GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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2020 Volume 62 Issue 8 Pages 1519-1560

Details
要旨

日本消化器内視鏡学会は,新たに科学的な手法で作成した基本的な指針として,「大腸内視鏡スクリーニングとサーベイランスガイドライン」を作成した.大腸がんによる死亡率を下げるために,ポリープ・がんの発見までおよび治療後の両方における内視鏡によるスクリーニングおよびサーベイランス施行の重要性が認められてきている.この分野においてはレベルの高いエビデンスは少なく,専門家のコンセンサスに基づき推奨の強さを決定しなければならないものが多かった.本診療ガイドラインは,20のclinical questionおよび8のbackground knowledgeで構成し,現時点での指針とした.

[1]はじめに

大腸内視鏡検査を安全かつ確実に実施するためには,基本的な指針が必要である.これまで,大腸ESD/EMRガイドライン 1は刊行されているが,大腸内視鏡スクリーニングおよびサーベイランスに特化したガイドラインはなかった.そこで,日本消化器内視鏡学会ガイドライン委員会は,そのための内視鏡ガイドラインを,科学的な手法に基づいた基本的な指針となるものとして新たに作成することを決定した.本ガイドラインは,大腸内視鏡スクリーニングおよびサーベイランスを適切に行うことが目的である.そのために,これまでに利用可能なエビデンスを整理・解釈し,個々の患者の価値観を踏まえたうえでの適切な臨床判断を行うための推奨を提供する.

作成方法は,近年行われており国際的に標準とされているevidence based medicine(EBM)の手順に則って行った.具体的には「Minds診療ガイドライン作成の手引き 2014」 2に基づいたガイドライン作成を心がけた(Table 1).執筆の形式は,clinical question(CQ)形式とした.なお,この領域におけるレベルの高いエビデンスは少なく,専門家のコンセンサスを重視せざるを得なかった.本ガイドラインが内視鏡による大腸内視鏡検査によるスクリーニングおよびサーベイランスでの有用な指針となることを期待する.

Table 1 

推奨の強さとエビデンスレベル.

[2]本ガイドラインの作成手順

1.委員

日本消化器内視鏡学会ガイドライン作成委員として消化器内視鏡医9名が作成を委嘱された.また,評価委員として,消化器内視鏡医4名および消化器外科医でMinds診療ガイドラインの専門家1名が評価を担当した(Table 2).

Table 2 

大腸内視鏡スクリーニングとサーベイランスガイドライン作成委員会構成メンバー.

2.推奨の強さとエビデンスレベル,ステートメント

作成委員により,[Ⅰ]で重要な基本的知識(background knowledge:BK)を7つ設定した.[Ⅱ]大腸内視鏡によるスクリーニング,[Ⅲ]大腸内視鏡検査の実際(Ⅲ-1 挿入・観察・診断,Ⅲ-2 治療,Ⅲ-3 サーベイランス,その他),[Ⅳ]展望の4項目を挙げ,それぞれの項目について,CQを作成した.CQ1で全大腸内視鏡検査(total colonoscopy:TCS)スクリーニングの定義をまず確定し,それに従い各CQの内容を議論した.評価委員会の評価を参考に修正を加え8つのBKと21個のCQとなった(最終段階で,治療に関する1個のCQについては当ガイドラインの目的からは外れると判断したため,CQから除外し,参考項目として掲載することとなった.したがって,最終的には8つのBKと20個のCQの収載となった).

そして,各CQに対して,PubMedおよび医学中央雑誌にて1983年から2018年5月までの期間で,系統的に文献検索を行った.不足の文献に対してはハンドサーチも採用した.検索した文献を評価し必要な文献を採用し,各CQに対するステートメントと解説文を作成した.そして,作成委員は各担当分野の各文献のエビデンスレベルおよびステートメントに対する推奨の強さとエビデンスレベルを「Minds診療ガイドライン作成の手引き2014」 2に従って設定した.

作成されたステートメントと解説文を用いてCQ形式のガイドラインを作成し,ステートメント案に対して,作成委員9名により修正Delphi法による投票を行った.修正Delphi法は,1-3:非合意,4-6:不満,7-9:合意,として7以上のものをステートメントとして採用した.6点以下の評価がある場合はディスカッションを行いステートメントあるいは推奨度を修正し,7点以上となるまで投票を繰り返した.完成したガイドライン案は評価委員の評価を受けて修正を加えた後,学会会員に公開され,パブリックコメントを求めたうえで,その結果に関する議論を経て本ガイドラインが完成した.

3.対象

(1)本ガイドラインの利用者として想定しているのは,消化器内視鏡診療に関わる医療従事者である.(2)本ガイドラインの介入対象は,大腸内視鏡スクリーニングおよびサーベイランスを受ける患者・市民である.ガイドラインはあくまでも標準的な指針であり,個々の患者の意志,年齢,合併症,社会的状況,施設の事情などにより柔軟に対応する必要がある.

[3]本論文内容に関連する著者の利益相反

本ガイドライン作成委員,評価委員の利益相反に関して各委員には下記の内容で申告を求めた.

1.経済的利益相反

(1)本ガイドラインに関係し,委員または委員と生計を一にする扶養家族が個人として何らかの報酬を得た企業・団体について:役員・顧問職(100万円以上),株(100万円以上),特許等使用料(100万円以上),講演料等(50万円以上),原稿料等(50万円以上),研究費(個人名義100万円以上),その他の報酬(100万円以上).

斎藤 豊(講演料:オリンパス,富士フイルム,武田薬品工業,研究費:スリー・ディー・マトリックス,日本製薬,オリンパス,カイゲンファーマ),三澤将史(講演料:オリンパス),山本博徳(講演料:富士フイルム,富士フイルムメディカル),藤本一眞(講演料:ツムラ,EAファーマ,アストラゼネカ,第一三共),井上晴洋(特許使用料:オリンパス,講演料:オリンパス,武田薬品工業)

(2)本ガイドラインに関係し,委員の所属部門と産業連携活動(治験は除く)を行っている企業・団体について:寄附講座(100万円以上),共同研究・委託料(100万円以上),実施許諾・権利譲渡(100万円以上),奨学寄附金(100万円以上).

山本博徳(寄付講座:富士フイルム,富士フイルムメディカル),藤本一眞(奨学寄付:アストラゼネカ,第一三共,アステラス,武田薬品工業,EAファーマ,旭化成メディカル),井上晴洋(奨学寄付:オリンパス,ボストン・サイエンティフィック ジャパン,富士フイルムメディカル)

2.学術的利益相反

推奨の強さの決定に際し,CQごとに委員全員から学術的COIの申告を受け,学術的COIありの場合は投票を棄権するなどの対応を行った.

[4]資金と改訂

本ガイドライン作成に関係した費用は,日本消化器内視鏡学会によるものであり,製薬メーカーや医療機器メーカーからの資金提供はまったく受けていない.

本ガイドラインは当委員会で今後も普及活用に向けて積極的な活動を行い,その評価を基に約5年後の改訂を予定している.

[5]大腸内視鏡スクリーニングとサーベイランスガイドライン

[Ⅰ]重要な基本的知識(background knowledge)

■BK 1:大腸がんの疫学

ステートメント:

大腸がん罹患数・死亡数は増加傾向にあり,いずれも75歳以上の高齢者の比率が増加し続けている.年齢調整死亡率は1990年代後半から漸減してきたが,近年は横ばいの状態である.

解説:

大腸がん死亡数・年齢調整死亡率

1960年代は結腸がんに比して直腸がんが多かったが,1980年頃にその比率が逆転した.2010年以降の死亡データでは,全大腸がんの2/3以上を結腸がんが占めている.国立がん研究センターがん対策情報センターの報告によると,年間大腸がん死亡数は5万人を超え,女性では大腸がん死亡数が第1位となっている(男性は肺がん,胃がんに次いで第3位)(Table 3 3)~5.特に75歳以上の高齢者の死亡が50%以上を占め(男性:53%,女性:69%),その比率は増加し続けている.一方,年齢調整死亡率でみると,1990年代後半から大腸がん死亡率は漸減してきたが(1995~2017年の間で,18.5→16.9→15.8人/10万人,男性では24.4→22.1→20.5人/10万人,女性では14.1→12.7→11.8人/10万人),近年はほぼ横ばいとなり,米国や英国のような明らかな減少傾向はみられない.がん(悪性新生物)全体に占める割合からみると,2017年には13.6%(男性:12.4%,女性:15.3%)を大腸がんが占めており,都道府県別にみると岩手県の16.5%を筆頭に,青森県の16.1%,秋田県:15.3%,栃木県:14.8%と,全体として東日本では北関東以北でその割合が高く,西日本では岡山県:11.6%,大分県:11.8%,奈良県:11.8%と11~13%の低い県が多い傾向を示している.

Table 3 

日本のがん死亡者数(2017年データ.文献3を基に作表).

大腸がん罹患数・年齢調整罹患率

2016年に開始された「がん登録等の推進に関する法律」に基づく全国がん登録の罹患集計報告によると 6,2016年の1年間に大腸がんと診断された患者数は,男性8万9,641人,女性6万8,476人(性別不詳10例を含む)の合計15万8,127人(がん全体の15.9%)であった.以下は,胃がん(13万4,650人,13.5%),肺がん(12万5,454人,12.6%)の順であった.男性では胃がん(9万2,691人,16.4%),前立腺がん(8万9,717人,15.8%)に次いで大腸がんは第3位(8万9,641人,15.8%),女性では乳がん(9万4,848人,22.1%)に次いて大腸がんは第2位(6万8,476人,16.0%)であり,胃がん(4万1,959人,9.8%)がそれに続いた(Table 4).年齢調整罹患率でみると,大腸がんは2005年49.1人/10万(男性:63.3人,女性:37.4人/10万)から5年後の2010年では49.7人/10万(男性:64.4人,女性:37.3人/10万)とほぼ横ばいであったが,2015年には54.1人/10万(男性:68.8人,女性:41.5人/10万人)と増加している(Table 5).罹患の年齢分布では,死亡と同様,2005年罹患では大腸がんの37%(男性:32%,女性43%),2014年罹患では42%(男性:38%,女性49%)が75歳以上であり,1990年の26%(男性:23%,女性30%)と比べて,罹患年齢の高齢化が継続的に進んでいる.

Table 4 

日本のがん罹患者数(2016年データ.文献6を基に作表).

Table 5 

大腸がんの年齢調整罹患率(文献34を基に作表).

