GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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ENDOSCOPIC DIAGNOSIS OF HELICOBACTER PYLORI-NEGATIVE GASTRIC CANCER
Takahisa MURAO Eiji UMEGAKIAkiko SHIOTANI
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2020 Volume 62 Issue 9 Pages 1577-1584

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要旨

Helicobacter pylori陰性胃癌とは主にH. pylori未感染胃粘膜から発生する胃癌と除菌後に発見される除菌後胃癌がある.H. pylori未感染胃癌は未分化型腺癌と胃型形質を有する超高分化型(低異型度)腺癌(胃底腺型胃癌,腺窩上皮型胃癌)が報告されている.未分化型腺癌の多くは印環細胞癌で褪色調のⅡc,Ⅱb病変であることが特徴である.胃底腺型胃癌は胃底腺領域に発生し,粘膜下腫瘍様の形態を呈することが多く,腺窩上皮型胃癌は白色調の側方発育型腫瘍様の扁平隆起性病変やラズベリー様の発赤調の隆起性病変である.除菌後胃癌の多くは強い萎縮性胃炎を伴う分化型癌であり,Ⅱc病変が多い.除菌後分化型癌では表層粘膜を非癌上皮が覆い,生検診断や範囲診断が難しい症例が報告されている.強い萎縮を認める症例では発がんのリスクが高く,除菌後も内視鏡検査による注意深い経過観察が必要である.

Ⅰ はじめに

1994年,WHOの国際がん研究機関(IARC)よりHelicobacter pylori(以下H. pylori)は胃癌に対するGroup1の癌原性を有することが報告された.それ以来,H. pylori感染と胃癌との関連については,疫学的研究,スナネズミを用いた実験動物における胃癌の発生,ヒトにおけるH. pylori感染群からの胃癌発生の前向き研究,除菌介入試験による胃癌発生の予防効果など多くの研究が行われ,その関連性が明らかにされてきた 1)~7

H. pyloriに感染すると,急性炎症から慢性胃炎,萎縮性胃炎へと移行する.このような組織学的な胃粘膜の慢性炎症状態を「H. pylori感染胃炎」と呼称し,これは胃癌の発生母地として重要である.2013年2月からこれに対する除菌適用拡大が行われ,現在,H. pylori感染胃炎に対する除菌症例が増加している.

その一方で,本邦におけるH. pylori感染率は世代を追うごとに低下してきており 8,従来は稀で,全胃癌の1%前後と報告されてきたH. pylori未感染胃粘膜から発生する胃癌 9も今後相対的に増加することが予測される.除菌治療後のH. pylori陰性胃粘膜からも胃癌を発見することが臨床上経験され,これらはH. pylori陰性胃癌であるが,それぞれの背景胃粘膜は全く異なるため,除菌後胃癌として別の概念で取り扱われている.

本稿では,H. pylori陰性胃癌をH. pylori未感染胃粘膜から発生するH. pylori陰性胃癌と除菌後胃癌に分けて,その内視鏡像や臨床的特徴について概説する.

Ⅱ H. pylori未感染胃癌

H. pylori未感染胃癌はH. pylori感染とは全く異なる要因で発生してくる癌であり,未分化型腺癌(印環細胞癌)と胃型形質を有する超高分化型(低異型度)腺癌が大半を占める.

吉村ら 10は,H. pylori未感染胃癌50例の検討で,病変は大きく以下の3領域の3病型に分類されると報告している.①胃噴門部癌または食道胃接合部癌(明らかなバレット腺癌は除外する).②胃底腺領域にみられる胃型形質の超高分化型(低異型度)腺癌.③胃底腺と幽門腺境界領域にみられる印環細胞癌.50例のうち22例が胃底腺と幽門腺境界領域にみられる印環細胞癌で,16例が胃底腺領域にみられる胃型形質の超高分化型(低異型度)腺癌で,10例は胃噴門部・食道胃接合部癌であった.

1)未分化型腺癌

H. pylori未感染胃癌に未分化型腺癌,特に印環細胞癌が多いことが報告されている 9)~12.その特徴として背景粘膜は萎縮のない胃底腺粘膜で,体下部~前庭部のM・L領域に多く認められる.色調は褪色調であり,平坦ないし表面陥凹型の病変を呈している.藤崎ら 12H. pylori未感染未分化型胃癌40症例45病変の検討でも,病変の93%は褪色調を呈し,42病変が印環細胞癌で,43病変が病理学的深達度Mで,膜内癌の肉眼型は0-Ⅱcが35例,0-Ⅱbが7例であった.

【症例】40歳台の男性,自覚症状はなく,検診目的に経鼻内視鏡検査が施行された.胃角前壁に小さな褪色調の陥凹性病変を認め(Figure 1-a),Blue Light Imaging(BLI)やLinked Color Imaging(LCI)の画像強調観察では,病変はより明瞭に観察された(Figure 1-b,c).BLI拡大観察では窩間部の開大が認められた(Figure 1-d).前庭部・胃体部には内視鏡的な胃粘膜萎縮は認められず,血清H. pylori-IgG抗体,迅速ウレアーゼ試験,鏡検法にてH. pylori陰性であり,組織学的にも炎症や萎縮は認められなかった.

