GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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APPENDICEAL ENDOMETRIOSIS WITH INTUSSUSCEPTION: A CASE REPORT
Yuzo MIYAHARA Homare ITOShin SHIMOJIHiroshi AZUMAAi SADATOMOYoshihiko KONOMakiko TAHARAKoji KOINUMAHisanaga HORIENaohiro SATA
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2020 Volume 62 Issue 9 Pages 1585-1591

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要旨

症例は41歳女性,便潜血検査陽性のため行われた大腸内視鏡検査で,虫垂開口部に径20mmの正常粘膜に覆われた弾性,硬の隆起性病変を認めた.腹部CTでは腸管内腔に突出した隆起性病変として描出され,粘膜下腫瘍の術前診断で腹腔鏡下回盲部切除術を行った.術中観察では虫垂は盲腸内に反転しており虫垂重積を疑う所見であった.病理組織学的検査では,割面で虫垂粘膜の内反を認め,筋層内には円柱状の細胞からなる腺管が内膜様間質を伴って散見され,虫垂子宮内膜症に矛盾しない所見であった.虫垂子宮内膜症を原因とした虫垂重積症は稀であるが,特徴的な内視鏡所見を把握することで,盲腸切除などの縮小手術を施行できる可能性がある.

Ⅰ 緒  言

虫垂重積症は腹痛や血便などの症状を呈する比較的稀な疾患である.内視鏡検査では盲腸の隆起性病変として認識され,しばしば盲腸や虫垂の粘膜下腫瘍と鑑別が困難である.虫垂子宮内膜症は異所性子宮内膜症の消化管病変の1つであるが,稀であり術前診断が極めて困難な疾患である.今回われわれは,虫垂重積症を来した虫垂子宮内膜症の1例を経験したので報告する.

Ⅱ 症  例

症例:41歳,女性.

主訴:虫垂の精査,加療目的.

既往歴:骨形成不全症のため3度の整形外科手術歴あり.子宮内膜症の既往なし.

家族歴:特記すべき事項なし.

生活歴:喫煙歴なし,飲酒歴なし.

現病歴:元来血便や慢性的な腹痛なし.月経周期は整であり,月経困難症はみられなかった.健診で便潜血検査陽性を指摘され,近医を受診した.大腸内視鏡検査で虫垂開口部に隆起性病変を認め,精査加療目的で当科紹介となった.

現症:身長140cm,体重32kg,腹部は平坦,軟.腸蠕動音亢進減弱なし,圧痛なし.腹部に明らかな腫瘤を触知せず.

血液検査所見:特記事項なし.CEA,CA19-9は基準値下限以下であった.

大腸内視鏡検査所見:盲腸の虫垂開口部と思われる部位に急峻な立ち上がりを有する径20mm大の隆起性病変を認めた(Figure 1-a).表面はやや発赤調であり,インジゴカルミン色素散布像では隆起の表面は正常粘膜で被覆されていた(Figure 1-b).Cushion signは陰性であり,頂部からの生検結果はInflamed mucosaであった.

Figure 1 

大腸内視鏡.

a:(通常観察)盲腸虫垂開口部と思われる部位に急峻な立ち上がりを有する径20mm大の隆起性病変を認めた.表面の色調は周囲粘膜と比べてやや発赤調であった.

b:(インジゴカルミン色素散布像)隆起の表面は正常粘膜で被覆されていた.

腹部超音波検査所見:虫垂は長さ27mm×径15mmと著明に腫大していた.虫垂壁は第2層の片側性の肥厚を認め,横断像では偏心したターゲットパターンを呈していた(Figure 2).

Figure 2 

腹部超音波検査.

虫垂は長さ2.7cm,径1.5cmで著明に腫大しており,壁の片側性の肥厚を認めた.横断像では偏心したターゲットパターンを呈していた.

腹部骨盤CT検査所見:回盲部に径20mmの内腔に突出する腫瘤性病変を認めた.腹腔内のリンパ節腫大や,明らかな遠隔転移の所見は認めなかった(Figure 3).