大腸がん生存率

地域がん登録から推計された1997~1999年→2006~2008年診断例の大腸がん[粘膜内癌(Tis)は除く]の5年相対生存率は,64.6%→67.5%(結腸:65.8%→67.8%,直腸:62.5%→67.0%)で,男性:66.2%→68.9%,女性:62.4%→65.8%と改善している 7.また,大腸癌研究会・全国登録のデータ(2000~2004年症例)によると 8,Stage別にみた累積5年生存率は,Stage 0:94.0%,Stage Ⅰ:91.6%,Stage Ⅱ:84.8%,Stage Ⅲa:77.7%,Stage Ⅲb:60.0%,Stage Ⅳ:18.8%であり,リンパ節転移および遠隔転移のない段階での発見・治療により,十分な予後が期待できることが示されている.

■BK 2:大腸がんの一次予防

ステートメント:

日本人における大腸がんの一次予防策として,節酒,運動,適正体重の維持が挙げられる.多量の加工肉・赤身肉の摂取や喫煙を避け,食物繊維やカルシウムの摂取に努めることも有用な一次予防策の可能性がある.

解説:

これまで様々な食習慣,生活習慣因子について,大腸がん発生との関連が検証されてきたが,その中で,「加工肉」,「過量のアルコール」,「肥満」,「高身長」が確実な大腸がん危険因子として,そして「運動」が確実な大腸がん抑制因子として国際的に受け入れられている 9.それらに加えて,大腸がん危険因子である可能性が高いものとして「赤身肉」が,大腸がん抑制因子である可能性が高いものとして「食物繊維」,「全粒穀物」,「乳製品」,「カルシウム」が国際的に知られている 9

日本人対象のコホート研究の結果に目を向けると,上記の中で,「過量のアルコール」,「肥満」,「運動」と大腸がんの関連性は日本人でも確実,もしくはほぼ確実とされ,「加工肉」,「赤身肉」,「食物繊維」,「カルシウム」についても大腸がんとの関連の可能性があると考えられている 10)~16.一方,「高身長」などはデータが不十分な状況である 11.その他に,「喫煙」が直腸がん発生の危険因子の可能性があるという報告がある 17

以上より,現段階での,日本における大腸がん一次予防策としては,節酒,運動,適正体重の維持が第一に推奨される.これらに加えて,多量の加工肉や赤身肉の摂取を避けること,喫煙しないこと,食物繊維やカルシウムの摂取に努めることも有用な可能性のある一次予防策として推奨されうる.

このような一次予防に加えて,近年では薬剤による大腸がん化学予防も期待されている.その中で特に,アスピリンに関しては,大腸腺腫や大腸がんの発生を抑制するという報告が海外より複数出ている 18),19.日本からもアスピリンによる大腸腺腫発生の抑制効果が報告されている 20.しかし他方で,海外における健常高齢者を対象とした試験にて,大腸がんを含めたがん死亡がアスピリン内服群において非内服群よりも多かったという,これまでと逆の結果も近年報告されており,さらなる検証を要する 21.現在,日本人におけるアスピリンの大腸がんを含めた大腸腫瘍に対する抑制効果を検証するとともに,大腸腫瘍予防のためにアスピリンを用いるべき集団を特定することを目的とした新たな試験[大腸腫瘍患者へのアスピリン(100 mg/day)による発がん予防大規模臨床試験(J-CAPP Study Ⅱ)]が実施中であり,その結果が待たれるところである.

■BK 3:日本における大腸がん検診の現状

ステートメント:

日本では40歳以上を対象とした便潜血検査免疫法(2日法・逐年)による対策型検診が市区町村単位で実施されているが,検診受診率および精検受診率の低さが課題である.

解説:

日本では1992年より,40歳以上を対象とした便潜血検査免疫法(2日法)による逐年の大腸がん検診が対策型検診として開始となり,2005年に「有効性評価に基づく大腸がん検診ガイドライン」が作成されている 22.本ガイドラインでは,大腸がん検診による有効性(死亡率減少効果)を明らかにするため,新しい知見を含めた関連文献の系統的総括を行い,各検診方法の死亡率減少効果と不利益に関する科学的根拠を示しながら,集団および個人を対象とした大腸がん検診として実施の可否を推奨度として総括している.

便潜血検査(化学法・免疫法)については,欧米で行われたランダム化比較試験(RCT)や症例対照研究とともに,本邦における症例対照研究でも,同様に大腸がんの死亡率減少効果を示したことから推奨グレードA(対策型検診,任意型検診のいずれにおいても強く推奨する)である 23)~27.他方,S状結腸鏡検査に関しては多くのRCTにより死亡率減少効果が証明され 28)~32,TCSについても,近年欧米のコホート研究や症例対照研究により罹患率・死亡率減少効果が報告されているものの 33)~37,2005年以降ガイドラインの見直しが実施されておらず,いずれも推奨グレードC(任意型検診では十分な説明のもと使用可能であるが対策型検診では推奨しない)のままである.

「有効性評価に基づく大腸がん検診ガイドライン」では,実施体制を考慮して,集団を対象とした対策型検診と個人を対象とした任意型検診の両者を対象とし実施の可否を推奨度として示している(Table 6 22.対策型検診は,地域住民のみが対象ではなく,居住地域や職域などの一定条件を満たした集団が該当する.その実施に際し,検診の対象となる受診者名簿が完備され,それに基づく体系的な受診勧奨や追跡調査が行われる体制が整備されることが望ましい.一方,任意型検診は,個人の健康改善を目的とし,主として人間ドックなどで行われている.任意型検診は,米国におけるopportunistic screeningに相当し,個人の死亡リスクの減少を目的としている.このため,検査の感度が高いことが重視され,特異度は問題とならない場合が多く,不利益の抑制が困難な場合もある.任意型検診であっても,不利益を最小化することを念頭に,がん検診に関するインフォームド・コンセントと,安全性の確保や精度管理が必要である.

Table 6 

実施体制別大腸がん検診の推奨レベル(文献22を一部改変).

日本では,大腸がん罹患者数・死亡者数は増加の一途を辿っているものの,年齢調整死亡率についてはほぼ横ばいの状態である.これは,便潜血検査を用いた対策型検診が寄与しているものと考えられるが,検診受診率および精検受診率の低さが課題として挙げられ,その効果としては十分とはいいがたい.一方,任意型検診として用いることが可能なTCSについては,早期発見を主目的とした場合のモダリティとして最も優れたものであることに異論はないと思われるが,対策型検診の中に組み込むことを考えた場合,いまだ多くの課題が残っている.1)TCSの安全性と質の担保,2)検査処理能力(TCSのキャパシティ),3)医療経済的側面からみた評価,4)アドヒアランス,5)TCS検診のデータベース化等についての検証と整備がこれから必要である.現在進行中のAkita Study(Akita pop-colon trial) 38),39やJapan Polyp Study 40,Japan Endoscopy Database(JED)Project 41等により,TCS検診の安全性と適正な介入時期(年齢),サーベイランスTCS間隔に関するエビデンスとTCS検診データベースの構築が進み,今後日本での対策型検診へのTCS導入に向けた具体的な議論が開始されることが期待される.

■BK 4:各国のガイドラインの紹介(スクリーニング・サーベイランス)

ステートメント:

大腸がんスクリーニングを実施している国では,便潜血検査(化学法・免疫法)が主流である.ポリープ切除後のサーベイランス間隔に関しては,米国・EUガイドラインでは,初回の大腸内視鏡検査所見に基づき,原則的にlow risk群は5~10年後,high risk群は3年後のフォローアップを推奨している.

解説:

全世界的に大腸がん(結腸・直腸がん)は増加しており,2018年の推定罹患者数は1,849,518人(全がん罹患者数の10.2%,第3位),死亡者数は880,792人(全がん死亡者数の9.3%,第2位)と報告されている 42.2003年,米国疾病管理予防センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)と米国がん協会(American Cancer Society:ACS)によりThe International Colorectal Cancer Screening Network(ICRCSN)が結成された.このICRCSNは,Organized Colorectal Cancer Screening Programs(組織型大腸がん検診プログラム)の計画・普及を推進させることを目的に結成されたinternational consortiumである.本項では,ICRCSNで実施された調査結果(2012年時点)を提示し,海外の大腸がんスクリーニングの現状を紹介する 43),44.併せて,米国・EUガイドラインを示しながら,内視鏡的ポリープ切除後のサーベイランス間隔について概説する 45)~47

まず,大腸がんスクリーニングに便潜血検査を導入している代表的な国をTable 7に示す.日本を含めたAsia-Pacific regionでは,便潜血検査免疫法(FIT)を用いたpopulation-based screeningが主流となっており,1992年,この地域では日本が先駆けて40歳以上を対象とした2日法の逐年FIT検診を開始した 48.その後,台湾,韓国,オーストラリアにて国全体のFIT検診が実施されているが,対象年齢は一律50歳以上であり台湾ではその上限を69歳と定めている.台湾では,逐年ではなく2年に1度のFIT検診(1日法)を2004年から開始し,すでにその死亡率減少効果を報告している 49.また,欧州に目を向けると,近年,便潜血検査(化学法あるいは免疫法)を用いたpopulation-based screeningを実施する国が増加しており,2015年時点で,European Union(EU)24カ国においてpopulation-based screeningを実施あるいはその準備が進行中である 50.一方,北米・南米においてpopulation-based screeningを実施しているのは,2年に1度のFIT検診(対象:50~70歳,1日法)を導入しているウルグアイのみであり,米国では各州によりその手法が異なる.

Table 7 

便潜血検査による大腸がんスクリーニングを実施している各国の状況(2012年時点;文献44を改変).

また,国全体としてTCSを大腸がんスクリーニングに用いているのはポーランドとドイツの2カ国であり(ドイツは便潜血検査とTCSの併用)(Table 8),スクリーニングTCSによる高いadvanced neoplasia発見率が報告されている一方で 51,受診率の低さ(ドイツ:55歳以上,各年次のTCS受検率は2~3%,2003~2008年の6年間の累積受検率は約13%)が指摘されている 52.なお,スクリーニングTCSの間隔は一律10年ごとである.

Table 8 

大腸がんスクリーニングに内視鏡検査を導入している各国の状況(2012年時点;文献44を改変).

