GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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SKILL-UP STUDY OF SYSTEMIC ENDOSCOPIC EXAMINATION TECHNIQUE USING NARROW BAND IMAGING OF THE HEAD AND NECK REGION OF PATIENTS WITH ESOPHAGEAL SQUAMOUS CELL CARCINOMA: PROSPECTIVE MULTICENTER STUDY
Naoki OKAMOTOHiroyuki MORIMOTOYoichi YAMAMOTOKeisuke KANDARino NANKINZANShingo KASAMATSUShigenobu YOSHIMURAMotoyasu KANAkira NAKANOShosuke HOSAKAYuuka WATANABEKyoko ARAHATAYuzo TOYAMAAyumi OKAMURATaketo YAMAGUCHITomonori YANO
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2020 Volume 62 Issue 8 Pages 1507-1517

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要旨

【目的】初学内視鏡医に対する頭頸部内視鏡サーベイランス方法の教育研修の有用性を評価すること.

【方法】この多施設共同前向き研究では,10施設,13人の初学内視鏡医に対して,実技指導を含めた系統的な観察方法と診断基準の教育研修を実施した.2016年5月から2017年2月まで,食道扁平上皮癌と診断されている,初発もしくは既往のある登録患者に対して,narrow band imaging(NBI)を用いた頭頸部内視鏡サーベイランスを行い,病理学的に診断された頭頸部扁平上皮癌(head and neck squamous cell carcinoma(HNSCC))の検出割合,内視鏡画像の質,検査時間を研修前(A群)と研修後(B群)で比較した.内視鏡画像の質は30点満点とした.

【結果】A群181例,B群149例の合計330例が登録された.HNSCC患者は,A群で3例(1.7%),B群で3例(2.0%)であった(P=1.000).平均検査時間±標準偏差(SD)は,A群157±71秒,B群174±109秒であった(P=0.073).内視鏡画像の質の平均点±SDは,A群25.04±5.47点,B群27.01±4.35点であった(P<0.001).

【結論】初学内視鏡医に対する教育研修によって,食道扁平上皮癌患者におけるNBIを用いたHNSCCの検出割合は向上しなかった.一方,内視鏡画像の質は有意差をもって向上した.

Ⅰ 緒  言

食道扁平上皮癌(esophageal squamous cell carcinoma(ESCC))患者は同時性もしくは異時性に頭頸部扁平上皮癌(head and neck squamous cell carcinoma(HNSCC))を発症するリスクが高いとされている 1.Matsubaraら 2は,ESCC患者において,食道癌術後の重複癌では他臓器と比較してHNSCCが多く,さらに他臓器癌を合併した症例と比較してHNSCCを発症した症例の予後が不良であったと報告している.それはHNSCCの早期診断が困難であるためと考えられていた.近年の研究では,narrow band imaging(NBI)を用いた内視鏡観察がHNSCCの早期発見に有用であると報告されている 3.Mutoら 4は,ESCC患者の頭頸部内視鏡サーベイランスにおいて,白色光観察と比較してNBI観察ではHNSCCの検出率,正診率が有意に高かったと報告している.NBIで発見された表在性HNSCCのほとんどの症例は,内視鏡切除や部分切除にて治癒し良好な予後が得られている 5),6.Morimotoら 7は,ESCC患者に対してNBIを用いた頭頸部内視鏡サーベイランスを行うことで,表在性HNSCCの検出率が上昇し,さらに早期発見により,異時性進行HNSCCに伴う喉頭機能消失や癌死などの重篤な事象のリスクを下げることができると報告している.一方で,頭頸部領域の表在癌を検出するためのサーベイランスには熟練した内視鏡検査技術が必要である.そのため,初学内視鏡医も含めた一般診療に広く普及させるためには,表在性HNSCC検出における内視鏡検査の教育研修が必要である.本研究では,HNSCCハイリスク患者に対するNBIを用いた頭頸部内視鏡サーベイランス方法の教育研修プログラムを作成し,初学内視鏡医に対する教育研修の有用性を前向きに評価することを目的とした.

Ⅱ 方  法

研究デザイン

本研究は,10施設,13人の初学内視鏡医を対象にした多施設共同前向き研究である.初学内視鏡医とは,消化器内視鏡医としての経験年数が5年以内であり,日本消化器内視鏡学会専門医未所得の医師と定義した.本研究のプロトコルは各施設の倫理委員会により承認され,ヘルシンキ宣言に従って実施された.臨床試験登録でUMINへの登録を行った(UMIN000017458).

