GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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TIPS FOR DEEP INSERTION OF THE ENDOSCOPE IN DOUBLE BALLOON ENTEROSCOPY
Tomoki MATSUDA Satoshi ITOMasato NAKAHORI
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2020 Volume 62 Issue 8 Pages 1496-1506

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要旨

近年バルーン内視鏡検査は小腸疾患精査・治療には不可欠の手技となった.大腸挿入法との共通点も多いが,小腸挿入時における相違点も存在する.また複数回の開腹手術歴,放射線治療の既往,内臓脂肪型肥満の患者などは時に挿入困難例となり,スコープの選択,体位変換・用手圧迫などを駆使して挿入するが,膵炎などバルーン内視鏡特有の合併症に注意が必要である.オーバーチューブを利用する特殊な挿入であり,通常の上下部消化管内視鏡検査より煩雑であるが,その分,スコープとオーバーチューブとの相対的な位置の組み合わせによる腸管短縮にはバリエーションが存在する.常に今あるスコープの状態を把握して,スコープが進まない時はその理由を考えて,挿入法を補正しながら検査を行っていくことが小腸内視鏡挿入の最大の “コツ” と言える.

Ⅰ 緒  言

小腸の内視鏡診断・治療は消化管の「暗黒大陸」と言われた時期から,2003年の山本らによる日本発のダブルバルーン内視鏡(double-balloon enteroscopy:DBE)の開発と,2007年のカプセル内視鏡の保険適用とともに,急速に普及してきた 1.いまや小腸における内視鏡は稀な検査から,消化管専門医,特に地域における中核をなす病院の臨床医にとっては必要不可欠なmodalityと言って良い時代に入ってきた.更にバルーン内視鏡は術後再建腸管における胆膵疾患の内視鏡処置に応用 2され,従来,外科手術が必要であった患者にとって,内視鏡治療が可能になった点も大きくQOLの向上へとつながっている.小腸内視鏡検査手技はもちろん症例による難易度の相違はあるが,基本的には大腸内視鏡手技と共通する点も多い.今回は当施設で主として使用しているDBEを中心に,実際の検査に際して必要な準備や具体的な挿入に関わる手技とコツについて概説する.

Ⅱ 適応・禁忌

バルーン内視鏡検査の小腸疾患に対する適応としては①上部および下部内視鏡検査で出血源不明の消化管出血(OGIB:Obscure gastrointestinal bleeding)・貧血,②画像検査(腹部エコー検査,CT検査,小腸X線検査,小腸カプセル内視鏡検査など)で小腸由来の腫瘤が疑われるもの,③原因不明の反復するイレウス,④炎症性腸疾患の精査・経過観察などがある.2012年以降の小腸カプセル内視鏡の保険適用拡大で,最初に侵襲の少ないカプセル内視鏡を先行させる例が増加しているが,バルーン内視鏡を優先させる例は,小腸活動性出血が疑われる症例,イレウス・もしくは腸閉塞機転がある可能性が高いと考えられる症例,画像ですでに腫瘍性病変が疑われる症例,術後再建腸管例などである.また当施設ではOGIB症例で造影CT検査,小腸カプセル内視鏡検査で所見は陰性であったが,バルーン内視鏡で発見した小腸癌を経験してからは,臨床上その可能性が否定できないと判断される場合はカプセル内視鏡・CT検査で所見陰性でもダブルチェック目的のバルーン内視鏡検査を施行することもある.

小腸疾患以外に対する適応としては,術後再建腸管におけるERCP関連手技による胆膵疾患の診断・治療および,大腸内視鏡挿入困難例における挿入・EMRなどの処置にも応用される.

禁忌は通常の上部・下部の内視鏡検査に準ずるが,バルーン内視鏡ではシングルバルーンもダブルバルーンも共に,オーバーチューブをブラインドで挿入することになるため,内視鏡がぎりぎりでしか通過できない狭窄や新鮮な深い活動性の潰瘍性病変,静脈瘤など物理的刺激で出血の可能性がある血管性病変などを認めた場合は慎重に挿入するか,あるいはそれ以上の深部挿入を中止すべきである.

