GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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SOFTWARE AS A MEDICAL DEVICE (SAMD) BASED ON ARTIFICIAL INTELLIGENCE AND MACHINE LEARNING: THE PHARMACEUTICALS AND MEDICAL DEVICES AGENCY (PMDA) PERSPECTIVE
Daisuke UCHIDA Shuichi KAWARASAKIMutsuhiro IKUMA
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2021 Volume 63 Issue 11 Pages 2297-2307

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要旨

人工知能(artificial intelligence:AI)の進化は著しく,ソフトウェアを取り巻く環境は劇的に変化している.医療機器分野においても,疾病の診断や治療を目的としたAI開発が盛んに行われており,消化器内視鏡領域では,内視鏡診断支援を中心とした様々なAIを用いた医療機器の研究開発が行われている.すでに複数のAIを用いて開発されたプログラム医療機器が独立行政法人医薬品医療機器総合機構(Pharmaceuticals and Medical Devices Agency:PMDA)の審査を経て薬事承認を取得しており,今後はさらに承認品目の増加が期待される.本稿では,消化器内視鏡領域におけるAIを用いたプログラム医療機器を中心として,医療機器分野における薬事承認審査の現状について解説する.

Ⅰ 緒  言

消化器内視鏡診断に用いられる機器においては,高画質化,特殊光観察,拡大観察といった技術的進歩が飛躍的に進んだ.これにより操作者が取得する情報量も膨大となり,これらを迅速に処理し適切な診断結果へ結びつけるために医師側にも高度な知識,技術が求められるようになってきている.しかしながら消化器内視鏡診療は,本邦においてハイボリュームセンターからクリニックまで広く普及しており,実施する医師に関しても,専門医から非専門医まで習熟度の幅も広い.病変の発見率や診断能は以前より向上してきているとされているものの,本邦で広く普及している胃がん検診を目的とした上部消化管内視鏡検査では施設間で胃がん発見率に差があるとされ 1,海外からの報告でも,全体でいまだ約1割強の胃がんが見逃されているとされている 2.大腸内視鏡検査においても腫瘍性病変の見逃しが20%以上存在し 3),4,これらの見逃し病変の中には,内視鏡視野に描出されているにもかかわらず,見逃されているような病変も存在するとされ,こういった病変を適切に拾い上げられるかが今後の課題の一つとなってくる.また病変検出のみならず鑑別診断等の手法も複雑化してきており,内視鏡機器によって得られた多くの情報をもとに適切な鑑別診断へと結びつけるためには,高い専門性が要求される 5

これらの課題を解決するべく,近年急速に発展してきたAI技術を用いたコンピュータ診断支援システム(computer-aided diagnosis:CAD)の開発が注目を浴びている.CADとは,名のとおりコンピュータによる画像解析をもとに診断支援を行うことであり,X線画像に代表される放射線画像をはじめとする医用画像に対して,コンピュータで定量的に解析された結果を「第2の意見」として利用した診断を行う行為,あるいは「医師による診断の支援」を行うためのシステムを意味する.

CADは大きく分けて,検出支援(computer-aided detection:CADe),診断支援(computer-aided diagnosis:CADx)に分類される.CADeは画像上で病変の存在が疑われる候補位置をコンピュータが自動検出し,その位置をマーキングする機能を有するソフトウェアとされ,医用画像データや検査データを処理して異常値の検出を支援する.一方,CADxは病変候補に関する良悪性鑑別や疾病の進行度(がんの深達度や炎症性疾患の活動性等)の定量的なデータを数値やグラフ等として出力する機能を有するソフトウェアで,診断結果候補に関する情報等を提示して診断支援を行う 6.消化器内視鏡においては前述した病変の拾い上げを支援する場合はCADeとなり,病理学的な鑑別診断や深達度診断などを支援する場合はCADxとなる.プログラムを構築するにあたり,人工知能(artificial intelligence:AI)に用いるアルゴリズムはSupport Vector Machine(SVM)やdeep learning等を用いたものがあり,開発指針や開発資源の状況,最終的に獲得させたい機能や表示能力等に応じて,開発者が選択している.これらのアルゴリズムの進化によって,今後さらに精度向上が期待されることから,実用化に向けたCAD開発に拍車がかかることは言うまでもない.

