2021 Volume 63 Issue 11 Pages 2372-2379
大腸内視鏡の普及により大腸腫瘍の発見および内視鏡治療の機会は増加している.発見した病変に対する治療法は,病変のサイズや位置,組織型などに応じて様々な方法が選択される.径20mm以下の腫瘍性病変であればスネアを用いた切除が安全かつ有効であり,外来で施行されることも多い.一方,径20mmを超える病変や粘膜下層の線維化等によるnon-lifting sign陽性粘膜内病変,粘膜下層軽度浸潤癌を疑う病変に対しては,ESDを選択する場合が多いと考える.しかし,ESDには手技の難易度や処置時間,コストの問題などが存在する.本稿では,EMRとESDの中間的手技であるhybrid ESDについて手技の概要からコツまで解説し,さらに新規デバイスであるSOUTENⓇのメリットと使い方についても概説する.
現在,径20mm以上の大腸腫瘍に対しては,2012年4月に保険収載された内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)が広く行われている.しかし,ESDは内視鏡的粘膜切除術(EMR)に比較し,①手技が難しい,②手技時間が長い,③複数のデバイス使用によりコストが高い,という欠点がある.近年,conventional EMR(cEMR)とESDの中間的手技としてhybrid ESDが登場した.日本消化器内視鏡学会の内視鏡用語集 1)では「ESD専用ナイフあるいはスネア先端を用いて病変周囲を切開した後,粘膜下層の剝離操作を行い,最終的にスネアリングを施行する手技」と定義されている.hybrid ESDはESDにおいて長時間を要する場合が多い,粘膜下層剝離のステップをスネアリングによる切除で省略することにより,前述の欠点②を克服できる可能性がある.さらに,先端に1.5mm長のナイフを備えた多機能スネアであるSOUTENⓇ(カネカメディックス)を用いることで,粘膜切開・粘膜下層剝離・スネアリングまでのすべての行程を1つのデバイスで行うことが可能となった.コストおよび処置具の入れ替えに要するタイムロスを低減できる可能性があり,hybrid ESDがより受け入れやすい手技となった.今回はhybrid ESDの手技およびSOUTENⓇの利点について概説する.
hybrid ESDの定義は日本消化器内視鏡学会の内視鏡用語集で示される通りで,似たような手技としてprecutting EMRが存在する.precutting EMRは同用語集においては「ESD専用ナイフあるいはスネア先端を用いて病変周囲を切開した後,粘膜下層の剝離を全く行わずにスネアリングを施行する手技」と定義されており,両手技はともにEMRとESDの中間的手技であるものの,本質的に異なる.大腸腫瘍に対するprecutting EMRは2012年にはじめて報告された 2).吉田ら 3)の報告によると,径20-30mmの大腸腫瘍に対するprecutting EMRの一括切除割合は,cEMRに比し,有意に良好な成績(88.6% vs. 48.5%,p<0.001)であった.しかし,粘膜下層への局注により良好な病変挙上が得られる隆起型病変に対しては手技の完遂は容易だが,粘膜下層に線維化を伴うような病変においてはスネアリング時にスネアが滑り,一括切除が困難となることが多い.hybrid ESDはprecutting EMRの手技に粘膜下層剝離を追加することで,スネア絞扼の正確性を向上し得る.線維化症例のように,cEMRやprecutting EMRでは絞扼困難であった病変に対しても,確実な一括切除を期待できる.上記の点では,EMRとESDの中間的手技でありつつもhybrid ESDは比較的ESDに近い手技であり,大きさの要素を除けば,概ねESDが必要となるような病変まで適応することができる.
SOUTENⓇはカネカメディックスから発売されている高周波ナイフである.本デバイスの最大の利点は,1つのデバイスにスネアとナイフを備えている点である.マーキングから粘膜切開,粘膜下層剝離,スネアリングまで1つのデバイスで施行可能である(Figure 1).スネア幅は15mm,20mmの2タイプがあり,ナイフ部長は1.5mmとなっている.当施設で通常,大腸ESDを行う際に用いる先端系デバイスであるDual KnifeTM(オリンパス)およびITknife nanoTM(オリンパス)とそのナイフ長を比較してみると,Dual KnifeTM(モデル名KD655Q/L)はナイフ突出長が1.5-2.0mm,ITknife nanoTM(モデル名KD-612Q/L)は3.5mmであり,デバイスの形態も含めDual KnifeTMとイメージは近い(Table 1).