Ⅲ 機  器

DBE施行の際には先端のバルーン拡張のためのエアルートを内蔵した細径内視鏡と内視鏡装着バルーン,オーバーチューブ(長さ145cmの軟性チューブ)およびスコープとオーバーチューブの先端バルーンを拡張・収縮させるバルーンポンプコントローラーが必要である.

挿入原理はスコープとオーバーチューブ先端のバルーンを交互に拡張させ,腸管を2つのバルーンで把持し短縮しながら,深部へ挿入していく(Figure 1).シングルバルーン内視鏡(single-balloon enteroscopy:SBE)はオーバーチューブのバルーンのみで,スコープの先端にバルーンは有していない.DBEでのスコープ先端のバルーン拡張の代わりに先端のアングル操作による屈曲を利用して,同様に腸管を短縮して深部挿入を行う.

Figure 1 

挿入原理と方法.

内視鏡は富士フイルムメディカル社のDBEの場合,有効長200cm,全長230cm,外径7.5mm,鉗子口径2.2mmの主に診断用の細径のEN-580XPと,有効長200cm,全長230cm,外径9.4mm,鉗子口径3.2mmの小腸疾患に対する処置用のEN-580T,および大腸挿入困難例に対する検査・処置や胆道系の処置などに使われる有効長の短いショートタイプのEI-580BT(有効長155cm,全長185cm,外径9.4mm,鉗子口径3.2mm)の3機種がある.オーバーチューブはそれぞれの内視鏡に合わせて580XP用の長さ145cm,外径11.6mmのTS-1114B,580T用の長さ145cm,外径13.2mmのTS-1314B,580BT用の長さ105cm,外径13.2mmのTS-13101を用いる.内視鏡装着バルーンは現在BS-4が主流となっているが,オーバーチューブとともに材質はシリコーンゴムである.以前のバルーンBS-3やオーバーチューブTS13140などは天然ゴム製でありラテックスアレルギーなどは注意が必要である.

内視鏡およびオーバーチューブのバルーンの拡張と収縮はバルーンコントローラーと呼ばれる機器を使用するが,現在はPB-30が最新版である.バルーンの拡張収縮状態が表示され,バルーン把持による圧が高い状態が続くと自然にバルーンが脱気され,圧が上昇しすぎることによる腸管損傷を防いでいる(Figure 2Table 1).

Figure 2 

ダブルバルーン内視鏡システム.

Table 1 

ダブルバルーン内視鏡システム スペック表.

オリンパス社製のSBEは,前述のように先端バルーンの存在しない細径スコープであるSIF-Q260(有効長200cm,全長234.5cm,外径9.2mm,鉗子口径2.8mm)とシリコーン製のスライディングチューブST-SB1(外径13.2mm,全長140cm)とバルーンコントロールユニットOBCUが必要である.またDBEと同様に大腸挿入困難例に対する検査・処置や胆膵系の処置などに使われる有効長の短いショートタイプのSIF-H290S(有効長152cm,全長183cm,外径9.2mm,鉗子口径3.2mm)とシリコーン製のスライディングチューブST-SB1S(外径13.2mm,全長96cm)がある.胆膵系処置の際に鉗子口の位置も重要であるが,SIF-H290Sは7-8時,EI-580BTは5-6時で,処置の種類で困難例の場合は相違がある.鉗子口径は表示上は同じ3.2mmだが,SIF-H290Sの方がわずかにデバイスの出し入れがしやすい(Figure 3Table 2).

Figure 3 

シングルバルーン内視鏡システム.

Table 2 

シングルバルーン内視鏡システム スペック表.

SBEの利点は先端バルーン装着の準備が不要で,深部挿入後もフードが装着されていない場合は,自由にスコープの抜去が可能な点や画像強調のNBI(narrow band imaging)が使用できる点などがある.挿入困難例における全小腸観察率や挿入時間に関してはDBEに比較するとやや劣るか(バルーン内視鏡のスペシャリストでは差がないと考えている),あるいは習得により時間を有するという印象がある.

