GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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A CASE REPORT OF DUODENAL STENOSIS DUE TO RETROPERITONEAL HEMATOMA SUCCESSFULLY TREATED BY ENDOSCOPIC BALLOON DILATION
Yutaka MUTO Kazuya KOIZUMISakue MASUDAKaren KIMURATakashi NISHINOTomohiko TAZAWAJunichi TASAKIChikamasa ICHITAAkiko SASAKIMakoto KAKO
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2021 Volume 63 Issue 4 Pages 407-414

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要旨

症例は62歳男性.嘔吐を主訴に当院救急外来を受診した.腹部造影CT検査と上部消化管内視鏡検査にて後腹膜領域に6cm大の腫瘤性病変とそれに伴う十二指腸狭窄を認めた.十二指腸狭窄を合併した後腹膜血腫と診断し,保存的治療を開始した.後日の造影CT検査で後下膵十二指腸動脈の仮性瘤が疑われたが,血腫の増大はなく保存的加療を継続した.第21病日に血腫はわずかに縮小していたが,十二指腸狭窄が残存していたため内視鏡的バルーン拡張術を施行し,経口摂取を開始した後は経過良好で第34病日に軽快退院した.後腹膜血腫による十二指腸狭窄はまれな病態であり診断に難渋することも多いが,本例においては画像所見にて診断可能であった.保存的に改善しない例の多くは手術が選択されているが,本例においては内視鏡的バルーン拡張術が奏効し手術を回避し得た.

Ⅰ 緒  言

後腹膜血腫はまれな病態であり,その原因から外傷性と非外傷性,特発性に分類され,非外傷性として動脈瘤破裂が報告されている.動脈瘤の中で膵十二指腸動脈瘤は極めてまれであるが,破裂例の約20%で血腫の壁外圧迫による十二指腸狭窄症状をきたすとされる 1.狭窄症状の多くは保存的に軽快する一方で,外科的手術が必要となる例もある.今回われわれは症状が遷延した十二指腸狭窄を合併した後腹膜血腫に対して内視鏡的バルーン拡張術を施行し,外科手術を回避し得た1例を経験したため報告する.

Ⅱ 症  例

症例:62歳,男性.

主訴:嘔吐.

現病歴:入院7日前に心窩部痛を自覚し,入院当日嘔吐をきたしたため当院救急外来を受診した.

既往歴:胃潰瘍,虫垂炎術後(40年前).

嗜好歴:喫煙 なし,飲酒 なし.

身体所見:血圧132/91mmHg,脈拍89bpm,酸素飽和度97%(室内気).腹部は平坦,軟.心窩部に圧痛を認めた.

血液検査:血算,凝固系に異常所見は認めなかった.生化学ではAMY 160IU/Lの軽度の上昇とBUN 33.6mg/dL,Cre 1.10mg/dLと高値を認めた.

入院時腹部CT検査:十二指腸周囲の後腹膜領域に,造影効果を伴わない内部不均一な高吸収を呈する6cm大の腫瘤像を認め,十二指腸水平部の圧排により胃から十二指腸下行部が著明に拡張していた(Figure 1-a,b).腫瘤と連続する,あるいは隣接する部位に造影剤の明らかな血管外漏出は認めなかった.

Figure 1 

造影CT画像(第1病日).

a:後腹膜に7cm×6cm大,内部不均一で一部高吸収域を伴った腫瘤(矢印)を認めた.

b:腫瘤口側の胃~十二指腸下行部に拡張を認めた(矢印).

上部消化管内視鏡・造影検査:十二指腸水平部で狭窄を認めたが,粘膜面に腫瘍性変化はみられなかった(Figure 2).通常の上部消化管内視鏡ではスコープ長が足りず狭窄部を通過できなかったが,シングルバルーン小腸内視鏡(SIF-H290S:Olympus社:先端外径9.2mm)に変更することで狭窄部は通過可能であった.

Figure 2 

上部消化管内視鏡写真(第2病日).

十二指腸水平部で狭窄を認めたが,粘膜面に腫瘍性変化は認めなかった.小腸鏡での通過は可能であった.

EUS:十二指腸からのスキャンで7cm×6cmの境界明瞭な腫瘤性病変を認め,内部は無エコー領域を含む様々なエコーレベルを呈し,一部debris様構造を呈していた(Figure 3).

