2021 Volume 63 Issue 11 Pages 2356-2371
術後再建腸管(Billroth Ⅰ法を除く)を有する胆膵疾患に対するバルーン式内視鏡を用いた胆膵内視鏡治療は,2016年に保険収載されて以来,第一選択の治療法として普及してきている.しかしながら,技術的に困難なことも多く,手技完遂率も施設間で様々であり,未だ手技の標準化に至っていないのが現状である.本稿では,バルーン式内視鏡(特にダブルバルーン内視鏡)を用いた胆膵内視鏡治療のコツと困難症例や偶発症に対するトラブルシューティングについて概説する.
胆膵疾患に対する診断・治療において,内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査(ERCP)は最も精度の高い検査・治療法の一つである 1)~3).しかしながら,術後再建腸管を有する胆膵疾患に対する内視鏡的アプローチは,Y吻合部からの距離,屈曲などの特殊な解剖学的特性に加えてY吻合部までの距離や術後癒着のため,従来の内視鏡では盲端部への挿入,乳頭や胆管・膵管空腸吻合部への到達が困難であり,満足いく結果は得られなかったため 4)~7),これまで経皮的治療や外科的治療が選択されてきた.しかし経皮的治療は,易出血性症例や腹水貯留例など禁忌症例も多く,さらに膵疾患に対しては適応外であり,適応疾患に制限がある.また外科的治療は,かなり侵襲的である.そこで,内視鏡的アプローチを可能にするために,小腸疾患の診断・治療目的に開発されたバルーン式内視鏡(balloon assisted endoscopy;BAE)を応用したERCP(BAE assisted ERCP;BAE-ERCP)が考案され,最近では数多くの報告もなされるようになってきた 8)~19).しかしながら,困難症例も多く,各施設間で手技完遂率も様々で,手技の標準化に至っていないのが現状である.本稿では,バルーン式内視鏡(特にダブルバルーン内視鏡)を用いた胆膵内視鏡治療のコツと困難症例や偶発症に対するトラブルシューティングについて概説する.
BAEは,バルーンで腸管を把持し,腸管を短縮しながら深部まで挿入していく新しい挿入概念に基づいた内視鏡である 20).現在,日本で市販されているBAEは,FUJIFILM社製のダブルバルーン内視鏡(double balloon endoscope;DBE)とOLYMPUS社製のシングルバルーン内視鏡(single balloon endoscope;SBE)があり,胆膵内視鏡治療専用機としてFUJIFILM社よりshort type DBE(有効長:155cm,鉗子口径:3.2mm;EI-580BT)が,OLYMPUS社よりshort type SBE(有効長:152cm,鉗子口径:3.2mm;SIF-H290S)が発売されている.
この胆膵内視鏡治療専用機の特徴は,scopeの有効長が短くなり,鉗子口径が大きくなったことにより,既存の胆膵用デバイスの大部分が使用可能となったことで,従来のERCPと同等の処置がより安全に完遂できるようになってきた 17)~19).さらに,術後再建腸管に対してscope挿入性を向上させるために,FUJIFILM社のEI-580BTは高追従挿入部(advanced force transmission function)およびカーブトラッキング機構(adaptive bending system)が搭載されており 17),18),OLYMPUS社のSIF-H290Sは高伝達挿入部(high-force transmission)および受動灣曲(passive bending)を搭載している 19).
また,FUJIFILM社製のEI-580BTは胆管アプローチを行う際(特に経乳頭的アプローチ),主乳頭を正面視しretroflex positionがとりやすくするために今まで以上にscope先端部の小回りが効くように,アングル機動性が向上しており,主乳頭へのアプローチおよび乳頭処置(ESTなど)が行いやすいように,鉗子口も内視鏡画面の5時半に位置させている.現在市販されているBAEをTable 1に示す.
市販されているバルーン式内視鏡の種類.
胃・十二指腸癌などに対する胃切除術の代表的な再建術式として,Billroth Ⅰ再建法・Billroth Ⅱ再建法・Roux-en Y再建法がある.胃全摘術後の生理的な吻合を目指した再建方法としてDouble tract法・空腸間置法などもあるが,近年鏡視下手術が増加したことにより胃全摘術後Roux-en Y再建法(Figure 1-a)が行われることが多い.
Roux-en Y再建法のシェーマ.
a:胃全摘Roux-en Y再建法のシェーマ.
b:胃温存Roux-en Y再建法のシェーマ.
