GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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TWO CASES OF SYNCHRONOUS MULTICENTRIC INVASIVE DUCTAL CARCINOMAS OF THE PANCREAS
Yuki IKEDA Makoto YOSHIDAKazuma ISHIKAWAKazuyuki MURASEKohichi TAKADAKoji MIYANISHIIchiro TAKEMASATadashi HASEGAWAJunji KATO
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2020 Volume 62 Issue 7 Pages 785-792

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要旨

症例1は64歳女性.膵腫瘍による閉塞性黄疸を疑われ当科紹介となった.CTでは膵頭部にのみ腫瘍を認識できたが,EUSにて膵頭部と膵体部に腫瘍を認めた.EUS-FNAにより両者ともに腺癌と診断し,当院外科にて亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した.膵頭部は中分化型腺癌,膵体部は高分化型腺癌であった.症例2は78歳女性.膵腫瘍を指摘され当科紹介となった.CTでは膵尾部にのみ腫瘍を認識できたが,EUSにて膵体部と膵尾部に腫瘍を認めた.EUS-FNAにより腺癌と診断し,当院外科にて膵体尾部切除術を施行した.膵体部,膵尾部ともに高分化型腺癌であったが形態には相違があった.浸潤性膵管癌発見時にはEUSで膵全体を観察し,多発病変を確認する必要がある.

Ⅰ 緒  言

浸潤性膵管癌の多くは単発として発生するが,各種画像検査で認識困難であった多発病変を,EUS-FNAにて正確に診断できた報告はない.われわれはEUS-FNAにて診断し得た同時性多発浸潤性膵管癌の2例を経験したので報告する.

Ⅱ 症  例

症例1

患者:64歳女性.

主訴:皮膚黄染.

既往歴:糖尿病なし.

家族歴:近親者に膵癌,乳癌なし,糖尿病なし.

現病歴:2017年4月に皮膚黄染を自覚し近医を受診,膵頭部腫瘍による閉塞性黄疸を疑われた.内視鏡的胆道ドレナージ施行後,当科紹介となった.

現症:身長152.0cm,体重44.8kg,体温36.4℃,血圧103/70mmHg,脈拍52/分.結膜に貧血なし,黄染軽度.腹部は平坦,軟であり圧痛なし.

入院時血液検査所見:ALP 443U/l,γ-GTP 161U/lと胆道系酵素の上昇を認め,腫瘍マーカーはCA19-9 54.8ng/mlと軽度上昇を認めた.

腹部超音波検査所見:膵頭部に17mm大,膵体部に5mm大の低エコー腫瘤を認めた.尾側膵管拡張はなく,膵内に嚢胞性病変を認めなかった.

腹部MDCT検査所見:上腹部dynamic CT(スライス厚2mm)では膵頭部に造影効果の乏しい17mm大の乏血性腫瘤を認め,背側に胆管ステントを認めた.膵体部病変は認識困難であった.主膵管拡張はなく,膵内に嚢胞性病変を認めなかった.

超音波内視鏡検査所見:膵頭部に輪郭不整,境界明瞭な17mm大の低エコー腫瘤を認めたほか,膵体部にも輪郭不整,境界明瞭な5mm大の低エコー腫瘤を認めた(Figure 1-a,b).尾側膵管拡張はなく,膵内に嚢胞性病変を認めなかった.

Figure 1 

超音波内視鏡.

膵頭部に輪郭不整,境界明瞭な17mm大の低エコー腫瘤(矢頭)を認めた(a).

膵体部にも輪郭不整,境界明瞭な5mm大の低エコー腫瘤(矢頭)を認めた(b).

EUS-FNAを行ったところ,膵体部病変(c),膵尾部病変(d)ともに腺癌を認めた.

EZ Shot3 Plus 22G(Olympus社)でEUS-FNAを行い,穿刺回数は膵頭部病変が1回,膵体部病変は2回であった.2病変とも核異型を伴う異型上皮が乳頭状,腺管状に見られ,免疫組織化学的にp53が強発現を示したことから,腺癌の所見と考えた(Figure 1-c,d).

切除可能膵癌と考えられ,当院外科にて亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した.

病理組織学的所見:肉眼上,両病変は独立して存在していた.膵頭部病変は中分化型腺癌の所見で,後方組織,膵外神経叢,高度な神経周囲侵襲像を認めた.膵体部病変は高分化型腺癌で,膵内に限局していた.膵頭部病変のすぐ近傍の分枝膵管内にPanIN3を認め,その周囲にはPanIN1-2を認めるものの病変間にはPanINを認めなかった(Figure 2).背景膵組織は概ね保たれていたが,腫瘍近傍の一部に慢性膵炎の所見を認めた.両病変は組織型が異なり,病変間に明らかな連続性はなく同時性多発と考えられた.最終病理学的診断は膵頭部病変がpTS2(14×10×27mm),pCH1,pDU0,pS0,pRP1,pPL1,pOO0,R0,pT3,pN0,pM0,pStage ⅡA,膵体部病変がpTS1b(7×4mm),pCH0,pDU0,pS0,pRP0,pPL0,pOO0,R0,pT1b,N0,pM0,pStage ⅠAであった.