SOUTENⓇの解説.カネカ高周波ナイフ添付文書より引用,一部改変.

SOUTENⓇとその他デバイスの比較.
SOUTENⓇは内視鏡鉗子口径2.4mm以上で使用可能であることから,ESDと同様に汎用スコープで利用可能である.先端フードを使用することで処置が容易となるが,スネアリングの際にはスネアと病変を一望できる広い視野が望ましいため,筆者らは突出長が長いフードや先細りタイプは避けている.治療開始前に病変全体を視認した上でスネアリングが可能なスコープポジションを確認し,SOUTENⓇのナイフ先端を用いて周囲マーキングを行う.マーキングのマージンが大きくなるとスネアリングが困難となる場合があり,必要以上にマージンを取りすぎないことが肝要である.また,当院の高周波装置(ERBE,VIO300D/APC2)の設定は,粘膜切開ENDO CUT I,Effect 2 duration 2,interval 2,粘膜下層剝離にSWIFT COAG,Effect3,45Wとなっている.
2 局注当院においてはESDと同様に,ヒアルロン酸ナトリウム(ムコアップⓇ,ボストン・サイエンティフィック)にわずかにインジゴカルミンを加えた局注液を用いる.局注を行った際に,高度線維化も含めnon-lifting signを認める症例が存在する.一般に,挙上不良部位から離れた位置から絞扼を始めると,粘膜下層を正確に把持することが難しく,スネアが滑ってしまう確率が高い.一方,ある程度剝離操作を加えて,挙上不良部位に近い位置から絞扼を始めることができるhybrid ESDでは,non-lifting sign陽性症例においても安全かつ確実に絞扼できる確率が高くなると考える.
3 粘膜切開病変の肛門側に粘膜切開を行う.SOUTENⓇのナイフ先端は平皿状のチップを備えており,接地面積が大きく,電力密度が低下しやすい.したがって,ナイフの刺入の際には,チップの角を粘膜に押しつけることで,電力密度の低下を防ぎ粘膜筋板を貫通し,確実に粘膜下層に刺入可能である.大腸ESD同様にまず全周切開を行った後に粘膜下層剝離へ進むのではなく,切開と剝離を繰り返しながら手技を進めていく.
4 粘膜下層剝離粘膜下層剝離において,先端フードが完全に粘膜下層に潜り込めなくとも,局注された粘膜下層を視認することができれば,安全に剝離することができる.粘膜下層にナイフを刺入し,外側に跳ね上げるように剝離を行うと,安全で効率が良い.スネア脱落の多くは1-3時,9-11時方向で発生することが多いため,粘膜下層剝離のステップにおいて病変側方の剝離量が重要である.
5 スネアリングSOUTENⓇを用いることで,粘膜切開および粘膜下層剝離からスネアリングへのスムーズな移行が可能である.スネアリングにおけるコツは以下の2点である.1点目はスネア先端を固定する位置である.口側正面(12時)に先端を置くと,スネアの横幅が足りなくなり,絞扼が難しくなる.腸管短軸方向にスネアをかけるとうまくいく場合が多い.2-3時にスネア先端を置き,オーバル状のスネア形状と粘膜切開を合わせていく.2点目は粘膜下層剝離からスネアリングへ移行するタイミングである.粘膜下層の切除が少ない場合にはスネアが滑脱し,分割切除となってしまうため注意が必要である.粘膜下層の線維が筋層直上まで十分に剝離されていることを確認することが重要である.
6 切除後病変切除後は潰瘍底に出血および穿孔がないことを確認する.当院では予防的な止血処置は行っていない.hybrid ESDでは病変をスネアで絞扼するため潰瘍底が小さく,潰瘍底の縫縮には有利な状況である.筆者らは,可能な限り切除後の潰瘍底はクリップによる縫縮を行っている.縫縮が成功した場合には,当日から食事を再開している.基本的に入院で処置を行い,術翌日に出血や穿孔などの合併症を疑う所見がなければ退院としている.
