GASTROENTEROLOGICAL ENDOSCOPY
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2021 Volume 63 Issue 4 Pages 451-480

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要旨

日本消化器内視鏡学会は,新たに科学的な手法で作成した基本的な指針として,「内視鏡的乳頭切除術(endoscopic papillectomy:EP)診療ガイドライン」を作成した.EPは近年普及している十二指腸乳頭部腫瘍に対する治療法の一つである.この分野におけるエビデンスはレベルの低いものが多く,専門家のコンセンサスに基づき推奨の強さを決定しなければならないものが多かった.本診療ガイドラインは,適応と術者の条件,術前・術中準備と手技,早期偶発症,治療成績と遺残・再発,経過観察と晩期偶発症の5つの項目に分け,現時点での指針とした.

[1]はじめに

近年普及している乳頭部腫瘍に対する内視鏡的乳頭切除術(endoscopic papillectomy:EP)を安全かつ確実に実施するためには,基本的な指針が必要である.これまで,本邦においてEPに関してのガイドラインはなかった.そこで,日本消化器内視鏡学会ガイドライン委員会は日本胆道学会と協力し,EP診療ガイドラインを,科学的な手法に基づいた基本的な指針となるものとして新たに作成することを決定した.作成方法は,近年行われている国際的に標準とされているevidence based medicine(EBM)の手順に則って行った.具体的には「Minds診療ガイドライン作成マニュアル2017」 1に従い,EBMに基づいたガイドライン作成を心がけた(Table 1).執筆の形式は「EST診療ガイドライン」 2,「EPLBD診療ガイドライン」 3に準じた.なお,この領域におけるレベルの高いエビデンスは少なく,専門家のコンセンサスを重視せざるを得なかった.本ガイドラインがEP診療での有用な指針となることを期待する.

Table 1 

推奨の強さとエビデンスレベル.

[2]本ガイドラインの作成手順

1.委員

日本消化器内視鏡学会ガイドライン作成委員として胆膵消化器内視鏡医7名が作成を委嘱された.また,評価委員として,胆膵消化器内視鏡医4名が評価を担当した(Table 2).

Table 2 

内視鏡的乳頭切除術(endoscopic papillectomy:EP)診療ガイドライン作成委員会構成メンバー.

2.推奨の強さとエビデンスレベル,ショートステートメント

作成委員により,適応と術者の条件,術前・術中準備と手技,早期偶発症,治療成績と遺残・再発,経過観察と晩期偶発症の5つの項目が設定された.それぞれの項目について,CQを作成し,評価委員会の評価を参考に修正を加え最終的に21個となった.そして,各CQに対して,PubMedおよび医学中央雑誌にて2019年9月までの期間で,系統的に文献検索を行った.不足の文献に対してはハンドサーチも採用した.検索した文献を評価し必要な文献を採用し,各CQに対するステートメントと解説文を作成した.そして,作成委員は各担当分野の各文献のエビデンスレベルおよびステートメントに対する推奨の強さとエビデンスレベルをMinds診療ガイドライン作成マニュアル2017 1に従って設定した.作成されたステートメントと解説文を用いてガイドラインを作成し,ステートメント案に対して,作成委員と評価委員の合計11名によりDelphi法による投票を行った.Delphi法は,1-3:非合意,4-6:不満,7-9:合意,として7以上のものをステートメントとして採用した.完成したガイドライン案は,評価委員の評価を受けたうえで修正を加えた後,今回学会会員に公開した.

3.対象

本ガイドラインの取り扱う対象患者は,EPによる治療を受ける患者とする.また,利用者はEPを施行する臨床医およびその指導医とする.ガイドラインはあくまでも標準的な指針であり,個々の患者の意志,年齢,合併症,社会的状況,施設の事情などにより柔軟に対応する必要がある.

[3]本論文内容に関連する著者の利益相反

本ガイドライン作成委員,評価委員の利益相反に関して各委員には下記の内容で申告を求めた.

本ガイドラインに関係し,委員個人として何らかの報酬を得た企業・団体について:報酬(100万円以上),株式の利益(100万円以上,あるいは5%以上),特許使用料(100万円以上),講演料等(50万円以上),原稿料(50万円以上),研究費,助成金(100万円以上),奨学(奨励)寄付など(100万円以上),企業などが提供する寄附講座(100万円以上),旅費,贈答品などの受領(5万円以上).

良沢昭銘(講演料:オリンパス),潟沼朗生(講演料:オリンパス),藤本一眞(講演料:ツムラ,EAファーマ,アストラゼネカ,第一三共,奨学寄付:アストラゼネカ,第一三共,アステラス製薬,武田薬品工業,EAファーマ,旭化成メディカル)

[4]資金

本ガイドライン作成に関係した費用については,日本消化器内視鏡学会より資金提供を受けた.

[5]内視鏡的乳頭切除術診療ガイドライン

1.適応と術者の条件

ステートメント1-1:

EPは,十二指腸乳頭部腺腫に行うことを提案する.

