2021 Volume 63 Issue 4 Pages 430-438
Liquid-based cytology(LBC)法は,子宮頸部細胞診を中心に導入され,その他尿や腹水などの液状検体や乳腺,甲状腺腫瘍に対する穿刺検体の細胞診にも広く汎用されている.近年では,膵腫瘍におけるEUS-FNA検体に対するLBC法の有用性も多数報告されている.本稿では,EUS-FNA検体におけるLBC法の有用性および実際の手技の方法について概説する.
超音波内視鏡下穿刺吸引術(EUS-FNA)は,腹腔内腫瘤,特に膵腫瘤の病理学的診断のために広く用いられている 1).EUS-FNAにおける細胞診は,採取検体をスライドガラスに直接塗抹するスメア法が一般的である.スメア法を用いたEUS-FNAでの膵腫瘤病変に対する悪性診断の感度は64~94%と報告されている 2).スメア法の欠点として,血液の混入が多いこと,塗抹手技により乾燥や挫滅が起こる可能性があることが挙げられる.
Liquid-based cytology(LBC)法は,採取した細胞を一度液体(固定・保存液)中に浮遊させ,均一化した状態からスライドガラスに塗抹する方法であり,スメア法の欠点である血液の混入や細胞の乾燥・挫滅を防ぐ手法として注目を浴びている.LBC法は,子宮頸部細胞診を中心として取り入れられているが,近年,乳腺,甲状腺,リンパ節といった非産婦人科領域に対するFNA検体でのLBC法の有用性が報告されてきている 3),4).さらに膵腫瘤に対するEUS-FNA検体でのLBC法の有用性も報告されている 5).
本稿では,EUS-FNA検体を用いたLBC法の有用性,実際の手技の方法について概説する.
LBC法には,固定保存液の組成や標本作成法の違いにより,いくつかの方法がある.LBC法の当初から携わった関係上から,世界的には二大メーカーThinPrepⓇ System(HOLOGIC社),SurePathTM(Becton-Dickinson社)が市場の大半を占めているが,その後後発メーカーも加わり多種多様なものが開発されている.わが国では,前述の2社とともに最近ではThinlayer advanced cytology assay system:TACASTM(MBL医学生物学研究所)が購入可能となっている.
それぞれのLBC製品の特徴をTable 1に示す.まず,原理方法としては,フィルター転写法と沈降法に大別される(Figure 1).ThinPrepⓇはフィルター転写法である.攪拌した検体をフィルターを用いて吸引し一定細胞量を回収し,その後フィルターを反転してスライドガラスに転写する方法である.SurePathTMおよびTACASTMは沈降法である.細胞がマイナスに荷電されていることを利用して,自然滴下した細胞をプラスに荷電したスライドガラスに吸着する方法である.
各LBC法の概要.
直接塗抹法および各種LBC法の原理.
固定液・溶血処理液については,細胞形態を保持しつつ,溶血作用などにより背景を綺麗にするために,それぞれ様々な工夫がなされている.
さらに,ThinPrepⓇは高額機器の導入が必要であるのに対し,SurePathTMやTACASTMは技師による用手法を用いた検体作成が可能であるため,大掛かりな設備が不要であり,1回の検体提出数が少ない非産婦人科検体に対して導入しやすい特徴がある.
LBC法のスメア法に対する利点としては,①標本の均一化②細胞回収性③検鏡の負担軽減④検体の転用性が挙げられる.
①標本の均一性血液や粘液の除去による不適正標本および乾燥などによる固定不良標本の減少が認められる.さらに均一で細胞の重なり合いの少ない標本作成および,細胞回収,標本作成における検体処理の標準化が可能である.
②細胞回収性回収器具への細胞遺残の軽減,細胞剝離の減少に基づく高い細胞回収性が可能となる.固形検体がほとんど採取されず,液状検体のみの場合,スメア法では検体作成が不能であるのに対し,LBC法では液状検体を回収し,プレパラートの作成が可能である.
③検鏡の負担軽減検鏡視野の減少に基づく検鏡時間の短縮化や夾雑物の減少による異常細胞の容易な同定などの診断業務の効率化が可能である.
④検体の転用性複数の標本作成が可能であり,免疫染色や遺伝子検索などへの転用が可能である.
