2021 Volume 63 Issue 4 Pages 439-450
【背景と目的】この研究は,表在性非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍(SNADET)に対して,はさみ型ナイフを使用した内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)とOver-the-scope-clip(OTSC)を使用した予防的潰瘍閉鎖の安全性と実現可能性を評価することを目的とした.
【方法】2009年1月から2019年7月の間に10mmを超えるSNADETに対するESDを受けた患者を遡及的に検討した.ESDは針型ナイフ(フラッシュナイフ-ESD)またははさみ型ナイフ(クラッチカッター-ESD)のいずれかを使用して施行した.ESD後粘膜欠損は,従来クリップ,腹腔鏡下閉鎖,またはOTSCのいずれか3つの方法により予防的に閉鎖した.
【結果】フラッシュナイフ-ESDとクラッチカッター-ESD(それぞれ37人と47人の症例)にて合計84病変を切除し,ESD後の粘膜欠損閉鎖は,従来クリップ13病変,腹腔鏡下閉鎖13病変,OTSC56病変で行った.R0切除率は,クラッチカッター-ESDの方がフラッシュナイフ-ESDよりも有意に高かった(それぞれ97.9%対83.8%,P=0.040).術中穿孔率は,クラッチカッター-ESDの方がフラッシュナイフ-ESDよりも有意に低かった(それぞれ0%対13.5%,P=0.014).従来クリップ,腹腔鏡下閉鎖,およびOTSCの完全閉鎖率は,それぞれ76.9%,92.3%,および98.2%であった(P=0.021).遅延穿孔率はそれぞれ15.4%,7.7%,1.8%であった(P=0.092).
【結論】はさみ型ナイフを使用したESDおよび予防的OTSC閉鎖は,SNADETの低侵襲治療として安全に施行可能であった.
十二指腸上皮腫瘍の発生率は,他の消化管癌と比較して非常に低いことが以前から報告されている 1)~4).近年の内視鏡治療の進歩により,表在性非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍(SNADET)に対する内視鏡治療がますます頻繁に行われている 5),6).しかし,十二指腸腫瘍に対する内視鏡治療はいまだに議論の余地がある.内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)は,内視鏡的粘膜切除術(EMR)よりもSNADETの完全切除率が高く,再発率が低い.逆に,EMRと比較して針型またはブレード型のナイフを使用したESDは,術中穿孔や出血などの有害事象の発生率が高いことに関連していた 5)~11).はさみ型のナイフであるクラッチカッターは,胃,食道,および大腸のESDに対して技術的に安全かつ効率的である 12)~17).また,クラッチカッターを使用したESDは,少数例であるが十二指腸腫瘍にとっても安全であることが報告されている 18).遅発性の合併症を予防するために,われわれは以前に十二指腸ESD後の腹腔鏡下閉鎖の安全性と実現可能性を報告している 19).さらに,over-the-scope clip(OTSC)システムによる医原性消化管穿孔の全層閉鎖 20)~22)や,SNADETに対するESD後粘膜欠損の予防的閉鎖が可能であることが報告されている 23),24).それゆえ,この研究ではクラッチカッターを用いたESDおよび予防的OTSC閉鎖が,SNADETの低侵襲治療として安全に実行可能であるかどうかを調査することを目的とした.
この研究は,2009年1月から2019年7月の間に京都府立医科大学附属病院で後向き観察研究として実施した.同院でSNADETに対するESDを受けたすべての連続症例がこの研究に含まれた.選択基準は,従来の報告 5),6)と同様に,組織学的に腺腫,粘膜内癌(上皮内癌および粘膜内癌)および粘膜下癌と診断され,10mmを超えるSNADETとした.除外基準は,粘膜下層深部浸潤の所見がある,または十二指腸乳頭部を含むSNADETとした.この研究は,京都府立医科大学倫理審査委員会によって承認され,1964年のヘルシンキ宣言とその後の改正で定められた倫理基準に従って実施された.すべての患者からSNADETに対する治療のためのESDにあたり,書面による同意を得た.