Figure 2 

切除標本.

膵頭部に14×10×27mm大の腫瘍(赤線),膵体部に7×4mm大の腫瘤(黄線)を認めた.背景膵にはPanINを認め,それぞれPanIN-3(黒),PanIN-2(緑),PanIN-1(青)であった.

手術後経過:特記すべき偶発症なく経過し,術後34日で退院となった.術後補助化学療法は希望されず,術後28カ月が経過し,現在無再発生存中である.

症例2

患者:78歳女性.

主訴:なし.

既往歴:高血圧,気管支喘息.

家族歴:近親者に膵癌,乳癌なし,糖尿病なし.

現病歴:高血圧,気管支喘息にて近医通院中であった.2017年4月にスクリーニング目的で施行した腹部超音波検査にて膵体部腫瘍を指摘され,当科紹介となった.

現症:身長154.0cm,体重64.5kg,体温36.8℃,血圧134/79mmHg,脈拍88/分.結膜に貧血なし,黄染なし.腹部は平坦,軟であり圧痛なし.

入院時血液検査所見:FBS 121mg/dl,HbA1c 7.0%(NGSP)と耐糖能異常を認めた.CEA,CA19-9は正常範囲内であった.

腹部超音波検査所見:膵体部に10mm大,膵尾部に17mm大の低エコー腫瘤を認めた.主膵管拡張は指摘できず,尾部病変の尾側膵管は描出不良であった.膵内に嚢胞性病変を認めなかった.

腹部MDCT検査所見:上腹部dynamic CT(スライス厚2mm)では膵尾部に造影効果の乏しい17mm大の乏血性腫瘤を認めるが,膵体部病変は認識困難であった.膵尾部病変の尾側膵管は3mmと軽度拡張を認めた.

超音波内視鏡検査所見:膵体部に輪郭やや整,境界明瞭な10mm大の低エコー腫瘤を認めたほか,膵尾部にも輪郭やや整,境界明瞭な17mm大の低エコー腫瘤を認めた(Figure 3-a,b).膵尾部病変の尾側膵管は3mmと軽度拡張を認めた.膵内に嚢胞性病変を認めなかった.

Figure 3 

超音波内視鏡.

膵体部に輪郭やや整,境界明瞭な10mm大の低エコー腫瘤(矢頭)を認めた(a).

膵尾部にも輪郭やや整,境界明瞭な17mm大の低エコー腫瘤(矢頭)を認めた(b).EUS-FNAを行ったところ,膵体部病変(c),膵尾部病変(d)ともに腺癌を認めた.

EZ Shot3 Plus 19G(Olympus社)でEUS-FNAを行い,穿刺回数は膵体部病変が1回,膵尾部病変は2回であった.2病変とも核の大小不同を有する異型細胞が不整型の腺管構造を呈して増殖しており,腺癌の所見であった(Figure 3-c,d).切除可能膵癌と考えられ,当院外科にて膵体尾部切除術を施行した.

病理組織学的検査所見:膵体部病変,膵尾部病変ともに高分化型腺癌であったが,膵体部病変は膵内に限局し,腫瘍周囲に線維化が目立つ所見であった.膵尾部病変は周囲への浸潤傾向が強く,前方組織および後方組織への浸潤を認めたほか,リンパ管侵襲や神経周囲浸潤も認め,形態に相違があった.膵尾部病変近傍の主膵管にPanIN3,膵体部病変近傍にはPanIN2を認めたが,病変間はPanIN1に留まっていた(Figure 4).同じ組織型ではあるが形態に相違があること,病変間にPanIN3や浸潤癌も認めないことから同時性多発と考えられた.最終病理組織学的診断は膵体部病変がpTS1c(12×10×7mm),pCH0,pDU0,pS0,pRP0,pPV0,pA0,pPL0,pOO0,R0,pT1c,N1a,pM0,pStageⅡB,膵尾部病変がpTS2(23×22×12mm),pCH0,pDU0,pS1,pRP0,pPV0,pA0,pPL0,pOO0,R0,pT3,N1a,pM0,pStageⅡBであった.

Figure 4 

切除標本.

膵体部に12×10×7mm大の腫瘍(黄線),膵尾部に23×22×12mm大の腫瘍(赤線)を認めた.背景膵にはPanINを認め,それぞれPanIN-3(黒),PanIN-2(緑),PanIN-1(青)であった.

手術後経過:偶発症なく経過したが食事量が安定せず,術後25日に療養型病院に転院となった.補助化学療法として,手術9週後よりS-1 80mgを2投1休で開始したが,食思不振や嘔気にて半年間で中止となった.術後30カ月が経過し,現在無再発生存中である.