日本では,Japan Polyp Study Workgroupの遡及的検討結果(“1回の完全なポリープ切除では,検査間隔を3年後に設定することの安全性が十分担保できない”という結論)に基づき 53,内視鏡的ポリープ切除後のサーベイランス間隔については一律3年以内に行うことが提案されている 54.米国およびEUのガイドラインでは 45)~47,初回のTCSにおける腺腫性ポリープの個数と最大径,病理組織診断(high-grade dysplasiaとvillous成分の有無)により,それぞれ推奨すべきサーベイランスTCSの間隔が決められている.腺腫性ポリープなしあるいは1~2個の場合にはlow risk群と判断され,5~10年後のフォローアップTCSが推奨される(EUでは10年後のTCSあるいは便潜血検査による通常のスクリーニングプログラムに戻すことも可能).一方,10 mm以上の腺腫,high grade dysplasia,villous component,3個以上の腺腫,10 mm以上の鋸歯状病変,異型のある鋸歯状病変,以上のいずれかに該当する場合は,high risk群として3年後のフォローアップTCSが推奨される.さらに,10個以上の腺腫性ポリープを切除した場合には,米国では3年以内のフォローアップTCS,EUではgenetic counsellingが推奨されている(Table 910).日本では,径5mm以下の腺腫性ポリープの取扱いが一定でないため,海外のガイドラインをそのまま適用してよいかどうかの判断は難しいが,一律3年以内のフォローアップTCSを実施することは欧米におけるhigh risk群への対応と同じであり,low risk群に対するサーベイランス間隔の見直しが課題の1つである.今後,Japan Polyp Studyの長期追跡データから,サーベイランス間隔に関する多くの知見が得られることを期待したい 40

Table 9 

米国におけるポリープ切除後サーベイランス間隔(文献45を改変).

Table 10 

EUにおけるポリープ切除後サーベイランス間隔(文献47を改変).

■BK 5:大腸内視鏡検査のquality indicator(QI)

ステートメント:

大腸内視鏡のquality indicator(QI)として3つの指標がある.

1つは腺腫発見率(adenoma detection rate:ADR)に代表される技術的なQIである.しかしながらADRは内視鏡検査受診理由やpopulationによって変動するといった問題点も指摘されている.その他の技術的因子として盲腸到達率,withdrawal time(抜去時間),腸管洗浄度などがある.

2つ目は患者安全性としての偶発症,3つ目は患者因子として快適性などがQI因子として挙げられる.

解説:

腺腫発見率(ADR)はpost-colonoscopy colorectal cancer(PCCRC)の減少のみならず 55,大腸がん死亡率減少に寄与するとされ 56),57,現時点で最も信頼度の高いQIの1つである 58),59.自覚症状のない中間危険度群における推奨ADRは男性≧30,女性≧20が推奨されている 60

一方,ADRはFIT陽性患者では高くなる 61など大腸内視鏡の受診理由によって変動することを考慮する必要があり,また,ADRのみでQIを判断すると,1人の患者で1つ腺腫を見つけたらそれで安心というゲーム的な要素を伴う危険性が指摘されている.

そこでthe mean number of adenomas per procedure(MAP) 62やthe total number of adenomas per colonoscopy(APC),the total number of adenomas per positive participant(APP),the additional adenomas found after the first adenoma per colonoscopy(ADR-Plus) 63),64,adenoma miss rate(AMR) 63),65,advanced adenomaに対するADRであるadvanced ADRなど様々なQIの意義も検討されている.

その他,病理学的なデータが集計できない施設ではADRの代わりの指標としてpolyp detection rate(PDR) 66や,近年serrated pathwayとして注目されるsessile serrated lesion(SSL)*の発見割合としてsessile serrated adenoma detection rate(SDR) 67などが提唱されているが,臨床的意義についての検討は不十分である.

その他の技術的因子として,盲腸到達率,withdrawal time(抜去時間),腸管洗浄度もQIとして報告されている.良好な前処置は見逃しのないTCSにとって重要であるがADRとの相関は関連があるとする報告と,ないとする報告がある一方,advanced ADRとは相関するとされる 68

表面型腫瘍に対するADR(flat adenoma detection rate:FDR)は前処置と相関するとする報告もあるが,欧米では表面型腫瘍の臨床的重要性が最近認識されてきたところであり,FDRの臨床的意義を日本から発信する必要がある 69),70

患者安全性としての偶発症,患者因子として快適性などがその他のQIの因子として挙げられる.日本では軸保持短縮法を用いた無痛内視鏡が開発され,CO2送気など患者快適性や安全性に考慮したTCSが広く検討されている.

* 2019年7月刊行の「WHO分類第5版」 71において『sessile serrated adenoma or polyp(SSA/P)』が『sessile serrated lesion(SSL)』に名称変更となったことを受け,本ガイドラインでも『SSA/P』を『SSL』に変更した.

■BK 6:Post-colonoscopy CRC(内視鏡後発生大腸がん)の概念と要因

ステートメント:

Post-colonoscopy CRC(PCCRC)は,大腸がんの診断がなされなかった大腸内視鏡検査後に発生した大腸がんに対し用いる.PCCRCの要因として,①適切な大腸内視鏡検査での見逃し病変,②不適切な大腸内視鏡検査での見逃し病変,③検出されたが切除されなかった病変,④不完全切除病変,⑤新規発生がんが挙げられる.

解説:

Interval colorectal cancer(中間期癌)は大腸がんが検出されなかったスクリーニング・サーベイランス検査(便潜血検査,S状結腸鏡検査を含む)後,推奨された次の検査前に診断された大腸がんと定義されているが 72,大腸内視鏡検査の質の評価の観点からは,その定義は限定的であることから2010年にpost-colonoscopy CRC(PCCRC)という概念が提唱された 73.しかし,PCCRCの定義・算出方法が報告ごとに異なることからPCCRCの発生率の比較が困難であった.その改善を図る目的で2018年にWEO(World Endoscopy Organization)からステートメントが提唱され,PCCRCは「大腸がんが検出されなかった大腸内視鏡検査後に発生した大腸がん」に対し用いること,PCCRCをinterval typeとnon-interval typeに亜分類することが推奨されている 74.PCCRCの要因として,見逃し病変・不完全切除病変・新規発生がんの3つに大別されるが,WEOステートメントではPCCRCの要因の類推を①適切な大腸内視鏡検査下での見逃し病変,②不適切な大腸内視鏡検査での見逃し病変,③検出されたが切除されなかった病変,④不完全切除病変,⑤新規発生がんの5つに分類することを推奨している.また,⑤新規発生がんと類推する際には大腸内視鏡検査から4年以上経過していることが条件となっている 74.しかし,de novo癌の存在・大腸癌取扱い規約 75において異時性が“2カ月以上の期間に診断された場合”と定義されていることを考慮すると,4年という期間の条件には検討の余地が残る.PCCRCの発生頻度は現時点で0.7~1.7症例/1,000人年と推察される 35),76.また,PCCRCの中で見逃し病変に起因するものが~50~60%,不完全切除に起因するものが~20%,新規発生がんに起因するものが~25%と類推されている 77.今後,大腸内視鏡検査の質の評価の観点からは,interval colorectal cancerではなくPCCRCを用いることを推奨する.

■BK 7:Advanced neoplasia,advanced adenomaの定義と意義

ステートメント:

Advanced neoplasiaとは,浸潤がんにadvanced adenomaを包括した概念である.Advanced adenomaは,径10 mm以上の腺腫,病理組織学的にvillousまたはtubulovillousな成分を有するもの,high-grade dysplasia[本邦の粘膜内癌(Tis)にほぼ相当]と定義される.Advanced neoplasiaはスクリーニング大腸内視鏡検査を行うにあたり発見目標とすべき病変とされ,内視鏡切除後のサーベイランス間隔を考慮するうえで重要である.

解説:

Advanced neoplasiaは,浸潤がんにadvanced adenomaを包括した概念である 51.Advanced adenomaの定義は論文により多少異なっているが,Winawerらは,径10 mm以上の腺腫,あるいは病理組織学的に絨毛構造を25%以上有するもの,high-grade dysplasia[本邦の粘膜内癌(Tis)にほぼ相当し,high grade adenomaとは異なる],あるいはearly invasive cancer(malignant polyp)を含む,と定義している 78.なお,advanced polypはadvanced adenomaと同義に使用されることもある.Advanced adenomaは異時性多発病変のhigh riskであることから 36,米国・EUのガイドラインでは内視鏡切除3年後に大腸内視鏡検査を行うことが推奨されている 45),47

[Ⅱ]大腸内視鏡による診断検査・スクリーニング

■CQ 1:通常の診断検査としてのTCSあるいはスクリーニングTCSを推奨すべき対象は?

ステートメント:

診断検査としてのTCSの適応は,①FIT陽性,②血便,③便通異常,④貧血,⑤腹痛,⑥体重減少・腹部腫瘤などで大腸がんを疑う患者,あるいは,大腸がん以外の炎症性疾患や機能性疾患を疑う場合である.これに加えて,大腸がん家族歴から遺伝性大腸がんの可能性が疑われる対象には,TCSの検討が望まれる.

上記のような有症状の患者や高リスク群以外が,スクリーニングTCSの対象である.

なお,現在,本邦では対策型検診としてFIT検診のみが用いられているため,本ガイドラインで記載する「スクリーニングTCS」には,FIT陽性に対するTCSを含むこととする.

修正Delphi法による評価 中央値:8,最低値:6,最高値:9

推奨の強さ:2 エビデンスレベル:B

解説:

一般に診断検査として患者に対して行う保険診療におけるTCSの適応は,①FIT陽性,②血便,③便通異常,④貧血,⑤腹痛,⑥体重減少・腹部腫瘤などで大腸がんを疑う患者,あるいは,大腸がん以外の炎症性疾患や機能性疾患を疑う場合である 80)~82

また,腹部症状,FIT陽性などの所見がなくとも大腸がんの家族歴,特に第一度近親者で2人以上や50歳未満の大腸がん近親者がいる場合はリンチ症候群や家族性大腸腺腫症などの遺伝性大腸がんの可能性もあり,家族が大腸がんを発症したより10歳ほど若い年齢でTCSを検討するべきであるが,本推奨の日本における妥当性は今後の検証も必要である 83),84

一方,スクリーニングTCSは,任意型検診における健常者や,有症状の患者や高リスク群以外を対象としたスクリーニング法としてのTCSである.任意型検診でTCSを推奨すべき対象を考える場合,大腸がんの危険因子を知っておく必要がある.BK2「大腸がんの一次予防」で指摘された「加工肉」,「過量のアルコール」,「肥満」,「高身長」に加え,「年齢(50歳以上)」,「大腸がんの家族歴」などが挙げられる 79

対策型検診についても,近い将来的にTCS検診を段階的に導入することが望まれ,それが可能になれば検診の効果はさらに向上すると考えられる.導入には健常者を対象とする前向き試験など信頼性の高い研究により,不利益が小さいことが示される必要がある.TCSは胃内視鏡よりも技術的に習得が困難なため,熟練した日本消化器内視鏡学会専門医による検査が望ましい.

