GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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A CASE OF EOSINOPHILIC CHOLANGITIS WITH IMAGES OF THE BILE DUCT OBTAINED BY A CHOLANGIOSCOPE: A CASE REPORT
Yuhei IWASA Takuji IWASHITAHironao ICHIKAWANaoki MITAShinya UEMURAKatsuhisa TODATomohiro KANAYAMATatsuhiko MIYAZAKIMasahito SHIMIZU
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2021 Volume 63 Issue 1 Pages 52-60

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要旨

78歳女性.抗AQP4抗体陽性視神経脊髄炎に対しプレドニゾロン5mgで加療されていた.発熱,右季肋部痛を認め,血液検査で肝胆道系酵素,炎症反応の高値と,好酸球数割合の上昇があり,腹部造影CTは胆管壁の肥厚,濃染を認めた.ERCで肝外胆管壁の不整を認め,胆道鏡では胆管壁の浮腫,凹凸はあったが,悪性所見は認めなかった.胆管生検,肝生検では胆管への好酸球浸潤を認めたため好酸球性胆管炎と診断.プレドニゾロン25mgに増量し,その後は経時的に肝機能障害,炎症反応は改善.後日ERCの再検で肝外胆管の壁不整は改善し,胆管生検でも好酸球の浸潤は消失した.胆道鏡による観察は好酸球性胆管炎とPSC,胆管癌との鑑別に有用である可能性がある.

Ⅰ 緒  言

好酸球性胆管炎は,胆管壁への好酸球浸潤による胆管壁の肥厚,胆管狭窄,腫瘤形成などを特徴とするまれな疾患である 1.多くは無治療あるいはステロイド投与にて自然軽快するが 2,胆管癌との鑑別に難渋することがあり,特に腫瘤形成をきたす症例では外科的に切除され診断に至る症例も見られる 3.今回われわれは,発熱,右季肋部痛を主訴とし,肝胆道系酵素,炎症反応の上昇を伴う肝外胆管壁不整および肝内胆管狭窄に対して,胆道鏡を用いた胆管上皮の直視観察および胆道鏡下,透視下胆管生検で診断し得た好酸球性胆管炎の1例を経験したため文献的考察を加えて報告する.

Ⅱ 症  例

症例:78歳 女性.

主訴:発熱,右季肋部痛.

家族歴:特記事項なし.

既往歴:抗AQP抗体陽性視神経脊髄炎(67歳から),脂質異常症(70歳から).

内服薬:プレドニゾロン5mg/日,ランソプラゾール30mg/日,ロキソプロフェンナトリウム180mg/日,ミノドロン酸50mg/日,エゼチミブ10mg/日.

現病歴:2018年11月上旬より食思不振を認め,11月18日に発熱,腹痛をきたしたため当院救急外来を受診.右季肋部の圧痛あり,血液検査で肝胆道系酵素・CRP上昇,造影CTで胆管壁のびまん性の肥厚,濃染を認めたため急性胆管炎が疑われ入院となった.

入院時現症:意識清明,眼瞼結膜貧血なし,眼球結膜黄染なし.体温38.2℃,心拍数95回/分,血圧135/87mmHg,腹部平坦・軟,右季肋部に自発痛・圧痛あり,反跳痛・筋性防御なし.

入院時検査所見(Table 1):AST 576IU/L,ALT 463IU/L,ALP 1,158IU/L,γ-GTP 599IU/Lと肝胆道系酵素の上昇,WBC 8,520/μL(好酸球数852/μL)とわずかに好酸球増加を認めた.各種肝炎マーカーは陰性であり,IgG,IgG4,IgEは正常値であった.

Table 1 

臨床検査成績.

画像所見:腹部造影CTでは,胆管炎様の肝実質のまだらな造影効果と,肝外胆管壁の濃染を認めた.MRCPでは肝内胆管は枯れ枝状に狭小化しており(Figure 1),EUSでは肝外胆管の軽度拡張と,胆管壁の肥厚を認めた.胆管壁の層構造は保たれており,それぞれの層の境界は明瞭であったが,壁の外側高エコー層,内側高エコー層どちらも肥厚していた.同様の所見は乳頭部胆管から近位胆管まで連続しており,胆管全体が炎症性に壁肥厚を呈しているものと考えられた.周囲のリンパ節腫大は認めなかった.

