GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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NON-NEGLIGIBLE RATE OF NEEDLE TRACT SEEDING AFTER ENDOSCOPIC ULTRASOUND-GUIDED FINE-NEEDLE ASPIRATION FOR PATIENTS UNDERGOING DISTAL PANCREATECTOMY FOR PANCREATIC CANCER
Kei YANEMasaki KUWATANIMakoto YOSHIDATakuma GOTORyusuke MATSUMOTOHideyuki IHARAToshinori OKUDAYoko TAYANobuyuki EHIRATaiki KUDOTakeya ADACHIKazunori ETOManabu ONODERAItsuki SANOMasanori NOJIMAAkio KATANUMA
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2021 Volume 63 Issue 1 Pages 104-116

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要旨

【背景と目的】膵体尾部癌に対する術前の超音波内視鏡下穿刺吸引法(Endoscopic ultrasound-guided fine needle aspiration:EUS-FNA)後のneedle tract seedingが報告されている.本研究では,術前にEUS-FNAで診断され,膵体尾部切除術を受けた膵体尾部癌症例のneedle tract seeding発生率を含めた長期予後を検討することを目的とした.

【方法】この後ろ向きコホート研究では,3つの大学病院と11の高次医療機関の症例を対象とした.2006年1月から2015年12月までの間に膵体部および膵尾部の浸潤性膵管癌に対する膵体尾部切除術を受けた全症例を同定し,レビューした.Needle tract seeding発生率,無再発生存期間(RFS),全生存期間(OS)を評価した.

【結果】解析した301例のうち,術前にEUS-FNAを受けたのは176例(EUS-FNA群),受けなかったのは125例(非EUS-FNA群)であった.EUS-FNA群と非EUS-FNA群の観察期間中央値はそれぞれ32.8カ月,30.1カ月であった.EUS-FNA群では6例(3.4%)がneedle tract seedingと診断された.Fine and Gray’s methodを用いて推定した5年累積needle tract seeding発生率は3.8%(95%CI:1.6%~7.8%)であった.RFSおよびOSの中央値は,EUS-FNA群と非EUS-FNA群で有意差はなかった(23.7カ月 vs 16.9カ月,P=0.205;48.0カ月 vs 43.9カ月,P=0.392).

【結語】膵体尾部癌に対する術前EUS-FNAはRFSやOSに悪影響を及ぼさないが,EUS-FNA後のneedle tract seedingは無視できない率で発生していた.(UMIN000030719)

Ⅰ はじめに

超音波内視鏡下穿刺吸引法(Endoscopic ultrasound-guided fine needle aspiration;EUS-FNA)は,膵癌の細胞学的・組織学的な確定診断のために確立された一般的な方法である 1),2.最近では,切除可能境界膵癌の術前治療の発展により,術前組織診断の重要性が高まってきている 3)~5.EUS-FNAは,偶発症率0.98%,死亡率0.02%と安全な方法である 6.EUS-FNAの最も一般的な偶発症は膵炎や術後疼痛などであるが,腹膜播種やneedle tract seedingに関する懸念もある.

近年,膵癌に対するEUS-FNA後のneedle tract seedingの症例報告が増加している.特筆すべきは,これまでに報告された10例すべてにおいて,腫瘍が膵体部または膵尾部に位置しており,経胃的にEUS-FNAが行われたことである 7)~16

一方,EUS-FNAは腹膜再発のリスクを増加させず,患者の生存率を低下させないことが多くの研究で示されている 17)~22.また,これらの研究では術前EUS-FNA後のneedle tract seedingの報告はなかった.しかし,ほとんどの研究では理論的にneedle tract seedingがより頻繁に発生する可能性がある 23,経胃的EUS-FNAが行われた膵体部癌や膵尾部癌の症例は比較的少なかった.

そこでわれわれは,術前にEUS-FNAで診断され,膵体尾部切除術を受けた膵体部癌および膵尾部癌症例のneedle tract seeding発生率を含めた長期転帰を検討するために,大規模な多施設共同研究を実施した.