Figure 1 

H. pylori未感染印環細胞癌.

a:通常光で胃角前壁に小さな褪色調の陥凹性病変を認める.

b:BLI観察で褪色域が明瞭に認識できる.

c:LCI観察で褪色域が明瞭に認識できる.

d:BLI拡大観察では画像の上方に窩間部の開大所見を認める(矢印は腫瘍との境界).

これらの病変は粘膜内にとどまる印環細胞癌で,多くの症例で粘膜の増殖帯から表層にとどまることが多いと報告されている 12.そのため画像強調拡大内視鏡観察では,印環細胞癌が増殖帯内にとどまっていれば窩間部の開大として描出され,表層まで伸展して粘膜の全層性浸潤した場合にはwavy-micro vesselsとして描出される 13ことが報告されている.

2)胃底腺型胃癌

2010年Ueyamaら 14は,胃型形質を有する超高分化型(低異型度)腺癌の中で,胃底腺への分化を示すものを収集して,その特徴的臨床病理像から胃底腺型胃癌(主細胞優位型),gastric adenocarcinoma of fundic gland type (chief cell predominant type)という名称で新しい概念として提唱した.

八尾ら 15は胃底腺型胃癌25例(27病変)について検討し,患者の年齢は42~82歳(平均年齢67歳),性別は男性16例(男女比1.8:1),発生部位は23例(85.2%)が胃上部(U領域)で,残り4例(14.8%)が中部(M領域)であったと報告している.肉眼型は0-Ⅱa 14例,0-Ⅱc 8例,0-Ⅱa+Ⅱc 2例,0-Ⅱb 2例,0-Ⅰ 1例で,23例(85.2%)は組織学的に炎症や萎縮のない胃底腺粘膜からの発生であった.

組織学的特徴は腫瘍細胞が粘膜深層にみられるため,内視鏡的には粘膜下腫瘍様の形態を示すことが多い.一般的には悪性度は低く,腫瘍の表層は非腫瘍粘膜で覆われており,腫瘍径は小さいながらも粘膜下層に浸潤していることが多い.

特徴的な内視鏡所見は胃体上部~中部の萎縮性変化のない胃底腺領域に発生し,白色~褪色調の上皮下もしくは粘膜下腫瘍様の隆起性病変で,表面にはやや拡張した樹枝状の血管を認める 16.Narrow band imaging(NBI)やLCIによる拡大観察では明瞭なdemarcation lineは認めず,腺開口部の開大,窩間部の開大,irregularityに乏しい微小血管が認められる 17.これらの所見は胃底腺型胃癌が一般的に非腫瘍粘膜で覆われているため,発生母地や発育伸展形式によって修飾されたものである.

【症例】70歳台の男性,自覚症状はなく,検診目的に内視鏡検査が施行された.背景粘膜に萎縮性変化は認めず,体上部前壁および後壁に同色~白色調の境界不明瞭な粘膜下腫瘍様の隆起性病変を認めた(Figure 23).表面には樹枝状の拡張した血管を認め,NBI拡大観察では腺開口部・窩間部の開大を認め,irregularityに乏しい微小血管を認めた(Figure 3-c,d).粘膜下層までの浸潤を認める病変で(Figure 4),免疫染色ではMUC2陰性,MUC5AC陽性,MUC6陽性であり(Figure 5),Pepsinogen-Ⅰ,H/K-ATPase陽性のため胃底腺粘膜型胃癌と診断した(Figure 6).

Figure 2 

胃底腺型胃癌.

a:通常光で体上部前壁に白色調の境界不明瞭な粘膜下腫瘍様の隆起性病変を認める.

b:インジゴカルミン散布で隆起がやや強調されている.

c:表面にはやや拡張した樹枝状の血管を認める.

d:NBI拡大観察では腺開口部・窩間部の開大や大小不同を認める.

Figure 3 

胃底腺型胃癌.

a:通常光で体上部後壁に同色~白色調の境界不明瞭な粘膜下腫瘍様の隆起性病変を認める.表面にはやや拡張した樹枝状の血管を認める.

b:NBI観察では明瞭なDLは認めない.

c,d:NBI拡大観察では腺開口部や窩間部は開大し,窩間部には異型性に乏しい細血管の拡張を認める.

Figure 4 

病理組織像(HE染色).

異型の乏しい腺管が増殖する像を認め,粘膜表層にも腫瘍細胞を認める.腫瘍成分は胃底腺組織に類似している.

Figure 5 

病理組織像(免疫染色).

a:HE染色像.

b:MUC2陰性.

c:MUC5AC陽性.

d:MUC6陽性.

Figure 6 

病理組織像(免疫染色).

a:Pepsinogen-Ⅰ陽性.

b:H/K-ATPase陽性.