評価項目本研究の主要評価項目は,針型ナイフ(フラッシュナイフ)またははさみ型ナイフ(クラッチカッター)を使用したSNADETに対するESDのR0切除率と周術期の有害事象とした.副次評価項目は,完全閉鎖の割合と各閉鎖方法による周術期有害事象とした.
内視鏡システム,デバイス,および設定すべてのESD処置は,内視鏡スコープはEG-580RDまたはEG-L580RD,内視鏡システムはAdvanciaまたはLASEREO(いずれも富士フイルム株式会社製)を用いて施行した.スコープ先端アタッチメントには先細り型の透明フード(STフードまたはショートSTフード;富士フイルム社製)を使用した.ESD処置は,基本的に全身麻酔下で行われた.しかし,重度の併存疾患のために全身麻酔が禁忌である患者に対しては,プロポフォール,ペンタゾシン,およびデクスメデトミジンを使用して,意識下鎮静でESDが施行された.粘膜下層の膨隆を長期間持続させるために,ヒアルロン酸ナトリウム(MucoUp;ボストンサイエンティフィック社製)を少量のインジゴカルミンとともに局注液として使用した.2009年1月から2017年9月にかけては,主に長さ2.0mmのフラッシュナイフ(富士フイルム社製)によるESD(フラッシュナイフ-ESD)を施行した.また,2017年10月から2019年7月にかけて,長さ3.5mmのクラッチカッター(富士フイルム社製)によるESD(クラッチカッター-ESD)を施行した.高周波発生装置VIO300D(ERBE社製)をすべてのESD処置で使用した.
ESD処置フラッシュナイフ-ESDとクラッチカッター-ESDは同じESDの手順に従って行われた.病変の口腔側からの粘膜切開はヒアルロン酸ナトリウムを局注した後,フラッシュナイフでは,Endocut Iモード(effect 2,duration 3,interval 3)を使用し,クラッチカッターではEndocut Iモード(effect 1,duration 4,interval 1)を使用して行った.通常,粘膜フラップまたは粘膜下ポケットを作成し 25),口側から肛側に全周切開および粘膜下切開はフラッシュナイフでは,Endocut Iモードおよびフォースド凝固モード(effect 2,40W)を,クラッチカッターではEndocut Iモードおよびソフト凝固モード(効果5,100W)を使用して行った(電子動画 S1).術中止血は,クラッチカッターまたは止血鉗子(FD-411QR,コアグラスパー;オリンパス,東京,日本)を使用して,ソフト凝固モード(効果5,100W)で行った.
電子動画 S1
閉鎖方法遅発性合併症の予防目的に,ESDで病変を切除した直後,すべての病変に対して,従来のクリップ,腹腔鏡閉鎖,または9mmのOTSC(Ovesco Endoscopy, Tu ebingen, Germany)を用いて,粘膜欠損部の予防的閉鎖を試みた.2009年1月から2014年12月においては,従来型クリップによる予防的閉鎖を行った.従来型クリップによる閉鎖が困難な場合は,エンドループ(PDS Ⅱ;Olympus Medical Systems)および従来型クリップによる閉鎖を試みた.2015年1月から2016年12月においては,既報のように 19),腹腔鏡下の手縫い縫合技術を利用した腹腔鏡下閉鎖を行い,十二指腸の粘膜欠損を補強した.2017年1月から2019年7月の間は,既報のように 23),24),OTSC閉鎖をTwin Grasper(TG;Ovesco Endoscopy)を併用して実施した.大きな粘膜欠損に対しては,複数のOTSCと従来のクリップを使用して完全閉鎖を完遂した(Figure 1,電子動画 S2).
クラッチカッターを用いたESDおよびOTSC閉鎖のSNADETの1例.
a:十二指腸下行部外側に存在する表面隆起型病変(高分化型粘膜内癌,26mm,Ly0,V0).
b:クラッチカッターを用いてESDを施行した.
c:偶発症なく一括切除した.
d:2つのOTSCを用いて完全閉鎖が可能であった.
