2021 Volume 63 Issue 10 Pages 2221
症例は50歳,女性.44歳時に健診で実施した上部消化管内視鏡検査で10mm大の胃粘膜下腫瘍を指摘された.クッションサインは陰性.年1回の内視鏡検査で経過観察され,3年間は径の変化を認めなかったが,48歳時には15mm大に増大していた.さらに2年後の内視鏡検査でも15mm大であり,精査のため当院紹介となった.
胃体上部後壁の粘膜下腫瘍(Figure 1)は呼吸性変動を認め,壁外性圧排と考えられた.超音波内視鏡検査にて,胃の壁外に8mm大の類円形の無エコー域を認め,脈管に連続していた(動画 1).腹部内臓動脈瘤と診断しCT検査を行ったところ,造影CTおよび3次元CTアンギオグラフィーにて10mm弱の脾動脈瘤を認め(Figure 2),半年後にCT検査を再検する予定となった.
動画 1
本症例は胃粘膜下腫瘍として診断された脾動脈瘤の1例である.腹部内臓動脈瘤の有病率は0.01~2%程度とされ,発生部位としては脾動脈瘤が最も多く約60%を占める 1).動脈瘤の発生機序として,動脈硬化や血管炎,感染,外傷,動脈形成不全,門脈圧亢進,妊娠に伴うエストロゲン値の変動を背景とした血管壁の弾性線維の傷害などが挙げられる.脾動脈瘤が破裂した場合は致死率が高く,予防的な血管内治療としてコイル塞栓術が施行される.予防的治療の適応については確立されていないが,2cm以上の瘤や仮性瘤,急速に瘤径が増大するものを対象とすることが多い1).また最近の59症例70病変の検討では,瘤径>20mm,門脈圧亢進,瘤の卵殻様石灰化が増大の有意なリスク因子であったと報告されている 2).脾動脈瘤は健診などで偶然発見されることが多いが,自験例のように胃粘膜下腫瘍として発見される場合もあり 3),4),なかには動脈瘤が胃内腔側に破裂し消化管出血として発症した症例も報告されている 5).
脾動脈瘤の症例では,自験例のように胃粘膜下腫瘍として誤認され発見される場合があるため,超音波内視鏡検査や造影CT検査などで適切に診断し,治療方針を検討すべきと考えられた.
本論文内容に関連する著者の利益相反:河原祥朗(岡山西大寺病院),岡田裕之(アストラゼネカ株式会社,第一三共株式会社,エーザイ株式会社,大塚製薬株式会社,大鵬薬品株式会社,アッヴィ合同会社,日本化薬株式会社,EAファーマ株式会社)
動画 1 超音波内視鏡検査.
胃体上部後壁の粘膜下腫瘍に対して行った超音波内視鏡検査にて,胃の壁外に8mm大の類円形の無エコー域を認め,脈管に連続していた.
Figure 1 上部消化管内視鏡検査.
胃体上部後壁に粘膜下腫瘍を認める.
Figure 2 CTアンギオグラフィー検査.
造影CTおよび3次元CTアンギオグラフィーにて10mm弱の脾動脈瘤を認め,半年後にCT検査を再検する予定となった.