患者

患者選択基準は,組織学的にESCCと診断されている初発もしくは既往のESCC患者,20歳以上であり,試験参加について被験者本人から文書で同意が得られている患者とした.除外基準は,活動性頭頸部癌を有している患者,喉頭摘出術を受けている患者,頭頸部領域に放射線治療歴がある患者,とした.

内視鏡検査

患者は画像強調を用いた頭頸部内視鏡サーベイランスを受けた.画像強調としては主にNBIを用い,施設により使用可能であればblue laser imagingも許容した.頭頸部領域の観察は,上部消化管内視鏡サーベイランスで食道へ内視鏡を挿入する前に実施することを推奨した.また,頭頸部領域を以下の15部位に分類し,各部位を撮像することとした.(1)軟口蓋,(2)口蓋垂,(3)左口蓋弓,(4)右口蓋弓,(5)中咽頭後壁,(6)中咽頭左側壁,(7)喉頭蓋谷,(8)喉頭蓋舌面,(9)中咽頭右側壁,(10)声帯,(11)左披裂喉頭蓋襞,(12)右披裂喉頭蓋襞,(13)下咽頭後壁,(14)左梨状陥凹,(15)右梨状陥凹(Figure 1).NBIを用いたHNSCCの診断基準は,(i)非拡大観察で境界明瞭なbrownish areaを呈し,(ii)拡大観察で異常血管を認める病変とした.HNSCCを疑う病変が認められた場合,頭頸部内視鏡サーベイランス後に生検を行った.生検が困難と判断した場合,熟練した内視鏡医もしくは耳鼻科医に依頼することは許容した.

Figure 1 

撮像すべき頭頸部領域の15部位を示す.

A:1:軟口蓋.

B:2:口蓋垂,3:左口蓋弓.

C:4:右口蓋弓.

D:5:中咽頭後壁.

E:6:中咽頭左側壁.

F:7:喉頭蓋谷.

G:8:喉頭蓋舌面.

H:9:中咽頭右側壁.

I:10:声帯,11:左披裂喉頭蓋襞,12:右披裂喉頭蓋襞.

J:13:下咽頭後壁.

K:14:左梨状陥凹.

L:15:右梨状陥凹.

検査時の苦痛の軽減と咽頭反射の抑制のために,禁忌でない患者に対しては検査開始前にペチジン塩酸塩注射液(17.5~35mg)の使用を推奨した.咽頭麻酔はリドカインスプレー(8%)で十分に行った.鎮静剤の使用は頭頸部領域の観察を困難とする可能性があるため,推奨はしていないが,実際の使用については術者の判断とした.われわれはこの研究を日常診療で可能な試験とするため,検査の制限となるような画像強調システム,内視鏡,内視鏡ビデオシステムの詳細な規定をしなかった.

頭頸部扁平上皮癌の病理学的評価

頭頸部内視鏡サーベイランスでHNSCCを疑う病変を認めた場合,生検を施行し,各施設の病理医が病理学的評価を行った.病理学的診断はWHO分類 8に基づいて行った.すなわち,HNSCCは扁平上皮癌もしくは上皮内癌とし,表在性HNSCCは癌細胞の浸潤が固有筋層に達していないものとした.われわれは病理中央診断を施行しなかったが,要望があれば熟練した病理医へのコンサルテーションは許容した.

教育研修プログラム

患者登録とプロトコル検査施行開始から3カ月経過後,すべての内視鏡医は国立がん研究センター東病院で教育研修プログラムを受けた.このプログラムは,頭頸部・食道癌の疫学,咽頭領域の解剖,頭頸部領域観察技術,頭頸部癌の診断基準についての講義で構成されている.講義には観察手順の動画や癌,非癌の画像集とその解説も含まれている(Figure 23).また,熟練した内視鏡医による検査の見学や,技術指導などの実技研修も行った.研修期間は3カ月間とし,その間は患者登録を行わないこととした.研修期間終了後に,患者登録とプロトコル検査を再開した.

Figure 2 

(A-C)下咽頭右梨状陥凹の表在性扁平上皮癌.

A:narrow band imaging(NBI)非拡大観察ではbrownish areaを呈する.

B:NBI弱拡大観察では境界明瞭なbrownish areaを呈する.