膵臓癌・下部胆管癌などに対する膵頭十二指腸切除術の再建術式として,Child(変)法,Whipple法,今永法などがあるが,現在,日本では主にChild(変)法を行う施設が多い.
肝門部・上部胆管癌や先天性胆道拡張症・合流異常症などに対する胆管切除術の再建術式として,胃温存Roux-en Y再建法(Figure 1-b)が行われることが多い.
BAE-ERCPを完遂するには,盲端部へのスコープ挿入および胆管挿管とERCP関連手技のすべてを成し遂げなければならない.
1.再建法別の内視鏡深部挿入テクニックBAEの盲端部への深部挿入は再建法別に難易度は異なる.
a.Billroth Ⅱ再建法
Billroth Ⅱ再建法には,short afferent loop(SAL) Typeと long afferent loop(LAL) Typeがあり,後者は輸入脚と輸出脚との間にBraun吻合と呼ばれる空腸空腸吻合を有することが多い.これらの再建方法による違いがスコープ挿入の難易度に関わる 21).
SAL Typeでは,吻合の角度が急峻であり,輸入脚と思われる腸管開口部の同定が難しく,かつ挿入が難しい.輸入脚の開口部は,通常吻合部を越えて左上方に位置することが多いが,輸出脚の開口部より対側に管腔がつぶれた状態で存在するため,輸入脚の入り口は胃内腔より観察されないことも多い(Figure 2-a).輸入脚への挿入のコツは,アップアングルを用い輸入脚にスコープの方向を合わせ,徐々にダウンアングルをかけながらスコープを「引く」ことで,輸入脚の方向へスコープ先端の方向を一致させて,輸入脚へと滑りこませる.
Billroth Ⅱ再建法に輸入脚の内視鏡像.
a:Short Afferent Loop.
b:Long Afferent Loop.
LAL Typeでは輸入脚へのスコープ挿入について難しいことはあまりない.胃内腔より腸管開口が2つ見えており,どちらにも比較的容易にスコープを挿入できる(Figure 2-b).しかし,輸入脚が長い症例では癒着の問題があり,輸入脚と輸出脚がBraun吻合で吻合されている症例では管腔が迷路状態になっているため注意が必要であるが,Braun吻合を上手く利用することで盲端部へより容易に挿入することもできる.
b.Child(変)法
Child(変)法は,前述したLAL Typeとほぼ同様の再建である場合が多い.胃内腔より腸管開口が2つ見えており,どちらにも比較的容易にスコープを挿入できる.輸入脚と輸出脚がBraun吻合で吻合されている症例では,管腔が迷路状態になっているため一見困難に思われるが,解剖学的に理解することでBraun吻合を上手く利用することができ,盲端部へより容易に挿入することができる 22).Braun吻合で吻合されている症例では,胃空腸吻合部で輸入脚ルート・輸出脚ルートのいずれを選択しても盲端部に到達できる.輸入脚ルートから挿入した場合は,Braun吻合部の縫合線を越えないで一番端の管腔に進めば盲端部に到達できる.一方,輸出脚ルートから挿入した場合は,Braun吻合部の縫合線を越えて真ん中の管腔に進めば盲端部に到達できる.つまり,Braun吻合で吻合されていない症例では最初から輸入脚ルート(盲端部への挿入角度が急峻)を選択しなければならないが,Braun吻合で吻合されている症例では輸出脚ルート(盲端部への挿入角度が鈍)からBraun吻合を経由して盲端部に戻れば挿入は比較的容易である.ただし,輸入脚が長い症例では癒着の問題があり,われわれの経験では術後膵液瘻を併発した症例では,盲端部付近に頑固な癒着が存在し,深部挿入に苦渋することがあるので注意が必要である.
c.Roux-en Y再建法
一般的にRoux-en Y再建法が最も挿入困難な再建法であると言われているが,胃切除例(R&Y with total/partial gastrectomy)と胃温存例(R&Y with hepaticojejunostomy)で難易度は異なり,胃切除例に比べて胃温存例の方が挿入困難である場合が多い.