フードに関しては挿入の際には必須ではないが,治療時には装着している方が有利な点が多い.観察しづらい部位に存在する病変に対して輪状ひだを押さえ込んで止血処置をしたり,胆膵系処置において,固定の悪い乳頭を同様に押さえながらカニュレーションする際などに有用である.DBEではEN-580XP用のDH-32ENとEN-580T・EI-580BT用のDH-17EN(富士フイルムメディカル社),SBEのSIF-Q260・SIF-H290Sではディスポーザブル先端アタッチメントD-201-10704(オリンパス社)などが使用される.微小血管性病変の存在が強く疑われるケースは(高齢で基礎疾患あり,造影CT検査でも明らかな腫瘍や腸管壁肥厚などの所見を認めない場合),通常よりもややフードを長めに装着した方が更に処置がしやすく,この場合はダブルバルーンでもD-201-10704やD-201-11304を使用することがある.他の周辺機器・アクセサリーデバイスとしては,前述の出血などの治療時や前処置不良時の洗浄,EUSでの脱気水を腸管に貯めるために頻用している内視鏡送水装置は必須である.当施設ではタンク容量4リットルで毎分700mlの送水機能を有するウォータープリーズ(AF-WP1)(フォルテグロウメディカル株式会社)と鉗子口に処置具やEUS細径プローブが挿入された状態でも機能するバイオシールド(富士フイルムメディカル社)というイリゲーター付きの鉗子栓を常備している(Figure 4).

Figure 4 

周辺機器と他のアクセサリーデバイス.

器具の準備に当たっては挿入率に大きく関与する2点の確認が重要である.ひとつは装着した先端バルーンの膨らみ具合である.オーバーチューブのバルーンの拡張は比較的安定しているが内視鏡の先端バルーンの膨らみ方はややばらつきがある.バルーン拡張の際に速やかに球状にバルーンが膨らむかどうか確認が必要である.もうひとつはオーバーチューブのすべりである.オーバーチューブは親水性であるが,検査直前にチューブ内に水をいれてスコープと馴染ませ,スコープにかぶせた時に自然にオーバーチューブが下がる位のすべりが深部挿入には必要である(ちなみに筆者らはこれを “natural drop sign” と呼んでいる).

また,送気に関しては,炭酸ガス送気を使用している.長い腸管を不必要に伸展させ,深部挿入を妨げない,あるいは終了後の腹満・合併症軽減のためにも炭酸ガス送気は必須である 3

Ⅳ 前処置・前投薬

前処置は経口的アプローチの際は,前日のピコスルファートナトリウム(ラキソベロン)5ml投与のみで,経肛門的アプローチの際は大腸内視鏡検査の前処置に準じ前日大腸検査食とピコスルファートナトリウム内用液0.75%5mlあるいはセンノシド(12mg)2錠,当日腸管洗浄液(ニフレックあるいはモビプレップ)2リットル内服としている.経口挿入の場合はかならずしも下剤は必要ないが,病変が見つかった際に引き続き行う内視鏡下ガストログラフィン造影検査や,小腸全域観察可能な場合もしくはそれに準ずるような深部挿入の場合,挿入により蠕動をおこし排便誘発することもあるため,前日に上記下剤を使用することが多い.

検査前投薬は血圧・心電図・酸素飽和度などモニタリングの上,ペンタゾシン(ソセゴン)7.5-15mg,ミダゾラム(ドルミカム)3-4mg,臭化ブチルスコポラミン(ブスコパン)10mg(挿入時は経肛門的アプローチのみ使用,観察時は経口,経肛門アプローチとも適宜使用する.臭化ブチルスコポラミンの禁忌例はグルカゴン0.5IUを静注する)で,適宜追加していき,上記で鎮静が得られない場合はプロポフォールを使用している.

Ⅴ 挿入法(基本編)

全小腸観察は,通常は山本らの点墨を併用する方法に準ずる 1),2.最初のアプローチの方向は,病変の存在部位が他の画像検査で明らかに経口,経肛門どちらかに近いことが事前にわかる場合は,近い方から始める.全小腸の観察を目的とする場合は,後述する合併症である膵炎のリスク回避のために経肛門挿入から始める.そしてスコープ到達の最深部に点墨し,後日反対側からのアプローチで点墨を確認することで全小腸観察としている.ただし比較的短時間(1時間目安)で全小腸観察可能と判断される場合は一回で検査を終了することもある.