本邦において,これらの内視鏡CADを医療機器として日常臨床に用いるためには,現時点においては厚生労働大臣による承認を取得することが必要となる.この承認審査を行うのが独立行政法人医薬品医療機器総合機構(Pharmaceuticals and Medical Devices Agency:PMDA)であるが,PMDAにおいてもAIなどの新たな技術を用いた医療機器について,より適切かつ迅速な審査を行えるように日々議論を重ねている.しかし内視鏡CADに限らず,新たに開発する医療機器が,研究シーズの段階から上市され実用化されるまでの道のりは険しい.資金的な課題をクリアすることに加え,知財戦略や市場性を考えた開発戦略,また倫理や薬事規制への理解が必要となる.PMDAは本邦における薬事規制の観点から,開発戦略や試験プロトコルに対するアドバイスなどの業務を担っている.本稿ではまず初めに法律上の医療機器規制の概略を紹介し,次に規制当局側の視点におけるプログラム医療機器の審査について概説したい.

Support Vector Machine(SVM):機械学習におけるパターン(特徴量)認識モデルの一つで,2クラス分類する際には高い汎化性能を持つアルゴリズム.

Deep learning(深層学習):機械学習において,神経細胞を模したニューラルネットワークを多層化することにより特徴量の自動的な学習を可能としたアルゴリズム.

Ⅱ 医療機器の法律上の規制

(1)医療機器とは

医療機器は,「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律」(通称:薬機法) 7によって規制されている.薬機法において医療機器は,「人若しくは動物の疾病の診断若しくは予防に使用されること,又は人若しくは動物の身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすことが目的とされている機械器具等であって,政令で定めるものをいう」と定義されている.2014年の薬機法施行によってプログラム医療機器に関しても,薬機法にて規制されることとなった.プログラム医療機器は,「汎用コンピュータや携帯端末等にインストールされた有体物の状態で人の疾病の診断,治療若しくは予防に使用されること又は人の身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすことが目的とされるもの.」と定義されており 8,この定義に当てはまれば,いわゆる人工知能(AI)を用いたものも含まれる.

その製品が医療機器に該当するかどうかは,各都道府県で判断されるが,2021年4月より,AIを用いて開発されたプログラム医療機器(以下,AI医療機器)に関しては,PMDAを窓口にして医療機器該当性が判断されることとなった.

製品が,薬機法の規制対象であるかどうか(医療機器)は各都道府県の薬務担当課によって判断され,都道府県ごとに窓口が設置されている.

(2)プログラム医療機器について

プログラム医療機器は,「汎用コンピュータや携帯端末等にインストールされた有体物の状態で人の疾病の診断,治療若しくは予防に使用されること又は人の身体の構造若しくは機能に影響を及ぼすことが目的とされるもの.」と定義されている 8.「得られた結果の重要性に鑑みて疾病の診断,治療等にどの程度寄与するのか」及び「機能の障害等が生じた場合において人の生命及び健康に影響を与えるおそれ(不具合があった場合のリスク)を含めた総合的なリスクの蓋然性がどの程度あるか」の2点を考慮して,その該当性が判断される.例えば実診療下で大腸ポリープの検出補助,鑑別診断補助など,診断支援情報を提示するためのプログラムであれば診断,治療方針に影響を及ぼすためプログラム医療機器該当となるが,診療記録を整備するための業務支援プログラムや,医学教育のためのトレーニングプログラムなど,診断または治療の方針に影響を及ぼさなければ非該当となる.

(3)医療機器のクラス分類について

プログラム医療機器も含め,医療機器は,その人体へのリスクに応じて分類されている(Figure 1).分類に応じて規制は異なっており,高度管理医療機器(クラスⅢ,Ⅳ)と,管理医療機器(クラスⅡ)のうち認証基準がないものは,PMDAの審査を経て,厚生労働大臣の承認を得る必要がある.また医療機器は薬機法で定められた類別の下に,細かく使用目的と適用,機能に基づいて分類される一般的名称(Japan Medical Device Nomenclature:JMDN)がある.例えば内視鏡CADであれば,「病変検出用内視鏡画像診断支援プログラム(クラスⅡ)」,「疾患鑑別用内視鏡画像診断支援プログラム(クラスⅢ)」などが該当する一般的名称となる.前者はCADe,後者はCADxとなるが,CADxは質的診断補助であり治療方針への影響の強さなどを鑑みてクラスⅢと分類されている.それぞれの一般的名称の定義についてはPMDA医療機器等基準関連情報ホームページ等から確認できる.