ⅰ)胃切除後Roux-en Y再建法
Roux-en Y再建法で先ず問題となるのは,Y脚吻合部に到達した際に,輸入脚を見極めることである.Y脚吻合部は端側吻合と側側吻合の場合がある.堤らも提唱しているが 22),“吻合部の縫合線”を利用した挿入法が有用である.本術式でのY脚吻合部は,一般的に端側吻合が多いが,器械吻合の場合や外科医の好みにより側側吻合で再建されることもある.端側吻合の場合,輸入脚は挙上空腸の側方に縫合されており,見逃されやすいため注意が必要である.この2つに分岐するY脚吻合部で,“縫合線”を越える側の管腔を選択して進めると,盲端部に到達できる.側側吻合の場合,Y脚吻合部で3つの管腔が観察されるが,通常,“縫合線”を越えて,真ん中の管腔へ進むと輸入脚である.輸入脚にスコープを進めることができれば,あとは比較的容易に盲端部まで挿入可能である場合が多いが,トライツ靱帯を越えて水平脚付近で頑固な癒着を認める場合があるため注意して癒着を越える必要がある.挿入のコツとして,スコープをストレッチするのではなく,大きなループを描きながら,あまりプッシュ操作は行わず,アングル操作を用いて慎重に挿入することである.もう一つのコツとしては,胆管アクセスの際にカニュレーションが行いやすくなるようなスコープ形状になるように挿入することである.つまり,最終的にretroflex positionにより主乳頭を正面視しやすい状態になるように,手前のループを大きく作りながら挿入するなど,ERCP関連手技をより行いやすくすることを気にしながら挿入することも重要である.
ⅱ)胃温存Roux-en Y再建法
本術式は,解剖学的に盲端部までの距離が長く,複数の屈曲部を伴うためにスコープが撓みやすく,癒着の影響も受けるため,盲端部への到達が最も難しい.胃切除後Roux-en-Y再建法と同様に,Y脚吻合部は端側吻合と側側吻合の場合があり,側側吻合の場合は,胃切除後Roux-en-Y再建法と同様に“縫合線”を利用できる.しかし,本術式の端側吻合は,胃切除後Roux-en-Y再建法とは異なり,Y脚吻合部では“縫合線”を越えて二股に分岐する形態をとるため,唯一“吻合部の縫合線”を利用した挿入ができない.この端側吻合の場合は,インジゴカルミン散布法などが有用な場合があるが 23),たとえ輸入脚を同定できたとしても,Y脚吻合部の角度が急峻な場合は,スコープ先端部に力が伝わらず,盲端部へ逆行性にスコープを進めることが困難である.これらの問題を解消するため,short type DBE(EI-580BT)は高追従挿入部・カーブトラッキングシステム 17),18),short type DBE(SIF-H290S)は高伝達挿入部・受動灣曲 19)を搭載しており,よりY脚吻合部を越えて輸入脚への挿入が行いやすくなっている.
Y脚吻合部を越えて輸入脚へ挿入するコツは,送気を最小限にして,プッシュ操作はあまり行わず,アングル操作(特にダウン操作)を用いながら挿入することである.特にDBEを使用している場合は,内視鏡先端のバルーンを半分程度膨らませて,プッシュ操作することでスコープが滑り落ちることなく輸入脚に逆行性に挿入可能な場合がある.
輸入脚にスコープを進めることができれば,あとは一気に盲端部まで挿入するが,輸入脚が長く,多数の癒着が存在する場合には,スコープをある程度ストレッチして,できるだけオーバーチューブを輸入脚の深部まで追従させることもコツである.DBEを使用している場合は,内視鏡先端にバルーンがあるため,スコープがスリップすることなくオーバーチューブを輸入脚の深部まで追従させることができる.
2.再建法別の胆管挿管テクニックBAE-ERCPにおける胆管挿管には,経乳頭部的アプローチと経胆管空腸吻合部的アプローチがある.胆管挿管において使用デバイスの選択は重要である.筆者らは先発デバイスとして,経乳頭部的アプローチの際は先端ストレート細型タイプのカニューレ(MTW ERCP catheter;ABIS社製)と0.025インチで比較的柔らかいガイドワイヤー(MICHISUJI;カネカ社製)を,経胆管空腸部的アプローチの際は胆道結石除去用カテーテル(Tri-EX Triple Lumen Extraction Balloon;COOK社製)と0.025インチで比較的コシのあるガイドワイヤー(VisiGlide 2TM;OLYMPUS社製)を使用している.