ESD, endoscopic submucosal dissection;OTSC, over-the-scope clip;SNADET, superficial non-ampullary duodenal epithelial tumor.
電子動画 S2
参加内視鏡医すべての手技は,日本消化器内視鏡学会専門医の資格を有し,500例以上の上部消化管腫瘍に対するESD治療経験のある熟練した内視鏡医1名が実施した.
ESD後の治療マネージメント十二指腸ESDおよび各閉鎖方法を行われた患者は,ESD当日のみ絶食とし,補液の静脈内投与を受けた.全血球計算および血清C-reactive Protein(CRP)値を含む血液生化学検査が術後(POD)1日に実施された.血液検査および腹部症状に基づいて臨床経過が良好であった場合,POD 1より流動食が開始され,POD 5で退院した.遅発性合併症が生じた場合は,その時点で血液検査,コンピューター断層撮影(CT),または内視鏡検査を行った.プロトンポンプ阻害剤はESDの前日から3週間後まで処方されたが,予防的抗生物質はすべての患者に投与されなかった.
定義R0切除は,断端陰性の一括切除として定義した.断端陽性あるいは不明瞭な場合をR1またはRX切除として定義した.完全閉鎖は,粘膜欠損全体の完全な縫縮として定義した.術中穿孔は,ESD中の穿孔部位の確認,およびESD後のCTで腹腔内あるいは後腹膜気腫の存在が観察された場合と定義した.術中出血は,ESD処置中に発生するあらゆる出血として定義した.遅発性出血は,処置日以降に内視鏡的止血を必要とする吐血または下血として定義した.遅発性穿孔は,処置日以降に内視鏡検査およびCTによって診断された穿孔として定義した.
病理診断すべてのESD標本は,10%ホルマリンで固定され,病理学的に評価された.病理学的診断は,すべての内視鏡所見を知らない2人の経験豊富な臨床病理医(Y.MおよびM.K.)によって診断された.
統計解析定量的データは,中央値と四分位範囲を使用して要約された.フィッシャーの直接確率検定,カイ2乗検定,対応のないt検定,マンホイットニーU検定,またはボンフェローニ相関を使用した一元配置分散分析を使用して,患者の特性,検査の詳細,および治療結果を比較した.0.05未満のP値は統計的に有意であると見なした.すべての統計分析は,SPSSバージョン25.0ソフトウェアプログラム(IBM Corp., Armonk, NY, USA)を使用して実行した.
この研究では,フラッシュナイフ-ESD 37例とクラッチカッター-ESD 47例を含むSNADET症例連続81例84病変を分析した(Figure 2).フラッシュナイフ-ESD 2症例は,術中穿孔のために緊急手術を施行した.また,13,13,および56症例における,ESD後の粘膜欠損閉鎖法の内訳は,それぞれ従来クリップ13例,腹腔鏡下閉鎖13例,OTSC56例であった.2017年のOTSC閉鎖導入以降,60mmを超える病変および主乳頭部近傍にありOTSCによる主乳頭閉塞のリスクがある6例(60mmを超える病変の2例と主乳頭近傍の4例)に対してはOTSC閉鎖を予め予定しなかった.フラッシュナイフ-ESDおよびクラッチカッター-ESDの臨床転帰をTable 1に示す.男女比,平均年齢,腫瘍肉眼型,部位,腫瘍径中央値,術前生検,生検に基づく術前診断,全身麻酔の割合,またはリンパ管浸潤を含む最終的な病理診断に関して,2つのデバイス間に有意差は認めなかった.ただし,切除時間の中央値は,クラッチカッター-ESDの方がフラッシュナイフ-ESDよりも有意に短かった(それぞれ36分と54分,P=0.045).また一括切除率に有意差は認めなかったがR0切除率は,クラッチカッター-ESDの方がフラッシュナイフ-ESDよりも有意に高かった(それぞれ97.9%と83.8%,P=0.040).RXと診断された症例は,焼灼の影響のために側方断端の評価が困難であったことが要因であったため,全例でESD後に追加治療は行わなかった.さらに,術中穿孔率は,クラッチカッター-ESDの方がフラッシュナイフ-ESDよりも有意に低かった(それぞれ0%と13.5%,P=0.014).術中出血回数の中央値は,クラッチカッター-ESDの方がフラッシュナイフ-ESDよりも有意に少なかった(それぞれ1回と6回,P<0.001).潰瘍閉鎖の方法は,期間が異なるため,2つのデバイス間で大幅に異なったが,遅発性穿孔および後出血率に有意差は認めなかった.