当施設は現在の基本挿入スタイルとしては,無透視2人法であるが,病変を認めた際の内視鏡下ガストログラフィン造影を考慮し,透視室で行っている.1人法でも挿入は可能であるが 4,2人法である理由は挿入時間短縮と,小腸内視鏡診断・治療のための教育・人材育成の目的もある.ただし,2人法であっても基本の挿入は大腸内視鏡挿入同様にスコープの出し入れ,トルク,アングル操作の協調運動による腸管短縮を基本としており,バルーンで腸管を把持して短縮する際はオーバーチューブごと術者一人でスコープを保持し短縮操作を行う.ただし,スコープが通常大腸内視鏡検査で使用するものより細く柔らかいため,経肛門挿入の際にSDJ(S状結腸-下行結腸移行部)をいわゆる「軸保持」 5で直線的に通過,挿入できる確率は通常の大腸内視鏡検査ほど高くはない.もちろん用手圧迫などで容易に直線的に入る場合はそれが望ましいが,ループを形成しないように時間をかける必要性はない.また経口挿入の場合は,トライツ靭帯を越えて,しっかり上部空腸に入ってから短縮操作を始める方がよく,それ以前に短縮しながら挿入するとスコープが抜けてしまい,最終的には余分な時間がかかり非効率的である.

腸管を短縮する際には,術者はスコープが抜けないように,短縮動作のスピードに緩急をつけながら短縮する(抜けやすい際は一旦スコープの短縮操作を止めるなど).その際に有効な短縮操作となっているかの判定は,内視鏡が抜けないだけではなく,屈曲により見えなかった進行方向の次の管腔が,短縮操作で手前の腸管を短縮することにより屈曲が鈍化され,視野が開けることで確認できる(Figure 5).また,大腸挿入で言う,スコープを細かく出し入れする “ジグリング” は,筆者は大腸ではあまり多用しないが,小腸内視鏡挿入においては,スコープの推進力が得られる方向を短時間で探しだせる点(いわゆる軸合わせ)と腸管の短縮の観点からも有用と考えている.ただしジグリングを併用する際は,なるべく急角度のアングルは使わず,スコープのフリーな感覚を意識して進める.手術による癒着などで抵抗感がある場合は強いジグリングは注意が必要で,より慎重なスコープ操作が必要である.

Figure 5 

腸管短縮による効果.

腸管の短縮により,進行方向の屈曲が鈍角化されスコープが深部へ挿入される.

挿入時のスコープ全体の形としては,経口・経肛門アプローチともに腸管膜付着側を中心とする同心円状にスコープを進めることが理想的である.前述のように挿入の基本操作は大腸内視鏡挿入に準ずるが,相違点は最終形として大きなループを描いて挿入するため,スコープを押しているのに管腔が遠ざかる,いわゆる “paradoxical movement” を起こす際は,意図的に大腸のS状結腸を伸展させてループを形成するような挿入の方が良い場合が多い.大腸では腸管を伸ばしてしまった感覚だが,小腸内視鏡挿入においてこのような視野が続くことは,大きな自然なループを描いて,挿入長を稼げる好ましい形になっていることを意味する.

挿入時間に関しては個々の症例でばらつきはあるが,一回目の挿入時間は1時間をひとつの目安にすると良い.挿入時のスコープの形状がよく,効率よくスコープが進む時は30分位でスコープが進みづらくなるのでこの時点で中止しても,多くは反対側からのアプローチで全小腸観察が可能である.逆に1時間以上挿入しても効率が下がり,最終的な全小腸観察率にはあまり違いがない.

Ⅵ 挿入法(挿入困難例などに対する工夫)

挿入困難な例としては,開腹手術既往例,骨盤内臓器への放射線治療後の患者,極度の肥満などが挙げられる.手術による癒着などで自然なループ形成が妨げられる箇所が複数に及ぶと深部挿入は困難となるが,癒着によりどちらからのアプローチが進みづらくても,その反対側からは意外に進みやすいこともしばしば経験される.開腹手術既往例の中で癒着がなくとも,腹壁瘢痕ヘルニアや腎臓摘出後などは挿入が難しい場合がある.これらは非生理的な固定点やfree spaceにより腸管が落ち込み強い屈曲点を生じることで,スコープの進みや腸管の畳み込みが妨げられることによる.内臓脂肪型肥満の患者はスコープの形がきれいに同心円を描くように挿入されていても,深部挿入困難な場合がある.脂肪の厚い腸間膜により,腸管の短縮が不十分なことに起因していると考えられる.逆に小柄でやせた患者では,腸管の屈曲点がきつくても腸間膜の脂肪が薄いためか最終的にはしっかり短縮操作ができて深部挿入可能なことが多い.ただし狭い骨盤内に小腸がおさまっていることにより,相対的に腸管の重なり・屈曲が強い状況となるため,小腸の短縮にやや時間がかかる場合がある.