膵腫瘤に対するEUS-FNAでは,①②の恩恵が大きく,不適切検体を減らすことにより,診断能の向上が期待される.
LBC法の従来法に対する欠点としては,①費用②細胞所見の修練,判定・診断基準の転換③手間が挙げられる.
①費用高い初期投資と消耗品費が必要である.特にThinPrepⓇは初期投資と維持費とも高額であるがゆえに導入されているのは大手の研究所か一部の機関に限られ,一般の病院には普及しづらい原因となっている.一方,SurePathTMやTACASTMは必要とする機器が遠心器のみで,消耗品も安価であるため,小規模施設でも比較的導入しやすいと考える.
②細胞所見の修練,判定・診断基準の転換細胞の膨化・収縮,集塊の乖離,壊死などの診断の根拠となるような背景情報の消失があり,修練が必要となる.しかし,RobinsonはLBC標本の細胞学的特徴にいったん慣れれば,診断能に影響しないとしている 6).
③手間従来のスメア法とは全く異なる用手での作業工程の付加が必要であり,病理部における手技の煩雑化を伴う.フィルター転写法では,固定時間15分,処理時間2分程度必要であり,沈降法では固定時間30分,処理時間35分程度必要とされている.
膵腫瘤性病変に対するEUS-FNAにおいて,スメア法とLBC法の比較検討として,2つのメタアナリシスが報告されている 5),7).An HHらの報告では,8本の論文を抽出し,感度・特異度はスメア法で68%・99%,LBC法で76%・99%であり,スメア法と比較してLBC法で診断能が高いと報告している 7).Hou Wらは,大規模試試験として膵腫瘤を有する514人を対象にROSE(rapid on-site evaluation)を行わずにEUS-FNAを施行し,各症例に対するスメア法とLBC法の診断能の比較し,感度・正診率・陰性率はLBC法においてスメア法と比較して有意に高値であったと報告している(71.4% vs 55.1%,76.1% vs 61.6%, 40.6% vs 27.7%) 8).このようにROSEを導入していない施設では,LBC法は特に有用と考えられる.本邦の報告として,Hashimotoらは,膵充実性病変に対してEUS-FNAを施行した症例を対象に,後方視的に傾向スコア分析を用いて,スメア法とLBC法で診断能を比較検討している 9).各126例を対象とし,LBC法の感度・正診率はそれぞれ89.7%・90.4%で,スメア法の64%・71.4%と比較し優位に高率であり,特に膵頭部病変や膵臓癌の診断においてLBC法はスメア法と比較し優れていると報告している.しかし,LBC法は,膵臓癌以外の腫瘤性病変の診断や2cm以下の小病変では診断能が低下すると報告している.また,Mitoroらは,EUS-FNAの導入期からLBC法を用いた成績を報告しており,膵腫瘍に対する成績として,感度93.9%,特異度95.1%,正診率94.1%であった 10).
膵腫瘤性病変に対するEUS-FNA検体によるLBC法は,EUS-FNA導入期においても良好な診断能を呈し有用と考えられる.
②スメア法・LBC法併用の診断能スメア法とLBC法を併用することで単独群より診断能が改善するとの報告もある.An HHらのメタアナリシスでは,スメア法とLBC法を併用することで感度・特異度がそれぞれ87%・99%であり,スメア法,LBC法単独と比較して有意に診断能の改善を認めたと報告している 7).われわれは,膵充実性腫瘤に対してROSE併用下EUS-FNAを行った311例を対象とし,2つの期間(スメア法単独群,スメア法・LBC法併用群)の診断能の比較検討を行った 11).それぞれの期間の患者背景をそろえるために傾向スコア分析を用いて両群102例ずつを抽出した.両群で適切な検体採取率に違いは認めなかったが,感度・陰性的中率・正診率において,スメア法vs併用法(67.4% vs 93.2%,23.1% vs 68.4%,69.6% vs 94.1%)といずれにおいても併用群で高率であった.