対策型検診の対象年齢と代替案

対策型検診の開始は,本邦においては大腸癌のリスクを考慮し40歳以上となっているが,海外では50歳以上となっていることが多い 85),86.しかしながら,近年米国などでは若年の大腸がんが問題となり,検診スタート年齢の引き下げも検討されている.

年齢の上限に関して現時点では設けることは難しいが,海外では対策型検診の対象年齢は多くは50~75歳までとなっており 80)~82,今後,75歳以上の高齢者に対する対策型検診は検診のリスクとベネフィットをよく検討することが必要な時期に来ている.

高齢者の内視鏡検査には侵襲の少ない大腸CTや大腸カプセル内視鏡(CCE)なども考慮する必要があるが,対策型検診に導入するには,死亡率低下のエビデンスやcostの問題,大腸CTでは被爆,CCEでは大量の下剤などの課題もある 87.便中DNAやliquid biopsyについても現時点では対策型検診として採用するにはエビデンスが不足していると考える.

S状結腸内視鏡検査について

S状結腸内視鏡検査はRCTにより大腸がん死亡率減少のエビデンスが得られているモダリティ 28),88),89である.当然のことながらS状結腸以深の右半結腸における大腸がん罹患率・死亡率減少効果に対する効果は認められないため,安全・確実なTCSが可能であればそれが望ましい.

最近はTCSの普及・均霑化でS状結腸内視鏡検査の適応は限られるが,専門医の不足している地域などにおいては簡便性・安全性を考慮するとS状結腸内視鏡検査+注腸X線検査も第二の選択肢となる.

一方,英国など欧米や,台湾などでは死亡率減少効果,経済的効果が明らかである大腸がん検診に関しては国家プロジェクトとして推進しているが,内視鏡医のマンパワー不足が問題となっている.それを補うため英国ではナースエンドスコピストの制度を導入している.

日本でも今後ますます増えると考えられるTCSのニーズを考慮すると,専門医の計画的育成など対策を検討しておく必要がある.

■CQ 2:TCSによるスクリーニング(検診)は大腸がん死亡を抑制するか?

ステートメント:

TCSによるスクリーニングは大腸がん死亡を抑制する.

修正Delphi法による評価 中央値:9,最低値:8,最高値:9

推奨の強さ:なし エビデンスレベル:B

解説:

大腸内視鏡によるスクリーニング検査の有用性に関する検討は,大腸がん罹患・死亡を抑制することが期待され1990年代より報告されている.軟性S状結腸鏡(flexible sigmoidoscopy:FS)によるがん死亡抑制効果は後方視的なコホート研究や症例対照研究による検討で34~41% 35),88),90と見積もられ,複数のRCT・メタ解析でも26~38%のがん死亡抑制効果 28)~30),91が確認されており,十分なエビデンスがある.一方,TCSは積極的に行われるようになってからの歴史がFSに比べ浅く,現時点ではRCTなどの前向き検証によるエビデンスがない 92),93.しかしながら,FSと比べて右側結腸まで観察できること,内視鏡機器の性能向上とともに画質・解像度が向上していることから,TCSによる死亡抑制効果はFSと同等以上であることが期待される.これまでにコホート研究や症例対照研究が報告され17~88%のがん抑制効果 93)~96が報告されている.一方で大腸がん発生の抑制効果が認められなかったコホート研究もあり 97,TCSのがん死亡抑制効果についてはRCTによる前向きの評価が必要である.なお,現在国内外を含めて5つのRCT(CONFIRM study 98,COLONPREV study 99,NordiCC study 100,SCREESCO 101,Akita study 38)が実施中であり,これらの結果が待たれる.なお,スクリーニングTCSの害に関する報告は60の研究を解析したメタ解析によると出血0.08%,穿孔0.007%であり 102,日本消化器内視鏡学会が実施した全国アンケート調査によると観察のみのTCSにおける偶発症は穿孔0.005%,死亡が0.0004%と報告されている.これらの報告は後ろ向きの検討であるため,リスクについては低く見積もられている可能性がある.一方,2017年に報告されたJapan Endoscopy Database(JED)の前向きな集計結果によれば,観察のみの偶発症の頻度は0.29%であり,うち穿孔は0.03%と報告されている 103.JEDの集計結果は国内ハイボリュームセンターに限った検討であるため,さらなる前向きでの安全性評価が必要である.スクリーニングや検診でTCSを行う場合は十分に安全性を担保する必要があるが,TCSのみのリスクは低く,がん抑制効果も期待できることから,癌死抑制を目的としてTCSを実施することは許容されると考えられる.

■CQ 3:受診者因子による大腸がん検診リスク層別化は可能か?

ステートメント:

年齢,性別,大腸がん家族歴,喫煙歴,BMIなどの受診者因子を用いたリスク層別は可能である.

修正Delphi法による評価 中央値:8,最低値:8,最高値:9

推奨の強さ:2 エビデンスレベル:C

解説:

TCSによる大腸がん検診の有効性が期待される中で,TCSのキャパシティに限りがあることを考慮すると,大腸がん・大腸腫瘍を有するリスクの高い受診者を非侵襲的な方法で抽出し,そのhigh risk群に優先的にTCSを提供するという方策の確立は重要と考えられる.便潜血検査は,そのような受診者リスク層別の優れた手段であるが,他に,受診者因子を用いたリスク層別という方法も考えられる.実際に,受診者因子を用いた大腸がん検診リスク層別スコアがこれまで複数提唱されており,その中には,日本を含めたアジア太平洋地域のデータを用いて作成され,バリデーションも行われているAsia-Pacific Colorectal Screening(APCS)スコアも含まれる 104)~107.APCSスコアは,年齢,性別,第一度近親者における大腸がん家族歴,喫煙歴の4因子より構成されるスコアで,最近では,さらにBMIを加味したmodified APCSスコアも新たに提唱されている 106),107.近年の,日本人の大腸がん検診受診者データを用いた検討からも,modified APCSスコアが大腸advanced neoplasiaに対して中等度の識別能を有することが確認され,かつ,さらにそのスコアを日本人向けに修正(年齢0~3.5点,性別0~1点,大腸がん家族歴0~2点,喫煙歴0~1点,BMI 0~0.5点の計8点のスコア)することで,その識別能が向上しうる可能性も報告されている 108.しかし,このスコアを含めて,既報のいずれのスコアも大腸がん・腫瘍に対する識別能には限界があり,大腸がん検診における実際のスコア使用については,さらなる検証を要する.便潜血検査とスコアを組み合わせて使用することも,より効率よくhigh risk受診者を抽出するうえで,検証の価値があるといえる 109

■CQ 4:TCSを用いた大腸がん検診の費用対効果は?

ステートメント:

TCSを何らかの形で取り入れた大腸がん検診は,費用対効果の点で優れている.

修正Delphi法による評価 中央値:8,最低値:7,最高値:9

推奨の強さ:2 エビデンスレベル:D

解説:

大腸がん検診の中でも,特に対策型検診については,有効性,安全性の評価に加えて,医療経済学的評価も必須である.海外からは,大腸がん検診に関する,シミュレーションモデルを用いた費用効果分析の結果が多数報告されているが,いずれにおいてもTCSを何らかの形で用いる大腸がん検診実施が,検診未実施よりも費用対効果に優れるという結果が出ている 110)~114.ただし,検診プログラムの中でどのようにTCSを用いるのが最も費用対効果に優れるかについてはコンセンサスが得られていない.日本では,大腸がん検診に関する医療経済学的検討がこれまでほとんどなかったが,近年ようやく日本のデータを用いたシミュレーションモデルによる費用効果分析が行われた.その分析結果からは,最初からTCSを実施する検診法や,便潜血検査による検診を主体にしつつある一定年齢の受診者全員に一度TCSを行う検診法,といった現行の対策型検診よりも積極的にTCSを用いる方法が費用対効果の向上につながる可能性が示されている 86.優れた費用対効果を得るうえでは,受診率の向上,適切な検査間隔・サーベイランス方法の設定も重要であり,大腸がん検診法の検討と合わせてこれらの点も費用対効果の観点から考える必要がある 115.現段階では,日本における大腸がん検診の医療経済学的評価は限られており,今後さらなる検討が行われることが期待される.

[Ⅲ]大腸内視鏡検査の実際

Ⅲ-1 挿入・観察・診断

■CQ 5:推奨される腸管前処置法は?

ステートメント:

腸管前処置法として,PEG製剤(ポリエチレングリコール製剤),クエン酸マグネシウム製剤などの当日投与を推奨する.

修正Delphi法による評価 中央値:9,最低値:8,最高値:9

推奨の強さ:1 エビデンスレベル:B

解説:

1980年に米国でPEG製剤(ポリエチレングリコール製剤)が開発され 116,本邦においてもPEG製剤およびクエン酸マグネシウム製剤の当日投与が一般的で広く普及している.欧米では前処置法として4Lの経口PEG製剤が推奨されていたが,近年は患者の受容性を考慮し,前日と検査当日に内服を分けたスプリット法(split dose regimen)が推奨されている 117),118.本邦では2LのPEG製剤または1.8 Lのクエン酸マグネシウム製剤の当日内服法(one day preparation)が標準的であり,同等の洗浄効果があるとされている 119),120.これらの相違は欧米のライフスタイルおよび検査開始時間の差によるものと推察される.しかし,近年スプリット法と当日投与法の洗浄効果を比較するRCTが行われ,当日投与法のほうが洗浄効果において優れていたと報告されている 121),122.また,本邦では前日に消化管蠕動賦活薬やピコスルファートナトリウム水和物の内服を併用する工夫が行われており,その洗浄法効果や患者の受容性等において有効性が報告されている 123)~125.欧米ではこれらも前処置薬と捉え,広義のスプリット法としてその有効性が認識されるようになり 126),127.欧米の腸管洗浄法も本邦のスタイルに近づきつつある.本邦では看護師が排便状況を確認し,前処置不良であればグリセリン浣腸や腸管洗浄剤の追加内服を行い,より良い洗浄状態で検査を行う施設が多いが,これらの手法は海外でみられない本邦独自の工夫である.

他の腸管洗浄剤としてはNAP錠(リン酸ナトリウム製剤)もその剤型より患者の受容性が高く,本邦においても使用されているが 120,副作用として急性リン酸腎炎の報告があり,高齢者や腎疾患を有する患者への使用は注意が必要である 128.また,近年米国ではスプリット法でも,当日投与法としても使用可能な硫酸マグネシウムを主成分とする新しい腸管洗浄剤が使用されるようになってきている.非ランダム化比較試験においても,他の腸管洗浄剤と遜色ない効果が示され注目されており 129,本邦においても治験が進んでいる.

■CQ 6:推奨される腸管洗浄の評価法は?