Ⅱ 方  法

患者

この後ろ向きコホート研究では,3つの大学病院と11の高次医療機関の症例を評価した.2006年1月から2015年12月までの間に膵体部および膵尾部の浸潤性膵管癌に対して膵体尾部切除術を受けた全症例を同定し,レビューした.遺残腫瘍分類がR2の症例,または再発状況を含む詳細な患者情報および臨床経過が不明な症例は,本研究から除外した.研究計画書は各施設の倫理審査委員会で承認された.本試験は,大学病院医療情報ネットワーク(UMIN)に登録された(UMIN000030719).

EUS-FNA手技

EUS-FNAはコンベックス型超音波内視鏡スコープを用いて意識下鎮静で行った.穿刺針の選択,穿刺回数,吸引方法,スタイレットの使用,迅速細胞診の施行などは各医師の裁量に委ねられた.EUS-FNAの診断精度は,最終的な組織学的診断との比較により評価した.偶発症は,American Society for Gastrointestinal Endoscopyの定義に従って評価した 24

定義および結果の評価

主要評価項目は,EUS-FNA群におけるneedle tract seedingの発生率とした.副次評価項目は,EUS-FNA群と非EUS-FNA群の無再発生存期間(RFS)および全生存期間(OS)の比較,RFSに対する術前EUS-FNAのハザード比(HR),OSに対する術前EUS-FNAのHRとした.

癌の最初の再発部位(例えば,肝臓,局所,肺)は,画像所見に基づいて評価した.Needle tract seedingは,切除断端とは離れた胃壁内に存在する組織学的に証明された再発腫瘍と定義した.膵断端から胃壁まで再発腫瘍が連続している場合は,needle tract seedingとはみなさなかった.腹膜再発は,細胞学的に証明された悪性腹水または腹膜結節が画像検査で検出されたものと定義した.RFSは,手術日から画像検査で確認された癌の再発までの期間とした.

統計解析

患者背景は,カイ二乗検定,フィッシャーの正確検定,またはMann-Whitney U検定を適宜用いて,EUS-FNA群と非EUS-FNA群の間で比較した.5年累積needle tract seeding発生率および腹膜再発率は,他の再発および再発前の死亡を競合リスクとして考慮したFine and Gray’s methodを用いて推定した 25.さらに,RFSとOSはKaplan-Meier法を用いて推定し,log-rank検定を用いて比較した.年齢,性別,CEAおよびCA19-9の上昇の有無,術前補助化学療法(NAC)施行の有無,遺残腫瘍分類,病理学的腫瘍径,病理組織学的腫瘍分化度,UICC第7版による最終病期分類,および補助化学療法施行の有無を調整した後のRFSに対する術前EUS-FNAのHRと95%信頼区間(CI)を算出するために,COX比例ハザードモデルを用いて多変量解析を実施した.すべての検定の有意水準は,両側5%とした.すべての統計解析は,R(The R Foundation for Statistical Computing, Vienna, Austria)のグラフィカルユーザーインターフェースであるEZR(自治医科大学さいたま医療センター)を用いて行った 26

Ⅲ 結  果

本研究では,膵体部または膵尾部の浸潤性膵管癌389例を対象とした.この389例のうち,詳細な患者情報が不明な53例,遺残腫瘍分類R2の13例,再発を含めた術後の詳細な経過が不明な22例を除外した.このようにして,本研究では合計301例が解析された(Figure 1).この301例のうち,術前にEUS-FNAを実施したのは176例(58.4%)であり(EUS-FNA群),実施しなかったのは125例(41.5%)であった(非EUS-FNA群).前期(2006年~2010年)では,EUS-FNAを実施したのは29例(28.1%),実施しなかったのは74例(71.8%)であった.一方,後期(2011年~2015年)では,EUS-FNAは147例(74.2%)で実施され,51例(25.8%)で実施されておらず,EUS-FNAを受ける患者は増加していた.これは,EUS-FNAの良好な結果に加え,2010年に本邦で保険収載され,広く利用されるようになったためである.EUS-FNA群と非EUS-FNA群の患者背景をTable 1に示す.観察期間はEUS-FNA群で中央値32.8カ月(Interquartile range;IQR 20.0~49.3カ月),非EUS-FNA群で中央値30.1カ月(IQR 18.3~58.7カ月)であった(P=0.59).両群は,年齢,性別,CEAおよびCA19-9の上昇の有無,遺残腫瘍分類,病理学的腫瘍径,病理組織学的腫瘍分化度,最終病期分類に関して同等であった.NAC(22.2% vs 2.4%,P<0.001)および補助化学療法(81.8% vs 69.6%,P=0.018)は,EUS-FNA群でより多く実施されていた.