Figure 1 

MRCP.

両側肝内胆管は肝門部から狭小化し,枯れ枝状の狭窄を呈している.

入院後経過:胆管炎の原因精査目的に,11月21日にERCを施行した.十二指腸乳頭部に異常所見は認めなかった.胆管造影では,肝門部領域胆管は狭小化しており(Figure 2),肝外胆管壁の不整像を認めた.胆道鏡(CHF BP260, Olympus, Tokyo, Japan)を施行したところ,造影所見と同様に肝門部胆管から肝内胆管は狭小化を認めた.胆管粘膜は血管透過性が低下しており正常血管構造は視認できず,粘膜の浮腫を呈していた(Figure 3-a).肝外胆管壁も同様にやや浮腫状で凹凸を呈していた(Figure 3-b).観察可能であった範囲では悪性を示唆する乳頭状粘膜や不整血管は指摘できなかった.胆嚢管開口部には異常所見を認めなかった.肝門部胆管,肝外胆管の病変部より胆道鏡下(Spybite, Boston Scientific Crop, Natick, MA, USA),透視下生検(Radial jaw, Boston Scientific Corp, USA)を施行(肝門部胆管,肝外胆管からそれぞれ1カ所ずつ,計4カ所)し,胆汁採取目的に内視鏡的経鼻胆管ドレナージ(ENBD)チューブを留置,2日後に抜去した.胆道鏡下,透視下胆管生検いずれの病理学的検討においても,胆管壁内の線維増生と胆管上皮の脱落,変性が目立ち,間質内に好酸球を含む高度な炎症細胞浸潤を指摘された(Figure 4).胆汁細胞診は悪性像を認めなかった.原発性硬化性胆管炎(PSC),IgG4関連硬化性胆管炎(IgG4-SC)も否定できない所見であったため,11月26日に肝生検を施行した.肝生検の病理所見でも門脈域,細胆管に好酸球主体の炎症細胞浸潤を認めるが,胆管の消失,閉塞,壊死や玉葱状の胆管周囲線維化などは見られなかった.IgG4染色を用いた免疫組織学的検討では,胆管生検,肝生検ともにIgG4陽性形質細胞を認めなかった.

Figure 2 

ERCP所見.

両側肝内胆管は枯れ枝状に狭小化している.

Figure 3 

a:肝門部の胆道鏡所見.左右肝管は狭小化しており,スコープの進入はできなかった.粘膜の発赤,浮腫を呈し,血管透過性は低下しており正常血管は視認できない.

b:総胆管の胆道鏡所見.壁の凹凸がやや目立ち,胆管壁は浮腫状で壁の血管透過性は低下している.

Figure 4 

胆管生検HE染色400倍.

胆管壁内の線維増生と胆管上皮の脱落,変性が目立ち,胆管壁の腺管周囲に好酸球の浸潤を認める(矢頭).

胆道鏡所見は浮腫状の凹凸粘膜を認めるのみで,胆管癌やPSC,IgG4-SCを疑う所見は認めなかった.血液検査所見で好酸球数の上昇を認め,病理所見で胆管壁への好酸球の浸潤を認めるが,IgG4陽性形質細胞は認めず,PSCに特徴的な胆管の消失,閉塞,壊死や玉葱状の胆管周囲線維化などが認められなかったことから,好酸球性胆管炎と診断した.CRPは自然軽快したが,12月6日にはALP 2,557IU/L,γ-GT 1,086IU/Lと胆道系酵素が増悪したため(Figure 5),治療介入が必要と判断し,同日よりプレドニゾロンを25mg/日に増量した.12月13日にはALP 812IU/L,γ-GTP 370IU/Lまで改善を認めたため12月20日よりプレドニゾロンを漸減した.2019年1月7日に再度EUS,ERCおよび胆管生検を施行.EUSでは胆管壁肥厚の改善が見られ,ERCでは胆管造影で肝外胆管壁不整の消失が確認できた(Figure 6).胆管生検の病理組織所見でも好酸球の浸潤は見られなくなっており,好酸球性胆管炎は治癒傾向であると判断した.さらにプレドニゾロンを漸減し,2月27日よりプレドニゾロン5mg/dayで維持量とした.漸減中に一時WBCの増多を認めたが肝胆道系酵素の上昇や臨床症状はなく,経時的に自然軽快した.現在はプレドニゾロン維持量で経過観察しているが,再燃は認めていない.