C:NBI強拡大観察では異常血管(拡張,蛇行,口径不同,形状不均一)を認める.

(D-F)中咽頭後壁の表在性扁平上皮癌.

D:NBI非拡大観察ではbrownish areaを呈する.

E:NBI弱拡大観察では境界明瞭なbrownish areaを呈する.

F:NBI強拡大観察では異常血管(拡張,蛇行,口径不同,形状不均一)を認める.

Figure 3 

(A,B)中咽頭後壁の慢性炎症.

A:narrow band imaging(NBI)非拡大観察では淡いbrownish areaを呈する.

B:NBI弱拡大観察では周囲との境界は不明瞭である.

(C-E)下咽頭後壁の錯角化.

C:NBI非拡大観察では淡いbrownish areaを呈する.

D:NBI弱拡大観察ではドット状の小血管が視認される.

E:NBI弱拡大観察では異常血管は軽度(拡張のみ)であり,境界は不明瞭である.

内視鏡画像の質

頭頸部領域を15部位に分類した.各部位の画像を3人の内視鏡医による評価委員会で評価し,15部位について各々以下の通りに点数化した.2点:十分に評価できるきれいな画像,1点:評価するには不十分な画像,0点:撮影されていない(Figure 4).合計30点満点とした.内視鏡画像の質としては,画像の解像度の評価や,拡大観察の有無での評価は行わず,粘液の有無や関心領域が十分撮像されているか,焦点があっているか,を評価した.われわれは,国立がん研究センターがん対策情報センターにより提供された画像中央判定支援システムを用いた.これにより,内視鏡画像データは各施設から回収され,評価委員会に提出,中央判定を行った.

Figure 4 

系統的内視鏡観察技術の教育研修プログラムにおいて,頭頸部領域を15部位に分類した.各部位の画像を3人の内視鏡医による評価委員会で評価し,各々以下の通りに点数化した.2点:十分に評価できるきれいな画像,1点:評価するには不十分な画像,0点:撮影されていない.点数の具体例を示す.

A:2点:中咽頭左側壁は十分に評価できる.

B:1点:中咽頭右側壁は十分に伸展されていない.

C:1点:喉頭蓋舌面に焦点が合っていない.

D:1点:右梨状陥凹は遠景像のみである.

E:1点:右梨状陥凹は粘液に覆われている.

F:1点:左梨状陥凹は内視鏡レンズの汚れにより十分に評価できない.

評価項目

主要評価項目は,教育研修前(A群)と教育研修後(B群)での病理学的に診断されたHNSCCの検出割合の比較とした.副次評価項目として,内視鏡画像の質,頭頸部検査時間,内視鏡によるHNSCC診断と生検結果の陽性的中割合(PPV)を研修前後で比較した.

症例数の計算

われわれは過去の研究において,NBIを用いた頭頸部内視鏡サーベイランス導入前後でのHNSCC検出割合は各々0.3%,3.9%であったと報告した 7.そのため本研究の症例数としては,教育研修プログラムにより4%以上のHNSCC検出割合の向上を示す必要があると判断した.研修前のHNSCC検出割合を1%,研修後を5%とし,有意水準を片側5%,検出力を80%とした場合,必要症例数は合計502例と計算された.よって,除外症例が出る可能性も考慮し,最終的な必要症例数は550例とした.しかし,倫理委員会の審査中や研究開始直後に,18施設のうち7施設で初学内視鏡医が施設から異動となり,以後の研究に参加できなくなったため,症例数を縮小せざるを得なかった.

統計解析

連続変数は平均値と標準偏差もしくは中央値で示した.連続変数の比較にはMann-Whitney U検定,Student’s t検定を用いた.カテゴリーの分析,割合の比較はFisherの正確確率検定を用いた.すべての検定について両側検定で報告され,有意水準をP値<0.05とした.全統計解析はEZR(自治医科大学,埼玉医療センター)により実施したが,EZRとはR(R Foundation for Statistical Computing, version 2.13.0)のグラフィカルユーザーインターフェースのことである.

Ⅲ 結  果

患者背景

2016年5月から2017年2月までに330症例が登録され,181症例が教育研修前(A群)に,149症例が教育研修後(B群)に頭頸部内視鏡サーベイランスを施行された.両群に登録された患者の臨床的特徴をTable 1に示した.両群間で,性別,年齢,飲酒歴,喫煙歴,頭頸部癌の既往歴,食道多発ヨード不染に有意差は認めなかった.ESCC既往の患者の割合はB群(79%)と比較してA群(88%)で有意に高かった(P=0.025).