a.Billroth Ⅱ再建法
Billroth Ⅱ再建法は,経乳頭部的アプローチとなる.盲端部まで到達すると乳頭部は画面の左側ないし上方に見上げの状態で観察される(Figure 3-a).この見え方は,通常のERCPとは上下反対方向になっている.できるだけスコープのループを解除し,オーバーチューブ先端バルーン,時には内視鏡先端バルーンも用いることで,腸管を把持しスコープが抜けることなく安定してスコープ操作を行うことができる.ここで注意点として,腸管に過度なテンションがかからないように,あまりオーバーチューブを盲端部付近まで深部挿入しないことである.胆管挿管のコツは,主乳頭を画面の6時方向に位置させることである.short type DBE(EI-580BT)使用の場合,造影カニューレは内視鏡画面の5時半の位置から出るため,この状態にすれば胆管軸に合った状態でダウン方向にポジショニングできる(Figure 3-b).先端ストレート細型タイプのカニューレを使用して主乳頭を押しつけるようなイメージで,送気と吸引を上手く用いて胆管方向に微妙な軸合わせをしながら胆管挿管することで,比較的容易に胆管深部挿管が可能である.
Billroth Ⅱ再建法における主乳頭のポジショニング.
a:盲端到達時.
b:胆管挿管アプローチ時.
b.Child(変)法
Child(変)法は,経胆管空腸吻合部的アプローチとなる.先ず胆管空腸吻合部を見つけることが重要で,特に吻合口がピンホール状に狭窄している良性狭窄の場合には慎重に探す必要がある(Figure 4-a).透視像で胆管空腸吻合部の位置をある程度推測して,胆汁の流出が少しでも認められる場合は,その周辺を探すことで見つけることができる.また吻合部周囲のulcer scar様の粘膜像が吻合口発見の手がかりになることもある.特に胆管空腸吻合部が完全に閉塞しており発見に苦渋する場合(Figure 4-b),DBEであれば内視鏡先端バルーンを膨らませ,生理食塩水で盲端部を満たすことで,腸管の襞が広がり,水中観察を行うことで胆汁が水中に漏れ出る様子(のろしサイン)が確認できれば(Figure 4-c),胆管空腸吻合部を同定できることもある 24).一方,吻合部の悪性狭窄の場合は,吻合部は比較的容易に見つけることができるが,吻合口は腫瘍により潰されていることがあるので注意が必要である.次に胆管挿管であるが,透視像で胆管の位置を確認しながら胆管空腸吻合部を内視鏡画面の正面に位置させることで,比較的容易に胆管挿管が可能である.
胆管空腸吻合部良性狭窄.
a:ピンホール状狭窄.
b:完全閉塞.
c:水中観察による“のろしサイン”.
c.Roux-en Y再建法
Roux-en Y再建法は,経乳頭部的アプローチと経胆管空腸吻合部的アプローチの両方がある.
ⅰ)乳頭部へのアプローチ
胃切除後Roux-en Y再建法であり,盲端部まで到達すると乳頭部は画面の11時〜1時方向,見上げの状態で観察されることが多いが,時に画面の様々な場所に確認されるので,注意して主乳頭を探す必要がある.ここで重要なことは,基本的に主乳頭は接線方向に観察されることが多いので(Figure 5-a),アングル操作とスコープ操作を組み合わせて主乳頭を正面視できるようにポジショニング(retroflex position)することである(Figure 5-b).そのため,スコープのループはあえて解除せずに,できるだけ大きな逆αループを形成して,オーバーチューブも深部まで追従させずに逆αループの途中で止めておく(Figure 5-c).胆管挿管のコツは,short type DBE(EI-580BT)使用の場合,主乳頭を発見後にスコープ操作により主乳頭を画面の6時方向に位置させることで,前述したBillrothⅡ再建術の胆管挿管法と同様の方法で,胆管挿管が可能である.
Roux-en Y再建法における主乳頭の見え方.
a:接線方向の主乳頭観察.
b:Retroflex Positionによる主乳頭観察.
c:retroflex positionのスコープ形状とオーバーチューブの位置.
ⅱ)胆管空腸吻合部へのアプローチ
胃温存Roux-en Y再建法であるため,胃内でのスコープの撓みなどでスコープの操作性がやや煩雑となる場合がある.ここで重要なことは,胃切除後Roux-en Y再建法の時とは異なり,スコープをできるだけストレッチして,スコープの操作性を保っておくことである.胆管挿管のコツは,透視像も参考にしながら吻合口を発見できれば,吻合口を内視鏡画面の正面に位置させれば比較的容易に胆管挿管可能である.ただし,胆管は空腸壁に対して垂直方向に吻合しているため,吻合口に対して胆管方向はきつい角度(接線方向)になることもあり,吻合口を内視鏡画面の正面に位置させることができない場合は,手元のハンドル操作でカニューレの先端が360度回転可能なsphincterotome(Autotome RxTM;Boston Scientific, Osaka, Japan)を用いて角度をつけて胆管挿管を試みる.