3)低異型度胃型腺癌(腺窩上皮型)

低異型度胃型腺癌(腺窩上皮型)は欧米ではfoveolar type adenoma/dysplasiaと報告されており,従来は穹窿部~体部の特に大彎側に認められる白色調の側方発育型腫瘍様の扁平隆起性病変として報告されている 18.しかし,近年その内視鏡像とは異なり,発赤調の隆起性病変でいわゆるラズベリー様の形態を示す病変が報告されている 19)~23

柴垣ら 24のラズベリー様腺窩上皮型胃癌29例(36病変)の検討では,年齢は38~78歳(平均年齢56歳),性別は男性19例(男女比1.9:1),31病変(86.1%)が胃体部大彎または穹窿部に認められ,いずれもU・M領域に発生している.5例(17.2%)は同時多発例で,すべての症例で背景粘膜には萎縮を認めなかった.

特徴的な内視鏡所見は強く発赤したくびれのある小隆起として認められ,ラズベリー様の外観を呈する.NBI拡大観察では乳頭状または脳回様の腺構造を呈し,white zoneが認められ,窩間部に異常血管が視認される.過形成性ポリープとの鑑別として福山ら 22は過形成性ポリープの方が白色光では色調が薄く,NBI拡大観察で異型の乏しい腺構造で,white zoneが厚く,窩間部の血管は視認困難であったと報告している.

Ⅲ H. pylori除菌後胃癌

H. pylori感染胃炎に対する除菌治療が2013年2月に保険適応になり,除菌後の症例が増加している.除菌治療による胃癌予防が期待されるが,除菌後にも年率0.2%で胃癌が発生すると報告され 25,除菌後に胃癌が発見される症例は少なくない.除菌後胃癌の特徴に関しては様々な報告 25)~28があり,その臨床病理学的特徴は高齢者に多く,背景粘膜には強い萎縮性変化がみられ,噴門部には少なく,M~L領域に多く発生する陥凹型を呈する分化型癌早期胃癌であり,比較的小さな病変であることが報告されている.さらに鎌田ら 29によると除菌後10年以上経過しても胃癌が生じることが報告され,10年以上経過して発見された30例の検討では,10年未満の症例と比較して20mm以下の比較的小さな病変が多く,除菌の対象疾患は10年以上群で早期胃癌の治療後症例が10年未満群に比較して有意に高率(36.7% vs 13.0%,p<0.05)であり,2次癌の比率が有意に高率であったことが報告されている.

また,Itoら 30によって除菌治療による癌の内視鏡的な変化と組織像が報告された.除菌前後で内視鏡的には形態的変化を認め,病変の範囲が不明瞭となり,病理組織学的には癌の上に非癌上皮の出現を認めた.その後,Kobayashiら 31により除菌後発見胃癌では44%に癌の表層が非癌上皮で覆われ,胃炎様変化を伴うことが報告された.Sakaら 32によると除菌後胃癌では,癌と非腫瘍性上皮や非癌腺管が表層でモザイク状に混在する病変が多く,非癌腺管の伸長現象や分化型癌の上皮下進展を認める.そのため除菌後胃癌では癌の領域が不明瞭となり,生検診断や範囲診断が困難となる可能性がある.

【症例】70歳台の男性.胃潰瘍除菌5年後に胃癌が発見された.体中部小彎に大きさ15mm大の発赤調の不整な陥凹性病変を認め(Figure 7-a),色素散布にて病変周囲には萎縮粘膜と腸上皮化生が著明であった(Figure 7-b).BLIでは茶色調を呈し,LCIでは発赤がより強調された陥凹面として認識できた(Figure 7-c,d).ESDが施行され,粘膜内に限局した分化型癌であった.

Figure 7 

除菌後胃癌(除菌5年後).

a:通常光で体中部小彎に血管透見に乏しい不整な発赤した陥凹性病変を認める.

b:インジゴカルミン散布で浅い陥凹性病変は明瞭となった.病変の周辺には腸上皮化生が著明である.

c:BLI観察で病変は茶色調を呈している.

d:LCI観察で病変は発赤がより強調された陥凹面を呈している.

Ⅳ おわりに

H. pylori陰性胃癌の頻度は低いが,今後H. pylori感染率の低下に伴い増えることが予測され,その内視鏡的特徴を熟知し,内視鏡診療にあたることは非常に重要である.H. pylori未感染症例では穹窿部~体部にかけて表面に拡張血管を伴う粘膜下腫瘍様病変があれば胃底腺型胃癌を,白色調の側方発育型腫瘍やラズベリー様の病変があれば腺窩上皮型胃癌を疑う.体部~前庭部の胃底腺領域に褪色調の平坦~陥凹病変を認めれば印環細胞癌を疑う.H. pylori除菌後症例では,特に体部に強い萎縮を認める場合,色調変化や凹凸に注意しながら基本に準じた内視鏡観察が重要である.なお,除菌後のサーベイランスの観察期間や間隔などについては今後の検討課題である.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

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