ステートメント:

アロンチックスケール(Aronchick scale)を用いることが推奨される.

修正Delphi法による評価 中央値:8,最低値:7,最高値:9

推奨の強さ:2 エビデンスレベル:B

解説:

大腸内視鏡検査における腸管洗浄の目標は,病変の見逃しを減少させること,検査時間の過度な延長を減らすこと,内視鏡治療を安全に確実に施行すること,また前処置不良により生じる再検査を減少させることである 117.大腸内視鏡検査のQIとして腸管洗浄度は重要であり,欧米ではスケールを用いて評価を行い,内視鏡所見に記載することが強く推奨されている 117),126),130.いくつかのスケールが存在するが,アロンチックスケール(Aronchick scale) 131),132が最も簡便であり,日常臨床における大腸内視鏡検査時に用いることが推奨される.腸管全体の評価を,洗浄度が良い順にExcellent/Good/Fair/Poor/Inadequateの5段階で評価を行うスケールであり(Table 11),ESGE(欧州消化器内視鏡学会)のガイドラインでも推奨されている 130.過去の臨床研究では,ボストンスケール(Boston bowel preparation scale:BBPS) 133が使用されているものが多く,ASGE(米国消化器内視鏡学会)のガイドラインでは過去の研究報告に使用されている実績から推奨されているが 126,日常臨床での使用においてはやや煩雑である.臨床研究など詳細な評価を行う際には適している 134

Table 11 

Aronchick bowel preparation scale(Aronchick scaleを日本語に改変).

■CQ 7:挿入困難の被検者背景因子は?

ステートメント:

TCSにおける挿入困難の予測因子は,高齢・女性・腹部/骨盤手術歴・低BMI,前処置不良等である.

修正Delphi法による評価 中央値:8,最低値:7,最高値:9

推奨の強さ:2 エビデンスレベル:C

解説:

回盲部到達不能例の要因解析を目的としたコホート研究では高齢・女性・腹部/骨盤手術歴を有する症例で有意に回盲部到達率が低いと報告されている 135.また,回盲部到達時間延長の要因として,高齢・女性・低BMI・前処置不良がリスク因子であることがメタ解析から明らかとなっている 136.加えて,非鎮静の大腸内視鏡検査における痛みのリスク因子として,女性・40歳未満・腹部開腹歴・腹痛精査目的・痛みの予期・前回検査時の痛み・憩室炎の既往が報告されている 137.本邦においては主に中間長スコープが用いられているため,高度肥満も挿入困難の因子として挙げられている 138.TCS前にはこれらの予測因子を含めた十分な情報収集が推奨される.

硬度可変機能付き内視鏡は通常内視鏡に比し回盲部到達率を有意に改善する 139),140という報告や極細径内視鏡の使用は回盲部到達率の向上・患者の痛みの軽減に寄与するという報告 141を考慮すると,挿入困難の予測因子を有する患者に対してはこれらのスコープ使用の検討が推奨される.

回盲部到達不能例に対しては,バルーン内視鏡や極細径受動彎曲機能付きスコープの高い有用性が報告されている 142),143が,各々の施設により利用できる内視鏡機器には制限があり,患者によってはhigh vulume centerへの紹介を検討すべきである.

■CQ 8:CO2送気は患者受容性向上に寄与するか?

ステートメント:

CO2送気はTCSの受容性向上に寄与する.

修正Delphi法による評価 中央値:9,最低値:8,最高値:9

推奨の強さ:1 エビデンスレベル:A

解説:

TCSの受容性やADRの向上に寄与する可能性がある因子として,CO2送気・鎮静剤使用・鎮痙剤使用が挙げられる.

CO2とAir間で検査後の患者の不快感を評価したメタ解析は2本報告されており,いずれもCO2使用により検査中・検査後の患者の痛みは低減すると結論している 144),145.大腸内視鏡検査におけるCO2の使用は患者の受容性向上に寄与すると考えられ,使用を推奨する.CO2送気のADRに対する有用性をAir送気と比較した単施設のコホート研究では有用性は確認されていない 146

鎮静剤の使用による患者の受容性向上の有無については,TCSにおける患者の苦痛を非鎮静と意識下鎮静を比較したRCTは1本のみで,ミダゾラム群はプラセボ群に比して,患者が感じる検査の負担感は改善したが,患者の疼痛・不快感,内視鏡医の感じる大腸内視鏡検査の困難度・検査時間に有意差は認められていない 147.スクリーニング大腸内視鏡検査に対する鎮静剤使用に関するエビデンスは限られており,現時点での有用性の評価は困難である.鎮静・鎮痛剤の病変検出に関するRCTは報告されていないが,欧米の大腸がんスクリーニングデータベースを用いた横断研究では,鎮静剤・鎮痛剤の使用の有無はADRに影響を与えないという報告 148),149と,鎮静剤・鎮痛剤の使用頻度の低下によりADRが低くなるという報告 150が混在しており,一定の見解が得られていない.

鎮痙剤使用による大腸内視鏡検査の痛みの軽減や受容性の向上に対する有用性は,現時点で一定の見解が得られていない 151)~154.加えて,複数のメタ解析により鎮痙剤使用によりADRは向上しないと報告されている 155)~157

なお,英国や北欧諸国ではendoscope position detecting unit(UPD)の使用がTCSの受容性向上に寄与するという報告から,UPDの使用を推奨している.

■CQ 9:スクリーニング大腸内視鏡検査における適正な観察時間は?

ステートメント:

病変がない場合でも観察時間は6分以上を提案する.

修正Delphi法による評価 中央値:9,最低値:8,最高値:9

推奨の強さ:2 エビデンスレベル:C

解説:

2006年にSimmonsらは大腸内視鏡抜去時間とポリープの検出割合が相関する可能性を報告し 158,Barclayらは6分以上の抜去時間で有意に腺腫検出割合が高くなる可能性を報告した 159.その後,Barclayらは8分の抜去時間をかけて注意深い内視鏡観察を行うことを規定することで,病変の検出割合が上がると報告した 160.その後,病変の検出割合をエンドポイントとした報告がいくつかみられるが,抜去時間が病変検出割合に影響するとした報告と 161)~163,影響しないとした報告 164)~166の相反する論文がある.2015年にShaukatらは短い大腸内視鏡抜去時間はその後の大腸浸潤がんの発生割合と関連すると報告した 167.また,2017年にKumarらは4人のエキスパートの大腸内視鏡を3分の抜去時間と6分の抜去時間に割り付けて病変の検出割合を検討したRCTを報告しており,6分の抜去時間の群において病変の見逃しが少なく,見つかった腺腫の数が多かったと報告している 168.なお,抜去時間に関する論文の多くは海外からのものであるが,本邦からも6分以上の抜去時間の有用性を示す報告があり 169,また,最近の本邦からの病変検出についてのRCTにおける平均抜去時間は8~10分程度であることを考えると 69),70),170),171,病変がない場合でも観察時間は少なくとも6分以上が望ましいと考えられた.

■CQ 10:大腸内視鏡検査において光デジタル法は大腸病変の検出に有用か?

ステートメント:

光デジタル法は白色光観察と同等の大腸病変検出能である.

修正Delphi法による評価 中央値:8,最低値:6,最高値:9

推奨の強さ:2 エビデンスレベル:B

解説:

光デジタル法とは画像強調観察(image enhanced endoscopy:IEE)のうち,通常光のスペクトルの一部あるいは通常の白色光と異なる光源を使用し,得られた信号をビデオプロセッサー内で特殊な信号処理を加え画像強調を行う方法で,NBIやBLIが代表的である 172.新しい高画素で明るい光源システムに改良されたNBI(LUCERA ELITE)やautofluorescence imaging(AFI),blue laser imaging(BLI)などの新規モダリティでは白色光観察と比較し病変検出割合の向上が報告され,IEEが有用な可能性がある 69),170),171),173),174.なお,従来のNBI観察(LUCERA 260,EXERA 2)は白色光観察と比較し病変指摘率に差を認めなかったことが複数のメタ解析で報告されている 175)~177.また,インジゴカルミン散布による色素観察,先端フードの使用は病変検出割合を有意に向上させることが報告されている 177),178

■CQ 11:スクリーニング大腸内視鏡検査において上行結腸・直腸内反転すべきか?

ステートメント:

反転操作は必須とはいえないが,反転操作あるいは順方向観察のいずれかでの反復観察を提案する.

修正Delphi法による評価 中央値:8,最低値:7,最高値:8

推奨の強さ:2 エビデンスレベル:C

解説:

反転操作によりひだ裏病変の視認性が高まることが期待され,上行結腸での反転操作の有用性が報告されている 179)~184.しかし,反転操作が有効であるのか,反転により繰り返しの観察を行っていること自体が有用なのかは議論があるところである 185.2つのRCTとそれらのメタ解析で上行結腸反転操作と順方向の反復観察での病変の検出割合に有意な差はなかったと報告されている 186)~188.また,順方向の反復観察は1つのRCTにて単に時間をかけて抜去するよりも病変検出割合が高いことが示されている 189.以上から,上行結腸の反転観察は必須とはいえないが,反転あるいは順方向による反復観察は病変検出のために有効である可能性が高い.なお,直腸では重要病変はほぼ順方向で見えているという報告があるが 190,反転操作のみで検出可能な病変も存在し 191,直腸での反転操作により肛門部や下部直腸での病変の視認性が上昇する可能性も高い.ただし,反転操作には稀ではあるが腸管損傷の危険性があるため 192),193,無理な操作は避けることが望ましい.

■CQ 12:スクリーニング大腸内視鏡検査を行う際に,拡大内視鏡を使用すべきか?

ステートメント:

拡大観察は大腸病変の質的診断に有用であり,スクリーニング大腸内視鏡検査を行う際に拡大内視鏡の使用を提案する.

修正Delphi法による評価 中央値:9,最低値:6,最高値:9

推奨の強さ:2 エビデンスレベル:C

解説:

スコープの拡大機能の有無で通常観察時に視野角・観察深度などの観察性能に差がないため,病変の拾い上げ診断の観点からは拡大内視鏡は必須でない.なお,スコープの改良により拡大機能の有無で挿入性能,操作性はほぼ同等である.ただし,大腸病変に対する質的診断(非腫瘍/腫瘍の鑑別,組織診断・深達度診断)において,通常内視鏡観察に拡大観察を加えることでその感度・特異度・正診率が向上することが利点である 194)~197

Ⅲ-2 治療

■CQ 13:内視鏡的ポリープ切除は大腸がん死亡を抑制するか?

ステートメント:

腫瘍性病変に対する内視鏡切除は大腸がん死亡を抑制するため推奨する.

