GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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A CASE OF SIGMOID VOLVULUS DETORSION UPON INSERTION OF A SECOND ENDOSCOPE FOR DEGASIFICATION
Tohei YAMAGUCHI Shigetoshi URABETakashi GOTO
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2021 Volume 63 Issue 4 Pages 423-429

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要旨

症例は73歳男性.便秘・腹痛・腹部膨満感を主訴に近医受診.腹部レントゲンにてS状結腸軸捻転症の疑いで当院紹介受診となる.来院時の診察・採血・画像所見にて腸管壊死・穿孔の所見がないことを確認し,内視鏡的整復術を選択した.大腸スコープを絞扼部より深部のS状結腸ループ内に進め脱気した.次に下行結腸へ進めたが,多量の便で視野不良となるため送気を要し,ガスがS状結腸ループ内に再度貯留し整復が困難だった.そこで脱気用に2本目のスコープを挿入し,ループ内の脱気を行ったところ整復し得た.今回,2本の内視鏡を挿入することで内視鏡的整復術をなし得たS状結腸軸捻転症の1例を経験したので報告する.

Ⅰ 緒  言

S状結腸軸捻転症はガスが充満したループが結腸間膜部近傍にて捻じれたときに生じる疾患であり,高齢者(70~80代),パーキンソン病や向精神薬を長期間内服している精神科疾患患者,長期臥床者,脊髄損傷患者などに多い 1),2.虚血・壊死・穿孔を伴う状態では緊急手術を,それ以外の症例では内視鏡的整復術を試みることとされている.しかし内視鏡的治療の成功率は62~90%とされ 1)~3,整復ができず外科的緊急手術に移行する患者も少なからず存在する.今回,通常の大腸スコープのみでは整復困難であったが,脱気目的で2本目の内視鏡として経鼻用スコープを挿入し整復をなし得たS状結腸軸捻転症の1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

Ⅱ 症  例

症例:73歳,男性.

家族歴:特記事項なし.

既往歴:55歳S状結腸過長症(S状結腸切除術).66歳S状結腸軸捻転症(内視鏡的整復術).気管支喘息(発症年齢不詳).

生活歴:飲酒歴なし.過去に喫煙歴あり.

現病歴:普段より便秘があり,市販の下剤を服用していたが2018年9月4日より排便なく,腹部膨満・腹痛が出現し近医受診した.腹部レントゲンにてS状結腸軸捻転症の疑いで,9月7日に当院紹介受診となった.

現症:体温36.9℃,脈拍59回/分,血圧189/110mmHg,SpO2 99%(RA),腹部 下腹部正中に手術痕あり,全体的に膨満,左下腹部に圧痛あり,筋性防御・反跳痛なし.

血液・生化学検査:軽度の貧血を認める以外,白血球やCRPを含めて異常を認めない(Table 1).

Table 1 

 

画像所見:腹部レントゲンでcoffee bean signを呈するS状結腸を認める(Figure 1).腹部CTではS状結腸の著明な拡張を認め,その肛門側に渦巻き状の虚脱した結腸あり.腹腔内遊離ガスはなく,腹水やclosed loop部の結腸壁肥厚,腸管気腫症など虚血や壊死を示唆する所見なし(Figure 2-a,b).以上の所見よりS状結腸軸捻転症と診断した.

Figure 1 

Coffe bean様の拡張したS状結腸を認め,S状結腸捻転と診断した.

Figure 2 

a:S状結腸の著明な拡張あり.遊離ガス・腹水・結腸の壁肥厚なし.

b:渦巻き状の虚脱したS状結腸あり.

経過:バイタルサインに異常なく,診察上も腹膜刺激症状なし.血液検査および画像検査でも腸管虚血・壊死・穿孔を明らかに疑う所見はなく,内視鏡的腸整復術を行った.

透視下にて大腸スコープ(PCF-Q260AI)を挿入,送気には炭酸ガスを用い,鉗子チャンネルアダプター(MAJ-1606)を装着し送水も可能とした.