3.ERCP関連処置テクニックa.乳頭処置
術後再建症例では乳頭の上下方向が逆となること,専用のsphincterotomeがないことなどから,内視鏡的乳頭切開術(Endoscopic sphincterotomy:EST)は十分に熟練した胆膵内視鏡医がいる施設で行われるべきである.基本的にガイドワイヤー誘導下に使用可能なデバイスを用いてのESTが望ましい.また,必ずしも適切な方向にブレード(刃)が向くとは限らないため,われわれはブレードが回転可能な押し切りタイプのsphincterotome(Rota CutⓇ BⅡ;MEDICOʼS Hirata社製やCorrectomeTM;Boston Scientific社製など)を好んで用いている.ESTのコツは,BAEには起上鉗子装置がないため,いかに主乳頭をしっかり定位置に固定することができるかである.short type DBE(EI-580BT)使用の場合,鉗子口の位置が内視鏡画面5時半にあるため,主乳頭を内視鏡画面6時方向に位置させ,ダウンアングルをかけることで,しっかり主乳頭を固定させて安定した視野で切開することができる(Figure 6-a,b).これは,大腸ポリペクトミーなど内視鏡処置における基本手技の考え方と同様で,標的となるものを内視鏡画面の6時方向に位置させることで安定した視野で安全に内視鏡処置が行えるということである.ただし,ESTが困難な症例では,あまり無理をせずに手技的に比較的容易な内視鏡的乳頭バルーン拡張術(Endoscopic papillary balloon dilation:EPBD)に切り替えることも重要である.
ESTの実際.
a:push type papillotomeによるEST.
b:EST後.
b.結石除去術
基本的には,結石嵌頓などを避けるために機械的結石破砕具を用いて,結石を破砕してから結石除去術を行うのが望ましい.ガイドワイヤー誘導下に挿入可能なゼメックスクラッシャーカテーテル(XEMEX crusher catheter;ゼオンメディカル社製)は,シース径が7Frのため鉗子口径が2.8mmの内視鏡にも使用可能で,バリエーションとして,有効長200cm(LBGT-7420S)と250cm(LBGT-7425S)があるため,short type BAEは勿論のこと,standard type BAEでも使用可能である.結石除去術のコツは,乳頭から結石を排石する際に胆管軸に合わせて排石することである 26).術後再建腸管症例ではスコープ操作だけで胆管軸に合わせて排石することは困難であるため,アングル操作を併用して排石することが重要で,強引に引っ張り出そうとすると穿孔のリスクもあるため,無理はせず結石を破砕してから結石除去術を行うべきである.ただ,大口径バルーンを用いる内視鏡的乳頭大口径バルーン拡張術(Endoscopic papillary large balloon dilation:EPLBD)の有用性が報告され 25),近年EPLBDが普及したことで,結石を破砕することなく,より安全で容易に結石除去術を完遂できるようになってきた.当院でも截石術の際には積極的にEPLBDを取り入れており,常に,一回の手技で完全採石を目指している.特に術後再建腸管症例は,乳頭部に食事が通過しないことや截石術が困難な症例が多いことなどからEPLBDのとてもよい適応であると考えている.
c.胆管空腸吻合部拡張術
胆管拡張用バルーンカテーテル(REN;カネカ社製,Quantum TTCⓇ;Cook社製など)を用いて胆管空腸吻合部拡張術を行う 27).胆管拡張用バルーンカテーテルが挿管できないほど頑固な狭窄の場合,通電式ダイレーターカテーテル(Cysto-Gastro-Set;Century Medical, Inc.)を用いて胆管へアクセスしてから胆管拡張用バルーンカテーテルを挿入する.拡張バルーン径は,症例に応じて6mm,8mm,10mmを使い分ける.
d.ステント留置術
胆膵内視鏡専用機のshort type BAEでは,基本的にself-expanding metallic stent(SEMS)の使用が可能となった.ただし,有効長の問題でuncovered SEMS・(partial / full)covered SEMS別にそれぞれ使用できるサイズに制限があるので注意を要する.short type BAEで使用可能なSEMSについてTable 2に示す.
short type BAEにて使用可能なSEMS.
