて報告された腫瘍であり,全身に発生し5〜9%で消化管に発生,特に食道に多いとされている 5

近年,内視鏡の進歩に伴い食道顆粒細胞腫の報告例が増加している.Nojkovらは内視鏡検査における食道顆粒細胞腫の頻度は0.01%であったとしており 6,これまでに300例以上の報告がされている 1.今回,腫瘍径の記載がみられたもののうち,1987年1月から2017年6月までの医学中央雑誌で検索しえた報告(key word:“顆粒細胞腫” “食道”)は自験例を含め55例であった(Table 1).本邦で報告された症例の腫瘍径の中央値は10mm(四分位点:7-14)であった.外膜まで浸潤していた症例は5例であり,悪性例は7例であった.術前診断は36例で施行され,通常生検で診断できなかった症例は3例であった.そのうち,2例はボーリング生検を施行され診断していた.切開生検を施行した症例は自験例のみであった.

Table 1 

Cases of granular cell tumor of the esophagus in Japan.

また本症例は食道顆粒細胞腫としては大きな腫瘍であった.上記55例のうち,30mm以上の症例は7例であった(Table 2 1),7)~11.一般的に食道顆粒細胞腫の内視鏡所見は急峻な立ち上がりを示す頂部に陥凹を伴った粘膜下腫瘍,大臼歯様と表現されることが多い 1.しかし30mm以上の症例では潰瘍形成やなだらかな隆起であるなど非典型的な形態を呈していた.悪性顆粒細胞腫と診断する基準は,①病理学的に悪性と診断される場合,②病理学的悪性所見の有無に関わらず周囲組織への浸潤をきたしている場合,③転移または再発を認める場合とされている 1.また組織学的に悪性と診断する基準として,腫瘍壊死像,紡錘形の腫瘍細胞,大きな核小体を有する小胞状核,核分裂像の増加(10視野で2個以上の核分裂像),N/C比が大きい細胞,核の多形成,これら6項目のうち3つ以上を満たせば悪性,1〜2項目を満たすものを境界性,いずれも当てはまらないものを良性とされている 3.本症例は病理学的には良性所見であったが40mmと腫瘍径は大きく外膜まで浸潤しているため悪性と診断した.悪性食道顆粒細胞腫に対する治療法としては食道癌に準じて外科的治療が選択されることが多いが,追加治療としての化学療法や放射線療法で有効な報告はない 1.そのため本症例は厳重な経過観察の方針とした.

Table 2 

Cases of granular cell tumor(30mm≦) of the esophagus.

30mm以上の症例において組織学的に悪性であった症例は7例中3例(43%)であった.病理学的に悪性のものは腫瘍増大の速さを有すると言われており 12,腫瘍径が大きい症例において病理学的な悪性例が高率となっていたと考えられる.30mmより小さい腫瘍で組織学的に悪性であった症例は1例のみであり,その特徴として腫瘍頂部にびらん形成がみられていた.びらんを伴った腫瘍は55例中3例であったがいずれも組織学的に悪性であった.また悪性顆粒細胞腫の診断基準を満たすものは7例中5例(71%)であり,本症例と同様に病理学的に良性所見であったが外膜まで浸潤をきたした症例は自験例を除き1例のみであった.共通点は腫瘍径が大きいことであり,本腫瘍には被膜がないためlocal infiltrationしやすく 13,腫瘍増大に伴い外膜浸潤のリスクが増大すると考えられた.しかし径の大きな腫瘍であっても外膜浸潤をきたさなかった症例も報告されており,その症例との相違点はみられなかった.今回の検討においては医学中央雑誌で腫瘍径の記載があったもののみをまとめており,自施設または他施設共同での症例蓄積が必要になると考えた.以上のことから腫瘍径が標準的なサイズより著しく大きい場合には組織学的に悪性である可能性や外膜浸潤をきたしている可能性を考慮し内視鏡治療ではなく手術を選択することが望ましいと考えた.

Ⅳ 結  論

病理学的に良性所見であったが,外膜浸潤をきたした食道顆粒細胞腫の1例を経験した.食道顆粒細胞腫は病理学的に良性所見であっても深部浸潤をきたしている症例があるため,十分な深達度評価を行う必要があり,その結果で治療方針を決定することが望ましいと考えた.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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