上記の挿入困難例と予測される場合は,スコープの選択も重要である.大腸の挿入において癒着例では細径スコープが適していると同じ理由で,より細径であるEN-580XPの方が有利である.特に上部からのアプローチでは後述の膵炎のリスクも減らすと考えられる.ただし,治療の必要性がある例やEUSが目的の場合は,鉗子口径が2.2mmと小さいために,多くの処置具が使用できないという制限がある.

実際の挿入に際しては,オーバーチューブを進めるとすぐにバルーンの先端が抜けるような場合は,先端バルーンとオーバーチューブバルーンの2点間の距離を変えて短縮操作をすると有効なことがある.オーバーチューブの煩雑な操作が必要ではあるが,その分,オーバーチューブとスコープとの距離,バルーンの拡張程度の組み合わせにより腸管の把持のされ方には多くのバリエーションが存在し,この変化が時に腸管短縮に有用であると考えている.

その他の工夫としては体位変換・用手圧迫がある.経肛門アプローチでスコープが大腸から回腸に挿入されても,すぐ大腸側へ抜けるような場合は,回盲部付近の圧迫あるいは左側臥位などの体位変換が有効である.それでも深部に入りにくい場合,あるいは過度の肥満で体位変換に苦労する場合は,盲腸でスコープを反転させて回腸に挿入する方法が有効である.深部小腸に入ってから,用手圧迫の効かない肥満体型の患者でスコープがたわむ場合は時に腹臥位への体位変換が有効なケースもある.大腸挿入のようなこまめな体位変換・用手圧迫は不必要であるが,逆にスコープが抜けて深部挿入しづらい際は,劇的にその状況を打開できることがある.

また,前処置不良例や前処置が比較的良好でも内服薬の顆粒成分が腸管に残存する際には,検査時にオーバーチューブ内にそれらが入り込み,スコープ挿入に際して時に強い抵抗を感じることがある.

検査当日の薬物内服に関しては,必要最小限以外は内服させないことを原則としているが,上記のような状況が生じた場合には,われわれは荒木らの方法に準じて 6,オーバーチューブ内に蒸留水の点滴を利用して持続的に注水しながらスコープを挿入している.

その他,イレウスチューブを利用した挿入方法も非常に有用であり,当施設での工夫例を紹介する.

ひとつは,小腸イレウスを発症した際に,イレウスチューブ挿入後,チューブの最深部での狭窄性病変の精査方法である.イレウスチューブを利用することで圧倒的に短時間で病変部に到達可能である.これにより,生検,点墨による病変のマーキング,より診断価値の高い造影検査が可能となり,確定診断に寄与する.具体的な方法としては経鼻からのイレウスチューブが挿入されたまま,チューブの先端のバルーンを軽度拡張させ,チューブを引き抜きたわみを少し取った状態で,バルーン内視鏡(この場合のスコープはEN 580XPなど細径が良い)を経口的に挿入する.この方法は長い腸管を畳み込んだ状態で挿入できる利点があり,患者の負担も最小限である.イレウスチューブに長いガイドワイヤーを挿入,留置しイレウスチューブのみを抜去した後,そのガイドワイヤーを内視鏡の鉗子口から挿入し,ガイドワイヤーをガイドにして内視鏡を挿入する方法もあるが(原理としては1972年の平塚先生らのロープウェイ式小腸内視鏡検査を応用した方法 7),この場合はガイドワイヤーが内視鏡挿入とともに抜けて,腸管短縮の効果が実感されず,そのメリットが活かせない場合がある.

もうひとつは,術後再建腸管の輸入脚への挿入困難例に対するイレウスチューブの利用である.輸入脚盲端への挿入困難例には,再建術式の中でも,特に胃が残存している術式が多い.挿入困難の理由としては,胃でスコープのたわみができ,更に輸入脚の吊り上げの角度がきつい例は,スコープのたわみが2箇所できるために輸入脚に入ってもスコープがすぐ抜けてしまい,深部挿入がしづらいことが多いためである(Figure 6).