Delphi法による評価 中央値:9,最低値:7,最高値:9

推奨の強さ:2 エビデンスレベル:C

解説:

十二指腸乳頭部腫瘍,特に十二指腸乳頭部癌に対する標準的治療は膵頭十二指腸切除術(pancreatoduodenectomy:PD)である.しかし,PDは侵襲が大きいことから,乳頭部腺腫や腺腫内癌に対し,縮小手術として外科的な経十二指腸乳頭部切除術やEPといった乳頭部局所切除術が試みられている 1),2

EPは本邦で1983年に,乳頭部腫瘍に対する内視鏡治療として報告され 3,その後十二指腸乳頭部腺腫に対する治療として,胆膵内視鏡治療に精通している施設を中心に行われるようになっている.EPの用語については,papillectomyのほかにampullectomy(膨大部切除術)という用語も混同して使われているが,ampullectomyという用語は本来,乳頭形成術を伴う外科的局所切除術に用いられる 4.ほかにもendoscopic snare excision 5という用語が使われている.

EPの適応は,膵胆管内に進展を伴わない腺腫とするのが一般的であるが,どのような乳頭部癌を適応とすべきかについてはコンセンサスが得られていない.直近の「胆道癌診療ガイドライン」 1では,十二指腸乳頭部癌では正確な深達度診断がいまだ困難なので,局所的乳頭切除(内視鏡的,外科的)を行わないことを提案する(推奨度2,レベルC),とされている.これには,術前進展度診断とリンパ節転移の問題が関連している.現行の「胆道癌取扱い規約第6版」 6では,十二指腸乳頭部癌の局所進展度T1は乳頭部粘膜内に留まるT1aとOddi筋に達するT1bとに区別されている.粘膜内に限局するTis~T1a癌ではリンパ節転移をほとんど認めない 7),8ものの,癌がOddi筋に達するT1b癌ではリンパ節転移率が高くなると報告され,T1癌でのリンパ節転移陽性率は10~22%と報告されている 9),10.また,Kawabataら 11はPDを施行した症例の検討に基づいて,pTis,pT1ともにリンパ節転移はなかったが,リンパ管侵襲の頻度はpTis 0%,pT1 38.5%であり,乳頭切除はpTis症例に限るべきだと報告している.Tis~T1a癌に対するEPは許容される可能性があるが,術前超音波内視鏡検査(endoscopic ultrasound:EUS),管腔内超音波検査(intraductal ultrasound:IDUS)での詳細な評価を行ったとしても,現在のmodalityではOddi筋進展を正確に評価することは難しい.

十二指腸乳頭部腫瘍の病理学的診断には,内視鏡的生検が重要とされているが,術前生検と術後診断の一致率は39.7~70%と報告されており 12),13,生検が癌陰性であっても,完全にcancer in adenomaを否定することは困難である.そのため,total biopsyという考えから診断的治療としてEPが行われることも少なくない 14),15.また,乳頭部のneuroendocrine tumorやparagangliomaなどに対してEPを施行している報告もある 16),17が,コンセンサスは得られていない.

ステートメント1-2:

出血傾向を有する症例,急性膵炎症例などは,EPの禁忌と考えられるので行わないことを提案する.

Delphi法による評価 中央値:9,最低値:5,最高値:9

推奨の強さ:2 エビデンスレベル:C

解説:

一般的に,出血傾向を有する症例,急性膵炎症例はEPの禁忌とされている.いずれも,出血傾向や膵炎が改善されれば禁忌からはずれる.抗血栓薬服用中の症例については,「抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン」 1においてEPは出血高危険度の手技とされており,原則的にガイドラインに基づいた対処が望ましい(ステートメント2-2を参照).出血の予防対策として,術前に,併存疾患の確認(慢性腎不全,高血圧症,心疾患,肝硬変症,など),血小板数やINR値,抗血栓薬のチェックを行い,可能な限り是正を試みる.

大きな病変で,手技に際して視野確保に困難を伴うなど,安全な施術ができない症例では,外科切除などほかの治療法を検討する.

なお,Delphi法の最低値5は,“提案”ではなく“推奨”にすべきという意見であった.

ステートメント1-3:

EPの術者の条件として,ERCP関連手技,内視鏡的切除術,内視鏡的止血術などに熟練した内視鏡医のもとで基本手技を学びトレーニングを受けていることを推奨する.

Delphi法による評価 中央値:9,最低値:7,最高値:9

推奨の強さ:1 エビデンスレベル:D

解説:

EPは,ERCP関連手技と内視鏡的切除術の双方におけるスキルを要する高度な手技である.さらに,出血,膵炎,穿孔といった偶発症のリスクがあるため,それらに対処できる技能も要する.したがって,EPの術者の条件として,熟練した内視鏡医のもとで,ERCP,IDUS,胆管・膵管ステント留置術などのERCP関連手技,内視鏡的切除術,内視鏡的止血術などの基本手技を学びトレーニングを受けている必要がある.未熟な術者が単独で施行した場合には,手技が完遂できないことや,不完全な切除に終わること,重篤な偶発症が起きる可能性がある.

EPの導入にあたって,動画やトレーニングモデル 1),2でのセルフトレーニングのみならず,当初は手技に熟練した内視鏡医の指導のもとで修練を積むことが望ましい.まずは,EPの適応や手技の基本,さらに偶発症やそれに関するリスクファクターについても理解したうえで,手技の見学や介助を行い,手技の手順や処置具の使用法を習得してから施行すべきである.その際も,手技に熟練した内視鏡医の指導のもとに比較的容易な症例から始め,困難な局面ではすぐに交代できる体制をとることが望ましい.このため,手技に熟練した内視鏡医がいる施設における研修や,手技に熟練した内視鏡医を招聘して一緒に施行するなどの技術導入のステップを踏むことが推奨される.