SOUTENⓇを用いてhybrid ESDを施行した症例を提示する(Figure 2).

内視鏡画像(症例1).
a:インジゴカルミン散布像.
b:SOUTENⓇで周囲切開.
c:全周切開後にスネアリング.
d:切除後潰瘍底.
e:潰瘍底をクリップ5個で縫縮.
f:ホルマリン固定後検体.黄線:腺腫から粘膜内癌,赤線:粘膜下層浸潤癌.
<症例1>
症例は64歳,女性,上行結腸に径20mm大の丈の低い扁平隆起性病変を認めた.術前診断は早期大腸癌:0-Ⅱa, laterally spreading tumor(non-granular type(elevated type)),cT1aとした.径20mmを超える病変で,EMRでの一括切除は難しいと判断し,hybrid ESDを選択した.
スコープはPCF-H290ZI(オリンパス),先端フードにはエラスティック・タッチ(トップ)を使用した.まず,ムコアップを用いた粘膜下局注を行った.十分な膨隆が得られたことを確認した後,病変肛門側から周囲切開を開始した.3分の1周程度切開後に粘膜下層を切除した.粘膜下層が直接視認できるようになったところで,全周切開を行った.全周にトリミングを行った段階で粘膜下層に局注を追加し,スネアリングして病変を一括切除した.潰瘍辺縁に病変の遺残がないことを確認し,潰瘍底をクリップ5個で縫縮して検体を回収した.局注開始から潰瘍底の縫縮終了まで36分を要した.術中および術後合併症はなく,術翌日に退院とした.
病理組織学的評価で,組織型はwell differentiated tubular adenocarcinoma(tub1>tub2),腫瘍径19×17mm,深達度はpT1b (SM浸潤距離1,200μm),脈管侵襲陽性(Ly1,V0),断端陰性(HM0,VM0)であった.以上より非治癒切除と判断し追加外科切除(腹腔鏡下右結腸切除術,D2郭清)の方針となった.最終的に外科切除検体には腫瘍の遺残はなく,リンパ節転移は陰性であった.
<症例2>
non-lifting sign陽性病変に対してhybrid ESDが有効であった症例を提示する(Figure 3).

内視鏡画像(症例2).
a:non-lifting sign陽性.
b:SOUTENⓇで全周切開.
c:全周切開後にスネアリング(precutting EMR).
d:SOUTENⓇで粘膜下層剝離.
e:粘膜下層剝離後にスネアリング(hybrid ESD).
f:病変一括切除後の潰瘍底.
症例は70歳,女性,上行結腸に径15mm大の隆起性病病変を認め,内視鏡からは高異型度腺腫と診断した.紹介医で施行したEMR後の遺残病変であり,病変周囲には粘膜のひきつれを認めた.追加でのcEMRを企図し,局注を行ったもののnon-lifting sign陽性であり手技を変更した.
当初は全周切開の後にprecutting EMRを企図してSOUTENⓇのスネアをかけたが,病変とスコープが垂直に対峙するような位置関係であることや,スネアを絞扼してくる過程で線維化の影響もあり表面で滑る形となり,precutting EMRで一括切除が困難と判断した.そのままSOUTENⓇの先端ナイフを用いて肛門側からの粘膜下層剝離を追加し,線維化を来した領域付近まで剝離を進めた後にスネアリングを行い,病変を一括切除した.潰瘍辺縁に病変の遺残がないことを確認し潰瘍底をクリップ3個で縫縮して,検体を回収した.本症例は局注開始から潰瘍底の縫縮終了まで46分を要した.術中穿孔はなく,潰瘍底も完全縫縮を行った.当症例では外来で管理を行ったが,切除後は合併症もなく経過した.
病理組織学的評価で,組織型はhigh-grade tubular adenoma,腫瘍径18×11mm,断端陰性(HM0,VM0)であった.以後のサーベイランスは1年後とした.
症例1はpT1b,脈管侵襲陽性の結果であり追加外科切除へ移行したものの,大腸ESDと同様にhybrid ESDでも粘膜下層組織を含めた一括切除が達成可能で,cT1b癌でもVM0で切除し,正確な病理組織評価が可能であった.