Figure 6 

術後腸管再建術式による相違.

B-Ⅱ法やRouxen-Y法と比較して胆管空腸吻合による再建は胃が残ることにより,2箇所に大きなたわみができ,スコープが進みづらいことがある.

この場合はまず前述の用手圧迫,体位変換を試みるが,それでも困難な場合はDBEであれば,オーバチューブのバルーンを虚脱させたり,逆にスコープ先端のバルーンを軽度拡張させたまま挿入する方法でこの状況を打開できることがある.この方法で経口的に挿入できない場合は,当施設では経肛門挿入で輸入脚盲端まで到達した経験がある 8.この方法は理論上,たわむ胃を介さないで,吊り上げのきつい輸入脚に挿入するには理にかなってはいるが,時間がかかり,手技の難易度が高い上,shortスコープでの挿入が困難なため,胆膵系処置に使用するデバイスが限られるなどの問題点があった.その後,同様に胃が残存し,更に輸入脚の吊り上げがきつく,手技を2回試みたが,輸入脚盲端に到達しなかった胆管空腸吻合術後の挿入困難例を経験した.その2回目の手技不成功時に,経鼻的にイレウスチューブを挿入し,吻合部の輸出脚側にバルーンを留置して,輸出脚へのルートを塞ぐことで,輸入脚盲端へスコープの挿入に成功した.本症例はこの方法により,スコープの輸出脚への落ち込みがなく,スムーズに輸入脚盲端に到達した.今後挿入困難例に試みる価値のある方法と考えている.

Ⅶ 合併症

合併症としては穿孔,出血,膵炎,誤嚥性肺炎,オーバーチューブ巻き込みによる腸管損傷などが報告されている 9

当施設でも70歳台男性OGIB症例で挿入時微小穿孔例を経験している.穿孔部位は確認できずfree airのみ認められた例で,絶食・輸液の保存治療のみで改善したが,本例は胃癌の手術含め,複数回の開腹歴があり,また下垂体腫瘍手術後で長期間ACTH・ステロイド内服を受けていた患者であった.腸管壁の脆弱性も関与していると考えられたが,それ以外の可能性として,挿入時出血源同定のためにマーキングクリップを留置したが,同部位を越えて更に挿入していた際にクリップ付着部位に微小穿孔が起こったことも考えられた.本症例以降はマーキングを越えて挿入する可能性がある場合は,極力クリップは使用せず点墨のみとしている.

また,膵炎は小腸バルーン内視鏡検査特有の合併症であるが,基本的には上部アプローチの際に起こりうる.高頻度の腸管短縮に伴う膵に対する物理的な刺激によると考えられているが,正確な機序は不明である.頻度は低いが,時にgrade3の重症膵炎も報告されており,上部からのアプローチの際は特に挿入時間を60分を目安にすべきと考える.また,上部アプローチで嘔吐反射が強い患者は腹圧上昇により,膵炎のリスクも高まるため,比較的deep sedationが必要である.

上記のことに留意しながら検査を試みても,挿入に際して強い抵抗が出現する場合,あるいは上部アプローチからの挿入で1時間以上かかり膵炎,鎮静による誤嚥のリスクが上昇すると考えられる場合には挿入を中止する選択も必要である.その際には引き続き内視鏡下でガストログラフィン造影を施行し,狭窄性病変がないことを確認できれば,後日カプセル内視鏡施行により少なくとも診断に関しては代用が可能である.

以上小腸バルーン内視鏡の挿入法に関して,大腸挿入法との共通点・相違点を含めてその基本とコツについて述べた.挿入困難例に対して最も重要な点は,スコープの進みが悪くなった時に同じ操作を何度も繰り返さないことである.挿入時間が長引けば,特に上部からの挿入時は合併症の率も上がるために挿入時間短縮が大腸以上に重要である.常に今あるスコープの状態を把握して,スコープが進まない時はその理由を考えて,挿入法を補正しながら検査を行っていくことが小腸内視鏡挿入の最大の “コツ” と言える.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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