Figure 1 

医療機器のクラス分類.

上記を踏まえて,以降は,消化器内視鏡領域において薬事承認されているAI医療機器を紹介するとともに,厚生労働大臣により承認される(PMDAによる審査が行われる)プログラム医療機器に関して,PMDAにおける審査の概要について述べる.

医療機器のうち比較的リスクの低いものとして厚生労働大臣が基準を定めて指定する医療機器については,製造販売にあたって厚生労働大臣の登録を受けた認証機関によって認証される.この基準を認証基準といい,指定される医療機器を,指定高度管理医療機器,指定管理医療機器という.

https://www.std.pmda.go.jp/stdDB/index_jmdn.html

Ⅲ 消化器内視鏡領域におけるAI医療機器開発の現状

(1)内視鏡CADについて

消化器内視鏡領域のCADは,大腸内視鏡の診断支援を中心に発展してきた.現在までに大腸内視鏡CADに関連する多くの研究開発が報告されている 9)~22

近年は大腸内視鏡にとどまらず,上部消化管内視鏡関連のCAD開発も進んできている.前述したように本邦では上部消化管内視鏡による一般検診が広く普及しており,腫瘍性病変の見逃しの低減はCAD開発が担う課題の一つである.これまでに,食道がんや胃がん見逃し低減を目的とした複数のCADに関して報告されている 23)~29.上部消化管はピロリ菌感染に伴う炎症等による修飾を強く受けることもあり大腸内視鏡CADと比較すると開発が困難であることが予想されるが,その成績は徐々に向上してきており,日常診療における有効性を示すことができる日も近いと思われる.

さらに腫瘍の深達度診断,病変の範囲診断,ピロリ菌感染予測や潰瘍性大腸炎の活動性評価といった診断支援プログラムも開発され 30)~39,今後はさらに疾患,使用目的の幅が広がっていくことが期待される.

(2)本邦で承認されている内視鏡CAD製品について

2021年4月時点で本邦において承認されている消化器内視鏡関連のAI医療機器をTable 1に示す.現在承認されている品目は,すべて大腸内視鏡検査における病変検出支援,または鑑別診断支援となっている.本邦で内視鏡CADの先駆けとなったサイバネットシステム株式会社の内視鏡画像診断ソフトウェアEndoBRAINは,大腸腫瘍の超拡大内視鏡画像をもとに腫瘍/非腫瘍を識別するプログラムである.病変ごとにSVMによって算出された診断確率が出力され,医師の診断支援を行う.超拡大内視鏡診断の診断における医師間の診断精度の均てん化を目的に開発され,2018年12月に本邦初のAIを用いて開発された内視鏡CAD製品として薬事承認された 40)~42.初の内視鏡CAD品目であったこともあり,前述したような評価系の検証は多くの議論を必要としたものの,そこで培われた開発ノウハウをもとに同社より次々と内視鏡CAD品目が開発申請され,2020年には3品目(EndoBRAIN-UC,EndoBRAIN-EYE,EndoBRAIN-Plus)が承認されている.最近では,富士フイルム株式会社の内視鏡検査支援プログラムEW10-EC02,日本電気株式会社のWISE VISION内視鏡画像解析AIが,それぞれ2020年9月,11月に承認されている.これらは大腸内視鏡検査における通常光観察,特殊光観察下において大腸ポリープの検出支援及び鑑別診断支援を行うプログラムである.

Table 1 

本邦において承認されているAIを用いた内視鏡CAD.

これらの品目は,前述した一般的名称「病変検出用内視鏡画像診断支援プログラム(クラスⅡ)」または「疾患鑑別用内視鏡画像診断支援プログラム(クラスⅢ)」に分類されているが,今後は病変の検出や診断支援にとどまらず,様々な用途のプログラム開発が予想されるため,使用目的に応じて,新たな一般的名称が適宜新設されることになるだろう.