LBC法の利点として,検体の転用が可能なことが挙げられる.複数の標本作成ができ,細胞診検体を用いた免疫染色が可能である.Rossi EDらは,膵原発のリンパ腫に対し,LBC検体を用いた免疫染色により,病型を含む確定診断が可能であったと報告している 12).さらに,LBC法の残余検体を用いて,分子生物学的検索も施行可能である 13).Sekita-Hatakeyamaらは,81例の膵腫瘤に対しEUS-FNAを施行し,LBC法の余剰検体を用いてKras変異を測定し,Cellblock法を用いた細胞診と比較し診断能の改善が得られるかどうかについて検討した 14).Kras変異は全例で測定可能であり,Cellblock法単独では感度・特異度・正診率(77.4%・100%・81.3%)であったのに対し,Kras変異の診断を組み合わせることで感度・特異度・正診率(90.3%・92.3%・90.7%)と改善したことを報告した.さらにKras変異はCellblock法にて悪性診断困難であった14例のうち8例で変異を認め,診断に有用であったと報告している.
当院では,2017年より膵腫瘍に対するEUS-FNAを施行後,LBC法の余剰検体を用いてKras変異を測定しており,その成績を示す.84例を対象とし,最終診断は悪性77例,良性7例であった.Kras変異を認めた症例は悪性と診断し,LBC法での細胞診診断と比較検討を行った.まず,全例でKras測定は可能であった.全症例での病理診断は感度90.9%特異度100%であり,Kras診断は感度90.9%特異度100%であった.病理診断にKras診断を組み合わせると感度98.7%特異度100%となり,病理診断単独と比較し,有意に診断率が改善した.さらに腫瘍径20mm以下の34例で検討を行うと,病理診断は感度80.6%特異度100%であり,Kras診断は感度90.3%特異度100%であった.病理診断にKras診断を組み合わせると感度96.7%特異度100%となり,病理診断単独と比較し,有意に診断率が向上した.腫瘍径が小さい場合,病理診断は低下することが知られているが,LBC法の余剰検体を用いたKras診断は診断能の向上に寄与し病理診断の補助診断として有用であることが示された.しかし,本検討では認めなかったが,良性例でもKras変異陽性となることがあることが知られており 15),Kras変異はあくまで補助診断であることに注意する必要がある.
LBC法の余剰検体を用いた遺伝子解析は少量の検体でも可能であり,Kras変異のように補助診断として有用であるだけでなく,precision medicineへの応用も今後期待される.
当院で行っているEUS-FNA検体の処理方法についてFigure 2に示す.まず,シャーレにLBC溶液(当院ではCytoLytⓇ溶液を使用)を入れる.そして,FNA針の中にスタイレットを入れ,検体をシャーレに押し出す(Figure 3-a).LBC溶液内に検体を押し出す理由として,①検体の乾燥を防ぐため,②血液と固形検体を分離し,白色部があるかどうかをみやすくすることが挙げられる.さらにFNA針の内部をLBC溶液を用いて洗浄する.これは,スタイレットのみでは検体が針内に残っていることが多く,すべての検体を用いて診断を行うようにするためである.次に固形検体を観察し,白色部があるかどうかを判断する(Figure 3-b).そして,検体の一部を取り出し,スライドガラスに乗せる(Figure 3-c).もう1つのスライドガラスとすり合わせ,1つは迅速細胞診に使用し,もう1つは97%エタノール固定液に入れ,病理部に提出する(Figure 4-c).シャーレ内に残っている固形検体は,バイオプシーシートに乗せて,10%ホルマリン溶液に入れ,組織検体として提出する(Figure 4-a,c).当院では,白色検体のみでなく赤色検体も組織検体として提出している.これは,赤色検体内にも細胞成分が含まれていることが知られていること,逆に白色調にみえる検体には,フィブリン,線維性成分,壊死,粘液なども含まれ,診断に有用な細胞が採取されていないことがあるからである.また,組織診のスライド作製において重要なのは,より大きな検体面を一枚のスライドに反映させることである.本学会誌の手技の解説で紹介されたバイオプシーシートを用いた方法は非常に優れた処理法であり,当院でも同様の方法で処理をしている 16).最後にシャーレ内には小さな固形検体と液体が残っており,これを液状検体として,すべてLBC容器に入れて提出する(Figure 4-b,c).
当院における検体処理方法.
検体処理.
a:CytoLytⓇ溶液内に検体を押し出す.
b:糸ミミズ上の検体内に白色検体を認める(青矢印).
c:白色検体の一部をスライドガラスに乗せ,もう1つのスライドガラスとすり合わせる.1つはスメア法,もう1つは迅速細胞診を行う.