修正Delphi法による評価 中央値:8,最低値:6,最高値:9

推奨の強さ:1 エビデンスレベル:A

解説:

1970年代より米国で実施されたコホート研究(National Polyp Study) 198や,Nishiharaら 35のコホート研究により,TCS下に腫瘍性病変を内視鏡的切除することで,43~90%のがん罹患を減少させることが報告されている 199.その後National Polyp Studyでは米国National Cancer InstituteのThe Surveillance, Epidemiology, and End Results(SEER)Programをヒストリカルコントロールとして53%のがん死亡を減少させる効果が確認され 200,スイスのコホート研究 95でも88%のがん死亡減少効果が報告されている.以上のことから,腫瘍性病変を内視鏡下に切除することにより,大腸がん罹患・死亡に関して一定の抑制効果があると考えられる.一方で,TCSによる介入で,外科的治療によって根治可能な段階の浸潤がんが早期に発見され,結果としてがん罹患・死亡抑制に貢献している可能性もある.つまり,腫瘍性病変の内視鏡切除のみが大腸がん罹患・死亡の抑制に寄与しているわけではない可能性にも留意する必要がある.内視鏡的切除(ポリペクトミー,EMR)の偶発症については出血0.05~1.8% 201)~206,穿孔0.04~1.1% 202)~206とされ,これら偶発症に伴う死亡率は0~0.0009% 202)~204),207と報告されている.

一方で,本邦では5mm未満の陥凹型を除く微小腺腫を切除せず経過観察する,いわゆるセミクリーンコロンという概念が容認されている.これは,非陥凹型の微小腺腫は増大が緩徐であったり 208),209,担癌率が低いことが知られていたことに起因する.微小腺腫を切除せずに経過観察してもadvanced adenomaなどの発生率が有意に増加しない 210)~212ことも報告されているが,長期間の経過観察では5mm以下の腫瘍性病変がadvanced adenomaに移行する例も報告されており 209),213,微小腺腫を経過観察した場合でも切除した場合と同様のがん罹患・死亡の抑制効果が得られるか否かに関する十分なエビデンスがないことに留意するべきである.

■CQ 14:鋸歯状病変(過形成性ポリープ,TSA,SSL)は切除すべきか?

ステートメント:

Traditional serrated adenoma,および10 mm以上もしくはdysplasiaの併存を疑うsessile serrated lesionは切除を提案する.

修正Delphi法による評価 中央値:8,最低値:7,最高値:9

推奨の強さ:2 エビデンスレベル:C

解説:

鋸歯状病変は過形成ポリープ(HP),traditional serrated adenoma(TSA),sessile serrated lesion(SSL)に分類されている 71.近年大腸がんの遺伝子解析による検討から鋸歯状病変由来の癌化症例が最大で20~30% 214),215あるとの報告がある.一方,鋸歯状病変の担癌率はHP:0~0.1%,TSA:0.7~1%,SSL:0~3.1%であると報告されている 216)~219.SSLやTSAの担癌率は,通常の腺腫性病変の担癌率(6~8.2%)と比べると低いが,malignant potentialをもった病変であると認識されている 216),217.なお,20 mm以上のSSLを対象とした症例対照研究では32.4%にcytological dysplasiaがあり,3.9%で癌化していたと報告され,癌化のリスク因子として高齢,サイズ,Ⅲ型・Ⅳ型pit pattern併存,病変内の隆起成分が挙げられている 220.一方で621例のSSLを検討した症例対照研究では,10 mm以上の病変にしかがんの併存を認めなかったことから,10 mm以上を担癌のリスク因子として挙げている 217.一方,TSAに関しては,担癌病変がVI型pit patternを呈したとの報告もあるが 221,少数の検討であり,現時点では明らかな担癌のリスク因子は報告されていないため,今後の検討が必要である.

米国では鋸歯状病変のリスクが現時点で正確に評価できないことから,直腸・S状結腸の微小腺腫(5mm以下)を除くすべての鋸歯状病変の切除を勧めている 222.米国ではSSLを有する患者ではHPのみの患者と比較して,異時性に大腸がんを発症するリスクが高いという背景から 223),224,サーベイランスガイドラインにおいてSSL・TSA切除後はサーベイランス間隔を3~5年(serrated polyposis syndrome除く)と,HPと比較し間隔を短くしている 45.このような背景のもと米国では,鋸歯状病変は病理診断に基づきサーベイランス間隔を確認することが推奨されている.欧州のガイドラインでも鋸歯状病変のサイズとcytological dysplasiaの有無によりサーベイランス間隔を規定している 47

近年SSLの内視鏡診断能については拡大内視鏡やNBIなどのIEEを用いた報告がいくつかなされている.Kimuraらの提唱したtype Ⅱ-O pit patternはSSLの診断において感度65.5~83.7%,特異度85.7~97.3% 221),225と報告されている.NBI診断においては,Uraokaらのvaricose microvascular vessel 226や,オランダのWorkgroup on serrated polyp and polyposis(WASP)が提唱する分類 227での正診率が82.3~87%と,現状では確実にHPとSSLを鑑別することが難しいことも留意する必要がある.

鋸歯状病変の内視鏡治療において腺腫と同様の安全性で内視鏡治療が可能 223),228と報告されている.一方でSSL内視鏡治療後の断端陽性切除率が31%と通常の腺腫より高かった 229との報告がある.これは境界不明瞭な病変がSSLに多いことに起因すると思われるが,治療時には十分注意する必要がある.

以上の背景から,本ガイドラインではすべての鋸歯状病変を一律に切除することは推奨せず,10 mm以上のSSL,dysplasiaの併存を疑うSSL,TSAについては切除することを提案する.

<参考> Cold polypectomyの適応

10 mm未満の小病変に対するcold polypectomyは,多数例の前向きコホート研究により後出血・穿孔などの偶発症が極めて少ないことが示されている 230),231.また,通電を伴う従来のhot snare polypectomy(HSP)に比べて,治療後の腹部症状が少なく,抗凝固療法中の被検者の後出血が少ないことがRCTによって報告されている 232),233.10 mm未満の大腸ポリープに対するcold snere polypectomy(CSP)とHSPの切除割合を検討したRCTは複数存在しており 232)~237,それらのメタ解析の結果ではCSPとHSPの完全切除割合はほぼ同等であった 238),239.しかしながら,CSPはHSPに比べて粘膜下層が十分に取れないことが複数の検討で示されており 237),240,がんを疑う病変に適応することは避けるべきと考えられる.なお,CSPでは細いワイアの専用スネアを使用したほうが高い完全切除割合を得られることが1つのRCTによって示されている 241.また,鉗子を用いたcold forceps polypectomy(CFP)やhot forceps biopsy(HFB)とCSPとの比較では,複数のRCTでCSPの完全切除割合が有意に高いと報告されている 242)~246.しかしながら,3mm以下の病変に限ればCSPとCFPの切除能は同等である可能性が高い 239),244),245.最近のRCTではjumbo forcepsを用いれば5mm以下のポリープのCFPによる完全切除割合はCSPと同等であると報告されたが 247,本邦からの報告ではjumbo forcepsを用いても4mm以上のポリープでは一括切除割合が90%未満に低下することが示されている 248.以上から,cold polypectomyの適応は,内視鏡的にがんを疑わない10 mm未満の病変と考えられ,CFPは3mm以下の病変に施行することが望ましいと考えられた 239.なお,以上の検討の多くは非有茎性病変を対象として行われており,有茎性病変に対するcold polypectomyの安全性・有効性は不明である.

Ⅲ-3 サーベイランス,その他

■CQ 15:初回スクリーニング大腸内視鏡で腫瘍性病変を認めない場合の対応は?

ステートメント:

定期的なFIT検診を提案する.

修正Delphi法による評価 中央値:8,最低値:7,最高値:9

推奨の強さ:2 エビデンスレベル:D

解説:

欧米の報告では大規模コホート研究にて初回TCSで腺腫性ポリープを認めない場合に,10年以上,大腸がん罹患率,死亡率の減少効果が持続すると報告された 33),249.大腸がん罹患について2年後は約90%のリスク減少効果が認められたが,3年後から5年後では約80%,以降は徐々に減弱し10年後では46%であった.大腸がん死亡リスク減少効果は3年後までは約90%であったが,以降は若干減弱するが10年後まで約80%のリスク減少効果を維持した 249.現在,米国Multi-Society Task Force(US-MSTF)およびEuropean Society of Gastrointestinal Endoscopy(ESGE)のガイドラインでは初回,TCSで腺腫性ポリープを認めない場合には10年後のTCSあるいは,他の検診法受検が推奨されている 45),47.TCSでの経過観察を実施した報告でnegative colonoscopy後のadvanced neoplasiaの5年後の発生率は,いずれも3%以下の発生に留まっていた 36),250.したがって,初回に腫瘍性病変を認めなければ,大腸がんの罹患リスクは十分に低い集団といえる.本邦においては逐年のFIT 2日法が対策型検診として導入されており,40歳以上の全国民に受検の機会が与えられている 48.検査法はFITのみが導入されており,要精査のためTCSを受けて腫瘍性病変を認めなかった場合には,TCSによる経過観察ではなく,FITを用いた大腸がん検診プログラムに戻ることが提案される.

TCSで異常を認めなかった場合に,検診に戻るまでに何年かの猶予期間が設けられるかどうかは,議論の余地がある.本邦の単施設のコホート研究では5年の猶予が設けられる可能性が示唆された 251.一方,TCS後に発生する大腸がんはpost-colonoscopy colorectal cancer(PCCRC)として近年,話題となっており,原因の究明は進んでいるが,予防対策までは確立されていないのが現状である 252),253.本邦においてTCSのQI評価が十分に浸透していないことや,PCCRCの原因としてde novo癌や右側のlaterally spreading tumor(LST)など,急速発育や見逃しやすい病変が想定されている点などを考慮すると,欧米と同様に次回のスクリーニングまで10年の間隔を空けることは困難と考える.以上から,本邦において初回スクリーニング法としてTCSが導入された場合においても,腫瘍性病変がない場合には5年後のスクリーニングTCSを考慮する.

■CQ 16:初回スクリーニング大腸内視鏡で腺腫(2個以内,advanced adenoma以外)を認め切除した場合のサーベイランスの方法・間隔は?

ステートメント:

3~5年後のTCSによるサーベイランスを提案する.