Figure 1 

本研究では,膵体部または膵尾部の浸潤性膵管癌患者389例を対象とした.遺残腫瘍分類がR2の13例,詳細な患者情報が不明な53例,再発を含む術後の詳細な経過が不明な22例を除外し,301例を解析した.

Table 1 

各群の患者背景(n=301).

EUS-FNAの手順と病理診断の詳細は以下の通りである.平均穿刺回数は2.9回(Standard deviation;SD 1.1)であった.使用した針のサイズは19ゲージ/22ゲージ/25ゲージ/その他または記載なしがそれぞれ12/134/22/8であった.細胞診,組織診の診断感度はそれぞれ80.1%(95%CI:73.3%~85.8%),78.9%(95%CI:72.1%~84.8%)であった.EUS-FNA全体の診断感度は89.2%(95%CI:83.7%~93.4%)であった.EUS-FNAの偶発症率は1.1%(95%CI:0.1%~4.0%)であった.1例は中等症の膵炎を発症したが,保存的治療で改善した.別の1例で腹痛を認め,投薬が必要であった.術前のEUS-FNA検査で膵癌の確定診断が得られなかったのは19例であった.このうち10例は追加の病理学的検査を行わずに手術を受けた.8例が病理診断のために内視鏡的逆行性膵管造影検査(Endoscopic retrograde pancreatography;ERP)を受けた.4例は癌の確定診断を受け,4例では確定診断は得られなかった.1例は再びEUS-FNAを受け,異型細胞はみられたが,癌の確定診断は下されなかった

検討期間中に術前EUS-FNAを行わずに切除した4例が最終的に膵癌ではなく炎症と診断されたことは特筆すべきことである.なお,そのうち2例は詳細な病理検査により自己免疫性膵炎と診断された.したがって,このコホートでは,合計129名の患者が術前のEUS-FNAを行わずに手術を受けた.このうち最終的に膵癌と診断されたのは125例であり,EUS-FNAを行わなかった群の誤診率は3.1%であった.

追跡期間中に再発したのはEUS-FNA群106例(60.2%),非EUS-FNA群86例(68.8%)であった.EUS-FNA群では,最初の再発部位は肝臓(26例,24.5%)が最も多く,次いで局所(22例,20.8%),腹膜(12例,11.3%),肺(12例,11.3%),複数部位(8例,7.5%)の順であった.その他の再発部位(26,24.5%)は,リンパ節,胃壁(needle tract seeding),腹壁,後腹膜,残膵,胸膜,骨,副腎などであった.非EUS-FNA群では,初回再発部位は肝臓(23,26.7%)が最も多く,次いで局所(15,17.4%),腹膜(14,16.3%),複数部位(10,11.6%),肺(8,9.3%)となった.その他の再発部位(13,15.1%)には,リンパ節,骨,残膵,腹壁,副腎が含まれていた.再発の診断法は,造影CT 172例(再構成スライス厚≦5mm:166例,≦2.5mm:48例),非造影CT 6例,PET-CT 8例,超音波検査1例,他院からの手紙3例,電話での問診2例であった.

2群の腹膜再発の発生率とEUS-FNA群のneedle tract seedingについて検討した.腹膜再発はEUS-FNA群で16例(9.1%),非EUS-FNA群で18例(14.4%)に認められた.5年累積腹膜再発率はEUS-FNA群で9.7%(95%CI:5.7%~14.9%),非EUS-FNA群で13.6%(95%CI:8.3%~20.3%)であった(P=0.203).