困難例対策として,膵管ガイドワイヤー留置法はとても有用である.膵管のガイドワイヤーで主乳頭を押さえることで,主乳頭が正面に位置付けされ固定できるだけでなく,主乳頭が6時に位置していれば,膵管ガイドワイヤーの左上を沿わすようにカニューレを出していくと,比較的容易に胆管深部挿管が可能となる(Figure 7-a,b).最近では,ダブルルーメン造影カニューレ(Uneven Double Lumen Cannula;PIOLAX社製)を用いた膵管ガイドワイヤー法の有用性も報告されているが 28),サイドホールが上手く胆管方向にむかない場合も多く,カニューレのサイドホールの位置に依存する部分が多いのが難点である.
膵管ガイドワイヤー留置法.
a:内視鏡像.
b:透視像.
主乳頭が下十二指腸角から水平脚付近に存在する場合や憩室内乳頭である場合など主乳頭の正面視が困難で,膵管造影すら得られない場合には,有効長133cmのlong type極細径内視鏡(EC-530XP;FUJIFILM社製)を用いたCombination法による胆管挿管が有用なことがある 29).極細径内視鏡を用いる理由として,内視鏡先端部の回転半径がDBEより小さく,反転操作により主乳頭を正面視しやすく(Figure 8-a,b),憩室内乳頭症例においても憩室内に極細径内視鏡を挿入して主乳頭の発見・正面視が可能となることが挙げられる.糸井らも術後再建症例における極細径内視鏡の有用性を報告しているが 30),通常の極細径内視鏡では有効長が短いため,オーバーチューブをmodifyしなければならなく,手技が少し煩雑となるが,long type極細径内視鏡(EC-530XP)を使用することで,オーバーチューブをmodifyすることなくスコープの入れ替えが可能であり(Figure 8-c),手技はとてもシンプルで煩雑さがないため,困難例対策の一つとして有用な方法であると考えられる.
Combination法.
a:short type DBEのアングル部分.
b:long type 極細径内視鏡のアングル部分.
c:オーバーチューブ内にlong type極細径内視鏡を入れた状態.
困難例として,胆管空腸吻合部完全閉塞症例が挙げられる.この場合,胆管空腸吻合部の吻合口が視認できないため,胆管アプローチに苦渋する場合が多い.その対策として経皮的胆道鏡を併用したRendezvous法 24),31),EUSを用いたintervention 32),局注針を用いた胆管穿刺胆管造影法 33)などが報告されているが,それぞれの方法には一長一短がある.局注針を用いた胆管穿刺胆管造影法は,20G局注針(有効長;200cm,針突出長;5mm;トップ内視鏡用穿刺針)を用いて(Figure 9-a,b),透視下に胆管の位置を推測して,ulcer scar様粘膜を介して胆管めがけて針を穿刺し(Figure 9-c),胆管造影を試みる.胆管造影が得られたら(Figure 10-a),ハンドル部分のシース外筒のみ切り落とし,局注針のシース内筒内に0.025インチのガイドワイヤーを通し(Figure 10-b,c),胆管にアクセスして胆管挿管を行う.ただし,本法は難易度が高いため,安易に施行すべきではないが,困難例対策の一つとして考慮してもよい方法であると考える.
胆管穿刺造影法.
a:short type DBEに使用可能な局注針(有効長;2,000mm,トップ社製)を使用.
b:針(最大針長;5mm,20G)の出し入れは比較的スムース.
c:ulcer scar様粘膜を介して胆管めがけて針を穿刺.
胆管穿刺造影法を用いた胆管アプローチ.
a:局中針による胆管造影.
b:シース外筒のみに切れ目を入れてハンドル部分を切離する.
c:シース内筒にガイドワイヤー(0.025インチ)を通す.