今回提示した既承認品目はいずれもPMDAでの審査を経て,薬事承認を得た品目である.以降はその承認審査の流れについて概説する.

Ⅳ プログラム医療機器の薬事承認審査

(1)臨床的位置づけの確認

プログラム医療機器の承認申請については,2016年に厚生労働省からガイダンスが発表され論点が明確にされた 43.PMDAでの医療機器審査においては,対象品目の開発コンセプトと臨床的位置づけ(対象患者,疾患,適応,また既存治療との関係性など)を確認する.次いで,その品目が,どのようなニーズに対して開発されたものであるか,何を解決するためにどのような成果を期待しているかを把握する.例えば,ある消化管腫瘍の見逃しを減らすためという位置づけで開発されるプログラムの場合,臨床現場でどの程度の見逃しがあり,どのようなプログラムの性質があれば解決可能なのか,臨床的に意義のある有効性・安全性を担保するにはどれくらいの性能が必要なのか,を確認する.背景にある臨床ニーズと,解決するべき具体的な課題が明確にならなければ,その機器が目指すべき有効性・安全性も定まらず,必要な評価項目なども判断することができないため,臨床的位置づけの確認は,性能評価に関して論じる前に明確にしておく必要がある.

(2)評価方法について

また,前述のガイダンスでは,医療機器プログラムの評価に関する事項として,前述の①臨床的意義,計算アルゴリズムの妥当性を踏まえた評価,②試験検体のバージョン管理,③比較の対象の妥当性,④入力,出力データの妥当性,⑤精度の評価,⑥医療機器プログラムによる解析結果の実試験との相関関係の評価,実試験に対するシミュレーションの精度の評価が論点として挙げられている.これらの観点に基づき,製品の有効性・安全性の評価が適切に行われているかを確認する 6

性能評価をするための試験系についてはその妥当性について検討する.前向き試験を行わなければ評価ができないのか,既存のデータを用いた後ろ向きでの臨床性能評価で有効性及び安全性を評価可能であるかといった点については,前述した臨床的位置づけに基づき,その臨床的位置づけの達成をそのデザインで評価可能かという点から判断される.後ろ向きでの臨床性能評価を行う場合は,実際の臨床下での使用状況を適切に模擬できているかという観点からプロトコルを確認する.例えば診断支援のプログラムでは,医師による画像診断の正診率と比較することで性能評価をするようなプロトコルが考えられるが,その場合に適切な対照群が設定できるか(医師の成績が実臨床とかけ離れたものになっていないか),検証試験に用いるデータや検証方法が妥当か(試験群と比較対照群のいずれかに有利になっていないか,例えば検証に元の学習で用いた集団のデータセットを用いると,当然プログラムに有利な検証データセットとなる)などの観点から審査を行う.

データセットについては,臨床上想定されるバリエーションを網羅できており,一般化可能性を担保できるかが重要であるが 44,AI医療機器の場合,その基準を明確にすることは難しい.その理由の一つとして,AI医療機器がブラックボックスとしての性質を持つことが挙げられる 6),45),46.近年,機械学習の手法として多く取り入れられているdeep learningは,結果を出力する過程がブラックボックスとなっており,出力結果の予測や解釈が困難となることがある.そのため,事前に性能評価基準を定めづらく,結果的に網羅性(想定される病変,及び使用状況などが網羅されているか)を担保するために性能評価試験の規模が大きくなりやすい.そのため前述した臨床的位置づけの適切な整理と,目標性能及び最低限必要な評価についての事前に確認することが重要となってくる.

(3)評価に用いるデータの取扱いについて

データの処理方法や性能評価試験のプロトコルに関する課題に加えて,試験に用いる医用画像などのデータ品質や管理が妥当かどうかもまた重要な課題である.例えば,内視鏡CAD開発であれば,CTなどのX線画像を用いたCAD開発と異なり,データとなる内視鏡画像に術者による差が生じやすいという問題がある.CT画像は,撮影条件や患者情報などのバックグラウンドを揃えやすいが,内視鏡画像は,患者状態,術者,使用機器などの影響を受けるため,収集されたデータに偏りが生じやすく,学習や検証に用いるデータとして適切かどうか(一般化可能性がどの程度あるか)の判断が難しい.どの程度の網羅性があれば薬事承認可能であるかについては品目の位置づけや使用方法などにも左右されるため,個々の品目ごとに議論を重ねている状況である.