Figure 5 

臨床経過.

Figure 6 

ERC像.

肝内胆管の狭窄はわずかに残存していたが,肝外胆管壁不整は消失した.

Ⅲ 考  察

好酸球性胆管炎は,好酸球主体の貫壁性の炎症細胞浸潤を呈する胆管炎であり,1980年にLeegaardにより初めて報告された 4.総胆管結石や包虫症の感染などに続発する二次性の症例が存在するが 5,多くは特発性とされる.好酸球性胆管炎は好酸球性胆嚢炎を合併するものがあり,それらをまとめて好酸球性胆道症(Eosinophilic cholangiopathy)とする報告もある 6.非常にまれな疾患であり,現在のところ診断基準や確立した治療法は存在しない.

Pubmed,医中誌で2000年~2019年12月の期間で「eosinophilic cholangitis」をkeywordにして検索し,二次性の好酸球性胆管炎を除外したところ,自験例を含め31例存在した(Table 2-a,b).年齢中央値は49歳(13歳~84歳)であり,男女比は1.06:1であった.臨床症状としては腹痛15例(48%),黄疸9例(29%),発熱3例(10%)であり,症状がなく偶発的に肝機能障害が指摘されたものも7例(23%)存在した.血液検査所見では末梢血の好酸球数の増多が特徴的とされ,好酸球増多症において軽度上昇以上と定義される500/μL以上の好酸球数上昇 7が見られた症例は24例(24/30 80%)であった.自験例でも好酸球数852Lと軽度上昇を認めた.

Table 2-a,b 

好酸球性胆管炎の報告例.

画像診断には造影CT,MRCP,ERCPが用いられた症例がほとんどであり,さらに補助的にUS,EUSが施行された例も散見された.造影CTの所見は多彩であり,自験例のように胆管壁の肥厚のみである症例や,限局性・多発性に胆管狭窄・拡張をきたす症例,腫瘤を形成する症例などさまざまであった.MRCP,ERCPでも同様に多様な胆管像が報告されており,びまん性に狭窄を呈する症例や,胆管癌のように限局的に狭窄を呈する症例,PSCのように数珠状狭窄を呈する症例などが見られた.US,EUSでは胆管壁の肥厚や拡張像を指摘される例が多かった.自験例のEUS所見では3層構造が保たれたびまん性の壁肥厚であり,PSC,IgG4-SCが鑑別に挙がる所見であった.いずれの画像所見も好酸球性胆管炎に特異的な所見とは言えず,限局性狭窄例は胆管癌と,多発狭窄例はPSC・IgG4-SCとの鑑別が問題となった.限局性狭窄例では最終的に外科的切除が施行され確定診断に至る症例が多く,画像診断のみでの好酸球性胆管炎の診断は非常に困難であった.

近年,胆道鏡による胆道疾患の診断報告が増加しており,好酸球性胆管炎においても悪性の除外に有用な可能性が考えられる.胆道鏡の悪性所見としては,不整に拡張した蛇行血管,易出血性,不整な乳頭状腫瘍の増生,粘膜下腫瘍様の結節隆起が挙げられる 8.また,ItoiらはPSC,IgG4-SCの胆道鏡所見について報告しており,PSCでは胆管壁の瘢痕と偽憩室が,IgG4-SCでは血管の蛇行を伴う胆管硬化像が見られることが多いと述べている 9.自験例でも胆道鏡を施行し,浮腫状で凹凸を呈する胆管壁が観察されたが,胆管癌,PSC,IgG4-SCに見られるような前述の所見は認めなかった.報告例のうち自験例を含め7例に胆道鏡が施行されており(Table 2-b),うち3例は限局性狭窄例であった.その3例のうち2例で所見の記載がなく詳細不明であるが,1例では胆管内に血管拡張・蛇行を伴う腫瘤形成を認め 10,所見としてはIgG4-SCに類似しているように思われた.同症例は胆道鏡下生検で直接腫瘤から生検し悪性が否定できたため,外科的切除を回避し得ている.自験例を含む4例は多発性狭窄例であり,Walterら 11は胆管壁のびらん,偽ポリポーシスが,松本ら 2は浮腫状で紅斑を伴った粘膜が,Doddaら 12はシダ葉状隆起が見られたとそれぞれ報告している.自験例で松本らの所見に類似した所見と考えられるが,好酸球性胆管炎に対して胆道鏡を施行した報告は多くないことから特異的な所見であるとは言えず,さらなる症例の集積が望まれる.PSCで見られる瘢痕・偽憩室 9については全例で見られなかったことから,PSCとの鑑別の一助となる可能性がある.