登録症例および病変検討のフローチャート.
内視鏡的粘膜下層剝離術の臨床病理学的成績.
3つの閉鎖法で,腫瘍の位置,占有円周,または切除サイズに有意差を認めなかったことをTable 2に示した.完全閉鎖率は,従来クリップ,腹腔鏡下閉鎖,およびOTSCでそれぞれ76.9%,92.3%,および98.2%で,3つの方法の間に有意差を認めた(P=0.021).不完全閉鎖となった症例はすべて,残りの粘膜欠損にポリグリコール酸(PGA)シート(ネオベール,グンゼ株式会社,京都,日本)を充填し,フィブリン糊で粘膜欠損部を覆った.
閉鎖法の臨床病理学的成績.
従来クリップ,腹腔鏡下閉鎖,およびOTSC症例の平均切除径は,それぞれ26.9±4.9mm,37.5±3.2mm,および30.8±1.2mmであり,有意差は認めなかった(Figure 3-A).平均閉鎖時間はそれぞれ39.6±9.2分,68.8±6.6分,および18.9±1.7分であり,従来クリップと腹腔鏡下閉鎖,従来クリップとOTSC,および腹腔鏡下閉鎖とOTSCの間に有意差を認めた(それぞれ,P<0.01,P<0.01,およびP<0.01)(Figure 3-B).
3つの閉鎖法の比較.
A:平均切除径.
B:平均切除時間.
C:平均最大白血球数.
D:平均最大CRP値.
E:平均入院期間.
F:それぞれの閉鎖法の平均費用.
CC, conventional clip;LC, laparoscopic closure;OTSC, over-the-scope clip. *P<0.001.
従来クリップ,腹腔鏡下閉鎖,およびOTSCの遅発性穿孔率はそれぞれ15.4%,7.7%,および1.8%(P=0.092),遅発性出血率はそれぞれ0%,0%,3.6%であった(P=1).
フラッシュナイフ-ESDを受けた3例で遅発性穿孔を認め,そのうち,従来クリップによる完全閉鎖した1例は緊急手術となった.残りの遅発性穿孔2例(従来クリップによる不完全閉鎖の1例と腹腔鏡下閉鎖による不完全閉鎖の1例)は,穿孔部位にPGAシートとフィブリン糊を充填することによって保存的に治療した.クラッチカッターESDに関しては,OTSCによる完全閉鎖の1例で,OTSC間の隙間に遅発性穿孔を認めたため,PGAシートで同様に保存的に治療した(Figure 4).したがって,完全閉鎖および不完全閉鎖の遅延穿孔率は,それぞれ2.6%(2/77)および40%(2/5)であった.
クラッチカッターにより切除し,OTSC閉鎖が成功したにもかかわらず,遅発性穿孔をきたしたSNADETの1例.
a:下十二指腸角外側の表面隆起型病変(高分化型粘膜内癌,35mm,Ly0,V0).
b:クラッチカッターを用いてESDを施行した.
c:偶発症なく一括切除が可能であった.
d:粘膜欠損は2個のOTSCにより完全に閉鎖した.従来クリップを露出血管に閉鎖に用いた.
e:2個のOTSCの間に遅発性穿孔を認めた.
f:PGAシートおよびフィブリン糊を穿孔部に充填した.
SNADET, superficial non-ampullary duodenal epithelial tumor;ESD, endoscopic submucosal dissection;OTSC, over-the-scope clip.