またプログラム医療機器の性能評価においては,臨床データを用いた試験であっても,そのデータの取扱いによっては承認申請時の資料としての扱い方は,治験とは異なる場合もある.いずれの扱いにしても,薬機法下の承認申請に用いられる試験は,データの再現性,追従性及び正確性等における信頼性の基準を満たしている必要があるため 47,実施した試験が承認申請に用いることができないといった事態に陥らないように,開発早期の段階からPMDAの開発前相談等を利用してほしい.

(4)内視鏡CADの評価方法について

前述した性能評価の流れについて,内視鏡CADを例に解説する.例えば内視鏡検査時の病変検出を補助するプログラム(CADe)であった場合,医師全体の病変検出精度を向上させる目的なのか,医師間の検出精度の均てん化が目的なのかなど,背景のニーズと照らし合わせながら本品の臨床的位置づけを確認する.臨床的位置づけが,検出精度の均てん化であった場合,具体的な使用者を明確にし(ノンエキスパートが用いるのか,エキスパートも含むのかなど),リスクとベネフィットのバランスがとれた性能であることが示されている必要がある.リスクに関しては,プログラムの使用に伴い従来の検査手技に変更が生じることによる検査精度の低下や,プログラムへの過信による検査精度の低下,また検査時間が延長してしまう負担増大などが考えられるが,性能評価を行う際には,これらのリスクに関する評価も行う.例えば,開発コンセプトがノンエキスパートの検出精度向上であった場合,比較試験によって,プログラムの検出精度がノンエキスパートを上回った場合でも,医療機器としてリスクベネフィットバランスが担保されているかの判断は難しい.使用者をノンエキスパートに限定する場合,習熟度による具体的な線引きは難しく,本品のベネフィットを享受できる使用者を明確にすることができない.使用者によっては前述したリスクがベネフィットを上回ってしまう可能性もあるため,目標精度の設定はリスク評価の観点からも慎重に行うべきと考える(例えば,エキスパートと同等の検出精度であること等).性能試験における評価項目としては,感度が重視されがちであるが,診断者のover diagnosisを防ぐために一定の特異度も必要である 48.また比較検証試験においては,前述したように比較対照群が妥当であるかについても確認する.内視鏡CADの場合は,臨床的意義が説明可能な具体的な目標性能を数値化しやすいこともあり,単群試験による性能評価が行われることも考えられる.その場合は,設定された目標性能の妥当性について,十分な科学的根拠のある数値であることを確認する.

試験に用いる病変の内訳(データセット)についても,前述した網羅性の観点から妥当性を判断する.例えば検出精度を評価するための比較試験において,対象のプログラムが比較対象とした医師の診断能を上回った結果であった場合,試験に用いられたデータセットが医師にとって診断が難しい病変ばかりであれば,あくまで製品の有効性は用いられたデータセット(医師にとって難しい病変)における有効性のみが示されたと判断される.これは前述したAIの持つブラックボックスの要素にも関連するが,「医師にとって診断が容易な病変」は必ずしも「AIにとって診断が容易な病変」であるとは限らないということである.

ほかの注意点として,内視鏡CADの使用方法に応じた検証が行われているかどうかも,審査における注目点となる.例えば,胃がんの検出支援を行うCADeにおいて,一部で正診率90%以上という高い成績が報告されている 26),49.非常に優れた成績であり,今後の実用化が期待される一方で,これらは静止画データを用いた検証試験成績となっている.しかし製品の使用方法が,画面の静止時ではなく,スコープ操作中に検出支援を行うものである場合は,静止画での検証は,実際の使用方法を適切に反映した検証とは言えない.静止画での検証で高い成績が得られた場合でも,実際の使用実態に即した動画による検証では大きく結果が変動するということもある.