好酸球性胆管炎は多彩な胆管像を呈し,胆管癌やPSC,IgG4-SCとの鑑別が困難であるため,病理所見による診断が非常に重要となる.PSCの特徴的な病理所見としては,胆管内腔面のびらん・肉芽組織の増殖,障害胆管に隣接した黄色肉芽腫性炎症,付属腺周囲の線維化,肝内小型胆管周囲のonion-skin状線維化,胆管上皮の小型化・核濃縮,胆管の消失などが挙げられ,IgG4-SCの特徴的な病理所見としては,胆管壁へのIgG4陽性形質細胞浸潤,動脈に伴走する静脈の閉塞性静脈炎,肝内小型門脈域の緻密な硬化などが挙げられる 13.好酸球性胆管炎は報告例が少なく,PSC,IgG4-SCのように確立した病理学的診断基準はないが,特徴的な所見は胆管壁への好酸球浸潤であり,病理組織学的にそれを証明することが重要であるため,ほとんどの症例で外科的切除や胆管生検,肝生検で組織学的に胆管壁への好酸球浸潤が示されている.炎症が強い症例では胆管周囲や間質の線維化,胆管上皮の潰瘍形成,細胆管の破壊・増生・減少など多彩な病理所見を呈するが,いずれも特異的な所見とは言えない.また,好酸球性胆管炎でも胆管周囲の玉葱状線維化を示す例の報告や 3),14,逆にPSCでも軽度の好酸球浸潤を認める例があるなど 13,病理学的所見のみで確定診断が困難な症例も存在する.自験例では,画像所見上肝外胆管の壁不整と肝内胆管の枯れ枝状狭窄を呈しており一見PSC様に見えたが,肝生検の胆管病理所見でPSC,IgG4-SCに特徴的な所見は見られず,胆管壁間質内への好酸球浸潤が見られたことが好酸球性胆管炎診断への一助となった.

好酸球性胆管炎の治療としては,外科的切除が選択される場合はほとんどがステロイドによる追加治療は行われておらず,手術を行わなかった症例では治療にステロイドが用いられていた.PSCとは異なり一般的にステロイドに対する反応性は良好であり,治療により改善が得られる症例が多く見られることから,ステロイドに対する反応性の有無についても,PSCとの鑑別の一助になる.ステロイドの投与量や投与期間については一定した見解はないが,報告例では0.6-1.0mg/kg/日で投与されている例が多く,自験例でも0.6mg/kg/日より開始し寛解が得られた.しかし,少ないながら無治療でも経過観察で改善した報告も散見される 12),15),16ことから,ステロイド治療の是非については今後検討が必要であると考えられた.

Matsumotoら 2は,好酸球性胆管炎の診断基準について,(1)胆道系の壁肥厚,硬化がある,(2)組織学的に好酸球浸潤が明らかである,(3)ステロイド投与,あるいは無治療で胆道系異常所見が改善する,以上の3点を提唱している.本症例では(1)(2)(3)いずれも満たしており,好酸球性胆管炎に矛盾しない症例であった.現時点で再燃なく経過し症状は安定しているが,既報においてもステロイド減量に伴い再燃をきたした報告も認め 17,また,本症例では原疾患に対してもともとプレドニゾロン5mg/日を内服していた状態で発症したことから,今後の経過に十分注意が必要である.

Ⅳ 結  論

今回われわれは,胆道鏡で胆管像を確認し得た好酸球性胆管炎の1例を経験した.胆道鏡の浮腫状で凹凸を伴った胆管粘膜所見は,好酸球性胆管炎とPSCや悪性腫瘍の鑑別に有用である可能性があるが,依然として好酸球性胆管炎に対する胆道鏡施行症例の報告は乏しく,さらなる症例の集積が必要である.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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