2.術前・術中準備と手技

ステートメント2-1:

EPの術前検査として,血液生化学検査,十二指腸鏡による内視鏡観察・生検と,EUSあるいはERCP(IDUS)を推奨する.

Delphi法による評価 中央値:9,最低値:8,最高値:9

推奨の強さ:1 エビデンスレベル:B

解説:

EPの術前には,血液・凝固能検査および生化学検査を行う.

内視鏡観察は十二指腸鏡を用いて乳頭部の正面視により行う.潰瘍,易出血性,硬さなどの所見は悪性を示唆するとされている 1.白色光観察のみではなく狭帯域光(NBI)観察 2,NBI拡大観察 3が腺腫と腺癌の診断に有用であるという報告や,境界を明瞭にするという報告 4もある.

術前生検と術後診断の一致率は39.7~70%と報告されており,腺癌の偽陰性率は16~60%と報告されている 5)~14.手術標本の病理学的検討で乳頭部腫瘍は深い場所のほうが悪性度が高いという報告があるため,深い場所からの生検や 8,内視鏡所見から悪性度が高いと考えられる場所を生検するなどの工夫が必要である.CDX2とCK20の免疫染色がEPの適応を判断するのに有用であるという報告もある 15

EPの適否診断という意味でT1 stage(乳頭部に留まる)診断能について,EUSの感度・特異度はそれぞれ77%・78%とメタアナリシスで報告されている 16.理論上,現状ではEUSでT1stageをOddi括約筋への浸潤の有無で分類することは困難である.EUSの胆管・膵管への進展診断能は,それぞれ86~90%・77~92%と高い精度を示している 17)~19.IDUSはERCPに引き続き施行される.IDUSのT1 stage診断能は80~100%と高い 17),18),20ことが報告されているが,IDUSでもOddi括約筋への浸潤の有無を診断することは困難である.IDUSの胆管・膵管への進展診断能は,それぞれ90~95%・88~100%と高い精度を示している 17)~19.IDUSの診断精度は最も高いが,膵炎が発症する危険があり注意を要する.

CT,MRI(MRCP)は,EPの適応となる早期の病変の進展度診断などについてはEUS,IDUSに劣るが 20,遠隔転移やリンパ節転移の診断において有用であり乳頭部と周辺臓器,血管などとの位置関係を客観的に把握できる利点を持つ.

ステートメント2-2:

抗血栓薬服用症例に対するEPは,消化器内視鏡診療ガイドラインにおける出血高危険度の内視鏡手技に準拠して施行することを推奨する.

Delphi法による評価 中央値:9,最低値:9,最高値:9

推奨の強さ:1 エビデンスレベル:C

解説:

EPは内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST)と同様に,2012年に改訂された日本の「抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン」 1はじめ2016年に改訂された米国消化器内視鏡学会(ASGE)ガイドライン 2,BSG-ESGEガイドライン 3でも出血高危険度の消化器内視鏡手技と定義されている.患者側の血栓塞栓症リスクを評価したうえで(必要に応じてそれぞれの疾患の専門科にコンサルトすること),ガイドラインとその追補 4に準拠した対処が望ましい.また,冠動脈ステント留置後など時間の経過により血栓塞栓症リスクが低減する場合は乳頭部腫瘍の進行度との兼ね合いを考慮し,EPを施行する最適な時期を検討するべきである.日本の消化器内視鏡ガイドライン 1に則った「EST診療ガイドライン」 5と抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドラインの追補 4による修正を追記した出血高危険度の消化器内視鏡手技時フローチャートを示す(Figure 1234).

Figure 1 

フローチャート(抗血小板薬単剤)(文献より引用).

Figure 2 

フローチャート(抗凝固薬単剤)(文献14を基に作成).

1:本邦では,トロンビン阻害薬は非弁膜症性心房細動のみ,Xa阻害薬は非弁膜症性心房細動と深部静脈血栓症・肺血栓塞栓症が保険収載されている.

2:ヘパリン置換については血栓塞栓症の発生率に寄与せず出血リスクが増加するという報告が多く認められるようになりASGEガイドライン 2では推奨されず,APAGE・APSDEガイドライン 6ではワルファリン使用時のみ推奨,BSG・ESGEガイドライン 3では低分子ヘパリン置換が推奨されている.

3:APAGE・APSDEガイドライン 6,BSG・ESGEガイドライン 3では2日前からの休薬を,ASGEガイドライン 2では薬剤とクレアチンクリアランスに応じて1~6日間の休薬を推奨し,再開については内視鏡的に止血を確認してからとされている.

Figure 3 

フローチャート(抗血小板薬2剤併用)(文献より引用).

Figure 4 

フローチャート(抗血小板薬と抗凝固薬の2剤併用)(文献を基に作成).

「抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン」 1では直接経口抗凝固薬(DOAC)をヘパリン置換することが推奨されていたが,追補 4ではDOACはヘパリン同様に短時間での薬効減弱・発現となるために短期間の中止のみでの対応が推奨されている.ヘパリン置換については血栓塞栓症の発生率に寄与せず出血リスクが増加するという報告が多く認められるようになりASGEガイドライン 2では推奨されず,APAGE・APSDEガイドライン 6ではワルファリン使用時のみ推奨,BSG・ESGEガイドライン 3では低分子ヘパリン置換が推奨されている.ワルファリンの一時的DOACへの変更に際して,DOACの保険適応がトロンビン阻害薬(dabigatran)は非弁膜症性心房細動のみ,Xa阻害薬(rivaroxaban,apixaban,edoxaban)は非弁膜症性心房細動と深部静脈血栓症・肺血栓塞栓症であることに注意を要する(Table 3).

Table 3 

各DOACの薬理学的特徴(文献4より引用).

十二指腸乳頭部の胆管と膵管が開口するという解剖学的特性からほかの消化管腫瘍の治療とくらべ止血が困難である可能性もあり,慎重な対応が必要である.

ステートメント2-3:

ペースメーカーあるいは埋め込み型除細動器留置症例に対するEPは,循環器専門医へ相談のうえ臨床工学技師などの立ち会いのもとで施行することを推奨する.

Delphi法による評価 中央値:9,最低値:9,最高値:9

推奨の強さ:1 エビデンスレベル:D

解説:

市販されているペースメーカー,埋め込み型除細動器(implantable cardioverter defibrillator:ICD)の添付文書 1),2上,EPで使用される高周波発生装置,X線透視診断装置は併用注意の医療機器として記載されている.X線透視診断装置によるパルス状の連続したX線束がペースメーカーやICDに照射された場合誤作動を起こす可能性があるため,照射野内にペースメーカーやICDが入らないようにする必要がある.高周波発生装置に関しては,ペースメーカーに依存している患者(完全房室ブロック症例など)では非同期設定(AOO,VOO,DOOモード)に変更することとされている.また,ペースメーカーやICDとそのリード線が処置部と対極板の間に入らないようにする必要があり,出力を必要最低限とし短時間にする必要もある.ICDによっては不適切検出による除細動を起こす可能性もあり,機能停止させてEPを施行する必要があるため体外式ペースメーカーおよび除細動器の準備も必要である.可能であれば双極型のデバイスを使用し,術中は心電図,血圧,酸素飽和度のモニタリングが必要であり,術後にはペースメーカー,ICDのチェックと必要に応じて再設定を行う.

ペースメーカー,ICD患者におけるEP施行に関するエビデンスはない.治療内視鏡手技一般としてASGEのtechnology status evaluation report 3でもほぼ同様の内容が推奨されている.機器は日進月歩であるので,循環器専門医にコンサルトして機器のチェックや再設定ができる臨床工学技士などの立ち会いのもとでEPを施行するべきである.

ステートメント2-4:

EPは腫瘍のスネアリングを行い,高周波で切除し,検体を回収する.

Delphi法による評価 中央値:9,最低値:8,最高値:9

推奨の強さ:なし エビデンスレベル:C

解説:

EPの手技は腫瘍のスネアリングを行い,高周波装置で腫瘍を切除し検体を回収する.スネアリングは通常のポリペクトミー用のスネアが用いられている 1),2.一部の報告では細いスネアを用いることにより,電気抵抗が少なく切除が可能なため膵管や胆管に対する影響を減少できると考えられているが,明確なエビデンスは存在しない.スネアは腫瘍の口側(口側隆起)からと,肛門側(小帯)からスネアリングする2つの方法がある 3)~5.それぞれ術者の好みにより行われており,どちらが優れているかは明確ではない.口側からスネアリングを行う場合の利点は,肛門側の腫瘍端までを,正確に視認しながら行えることである.切除にあたっては,腫瘍の遺残をさせずに,一括で切除することが望ましく,腫瘍の口側,肛門側,前壁,後壁側がきちんとスネア内に入るように注意を払う.スネアリングの前に腫瘍周囲に生理食塩水やエピネフリンなどの局注を行い,腫瘍辺縁を持ち上げる方法の報告もなされている 1.ただし,局注を行っても,腫瘍の辺縁は持ち上がる効果は期待できるが,腫瘍自体は持ち上がらない.また,局注の有無により偶発症の発症率は変わらないというランダム化比較試験(RCT)が報告されている 6.Aiuraらは十分な垂直方向断端を確保するために,胆管内にバルーンを挿入し,バルーンカテーテルにスネアをかけてチャンネル内に挿入し,バルーンを引くことにより,腫瘍全体を引き寄せた後にスネアリングを行う方法を報告している 7.腫瘍の垂直方向の切開面を十分に確保するためには理論的でよい方法と考えられるものの,深くスネアをかけ過ぎると,穿孔の危険も伴うため注意が必要である.