修正Delphi法による評価 中央値:8,最低値:7,最高値:9

推奨の強さ:2 エビデンスレベル:C

解説:

本ガイドラインにおける大腸腺腫切除後のサーベイランスの目的は浸潤がんの発生予防と腸管温存であり,大腸がん死亡をゼロにすることである.大腸ポリープ切除後のサーベイランス間隔を検証する目的で世界初のRCTであるNational Polyp Study(NPS)が米国で実施され1993年に結果が公表された 254.1,3年後の2回検査群と3年後の1回検査群でadvanced neoplasia発生の相対危険度(95%CI)が1.0(0.5~2.2)で同等であり,大腸ポリープ切除後の検査間隔は3年が基準となった.その後,腺腫の個数,大きさ,病理像等によりリスクを層別化する検討が多数報告された.腺腫2個以内,advanced neoplasia以外のlow risk腺腫群においては,検査間隔を3年以上に延長可能であることが示された 255),256.また,米国でスクリーニングTCS 3,121例を対象としたコホート研究によると初回検査から5年後に発生するadvanced neoplasiaの発生割合が4.6%で,相対危険度(95%CI)は10 mm未満の腺腫2個以内では腺腫がない群を1.0とすると1.92(0.83~4.42)であり,それ以外のhigh risk群の相対危険度が5以上であるのと対照的であった.また,10 mm未満の腺腫2個以内の5年後の浸潤がんの発生割合は0.6%と低かった 36.韓国で実施された2,452例のスクリーニングTCS後の5年後のサーベイランスのコホート研究の結果では,10 mm未満の腺腫2個以下のlow risk腺腫群のadvanced neoplasia発生割合は2.4%で,ハザード比は1.14であり腺腫がない群と同等であった 250.また,同報告では,家族歴,喫煙,飲酒などの背景情報はadvanced neoplasia発生と関連する因子ではなかった.以上より,腺腫(2個以内,advanced adenoma以外)のサーベイランス間隔は5年まで延長できる可能性が示唆された.

現在,US-MSTFのガイドラインでは10 mm未満の管状腺腫1~2個群には5~10年後のTCSサーベイランスが推奨されている 45.また,ESGEのガイドラインでは10年後にスクリーニングプログラムに戻すかTCSを再検することが推奨されており,腺腫がない場合と同様の取扱いである 47.欧米のガイドラインは,大腸がん死亡率の減少効果が得られ,かつ効率的な間隔を推奨しており,本ガイドラインの目指す,大腸がん死亡ゼロとは乖離があると思われる.本邦においては大腸ポリープ切除後のサーベイランスを評価する目的のRCTであるJapan Polyp Study(JPS)が実施されたが,low risk腺腫群でのリスク解析については不明である 257.日本人を対象とした研究では,10 mm未満の腺腫のサーベイランス中にも一定割合でadvanced neoplasiaが発生することが報告され,腺腫がない群と比較すると大腸がん罹患リスクは高いと考えられる 53),258.一方,ドイツの症例対照研究(3,148例vs 3,274例)から大腸がん罹患のオッズ比(95%CI)は6年以降のサーベイランスが2.96(1.7~5.16),全大腸ポリープの切除未完遂が3.73(2.11~6.6)であり,いずれもPCCRCの有意なリスク因子と報告された 259.同対象の別解析からlow risk群の大腸がん罹患の調整オッズ比(95%CI)は3年未満のTCSサーベイランスでは0.2(0.1~0.2),3~5年では0.4(0.2~0.6),6~10年では0.8(0.4~1.5)であり,6年以降では大腸がん罹患抑制効果が消失した 260.また,本邦ではde novo癌は見逃しやすく,発生から数年の短期間で浸潤がんに発育すると推測されている 261ために5年以上の間隔を空けることは許容しがたい.したがって,本ガイドラインにおいては,初回,TCSで腺腫(2個以内,advanced adenoma以外)を認め切除した場合のサーベイランス方法・間隔は3~5年後のTCSを提案する(Figure 1).low risk腺腫群に対するサーベイランスの是非についてはRCTおよび日本人を対象としたエビデンスの蓄積が求められる.

Figure 1 

大腸腫瘍内視鏡切除後のサーベイランス間隔(CQ16~18).

■CCQ 17:初回スクリーニング大腸内視鏡で腺腫(3~9個,advanced adenoma以外)を認め切除した場合のサーベイランスの方法・間隔は?

ステートメント:

3年後のTCSによるサーベイランスを提案する.

修正Delphi法による評価 中央値:8,最低値:7,最高値:9

推奨の強さ:2 エビデンスレベル:B

解説:

米国で実施されたNPSの結果,腺腫性ポリープの全切除後のサーベイランス間隔は3年が適正であることが示された 254.さらにその後の15.8年の長期経過観察の結果,サーベイランスにより大腸がん死亡率が53%減少することが報告された 200.NPSから約20年後に本邦で実施されたJPSは割り付け前に2回TCSを行うというデザインに相違はあるものの,同様に3年のサーベイランス間隔を支持する結果であった 257.JPSにおいては3年後に発見されたindex lesion(IL)において浸潤がんは1例(0.07%)のみで2回検査群からであったが,割り付け後に発生したIL(1.9%)の内訳はLST-non granular typeが多く,初回TCSにおいて十分なqualityを担保することが重要と考えられた.初回TCSから5年後のadvanced neoplasiaの発生リスクを検討した米国のコホート研究において,腺腫(3個以上,advanced adenoma以外)群のadvanced neoplasia発生割合は11.9%,浸潤がん発生割合は0.8%であり,腺腫なしと比較した相対危険度(95%CI)は5.01(2.01~11.96)であった 36.韓国のコホート研究では腺腫(1~2個)とのハザード比(95%CI)は3.06(1.51~6.57)であり 250,baselineにadvanced neoplasiaを有する場合と同等のリスクと考えられる.

現在,US-MSTF 45,ESGE 47のガイドラインでは初回,腺腫(3個以上,advanced adenoma以外)の場合には3年後のTCSサーベイランスが推奨されている.また,ESGEにおいては10個以上の腺腫を有する患者にはgenetic counsellingを推奨している.腺腫の個数が増えればadvanced neoplasia発生のリスクが高まることが報告されており 262,10個以上の病変を有する患者では1回の検査ですべての腫瘍性病変を指摘,切除するのが困難となる可能性が高くなることも考慮し,より短い検査間隔が望ましいと考えられる.

本ガイドラインにおいては,腺腫(3~9個,advanced adenoma以外)には欧米と同様の3年後のTCSによるサーベイランスを提案する(Figure 1).

■CQ 18:初回スクリーニング大腸内視鏡でadvanced neoplasia,10個以上のnon-advanced adenomaを認め切除した場合のサーベイランスの方法・間隔は?

ステートメント:

1~3年後のTCSによるサーベイランスを提案する.

修正Delphi法による評価 中央値:8,最低値:8,最高値:9

推奨の強さ:2 エビデンスレベル:B

解説:

NPS 254およびJPS 257の2つのRCTにおいて腺腫性ポリープをすべて切除した後のサーベイランス間隔は3年が適正であることが示された.スクリーニングS状結腸鏡で大腸腺腫を切除後,サーベイランスを実施しなかった場合の直腸がん,結腸がんの標準化罹患比(standardized incidence ration:SIR)(95%CI)はadvanced neoplasiaを含むhigh risk群ではそれぞれ2.0(1.0~3.6),3.6(2.4~5.0)であり,low risk群の0.4(0.0~1.3),0.5(0.1~1.3)より有意に高率であった 263.また,フランスで実施されたコホート研究の結果,advanced neoplasia切除後,サーベイランスを行わない場合,異時性大腸がんのSIR(95%CI)が4.3(2.9~6.0)であったが,1回でもサーベイランスを実施した場合には1.1(0.6~1.8)と約1/4に低下した 264.本邦で実施されたコホート研究(the Kumamoto Colon Cancer Study Group)の結果においてもbaseline TCSでadvanced adenomaまたはinvasive cancerを有する群は有さない群と比較し,5年間の累積advanced neoplasia発生割合が有意に高かった[ハザード比(95%CI)4.996(2.940~8.491),3.737(1.309~10.666)] 265.以上より,baselineでadvanced neoplasiaを有する場合にはTCSサーベイランスが最も効果を発揮することが示唆された.米国でのbaseline TCSから5年後のadvanced neoplasia発生リスクを検討したコホート研究において,10 mm以上の腺腫,絨毛腺腫,high grade dysplasia[本邦の粘膜内癌(Tis)],浸潤がんをbaselineに認めた場合のadvanced neoplasia発生割合/浸潤がん発生割合/相対危険度(95%CI)はそれぞれ15.5%/0.8%/6.40(2.74~14.94),16.1%/1.2%/6.05(2.48~14.71),17.4%/4.4%/6.87(2.61~18.07),34.8%/21.7%/13.56(5.54~33.18)であった 36.Advanced neoplasiaの中で,特に粘膜内癌(Tis)と浸潤がんは5年後の浸潤がん発生が4%以上とよりhigh riskであることが分かる.

現在,US-MSTF 45,ESGE 47のガイドラインでは初回にadvanced neoplasiaを有する場合には3個以上のnon-advanced neoplasiaを有する場合と同様,3年後のサーベイランスTCSが推奨されている.一方,2010年発刊の英国ガイドラインにおけるhigh risk group(10 mm未満の腺腫5個以上,10 mm以上の腺腫を1個以上含む腺腫3個以上)において1年後のadvanced neoplasia発生が18.6%,high grade dysplasia[本邦の粘膜内癌(Tis)]の発生が2.1%と報告され,3年間隔は長すぎる可能性が示唆された 266.Baselineの腺腫の最大径によるadvanced neoplasia発生リスクの検討では5mm未満のオッズ比(95%CI)を1.00とすると,10~19 mmでは2.27(1.84~2.78),20 mm以上では2.99(2.24~4.00)と腫瘍径が大きくなるほど,異時性advanced neoplasiaのリスクが高くなる 262.本邦からの報告で20 mm以上の大腸腫瘍(52.7%が粘膜内癌(Tis)/T1)内視鏡的切除後3年以内の異時性advanced neoplasiaの発生が22.9%あり,20 mm未満の9.5%より有意に高率であった 267.また,JPSグループで実施したコホート研究では,粘膜内癌(Tis)切除後の経過観察中(観察期間中央値5.1年)にadvanced neoplasiaが12.6%(66/525)発生し,そのうち29%は1年以内に指摘された.Advanced neoplasiaのうち4例は浸潤がんであり,そのうち3例は1年以内に指摘された 53.Advanced neoplasiaの中でも粘膜内癌(Tis),T1はさらにhigh riskと考えられることから,本邦の既存のガイドラインである「大腸癌治療ガイドライン(2019年版)」 268および「大腸EMR/ESDガイドライン(2019年)」 1においては初回TCSで粘膜内癌(Tis),T1切除後のサーベイランス間隔は1年後が推奨されている.