組織診検体および細胞診検体.
a:固形検体を,バイオプシーシートに乗せる.
b:小さな固形検体と液体が残っており,これを液状検体として提出する.
c:左から組織検体,LBC検体,スメア検体.
d:LBC塗抹装置(ThinPrep5000プロセッサ).
ROSEがEUS-FNAの診断能,特に膵腫瘤における診断能の改善に寄与することは多くのmeta - analysisで示されている 17),18).前述の通り,肉眼的に十分量の白色の検体が採取された場合でも,壊死などの診断に寄与しない検体である可能性がある.その場合,診断可能な検体が採取されるまで追加穿刺を繰り返すことができるのがROSEの重要な役割である.当院でLBC法を導入する際に,LBC法のみではROSEができないことから,病理部と相談し,スメア法とLBC法を組み合わせて細胞診診断を行うこととなった.EUS-FNAを施行する内視鏡室に,細胞検査士もしくは病理医が常に同席して,迅速細胞診を行えれば理想的であるが,可能である施設が多いとはいえないのが現状である.Hayashiらは,超音波内視鏡医自らが鏡検し,適正検体であるかの判断を行う迅速細胞診を導入した.これにより膵腫瘤の正診率は62.9%から91.2%に改善したと報告している 19).当院でも,細胞検査技師による迅速細胞診は,人手の問題から困難であり,内視鏡医自らが検鏡し,適正検体があるかどうかを判断している(Figure 5-b).染色方法としては,Diff-Quickを用いているが,3種類の溶液に数十秒ずつ浸すことで染色を終えることが可能であり,簡便であるという点から導入している(Figure 5-a).Figure 5-cで示すように異型のある細胞集塊を認めた場合,適正検体が得られたとして,EUS-FNAを終了する.
迅速細胞診.
a:Diff-Quik法.
b:超音波内視鏡医自らが鏡検する.
c:核の腫大,核の大小不同,核の重積性を認め,悪性と診断する.
Figure 4-cに示すように,病理部へは,組織検体,LBC検体,スメア検体を提出する.LBC検体作成については,当院ではThinPrepⓇを導入しており,ThinPrep5000プロセッサを用いて検体処理を行う(Figure 4-c).
Figure 6で示すように,当院では,LBC法およびスメア法を組み合わせて細胞診診断を行い,さらに組織診断を組み合わせて病理診断としている.LBC法とスメア法を組み合わせる理由としては,①LBC法を加えることで診断能向上が期待できるため②LBC法の利点として,標本の均一性や細胞回収性があるが,欠点として細胞所見の修練,判定・診断基準の転換が挙げられ,同時にスメア法を行うことでこの欠点を補えること③LBC検体の残りを利用して,遺伝子解析を行うため.の3点が挙げられる.
膵管癌症例.
a:細胞診(LBC法).
b:細胞診(スメア法).
c:組織診.
2つの細胞診および組織診を組み合わせて病理診断を行う.
2016年6月から2018年3月までの間に当院で膵充実性腫瘤に対し,EUS-FNAを施行した216例の成績を示す.前述のように当院では,スメア法・LBC法を併用し,内視鏡医によるROSEも行っている.男性121例・女性105例,平均年齢71.4歳,膵頭部病変124例・膵体尾部病変102例,平均腫瘍径25.1例,平均穿刺回数2.68回であった.最終診断は悪性192例(膵管癌186例・膵内分泌癌3例・悪性リンパ腫1例・転移性膵癌1例・退形成性癌1例),良性24例(腫瘤形成性膵炎8例・自己免疫性膵炎7例・膵内分泌腫瘍7例・SPN1例・SCN1例)であった.適正検体採取率は99.5%(215/216例)であり,診断率は細胞診,組織診,細胞診+組織診においてそれぞれ,感度92.2%・特異度100%・正診率93%,感度92.2%・特異度100%・正診率93%,感度94.8%・特異度100%・正診率95.3%であった.
EUS-FNA検体におけるLBC法の現状と実際の手技について概説した.膵腫瘤性病変に対するEUS-FNAにおいて,溶血作用を有し,細胞回収率が高いLBC法は,従来の診断法に比べ診断能向上が期待される手法である.さらに残余検体を用いた,分子生物学的検索も施行可能であることから,補助診断のみならず将来的なprecision medicineへの応用も期待される.
本論文内容に関連する著者の利益相反:北野雅之(オリンパス株式会社)