Figure 3 

超音波内視鏡写真(第2病日).

十二指腸からのスキャンで7cm×6cmの境界明瞭な腫瘤を認めた.腫瘤内部には無エコー領域やdebris状エコーを含む様々なエコーレベルを認めた.

画像所見から腫瘤性病変は血腫であると判断し,それに伴う十二指腸狭窄と診断した.出血の可能性を考慮して,超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)は施行しなかった.ドレナージ用の経鼻胃管に加えて,X線透視下でTreitz靭帯を超えて経鼻経管栄養チューブを挿入し,保存的治療を行った.第14病日の造影CT検査において後腹膜血腫は大きさに著変を認めなかった.この時点で後下膵十二指腸動脈の仮性瘤が疑われたが(Figure 4),血腫に増大傾向はなく内部性状から再出血している可能性は低いと判断し,また仮性瘤は微小であり自然消失の可能性もありうることから,経カテーテル的動脈塞栓術(TAE)は行わず経過観察とした.第21病日には血腫の縮小を認めたが,間欠的吸引中ではあったものの胃管より2,000ml以上の排液があり,通過障害の残存を疑った.第23病日の上部消化管内視鏡検査では依然十二指腸狭窄を認めていたが,潰瘍や腫瘍性病変を認めなかったため,内視鏡的バルーン拡張術を行う方針とし,CRE上部消化管拡張バルーン(Boston Scientific社)を用いて段階的に最大6atmで計3分拡張した(Figure 5-a~c).通過障害の改善を確認したのち,胃管および栄養チューブを抜去した.第28病日から流動食を開始し,嘔気や腹痛などの出現なく,固形食を摂取可能となり第34病日に軽快退院した.退院4カ月後も症状再燃はなく,CTで血腫は著明に縮小し,仮性瘤は消失した.

Figure 4 

造影CT画像(第14病日).

後下膵十二指腸動脈に由来する仮性瘤を認めた(矢印).

Figure 5 

バルーン拡張時の内視鏡併用十二指腸造影写真(第23病日).

十二指腸水平部に狭窄の残存を認め,バルーン拡張術により狭窄の改善を認めた.

a:拡張前.

b:バルーン拡張中.

c:拡張後.

Ⅲ 考  察

後腹膜血腫の原因は非外傷性,外傷性,特発性に分類される.非外傷性には動脈瘤破裂や腫瘍,抗凝固薬内服などが含まれるが,しばしば腫瘤様構造をとるため,明確な誘因がない場合は腫瘍や嚢胞性病変などとの鑑別が問題となる.本症例ではCTにて内部に造影効果がなく様々な吸収値を認めること 2,内視鏡で粘膜面に所見のない圧排であること,EUSで内部に様々なエコー輝度をもつdebris様構造をみる 3ことから,後腹膜腫瘤を血腫と診断した.膵十二指腸動脈瘤の85.4%が破裂してから症状が出現するとされ,腹痛が71.8%と最多である 1.嘔吐がみられるのは21.4%であり,これは主に十二指腸通過障害によると考えられている 1.また,動脈瘤破裂の第6~15病日に通過障害が出現する例も報告されている 4,本症例は入院7日前の心窩部痛が出現した頃に動脈瘤破裂をきたし,血腫の増大に伴い十二指腸狭窄症状が出現したものと推察された.