肛門縁から17cm部位にS状結腸に粘膜の渦巻き状変化を認め(Figure 3-a),同部位を超えループ状S状結腸内にスコープを進めたところ,内部は著明に拡張していた.粘膜は一部にうっ血を認めるも壊死の所見は認めなかった(Figure 3-b).可能な限り脱気し,下行結腸に進めようとしたが,便塊や便汁が大量に残存しており,洗浄でも充分な視野確保が困難だったため,送気を余儀なくされた.下行結腸に挿入し得たが,短縮操作で整復を試みるも,ガスによってS状結腸が拡張し,スコープがそのまま抜けてしまい直線化による整復が困難であった(Figure 4-a).再度脱気し体位変換・用手圧迫など工夫し下行結腸に再挿入するも,同様に整復できなかった.

Figure 3 

a:絞扼部の渦巻き状粘膜あり.

b:S状結腸は著明に拡張していたが,粘膜色調は保たれていた.

そこで大腸スコープを下行結腸で保持したまま,脱気目的で2本目のスコープを挿入することとした.大腸スコープを下行結腸まで進め透視にてスコープの位置の保持を確認しながら2本目のスコープとして経鼻用スコープ(GIF-XP260N)を肛門から挿入した.経鼻用スコープをS状結腸ループ内に進め透視下にてガス像が完全に消失するまで脱気した(Figure 4-b,c).そして経鼻用スコープを抜去した後,下行結腸に先端を保持した大腸スコープでS状結腸の直線化による整復を行うことができた(Figure 4-d).

Figure 4 

a:S状結腸の拡張のため,直線化困難であった.

b:経鼻用スコープを大腸スコープ脇より挿入,S状結腸まで進めた.

c:S状結腸内を脱気した.

d:S状結腸のループを解除でき,直線化できた.

内視鏡整復術施行後は腹部膨満や腹痛は良好に軽減した.経過観察目的にて入院とし下剤の内服を開始した.以後は腹部膨満や腹痛の再燃はなく,食事開始後も毎日排便がみられ,血液検査でも異常なし.腹部レントゲン上でのS状結腸軸捻転症の再燃を疑う所見も認められなかった.今後再発の危険性が高いと考え待機的外科手術を勧めたが,患者が保存的加療を希望したため下剤内服で経過観察の方針となった.

Ⅲ 考  察

S状結腸軸捻転症の頻度は国や人種によって差異があり東欧やブラジル・アフリカでは機械的閉塞の20~50%程度と高頻度であるが,本邦では5~7%と頻度は低い 4.S状結腸内にガスが充満しループ化し,その腸間膜周囲での捻じれが起こった際に発症し,捻転が180度以上で腸管閉塞を,360度以上で血流障害が生じるとされる 5.危険因子として結腸間膜癒合部が狭く,S状結腸が長いという解剖学的因子と,結腸運動低下があるとされている 4.患者背景としては高齢者,パーキンソン病,向精神薬長期間内服精神科疾患者,長期臥床患者に加え,本症例のようなS状結腸過長症,腹部手術歴患者などがあげられている 1),2),6

本症例では以前にS状結腸過長症に対してS状結腸切除術を施行しているが,捻転症を発症している.S状結腸切除術後の捻転症再発率は3~36%と報告されており,手術時に巨大結腸症を伴っていることが再発の危険因子としている 7)~9.巨大結腸症の病態として,粘膜筋板や粘膜固有層では神経組織の再生が増加しているのに対し,筋層の神経組織は再生が減少することが報告されており,腸管蠕動の非協調性が生じ,腸管運動能の失調を来すことが捻転症の誘因となり得る 10.巨大結腸を伴うS状結腸軸捻転症の手術の際には,拡張腸管を網羅した腸管切除を行うことで術後の再発率を低くできるとの報告がある 9.本症例においてはS状結腸切除術の詳細な手術記録を確認できなかったが,手術時点で巨大結腸症を伴っており,それに対し充分な切除範囲が確保されていなかった可能性が考えられる.手術後11年と間隔は比較的に長期であるが,S状結腸軸捻転症を再発し内視鏡的に整復されている.いずれも治療後の医療機関への定期受診がなく,慢性の便秘があったことが今回の再発の原因と思われた.