平均白血球数は,3つの閉鎖方法間で有意差は認めなかった(Figure 3-C).しかし,平均CRP値は,OTSC症例(1.4±0.5mg/dL)で,従来クリップおよび腹腔鏡下閉鎖症例(それぞれ,7.9±3.9mg/dLおよび8.7±3.1mg/dL)よりも有意に低かった(P<0.01)(Figure 3-D).さらに,ESD後の入院期間は,OTSC症例(5.7±0.3日)が従来クリップ症例(23.5±12.5日)よりも有意に短かった(P<0.01)が,OTSC症例と腹腔鏡下閉鎖症例(12.9±3.1日)で有意差は認めなかった.(Figure 3-E). 従来クリップ症例において,完全閉鎖に必要な従来クリップとエンドループの個数中央値はそれぞれ5個と1個であった.OTSC症例において完全閉鎖に必要なOTSCと従来クリップの個数中央値はOTSC3個,従来クリップ1個であった.閉鎖に使用するデバイスの平均医療費は,腹腔鏡下閉鎖およびOTSC(それぞれ2,069±208USドル,および1,829±579USドル)よりも従来のクリップ(63.4±49.7USドル)の方が有意に低かった(共にP<0.001)(Figure 3-F).
今回の結果は,クラッチカッター-ESDがSNADETの高い一括切除率とR0切除率を達成できることを示した.OTSC閉鎖は,従来クリップよりも完全閉鎖成功率が高いことが示された.したがって,クラッチカッター-ESDおよび予防的OTSC閉鎖は,SNADETに対する安全かつ効果的な低侵襲治療になりえることが示唆された.
十二指腸の狭い内腔と湾曲した構造による内視鏡操作不良による十二指腸ESDの技術的困難性が術中穿孔につながった.特に,術前生検による重度の線維化の存在下では内視鏡切除が非常に困難になることが報告されている 26),27).重度の線維化組織を剝離する際に針型あるいはブレード型のESDナイフでは筋層損傷を回避することは困難であるため,術中穿孔率が増加したと予想された.近年の狭帯域光による拡大観察進歩によりSNADETに対する内視鏡診断の高い診断精度が報告されているため 28)~30),術前生検による線維化のリスクを回避するために,術前生検の代わりにSNADETの内視鏡診断が推奨されている.クラッチカッターは,先端外縁が絶縁コーティングされているため,重度の線維化を伴う狭いスペースであっても安全かつ比較的簡単に剝離が可能である 18),19).さらに,クラッチカッター-ESDは,視認できる血管をプレ凝固することで,フラッシュナイフ-ESDよりも術中出血の予防に役立つことが示された.熱凝固によるRX切除率は,フラッシュナイフ-ESDの方が高いことがわかったが,この差は統計的に有意ではなかった.フラッシュナイフ-ESDでは術中出血の止血凝固による効果が,RX切除率に影響すると考えられた.したがって,クラッチカッターを用いたESDのテクニックにより,十二指腸ESDの治療成績が改善すると考えられた.
十二指腸ESD後潰瘍が十分に閉鎖されていない場合,遅発性穿孔のリスクは非常に高く 30),十二指腸ESD後粘膜欠損の完全閉鎖は,遅発性穿孔のリスク低下の唯一の独立した予測因子であった 31).したがって,粘膜欠損の完全閉鎖は,十二指腸ESD後の遅発性穿孔を防ぐために不可欠と考えられる.
注目すべきことに,われわれの研究において,OTSCは十二指腸ESD後粘膜欠損の閉鎖時間が短く,術後の炎症が少ないという点で,腹腔鏡下閉鎖よりも利点であることを示した.閉鎖機器の医療費と入院期間は,OTSCと腹腔鏡下閉鎖で有意差はなかった.ただし,腹腔鏡下閉鎖には,内視鏡医に加えて腹腔鏡外科医が必要である.したがって,腹腔鏡下閉鎖を行った外科医の費用を考慮すると,OTSC閉鎖は腹腔鏡下閉鎖よりも高い費用が必要であると予想される.