Ⅲ 考  察

浸潤性膵管癌の多くは単発病変として診断され,同時性多発病変は稀である.医学中央雑誌にて「膵癌」,「同時性」,「多発」を,PubMedにて「pancreatic cancer」,「multipule」,「synchronous」をキーワードに1990年から2018年10月まで検索したところ(会議録除く),同時性多発浸潤性膵管癌の報告例は9例であった 1)~9.病変数は1例のみ4カ所 5であるものの,それ以外は2カ所と報告されている.術前に多発病変を指摘し得たのは5例 3),5)~8であるが,いずれも造影CTで病変を指摘できており,本症例のように造影CTで認識困難だった多発病変をEUSで指摘し得た報告はない.本邦において,膵管癌は進行期で発見される場合が多く,5年生存率は6.3% 10と極めて予後不良であり,早期診断が重要である.各種画像診断における膵癌の検出能は,US 48-95% 11,MDCT 85-100% 12)~14,MRI 50-96% 15),16とばらつきがあるのに対し,EUSは89-100% 16)~19と感度が高い.特にTS 1症例においては,CTの検出率は低下するとされるが 20,EUSは高い検出力を維持するとされている 21

EUS-FNAの正診率は83.5-95%,10mm以下の小病変では82.5-96%と報告されている 22),23.穿刺針については22G針と25G針を比較したmeta-analysisにおいては明確に定まっていないが 24,19G針と22G針を比較したランダム化比較試験では,19G針の穿刺成功率は膵頭部病変で有意に低い結果であったが,診断能は22G針よりも高い傾向にあった 25.近年,Franseen形状の穿刺針が実臨床においても使用され,従来の穿刺針よりも多くの検体が採取することが可能となっており,さらなる診断能向上が期待される.また,EUS-FNAにおいて迅速細胞診(Rapid on-site cytologic evaluation:ROSE)が診断能を向上させる報告もあり,ROSEなしでのEUS-FNAの正診率は86.2%であったが,ROSEにより正診率が96.8%に向上した 26.全施設で施行可能ではないが,積極的なROSEの併用が診断能向上に寄与する可能性がある.当院では原則全例にROSEを行い,検体が採取できているか確認を行っている.

EUS-FNAの偶発症には1%程度と報告され 27,特に小病変は穿刺ラインに膵実質が介在する可能性があり膵管の誤穿刺に留意する必要がある.また周囲臓器への播種に関しては,needle tract seedingに関する報告は散見されるものの,EUS-FNAの有無で生存率に差はないとされている 28.しかし膵体尾部から穿刺した場合は切除範囲にneedle tractが含まれないため,穿刺回数を極力少なくする等の工夫が求められ,術後もneedle tractも含めてフォローが必要となる.

自験例に関して,2症例とも造影CTでは1病変しか検出できなかったが,EUSではCTでは指摘し得なかったもう1病変を発見できた.また症例1は22G,症例2は19Gを使用してEUS-FNAを行い,いずれもROSEを併用した.2例とも病理学的診断が可能であり,小病変に対してもEUS-FNAは非常に有用と考えられた.

同時性多発膵癌は血行性あるいはリンパ行性の膵内転移,膵管内進展,多中心性発生に分類される 5),9.しかし明確な診断基準は存在せず,それぞれの病変に連続性がなければ多中心性発生と診断されているのが現状である.さらに組織学的検索だけでなく,免疫組織化学的,分子学的な性質により鑑別されている報告もある 5),29.過去の報告では9例中8例が外科切除されており 1)~7),9,組織型の不一致および組織型が一致していても病変間に癌の連続性を認めない場合は多中心性発生と考えられている.2例で免疫染色が行われ 5),6,MUC1の染色性に違いがある点が共通していた.

自験例においては,症例1では組織型が不一致で病変間に癌の連続性は見られなかった.症例2では組織型は一致していたものの形態が異なる点や病変間の主膵管内に癌の進展は見られなかった.

また背景膵を検討した報告は6例 3)~7),9であり,うち1例にIPMN(IPMA)を認めた 3.2例にpancreatic intraepithelial neoplasia(PanIN)を認め,うち1例は腫瘍周囲にPanIN3を認めた 5),6.PanINはHrubanら 29により提唱された膵癌の前駆病変と考えられている病変で,段階的な異型の変化を経て発癌すると考えられている.

自験例で検討したところ,症例1は膵頭部病変近傍の分枝膵管内にPanIN3,その周囲にはPanIN1-2を認めた.症例2は膵尾部病変近傍の主膵管にPanIN3,膵体部病変近傍にはPanIN2を認めたが,病変間はPanIN1のみでPanIN3や浸潤癌は見られなかった.また浸潤癌の周囲ではPanIN3が高率に認められ,Andeaら 30はその頻度は40%と報告している,以上より,2例ともPanINを発生母地とした多中心性発生の可能性が高いと考えた.

浸潤性膵管癌は単発として発生する例が多いが,多発膵癌が少なからず存在する.術前診断にEUSで膵全体を観察することは重要であり,腫瘤像がある場合は積極的にEUS-FNAを行うことが重要と考えられた.

Ⅳ 結  語

同時性多発浸潤性膵管癌の2例を経験した.術前EUSで膵全体を観察することの重要性を再認識できたほか,術前診断にEUS-FNAが有用であった症例であり,ここに報告した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:竹政伊知朗(ジョンソンエンドジョンソン株式会社メディカルカンパニー エチコン事業部,コヴィディエンジャパン株式会社,メドトロニック株式会社,ストライカー,大鵬薬品工業株式会社)

文 献
 
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