高周波には切開波,凝固波,混合波などがあり,いずれのモードでも切除は可能である 8),9.どのモードにすべきかの明確なエビデンスは存在しないものの,多くは混合波で切除されている.さらに,最近では切開と切開休止,また,凝固出力を自動で制御する機能を有した高周波装置が広く普及し 10,EPにも広く用いられている.IwasakiらはEPにおけるEndocut modeとAutocut modeとの成績のRCTを報告している 11.これによると出血(13.3% vs. 16.7%,P=1.00),膵炎(27% vs. 30%,P=0.77)ともに両者に有意な差は認められなかった.しかしながら,切除検体の組織所見において,Endocut modeのほうが組織挫滅の割合が高いことが示されている(27% vs. 3.3%,P=0.03).

切除検体の病理学的診断は腫瘍の組織型,進展度を評価し追加治療の必要性を判断するために必ず行う必要がある.切除検体は十二指腸の蠕動により肛門側に移動しやすく回収が困難となる可能性がある.このため切除後は,回収ネット等で素早く検体を回収すべきである.

ステートメント2-5:

1.EP後は膵炎予防のために膵管ステント留置を行うことを提案する.

Delphi法による評価 中央値:9,最低値:7,最高値:9

推奨の強さ:2 エビデンスレベル:B

2.胆管炎予防のための胆管ステント留置,EST,出血予防のためのクリッピングなどの処置が行われているが,明らかなエビデンスは存在しない.

Delphi法による評価 中央値:9,最低値:7,最高値:9

推奨の強さ:なし エビデンスレベル:D

解説:

EPは偶発症率が比較的高い手技であり,予防のための対策が必要である.膵炎予防のためには膵管ステント留置が行われている.これまでの報告においても,膵管ステント留置は膵炎予防に有用であるとの報告が多い 1)~5.一方で,膵管ステントはEP後に膵管ドレナージ不良例に対して留置すべきであるとの報告もあり 6),7,今後のさらなる研究が待たれる.Harewoodらは,RCTの結果を報告している 8.これによると膵炎の発症は0% vs. 33%,P=0.02と明らかに膵管ステント留置群のほうが低率であった.このように膵管ステント留置は膵炎予防に一定の効果があると考えられる.しかし,本研究のlimitationは,それぞれの群において25例を登録予定であったが,膵管ステント非留置群が9例に達したところで33%の膵炎発症を認めたため,研究の継続が中止となっていることに注意が必要である.EP後の膵管ステント留置の膵炎予防効果については,今後,大規模な研究によるエビデンスの確立が望まれる.

膵管ステントは,膵管上皮の障害が少なく,なおかつステントが一定期間自然脱落せずに,主膵管内に留まることが望まれる.一般には3~5 Frのステントが多く使用されているが,通常のERCP関連手技を対象としたRCTではステントの2週間以内の自然脱落率は3Fr(n=40),5Fr(n=38)ともに68.4% vs. 75.0%,P=0.617と有意な差は認めていない 9.膵管ステントの径や長さ形状,留置期間については明確なコンセンサスはない.今後,適切なデザインでの大規模な前向き研究によるエビデンスの確立が望まれる.

EP後の胆管ステント留置は,多くの場合不要であるとの意見と,胆管ステント留置やESTが必要であるとの意見もあり,十分なコンセンサスはない.また,胆管ステント留置を行わずにESTのみを行う場合も多い.今後のさらなる症例集積による検討が必要と考えられるが,いずれにせよ切開面の胆汁の流出を確認することが必要と考えられる.

切開面に対するクリッピングは縫縮により出血の予防効果が期待されるが,明らかなエビデンスはない.今後,出血予防としてのクリッピングの費用対効果を含めて検討が必要である.実際には切開面の肛門側からクリップで縫縮していく.この際に膵管口を塞ぐことによる膵炎の危険もあるため,安易なクリッピングは避け適切な部位を見極める必要がある.また,遺残した腫瘍の一部を埋没させることのないよう注意が必要である.十二指腸鏡では,クリップの操作性が悪く,十分に展開せず,適切な縫縮ができないなどの課題があったが,処置具の進歩により,より容易に手技施行可能なクリップが開発されている.

ステートメント2-6:

切除標本は病理学的に水平方向進展と垂直方向進展の評価が容易となるよう,ゴム板あるいはコルク板に貼り付けホルマリン固定を行うことを推奨する.

Delphi法による評価 中央値:9,最低値:9,最高値:9

推奨の強さ:1 エビデンスレベル:D

解説:

切除標本は回収後ただちにゴム板あるいはコルク板にピンセットで貼り付けホルマリン固定を行う.乳頭部腫瘍に対するEP後の再発率は0~33%と報告されており 1)~5,検体の病理学的な腫瘍の水平方向ならびに垂直方向の評価は重要である.また,胆管・膵管内の進展の評価も重要なため,どちらが口側・肛門側かなど過不足のない臨床情報を病理医に伝えることが必要である.胆管・膵管への進展の正確な評価のため,胆管あるいは膵管に静脈留置針であるプラスチックカニューレ型穿刺針のカテーテルを通してホルマリン固定する施設もあるが,切除標本で胆管・膵管が認識困難な場合も少なくない.病理所見で悪性所見が得られた場合や,水平方向,垂直方向の断端が陽性,さらには胆管・膵管内進展が陽性の場合には追加治療を含めて慎重な検討が必要である.

3.早期偶発症

ステートメント3-1:

EPによる早期偶発症の発生頻度は6.1~58.3%であり,出血,膵炎,穿孔,胆道炎などがある.