OTSC閉鎖では,ESD後の大きな粘膜欠損を閉鎖する場合,TG鉗子を使用して潰瘍周囲の粘膜の引き寄せることが重要である 32).ただし,複数のOTSCを使用するには技術的な制限がある.今回の症例では,OTSC間の粘膜欠損に遅発性穿孔が発生したからである.さらに,主乳頭の近くの部位ではOTSCが適切な部位に留置できない可能性が示唆された.これは,同部位の1例において,口側と肛門側の粘膜組織がTGを使用しても近接できなかったため,OTSC閉鎖が不成功となったと考えられる.その後,不完全閉鎖に対して,PGAシートを閉鎖できていない部位に充填しているため,遅発性穿孔には至らなかった.ただし,今回はPGAシートを充填した不完全閉鎖の症例では,遅発性穿孔の割合が40%(2/5)であったため,遅発性穿孔を防ぐためにPGAシートを充填することの効果については議論の余地がある.TashimaらからOTSCによる不完全閉鎖に対して,追加の腹腔鏡下閉鎖の有効性が報告されている 24).したがって,OTSCによる不完全閉鎖には追加の腹腔鏡下閉鎖がより良い可能性がある.
われわれの研究に関連するいくつかのlimitationについて言及しなければならない.まず,この研究はサンプルサイズが小さく,単一の先進施設で行われ,SNADETに対して一人のエキスパート内視鏡医によって施行されたESDであることである.第二に,遡及的研究のため,ある程度の選択バイアスの可能性を否定することはできない. 第三に,一人のエキスパート内視鏡医の学習曲線の影響をこの研究で除外することはできない.終盤の2年間では,クラッチカッターによるESDを施行した症例が含まれているためである.
結論として,クラッチカッター-ESDは,フラッシュナイフ-ESDよりもSNADETに対する十二指腸ESDにおいて高いR0切除率と低い術中穿孔率が可能であることが示された.さらに,OTSCは,従来のクリップや腹腔鏡下閉鎖と比較して,粘膜欠損を正常かつ迅速に閉鎖することが可能であった.これらの結果は,クラッチカッターを使用した十二指腸ESDと予防的OTSC閉鎖が,SNADETの低侵襲治療として安全かつ実行可能であることを示唆した.
謝 辞
京都府立医科大学大学院医学研究科消化器内科学の皆様には本研究の実施にご協力いただき,深謝申し上げる.この論文は,日本学術振興会 科学研究費助成事業(科研費基盤C)から土肥統(No.18K07916)から一部支援を受けている.さらに,英文校正に対してEditage(www.editage.jp)に感謝する.
本論文内容に関連する著者の利益相反:土肥統と吉田直久は富士フイルム株式会社から研究資金を受け(J182003397およびJ162001222),内藤裕二は,富士フイルムメディカル株式会社から共同研究資金を受領した(J132001115,J132001139).伊藤義人は,富士フイルムメディカル株式会社(J082003006)の寄付講座を担当した.他の著者には,申告する利益相反はない.また,富士フイルムメディカル株式会社は,本研究の設計,実施,データ収集,データ解釈,または報告に関与していない.
補足資料
電子動画 S1 下十二指腸角の側壁に存在する35mm大の表在性非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍に対してクラッチカッターを用いて内視鏡的粘膜下層剝離術(Figure 4と同じ症例).クラッチカッター-ESDの手順は同じ操作で施行した.(1)標的組織を把持する(固定).(2)把持した組織を持ち上げる.(3)把持した組織を切断する.クラッチカッターは,先端外縁が絶縁されているため,重度の線維化を伴う狭い組織でも安全に剝離できる.
電子動画 S2 直径約32mmの大きな粘膜欠損に対してOTSCとツイングラスパー(TG)を使用した予防的閉鎖(Figure 1と同じ症例).TGにより粘膜欠損外側の正常粘膜両端をつかみ,つかんだ粘膜をアタッチメント内に引き込んで,9mm OTSCを留置した.大きな粘膜欠損が残った場合には,欠損を完全に閉じるために,残りの粘膜欠損の上に同様の方法でもう1つのOTSCを留置した.小さな粘膜欠損が残ったため,従来クリップを2個留置した.