EUS-FNA群で6例(3.4%)が造影CT(再構成スライス厚5mm:2,2.5mm:1,2mm:3)がneedle tract seedingと診断された.Needle tract seedingはA病院で2例(78例:EUS-FNA 49,非EUS-FNA 29),B病院で2例(55例:EUS-FNA 29,非EUS-FNA 26),C病院で1例(33例:EUS-FNA 17,非EUS-FNA 16),D病院で1例(9例:EUS-FNA 5,非EUS-FNA 4)みられた.他の9病院ではneedle tract seedingをきたした症例はなかった.Needle tract seeding症例の患者背景をTable 2に示す.これらの症例に使用したFNA針は,Expect 3,EchoTip 1,NA-200H-8022 1,Procore(側孔付き)1であった.この検討期間では,Expectは最も一般的に使用されるFNA針の一つであった.術前EUS-FNAの影響と考えられる出血,癒着,炎症は,切除標本で2例に認められた.2例では炎症が認められたが,閉塞性膵炎と考えられ,EUS-FNAの影響は不明であった.残りの2例では切除標本に明らかな炎症は認められなかった.病理学的には1例に嚢胞変性を認めた.また,貯留嚢胞を認めた症例が2例あり,いずれも腫瘍尾側の離れた位置にあった.腫瘍の分化度については,6例中3例がG3(低分化),2例がG2(中分化),残り1例がG1(高分化)であった.6例ともリンパ節転移はなかった.手術からneedle tract seedingと診断されるまでの期間の中央値は22.6カ月(6.0~34.9カ月)であった.6例全例でCTでは切除断端と離れた部位に胃後壁の肥厚が認められ,上部消化管内視鏡検査(Esophagogastroduodenoscopy;EGD)では胃体部後壁に粘膜下腫瘍様の隆起病変が認められた(Figure 2).また,5例に超音波内視鏡検査(EUS)を施行したところ,粘膜下層から筋層へ広がる低エコーの腫瘍を認めた.3例はEGDの生検でneedle tract seedingと組織学的に確認された.他の3例はEUS-FNAにより診断された.EUS-FNA群の5年累積needle tract seeding発生率は3.8%(95%CI:1.6%~7.8%)であった(Figure 3).手術を受けたのは5例,化学療法を受けたのは1例であった.追跡期間中に3例が再発腫瘍で死亡し(needle tract seeding診断後10.8カ月,17.4カ月,24.9カ月),3例は経過観察中であった(needle tract seeding診断後4.6カ月,40.5カ月,62.4カ月).期間中,他部位の再発後に明らかなneedle tract seedingを認めた症例はなかった.

Table 2 

Needle tract seeding症例の患者背景.

Figure 2 

Needle tract seeding症例の画像所見.

(A,a~f:needle tract seedingを認めた6例のCT画像)CTでは切除断端とは離れて胃後壁の肥厚を認めた.

(B,a~f:同じ6例の内視鏡画像)上部消化管内視鏡検査(EGD)では胃体後壁に粘膜下腫瘍様の隆起を認めた.

(a)-(f)はそれぞれの症例を示す.A-(a)は文献10からの複製(Georg Thieme Verlag KGの許可を得た),A-(b)は文献13複製(Baishideng publishing Group Incからの許可を得た),A-(c)は文献11からの複製(Georg Thieme Verlag KGからの許可を得た)である.

Figure 3 

EUS-FNA群における他の再発と再発前の死亡を競合リスクとみなしたFine and Gray’s methodを用いて推定した累積Needle tract seeding発生率.