また,ESGEガイドラインにおいては10個以上の腺腫を有する患者にはgenetic counsellingを推奨している.腺腫の個数が増えればadvanced neoplasia発生のリスクが高まることが報告されており 262,10個以上の病変を有する患者では1回の検査ですべての腫瘍性病変を指摘,切除するのが困難となる可能性が高くなるため,より短い検査間隔が望ましいと考えられる.

本ガイドラインにおいては,初回スクリーニングTCSでadvanced neoplasiaを認め内視鏡的に完全切除した場合には1~3年後のサーベイランスTCSを提案する.特に粘膜内癌(Tis),T1,10個以上の腺腫,20 mm以上の腺腫を,内視鏡的に完全切除した場合には,1年後のサーベイランスが望ましい(Figure 1).なお,内視鏡的分割切除後には局所再発リスクが高くなるために6カ月前後の短い間隔での検査が必要である 269),270

■CQ 19:大腸がん術後のサーベイランス内視鏡間隔は?

ステートメント:

大腸がん術後のサーベイランス内視鏡検査は術後1年目,術前に全大腸の観察ができていない場合には,術後6カ月以内のTCSを提案する.

修正Delphi法による評価 中央値:9,最低値:7,最高値:9

推奨の強さ:2 エビデンスレベル:B

解説:

大腸がん術後のサーベイランスは,問診/診察,腫瘍マーカー測定,胸腹部CT検査,大腸内視鏡検査を組み合わせて行われる.効果的なサーベイランス法を求め,欧米では,より多くの検査を緊密に行うintensiveなサーベイランスと,いくつかの検査を省略あるいは疎な間隔で行うless intensiveなサーベイランスの有効性を比較する研究が行われてきたが,2000年代に代表的なRCTを対象とした解析が行われ,intensiveなサーベイランスが予後を改善させると報告されるようになった 271)~275.これらを受け近年の欧米のガイドラインでは,術後のサーベイランスはintensiveな手法が推奨されるようになった 276)~278

大腸がん術後のサーベイランスにおける大腸内視鏡検査の役割は重要であり,その目的は吻合部再発と異時性多発がんを発見することである.吻合部再発においては,大腸癌研究会による「大腸癌術後のフォローアップに関する研究プロジェクト」の解析にて95%が術後3年以内に発生し,直腸がんの局所再発が有意に結腸がんより高かったという結果(結腸がん1.8%,直腸がん8.8%)から 279,大腸癌治療ガイドラインでは直腸がんにおいては術後3年目までは毎年,結腸がんにおいては術後1年目と3年目の大腸内視鏡検査が推奨されている 268.術後のサーベイランス内視鏡で発見された再発病変は早期に発見されることが多く,根治切除に至るケースが多く 280),281,患者の予後改善の観点において非常に重要である.

また,大腸がん術後の異時性多発がんの発生率は1.5~3.0%と報告されており 280)~282,一般人口に比較して1.3~1.5倍高率であり,検査間隔を推奨するエビデンスには乏しいものの,定期的な大腸内視鏡検査が推奨されている 268.欧米のガイドラインにおいても同様であり,術後1年目の大腸内視鏡検査は必須とし,以後3~5年ごとの定期的な大腸内視鏡検査が推奨されている 276)~278.本邦における大腸がん術後のサーベイランスに関する報告は少ないが,近年の大規模なコホート研究では,大腸がん術後5年間の経過観察にて,同時性にadvanced neoplasiaが存在していた患者および右側結腸が残っている患者に,advanced neoplasiaの異時性発生が多かったとの報告がある 283.初回検査時に発見された同時性病変の有無や残存している結腸部位等の背景も,今後の効果的なサーベイランスを構築していくうえで重要な要因であろうと考えられる.また,別の本邦のコホート研究によれば,術後サーベイランスで発見される病変は再発病変よりも異時性病変の累積発見率が高率だったとし(0.7% vs 8%),術後1年目の内視鏡は再発病変の拾い上げに必須であるが,その後のサーベイランス内視鏡検査は異時性病変の発見に主眼が置かれるべきとしている 284.いずれの報告においても,術後4~5年目にも浸潤がんが発見されることより,大腸がん術後のサーベイランスは5年まで行うことが妥当と考えられるが,結論付ける十分なエビデンスは少ないのが現状である.

また,腫瘍による腸管閉塞などにより術前に全結腸が観察できなかった場合には,同時性多発がんの検索目的にて,術後早期にTCSを行うことが重要であり 276)~278,大腸癌治療ガイドラインにおいても同様に推奨されている 268

■CQ 20:初回スクリーニング大腸内視鏡でSSLを認め切除した場合のサーベイランスは必要か?

ステートメント:

SSLを切除した後は3~5年後のサーベイランス大腸内視鏡を提案する.

修正Delphi法による評価 中央値:8,最低値:7,最高値:9

推奨の強さ:2 エビデンスレベル:D

解説:

欧米のガイドラインではSSLの内視鏡切除後のサーベイランス内視鏡の間隔は,腫瘍径,切除病変におけるdysplasiaの有無によって詳細に設定されている 45),47),222),285.いずれのガイドラインもdysplasiaを伴ったものは,その病理組織所見を考慮し,切除後3年目のサーベイランス内視鏡が推奨されている.また,dysplasiaを伴わない病変においても病変径が10 mmを越えるものはhigh risk群とされ3年後,10 mm未満の病変においても3~5年後のサーベイランスが推奨されている.しかし,海外のガイドラインにおいてもサーベイランス間隔を策定した根拠となるエビデンスは乏しい.10 mm未満のSSLの切除を推奨しない本ガイドラインにおいて,10 mm未満の小さなSSLについて言及するのは妥当ではないが,病変径に関わらず,切除病変において病理組織学的にdysplasiaの存在が証明されたものに関しては通常腺腫同様のサーベイランスが妥当であり,本ガイドラインでは3年後のサーベイランスを推奨する.SSL内視鏡切除後のフォローアップに関する大規模なコホート研究は存在せず,SSLの病態が明確になっていない現状を考慮し,dysplasiaを伴わないSSLも含め,本ガイドラインでは切除後3~5年後のサーベイランス内視鏡を推奨する.

しかし,serrated polyposis syndrome(SPS)においては切除後1年ごとのサーベイランスが推奨される.SPSとはWHOの診断基準において,①少なくともS状結腸より近位に5個以上の鋸歯状ポリープが存在し,そのうち2個以上が10 mm以上の大きさを有していること,②SPSに罹患している第一度近親者以内の近親者でS状結腸より近位に鋸歯状ポリープが発生していること,③大きさは問わないが,全大腸に20個以上の鋸歯状ポリープを有していること,これらのうち1つ以上の基準を満たしているものと定義されている 286.SPSに関する報告はまだ少ないが,海外,本邦からも28~30%にがんの合併が報告されており 287),288,5年の観察期間にて7%の癌化リスクがあるとされている 287.単発のSSLよりもリスクは高いと考えられ,いずれの欧米のガイドラインにおいても1年ごとのスクリーニングが推奨されている 45),47),222),285),289.しかし,これらの推奨の根拠となった研究にはコホート研究が少なく,さらなるエビデンスの集積が必要である.

[Ⅳ]展望

■BK 8:JED(Japan Endoscopy Database)への期待

ステートメント:

JEDおよび検診JEDを用いることで,世界最大の内視鏡診断・治療データベースが,二重入力なしで実現し,TCSの実態調査と将来的にTCSの大腸がん罹患率・死亡率減少への寄与の実態を明らかにすることが可能となる.

解説:

日本は1992年にFITによる大腸がん検診を世界でも早い段階でスタートしたものの,検診受診率の低迷により大腸がん死亡率の抑制効果が十分に出ていない.

その原因の1つとして対策型検診(職域検診含む),任意型検診,保険診療のすべての内視鏡検査を統合したデータベースがないために大腸がん検診の大腸がん罹患率・死亡率抑制効果を算出することが困難であることも指摘されている.

内視鏡分野での情報のデータ化は,米国が先行して開始された.1995年にDavid LiebermanとDavid Fleischerが中心となりCORI(Clinical Outcome Research Initiative)という大規模内視鏡データベースの展開が始まった 290)~292

CORIは,単一のソフトウエアとして,種々のgrantにも支援されながら,20年以上も継続して運用されている.CORIの概要と入力項目についてはホームページ( https://repository.niddk.nih.gov/studies/cori)で閲覧可能である.現在の登録件数は270万件以上,それにより生まれた論文は60編以上とされている.

最近日本でも,外科系を中心として運用されているNational Clinical Database(NCD)は,Web上での入力という方法で,徐々にその範囲を広げている.専門医制度とのタイアップにより外科系の各種学会はそのoutcomeの集計にNCDを使用するようになっているが問題点としてcostと二重入力が必要な点が指摘される.

JED Projectの経緯と進捗状況

以上のような国内外の状況に対応するために,JED Projectが日本消化器内視鏡学会の一事業としてスタートした 103),293.本Projectの目的は以下のとおりである.

1.世界最大の内視鏡診療データベースを日々の入力データベースから構築

2.日本の内視鏡診療の実態を把握する

3.臨床研究レジストリーのデータ化

方法は,異なるベンダー間でのCSV形式で出力されたファイルを,各施設内でID等に対してハッシュ変換を行った後に,日本消化器内視鏡学会事務局内に設置されたサーバーへ取り込みを行い,解析用サーバーにおいて,解析を行う.

 CSVファイルからの登録を可能とすることによって,マルチベンダーにも対応できるため,登録される症例数は格段に増加する可能性が生まれる.また,日々の診療におけるデータ入力からの出力となるため,二重入力による入力ミスや,入力の二度手間を防ぐことが可能となる.

JEDの将来展望

本事業で以下のことを最終的に明らかにできる.

●世界最大の内視鏡診断・治療データベースが,二重入力なしで実現し,世界への発信が可能となる.

●全国共通のデータベースに基づき,学会・研究会での共通のdiscussionや,実態調査が容易となり,最終的に,内視鏡医の負担軽減にもつながる.

●全内視鏡検査の実施を把握することで,国の政策への提言が可能となる.

さらには,専門医制度の自動登録化や偶発症調査の完全自動化など,学会員に最終的に「やさしく,そして,ためになる」事業である.

近い将来的には医療等IDなどを導入し,対策型検診,任意型検診,保険診療のすべての内視鏡検査を統合したデータベースを構築し,大腸内視鏡検査の大腸がん罹患率,死亡率減少への寄与の実態を明らかにすることが望ましい.

文 献
 
© 2020 Japan Gastroenterological Endoscopy Society
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