Delphi法による評価 中央値:9,最低値:8,最高値:9

推奨の強さ:なし エビデンスレベル:B

解説:

EPによる早期偶発症(1カ月以内に発現)の発生頻度は,6.1~58.3%と報告されている(Table 4).主な内訳と発生頻度は,急性膵炎0~23.1%,出血0~21.6%,穿孔0~8.3%,胆道炎0~7.3%であった 1)~24.また,severity gradeが記載された報告より重症例の累計発症頻度は,急性膵炎が10.2%,出血7.3%,穿孔12.5%,胆道炎0%であった.さらに早期偶発症に起因した死亡例は4例報告されており,その内訳は急性膵炎が2例,穿孔が2例であった.発生頻度について報告間で差がみられるのは,偶発症の定義や調査方法の違いがあるほか,手技法の違い(通電法,クリップ縫縮の有無,胆管および膵管ステント留置の有無など)も影響している可能性がある.術者は,これらの偶発症の頻度や発生時の対策について十分に理解し,術前に患者からインフォームド・コンセントを得ておく必要がある.

Table 4 

EP早期偶発症一覧.

ステートメント3-2:

EP後出血に対しては第一選択として内視鏡的止血術を行うことを推奨する.

Delphi法による評価 中央値:9,最低値:8,最高値:9

推奨の強さ:1 エビデンスレベル:C

解説:

EP後出血には,処置時に発生する場合(術中出血),処置数日後に発生する場合(遅発性出血)がある.これまでのほとんどの報告は,術中出血と遅発性出血を合わせたもので,発生頻度0~21.6%として報告されている(ステートメント3-1を参照).EP後出血は膵炎とならび最も頻度の高い偶発症である.各論文間での差が大きいのはEP後出血の定義の違いによるものが大きいと考えられる.一般的には,Cottonの分類 1に従い吐下血もしくはHb 2g/dl以下の低下を一つの基準としているものの,EP後出血が疑われ緊急内視鏡で止血処置を行ったもの,止血処置を行わなかったとしてもoozing出血を認めたものもEP後出血としてカウントしている報告もあり,施設間による違いが大きい.

出血部位は切除面の肛門側からの出血が多いとされている 2),3.また,切開電流に関しては切除面が大きいほどEndocut modeよりもAutocut modeでの出血が多い傾向にあったとも報告されている 4.出血予防としては,切除面をクリップで縫縮する方法 2),3やアルゴンプラズマ凝固法(APC)で焼灼止血する方法 5の有用性が報告されている.一方,エピネフリン希釈液の局注による出血の予防効果はないとされている 6

Oozing出血に対しては,冷却水やエピネフリン希釈液を散布する施設もある.軽度の出血であれば高張Naエピネフリン(HSE)の局注や凝固止血が奏効することが多い.しかし,拍動性の出血の場合はHSE局注やAPC焼灼術のみでは止血困難な場合もあり,クリッピングによる止血や,HSE局注とクリッピングの併用が必要とされる 7)~9.さらに,出血により凝血塊が形成され,膵管ステントを閉塞したため膵炎を発症した報告もあり注意を要する 10.内視鏡的止血術が困難な場合には,状況に応じて血管造影下塞栓術や外科的止血術を考慮する.

ステートメント3-3:

EP後膵炎が発症した場合は速やかに急性膵炎診療ガイドラインに準じた重症度判定を行い,適切な治療を行うことを推奨する.

Delphi法による評価 中央値:9,最低値:9,最高値:9

推奨の強さ:1 エビデンスレベル:C

解説:

EP後膵炎の多くは保存的加療が可能な軽症あるいは中等症の膵炎であるが,重症膵炎も少数ながら報告があり,重症膵炎による死亡例も報告されている 1)~4.したがって,EP後膵炎と診断した場合は「急性膵炎診療ガイドライン」に従い,呼吸・循環モニタリングと初期治療(絶食による膵の安静,十分な初期輸液,十分な除痛)を速やかに開始し,重症度判定を行う.重症例では,経腸栄養や,抗菌薬,蛋白分解酵素阻害薬などの投与を検討し,厳重な呼吸・循環管理下における集中治療が必要となる.自施設で対応困難な場合は重症急性膵炎患者に対応可能な施設への転送も考慮しなければならない 5

ステートメント3-4:

EP後穿孔が疑われた場合には単純CT検査を行い,穿孔と診断した場合には,外科医と密に連携し時期を逃さずに,適切な治療を行うことを推奨する.

Delphi法による評価 中央値:9,最低値:8,最高値:9

推奨の強さ:1 エビデンスレベル:C

解説:

穿孔の発症頻度は0~8.3%とされている(ステートメント3-1を参照).多くはクリップによる縫縮や保存的加療で対応可能ではあるが,時に重症化し致死的となるため,PDや穿孔部の縫縮術といった外科的治療が必要となることもある 1),2

切除前の乳頭部への局注の有無と穿孔の発症に関連性はみられないと報告されている 3.ただし側方進展を伴う病変に対して穿孔予防のために局注を行う施設はある 4),5

穿孔の診断および対応については,EST診療ガイドライン 6に準ずる.穿孔は,術中の内視鏡画面あるいはX線透視画面で肝腎周囲の異常ガス像(free air)や造影剤の漏出や処置具の位置の異常などを契機に診断される.しかし,free airは手技中に確認困難なこともあるため,術後の身体所見や血液生化学検査などで穿孔が疑われた場合には積極的にCTを実施する.後腹膜気腫は,腹痛を伴わず発熱だけで発症することが多く,時に気胸や皮下気腫へ発展することがあり,注意深い全身管理が必要である 7.穿孔の診断(疑い含む)後は,絶食および輸液管理とし,抗菌薬投与,胃管留置による全身管理を行う.経鼻胆管・膵管ドレナージチューブ留置 8を追加する施設もある.また,保存的加療で対処困難な場合は速やかに外科医へコンサルトを行う.