Table 1 

食道癌と診断された患者および病変の特徴.

内視鏡検査

Table 2に使用した前投薬,使用した内視鏡,内視鏡ビデオシステム,有害事象を示した.A群とB群において,それぞれ133症例(73%),129症例(87%)が前投薬として鎮痛薬の投与を受けた(P=0.004).また,それぞれ22症例(12%),8症例(5%)が鎮静剤の投与を受けた(P=0.034).ハイビジョン画質の内視鏡(GIF-H290Z,GIF-H260Z,GIF-HQ290,GIF-H290,GIF-H260;オリンパス.EG-590WR;富士フイルム)はA群で167症例(93%)に,B群で147症例(99%)に使用された(P=0.008).内視鏡検査に伴う重篤な有害事象はいずれの群でも発生しなかった.

Table 2 

使用した前投薬,使用した内視鏡システム,有害事象.

内視鏡検査の評価項目

両群とも9病変が生検施行されており,A群では9病変が,B群では8病変が内視鏡的にHNSCCと疑われた.B群での残り1病変はbasal cell hyperplasiaと疑われた.これらの病変のうち,両群とも3病変が病理学的にHNSCCと診断された.それゆえ,両群間の病理学的に診断されたHNSCCの検出割合に有意差を認めなかった(A群:1.7%,B群:2.0%,P=1.000;Table 3).内視鏡によるHNSCC診断のPPVについても有意差を認めなかった(A群:33.3%,B群:37.5%,P=1.000). 頭頸部検査時間の平均±標準偏差はA群で157±71秒であり,B群で174±109秒であり,有意差は認めなかった(P=0.085;Table 4).内視鏡画像の質の平均±標準偏差はA群で25.04±5.47点であり,B群で27.01±4.35点であった(P<0.001).ハイビジョン画質の内視鏡使用症例では,A群で25.48±5.11点であり,B群で27.15±3.93点であった(P=0.0015).

Table 3 

病理学的に診断されたHNSCCの検出割合とHNSCC診断の陽性的中割合.

Table 4 

検査時間と頭頸部領域の内視鏡画像の質.

Ⅳ 考  察

本研究は頭頸部領域の系統的内視鏡サーベイランス方法に関する教育研修の有用性を評価した初めての研究である.われわれは初学内視鏡医によるHNSCC検出割合と内視鏡画像の質を,教育研修前後に分けて評価した.HNSCC検出割合は有意差を認めなかったが,内視鏡画像の質は研修後に有意に改善した.内視鏡画像の質が改善し,さらに経験症例数を重ねることで,初学内視鏡医の診断能と癌検出割合も向上する可能性がある.

今回の研究では,食道癌患者におけるHNSCC検出割合が過去の報告と比較して低値であった.今回の研究の設定がこの乖離の要因と考えられる.過去の報告ではハイボリュームセンターに選択的に紹介された患者に対して,熟練した内視鏡医により多くの検査が行われた.一方,今回の研究では一般市中病院も含まれ,すべての検査が初学内視鏡医により行われており,初学内視鏡医の診断能や観察技術は熟練した内視鏡医と比較して低いためと考えられた 9.本研究の評価項目はHNSCC検出割合と内視鏡画像の質の比較としていたが,本研究のもう一つの重要な目的は若手内視鏡医を教育することであった.教育研修を行うことで,若手内視鏡医の診断能と技術は向上するはずである.

内視鏡画像の質は研修前後で有意に向上した.頭頸部領域の部位別に関しては,口蓋弓,中咽頭後壁,中咽頭左側壁,喉頭蓋谷,右梨状陥凹において特に内視鏡画像の質が向上した.これらの部位は,観察時に患者に発声してもらうなどの検査における特有のテクニックを用いることで,より明確に評価できる部位である.過去の報告では,頭頸部癌の発生部位として梨状陥凹,下咽頭後壁,中咽頭側壁の頻度が高いと報告されており 6),10,研修後には,これらの好発部位をより詳細に評価することができることが示唆された.教育研修後は検査時間がわずかに長い傾向にあったが,このことから,内視鏡医は研修後に頭頸部領域をより注意深く観察評価していたことが示唆された.