巨大積み上げ結石や微少結石・袋状に拡張した肝内胆管結石などの結石除去困難症例に対しては,前述したlong type極細径内視鏡(EC-530XP)を使用したCombination法が有用である.Combination法のコツは,先ずDB-ERCPにて乳頭または胆管空腸吻合部処理を施行した後,オーバーチューブを極力盲端部付近まで深部挿入し,盲端部付近にオーバーチューブを留置しDBEを一旦抜去する.次に,留置したオーバーチューブ内を通してlong type極細径内視鏡(EC-530XP)を盲端部まで挿入し,さらに経乳頭的に総胆管内(Figure 11-a)や経胆管空腸吻合部的に肝内胆管内まで挿入する(Figure 11-b).巨大積み上げ結石やConfluence stone症例の場合には,直接結石を確認しながら,レーザー砕石術や電気水圧衝撃波結石破砕術を用いて砕石術を行う.また,袋状に拡張した肝内胆管内の結石は,通常の方法では截石困難な場合が多いため,直接結石を確認しながら截石術を行う.
Combination法の実際.
a:経乳頭的にlong type極細径内視鏡を胆管内挿入.
b:経胆管空腸吻合部的にlong type極細径内視鏡を肝内胆管に挿入.
基本的に膵管空腸吻合部は接線方向に存在することが多いため,膵管空腸吻合部狭窄症例のほぼすべてが困難症例で,いかに膵管空腸吻合部を発見するかが重要である.その対策として,ロングノーズの先端透明フードの使用が有用である.膵管空腸吻合部を発見するコツは,先ず膵断端を腸管に固定している非吸収糸を見つけることである.通常,膵断端は腸管に2-3箇所以上で固定されていることが多いため,その非吸収糸の間に膵管空腸吻合部が存在する.ただ,非吸収糸は粘膜下に存在しており内視鏡下に非吸収糸を発見できないことも多いため,先端透明ロングフードを粘膜に押しつけながら,透明フード越しに非吸収糸を探すことがポイントである(Figure 12-a).非吸収糸を発見したら,その周辺のulcer scar様の粘膜を探すとピンホール状の膵管空腸吻合口を発見することができる(Figure 12-b).膵管空腸吻合口を内視鏡画面中央部に位置させることで膵管挿管が容易になる.ここでロングノーズのフードを用いることで,粘膜との距離を保つことができ,視野を確保できることもメリットである.
ロングノーズの先端透明フードを使用した膵管空腸吻合部アプローチ.
a:ロングノーズの先端透明フードを使用して膵断端を腸管に固定している非吸収糸を見つける.
b:ピンホール状の膵管空腸吻合部狭窄.
BAE-ERCPにおける偶発症として,穿孔・裂傷・出血・膵炎など従来のERCPと同様のものが生じると考えられているが,従来のERCPに比べて穿孔の発生頻度が高いと報告されている 9),34).その理由として,術後癒着の存在が挙げられているが 35),その癒着のお陰で万一穿孔が生じた場合でも,適格に対処すれば症例によっては緊急手術を回避することができるとの報告もある 34).穿孔(micro perforation)が生じた場合(Figure 13-a),先ず穿孔部の縫縮が可能であれば縫縮術を行う(Figure 13-b).次にガイドワイヤーを胆管内と盲端部付近に留置し,オーバーチューブを穿孔部付近まで深部挿入し,経鼻的胆管ドレナージ(ENBD)チューブを胆管内に留置し,オーバーチューブを残して一旦BAEを抜去する.その後,残したオーバーチューブ内に太めのENBDチューブを盲端部付近に留置する(Figure 13-c).胆管内のENBDチューブで胆汁を,盲端部のENBDチューブで膵液を含む腸液をドレナージすることで,緊急手術を回避できることも多いので,知っておくべき緊急対処法の一つである.
穿孔(micro perforation)に対するトラブルシューティング.
a:穿孔部の内視鏡像.
b:穿孔部に対するクリップによる縫縮術.
c:穿孔に対する対処法.
バルーン式内視鏡(short type DBEを中心に)を用いた胆膵内視鏡治療のコツとトラブルシューティングについて概説した.近年,術後再建腸管を有する胆膵疾患に対する内視鏡的治療の需要は増加傾向にあり,様々な治療法が提唱されているが,胆膵内視鏡治療の基本はあくまでERCPであり,ERCPの亜型であるBAE-ERCP手技の習熟に努めるべきである.しかしながら,一定の確率で困難例は存在するため,経皮的治療やEUS interventionなどのrescue therapyとも組み合わせて,治療の完遂を目指すべきである.
本論文内容に関連する著者の利益相反:島谷昌明(FUJIFILM株式会社,株式会社カネカ,ゼオンメディカル株式会社,ガデリウス・メディカル株式会社)