Figure 3 

腹部CT.

回盲部に直径18mmの腫瘤性病変を認めた(矢印).周囲に炎症の波及や腫瘍の浸潤を疑う脂肪織濃度の上昇はみられなかった.

以上より,虫垂粘膜下腫瘍の術前診断で腹腔鏡下回盲部切除術の方針となった.

術中所見:腹腔鏡で観察すると,盲腸内に虫垂間膜が引き込まれている所見を認めた(Figure 4).術前の検査所見と合わせ,虫垂重積症を疑う所見であった.

Figure 4 

術中所見.

盲腸内に虫垂間膜が引き込まれていた(矢印).

術後経過は良好で,術後9日目に退院した.

病理所見:病変は径15mm大の隆起性病変で粘膜面は平滑であった.割面では虫垂と思われる部位の粘膜が内反していた.肉眼的には明らかな充実性病変を認めなかった(Figure 5-a).組織学的には,筋層内に円柱状の細胞からなる腺管が内膜様間質を伴い散見され,子宮内膜症の所見と考えられた.内膜症は虫垂の筋層から一部漿膜下層に限局し,粘膜固有層および粘膜下層,漿膜には病変を認めなかった(Figure 5-b,c).以上より,本症例は虫垂重積症を来した虫垂子宮内膜症と考えられた.

Figure 5 

切除標本所見.

a:切除標本(固定).

腹腔鏡下に切除された回腸末端から上行結腸の一部.

b:ルーペ像(H&E).

c:筋層内に円柱状の細胞からなる腺管が内膜様間質を伴い散見され,子宮内膜症の所見と考えられた.

Ⅲ 考  察

虫垂重積症は稀な疾患であり,Collins 1の報告によれば虫垂71,000例中7例(0.01%)であった.虫垂重積の発生機序は,虫垂内で存在する病変もしくは物質が異物として認識され,これを排除しようとして異常運動が生じ虫垂壁が彎入するものと考えられている.Sonninoら 2は,異常運動を来す病因を分類し,慢性炎症80%,粘液囊腫6%,子宮内膜症6%,カルチノイド3%,腫瘍3%,異物1%であったと報告している.

虫垂重積の形態分類は1910年にMoschcowitz 3が初めて提唱し,その後McSwain 4,Forshall 5らによって改変されてきた.本邦の報告で多く用いられているFink 6やAtkinson 7らの分類の原型はMcSwainらの分類であり,本論文では最も頻用されているAtkinson分類(Figure 6)を採用した(Fink分類とAtkinson分類は同じであり,Fink分類のⅠ~Ⅴが,Atkinson分類のA~Eに対応している).Atkinsonらは虫垂重積症をTypeA:虫垂先端のみ重積した型,TypeB:虫垂根部のみ重積した型,TypeC:虫垂中部で重積した型,TypeD:近位側の虫垂が遠位側へ逆行性に重積した型,TypeE:盲腸内に完全に反転した型に分類している.本症例は盲腸内に虫垂が完全に翻転したE型であった.

Figure 6 

Atkinsonらによる虫垂重積症の形態分類(参考文献7より引用,一部改変).

虫垂重積を疑う所見として,注腸造影検査における “coiled spring sign” 8や “finger-like” 9と称される陰影欠損像,大腸内視鏡検査における “volcano sign” 10が報告されている.Volcano signはHamiltonらが虫垂粘液囊腫の内視鏡観察で,虫垂口の周囲に正常粘膜で覆われた小丘状隆起が認められ,火山(volcano)に似ていることから名付けた所見で,不完全型虫垂重積の内視鏡診断においても有用なサインとして報告されている.しかし,E型の完全型虫垂重積症は,内視鏡的に盲腸の粘膜下腫瘍と類似した所見を呈し,鑑別が困難である.病変周囲に虫垂開口部がみられないことや,粘膜下腫瘍に比べ立ち上がりが急峻で,丈が長いといった所見が虫垂重積を疑う一助となるかもしれない.