繰り返しになるが,内視鏡CADにおいても,開発コンセプト(どのような臨床ニーズを満たす製品なのか)と,使用方法を含めた臨床的位置づけを確立することが重要である.それによって必要な評価が異なってくる点について前項で述べたとおりである.例えば,現在承認されている内視鏡CAD品目は,あくまで「医師の診断の補助」であり,また表示される結果が「医師の判断に先行しない」ことなどの臨床的位置づけを考慮して,後ろ向きでの臨床性能評価により有効性及び安全性が評価可能と判断された(Table 1).もしプログラムの結果のみで診断や治療方針に影響を及ぼすような位置づけの場合や,医師の判断に先行するような表示方法であった場合は,前向き検証試験の要否などを含めて,既承認品とは異なる評価方法の議論が必要であろう.

(5)プログラム医療機器に関連した法整備について

AIを用いたプログラム医療機器の場合,市販後に学習を継続することで性能向上及び調整をはかるというような運用も考えられる.しかしながら,薬機法上は,機器の有効性及び安全性に影響を与えるような変更の場合は変更申請の手続きを要すると規定されており,AI医療機器が想定する性能変化に適用するのは難しい現状があった.そのため,予め性能変化を見越して,その変更計画を審査の過程で確認することで,迅速な承認事項の一部変更を可能とする枠組みが整備された(Improvement Design within Approval for Timely Evaluation and Notice:IDATEN制度) 50.現時点で承認されているAI機器において市販後性能変化を見込んで審査・承認された品目はまだないが,今後この制度を活用した申請増加が予想される.ただし,本制度は適応拡大など臨床的位置づけの変更を想定していないことに留意する必要がある.IDATEN制度の目的は,医療機器の特性に応じ将来改良が見込まれている医療機器について,その改良計画自体を承認する制度となっている.この制度をうまく運用することで,機器の改良に伴う承認審査が円滑化することが期待される.

また,AIにおいては,活用されるデータの質のみでなく,データ量も重要であるため,ビッグデータの有効活用はAI関連機器において重要な課題の一つである.本邦においてもすでに消化器内視鏡領域では日本消化器内視鏡学会がJapan Endoscopic Database(JED) projectが2015年に発足し,ビッグデータ構築とその活用に向けての整備が進められている 51.一方で,本邦においては,個人情報を含むデータの取扱いについては,個人情報保護の観点からも慎重な意見が多い.医療機器業界においても扱うデータが診療情報であることもあり,製品開発やその実用化の方法も含めて議論すべき点は多い.

2018年に,「医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律(次世代医療基盤法)」 52が制定された.この法は,いわば個人情報保護法の特則となる位置づけで制定されており,従来施設ごとで行われることが多かった匿名加工処理を,国が認定した事業者を通じて行うことにより,原則オプトインが必要であった第三者への医用情報提供に関して,一定の要件下でオプトアウトでの提供も可能とすることが可能となる.これは本邦において分散されて蓄積されていた医用情報を集約しビッグデータを構築することで大規模研究を可能とすることなどを目的としている.この大規模研究の柱の一つとしてAIを活用したプログラム医療機器が位置づけられており,AI関連機器の開発における行政側の期待が大きいことが伺われる.

Ⅴ 終わりに

AI医療機器の薬事承認審査の実際について紹介した.現在承認されている消化器内視鏡領域のAI医療機器は大腸内視鏡診断支援のみであるが,今後は食道,胃などの診断支援プログラムや,治療手技支援プログラムなど,対象疾患,使用目的が拡充された製品の開発が予想される.開発に際しては,広く日常診療で用いることを見据えたロードマップを描き,より高品質な製品開発を効率的に目指すことが肝要である.IT分野において,本邦は諸外国に遅れをとっているという声も耳にするが,本邦の内視鏡CAD開発をみてもわかるように,決して技術的に劣っているわけではない.国際的競争力を高めていくためには,産学官の連携をより強固にし,豊富なシーズを着実に薬事承認に結びつけることが必要である.本邦における研究成果が,医療技術革新へと繋がり,最終的に患者及び社会に広く還元されることを期待して結びの言葉とする.

謝 辞

本総説において,ご協力頂いた以下の皆様に厚く御礼申し上げます(敬称略).

医薬品医療機器総合機構 田村敦史,方眞美,望月修一,穴原玲子,加藤健太郎,小野昭子,田中基嗣,浅田潔,辰川裕美子,高川哲也

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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