一方,RFSはEUS-FNA群と非EUS-FNA群で有意差はなかった(23.7カ月,95%CI:18.2~32.3カ月 vs 16.9カ月,95%CI:12.7~21.7カ月,P=0.205)(Figure 4).単変量解析では,RFSに対する術前EUS-FNAのHRは0.84(95%CI:0.63~1.10,P=0.20)であった(Table 3).患者背景を調整した後の多変量Cox回帰モデルでは,RFSに対する術前EUS-FNAのHRは1.05(95%CI:0.78~1.43,P=0.74)であった.また,推定OS中央値もEUS-FNA群と非EUS-FNA群で有意差はなかった(48.0カ月,95%CI:39.5~59.7カ月 vs 43.9カ月,95%CI:29.6~58.7カ月,P=0.392)(Figure 5).単変量解析では,術前EUS-FNAのOSに対するHRは0.87(95%CI:0.63~1.20,P=0.39)であった(Table 4).患者背景を調整した後の多変量Cox回帰モデルでは,術前EUS-FNAのOSに対するHRは1.11(95%CI:0.78~1.58,P=0.55)であった.

Figure 4 

EUS-FNA群と非EUS-FNA群の無再発生存率のKaplan-Meier曲線.

Table 3 

無再発生存期間(RFS)に対する単変量・多変量解析.

Figure 5 

EUS-FNA群と非EUS-FNA群の患者の全生存期間のKaplan-Meier曲線.

Table 4 

全生存期間(OS)に対する単変量解析・多変量解析.

Ⅳ 考  察

EUS-FNA後のneedle tract seedingは極めてまれな偶発症とされてきた 27)~29.しかし,近年needle tract seedingの症例報告が増加している 7)~16.理論的にはneedle tract seedingは膵体部癌や膵尾部癌に対する経胃的EUS-FNA後に発生する可能性が高いと考えられる.膵頭部癌に対する経十二指腸的EUS-FNAの場合,通常はその後の手術で穿刺経路を切除する.そのため,needle tract seedingについては経胃的な穿刺経路を切除しない膵体部または膵尾部に位置する切除可能な膵癌が主な関心の対象である.

今回のコホートでは,他部位の再発と再発前死亡を競合リスクとして考慮したFine and Gray’s methodを用いて推定した5年累積needle tract seeding発生率は3.8%(95%CI:1.6%~7.8%)であった.理論的には,needle tract seedingはEUS-FNA群のみで発生し,非EUS-FNA群との統計学的な比較は困難であるが,無視できない割合であった.一方,EUS-FNA群では腹膜転移が多いとされていたが,実際にはこのコホートでは発生率の差は認められなかった.これは,理論的にはEUS-FNA後にのみ発生するneedle tract seedingとは異なり,腹膜転移はEUS-FNAに関係なく発生する可能性があるためである.また,本研究では他部位再発後の腹膜転移については検討していないため,真の腹膜転移率は過小評価されている可能性がある.

切除可能な膵癌に対する術前のEUS-FNAが,EUS-FNA群と非EUS-FNA群との間でのOSおよび腹膜再発に及ぼす影響を検討した後ろ向き研究がこれまでに6件実施されている(Table 5 17)~22.これらの研究では,EUS-FNAは患者の生存率に悪影響を及ぼさず,needle tract seedingを起こさないことが示された.

Table 5 

既報のまとめ.

しかしこれらの研究の結果から,needle tract seedingの発生率を評価することには以下の理由で限界がある.第一に,ほとんどの研究が単一施設で行われており,膵体部癌または膵尾部癌の症例数が比較的少なかった.Ngamruengphongらによる多施設研究では,術前にEUS-FNAを受けた膵体部癌および膵尾部癌75例が含まれていたが,癌の再発率や再発部位は報告されていなかった.これは,彼らのデータが再発に関するデータを含まないSEER-Medicareデータベースから得られたためである.第二に,再発の診断に用いられた検査方法が明示されていなかった.第三に,観察期間が比較的短い(16-21カ月)ことである.したがって,needle tract seeding発生率を過小評価している可能性は排除できない.