一方,子宮内膜症は,子宮内膜組織が子宮内腔以外の部位に異所性に増生する疾患であり,子宮筋層内にみられるものを子宮腺筋症または内性子宮内膜症といい,それ以外の部位のものを外性子宮内膜症という.腸管子宮内膜症は腸管粘膜面に異所性に子宮内膜組織の増生を認める外性子宮内膜症の1つである.虫垂子宮内膜症の発生機序には諸説あるが,現在最も支持されているのは,Sampsonの子宮内膜移植説 11である.この説は,子宮内膜細胞が月経時に卵管を逆流して骨盤内臓器および腹膜に流出し,生着するというものである.Macafeeら 12の報告によると,腸管子宮内膜症の発生頻度は外性子宮内膜症全体7,177例中880例(12%)とされ,腸管の部位別では,Masson 13は直腸・S状結腸72.4%,直腸腟中隔13.5%,小腸7.0%,盲腸3.6%,虫垂3.0%と報告している.またCollins 1は,虫垂切除例および剖検例による虫垂71,000例の病理組織学的検討を行い,虫垂子宮内膜症は4例(0.005%)であったと報告しており,稀な疾患である.腸管子宮内膜症は,粘膜下腫瘍の形態をとることが多く,粘膜面の観察では診断には至らない.月経直前~月経中の内視鏡下生検が有効とされるが,検出率は9% 14と低く術前の組織診断は困難である.まして,内腔を観察できない虫垂の子宮内膜症においては術前に組織学的診断をつけることは非常に困難であり,検索しうる限り本邦のこれまでの報告で術前に組織学的診断が得られた例はない.よって,本疾患の確定診断は切除標本の病理検査が重要である.

次に,「虫垂重積(症)」「子宮内膜症」をキーワードに医学中央雑誌(1983-2017)で検索した結果,本邦の虫垂重積症を来した虫垂子宮内膜症の報告は,自験例を含め21例であった(Table 1).症例の平均年齢は42.1(29~63)歳で,症状・来院理由は腹痛と下血・血便,便潜血検査陽性であった.重積の形態分類については,21例中16例(71%)がAtkinson分類E型を呈していた.虫垂重積症全体ではB型を呈しやすいとされる 3),15のに対し,虫垂子宮内膜症による虫垂重積症はE型を呈する傾向にあることが示された.

Table 1 

虫垂重積症を来した虫垂子宮内膜症の本邦報告例.

虫垂子宮内膜症がE型の虫垂重積を呈しやすい理由として,病変の局在がその一因と考えられる.Mittalら 16の報告によると,虫垂子宮内膜症は虫垂先端部に病変を認めるものが44%,虫垂体部が56%で,根部に認めるものはなかった.虫垂体部・先端部に病変が生じ,それが先進部となることで虫垂子宮内膜症はE型を呈しやすいと考えられる.

術前に虫垂重積症と診断されたのは9例(43%)であった.手術術式は21例中15例(71%)でリンパ節郭清を伴う回盲部切除術もしくは右半結腸切除術が行われており,虫垂重積症の原因として虫垂腫瘍の否定が困難であったことを反映していると考えられた.自験例においても,術前に腫瘍マーカーの上昇は認めなかったが,虫垂腫瘍の可能性が否定できず回盲部切除を選択した.Atkinson分類E型に特徴的な内視鏡所見を把握し,E型を呈する女性では虫垂子宮内膜症に起因する虫垂重積症の可能性を鑑別診断にあげることで,今後は盲腸切除などの縮小手術が選択肢になる可能性がある.

Ⅳ 結  語

虫垂重積症を来した虫垂子宮内膜症の1例を経験した.術前診断は容易ではないが,特徴的な内視鏡所見を把握し鑑別疾患にあげることで,盲腸切除などの縮小手術が治療の選択肢となる可能性がある.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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