ステートメント3-5:

EP後胆管炎に対しては,経乳頭的内視鏡治療を行うことを推奨する.

Delphi法による評価 中央値:9,最低値:7,最高値:9

推奨の強さ:1 エビデンスレベル:B

解説:

EP後胆管炎は0~4%と発症率も低く,重篤となる可能性もほとんどない(ステートメント3-1を参照).治療は急性胆管炎・胆嚢炎診療ガイドラインに従い,経乳頭的アプローチによる内視鏡的胆管ドレナージを第一選択とする 1.経乳頭的アプローチが困難な場合は,経皮経肝胆道ドレナージを考慮する.予防としては切除後に7~10Frの胆管ステントを留置する方法がとられている.しかし,胆管炎予防として胆管ステントを留置する必要があるか否かについては明らかになっておらず,切除後の胆汁流出の状態で胆管ステントを留置するか否かを判断するという施設や,切除前もしくは後にESTを行う施設もある 2)~5

4.治療成績と遺残・再発

ステートメント4-1-1:

EPでの完全切除率は47~93%である.完全切除の定義は定まっていないが,切除標本の病理学的検索で切除断端陰性であるとする報告が多い.

Delphi法による評価 中央値:9,最低値:8,最高値:9

推奨の強さ:なし エビデンスレベル:C

解説:

EP後の病理における「完全切除」の定義については,一括切除を行ったうえで,水平断端,垂直断端陰性,胆管膵管切除断端陰性のいわゆるR0切除とする報告が多い.その一方で,計画的分割切除や,複数回治療であっても最終的に内視鏡所見上遺残なく除去できた場合を完全切除とする報告もある 1.EPは粘膜切除術であるため,水平断端,垂直断端の焼灼効果による不明瞭化から判断困難となる場合も少なくない.また,腫瘤内部を胆管膵管が貫通し,不十分な切除では胆管膵管断端の判断も難しくなる.判断困難症例の対処に関して言及している報告は少ないが,断端陽性に準じて対処する報告が多い.

病理学的検索で切除断端陰性を完全切除と定義した30例以上を対象とした15報告において,完全切除率は47~93%であった 2)~16.また,複数回処置を行い臨床的に遺残がないと定義した13報告では47~91%であった 1),17)~28

信頼性の高い病理学的診断を得るために,偶発症発生のリスクを十分考慮しながら,周囲粘膜および深部についても十分マージンをとりR0を目指した切除を心がける必要がある.

ステートメント4-1-2:

切除後病理診断で脈管侵襲陽性または明らかな浸潤癌とされた場合には,追加外科切除を推奨する.

Delphi法による評価 中央値:9,最低値:8,最高値:9

推奨の強さ:1 エビデンスレベル:C

解説:

EP 30症例以上を対象とした25報告において,2~34%で腺癌の合併を認めた 1)~25.術前生検の正診率が低いことはステートメント1-1,2-1に示されているとおり,乳頭部腺腫として切除後に腺腫内癌または腺癌と診断される症例は稀ではない 1),2),26)~28

胆道癌診療ガイドライン 29では,乳頭部腺腫に対してEP後に,腺癌と診断された際の方針については明示されていない.乳頭部癌病期ごとのリンパ節転移の確定的なデータは不十分であり,腺癌成分が検出された際にはリンパ節郭清を含むPDが推奨されている.その一方で,少数例ではあるが腺腫内癌,粘膜内癌,T1aまでの脈管侵襲を伴わない乳頭部癌については内視鏡的切除で根治の可能性が示されており,今後の症例の蓄積が待たれる 20),24),25.以上より脈管侵襲陽性または明らかな浸潤癌と診断された症例については外科切除を推奨し,それ以外は症例に応じて十分な検討を行うことを提案したい.

病理組織型も治療方針決定に重要である.胆管膵管上皮由来のpancreatobiliary typeや未分化癌においては通常のintestinal typeの腺癌・腺腫内癌よりも局所浸潤が多く,予後不良であることを念頭に入れて判断する必要がある 30)~33

ステートメント4-2:

EP後の再発頻度は5~31%である.

Delphi法による評価 中央値:9,最低値:8,最高値:9

推奨の強さ:なし エビデンスレベル:C

解説:

EP後の遺残,再発の定義は各論文により異なる.切除標本の病理で断端陽性あるいは,内視鏡所見をもって遺残と定義し,経過観察中に乳頭部に腺腫が出現した症例を再発と定義している報告が多い.臨床的には評価しきれない遺残腺腫が顕在化した症例が再発に含まれている可能性がある.EP 30例以上を対象として,再発に言及した16報告において再発頻度は5~31%であった 1)~16.また,少数ではあるが,腺腫に対してEP後の腺癌再発も報告されている 15),17

ステートメント4-3:

EP後の遺残・再発に対しては内視鏡治療あるいは外科治療を選択することを推奨する.