症例2はnon-lifting sign陽性となるような線維化症例で,precutting EMRでも処置困難な場合でも,粘膜下層剝離を追加してhybrid ESDとすることで一括切除が可能であった.また,多機能スネアであるSOUTENⓇを用いることで各手技の移行が非常にスムーズであった.
新たなデバイスを用いたhybrid ESDの登場により,従来のESDで問題点とされた手技時間とコストの問題を低減しつつ,径20mm以上の大腸腫瘍に対する安全・確実なアプローチが可能になることが期待される.Ohataら 4)は,SOUTENⓇを用いたhybrid ESDの有用性および安全性を評価する目的で,非有茎性大腸ポリープ10症例を対象に単アームの前向き試験を行った.平均病変径は26.0±3.5mm(20-32mm),平均手技時間は16.1±4.8分(9-25分),R0切除率は100%であった.後出血が1例みられたが,クリップによる内視鏡的止血術で対応可能であった.この結果から,SOUTENⓇを用いたhybrid ESDの有効性および安全性が示された.また同著者ら施設での大腸ESDデータと比較すると,hybrid ESDは有意に処置時間を短縮し,デバイスのコストも削減できる可能性が示唆された.Yoshiiら 5)はSOUTENⓇを用いたhybrid ESDとconventional ESD,precutting EMRの治療成績を後方視的に検討しており,一括切除率96.4%,100%,100%,組織学的完全切除率 96.4%,100%,94%,合併症は全症例で認めず,いずれの治療成績も良好であった.一方で,平均手技時間は461(±466)秒,1,139(±755)秒,222(±140)秒とスネアを用いるhybrid ESD,precutting EMRではconventional ESDに比較して有意に手技時間が短縮されることが示された(p<0.01).また,Baeら 6)は前向きランダム化比較試験を行い,hybrid ESDとconventional ESDの治療成績の比較を行った.結果では,一括切除率は94.1%,100%で,組織学的評価を含めた完全切除率は91.2%,93.5%,後出血は2.9%,3.2%,穿孔は8.8%,6.5%となり,いずれも各治療間で統計学的有意差はみられなかった.一方で平均手技時間は27(±13)分,41(±22)分であり,統計学的有意差を認めた(p=0.005).以上の報告をまとめると,hybrid ESDはconventional ESDと比較して,一括切除率やR0切除率,有害事象発生については有意差を認めない一方で,有意に処置時間を短縮することができることが示された(Table 2).しかし,現時点のデータではhybrid ESDの明確な適応やESDとの棲み分けは不明瞭であり,今後更なる検討が必要と考える.

hybrid ESDおよびSOUTENⓇの既報一覧.
大腸腫瘍に対するhybrid ESDの適応病変に明確な基準はないものの,基本的に大腸ESDの適応病変に準じる(Table 3) 7).大きさに関しては,スネアに十分に入る径30mm程度までが良い適応である.剝離操作によりスネアに十分入る大きさの状態にできれば一括切除は可能となることもあるが,大きくなるほど手技難易度が増す.また前述したように,大きさが径20mm未満でcEMRの適応と判断される病変であっても,局注で病変挙上不良がみられる場合にはhybrid ESDの適応が可能であるが,高度な線維化を来している病変や線維化の範囲が広い病変に対してはスネアリングでは確実かつ安全な処置が困難な場合もある.今回提示した2症例は,cEMRによる一括切除が困難で,かつ癌が疑われる大きな隆起性病変,および粘膜下層に線維化を伴う粘膜内腫瘍であり,hybrid ESDが安全かつ有効な処置であった.今後更なる症例の蓄積により適応病変の詳細な設定がなされることが期待される.

大腸ESDの適応病変.
SOUTENⓇを用いたhybrid ESDについて,デバイスの特徴から実際の手技,hybrid ESDの現状について概説した.比較的新しい手技であるものの,これまで大腸EMRおよびESDの施行経験がある場合には,理解しやすい手技であると考える.
現在,大腸腫瘍に対するSOUTENⓇを用いたhybrid ESDとconventional ESDとの非盲検化ランダム化比較試験が計画されており,hybrid ESDの位置付けを決定する上で重要な試験であり,結果が待たれる.
本論文内容に関連する著者の利益相反:なし