後腹膜血種例において十二指腸狭窄をきたす例はまれであり,医学中央雑誌により2000年~2019年までの期間で「後腹膜血腫」「後腹膜出血」「十二指腸狭窄」「十二指腸閉塞」「十二指腸通過障害」をキーワードとして検索し得た十二指腸狭窄を合併した後腹膜血腫の報告は,自験例を含め32例存在した(Table 1 4)~34.年齢中央値は56(31-86)歳であり,男女差はほぼ認めなかった.血腫の原因としては膵十二指腸動脈瘤破裂が25例(78.1%)と最も多く,外傷性が4例(12.5%),特発性が3例(9.4%)と続いた.本症例においては後腹膜血腫の原因は後下膵十二指腸動脈瘤破裂が考えられた.膵十二指腸動脈瘤は腹部内臓動脈瘤のうち2%とまれな疾患である.一般に膵十二指腸動脈瘤の原因は腹腔動脈起始部狭窄が最多で46%,その他動脈硬化,膵炎,分節性動脈中膜融解(segmental arterial mediolysis;SAM),上腸間膜動脈起始部狭窄などが報告されている 1が,本症例では原因を特定できなかった.後下膵十二指腸動脈瘤の治療法としては,以前は外科手術が過半数であったが,近年は経カテーテル的動脈塞栓術(TAE)が主流となっている 1.今回は第14病日の造影CTで仮性瘤の存在を指摘することができたが,血腫に増大傾向はなく内部性状から再出血している可能性は低いと判断し,また後下膵十二指腸動脈瘤は微小であり自然消失の可能性もあることからTAEは行わず経過観察とし,自然消退を得ている.自然消失しない場合にはEUS下瘻孔形成術が選択枝となるが,もともと出血性病変で出血リスクが高いことに加え,消化管と交通を形成することにより感染のリスクがあること,発症早期では被包化や腸管との癒着がない可能性があり,その場合穿刺ドレナージによる腹膜炎のリスクが高いことなどから,本例においてはまず経過観察を選択した.実際EUS下瘻孔形成術を施行する場合には,出血リスクを減らすための事前TAEや,感染や腹膜炎予防のために内瘻ステントに加え外瘻チューブを併用するなどの工夫も必要と思われる.また,後腹膜血腫に対して本邦未承認であるが,離れた2つの管腔を引き寄せ大口径の瘻孔を形成可能なlumen apposing metal stentの使用も今後は考慮される.

Table 1 

本邦における十二指腸狭窄合併後腹膜血腫32例(2000-2019年,会議録を除く).

前述の十二指腸狭窄合併後腹膜血腫32例(Table 1)のうち,経過観察や内視鏡的バルーン拡張術のみで十二指腸狭窄症状が改善した症例は25例(78.1%)で,症状出現から通過障害改善までに要した日数の中央値は20(2-36)日であった.一方で手術を要した症例は7例(21.9%)で,手術施行までの入院日数の中央値は30(21-48)日であった.全32例のうち内視鏡的バルーン拡張術が施行されたのは4例(12.5%)で,奏効例は本例を含み2例のみであった(Table 2 28.奏効しなかった2例ではそれぞれ第26,30病日,第29,36病日に2回ずつ施行されているが,いずれも血腫は消退傾向であったにも関わらず,狭窄症状が遷延したためそれぞれ第36病日,第48病日に胃空腸バイパス術が施行されている 27),33.血腫が縮小したにも関わらず十二指腸狭窄症状が遷延した理由として,単純な圧迫のみならず,血腫の自然吸収に伴う十二指腸および後腹膜の線維化の可能性が挙げられている 33.バルーン拡張を選択する時期に一定の見解はないが,保存的に改善した過去の例の中央値が20日であり,一方手術は中央値30日で選択されているため,現状では20日を超えて改善しなければ外科手術前に試みて,拡張後の経過で手術適応を判断するのも選択枝と思われた.内視鏡的バルーン拡張術は血腫の破裂による大量出血や腸管穿孔のリスクをはらみ,血腫増大傾向や抗血栓薬内服患者,また潰瘍や瘢痕のある例などでは推奨できない.しかし,本例のように腸管粘膜に虚血の所見がなく,比較的緩徐に吸収されている十二指腸狭窄を合併した後腹膜血腫に対して有効である可能性が示唆された.

Table 2 

十二指腸狭窄合併後腹膜血腫に対して内視鏡的バルーン拡張術(EBD)が施行された本邦報告4例(2000~2019年,自験例を含む).

Ⅳ 結  語

内視鏡的バルーン拡張術にて手術を回避し得た十二指腸狭窄を合併した後腹膜血腫の1例を経験した.十二指腸狭窄が保存的加療で改善しない例においては,出血や腸管穿孔のリスクを勘案した上で内視鏡的バルーン拡張術を行うことで,手術を回避できる可能性がある.

謝 辞

診断・治療方針選択にご協力頂きました,当院IVRセンターの築山俊毅先生に深謝いたします.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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