Delphi法による評価 中央値:9,最低値:8,最高値:9

推奨の強さ:1 エビデンスレベル:C

解説:

EP後の遺残・再発した十二指腸乳頭部腺腫については,再発病変の部位・進展度,組織型,局在を精査して治療法を選択することが重要である.具体的な治療方法に関しての報告は少ないが,腺腫再発についてはスネアを用いた追加EP 1)~20やAPC焼灼療法 5),9),10),12)~15),17)~19),21を選択する報告が多い一方で,外科的切除も報告されている 7),20),22.腺癌の再発については,PD 2),11),12),16),22),23などの外科手術が選択されている.手術困難例では症状緩和のための胆管・膵管ステント留置 3),24で対応した報告もある.胆管・膵管管腔内への腺腫遺残症例に対しては外科手術が選択されていた 3が,最近は内視鏡による管腔内ラジオ波焼灼療法の有用性が報告されるようになり,今後の臨床応用が期待される 24),25

5.経過観察と晩期偶発症

ステートメント5-1:

EP後は定期的な経過観察を行うことを推奨する.

Delphi法による評価 中央値:9,最低値:9,最高値:9

推奨の強さ:1 エビデンスレベル:C

解説:

EPは遺残・再発率が比較的高い治療であり,遺残・再発の評価は重要である.多くの報告でEP後に経過観察がなされているが,経過観察の方法,間隔や期間を検討した研究はない.

経過観察時の評価方法に関しては,十二指腸鏡を用いた評価が必要であり,再発が疑われれば生検診断も施行すべきである 1.内視鏡に加え,CT,US,EUSなどの画像評価を施行している報告もある 2)~5,切除病理標本で癌の有無,分割切除や断端陽性の有無で画像評価を加えるか判断されているが,一定の見解は得られていない.

経過観察の間隔について,ASGEガイドラインではEP後1~6カ月後に評価を行い,以降は3~12カ月ごとに1回,2年以上の経過観察を提案している 1.術後1年以上の長期経過観察が行われた報告では,術後1~3カ月,6カ月,1年に経過観察されている報告が多い 2)~17.特に1~3カ月後では,遺残の有無の評価に加え,ステント抜去が行われている 7.術後1年以降の経過観察については年1~2回の経過観察が行われているが,術後1年前後に再発する可能性があることから,術後2年は年2回の経過観察が望ましいとの報告もある 18.経過観察の間隔,終了時期は施設の方針によって異なっているのが現状で,サーベイランスプログラムの確立が待たれる.

ステートメント5-2:

再発を除いたEP後晩期偶発症の頻度は2~17%であり,乳頭狭窄,胆管結石などがある.

Delphi法による評価 中央値:9,最低値:7,最高値:9

推奨の強さ:なし エビデンスレベル:C

解説:

再発を除くEP後の晩期偶発症について明確な定義はないが,EP後1カ月以降の経過観察中に発生し,乳頭狭窄による臨床症状を来したものを偶発症としている報告が多い 1)~3.晩期偶発症として急性膵炎,急性胆管炎の報告が多く,胆管結石の報告もみられる(Table 5 1)~13

Table 5 

EP後晩期偶発症の頻度と内訳,治療.

膵管胆管のドレナージや術後経過観察時の再発評価を容易にする目的で,EP時にESTや内視鏡的膵管口切開術(EPST)を付加している施設もある 14.後方視的検討では,EP時のEST/EPSTは,早期偶発症の急性膵炎を減少させるが,晩期偶発症は差がなかったとされており 15,乳頭狭窄の予防効果は確立されていない 1

狭窄予防として,EP時の膵管ステント留置は,膵管口狭窄の発症率を低下させる傾向にある 1),16が,正常膵に対する膵管ステント留置で膵管狭窄を来したとの報告もあることからステント留置期間は短期間に留めるべきである 17.また,Namらは傾向スコアマッチングを用いた検討で,EP時のAPC焼灼は乳頭狭窄の発生率を増加させないと報告している 11

ステートメント5-3:

乳頭狭窄,胆管結石などのEP後晩期偶発症に対しては,第一選択として経乳頭的内視鏡治療を行うことを推奨する.

Delphi法による評価 中央値:9,最低値:8,最高値:9

推奨の強さ:1 エビデンスレベル:C

解説:

EP後の晩期偶発症としての急性膵炎や急性胆管炎はガイドラインに準じて治療する 1),2.その原因が乳頭狭窄の場合は,内視鏡治療が推奨される 3.治療法は,狭窄部に対するEST/EPSTが行われることが多く 4,バルーン拡張 5,ステント留置 6)~9,あるいは併用も行われることがある 10.乳頭狭窄が強く内視鏡的治療ができなかった症例で外科的な乳頭形成術を施行された報告もある 11.乳頭狭窄の治療方法については確立されていない.

胆管結石に対しては,内視鏡的結石除去術が推奨される 12

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