内視鏡画像の質の向上は教育研修だけでなく,ラーニングカーブによっても達成されると考えられる.内視鏡検査における技術・能力に関するラーニングカーブについてはいくつかの報告がある.Xueら 11は,初学内視鏡医は食道腫瘍性病変に対するNBI拡大観察診断を容易に速やかに学習でき,2時間の教育研修を受けることで熟練した内視鏡医と同等の診断能まで上昇したと報告している.Żurekら 12は,耳鼻咽喉科病変におけるNBIを用いた内視鏡観察診断のラーニングカーブを検討しており,病変評価の学習過程でプラトーに到達するには,65-70症例の経験が必要と報告している.Patelらは,NBIを用いた微小大腸ポリープの組織学的評価の学習に関する研究を行った.彼らは,NBI評価による腫瘍非腫瘍の正診率が90%に至るまでには,平均49症例のビデオ学習が必要と報告している.さらに,その学習効果は12週後も維持されていた 13.診断能の獲得については,新規に獲得された診断技術は短期間でも効果があり,12週後も維持されている可能性はある.一方,手技の確立としては一定の症例件数が必要である.今回の研究では,研修期間を3カ月間と規定したが,研修期間内に施行する症例数については規定しなかった.そのため,観察手技の確立が不十分であり,頭頸部癌の検出割合が向上しなかった可能性があり,これが本研究の限界でもある.

今回の研究のほかの限界としては,研修前後で登録された症例数が少なかったことと,ばらつきがあったことである.われわれは550症例の登録を予定していたが,多くの若手医師は研修の初期数年で診療科のローテーションや病院の異動が要求され,参加医師の数人は研究期間中に,消化器科や参加施設から異動したため,予定登録数に到達するのが困難であった.さらに,われわれは日常診療に則した研究結果を得るために,拡大内視鏡の使用については厳格な規定を行わず,細径内視鏡や非ハイビジョン画質の内視鏡の使用を許容した.それによって,過去の研究 3),4と比較して本研究での検出割合が低くなった可能性がある.

前投薬の厳格な規定を行わなかったことによる,研修前後での使用薬剤の違いについて言及しておく必要がある.研修プログラムを受ける前では,初学内視鏡医は頭頸部領域の内視鏡観察技術に対して自信がないために,検査中の鎮静目的にベンゾジアゼピンを含む薬剤を使用する傾向にあった.教育研修プログラムでは,患者の苦痛を軽減する目的でペチジン塩酸塩を含む鎮痛剤の使用することの有用性について教育した.患者を覚醒状態にしておくことで,術者は患者に発声してもらうことが可能となり,梨状陥凹をより視認できるようになる 14.それゆえ,ペチジン塩酸塩を主体とした鎮痛剤は研修後のB群でより多く使用されていた.しかし,検査時間については,有意差は認めなかった.

癌の診断能が向上するかについての研修プログラムの有用性を明らかにするためには,症例数を増やし,研修期間を延ばし,同じ内視鏡システムを用いた多施設でのさらなる研究が必要である.そのうえ,ESCCを含む上部消化管癌に対する人工知能補助下診断など医療機器技術に関する研究も報告されている 15.これらの革新によって,頭頸部癌の内視鏡診断は将来さらに向上するかもしれない.しかしながら,質の高い画像を適切に撮像する技術を向上させるために初学内視鏡医に対して教育を行うことは,患者に対してより良い内視鏡診療を提供するためには重要なことである.

Ⅴ 結  論

今回の研究では,系統的内視鏡観察技術に関する教育研修プログラム受講後,ESCC患者に対するNBIを用いたHNSCC検出割合は上昇しなかったが,内視鏡画像の質は有意に向上した.

謝 辞

本研究に参加いただいた患者家族に感謝申し上げます.また,この研究に参加いただいた治験責任医師や治験コーディネーターの方々に感謝申し上げます.データ収集援助に関して,女屋博昭先生(国立がん研究センターがん対策情報センターがん医療支援部画像診断コンサルテーション推進室)に深謝申し上げます.本研究に参加いただいた以下のご施設に感謝申し上げます.東京慈恵会医科大学付属柏病院 消化器内科,東邦大学医療センター佐倉病院 消化器内科,帝京大学ちば総合医療センター 消化器内科,千葉市立海浜病院 消化器内科,新東京病院 消化器内科,順天堂大学医学部付属浦安病院 消化器内科.

本論文の内容は2018年6月にワシントンD.C.で開催された米国消化器週間(DDW2018)において発表した.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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