S状結腸軸捻転症の緊急手術症例による手術死亡率は3.1~27.3%と比較的高いが,非壊死症例での死亡率は10%以下とされている 2.非観血的処置加療後も再発率が高く根治目的で外科的加療になることが多いため,初発時から外科的加療も選択するほうが良いとする見解もある.しかしJohanssonら 11は非観血的治療先行させ開腹手術を行った群の死亡率が3.3%であったのに対し,緊急手術群が13%であったと報告しており,非観血的治療先行が有益である可能性も考えられる.

非観血的治療としては高圧浣腸・肛門ブジー・直視鏡を使った整復法が過去には行われていた 12が,現在は大腸スコープを用いた減圧術(スコープを捻転部口側に進め,拡張腸管内の吸引・脱気を行う),整復術(スコープをループ部より口側に先進後に短縮して直線化する)などの内視鏡的治療が主流となっている 5.内視鏡的治療法は1976年にGhaziら 13が,大腸スコープ整復法を報告して以降,広く行われるようになった.基本的な操作としては透視下にて大腸スコープを進め,捻転部および拡張した腸管粘膜の色調の確認し,拡張したS状結腸内部の内容物の吸引および脱気を行い整復する方法である.

内視鏡的整復術の成功率はおおよそ70~90%程度であり,整復不能な症例も少なからず存在する.Iidaら 3によれば整復術困難症8例のうち7例がS状結腸の過長や拡張のため整復が困難であったと報告しており,ループ化したS状結腸を制御できないことが内視鏡的整復術の不成功の主な原因としている.

今回,ループ内ガスを脱気する目的にて2本目のスコープを挿入した.2本同時にスコープを挿入することは肛門に更なる負荷をかけてしまうが,松田 14によると肛門進展張力計の評価で,正常肛門では平均加圧3.5kgで肛門直径34mm前後に広がると肛門痛を来すと報告している.経鼻用スコープは直径5~6mmと消化管汎用スコープの中で最も細径であり,これを脱気目的の2本目のスコープに使用しても実際に肛門痛を生じなかった.また結腸内腔を確認しながらS状結腸ループ内まで安全に挿入し,透視下で大腸スコープの位置保持を確認しながら脱気を行うことができた.本症例では通常の内視鏡的整復術での治療完遂が困難であったが,2本のスコープを使用することで整復し,緊急手術を回避し得たものと考える.

また近年では通常の内視鏡的整復術の他にも浸水法大腸内視鏡下での解除 15やスライディングチューブ 16や金属ステント留置 17にてS状結腸捻転症を整復したとの報告もなされている.

浸水下大腸内視鏡法は送気量に対して少ない注入水で済むため,S状結腸の拡張を抑え疼痛が軽減し,直腸S状結腸に残存したガスを完全脱気することで「サイホンの原理」により水がスコープとともに下行結腸に移動し肛門側腸管を虚脱・短縮させる方法であり 18それを整復術に応用したものである.スライディングチューブを用いた整復術に関しては非透視下で内視鏡的整復術を行うことなくスライディングチューブを捻転部より口側に留置する方法である.いずれの方法も処置時間の短縮が得られ,スコープ挿入による拡張したS状結腸への負担が軽減されるなどの長所があるとされており,今後の報告が期待される.

一方で,臨床の現場においては,各施設の内視鏡設備やその周辺設備には差異があり,施行可能な手技には制限が存在する.その中で,経鼻内視鏡をS状結腸軸捻転症の内視鏡的整復術に際して脱気目的で追加挿入することは,治療内視鏡を行っている施設において比較的に施行が容易な手技と思われ有用性が高いと考えられる.

Ⅳ 結  語

透視下大腸スコープのみで内視鏡的整復術が困難であったS状結腸捻転症の患者に脱気目的で2本目の内視鏡を併用して挿入し,整復に成功した1例を経験した.内視鏡的整復術に難渋する症例に有用な方法であることが示唆された.

 

本論文内容に関連する著者の利益相反:なし

文 献
 
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