上記の過去の研究と比較して本研究では,術前にEUS-FNAを受けた膵体部癌および膵尾部癌176例を対象とした.また,再発の多くは詳細な造影CTで診断され,観察期間は30カ月以上であった.さらに,needle tract seedingと断端からの直接の腫瘍進展を区別するために,needle tract seedingを切除断端から離れた胃壁に再発した,組織学的に証明された癌と定義した.

Needle tract seedingの診断については,本コホートの6例はすべて造影CTで胃後壁の肥厚を認めた.また,EGDでは全例で胃後壁に粘膜下腫瘍様の隆起病変が認められた.Sakamotoらは,CTではneedle tract seedingを証明できなかったが,EGDで診断に成功した症例を報告している 16.したがって,術前に経胃的EUS-FNAを受けた症例の術後サーベイランスにEGDを追加することは有用であると思われる.

これら6例の最終病期は,リンパ節転移を伴わないⅡA期以下の進行度であった.興味深いことに,以前に報告されたneedle tract seeding発生例は,1例を除いてすべてリンパ節転移を伴っていなかった 12.進行膵癌では遠隔転移(肝転移など)を伴う早期再発が多く 30),31,これもEUS-FNA後のneedle tract seedingを過小評価する要因と考えられる.

治療については,本コホートでは5例に外科的切除が行われた.一部の症例では,手術後に長期の無再発生存(40カ月,62カ月)が得られた.同様に,以前に報告されたneedle tract seeding例の中でも,根治的な手術後に良好な経過が得られた症例が存在した 12),14.したがって,早期診断と根治的切除は,needle tract seedingに対する最適な治療選択となる可能性がある.

将来的には,患者の長期予後が膵癌の早期診断と術前・術後治療の進歩で改善する可能性があり,予後に対するneedle tract seedingの負の影響も明らかになるはずである.

したがって,今回の結果から,EUS-FNAはより正確な治療方針を決定するために病理診断を必要とする症例(画像検査で膵癌の診断が困難な症例や術前の補助療法を予定している症例など)にのみ行うべきであると考えられる.また,画像検査で診断が困難な症例の割合やそのような症例におけるEUS-FNAの診断能を知ることは,膵癌が疑われる症例の治療方針決定に役立つ.このため,画像検査およびEUS-FNAの診断能を調べるための大規模な前向き研究を行うことが望まれる.

本コホートの多変量解析では,先行研究と同様に膵癌に対する術前EUS-FNAのRFSおよびOSに対する明らかな負の影響は認められなかったが,検討に含まれたリンパ節転移を伴わない病期の症例は比較的少なかった.したがって,特にリンパ節転移を伴わない病期の膵癌の症例に焦点を当てた大規模な研究を行うことが望まれる.

本研究にはいくつかの限界がある.第一に,後ろ向き研究のデザインが用いられていることである.理論的には前向き無作為化比較研究が理想的である.しかし,臨床現場では容易に実施することはできない.そこで,北海道の14施設から可能な限りの症例を集積して評価した.その結果,各施設で術後のサーベイランスの方法や間隔にばらつきがみられた.症例によっては,再発の診断が真の再発時期よりも遅くなっている可能性がある.

第二に,除外された症例の割合が22.6%(88/389例)であった.本邦の法律では,診療録の保存義務期間は5年とされている.このため,一部の症例では詳細な調査ができなかった.本研究ではこれらの症例を除外したため,過去の研究よりも推定RFSとOSの期間が長くなった可能性がある.

一方,本研究の強みは,術前のEUS-FNAが癌再発に及ぼす影響を検討した先行研究と比較して,最も多くの膵体尾部切除術を受けた症例を対象とし,解析したことである.

結論として,本研究では,膵体部癌および膵尾部癌に対する術前EUS-FNAはRFSに悪影響を及ぼさないが,EUS-FNA後のneedle tract seedingは無視できない割合で観察されることが示された.

謝 辞

原稿の校閲・編集を担当してくださった聖路加国際大学の医学編集者であり,アカデミックライティングの教授でもあるDr. Edward Barroga( http://orcid.org/0000-0002-8920-2607)に感謝申し上げます.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:潟沼朗生(オリンパス株式会社)

文 献
 
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